深夜の宇宙人なりきりカフェ

作者:そらばる

●宇宙人店主の憂鬱
 照明を落とされた、カフェと思しき店内。
 すっかり暗い時刻だというのに、メタリックテイストをふんだんに取り入れた装飾は、わずかな光量さえ反射しまくり、奇妙に明るく感じる。
 カフェのカウンターには、宇宙人が突っ伏している。……いや、正確には、宇宙人のコスプレをした、男性のようだ。
「はぁー……俺って商才ないのかなぁ……夢だったのに、宇宙人なりきりカフェ」
 重苦しく上げた顔は、もはや地球人のそれではない。黒く大きなアーモンド型の吊り上がった目に、大きく発達した毛髪のない頭部、鋭いほどに細い顎。
 生半可な着ぐるみコスプレとは比べ物にならない、もはやSF映画に出しても恥ずかしくないほどの、なりきりっぷりである。
「このために特殊メイクの修行して、衣装もあらゆるサイズ用意して、メニューも物体X系で揃えたし……何がいけなかったんだろ……」
 悔やんでも悔やみきれぬ想いをつらつらくだ巻く宇宙人の背後に、女性のシルエットが浮かび上がる。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
 巨大な鍵が、宇宙人の背中から心臓を貫く。
 ぐったりと、再びカウンターに突っ伏す宇宙人。
 その傍らにはもう一人、顔立ちから骨格まで何もかも全部、まるでグレイタイプそのものの宇宙人が佇んでいた。

●『後悔』のグレイ店長
「こたびは、『後悔』を奪うドリームイーターによって具現化されたる、店長型ドリームイーターの一件にございます」
 戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)が語るは、潰れたばかりの宇宙人なりきりカフェにおいて生み出されてしまった、店長型のドリームイーター。
「長年の悲願である自身の店を手に入れておきながら、力及ばず閉店に追い込まれてしまう……店主にとって、それは大きな『後悔』となりましょう。この『後悔』を、パッチワークの魔女の一人が奪い取ったようでございます」
 『後悔』を奪った魔女はすでに姿を消し、残されたのは『後悔』を元にして現実化された一体のドリームイーター。これが店を乗っ取り、新たな事件を起こそうとしているようだ。
「被害を未然に防ぐ為、新たに現れたドリームイーターの撃破を、皆様にお願い致します」
 被害者である店主に外傷はない。新たなドリームイーターを倒す事ができれば、ちゃんと目を覚ましてくれるだろう。

 敵は店長型のドリームイーターが1体。配下はいない。
 『宇宙人なりきりカフェ』を掲げるからには、それ相応の容姿だ。やたらリアルな宇宙人のコスプレ……というか、グレイタイプ宇宙人そのものの姿である。背はかなり低い。言葉はしゃべれるが、カタコトで不明瞭かつ、交渉事には応じない。
 攻撃手段は『無理矢理特殊メイクを顔に塗りたくってくる』『光る小型円盤を大暴れさせる』『グロテスクな物体Xを投げつけてくる』といったもの。
 戦場となるのは、潰れた『宇宙人なりきりカフェ』の店内。ドリームイーターの力で無理くり営業再開しているらしい。
 一般客が呼び込まれる前に駆け付けられる為、直接店に乗り込んでいきなり戦闘を仕掛ける事も可能だが、一工夫する事で敵の弱体化を促す事もできるという。
「店長型ドリームイーターは、店に近付いてきた人物を店内に引き入れ、強制的にサービスを与えた上で殺す、といった振る舞いを致します。与えられるサービスを心の底から嬉しがれば、見逃してもらえる場合もあるようですが……」
「お店が潰れた原因は、コンセプトのニッチさもさることながら、時間のかかる特殊メイクや、一見グロテスクな物体Xでしかない食事メニューが不評だったから、だそうで……」
 これと同じサービスを出されたら、何も知らない一般客は楽しめないでしょうねぇ、と結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は小さく吐息をついた。ちなみに料理の味自体は、まあまあ普通、との評判である。
 しかしながら、と鬼灯が説明を引き継ぐ。
「皆様がこれらのサービスを快く受け、心の底から楽しんで見せる事が出来ましたなら、店長型ドリームイーターは満足して戦闘力が減少致します故、戦いを有利に運べましょう」
 また、満足させてから倒した場合、意識を取り戻した被害者店主も、『後悔の気持ちが薄れて、前向きに頑張ろうという気持ちになれる』という効果もあるようだ。
「被害者である店主は、店のバックルームに寝かせられております。『後悔』を奪われてしまった彼の為にも、ドリームイーターを撃退し、事件を解決に導いて頂きたく存じます」


