JR姫路駅の駅前。
国宝姫路城に続く目抜き通りとは言え、深夜となれば流石に人通りも少ない。
そこにシスターが佇んでいた。
「この場所もまたケルベロスとデウスエクスが戦う縁の地……ケルベロスに殺される瞬間、彼らは何を思っていたのかしら? ……そうね、貴方達、折角だから、彼を回収してくださらない? 何だか素敵なことになりそうですもの」
そ振り返ったシスターに呼応する様に4体の怪魚が宙を泳ぐ。
その4体の怪魚が泳ぐ軌跡が、魔法陣の如く浮かび上がるのを見たシスター……否、因縁を喰らう死神『ネクロム』は姿を消す。
魔法陣の中心、獣じみた竜牙兵が地中より引っ張り上げられる。
「ウオ、キョゼ……ゴンサマ……」
2本の短刀を手に意味不明の言葉を紡ぐ竜牙兵達。
どうやら知性を失っている様で、うわ言の様に同じ言葉を繰り返していた。
「兵庫県のJR姫路駅の駅前、この前倒した竜牙兵らを女性型の死神がサルベージしよったみたいや。確かアギトさんの宿敵、『因縁を喰らうネクロム』っちゅー死神やったな」
杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)が事件の概要を説明し、今回の首謀者がアギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)の宿敵である事を説明する。
「怪魚型の死神にこっちに殺されたデウスエクスの残滓を集めて、死神の力を注いで変異強化した上でサルベージし、持って帰れと命じとったんは、どうやらネクロムみたいや」
「折角散らしてやったのに舞い戻って来るとはね。また舞い戻って来ない様に徹底的に潰すとするか」
その竜牙兵達と刃を交えた相摸・一(刺突・e14086) が、その戦いを思い返して嘆息する。
「ネクロムがサルベージするんは、胸当てをつけて、左右それぞれの手に逆手に構えた短めの刃をも持っとる、どっちかーっちゅーと忍者っぽい感じの竜牙兵や。
サルベージされて前より獣じみた感じになっとるわ。
これに4体の怪魚型死神がおるけど、こっちはたいして強い訳やあらへんと思うから、注意するのは竜牙兵らの方やな。
前の戦い内容とかは一さんに聞いてもろたらえぇと思うけど、4体おったんがサルベージされたんは1体だけや、それだけにえらい変異させられてるかもしれんから、十分注意してや」
千尋が一に視線を向けると、やれやれという仕草を返す一。
「あ、着く頃には付近の住人の避難は完了しとる筈やさかい、その辺は気にせんでえぇで」
「敵の力が不明な以上、それはあり難いね」
付け加える千尋に、微笑を浮かべた一が応じる。
「せっかく潰した竜牙兵を復活させ、戦力にされたらたまらんわな。二度とへんな真似がでけへんように、きっちり潰してきたってや」
千尋はそう言って皆を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
ヴィヴィアン・ウェストエイト(バーンダウンザメモリーズ・e00159) |
早川・夏輝(お気楽トルーパー・e01092) |
エルボレアス・ベアルカーティス(メディカリスト・e01268) |
ノル・キサラギ(銀架・e01639) |
シェスティン・オーストレーム(冥界列車の白車掌・e02527) |
火岬・律(幽蝶・e05593) |
幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515) |
相摸・一(刺突・e14086) |
●
兵庫県はJR姫路駅の北側。
ライトアップされた姫路城を遠くに望む目抜き通りに怪魚が踊り魔法陣を描くと、その中央に1体の竜牙兵が蘇ってくる。
「サルベージまでのスパンが短縮された様に感じますね」
「……どれかわらんな」
押し上げた眼鏡の奥、翳る深紫の瞳を向けた火岬・律(幽蝶・e05593)が、在庫が減ったか、良き駒と認めたか……と思考を巡らせ、その竜牙兵の姿を見た相摸・一(刺突・e14086)が呟く。
どの固体か見れば判るかと思ったが、そもそもそれほど違いもなかった上、変異して容貌が変わっており、どの固体か解らなかった。
