パンダ・オブ・ザ・リビングデッド

作者:天枷由良

●大熊猫の戦士
 晩秋の釧路湿原。
 その奥地に立つ、黒獣の毛皮を被った人影が告げた。
「今度はあなたに働いてもらうわ。思う存分、暴れてきなさい」
 たったそれだけの短い命令に対して、返る言葉は無い。
 代わりに聞こえるのは唸り声。
 怒りや苦しみといったものを含んでいない、もはや含めることも出来ない。
 ただ零れてくるだけの声。
 それは剥き出しの牙と白黒の毛、膨れ上がった手足を持ち、大剣を携える大熊猫の獣人。
 昔々に何処かで死んで、今は死神の駒と成り果てた、哀れな獣人。
 お供か目付けか、ふわり漂う2匹の醜い魚と共に、大熊猫の獣人は湿原の外へ行く。

●熊猫の少女
 いつも元気いっぱい、無邪気で天真爛漫な笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)から、デウスエクス出現の報せがあった。
「釧路湿原で死神がサルベージしたデウスエクスが、街に向かっているのです!」
 そのデウスエクスは、どうやら釧路湿原で死亡したものではないようだ。
 死神が何らかの意図で湿原に運び込んだのかもしれないが、真相はまだ分かっていない。
「このサルベージされたデウスエクスは、死神によって変異強化されています。一緒にお魚型の死神を2匹、連れているみたいです」
 目的は市街地の襲撃。
 幸い、予知によって侵攻経路が判明しており、湿原から街へ入る前の開けた場所で迎撃することが出来そうだ。
「時間はお昼ごろですけど、辺りにはひと気もないみたいです。戦いに集中できますね!」
 さて、戦場の他には敵の詳細などを伝えられるのが常、だが。
「サルベージされたデウスエクスは、第二次侵略期の前に何処かで倒れた大熊猫……ジャイアントパンダのウェアライダーさんなんです。ねむもパンダのウェアライダーですから……ちょっと、しょんぼりしちゃいますね」
 少しばかり寂しそうな笑みは、すぐに消える。
「でもでも、デウスエクスだった頃のウェアライダーさんですし、お話出来る理性もないみたいですし、何よりやっつけないと釧路の皆さんが大変ですからね! ……えーっと、見た目は変異強化のせいか腕とか足がむきむきになってて、歯がぐわーっと剥き出しで、爪もしゃきーんって感じの、いかにもくらっしゃー! って雰囲気ですね! あと、大きな剣も持っているみたいです!」
 当然、攻撃もその強靭な手足や、大剣による攻撃が中心となるようだ。
「死神のお魚さんは、噛み付いて攻撃してきます。あんまり強くはないみたいですけど、噛みつかれると力を吸われてしまいますし、なにかと戦いの邪魔になると思うので、早めにやっつけちゃった方がいいと思います!」
 それでは行きましょう! と、ねむはヘリオンに向かっていった。


参加者
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
狼森・朔夜(ウェアライダーの巫術士・e06190)
楠森・芳尾(灰毛の癒刃・e11157)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
黒岩・白(ドワーフの犬巫女・e28474)

■リプレイ

●キュッキュリーン☆
 木枯らしが吹いた。
「未来のファンの笑顔を守るためなら、例え北でもどこへでも! ヴァルキュリ星人のレピちゃんです☆」
「キュッキュリーン☆」
 吹雪くかもしれない。
「きゃー! こんなところにまでファンですか!? じゃあサイン上げちゃう☆」
「あ、ごめんいらない。ファンじゃないし」
 真似しておいて全力拒絶のカッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)が、にへらと笑った。
「ですよねー☆」
 レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)のテンションは変わらなかった。
 さすがヴァルキュリ星人(自称)。

