
●忘れられた機械
すっかり秋色に染まった昼下がりの住宅街の中を、北風が吹きぬける。
カサカサと音立て道駆ける落ち葉を、追いかけるように進む小さな影が一つ。それは、コギトエルゴスムに機械製のクモのような足がついた、小型のダモクレスだった。
ダモクレスはその足で民家の入り口を潜り、庭に設置された物置を目指す。隙間からするり中へと侵入したそれは、乱雑に置かれた家電を見つけてその機械の中に潜り込む。
次の瞬間、家電が光に包まれて、ガチャガチャと機械的な音が物置の中に響く。
やがてその長方形の機械には脚が生え、起き上がり、器用に扉を押し開けて――。
「ア・ミー!」
高らかに声上げた新たなダモクレスは、体に絡む毛糸を周囲へ撒き散らした。
●編み機ロボとニットカフェ
「お前達、編み機って知ってるか?」
切り出しながら見せるのは、スマートフォンの画面。それをのぞきこむケルベロス達に、高比良・怜也(饗宴のヘリオライダー・en0116)はこれが今回の敵なのだと語る。
家庭用編み機。その機械の形状は、キーボードに近い。鍵盤の代わりに並ぶのは、無数の銀の編み針達。この編み針の上にハンドルついた機械部分を通せば、セットした毛糸が編み上がっていくのだと、ヘリオライダーは言葉紡いで眉ひそめる。
「元々結構なサイズの家電なんだけど、ダモクレス化の影響で巨大化してるし、脚がついたもんで縦長の形に立ち上がってるんだよな。古ぼけた機械だけど、威圧感はかなりあると思うぜ」
敵はまだ、生まれたばかり。このまま放置しておけば、民家だけでなく街の人々が襲われて、多くの人々が虐殺されてしまうことだろう。そうなる前に現場に向かいダモクレスを倒してほしいのだと、告げた怜也はケルベロス達をぐるり見回した。
「民家の住人には、事前に話をつけておく。お前達が到着する頃には周辺の人は避難済みだから、気にせず戦ってくれ」
ダモクレスは民家の物置で生まれ、そのまま庭へとやってくる。そこを迎え撃って倒してしまえば、被害なく終えることができるだろう。
敵は、毛糸や針を飛ばしてきたり、その巨体で押し潰そうとしてきたりする。油断せず戦ってほしいと、語った怜也はそこでゆるりと笑み浮かべた。
「無事にダモクレスを倒せたら、その後ゆっくりするのにいい場所があるんだ」
楽しそうにそう告げると、編み機のパンフレットの上にもう一枚チラシを広げる。そこに躍るのは、『ニットカフェ、初心者歓迎』の文字。
のんびりお茶とお菓子を楽しみながら、編み物のできるカフェ。それが今回訪れる民家のすぐ近くにあるのだと、ヘリオライダーが語れば身を乗り出すドワーフの少女が一人。
「何それとっても楽しそう!」
愛月・かのん(ドワーフのミュージックファイター・en0237)はナノナノを抱きしめながら、興味津々。スタッフは皆編み物経験者だから、わからないところはすぐに訊くことができる。道具も本もキットも用意があって、毛糸もその場で買うことができると、怜也が説明続ければかのんがこくこくうなずいた。
「素敵! それなら私は、編みぐるみに挑戦してみようかな」
なっちゃんをモデルにすれば、きっととってもかわいくなる――そう興奮気味に語る彼女に、赤髪のヘリオライダーは眉下げて。
「おいおい、ダモクレスを倒す方が先だからな? ちゃんとやってくれよ」
「もちろんよ! みんな、一緒に頑張りましょうね!」
私も、精一杯頑張るから。拳握りしめて少女が誓えば、怜也がへらり微笑みヘリオンの扉を開ける。
「よし、それじゃ行ってこい。編み物づくしの、いい一日を」
