人魚の誘惑

作者:天木一

 冷たい風が吹き込む海辺。もうすっかり冬のように肌に痛い風が通り過ぎてゆく。
「ここが歌う人魚の現われるって噂の海かー、話しでは歌に聴き惚れた相手の生気を吸い尽くすって事だけど……」
 大きなリュックを背負った、分厚い眼鏡の大学生らしき若い男がきょろきょろと周囲を見渡す。
「流石にこの季節の海辺は寒いなー冬物のジャケットで正解だったよ。でも人魚が目撃されたって噂も冬に近い季節のようだし、調べてみるか」
 男は大きなカメラを手に岩礁へ近づく。
「こういう死角になる場所が怪しいよね」
 カメラを構えパシャパシャッと幾つか風景を写真に収める。
「いい雰囲気でてるなー、人魚って言うと美人なイメージだし、生気を吸うっていうくらいだから美人に間違いない! きっと人魚が現われたら絵になるぞっと」
 岩場を慎重に進み人魚が現われたら良いカットが撮れそうな場所を探し歩く。
「人魚の歌声を聴くと天国に昇るような心地になるのか、きっと綺麗な歌なんだろうなー。怖いけどちょっと聴いてみたいなー。それに写真撮れたら展覧会の入賞も間違いなしだしね!」
 スマホで情報を確認しながらふんふふーんと鼻歌を歌い、男は深い青色の海にカメラを構えた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 突然背後から声が聞こえたかと思うと、男の胸を鍵が貫いた。
「え……?」
 引き抜かれた後には傷ひとつ見当たらない。だが男は意識を失い岩場に倒れる。
 鍵を手にした第五の魔女・アウゲイアスが消え去る。すると海辺に美しい歌声が響いた。いつの間にか男の傍らに見目麗しい人魚が現われていた。人魚は陸に向かってずりずりと動き出す。誘蛾灯のように人を誘う歌は、獲物を引き寄せる魅力的な罠だった。
 
「今度は綺麗な人魚が現われるんだよー!」
 わくわくした様子で、元気一杯にジャスティン・ロー(水色水玉・e23362)が集まったケルベロス達に声をかける。
「『興味』を奪う第五の魔女・アウゲイアスが現われ、奪った『興味』から新たな怪物型ドリームイーターを生み出してしまうようなのです」
 事件の説明をセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が始めた。
「新たに生まれたドリームイーターはグラビティ・チェインを得る為に周辺の人々を襲い、大きな被害を出してしまいます。皆さんにはその前にこの怪物型ドリームイーターを倒していただきたいのです」
 今ならば被害が出る前に接触でき、倒す事で意識を失った男性も助ける事が出来る。
「ドリームイーターは人魚の姿をしています。その歌声は人を惑わす効果を持っているようです」
 搦め手によって戦闘力を奪ってくる相手のようだ。相手のペースにさせない事が重要だろう。
「現われるのは福井県にある海岸です。岩礁となっている場所で周辺に一般人は居ません」
 念の為に避難勧告も出され、戦いに一般人を巻き込む心配は無い。倒れた男性だけ注意すればいい。
「人魚ですか、確かにその歌声を一度は聴いてみたくなりますが、人に被害が出るようでは歌を聴くどころではありません。人々に被害が出ないよう、よろしくお願いします」
 説明を終えるとセリカがヘリオン出発の準備に入る。
「人魚の歌声ってたのしみだなあ! でもちゃーんと退治もするよっ! みんなでがんばろー!」
 腕をぶんぶんと振り上げるジャスティンに合せ、ケルベロス達も拳を挙げて気合を入れた。


参加者
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
神宮時・あお(散リ逝ク桜・e04014)
翼龍・ヒール(ドクトルドラゴン・e04106)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
滝・仁志(みそら・e11759)
ジャスティン・ロー(水色水玉・e23362)
祝部・桜(残花一輪・e26894)
ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)