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
オーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)
プリムラ・ヤオトメ(希求する命・e25356)
玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)
黒音・小春(黒猫侍・e33787)

■リプレイ

●邪悪スマイル・グレイ店長現る!
 件の宇宙人なりきりカフェは、大型商店街の隅っこの方にあった。深夜とあって、人通りはほとんどない。
 ケルベロス達は、『準備中』の札のかかった店の前で、開店を待っていた。
「宇宙人なりきりカフェかー。どんなのかたのちみ!! シシィも一緒にメイクしてもらえるといいなぁん♪」
 愛らしいボクスドラゴンと一緒にはしゃぐチェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)。
「コスプレできるカフェって今時流行りそうだけどな」
 時流には合っているのではないか、と八崎・伶(放浪酒人・e06365)はぼやいた。
「宇宙人なりきりカフェとは非常に面白い試みだと思うでござるよ。ただ、仕事でなければ拙者は行かぬでござるよ。そんな暇があったら家で寝ているでござる」
 眠たげかつやる気のなさそうな黒音・小春(黒猫侍・e33787)。自宅警備員たるその信条は揺るぎない。
「前回の空飛ぶ円盤に続いて、今度は未知との遭遇ですか。宇宙人好きな人多いんですかね?」
 似たような事件続きに、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は首を傾げた。
「宇宙人……デウスエクスがそもそも宇宙人じゃ……。グレイ型のデウスエクスもいるのかしらね?」
(「ドリームイーターなら狩るだけ、だけど」)
 尤もなツッコミを入れつつ、玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)の心中には魔女への怒りが煮えたぎっている。ドリームイーターは、彼女にとっては仇なのだ。
「いやマァ、宇宙からの侵略者ニ脅かされトリますのニ、それでも宇宙人ガお好きやなンテ、大した根性だすナァ、ハハハー。うち、そないなお人、嫌いやあらしまセン。元気とやる気、取り戻さしたげまヒョカ、ハハハー!」
 プリムラ・ヤオトメ(希求する命・e25356)はカラカラと笑い声を上げながら、店主の趣味に称賛を送る。
「しかし、魔女に乗っ取られた店を訪問するのも数度目ですが、今回も中々にパンチが効いてそうで……あ、ちょっと胃が痛くなってきました。――いえ、大丈夫です、頑張りましょう!」
 レオナルドが、ケルベロスとしての使命感と時折吹いてくる臆病風との狭間でぐらつきつつも、最終的にはきちんと己を奮い立たせたその時、店の電灯が一気に点灯した。
 まばゆいほどの光量に浮かび上がる外装は、ひたすらシルバー。UFOをモチーフにしていると思しき未来的なデザインが、思いっきり街並みから浮いてしまっている。プライベートでふらりと入店するには、かなり勇気が入りそうな外観だ。
 ほどなくして、店の扉が開いた。
 現れたのは、背が低く、長細く、頭の大きな、銀色の生物。
 アーモンド型のでっかい瞳が、ケルベロス達と正面からお見合いし、静止した。……どうやら、自分から来てくれる客がいるとは思っていなかったらしい。
 状況を呑み込んだらしき数秒ののち、グレイ型の偽店長はチェンジャーのかかったような声音で客引きを開始した。
「ウチュウジン・ナリキリ・カフェ、カイテン、カイテン! ソコノ・レンチュウ、ヨッテケ、ヨッテケ!」
 強引に客の手を掴み取ろうと、伸び迫る枯れ枝のような手をすり抜け、ケルベロス達は我先に店内に突入した。
 店内もまたSFの宇宙船を思わせる、曲線多めのメタリックシルバーな内装だ。無駄にハイテクっぽい電光掲示板には、『宇宙人なりきり特殊メイク体験実施中!』の文字がでかでかと輝いている。
「特殊めいく! こんな本格的なサービス、他じゃあ受けれないよねっ!? すごいなぁ、すごいなぁ!」
「楽しそう! 特殊メイクしてもらっていいですかー!」
 オーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)が元気いっぱいにはしゃぎたて、アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)もノリノリでグレイ店長を呼びつける。
 グレイ店長は『準備中』の札を『営業中』にひっくり返して、店内に引っ込んでくる。レオナルドはその札をこっそりもう一度ひっくり返したのち、気づかれないようにキープアウトテープで入り口を封鎖した。
 そうとは知らぬグレイ店長は、どこからともなく取り出したメイク道具一式を一瞬で指に挟んで、シャキンッ、とポーズをとってみせた。
「カクゴスルガ・イイ」
 邪悪なグレイスマイルを浮かべて、グレイ店長はケルベロス達へとにじり寄った。