かける言葉は、ケルベロス達への信頼篭めて。いってらっしゃいと告げた男は、一礼して彼らを送り出した。
参加者 | |
---|---|
![]() 月織・宿利(ツクヨミ・e01366) |
![]() 神乃・息吹(楽園追放・e02070) |
![]() 虹・藍(蒼穹の刃・e14133) |
![]() ネリネ・ウァレ(さよならネリネ・e21066) |
![]() 榧本・風吹(アンフルラージュ・e22163) |
![]() レティシア・アークライト(月燈・e22396) |
![]() 苑上・郁(糸遊・e29406) |
![]() シャルトリュー・ハバリ(見習いメイド・e31380) |
●機械の目覚め
昼下がりの住宅街は、日差しのおかげでいくらか暖かかった。
ヘリオンより飛び出し、ケルベロス達が降下したのは目的の民家。周辺に人の姿がないことを確認して、虹・藍(蒼穹の刃・e14133)はそっと息を吐く。その青い瞳は、庭に設置された物置へと向けられて――刹那、閉じられた扉からグラビティの光が漏れ出した。
「どんなものでも機械ならダモクレスになっちゃうものなんだね」
敵が生み出されるその瞬間を目の前に、言葉零すのは榧本・風吹(アンフルラージュ・e22163)。彼女はその腕で、ナノナノのパウゼをもふもふ抱きしめる。これから始まる戦いに高まる緊張感も、大切な相棒がいればいくらか紛れる。
やがてケルベロス達が待ち構える中、物置の扉は押し開けられた。否、こじ開けられたと言った方が正しいか。ひしゃげた扉がばたんと前に倒れるその後ろで、編み機のダモクレスがその足で一歩ずつ進んでくるのが見える。
「ア・ミー!」
電子音めいた声は周囲に響き、ケルベロス達を認めた機械の体が大きく揺れる。
その様にも決して動揺せず、そっとスカートの裾をつまんで。シャルトリュー・ハバリ(見習いメイド・e31380)は優雅な動きでお辞儀して、その手で魔術を編む。
(「せっかくですから。手早く片付けてしまって、女子会に移りたい所ですね」)
想いは、ここに集う皆同じ。武器構える仲間達を頼もしく感じながら、シャルトリューは術式弾を撃ち出した。
「刹那を永久に。微睡みを、貴方に」
紡ぐ言葉、敵目掛け真っ直ぐ奔る弾は氷の御手を形どる。そのまま手を広げ包み込めば、編み機の体を冷気が襲う。
「ア・ミー……!」
声も体も震わせ、不快感を表すように。暴れるダモクレスへと、近付いたのはネリネ・ウァレ(さよならネリネ・e21066)だ。
「ネリネは手編みしか知らなんだが編み機というものがあるのか。ほしいな」
興味深げに向ける視線は、精巧に作られた機械の体へ向けられる。しかし敵は逃がさぬようここで倒そうと、大地断ち割るほどの一撃を繰り出した。その表情は変わらないが、皆の役に立ちたいと願い振るうグラビティは優しくも鋭い。
そんな主に続けと、ボクスドラゴンのリリンがその口からブレスを吐き出す。
箱竜の吐息に包まれ編み機の体が大きく揺れる、その隙に神乃・息吹(楽園追放・e02070)はするり懐へと潜り込んで。
「編み機が動いている姿、見てみたい気もするけれど……こう言う風に動いてるのを見たい訳じゃないのよ」
後のお楽しみのためにも、早々にご退場を。白トナカイの娘は蹄の手足に重力集め、高速の一撃を叩き込む。
畳み掛けられた攻撃に、ダモクレスは背の高い身体を仰け反らせた。しかし次の瞬間には足を踏みしめ身構えて、身体から銀色の編み針を発射する。
「ア・ミー!」