■リプレイ

●冬の海
 寒空の下海水浴客など居るはずもなく、人気のない海辺には波の音だけが響く。そんな場所にケルベロス達は足跡を刻む。
「きれいな人魚のおねーさん……倒しちゃうのもったいないなー!」
 人魚の姿を思い描いたジャスティン・ロー(水色水玉・e23362)は、抱き上げたボクスドラゴンのピローに話しかける。
「人魚って所詮半漁人てことでしょ?」
 すると隣でルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)が2足歩行の魚類を思い浮かべていた。
「人魚のおねーさんだよ、上がおねーさんで、下がお魚さんだよー!」
「えっ、違うの? まぁいいや。俺はめっちゃ美人なシヲンという人物を知っているからね~。それと比べたら月と……ぽん……ぽん酢だよ」
 ジャスティンが手振りを加えて説明すると、その姿を思い浮かべながら、上手いことわざを言おうとして失敗していた。
「……人魚様、ですか。……実際に、見られる、とは、思いません、でした、ね」
 無表情ながらも僅かに声を弾ませ、神宮時・あお(散リ逝ク桜・e04014)は敵の姿を探す。
「ドリームイーターとはいえ、ちょっと楽しみです」
 祝部・桜(残花一輪・e26894)もわくわくした様子で頬を緩める。
「おとぎ話そのままの姿なのでしょうか、お歌、楽しみですね……いえ、ちゃんと撃破いたしますけれど!」
 仕事はきっちりこなすと握り拳を作りながらも、桜は楽しそうな目の輝きは隠し切れずにいた。
「……おうた、ですか……でも、それも、今回限り、です」
 どれほど美しい存在であろうとも倒さなくてはとあおが気を引き締める。
「死神ではない人魚、僕も見てみたいなぁ!」
 期待にティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)が目を輝かせる。
「でもどんなに綺麗でも、この人魚は人を襲うドリームイーターなんだ……少し残念」
 少しテンションを下げながらも、人魚との出会いに胸躍らせる。
「なんで人魚って美人な女の人って相場が決まってるんだろ? それよりも幼女の方が絶対可愛いのになー」
 可愛らしい小さな人魚をイメージして滝・仁志(みそら・e11759)の顔が緩む。
「ようじょの人魚が出てきたら俺……うわぁどうしようときめくね! ……あっ痛い痛いカポ殴らないで! ちょっと想像しただけだから!」
 そんな締まりのない顔をした仁志の頭を、テレビウムのカポがポカポカと殴った。
「……美しい歌声を聴けば心から引き寄せられてしまうほど、か。……まるで呪いだ。……此方は呪言で対抗したくなる」
 長い髪で顔を隠した祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)は、人形のように無表情な瞳に暗い影を宿す。
「知り合いの方がたくさんですね。少しワクワクします。ですが、気を引き締めて臨まないといけないですね」
 そんな頼もしい仲間を見渡した翼龍・ヒール(ドクトルドラゴン・e04106)がニコニコと微笑み、油断なくいこうと声をかけた。
 海風に混じり歌声が聴こえてくる。岩礁へ足を向ければ、そこには意識を失い倒れた男性と一人の女性。水が流れるようにたなびく長い髪に、美しい美貌。女性らしい豊かな胸から視線を下に向ければ、魚のような下半身。それは正に物語に出てくる人魚そのままの姿だった。