●北の地で
 そんな事でもしていないと寒くて仕方ないのだ。
 眼前に広がる明るい茶色と掠れた緑。
 振り返れば街。足下は舗装された道が真っ直ぐと伸びる。
 ここは北海道、釧路。ケルベロスたちは、もはや冬が訪れた湿原の入口で敵を待ち構えている。
 侵攻経路も分かっていれば、敵を覆い隠すような遮蔽物もない。
 待つだけだ。その時間は、ちょうど懐旧の念を抱くのに良いくらい。
(「……あん時は白山羊だったか」)
 湿原を見やる狼森・朔夜(ウェアライダーの巫術士・e06190)の思考は昨冬に飛んだ。
 およそ1年前。彼女は同じように死神が引き上げた獣人と戦い、それを撃破している。
 同族の惨めな姿にやりきれない思いを抱き、もしかすれば自分があちら側に居たのかもしれないという恐怖に怯え、それでも死神に対する怒りに突き動かされて、やっと。
 あの時に比べれば、心身ともに成長しているのは明白だろう。
 それでも変わらないのは、死者を弄ぶ死神への不快感。
 そして安らかな眠りを妨げられた、かつての同族への憐憫。
「……気に入らねェ、気に入らねェぜ」
 ふと、仲間内で唯一の男が声を漏らした。
 朔夜と同じウェアライダー。狐獣人の楠森・芳尾(灰毛の癒刃・e11157)。
 目を向ければ、芳尾は表情を崩して「なーんつってな」と、おどけて見せた。知る由もないが、彼はそういう男だ。
 芳尾が諸々を煙に巻いた代わりに、死神への愚直な怒りはシエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)が示す。
「眠ってたところを起こされて、駒みたいに使われるなんて……やっぱり許せない」
「そうです! 一度終わった命を、道具のように再利用するなんて許せません!」
「死者を蔑ろにする輩は、僕らがとっ捕まえてやるっスよ!」
 レピーダが真面目に言葉を重ねて、黒岩・白(ドワーフの犬巫女・e28474)も続く。
 白の語気は徐々に熱を帯びていた。それは超自然的な存在と関わるシャーマンの端くれだと言うからか、性根が漏れ出ているのか。
 いずれにしても、その熱をぶつけるべき相手は、いよいよ彼方から姿を現し始めている。
「クマのウェアライダーが、お供に鮭を連れているのなら面白かったのじゃが」
 付け髭を整えたウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が小さく息を吐く。
「パンダの者に魚がお供は、なんじゃか違和感があるのう」
「なんでもいいよ。どうせ狩られるだけなんだから」
 迫る戦いに疼きを抑えられず、カッツェは口元を歪めて大鎌の柄を握りしめた。
 熊でも鮭でもパンダでも、待ち受けるのは同じ結末。即ち、死。
 それを与えるのがカッツェの務めだ。自身をデウスエクスに対する死神と称するドラゴニアンの少女は、言動に違わぬ力を以って異形のものに死を授ける。何処であれ、何であれ。
 そして楽しむ。戦いを、魂を刈り取る瞬間を。憐れみとは程遠い感情だろう。しかしどのような気持ちを抱いた所で、ケルベロスたちが不死なるデウスエクスに与えられるものは、一つしかない。
「こんな事を知ったら、きっとあの人の友達も悲しいだろうな……」
 身なりの割に子供じみた口調で、アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)が呟く。敵の生涯に思いを馳せて感傷に浸るだけの間合いは――もうなさそうだった。
「必ず止めるから、全力でいくよ!」
 決意を示すように収めていた薄紅の翼を広げ、シエラシセロが砲撃形態に変形したドラゴニックハンマーを彼方に向ける。
 それを援護するため、アイリスが光り輝くオウガ粒子を振り撒き始めた。
 覚醒する超感覚。より明瞭になる敵の姿。
 そして唸りを上げて吐き出された竜砲弾が、戦いの口火を切った。
 
