ソムリエの憂鬱

作者:藤宮忍

●Warning
 金糸の髪を靡かせながら奇術師めいた衣装の女が配下らしき2人に命を下す。
「貴方たちに使命を与えます。この街に、ソムリエを生業とする人間が居ます。その人間と接触し、仕事内容を確かめ、可能ならば習得した後に殺害しなさい」
「はい、了解しました。ミス・バタフライ」
 配下の2人のうち、道化師の姿をした者が恭しく頭を垂れた。
「グラビティ・チェインは略奪してもしなくても、構わないわ」
 ミス・バタフライは、ぱたぱたと透明な蝶を侍らせて告げる。
「おおお……わかったゾ。グラビティ・チェイン、奪う。スキにする。ひひひ……」
 もうひとりの配下、熊のような姿をした大男が笑いに身体を揺らした。
 黙ってろ、とでも言うように道化師の方が熊男の胸元を軽く叩く。
「了解しました。一見、意味のないこの事件も、巡り巡っていずれは地球の支配権を大きく揺るがすことになるのでしょうな」
「そうね。そういうことになるわ」
 蝶がひらりと舞う。
 次の瞬間には、奇妙な3人の姿は消え去っていた。
 はじめから誰も居なかったように。
 
●『予知』
「こんにちは、ケルベロス様。最近巷で話を聞くミス・バタフライという螺旋忍軍ですが、また動き出したようです」
 凌霄・イサク(花篝のヘリオライダー・en0186)が何時ものように話し始める。
 ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、直接的にはたいした事件ではない。だが、それは巡り巡って大きな影響がでるかもしれない、という厄介な事件なのだ。
「今回は、ソムリエという職業を生業としている一般人の所に現れて、その仕事の情報を得たり、或いは習得した後に、その方を殺害してしまうのです」
 この事件を阻止しないと、まるで風が吹けば桶屋が儲かるかのように、ケルベロスに不利な状況が発生してしまう可能性が高い。
 勿論、そういった懸念がなくとも、デウスエクスに罪のない一般人を殺されることは、見過ごすことが出来ないだろう。
「皆様には、狙われているソムリエの保護、及びミス・バタフライ配下の螺旋忍軍二名の撃破をお願い致します」
 依頼内容を告げたイサクは、保護対象のソムリエについて説明する。
「ソムリエとは、ご存じワインコーディネーター……レストランなどでワインを選ぶ手助けをする方の事です」
 この時期はちょうど、ボジョレーが解禁されるので、ワインを飲みたがるお客様が多いようです。と、言及して、イサクは眦を和らげた。

「さて、敵との接触方法ですが……」
 狙われているソムリエを事前に避難させてしまうと、敵が別のソムリエを狙ってしまう為に被害を防ぐことができなくなる。
「と、いうことですので、対象を警護しながら、現れた螺旋忍軍と戦う。若しくは、事前に対象のソムリエと接触し、事情を話して仕事を教えてもらうことが出来れば、螺旋忍軍の狙いをケルベロス様たちに変えさせることが出来るかもしれません」
 自分達が囮となる場合、ある程度の力量が必要になるので、かなり頑張って修行する必要があるだろう。
「ソムリエの修行……?」
 真喜志・脩(星・en0045)がどんな修行だろうかと尋ねる。
「舌でワインの味を見極めたり、お料理に合うワインを学んで覚えたり……ですね」
「ほお。格好ええな」
「ワインですので、未成年の方は修行できませんね」
 その場合はやはり、ソムリエの方を護衛して下さいとイサクは言う。
 敵はミス・バタフライの配下2名。道化師と熊男の螺旋忍軍。
「熊の方は、熊のような……なんというか着ぐるみなのですが、大きさを感じさせない軽業で動き回る曲芸師です。道化師の方はいわゆるピエロ、武器を使用して攻撃してきます」
 囮になることに成功した場合は、ソムリエの勤めるイタリアン・バルで、螺旋忍軍に仕事の技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を開始することが可能だ。
「修行ゆうて、お客さんおらへん時間に敵と接触できるんやな」
「はい。そうなります。囮になれない場合は、店のお客様の避難が必要なので、こちらは警察などにも協力して頂きましょう」
 警察への連絡はヘリオライダーで行うので、ケルベロス達には現場の状況に柔軟に対応して欲しい、とのことだ。
「把握した。皆でソムリエも店も守って、美味いイタリア料理食べてこ」
 脩はすっかりやる気だ。
 イサクは一礼すると、貴方達をヘリポートへと導く。
「――それでは、ご案内致しましょう」