●人魚
『さあ、いらっしゃい。一緒に海にいきましょう……』
 ケルベロス達に気づいた人魚が歌声を強める。美しい声は人を惑わす魔力が籠っていた。
「……泡となって消えるような楽な道は無い。……祟り尽して苦しんで貰う」
 鋼を纏い仲間を守るように前に出たイミナは、オウガ粒子を放出しながら歌の影響を遮ろうとする。ビハインドの蝕影鬼もその横に並び、歌の影響を抑えこんだ。
「ごめんね、その人は君の王子様ではないから……君には泡になってもらわなきゃいけないんだ」
 ティティスが音を打ち消すように、手元のスイッチを押してカラフルな爆発を仲間の背後に起こした。
「うーん、やっぱりぽん酢だね。邪魔してあげるよ」
 敵の姿を値踏みしながらローラーダッシュで加速したルアは、火花を散らしながら人魚の体を蹴り上げる。
「……見た目は、物語に、出てくる、人魚、そのもの、です、ね」
 岩場をステップを踏みように駆けたあおが、ふわりと跳躍しながら人魚を蹴り落とした。
「桜さんとジャスティンさん、避難の方はお願いしますね」
 ヒールがそう言って敵に視線を向ける。
「オーホッホッ! それでは行きますわよ!」
 人が変わったように高笑いしたヒールは弓を構え矢を放つ。放たれた矢は人魚の胸をすり抜ける。だが人魚は苦悶の表情を浮かべて歌を止めた。矢が心を貫き意識を乱したのだ。
「今度はカメラ持ってきたよ! だけどまずはおにーさんを助けないとね!」
 倒れた男性にジャスティンが駆け寄り抱え起こす。
「び、美人さんです! すごい! 鱗が! 下半身が魚です! 本当に人魚さんだぁ……はっ、そうです、避難ですね!」
 見惚れていた桜が慌ててそれを手伝い、二人で左右から支えて男性を運び始めた。
「やっぱり幼女じゃないんだね、なら手加減は無しだよ」
 顔を引き締めた仁志は、腕をドリルのように回転させて人魚の皮膚を裂き肉を抉る。
『ああ、愛しい人、酷いことをしないで……』
 人魚の微笑みが仁志に向けられ、魅了されたように攻撃の手が止まる。そこへ口を開けると、まるで魚のように刺々しい歯が並び、水が流れ込むように生気を吸い上げていく。すると人魚の傷が癒されていった。
「……奪った、生命力を、返して、もらい、ます」
 横からあおは降魔の拳を頬に撃ち込み、攻撃を中断させて魂を喰らうようにエネルギーを吸い返した。
「人魚の歌よりもワタクシのほうが魅力的ですわ! オーッホッホッホッホッ!!」
 ヒールが召喚した黒薔薇を纏った喪服の老婆が闇へ招くように相手の精神を蝕んでいく。
『……』
 人魚が冷たい視線を返し、海辺に響き渡るように歌い出す。
「厄介そうだから、喉を潰しておかないとね」
 ライフルを構えたルアが引き金を引き、放たれた光線が避けようとする人魚の首筋を掠め傷つけた。だが声を弱めど人魚の歌は止まず、近くのケルベロス達の心を蝕んでいく。
「……蝕影鬼、共に奴の歌を止めてやろうか」
 イミナが駆けて跳躍すると飛び蹴りを浴びせようとする。人魚が器用に尾を動かして避けようとする体が止まった。蝕影鬼が金縛りに掛けたのだ。蹴りが顔を直撃し表情を歪ませながら人魚が地面を転がる。
「残念だけど、君の歌声には惑わされないよ。だって、君は幼女じゃないからね!」
 そんな自慢にならない事を胸を張って主張しながら仁志がロッドを向けると、稲妻が迸り人魚の体が衝撃に撥ねる。
「君の歌は綺麗だけれど、聴いていられないな」
 ティティスは腕に纏わせた鋼からオウガ粒子を放出し、仲間たちの傷を癒すと共に感覚を鋭敏にさせていく。
「避難完了だよ! シャッターチャンス!」
 元気良く戻ってきたジャスティンがパシャパシャッと写真を撮ると、仕事をちゃんとしろと注意するようにピローががうがうと吠え、仲間に属性を分け与えてゆく。
「よーし、写真も撮れたしがんばっちゃうよー!」
 ジャスティンがロッドを掲げて雷を放ち、閃光が人魚の体を打ち据えた。
「ただ今戻りました、これから参戦しますね」
 駆け戻った桜がそのまま突っ込み、風を切るように拳を胸に叩き込んだ。
『争いはやめましょう。武器を捨て歌を楽しみましょう』
 吹き飛び岩壁にぶつかった人魚は穏やかに歌を奏でる。
「……頭が、痛く、なる、声、です」
 目を細めたあおは純白のオーラを手に集めて撃ち出した。オーラが花びらを撒き散らす軌跡を残しながら飛び、人魚の胴を直撃した。
「女性の見た目をしていてもドリームイーターに手加減はしないよ」
 ルアがその傷口を鋭く蹴りつけ、鱗が剥がれ怪我を悪化させる。
「そんな歌声ではワタクシは魅了できませんわよ!」
 更にヒールが竜の如く手を硬化して、人魚の腹を貫手で貫いた。
『ああっ』
 口から血を流し人魚の歌声が止まる。
「……その歌を上回る呪いを、祟りを味わえ……弔うように祟る。祟る。祟る祟る祟る祟る祟る祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟……封ジ、葬レ……!」
 人魚に馬乗りになったイミナが、狂ったように呪いの言葉を吐きながら杭を何度も突き刺し痛みを与えていく。
『酷いことをしないで、乱暴はやめて……』
 人魚が口を開きイミナから生気を吸い取る。
「人魚の肉を食べると不死身になる伝説もあるし、人魚は人を惑わして海底に引きずり込んで食べてしまうという話も聞いたことある。そうやって人の生気を吸うのなら、人魚って実は怖い生き物かもしれないね」
 人魚の眼前にティティスは光の盾を形成して敵の力を弱める。
『離れて……』
 人魚は尾を跳ね上げるようにしてイミナを退け、ずりずりとまるで蛇のように海へと近づこうとする。
「よっと、君に興味はないけれど、困る人がいるんでね」
 その背後に追いついた仁志が回転させた腕で背中を抉る。
『邪魔しないで……』
 仁志を惑わそうと振り向いた人魚が笑みを浮かべる。
「きれーな人魚さんでも、人を操ったりしたらダメなんだよ!」
 ジャスティンが雷の壁を生み出し、目を晦ますように笑みを遮った。
「物語通りの人魚さんです……ちゃんと倒します、倒さないと!」
 つい眺めてしまいそうになる桜は首を振り、駆け抜けると腹の傷にナイフを突き刺した。

