アポロン暗殺作戦~強襲、流浪の蟻国

作者:白石小梅

●アポロン暗殺作戦、発令
「皆さん。我々は遂に太陽神アポロンとローカストの残党が集結している拠点を発見いたしました」
 望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)の目は鋭く、居並んだ番犬たちを見回した。
「飢餓ローカストの事件に向かった御子神・宵一(e02829)さんらの調査活動が実を結んだのです。我々はここに、アポロン暗殺作戦を開始いたします」
 まず全体の概要を説明する。そう言って小夜は資料を提示する。
「太陽神アポロンは急造の神殿を拵え、そこに籠もっています。残存の有力氏族が、それぞれ神殿を囲むように布陣。しかし極限に達した兵糧不足のため、哨戒は疎かになっています。そこを突き、アポロン神殿を強襲。太陽神アポロンを暗殺いたします」
 種族の支柱であるアポロンを撃破すれば、ローカスト・ウォーの効果も消える。組織としてのローカストは崩壊するだろう。
「もちろん、神殿には強大な護衛が居るでしょう。また襲撃があれば当然、周囲の有力氏族は援軍を出します。無策では挟み込まれて全滅するだけ。そこで三つの大部隊を編成します」
 第一に、最大戦力を要する『太陽神アポロン暗殺部隊』。
 それを中心に『神殿護衛の対処部隊』と『有力氏族の陽動部隊』をそれぞれ編成。敵の援軍を阻止しつつ、必殺の突撃を行うのだ。
「これは全部隊の連携が必要な、暗殺任務です。全員が、アポロンに対する刺客であると心得てください」
 
●亡国、再興の希望
「では、詳細を説明いたします。皆さんの担当は『狂愛母帝アリアの氏族の陽動』。殲滅の必要はありません。増援の阻止に傾注してください」
 小夜の目が、一段と厳しくなる。ここより先は、修羅の道だ。
「アリアの氏族はゲート発見時に主力部隊を潰された分、先の戦争では損耗が少なく、現状、ローカスト残党における最大勢力。神殿護衛隊と同等の戦力を有すると目され、陽動には皆さんの他に二部隊……計三部隊を要します」
 敵はまだ、それだけの兵力を有している。
 だが、グラビティ・チェインの枯渇は深刻で、神殿から少し離れた場所に構築した蟻の巣状の拠点の周囲には、飢餓寸前の働き蟻たちがぐったりと倒れ込んでいる有様らしい。
「この状況を哀しみ、アリアの娘であり次代の女王『慈愛幼帝アリアンナ』が度々、巣から出て慰問を行っています。皆さんはこの時を狙い、アリアンナを襲撃してください」
 資料にあるのは、愛らしい蟻の少女ローカスト。
 幼子を狙え、と? 番犬たちの顔が上がる。
「次代の女王が狙われているとなれば、アリアの氏族はアポロンの援軍要請など無視し、全力で守ろうとします。確実に増援を阻めるのです」
 ここからは現場判断になりますが、と、小夜は前置きして。
「まず襲撃後、アリアンナの撤退を許すのが一手。そのまま拠点入り口に展開し、出撃してくる敵を蹴散らしてください。援軍など出して戦力を分割すればアリアンナが再び狙われる危険がある……敵にそう思わせ、拠点防御を固めさせるよう仕向けられれば、作戦は成功です」
 すなわち、激しく攻めたてて敵を籠城に押し込む策。
 そして次は、強襲時にアリアンナを暗殺した場合だ……。
 
●亡国、二本の支柱
「姫君、死す。その報を聞けば、復讐に燃えた蟻の軍勢は命令などかなぐり捨てて追撃を掛けてくるでしょう。命懸けの撤退戦となります。非常に危険な賭けですが、大きなリターンも期待できます」
 まず混乱を利用して、女帝アリアと英雄アリオスの撃破チャンスを作れる可能性がある。敵をかく乱して大将を孤立させ、殺害するのだ。
「無論、女帝夫妻の強さは並ではありません。単独部隊での撃破は不可能。複数チームで襲い掛かれる状況を作ることが必須。三チームの完璧な連携と戦術の冴えを要します」
 これは、リスクもリターンも最大となる賭け。
「また別の選択肢として。三チームを撤退部隊と別動隊に分け、撤退部隊が敵を引きつけている内に拠点内部を探索するのも一手です。戦力を分散することになりますが、有益な情報が得られるかもしれません」
 何が得られるかはわからず、追撃も熾烈。こちらもまた、危険な賭けに違いはない。
 
 小夜は改めて皆を一瞥する。
「以上。色々話しましたが、皆さんの選択が作戦全体と、今後を左右します。これ以上の犠牲を出さぬためにも太陽神アポロンの暗殺だけは絶対に成さねばなりません。皆さんの決断を、私も信じます」
 出撃準備を、お願い申し上げます。小夜はそう言って、頭を下げた。


参加者
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
夜殻・睡(虚夢氷葬・e14891)
荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)