●対峙
 砲撃の狙いは大熊猫の戦士でなく、そのお供。
 メインディッシュは最後に取っておくのだ。まずは醜い魚を2匹ばかり、オードブルに仕立てなければならない。
「もう一発! いっきますよー☆」
 レピーダも間髪入れず、狙いすました竜砲弾を撃ち放って援護する。
 地を這うように湿原を駆けた二つの弾は、ものの見事に魚の1匹を捉えて、軽々と吹き飛ばした。
「大当たり大当たり!」
「ひゅー! やるじゃねェの!」
 アイリスと芳尾が喝采の声を上げる。
 しかし大熊猫の戦士には――いや、同族であるはずのもう1匹の死神ですら、それを気にする素振りは見せなかった。所詮は歪な生命を与えられた怪物と目付役の下っ端死神。間に連携や連帯などという糸が結ばれているはずもない。
 ケルベロスたちは違う。湿原をもんどり打った魚目掛けて、一斉に駆けていく。最初の砲撃は、敵の優先順位を決めるタグ付けも兼ねていた。
 彼我の距離は一気に縮まる。そして挨拶代わりの弾をくれてやった魚よりも先に、もう1匹の魚と大熊猫が目の前に迫る。
「……どれ、ご先祖様よ! ちょっとお付き合い願えるかい!」
 芳尾がオウガ粒子を放ちながら、敢えて大熊猫たちの前に身を晒した。
 それも、わざと緩慢に、無防備に見えるよう。
 一瞬ばかり、敵の視線がそちらに釣られた。その間に白とカッツェ、アイリスにシエラシセロが真横を通り過ぎていったが、魚の牙は間に合わず。そして大熊猫の意識は早くも、狐の獣人を叩き伏せることに埋め尽くされていた。
 くぐもった唸り声を漏らして、片手に持った大剣を振るう。技量や技術などと無縁の力任せな一振りが、嵐を引き起こさんばかりに大気を薙ぎ払いながら芳尾に襲いかかる。
「うぉっ!」
 足下から掬い上げられるような感覚に驚いた直後、咄嗟に抜き放った愛刀『「嵐景」正守』 が、鉄骨みたいな剣を間一髪のところで押しとどめた。
 だが、衝撃までは打ち消せない。竜砲弾を喰らった魚よりも派手に吹き飛ばされた芳尾は、舗装路を遥かに飛び越えて湿原の中に落ち、内臓が液状化しそうなほど転がりまわってようやく止まる。
「……っはぁ! おいおい、勘弁してくれよご先祖様……!」
 こんなものが直撃したら、武器どころか食器も握れなくなりそうだ。正気の沙汰でないとはいえ、同族の誼みで少しは加減してくれないものか。
 なんて考えている間にも、大熊猫の戦士は大剣を引きずって迫りくる。芳尾は体勢を立て直し――その前に、朔夜が無骨な鉄塊剣を構えて立ちはだかった。
「すぐ、解放してやる」
 金の瞳で敵を睨めつける。大熊猫の目は酷く虚ろで、己の意志など持たぬように揺蕩っていた。
 しかし剣撃の力強さは、そこから想像できないほどのものだ。しっかりと鉄塊剣を握り直す朔夜に、芳尾を一蹴した薙ぎ払いが繰り出される。鉄の塊同士がぶつかりあって、耳をつんざく激しい音が響いた。
「……温い」
 まだ反響する金属音の中に、朔夜が呟きを混ぜる。
 じりじりと痺れる左手に強い意志を添えて大熊猫を押し返し、右手を模る地獄の炎を燃やして腕力のみで振りかざす。
「――剣の使い方を教えてやるよ!」
 斬るではなく殴りつけるというべき、重い一撃が大熊猫の頭を弾いた。空虚な目を収める強靭強大な肉体が、ぐらりと揺れる。
 その瞬間、大熊猫の唸り声が僅かに大きくなった。ただ漫然と人を殺すために進んできた死者に、明確な『目標』が定まったような。
 作戦の成功をにわかに感じて、しかし朔夜は、気を引き締める。猛獣を引き受けた所で、扱いきれなければ意味がない。
 ……と、いつの間にやら大熊猫の大剣に、絡みついているものがあった。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ」
 尊大な老人のような笑いが、少女の声で響く。
「うむ。やはりパンダの者には、そんな物騒な物よりこっちの方がお似合いなのじゃ」
 僅かな隙を突いて大剣に笹を巻きつけたウィゼは、敵を前にしても物怖じすることなく窘めるように言った。
「パンダの者よ、同胞のねむおねえも心配しておったのじゃ。再び安らかな眠りにつくとよいのじゃ」