叫びと共に撒き散らされる針は、前方に位置するケルベロス達へと降り注ぐ。そのうちのいくつかは藍の身を狙うが、射線上に躍り出たレティシア・アークライト(月燈・e22396)がその一撃を受け止めた。
「しっかり務めを果たして、楽しい女子会と参りましょう」
絹糸のような黒髪風に躍らせて、戦場でも美しさは忘れずに。ピンヒールで軽やかに駆けながら、彼女は鎖の魔法陣を描き出す。
傷負った仲間へと、愛月・かのん(ドワーフのミュージックファイター・en0237)が癒しの歌を紡ぐ。その隣ではパウゼとなっちゃんのナノナノ二体もばりあを張って、それに合わせるように息吹が癒しの香りを振りまく。
「元気が出ますように!」
言葉と共に力篭めれば、戦場にふわり漂うオレガノベースの香り。士気の高まるその香受けて、ケルベロス達は改めて武器を握りしめた。
●終わりの時を
(「古道具が捨てられず残っていたのは、愛着が湧くほど大切にされて来たからでしょうか」)
槍に篭める稲妻が音立てる中、苑上・郁(糸遊・e29406)は物置に取り残されていた編み機を思う。宿る思い出、それが穢される前に供養する為と、彼女は駆けて電撃の突きを繰り出す。
友人の攻撃に重ねようと、地を蹴ったのは月織・宿利(ツクヨミ・e01366)だ。その一歩は力強く、一気に敵との距離が詰まる。最短距離で駆ける彼女の髪では、三日月飾りの簪がしゃらりと音立てて。
「黄泉より還りし月の一振り、我が刃が断つは其方の刻を……!」
言葉と共に、繰り出す剣劇は三日月状に弧を描き。舞い散る光の花弁は月の欠片のように、敵の精神までも惑わせていった。
一体の敵と対峙する、九人のケルベロスと六体のサーヴァント。大所帯での戦いは統率とることも難しくなるものだが、ケルベロス達は皆で声かけ合い、支え合ってうまく戦った。
仲間達に一番助けられたのは、此度が初の依頼となるかのんだろう。彼女は後方で仲間達の傷癒すことに集中していたが、その回復量の心許なさに歯噛みする。
「ああもう、もっとみんなの力になりたいのに……!」
主である宿利を守り、敵のボディプレスを受けたオルトロスの成親。その傷を回復しようと懸命に歌を紡いでも、塞ぐ傷はわずかなもの。
サーヴァントを連れる者は、そのグラビティの威力が劣るもの。そこにこの大所帯での減衰が重なれば、複数人を回復する術しか持たぬ彼女が思うほどの働きができないのも、仕方のないことだ。
そんな主を励ますように、なっちゃんがぱたぱたと羽動かせばパウゼも一緒に体を震わせ。二体のナノナノは、単体回復でもって懸命に戦線を支える。
「ナノ!」
「ナノナノ~」
ぽんと広がるばりあの力、それでも足りない分は皆で補おうと。レティシアは周囲の仲間達の傷を認めて、真白の霧を生み出した。
「霧よ、恭しく応えよ。暁を纏いて、彼の者共を癒やし守護せよ」
声に応え、ふわり広がる霧は薔薇の香りを纏って。生命の庭がもたらす癒しに加えて、ネリネもまた鉱石片を周囲へ振りまく。きらきら、光受けて煌めくそれは粉雪のように。おまじないの力で仲間を癒しながら、彼女は敵意をむき出しにする編み機へ声かける。
「毛糸も針も人に飛ばすものではないぞ。編み機の本分を忘れたか」
「ア・ミー!」
挑発ととったか、毛糸を振り回して興奮するダモクレス。そこへ郁のテレビウム、玉響がぴょこぴょこ駆け寄って凶器振るえば、千切れた毛糸玉が明後日の方向へと飛んでいく。
ユラの可愛い背中が、頼もしくて。にこり微笑んだ郁は、敵へ近付き螺旋の掌でとんと触れた。命中精度を上げたその攻撃は敵の内部へ強力なグラビティを送り込み、興奮した編み機はその身を振るってネリネを押しつぶそうとした。けれど、混乱した彼の体はあらぬ方向へと倒れて。その身に蓄積された状態異常に、もう戦況は覆らない。