参加者
ゼロアリエ・ハート(魔女劇薬実験台・e00186)
花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)
芥川・辰乃(終われない物語・e00816)
スプーキー・ドリズル(弾雨スペクター・e01608)
ヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577)
ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)
グレッグ・ロックハート(泡沫無幻・e23784)

■リプレイ

●序
 イタリア料理を中心に営業しているこの店は、客層は若者から40代程度の社会人が、仕事仲間や友人同士で訪れることが多いようだ。
 三上貴史は、ラームス・アトリウム(ドルイドの薬剤騎士・e06249)に手渡されたケルベロスカードと、目の前のケルベロス達を見比べて暫し考え込んだ後、了承した。
「成程。お話は何となく理解しました。然りとて短期間で全てを覚えて頂くには難しいので、皆様にはお店で提供しているワインについてお教え致しましょう」
 旅団の料理担当なので、ワインの知見が深まることは嬉しいヒルデガルト・ミラー(確率変動・e02577)は、
「全力で会得を頑張るわ!」
 とすっかりやる気だ。任務以上の興味があれば、自ずと知識も深まるだろう。
「身近な方々へ美味しいワインを御紹介できるように、作戦の成功は勿論、誰かが喜ぶ姿を目標に頑張る所存です」
 芥川・辰乃(終われない物語・e00816)の言葉は、真面目なソムリエの表情を和らげた。
「何の関係もない一般人に手を出すとか、めんどくせえ敵だが……まあでも、ソムリエには興味もあったしな」
 外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)が言うと、三上は恐れ入りますと頭を下げた。
「デウスエクスに関しましては、私には如何様にもできませんので……」
 すまなそうな三上に、花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)が緩く首を振る。
「それが僕らの役目だから。それにしても……相変わらずバタフライ効果を狙う様な動きをするね、彼の人は」
 予知された螺旋忍軍、ミス・バタフライ。颯音と咒八は顔を見合わせ肩を竦めた。
「めんどくせえけど、悪い芽は早い内に摘んでおくにこしたことはない」
「確かに……」
 そこへゼロアリエ・ハート(魔女劇薬実験台・e00186)が笑顔で話しに加わる。
「ワインってオトナな感じで憧れるな~。だけど、ワインを飲まなくてもできる事を一緒に勉強・練習できたらと思うんだ」
 まだ未成年のゼロアリエが、手伝えることを問う。
「手伝って頂きたいことは沢山ありますので、助かります。グラスを洗ったり他にも色々」
 囮のソムリエになれなくとも、仲間を助ける為にできることは沢山ありそうだ。ケルベロス達の協力姿勢を見て、三上は眦を緩めた。好感を得たようだ。
「僕も未成年だからテイスティングは出来ないけど、知識を仕入れたい」
 酒好き患者が多くてねと言う颯音に、三上は快く了承する。
「宜しく頼む、Mr.三上。役目が担えるよう若者達と共に修行に臨む積もりだ」
 ケルベロス達の中では年長のスプーキー・ドリズル(弾雨スペクター・e01608)は三上と同世代だ。ケルベロスは本当に年齢も種族も様々なのだと、三上は改めて興味深げに一行を見渡した。
「私がデウスエクスに狙われているのでしょう。此方こそ、宜しくお願い致します皆さん」