●魅惑の歌声
「そういや疑問なんだけど、人魚ってトイレはどうするんだろう?」
 首を傾げたルアがそんな失礼な事を尋ねると、返礼に人魚の歌声が届く。
「ヘッズ・アップ!」
 それを打ち消すようにルアが声を発すると、グラビティの乗った音が衝撃波となってぶつかり敵の動きを止めた。
「……人を、食べる、ような、人魚は、獣と、同じ、です」
 そこへあおが人魚の腹につま先を抉り込むように蹴り、体をバウンドさせて岩場に転がした。
「休んでる暇なんてありませんわ、こちらからも行きますわよ!」
 更にヒールはオーラの塊を撃ち出し、食らいつくようにぶつかって人魚の体が血だらけとなる。
『暴力はやめましょう、手を取って歌を奏でましょう』
 差し伸べるように手を伸ばして人魚は歌い出す。仲間を守ろうと、蝕影鬼とピローが身代わりとなって歌を受け止め、混乱したようにふらふらと宙を彷徨った。
「……凍てつけ、歌えなくなる程にな」
 イミナが螺旋に吹雪を巻き起こし、人魚を凍らせていく。それでも必死に人魚は歌い続け、ケルベロス達の意識を朦朧とさせる。
「この程度でワタクシ達を惑わせると思ったら大間違いですわ!」
 ヒールが高笑いして己の意思を強く持って歌の影響を堪える。
「あっ、こんなところに可愛いようじょが!? 俺と一緒に遊ぼうよ!」
 その横ではあっさりと惑わされた仁志が人魚を小さな女の子と思い込みふらふらと近づく。すると割り込んだカポがその眼前に可愛い幼女の動画を流して正気に戻した。
「治癒展開コード:癒し手――いたいのいたいのとんでけーっ!」
 ジャスティンがヒールの額に手を触れると、朦朧としていた意識が覚醒する。
「その歌を届けるべき相手はここにはいないんだよ」
 ティティスが爆発を起こして仲間たちの心を奮い立たせる。
「人魚さん相手だとやりにくいですが、頑張らないと!」
 気合を入れた桜が歌の影響を受ける前に間合いに飛び込み、拳で顔面を打ち抜いた。
「ちょっとした疑問なんだから、そんなに怒ることないのに……」
 速度をつけたルアがボールのように人魚を蹴り飛ばす。
「幼女の幻なんかで俺が騙せると思ったら大間違いだよ」
 頭を振った仁志が色とりどりの光を放ち、光が発する重力の波が何度も敵を撥ね飛ばす。
『喉が渇いたの……』
 人魚が這いつくばり口を開けて生気を吸い取ろうとする。
「海よりも深い闇の底に沈めてあげますわ」
 ヒールが召喚した老婆が闇へと誘う。精神を汚染されふらりふらりと人魚の目が移ろとなる。
「……そうだ、何度もだ。……何度も何度も何度も何度も何度も祟る祟る祟る祟る祟祟祟祟祟……」
 そこへ表情を変えぬままイミナがただただ杭を突き刺す。手を潰し、尾を貫く。
『どうして、こんな酷いことするの……』
 憐れみを覚えるような表情が見る者の心を惑わす。そしてイミナを押し退け、人魚は高らかに歌を響かせる。
「……おうたは、人を、惑わす、為の、ものでは、ない、です、よ……?」
 対抗するようにあおも歌う。魔力を籠めた歌声が響き人魚の知覚と感覚を奪い去る。
「人魚の歌も綺麗だろうけど……僕の歌も綺麗だと、思うよ」
 照れながらも張り合うように、ティティスは甘く蕩けるような毒の詩を紡ぐと、現れた水の精霊が人魚の体を凍りつかせた。
「ゆめ忘るるな、八百万の憾みぞある」
 桜が無数の怨霊の手を具現化させると、絡み合った手がひとつの大きな手となり、刃物のような爪が敵の胴を斬り裂いた。
『このままだと死んでしまうわ、貴方の生命を頂戴……』
「悪い人魚さんにはお仕置きだよー!」
 人魚が憐れを誘うような表情をみせるが、天真爛漫に元気な笑みをみせるジャスティンが雷を撃ち込むと、人魚の体を電気が流れビクンと痙攣し、やがて動かなくなった。