『侍女式槍斧』を振り上げ、シャルトリューが敵へ奔る。叩きつける一撃は、進化の可能性を凍結させて。思わず体勢を崩すダモクレスの隙狙うように、息吹は紫林檎を一齧り。
「アナタの悪夢は、どんなに甘い味かしら」
開幕の音と台詞、紹介に与り姿成すのは敵にとってのトラウマ。それが何であるかはわからないけれど――編み機は、確かに怯えるように体震わせた。
「さぁ、良い子でお休みなさい。どうぞ良い夢を」
送る言葉は、終わりの時が近いから。息吹の言葉が紡がれる間に敵の背後へ回り込んで、藍はその指先を機械の体へ向ける。
「貴方の心臓に、楔を」
溢れるは虹色の光彩、至近より放たれる星銀の弾丸。その弾は重力の楔となり、ダモクレスを滅びへ導く。
「編み機さん、この家の人を温めるものを沢山作って頑張ってきたのね。お疲れ様」
だからゆっくり、お休みなさい。郁が柔らかな笑顔で見送る中、編み機は動きを止めて静かに消滅していった。
●ニットカフェへようこそ
戦場跡を入念にヒールして、避難していた住民達にはもう大丈夫と声かけて。全て終えたケルベロス達は、揃ってニットカフェへと向かった。
雑居ビルに踏み込もうとしたところで、宿利と郁が見つけたのは累音と夜。
「よかったらご一緒しましょう?」
無邪気に笑顔浮かべる彼女らを前に、顔馴染み二人が断るわけもなく。ますます賑やかになった一行は、カフェの入り口を潜った。
外は北風が冷たかったけれど、ここはほんわり暖かい。日の光に溢れたカフェは、あちこちにニット作品が並んでいて。
「憧れの女子会……!」
「私、こういうの初めて……!」
郁が瞳輝かせれば、隣でかのんも胸弾ませて。彼女らは店員の説明を受けて、まずは材料と道具を選ぶ。
「毛糸は、橙色……うぅん。やっぱり青色が良い、かしら」
あれこれ手に取り見比べ悩んで、息吹がなんとか決めたのは青空色の毛糸。合わせて道具を借りようとすれば白と桃色の毛糸買い求めたかのんが隣へやってきて。綺麗な色ねと声かければ、お世話になっている人にお礼として渡したいと、言葉が返る。
(「……ただのお礼、だから。深い意味なんてないの。ないのよ。うん」)
こっそり呟く息吹の側では、風吹が並ぶ毛糸の前にパウゼを連れてきていた。
「パウゼとおそろいのケープを編もうと思うけど何色がいい?」
尋ねればナノナノはふわり主の腕から飛び立って、ぱたぱた毛糸を吟味する。やがて降り立ったのは茄子紺の毛糸玉の上で、風吹は微笑みそれを手に取った。
宿利と郁は、それぞれ偶然に出会った顔馴染みへのプレゼントを作るつもり。宿利は群青色と黒の毛糸、郁は濃紫と淡紫の手触り優しい毛糸を取って。さて図案はどうしようかと、本を広げれば同じページに目が止まる。
「お揃いね」
「ほんとだ……お揃いだね」
言葉交わして、にっこり微笑み。彼ら二人も仲良しだから、きっと揃いの柄を喜んでくれるはず。
毛糸と道具の準備ができたら、席について今度はメニューを広げる。品数は少ないけれど添えられた写真はとびきりにおいしそうで、皆からは歓声が上がった。
「食べ物は、ホットアップルパイと紅茶を……あら、かのんさんと同じね」
息吹が注文すれば、ネリネも美味しそうだと同じものを頼んで。それ見たかのんが、絶対おいしいわよと顔綻ばせる。
笑顔の女子達は、飲み物とスイーツが運ばれてきても賑やかに。その雰囲気がまぶしくて、落ち着かない累音はコーヒーをひとすすり、共に端に座った夜へと視線を向ける。