●楽しい楽しいコスプレの時間
 筆が踊り、パテが塗りたくられ、スプレーが軽快に吹き付けられる。
 グレイ店長のメイク捌きは神がかっていた。美容院かくやの設備が整った特殊メイク専用ブースに、定員いっぱい腰かけさせたケルベロス達の間を行ったり来たりしながら、一気に四人分を仕上げていく。
 デウスエクスならではの人間離れした動きと一切無駄のない動作は、どう考えても本来の店主以上のスピードであろう。加えてケルベロス達がわくわく顔で心底楽しんでいる様子に奮起したか、予想外の短時間で、第一陣のメイクが次々と完成していく。
 真っ先に仕上がったのは、レオナルドの『火星人』。
「おお、何だか凄くそれっぽいです。……しかし、ライオンの俺がタコのコスプレをする日が来るとは思いませんでした」
 鬣を収納した大きなタコ頭に、張り出した横裂け瞳孔の胡乱な瞳。胴体に当たる触手部分は、リアリティを追求した専用のマントで表現。歩くたびにウネウネ動くのが、本物の生き物のようだ。
 次いで、メカメカしい動きでぎこちなく立ち上がったのは、伶。
 レプリカントの特性を活かして、メタリックゴールデンな人型ロボット姿である。アナクロな着ぐるみっぽさと、所々に覗けるハイテク感の共存。関節は硬く、動作もロボロボしい。
 ほぼ同時にオーキッドも完成した。
 皆を振り返った少年の顔は、綺麗なライムグリーン。額にはまん丸な第三の目玉がはめ込まれ、アンテナめいた突起物が、頭の左右に張り出している。頭の上に乗っけられたウィングキャットのなるとも、おそろいメイクだ。
「ワレワレハ ウチュウジンダー!」
「ウチュウジン、サイコウ」
 なるとと一緒ににこにこはしゃぐオーキッドに乗っかって、伶もカタコト言葉でカクカク動き回ってみせる。
「みんなすごい! 俺も! 鏡みたい! 鏡!」
 仲間達の仕上がりを見てアルベルトがはしゃぎたてた。店長から借りた手鏡を覗き込んで、まじまじ見入ってみる。
 銀色に塗りたくられた顔は、わずかな肌色も見えない、まばゆいほどのメタリック。白銀のサラサラ長髪ウィッグを背に流し、目も白目のない銀一色に。急遽隠した頭の花の代わりに、額のきわから銀色の触覚が生えている。
「銀色の顔……! 凄く新鮮なんだよー! 後で友達に見せなきゃね!」
 ご満悦の様子で、自撮りに走るアルベルトであった。
「次は私達ね。この映画みたいなメイク……出来るかしら?」
 こころが昔の映画のポスター画像を見せると、グレイ店長は光輝く親指をぐっ、とサムズアップしてみせた。
 かくして仕上がったのは、リアルを極めた猿人メイク。ガッチリ顔を覆う皺だらけのマスクに、ちょっと前傾姿勢な毛だらけ全身スーツ。もはや本人の原形がない。
「……悪くないわね」
 中の人の表情はさっぱりわからないが、淡々とした口調の中にも、まんざらでもない響きがあった。
 プリムラは、大きなまん丸レンズ目の、スペード頭でスカート姿な宇宙人。
「どないですやろ、うちのこのお目々活かしたフラットウッズ・モンスター。マスタードガス噴射ー」
「ヤメ! ヤメ!」
 宇宙銃型水鉄砲で攻撃されて、グレイ店長はイヤイヤ言いつつなんだかノリが良い。
 チェザは、顔はほとんどいじらずに、ヘアバンドにぴょこんとアンテナをつけた可愛い系。全身はタイトかつメタリックなコーディネイトで、円錐型に張り出したミニスカートがアクセントになっている。相棒のシシィも火星人風に大変身だ。
「シシィきゃわわ~♪」
 無数のタコ足を絡めた毛並みに顔をうずめ、無制限もふもふが開始された。
 次々に完成していく仲間達のコスプレ姿を、伶はカメラに収めていった。店長込みで全員集合したファインダー画面に、思わず苦笑してしまう。
「もしかして店長、一番凄ぇんじゃ……?」
 シンプルゆえにごまかしの利かないフォルムを、骨格まで完璧にトレースしたあの姿は、通常の人類の肉体では再現不可能であろう。
 そんな店長とおそろい(?)のグレイフォームに猫耳をつけた小春が、痺れを切らして仲間達に訴える。
「そんなことより食事でござる」
 ほどなくして、店内は思いのほか食欲をそそる匂いに包まれるのだった。