●壱
 ソムリエの修行は、深夜から早朝にかけて5日間行われた。
 勿論本格的に学ぶには日数が足りない為、この店限定で勤まる囮レベルが目標になる。
 庶民的な店なので格式張る必要性はあまりなく、お客さんに料理やワインをおいしく楽しんでもらえることが大切なのだと三上は語った。
「脩さんは、下戸なのかい?」
「うおっ?!」
 颯音に話を振られて真喜志・脩(星・en0045)がびくりとした。
 脩はソムリエ修行はせず、ゼロアリエや颯音と共に手伝いをしていた。
「ははは……チェーンは煙が切らせへんのや……グレッグはすごいわ」
 そう言ってグレッグ・ロックハート(泡沫無幻・e23784)を示す。グレッグは煙草を控えて修行に挑んでいるらしい。
「はい?」
 教わったことをメモしていたグレッグは、己の名が聞こえて何の事だと振り返る。
「禁煙かい? 確かに風味が違ってくるだろうね」
 スプーキーが成程と頷く。
「いえ……意識的にちょっと控えているだけで。煙草や珈琲等の嗜好品は」
 メモを書き終えたグレッグが遠慮がちに言うが、煙草をやめることができない人種からは尊敬の眼差しで見られる。
「色も香りも味も、書だけでは学べないことばかりで。戦闘以外で感覚を研ぎ澄ますというのも、新鮮な経験ですね」
 修行の場に満ちたワインの香りも、グラスに注がれた果実の色も、辰乃の好む書籍ではなかなか得難い五感をくすぐるもの。それでもメモを取る為に綴る言葉は、辰乃の表現する言葉となっていた。
 ボクスドラゴン『棗』が、白い翼をぱたぱたと動かしては、構って欲しげに辰乃の足に擦り寄っている。
「風味をしっかり味わって覚えて頂けるのは嬉しいことです。特に珈琲は、ワインを味わう前はやめておいた方が良いでしょう」
 パニエと呼ばれるワインのバスケットを抱えて、すらりと立つ三上。
「持ち方は……こう、かな」
 スプーキーがパニエを持ち、立ち居振る舞いを倣う。
 全く同じになる必要はないのだ、姿勢良く佇み、落ち着いて運べば良い。ただ瓶の持ち方は課題だとソムリエは語る。
「こう、瓶の底を持って片手で注ぐのですが、いきなりやろうとしても落として割ってしまっては大変ですから、まずは両手で……」
 ラベルを上に、お客様に見えるようにして、グラスにボトルの口が触れないようにして注ぎます。そう説明しながら注いで見せる。グラスに果実の色が満ちる。
 各々がじっと見守り、メモを取ったりして学んでいく。
 素人だった彼等も、3日目4日目と過ぎた頃には知識と技術を徐々に習得していく。
「魚に白ワインってのはデマよ、ワインの鉄が魚の脂肪と反応してカルボニル化合物となり臭さ大爆発ってのが理由ね」
 ヒルデガルトは口に含むだけの試飲で、酔わないようにしていた。酔うと習得の妨げになる。ワインの味を己の舌で、旨みや苦味酸味等と分析していく。
「だから、刺身や寿司に白ワインが合うと語る奴は食通として偽物って事。魚にあう酒? ……日本酒ね」
「そうですね。合うものが全く無いというわけではございませんが……このお店で提供するワインを考えれば、調理法の方をワインに合わせた物の方が多いです。当店ではワイン以外のアルコールも提供しておりますので、其方もご説明しておきましょう」
 日本酒もある、ウィスキーや焼酎、ウォッカなどのスピリッツ類もある。ワインがメインの店なので種類は少ないがリキュールもあるようだ。
「ワインってこんなに種類あるの……て思ってたけれど、ワイン以外のお酒も覚えないといけないのか!」
 並べられた酒の種類に驚きつつも、頑張ろう、とゼロアリエ。
 酒には強いので、試飲は幾らでも頑張るとラームスは一つずつ確かめていく。
 ヒルデガルトや咒八が作った料理を、修行の合間のまかない食のように皆で食べながら、それに合うワインを各自で選んでみたりする。傍目にはちょっとおいしそうな風景だ。
「ワインによっても香りは全然違うんだね……わぁ、ロゼが香り酔いしてる」
 ボクスドラゴン『ロゼ』は天真爛漫で好奇心もたっぷりなのか、テイスティングする仲間のワインを匂いを嗅ぎすぎたようだ。つぶらな瞳がくるくると酩酊していて、颯音はひょいと抱き上げた。
「ゼロさん、成人したら一緒にお酒飲もうね……!」
「勿論だよ。ところでロゼは酔ってるの? トレーネは?」
 ゼロアリエはテレビウム『トレーネ』を見たが、特に何時もと変わりなくクールに佇んで居た。何も反応しないことが酔ってない証だと言いたげだ。そんなトレーネの様子に、今日もやっぱりちょいサミシイと思ってしまったゼロアリエだった。
「グラスと、これ……えーと、デキャンタ? 洗っておいたよ!」
 気を取り直して、運んできた器具を並べる。
「ああ、助かります。さあ、皆さんもう一息がんばりましょう」