 一方で、大熊猫をやり過ごしたケルベロスたちは魚に殺到していた。
「行くっスよ!」
 舗装路に擦り付けたエアシューズを燃え上がらせて、白が強烈な蹴りを魚の土手っ腹に叩き込む。
 炎は足から魚へと乗り移って更に盛る。冥府の海から直接引きずり出したような呻き声を漏らし、魚は悶えつつも白の足に喰らいついた。
 さすがに顔が歪む。鋭い牙の喰い込んだ部分から、魂が吸い取られていくようだ。
 しかし、それでいい。白が庇うことで、誰かが全力で攻撃できる。
 そして程なく訪れたのは、北の地から力を借りたような氷結の螺旋。幻影を纏いながら近づいた、カッツェが撃ち出したものだ。
「あー、違う違う! 魂を吸うときはこう……まぁいいや、すぐ消えちゃうのに教えてもしょうがないし」
 炎と氷が共存する奇怪な光景を前に、カッツェは嘆息を漏らす。
 そこへふわりと、優しい香りを漂わせるシエラシセロの足が伸びて、魚を一息に消し飛ばした。
「攻撃は最大の防御ってね! 次、行くよ!」
「任せて任せてー!」
 一気呵成に攻め立てるケルベロスたちの士気をより高めるため、アイリスは色とりどりの爆発を起こして、背を煽る。

「お仲間が焼いて捌かれちまったぜ」
 放ち続けるオウガ粒子が細氷のように降るなか、爆風に乗って此方へ戻ってくる仲間たちを見やり、芳尾がせせら笑う。
 しかし魚は動じる気配も覗かせず。大熊猫は笹に覆われた剣に代わって、四肢の全てを武器に朔夜を叩き潰そうと暴れ狂っていた。
 肉体を覆うオーラと鉄塊剣を頼りに何とかいなして、それでも身体を捉えた拳が、朔夜を枯葉のように浮き上がらせる。
 だが、それも織り込み済みだ。宙で靭やかに何度か回って路に降り立つと、足元には真白の雪狼が姿を現した。
「凍りつけ」
 主の言葉と同じ温度の視線が、雪狼の蒼白い眼から放たれる。ぴくりと、僅かに身体を震わせて大熊猫が動きを止めると、すかさず空から光の翼が降ってきた。
「アイドルはチャンスを逃しません!」
 ジャージに包まれた足が大熊猫を蹴りつける。逞しい獣人の背を踏み台にしてから着地して、レピーダは満面の笑みを向けた。
「キュッキュリーン☆」
 ――決まった。
「うーん、50点」
「えぇっ!?」
 まさかの低評価に振り向けば、カッツェが鎌を担いで笑っていた。抗議してみるも右から左。
 無論、真面目に点数を付けたわけではない。軽口を叩いてしまうくらい、カッツェは楽しくて堪らないのだ。
 跳ねるような足取りで、残る魚の元へ。
「準備万端、しっかり中まで火を通しておいたのじゃ」
 どうだと言わんばかりのウィゼ。その足から移された業火が、魚を包んでいる。
「お前は犬と猫、どっちに喰われたい?」
 のたうち回るも、白が放出する霊力の網で絡め取られた魚に、蒼黒二振りの大鎌を見せてカッツェは問いかけた。
 しかし答えるわけもなし。答えを聞く気があるわけでもなし。
「まぁ魚って言ったら猫かも知れないけど? ……それじゃあ面白くないよね!」
 黒猫の名を持つ黒鎌を放り投げ、虚の力を目一杯込めた蒼鎌――番犬こと『Kerberos' Scythe』を両手で握りしめて振り下ろす。
 欠片ほどの慈悲もない惨たらしい一撃は魚を串刺しにして、その身に蓄えていた力全てを奪い取り、主に捧げた。
「……あぁ、この吸ってる感じが……最っ高!」
 己の手によって不死たるデウスエクス――それも生命の死を司る冥府の海から来た死神を、殺す。
 これに勝る幸福が、快楽が、この世にあろうか。