「……これ、女子会というものでは? 俺達浮いていないか……?」
紅茶に口をつける夜もまた、居心地悪そうに視線泳がせる。とはいえ、可愛い女性がたくさんいる光景には、ついつい和んでしまったりもするのだけれど。
「俺達も男子会でもやるかい?」
「男子会ねぇ、今夜は飲み会でもする?」
そんな会話を控えめに繰り広げる二人を見て、隣で郁がくすくすと笑った。いつも平然としている累音がこんなに落ち着かない様子なのがかわいい、なんて想いは内緒にして。
夜の隣では宿利が、彼のカップ持つ手にそっと指を伸ばす。
「ね、手を貸して?」
お願いに応えて彼が手を差し出せば、メジャーでサイズを測りながら優しく手に触れる。
「夜くんの手、綺麗ね……」
思わず目を細めて呟けば、夜もまた彼女の柔らかな掌の感触に無意識で手が動いてしまって。握り返せば彼女が瞬いたから、彼はぱっと手を放した。
「あ、すまん、つい」
「いいのよ」
くすり笑った宿利は、測ったサイズを頼りに編み物を始める。どんなものができるかは、完成後のお楽しみ。
郁もまた、累音の手を借りサイズの計測。
「案外大きいですね、案外」
「案外とはなんだ、案外とは……」
感心する彼女の頭を、その手でもってわしわしと撫でる。日頃の感謝を篭めてささやかな贈り物を作るのだと郁が胸張れば、その姿にも悪戯っぽく笑み浮かべて。
「ではオネエサンの編み物のお手並み、拝見させてもらおうか?」
楽しみにしている、告げれば郁はこくりうなずいて、真剣に編み針を動かし始める。
真っ直ぐに手元を見つめる、百日紅の瞳。
真剣に作業をする女性の姿は、微笑ましく凛々しくて。
穏やかな気持ちで完成を待とうとそっとコーヒー飲んだ累音は、同じく女子達の真剣な顔を眺める夜と目が合って、笑い合った。
●女の子達のひととき
ストールに包まり老眼鏡かけて、時折ホットアップルパイと紅茶を楽しみながら。手慣れた様子で編み針動かすネリネは、小さな靴下を作っていた。
「ネリネ、すごい! 早いし綺麗だし、尊敬しちゃう……!」
「かのんの編みぐるみも、かわいらしい色だな」
褒め言葉を返せば、だってなっちゃんがモデルだから! と得意げな同族。でも首の部分をどうしたらいいかわからなくて、と尋ねれば、ネリネが丁寧にやり方を教えてくれる。
その隣では、藍もガトーショコラを摘みながら編みぐるみを作っていた。かのんと同じく初心者からスタートしたのに、器用な性質のおかげでどんどん編み進める。知り合いのお家のわんこが超かわいいから、それをモデルにしたと語る藍が作っているのはシェットランドシープドッグだ。
色が変わる部分の処理は、シャルトリューがコツを教えてくれて。順調に進める彼女に微笑んで、メイド姿の少女はかぎ針動かしミトンを編んでいく。柔らかい薄紫の毛糸を編めば、もこもこふわふわの仕上がり。遊び友達に送る予定でと、語る彼女が思い浮かべるのは紫髪のヴァルキュリアの姿。その笑顔は、ミトンに負けないくらいに暖かなものだった。
「マフラーなら簡単かと思ったのだけれど……」
呟き、自信なさそうに編み針を動かすのは息吹。経験者達は仲間を手伝いながら編む余裕があるけれど、彼女は自身のものだけでも手一杯だ。うっかり編み目を数え間違え飛ばしてしまったりしながらも、毛糸一玉分を編む頃には大分慣れてきた様子。
その様子見て微笑むレティシアが編んでいるのは、黄色と橙のグラデーションが美しいマフラー。寒くなってきたし、相棒のスカーフの代わりにマフラーを。そんな主の想いを知ってか知らずか、ルーチェは編み途中の毛糸玉を、弾いて遊ぶのに夢中で。