「どれでもいいよ。仲良し……だったかどうかは知らねぇけど、一人だけ残されたら可哀相だろ? 死者はみんな平等に、冥界に送ってやらねえとな」
右側にビハインド『八重子』を侍らせた幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)がニヤリと笑うと、
「ほんと死神は厄介よね……一度は倒した強敵を、強化して復活させるんだし、リミッターが外れる場合もあるし、知能がなくなるのも善し悪しよねぇ」
同調する早川・夏輝(お気楽トルーパー・e01092)のアームドフォートが起動し、砲口を竜牙兵の方へ向ける。
「ウオ、キョゼ……ゴンサマ……」
ぐるんと顔をケルベロス達の方に向けた竜牙兵が何か呻くと、宙を泳ぐ怪魚達の動きが活発になる。
「死んだ奴は生きてた時の業から解放されるらしい……が、どうやらお前らはどうやら違うみたいだな」
黒霧の如きブラックスライム『Hallucination』を纏うヴィヴィアン・ウェストエイト(バーンダウンザメモリーズ・e00159)がそう言って睨み付けると、4体の怪魚がガチガチと牙を鳴らす。
「上等だ、また同じ地獄に落としてやる二度と這い上がって来れない様に、深淵まで落としてやるぜ」
ヴィヴィアンが僅かに口角を上げ金の星と銀の葉をあしらった銃を構えると、その動作でポケットにある錆びたコイン同士がぶつかり、じゃらじゃらと音を立てる。
(「まったく死神とは厄介な連中だ。デウスエクスを倒してもキリがない……」)
その後ろで冷静に戦場を睥睨するエルボレアス・ベアルカーティス(メディカリスト・e01268)は、懐中時計の時間を確認し懐に仕舞うと、早く片付けたいものだと嘆息する。
「コロ……ゴロ……ノコラ……」
呻いた竜牙兵が上体を低く保って地面を蹴ると、怪魚達も2体が怨恨弾を吐き、残る2体が牙を鳴らして突っ込んで来る。
「終わらせよう、ここで。舞い穿て! スピネル・ストーム!」
「グルゴギア!」
その動きに最初に反応したのはノル・キサラギ(銀架・e01639)。
敵の動きを予想し、形成を完了させていた刃群を展開し叩き付けようとすると、駆ける竜牙兵も咆え、それに呼応し虚空を割って黒い刃群が現れ、双方の刃が空中で剣戟を交えながら前衛陣に襲い掛る。
「死神、2体、前衛です。気をつけて……」
ノルの刃に裂かれる2体の怪魚を見て声を上げたシェスティン・オーストレーム(冥界列車の白車掌・e02527)が、ノルの刃を後押しする様に高機動タイプの蜂型ドローン『Bindabi』を展開させると、
「再び自分の前に現れるなら、是非も無い」
次の瞬間、一の放った轟竜砲が竜牙兵の腰のあたりに爆ぜて足止めし、牙を鳴らす怪魚との連携が崩れると、ケルベロス達は突出した形になった怪魚に攻撃を集中する。
●
「牙を鳴らすだけとは能がない……」
シェスティンのドローン達が舞う中、突出した怪魚の一体に跳び蹴りを見舞った律は、折れた歯を散らし牙を鳴らしつつトンボを切る怪魚に冷たい視線を向けるが、敵の後方から飛んで来た怨恨弾に撃ち抜かれる。
「マインドオペレーションッ!」
だが、直ぐにエルボレアスが精神治癒を行い、むしろ律の神経が研ぎ澄まされる。
エルボレアスに目礼を返し、再び敵を見遣る律の瞳に、
「復活したばかりで悪いけど、もう一回死んでもらいましょ!」
火を噴く夏輝のアームドフォートと、その砲撃に合わせて気咬弾を放つ一、捕食モードに変形させたブラックスライムを嗾けるヴィヴィアンの姿が映る。
「後ろからチクチクするのが小賢しい。だが無理にあれを狙うよりは、前から潰した方が得策だな」
そう独りごちると、怨恨弾によって手当たり次第撒かれる毒を払うべく、薬液の雨を降らせるエルボレアス。その間にも刃を交える前衛陣に敵後方から怨恨弾が飛んで来るが、シェスティンが展開させたドローンが庇う様に動き、煙を上げて墜落する。
「尻尾を巻いて逃げ出さない事については褒めて差し上げますが、その程度の力で……押し切れると思われるのは心外だな」
九助の撒いた液を被りノルの放ったミサイルに撃たれるも、牙を突き立てようとする怪魚に、手首の動きだけで一回転させたGungnirの曲がった先端部を叩き付ける律。