●葬送
 オウガ粒子、色鮮やかな爆炎、合間を縫うように飛ぶウィゼのヒールドローン。
 あらゆるものに力を引き出され、ケルベロスは死者を送り返す為に戦い続ける。
「――せめてもの手向けに、この技で相手をするっス。みんな、出てくるっスよ!」
 白が声を張る。すると何処からか、様々な動物たちが姿を現した。
 シベリアンハスキー、ペンギン、シマウマ、ホワイトタイガー、ツバメ……パンダこそ居やしないが、どれもこれも白黒の生き物ばかりだ。選りすぐっているなら、よほど白黒に拘りがあるのだろう。
 主人の号令一下、獣たちは己の武器となるものを使って次々に攻撃を仕掛けていく。
 噛み、裂き、突き、蹴り。雪崩のような猛襲を耐え抜く大熊猫。その身体が、不意に頭二つ分ほど沈んだ。
 ふぉ、ふぉ、と笑いが聞こえる。小さくとも力強いドワーフであるウィゼが、敵の機動力を奪うため種族特有の大地すら砕く一撃で足下を崩したのだ。
 次いで朔夜が、もう一度雪狼を呼び寄せる。それを見計らって、カッツェが真後ろから襲いかかった。まだ餌を与えていない黒鎌を、首を刎ねるように振るう。
 しかし大熊猫も、やられてばかりではない。首元に喰い込んだ刃を掴んで引き剥がし、先に引っ掛かっている持ち主を思い切り殴りつけた。
 二、三度跳ねて転がるカッツェ。アイリスが駆け寄って傷を癒やす破壊のルーンを与えてやるが、それを受けて立ち上がった少女は妖しく笑ってぽつりと。
「痛いなぁ。これで君の意識が少しでもあれば、もっと楽しめたのに……」
 まるで効いてもいないかのように呟いた。
(「……こわいこわい!」)
 仲間と言えど流石に慄いて、アイリスは後ずさる。
 大熊猫もそれを見ていた。そして芳尾に、咎められる。
「余所見してちゃいけねェな?」
 声に振り向くより早く、雷の力を帯びた十手が蜻蛉のように飛んで突き刺さった。
 ぐらつく巨体。その懐にシエラシセロが入り込み、禍々しい光を放つ双子鳥から変じた籠手で覆われる掌を、押し当てる。
 不意に小さな羽音が聞こえた。深く重い衝撃が身体を抜けて、死者はついに倒れる。
「笑顔を力に、力を輝きに! 輝きに飲まれて、お休みください!!」
 最後にとびきり純粋な笑顔をレピーダが向けると、大熊猫は剣を墓標のように残して消えていった。

 戦士の名残を供養して、戦いは終わった。
 豊潤な北の大地は二度目の死すら受け止め、獣人を安寧に導いてくれるだろう。
 しかしどことなく心に残る無念。それを晴らすべく、彼らはまた新たな戦地へ赴く。
 だが、その前に。
「ねむおねえにも、報告せねばの」
 かつての同族を案じていた彼女にも安らぎを。
 ウィゼは迎えに訪れたヘリオンを眺めながら、何と伝えるべきか熟思を始めるのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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