●弐
 辰乃とスプーキーが囮のソムリエとして店に入ることになった。
 季節の素材を用いた料理を楽しむ客には、料理を引き立たせる為のお酒を。
 今夜飲みたいワインがあるという客には、それを一段と美味しく味わえるような料理をお勧めする。
 ワインや料理は勿論のこと、共に過ごす人々の間で会話が弾めば、「また来たい」と思えるお店になる。緊張感は忙しさの中でほぐれてゆく。このまま何事も無く一日を終えるのではと思うほど順調に仕事をこなしていた二人は、閉店間際に、違和感のある客を見つけた。
(「来ましたね……」)
 ちらりと辰乃が目配せして、スプーキーが軽く顎を引く。
「やあ、こんばんは。本日の料理もワインも実に美味かった。実は私は、ワインに凄く興味がありましてね。よろしかったらお仕事の後、ソムリエさんにワインについて教えて頂きたいことがあるのですが」
 傍目には一般の客と変わらないこの男と連れの大男――ミス・バタフライ配下の螺旋忍軍は、スプーキーの提案する営業時間外の勉強会に了承した。

 準備は整っていた。
 店内は戦闘になっても差し支えないようにインテリアが動かされ、囮以外のケルベロス達も厨房の奥に潜んだ。
 敵の螺旋忍軍ふたりは、ミス・バタフライの指示通りソムリエという職について情報を得る為、そして技術を盗み取る為に、勉強会が罠とも知らずにのこのこと現れた。
「どうぞ、お入り下さい」
 ソムリエの囮を続ける辰乃が、営業を終えた店内に案内する。
「おおお……貸し切りだな。ソムリエ、ふたりだけ。俺たち、うれしい。ひひひ……」
「お前は黙ってろ。……よし、では教えていただきましょうか」
 敵の男は大男の方の足の脛を蹴飛ばした。大男がぴょんぴょん跳ねる。
「それでは勉強会をはじめようか」
 スプーキーはワインセラーから取り出してきたワインの瓶を一本手にして、二人の螺旋忍軍と向き合った。男達はそれぞれ、辰乃が用意しておいたグラスを手に取る。
「まずはテイスティングとは、良いですねえ」
 注いで貰おうとグラスを差し出す螺旋忍軍の男達に、スプーキーはだがワインの栓を開けること無く、蝶のラベルを向けたまま、
「僕達と君達……どちらの弔い酒になるのかな」
「何?」
 男の顔が引きつった。
 一斉に店の奥から姿を現すケルベロスの仲間達。
「残念っ、実は全部お芝居なのよ」
 ヒルデガルトの声が店内に響けば、敵は空のワイングラスを床に落として飛び退いた。
 一瞬にして姿が変わり、一応は普通の客を装っていた男達は、道化師と熊男という螺旋忍軍の本性をあらわにする。
 殺界形成はラームスによって既に成されていた。
 ラームスは隠れさせていたシャーマンズゴースト『ブリジット』を呼び寄せる。