怪魚がどす黒い体液を噴き出し落ちる中、その律と余勢を駆ってもう1体に躍り掛かったヴィヴィアン目掛けて地面を蹴った竜牙兵に、砲撃しながらバーニアの噴射とローラーで一気に距離を詰めたのは夏輝。
「っと、もう暫く大人しくしててよね。生憎とあたしは出し惜しみなしよ?」
ニヤリと笑った瞬間、押し当てた砲身が轟音を響かせ、竜牙兵は爆風と共に押し戻される。
「いくら出しても、無駄なので、ございます。ビビ各位に、伝達。護衛モードから、支援モードへ、移行……散開!」
竜牙兵が空間を裂いて出す黒刃と、怪魚の放つ怨恨弾によって次々とドローンが墜落するが、シェスティンが白手袋を嵌めた腕で握った杖を振ると、新たなドローン達が次々と飛び立ち、味方が狙いを付け易い様に敵の動きを阻害する。
「! ……1体が前衛にシフト! 気をつけて!」
敵の後方で怨恨弾を飛ばす怪魚目掛けてマルチプルミサイルを放ったノルは、宙を泳いで前に出た1体が、追尾するミサイルの対象から外れたのを見て声を上げる。
竜牙兵を牽制する為、怪魚のいる右側を八重子に庇われながら時空凍結弾を放っていた九助と、視線だけを向けて気咬弾を放った一が、その声に押し出して来た怪魚を認めて距離をとる。
「では、もっと、守るの、です」
縁杖「イアソン」を掲げたシェスティンの元から、更に治癒型のドローンが多数飛び立つ。
それらに守られながら、最初から前衛に居た怪魚に攻撃を集中させるヴィヴィアンと律。
間隙を突いた竜牙兵が跳躍すると、更に空中で見えざる足場を蹴って跳びケルベロスを狙うが、夏輝のクイックドロウとエルボレアスの出したドラゴンの幻影により撃ち落される。
「前に固まってくれるなら、むしろ有難いんだよね。コードXF-10、フォーメーション。形成完了、ターゲットロック。舞い穿て! スピネル・ストーム!」
その竜牙兵が落ちたタイミングを狙ったノルが、敵前衛を狙って漆黒の刃群を嵐の如く叩き付けると、蓄積されたダメージが遂にキャパをオーバーしたのか、最初から前衛に居た方の怪魚が、そのままアスファルトに頭から突っ込み痙攣し、九助にトドメを刺された。
2体目の怪魚が倒れた事で、後ろに残っていた1体も牙を鳴らして迫出してくる。
「数減らされてるのに同じ列に集まってりゃ世話ないな。水銀、蛙の臓腑、百舌の心臓、ホミカの濃縮、企業秘密。それらを纏めて漬けた怨嗟の仕上げに――病原菌を更に少々」
ニタリと嗤った九助が小瓶の蓋を開け、血の色をしたその中身をぶちまけると、それを被った怪魚達がのた打ち回る。その一体を八重子が金縛りで縛り上げたところに、
「まだまだ、くれてやる痛みはその程度じゃないぜ、喰らいやがれ!」
ヴィヴィアンが風を唸らせ振り下ろしたWretchedの刃……いや、地獄の炎を纏う黒鋼。
なんとか回避行動をとった怪魚であったが、完全には避けきれず、かすっただけにも拘らず1/4程の肉を削ぎ落とされ、黒い体液を撒き散らすと、間髪入れず夏輝とノルが攻撃を加え、仕留めようとケルベロス達が密集したところに、虚空を突き破って黒刃。
「離れたところにも出せるのかい? 1回死んで腕が上がった様だな」
愛用のスーツ『夜霧』を裂かれながらも刃を弾き、感嘆の言葉を口にする一。
八重子に庇われながら後退する九助に、自身も傷を負いながらも回復を飛ばすエルボレアス。更にシェスティンがドローンを展開し回復を後押しする。
「狡っからい事してるねぇ」
大丈夫と八重子に掌を向けた九助は、その翼を広げて光を放ち、怪魚や竜牙兵に穿たれた楔を更に強固なものにする。そのタイミングで律が放った衝撃波により訪れる一瞬の静寂。
「……仕舞いだ」
そして爆ぜる様な轟音。
律の一撃により跳ね上げる様に腹を見せた怪魚に、一が轟竜砲を撃ち放ったのだ。
爆ぜ、臓物と体液を撒き散らし、地面に落ちる怪魚の向こう、もう1体の怪魚がヴィヴィアンの一撃に頭を砕かれ痙攣していた。
「さて、雑魚どもは片付いたぜ、お相手願おうか」
長髪を揺らして竜牙兵を見据えたヴィヴィアンは、ついた怪魚の断片を払う様に、黒鋼の鉄塊を一閃する。
●
「グル……ゴン……サマ……」
「どうせならもう一度倒してあげたら? 死してなお、なんて、見てる方が居た堪れないわ」
虚空を見上げ呟く竜牙兵を見た夏輝が、やや後方に立つ一に語り掛けると、