●地獄絵図の愉快な食卓
 しかしながら、卓上に物体Xがめいっぱい並ぶ光景は、さながら地獄絵図であった。
「食べ物……?」
 誰ともなく、呆然とした呟きが漏れる。
 まず、『ラメラメ』。これはプレートに盛られた、紫色のペースト状の物体だった。どう見ても食べ物の色じゃない。その上、名の通り、きめ細かなラメの光沢がふんだんにちりばめられている。
 次に、『ドロドロ』。銀色の椀に盛られた、鮮やかな緑色の不透明な粘性物質。濁りのあるスライムといった見た目である。
 最後、『グツグツ』。深皿に湛えられた真っ赤な溶岩。時折表面でぷつぷつと気泡が弾けている。
 グロテスクな見た目と、漂ういい匂いのギャップに、脳が混乱をきたしているのがわかる。
「おー。斬新なぁん! ラメラメしゅごい」
 尻込みする者が続出する中、躊躇なくラメラメにスプーンを入れたのは、チェザ。恐れを知らず口に運び、もぐもぐ、ごくん。
「おいちいけど、舌もラメラメになってそうなぁん」
 注目する仲間達に向けて、舌をべーっと出して見せる。小さな舌が紫色のラメラメだ。
 そうしている間に、全種類に口をつけている勇者がいた。小春である。
「見た目が悪くとも美味ければ問題無しでござる」
 明らかにメイクの時より気合が入っている様子。大食いの真価を発揮し、三角食べに勤しむ。経費は自腹じゃないだろうと、容赦のない食べっぷりである。
「食べても大丈夫なのか?」
 伶は一品一品写真に収めたのち、こわごわ口をつけた。
「本当に食べれるんだ!?」
 口内に転がり込んだ真っ当な味に、二度びっくりである。
 オーキッドもどきどきしながら、勇気を出してグツグツをぱくりっ! ぱあっと顔を輝かせる。
「わあっ、熱くない! これグラタンみたいだよ!」
「こっちはマッシュポテトだよー! なぁんだ、普通においしいや」
 ラメラメを注文したアルベルトも、俄然食が進んでいるようだ。
「ドロドロはとろろだったわ。下にちゃんとご飯が入ってる。味はまあ、普通ね」
 頑張って箸をつけた甲斐があったとばかりに、こころは少し誇らしげである。
「見た目は何というか『第三種接近遭遇!』な感じですが、割と食べられますね。美味しいです」
 レオナルドもほっと胸を撫で下ろし、グツグツの味を楽しむ。
「アラ、コラほんまなんですのやろナァー」
 SF趣味全開の店内見学を、元ダモクレス目線でおもしろおかしく楽しんでいたプリムラも席に戻ってきて、見た目意味不明な惨状を晒す食卓に大はしゃぎである。
 和気藹々と非日常的食事を楽しむ客達の様子を、遠巻きにじっとり見張っていたグレイ店長は、にしゃり、と邪悪なグレイスマイルを浮かべた。
 ――さて、忘れちゃならない、こいつはお仕事である。
 供された物体Xを全員が心ゆくまで堪能し終え、ケルベロス達はちょいちょいと店長を手招きした。グレイ店長がとことこ卓の傍までやってくる。
「ごちそうさまー! ボクたち大満足! 店長さんは?」
 オーキッドの問いかけに、間髪入れず返されたのは光輝くサムズアップ。邪悪スマイルもなんだかご機嫌そうだ。
「ふむ。ならば今、ほどよく弱体化しているという事でござるな」
「ア?」
 小春の言葉の意味を呑み込めず、首を傾げるグレイ店長を前に、ケルベロス達が一斉に立ち上がった。
「残念でござるが、これも仕事ゆえ。お覚悟めされよ、偽店主殿」
「……ア・ア?」
 武装開放した集団に取り囲まれ、グレイ店長の全身は宇宙人らしからぬ冷や汗にまみれた。