●参
 床に描かれた守護星座が光り、ラームス達を護る。元より無口な彼は、戦闘開始と共にほぼ無言だ。ブリジットは祈りを捧げてケルベロス達に耐性を与える。
 対称的に賑やかなゼロアリエが、前衛にメタリックバーストを発動。光輝くオウガ粒子は仲間達の超感覚を覚醒させる。
「ソムリエさんを殺めさせたりなんかしないよ! ザンネンだったね!」
 常の笑顔を浮かべたゼロアリエの声に、道化師が舌打ちする。
「ふん……ならば纏めて倒すまでだ」
 遣れ、と合図する。熊男が体軀に似合わぬ俊敏さで動いた。
「うおおおおお!!」
 殴りかかる熊男の太い腕を、烏の濡羽色をしたゼロアリエのオウガメタルが受け止める。重い衝撃が伝わって骨が軋む。
「くっ……なかなかやるね!」
 颯音の跳び蹴りが流星の煌めきと重力を道化師に炸裂させた。
 ロゼも鋭い葉を射出するブレスで共に道化師を狙い、攻撃を援護する。
 続く辰乃のスターゲイザーが、斬撃と共に煌めきを降らせて敵の機動力を奪った。
「分身!」
 道化師は両手を組むと、螺旋の力で自分の身体に幻影を纏った。
 その幻影ごと食らい付かんとしてスプーキーの放つ気咬弾のオーラがぶつかる。そこへ更に追加されるヒルデガルトのマルチプルミサイル。大量のミサイル弾幕が道化師を襲う。
 咒八の殺神ウイルスカプセル投射は、ダメージを与えるも治癒阻害を弾かれた。
「――ったく、めんどくせえ」
 めんどくせえと口では言いつつも、咒八は店内を見渡して次の動きを考える。
 グレッグは、スターゲイザーの煌めく重力を道化師へと向けて追撃した。仲間の攻撃に続いて繰り出したしなやかな蹴りは、敵の首筋に強かに撃ち込まれる。
「グッ……」
 脩の歌うブラッドスターの旋律が、戦う者の傷を癒やしていく。
 ラームスのウィッチオペレーションは、ゼロアリエの負傷を大幅に回復した。ブリジットが神霊撃で援護する。
「まだ大丈夫だけど助かるよありがとう! 前線の維持に務めるよー!」
 ゼロアリエのグラインドファイア、炎を纏った激しい蹴りを放つ。
「トレーネもがんがんキュアしてね!」
 相変わらずのトレーネは、返事の代わりに応援動画を開始した。
「ひゃっほーう!」
 熊男が椅子を一つ掴み上げると、ケルベロス達に向けて振り回す。
 幾つかのワイングラスが音をたてて落ちる。椅子の殴打と、飛び散るガラス片が襲った。
 スプーキーは広げた己の翼で、ヒルデガルトと棗を護った。
 元より銃創だらけの黒い翼にはガラス片が突き刺さり、新たな傷となる。
「あまり壊してくれるな」
 翼を広げるスプーキーの背後に仲間、その更に後ろにはワインセラーがあった。
 颯音の轟竜砲が撃ち出す竜砲弾で道化師の片腕を破壊する。熊男が暴れまわっている間にも、道化師への集中攻撃は着実に敵にダメージを重ねていた。
 床に撒いた見えない地雷が起爆して、道化師と熊男の両方を巻き込んだ。
 辰乃のエスケープマインによる足止めは、敵を怯ませるのに効果的だった。
「小癪な……ッ」
 道化師が無数の手裏剣を放って乱舞させる。飛び交う手裏剣の刃を前に、ゼロアリエとスプーキーが仲間を庇う。
「Shoot the Meteor!」
 スプーキーの放った弾丸は金平糖のような形をしていた。それが銃口から飛び出して紫煙を引きながら、まるで彗星のように道化師の急所を撃ち抜いた。
「……ッ!!」
 confeito(コンフィート)――ぐらり、と地雷の残骸残る床に踏み留まる道化師。
 その身体の傷跡を、ヒルデガルトの絶空斬が斬り広げる。
「ワインはもっともっと奥が深いんだから生まれ直して出直しておいで!」
「な……ん、だと……」
 手裏剣を構える道化師。だが、――鮮やかな赤い花が咲いた。
「安らぎへの憧憬に沈め」
 咒八の声が届く。剃刀花(レッドスパイダーリリー)は痺れを与え、自由を奪い、安息への誘い道を見せた……死に最も近い花。
 道化師は驚愕の表情を浮かべたまま、静かに事切れた。
 倒れゆく道化師を横目にグレッグは熊男の間合いに素早く飛び込む。
 戦術超鋼拳。オウガメタルを鋼の鬼と化して、拳で敵の装甲を砕く。
 脩の射撃が敵の足元にばら撒かれる。