「編みにくいでしょう、もう」
小さく怒って、毛糸玉を遠ざける。けれどこんなに気に入ってくれたのなら、きっと完成品も喜んでくれるだろう。
そうして皆の製作工程も半分を過ぎれば、作業に余裕もできてくる。
「せっかくの女子会なんだから、女子会っぽい話しましょ!」
例えば、恋バナとか。ナノナノの羽を仕上げながら提案したのはかのんで、その言葉に郁がこてんと首を傾げる。
「コイバナって濃いバナナのこと? 美味しそう……」
世間に疎い彼女の発言には、夜が笑って旨そうだねとうなずく。
そうじゃなくてー! とかのんは首を振るが、話題を提供してくれる女子は残念ながらおらず、かのんもまた提供できるものなど何もなくて。残念、と呟く少女の横で、靴下の片方を編み終えたネリネが口を開いた。
「もうすぐクリスマスだな。皆の編んでいるのは誰かへのプレゼントだろうか」
ネリネは、リリンに靴下を編んでいる。語る彼女が視線を送れば、箱竜は毛糸玉を鼻先で転がして。その毛糸がころんと当たったなっちゃんが転がし返して一緒に遊び始めれば、紅茶のカップへ手を伸ばしたレティシアがふわと笑う。
「みなさんのクリスマスの予定や、過ごし方をお聞きしたいです」
まだ予定が決まっていないので、参考にさせていただこうかな、なんて。言葉続ければガトーショコラを口へ運んだシャルトリューも、静かにうなずいた。
「クリスマスの過ごし方? 予定はない!」
きっぱり答えたのは、藍。彼女はそもそも、クリスマスを特別に認識した記憶があまりないと言う。たぶん鍋を食べて、テレビを見て過ごすだろうと、語れば仲間達からはそれもいいねと反応が返る。
オレンジジュースを一口飲んで、風吹が語る予定はパウゼとのんびりする一日。
「パウゼは食いしん坊だからワンホールなんてすぐになくなっちゃうのよ」
微笑み紡ぐ言葉は、愛情に溢れていて。主が自分の話をしていることに気付いているのか、パウゼは風吹の膝に乗ると羽をぱたぱた、ナノナノ鳴いて、パイ食べたいアピールを始める。そんな愛らしい姿に、皆が微笑ましく笑って。風吹がホットアップルパイを食べさせてやれば、郁もぱくりパイを食べつつ口開いた。
「私は何も無いですけど……ホールケーキは憧れます。丸ごと一個は夢ですね」
「私も丸ごと食べてみたい! でも、体重とか気になるのよね……」
相槌打つかのんの話に、興味津々耳傾けるのは息吹。トナカイとして素敵なクリスマスをお届けしないとと思う彼女は、皆のクリスマスの過ごし方が人一倍気になって。聞くことに集中しながらも編む手は止めなかった彼女は、ふと自分の作品に視線を落として困惑の表情を浮かべた。
「気付いたら、すごーく長いマフラーになってたのだわ」
コツをつかんで編み進めれば、意外に早くできるもの。編み目も綺麗に整ってきたそれを見て、息吹はそのまま仕上げることにした。
「……寒さ対策はバッチリってこと、で」
仲間達の作品も次々に完成し、後はお披露目、そこから話も広がっていく。
暖かいカフェ、毛糸に囲まれ和やかな会話。彼女達の女子会の時は、もう少しだけ続くのだった。
作者:真魚 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年12月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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