●さあ、『次』へ向かおう
 駆け付けた近衛木・ヒダリギ(シャドウエルフのウィッチドクター・en0090)達も加わって、戦線は賑やかに幕を開けた。
 押せ押せのケルベロス達の猛攻に、グレイ店長も攻撃用の物体Xやらメイク攻撃やらで応戦してくるが、弱体化したドリームイーターなぞケルベロス達の敵ではない。
「ボクの涙で、いっぱいにしてあげる!」
「おや、耐性持ってくるの忘れてしもたワァ。まあ殴るだけだすワナァ、ハハハー」
「羊さんもシシィも一緒に応援するなぁん。がんばれ♪ がんばれ♪」
「焔、支援頼む。――照らせ、有明月」
「魂まで奪わせたりしないわ。伽藍開砲……断滅、逝きなさい」
「秘剣【黒影】! ふふふのふ、お前は既に斬られている」
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」
「どちらが先に沈むか……勝負しようか!」
 どったん、ばったん、ピカーッ!
 激しい騒音の末、変声機越しみたいな絶叫と強烈な発光を最後に、宇宙人なりきりカフェはようやく静寂を取り戻したのであった。

「はー。宇宙人カフェおもしろかったなぁん♪」
 ご満悦の様子で、チェザは店内にヒールをかけて回った。
「今日は楽しかったねえ……って、そういえば、これ……どうやって落とすんだろ……? も、もしかしてこのまま帰るのー!?」
「ほんものの店長をおこせば、やってくれるとおもう」
 はたとメイクされっぱなしの状況に気づいて、大騒ぎし出すアルベルトを、ヒダリギが淡々となだめた。
 バックルームを覗くと、もう一体、別のグレイが転がされていた。こちらはちゃんと人間の体格をしているが、顔周りのメイクはドリームイーターかくやのクオリティであった。
「みてみて! ボクは宇宙人ですっ」
 寝起き一番、テンション高いオーキッドのコスプレを披露され、本物の店主はぱちくりと目を瞬かせた。
「ボクはここ、とっても楽しい場所に思えたよ~! 店主さんの夢、応援してますっ。ボクもまた、遊びにくるねっ」
「あ、ああ……そうか、楽しんでくれたんだね」
「色んなメイク、結構楽しいわ。でもご飯は普通でいいわよ」
 素直な感想を述べるこころは、ミミックのガランによるエクトプラズムの奔流を浴びたおかげで、特殊メイクがすっかり吹っ飛んで素顔に戻っている。
「店主殿、この店を繁盛させたいのなら、もう少しマイルドにやるべきでござろうな。世の中、見た目と時間は大事ゆえ、何事も程々でござるよ」
「いっそなりきり辞めるのも手だな。宇宙カフェとかにすりゃあ、星や宇宙が好きなヤツが集まるんじゃねえか?」
 小春と伶の現実的な提案に、店主も真面目に頷き、思案している。グレイメイク越しでもはっきりと、眼差しは力強く、きちんと『次』を見据えているようだ。
「……ほな元気が出ました所で、経営方針の見直しといきまヒョカ」
 プリムラが特徴的な瞳を光らせ、大真面目なトーンで教鞭を振るい始めた。
「コスプレだけやト少ーし敷居が高こオス。せやさかい『キャトルミューティレーション風ハンバーグ』とか、『アブダクション体験シート(座席)』やとか、もっと手軽に楽しめるものを用意しテ……」
 突如としてガチな経営コンサル会議が開催された。ああでもないこうでもないと議論をぶつけ合いながら、店主はすっかり元気を取り戻したようだ。
 メイクもしっかり取ってもらって、絶えない感謝の言葉に送り出されながら店を出たケルベロス達を、店の外で一服しながら待ち受けていた陣内が迎えた。
「ラメラメってどんな味だった?」
 わいわいがやがや、料理がどんな味だったか、どんなに楽しかったか、際限なく話の弾むケルベロス達。
「中々楽しかったです」
 怖がりの自分を心配して、内緒で駆けつけてくれた仲間に、レオナルドは少し照れくさそうに返すのだった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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