●海の景色
「……静かになった」
 イミナは腕をだらんと下し、まるで幽霊のように口を閉ざして顔を伏せた。
「ふふっ、こういう季節の海の景色も趣があって良いですね」
「地球の海はこんなに広い、どこかに本物の人魚もいそうだね」
 元の穏やかな笑みに戻ったヒールが、冷たく澄んだ海へと視線を向け、隣でティティスも何処かに人魚が居てもおかしくはないと目を凝らす。
「……本当に、人魚様が、いる、のでしたら、……いったい、どんな、綺麗な、おうたが、聞ける、の、でしょう、ね」
 幻想的な歌を想像して、そんな歌を聴いてみたいとあおは口元を和らげた。
「幼女の人魚が居たらきっととてつもなく可愛らしい歌声なんだろうね」
 そんな妄想にトリップする仁志を、カポがポカリと殴りつけた。
「あの、これってどういう状況?」
 介抱されていた男性が目覚め、ケルベロス達を見て何事かと周囲を見渡した。そんな男性に事件の説明をして落ち着かせる。
「色々なところに写真を撮りにいったけど、事件に巻き込まれるなんて始めてだよ」
「ねーねーどんな写真撮ってるの? 見せて!」
「私も見てみたいです!」
 カメラが無事かと確認する男性に、ジャスティンと桜が興味津々で写真を見せてもらう。
「良かったら僕達を撮ってほしいな」
「それはいいね、カッコよく撮ってよ!」
 ジャスティンがお願いすると、ルアも早速決めポーズをとった。
「いいよ、お礼に綺麗な一枚を撮るから」
 ケルベロス達が並び、はいチーズの合図と共に、海を背景に仲良く並ぶ一枚の写真が映し出された。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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