「この期に及んで『主人』か。笑えない姿だ」
ちらりと夏輝を見た一が呟き、僅かに眼を細めて息を吐き、吐き切った所で地面を蹴る。
「グルゴギガアアァァァ!」
竜牙兵の咆哮に合わせて虚空が裂かれ、次々と現れる黒刃は今までの倍以上の数。弓が矢引き絞る様に少し後ろに下がると、雨の如く襲い掛かって来る。
「ほぅ。追い込まれて力を発揮するタイプなのか?」
「数には……数ですよ、おじ様」
帽子をかぶり直し感心した様に言うエルボレアスの肩を叩いたシェスティンが、黒刃に落とされるドローンを補充する様に新たなドローンを展開すると、おじ様と呼ばれた事に口をへの字に結んだエルボレアスも、紙兵を散布して仲間達を守る。
「これが……死神の強化だと言うのか? だとしても――千里の外、四方の界」
ドローンや紙兵を裂いてなお、降り注ぐ黒刃に……浴びせられる殺気に、操られての力では無く、本人の力を感じたかったと思い律は脚で韻を刻み、水鏡を打つが如き澄んだ衝撃波を叩き込む。
「残りは全部叩き落とす」
その間にノルが形成し終えた漆黒の刃群を、竜牙兵が喚んだ黒刃達に突っ込ませ、ケルベロス達の頭上で、激しい剣戟の音が響き渡る。その下で爆ぜたのは九助の投じたウイルスカプセル。
「ふはっ、どうした。一度死んだ身でも痛みを感じてるのか?」
掻き毟る様な竜牙兵の動作を見た九助が思わず噴き出す中、八重子が念で周囲の物をぶつけて竜牙兵の動きを阻害すると、
「潮時よ。もう一度眠りにつかせてあげるから、今度はゆっくり眠るのね。ヴィヴィアン、一」
ポニーテールを踊らせて距離を詰め、至近距離からアームドフォートをぶっ放した夏輝が、二人に声を掛けて跳び退いた。
「死体を積み重ねていけば天国の階段にでもなると思ったのか。救われると思ったのか。振り返ってよく見てみろよ。地獄の門にそっくりだぜ」
ヴィヴィアン言葉にならない叫び声を上げると、言の葉から溢れ出た炎が怪物を形どり、次々と現れる怪物が折り重なり異界の門を形成する。
「そいつを通るんなら、希望は全部捨てていきな。どんなに後悔したって、地獄の炎はお前を炙り続けるんだ」
ヴィヴィアンの言葉に吸い寄せられる様に門をくぐった竜牙兵。
門の内側より溢れ出る炎に燻されるその体、その首に巻き付くのはケルベロスチェイン。
「もういいな? 未練があろうが無かろうが、三度付き合う気はないよ」
一が袖口から伸ばし、ギリギリと締め上げるその鎖によって、蘇った竜牙兵の命脈は断たれたのか、ガクンと頭を垂れるとバラバラの骨片となって散らばり、その骨片も闇に溶け込むように霧散してゆく。
(「満足したか?」)
眼鏡を押し上げ、消えゆく竜牙兵を見送った律と、その後ろで、
「やれやれ。こうして戦ってみても憎悪も恐怖も無かったねえ。しいて上げるなら哀れみぐらいか」
そう言って寄り添う八重子の方を向き、僅かに口角を上げる九助。
「同じ相手と二度殺し合うってのも、死神が絡むと珍しい経験とも言えなくなりそうねぇ……あたしは勘弁だわー」
「……」
ちらりと竜牙兵が消えた跡を見遣る一を見て手をひらひらさせる夏輝に、一は肩を竦めて煙草に火を点ける。
「さて、治療しよう。オーストレーム君はそこの信号機などをお願いできるかな?」
「了解……です」
味方の治療を終えたエルボレアスが周囲を見回し、壊れた2台の信号機をシェスティンに示すと、自身はヴィヴィアンの攻撃によって抉れた道路にヒールを施す。
「あまりダブルジャンプして来なかったよね?」
「使うと知っていれば対処できるからな、その程度は前回の戦いで学習したのではないかな?」
今回は出番がなかったねと、オウガメタルの銀架を撫でながらノルがそう話題を振ると、腕を組んだヴィヴィンアがそう応じる中、連絡を受けた兵庫県警のパトカーが集まり始め、避難勧告の解除を告げ、カラーコーンなどを撤去し始めた。
その赤色灯と手を振る警察官や町の人達に見送られ、ケルベロス達を乗せたヘリオンが姫路の空へと舞い上がって行くのだった。
作者:刑部 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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