●肆
「アガートラム、手伝ってくれ……」
 ラームスは左腕に装備した銀の籠手に幾つかの薬をセット、即座に調合し、スプーキーの翼に吹き付けた。総合回復薬散布(カクテル・ポーション)は傷を大きく癒していく。
 ゼロアリエの破鎧衝は熊男の構造的な弱点を見抜き、痛烈な一撃を与える。
「ひひひ……おれは、まだ戦えル……ひひ……」
 道化師を倒されても不気味に笑っている熊男は、一旦退避した壁で反動を付けて飛び上がり、そこから辰乃に狙いをつけて、踵落としを繰り出した。
 勢いのある強烈な一撃だが、またもゼロアリエによって防がれる。
「むう……?!」
「ゼロさんそのまま抑えてて」
 颯音は術式を構成する。「原初の海」より清浄なる水を呼び起こし、葬送の棺として顕現させる元素魔法。
「清浄なる水よ、静けき世界を満たす蒼よ。不浄なる我らに慈悲を、たゆたう棺にて全てを滅せよ……」
 浄水は僅かな穢れすらも拒絶して断罪せんと押し潰し、余波より生まれし波濤の槍で完膚なきまでに刺し貫く――水嶺の葬棺(アクアリムス・コフィン)。
 床に叩き付けられた敵が呻き声を上げた。
 起き上がろうと藻掻く所に、辰乃の声が凜と降る。
「輪胴を回し――今、運命は廻る」
 其は、不幸な幸福の記憶。其は、不安に至る誰かの記録。
 過去の残滓を集め言の葉を紡げば、輪胴(シリンダー)は魔力を束ねる車輪となり、銃口は極光と共に運命を騙る魔弾を撃ち出す。
 或番犬の半生(フラグメント)――魔弾が敵の腹に風穴をあけた。
「が……ッ、ガァァァ!!」
 零れる血をねじ込む勢いで腹を押さえながら、熊男が立ち上がる。
 だが、更なる弾丸が風穴を増やした。……敵の死角になる壁に立ち、予測不能な跳弾射撃を放ったスプーキーの弾丸。
 ヒルデガルトのスターゲイザーで、敵は再び床に膝をつく。
「ただ、静かに眠れば良い」
 グレッグの足に纏わせた紅蓮の炎が、彼の動きと共に踊る。
 鋭く薙ぎ払う回し蹴りで牽制しながら、その足先は敵の首を捉えていた。
 舞い散る炎が、紅蓮の色が、手向けの花のようにも見える――散華(サンゲ)。
 終焉を与える一撃に、螺旋忍軍は物言わぬ骸となった。

 店内にヒールを施し、出来る限り修復する。アットホームな雰囲気のイタリアン・バルは、どこかファンタジックさの混じる内装に変わってしまったが、これはこれでまた味があると言えるだろう。
 幾つかの瓶は割れてしまったが、幸いにしてワインセラーは無事だ。
 ケルベロス達は三上に、三上はケルベロス達に、お互いに感謝の礼を告げて、この事件は幕引きとなった。

作者:藤宮忍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。