■リプレイ

●慈愛の子
 姫君はやって来る。餓えて座り込んだ蟻人たちの所へ、悪戯娘のように。
「みんな、見回りお疲れ様。今日はこっそりキャンディを持って来たの。一緒に食べましょう」
「アリアンナ様。こちらに来ては……」
 姫君は優しく遮って、皆に飴玉を配り始める。
「今日はお父様から教わった、素敵なヒーローのお話をしてあげるわ。じゃあ、『とくむせんたい・いんせくたー』の始まり始まり……」
 姫君は皆を集めて物語る。
 餓えながらも希望に溢れた瞳で、今はいない英雄たちの物語を。
「さあみんな、泣かないで。次は『やさしくてつよい・くわがたさん』のお話をしてあげるからね」
 姫君は未だ知らない。
 その物語の結末を。
 蟻たちが、涙を流して聞き入るその理由を。

 今、一つのお伽噺が、終わりの時を迎えつつある……。

●強襲
「……」
 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)が、オルトロスのアロンと共に押し黙っている。
「働き蟻は、十匹程度。あの様子なら難なく抜けるわ。ただ、携帯は圏外だし、無線も通じなさそう……敵の拠点だしね」
 リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が語る言葉も、僅かに沈む。先行して様子を伺って来たリモーネ・アプリコット(銀閃・e14900)が、舞い戻って。
「巣の入り口は一か所のみ。かなり大きなもののようです」
 頷き合った八人。
 恐らく残りの二班も同じように、沈黙の重さを感じているだろう。
 だが今は行くしかない。
 蟻も。番犬も。
 その未来は、黒い太陽が堕ちた先にしかないのだから。

 突入の合図となったのは雷撃だった。
 A班から放たれた稲妻が蟻たちの脇を吹き飛ばし、姫達が硬直する。
 左翼担当C班と位置づけられた八人は、残り二班の仲間と共に草むらより躍り出た。
「ケ、ケルベロス……!」
 それぞれの班が名乗るのに合わせ、こちらは豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)がウォンテッドで作ったアリアンナの手配書を見せて口火を切る。
「ケルベロスだ。童話みたいに働き者の無害なアリさんならいいけど……君たちはそうはいかない。これ以上被害を出さないよう、討伐に来た」
 夜殻・睡(虚夢氷葬・e14891)が、続いて刀に指を掛けて。
「抵抗しないならいい。けど、手向かうようなら……倒させてもらう」
「し、襲撃だ! アリアンナ様を……」
 番犬と蟻。騒然としつつあった場は、しかし一瞬で静まり返る。
 両者の間に、手を広げて仁王立つ、小さな影を認めたから。
「お願い……みんな、殺し合わないで!」
 膝を震わせて、姫君は立つ。
 猫に姿を変えて様子を見ていたキアリが、思わず足を止めた。
 アリアンナの目には、こちらの強さが見えている。彼女に、勝ち目は全くない。その自覚がありながら、彼女は闘いを止めようとしたのだ。
 荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)が、いたたまれない気持ちをぽつりと漏らす。
「確かに、無用な殺傷はいけません……犠牲が少なく済むと良いですね……」
 それ自体は、正直な気持ち。しかし、こちらが退くわけにはいかない。
 他の班の威嚇に合わせて、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)がにやりと笑ってかまをかける。
「そうそう。恨みこそないけど、いるだけで脅威になるなら……ここで終わらせるのも手だよね? 犠牲が一番少なくて済む」
 ちきりと起こした撃鉄の音。アリアンナは震えつつ、ぎゅっと顎を引いた。撃たれてもここをどかぬとばかりに。
 その姿に身を奮い立たせたのは、周辺の蟻たち。最後の力を振り絞り、姫君を抱きかかえて走り出す。
「撤退だ! 敵襲を報せろ! アリアンナ様の盾となれ!」
 闘っては駄目だと喚く姫を中心に、肉の盾と化した蟻たちが逃げていく。
 ほっと胸をなでおろし、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が叫んだ。
「よし、行くよ! C班、追撃開始!」
 適当な攻撃で威嚇を繰り返し、蟻たちは追い立てられていく。
 こうして戦端は、開かれた。
 少なくとも、蟻たちはそう思っただろう。

●迎撃
 弱った蟻たちの足は遅い。だが本人たちは死に物狂いで逃げていて、こちらの手加減に気付く様子はない。
 転機は、報せを受けて巣穴より出撃してきた三体の騎士と共に訪れた。
「騎士様!」
「そのままアリアンナ様を中へ! ここは我々が!」
 騎士は働き蟻たちと入れ替わりに走り込み、雄叫びをあげてそれぞれの班に飛び掛かった。
 こちらから飛び出したのは、睡とキアリ。
「騎士か。でも三体。八人に対して一人ずつ。つまり、時間稼ぎか」
 馳せ合うと同時に、睡の抜き銅がもろに入る。氷の白刃は儚くも消え去り、甲冑の上からその傷を凍てつかせる。
「ぐ、う! 例え、命に代えても!」
「死を覚悟して、お姫様を逃がすつもり? でも、攻撃してくる……なら」
 容赦をするわけにはいかない。
 キアリの螺旋の氷結が射ち込まれ、アロンの刃が足を裂く。
 突撃の勢いもすぐさま殺され、三体の騎士はそれぞれの包囲される。
 リリーと姶玖亜が、視線を合わせて。
(「明らかにこいつらは時間稼ぎ……姫君を収容して守りを固めるつもりね。思惑通りだわ」)
(「だがまごつけば、増援を出されるかもしれない。前の戦いでアポロンを取り逃がして、やっとここまで来たんだ。次はないかもしれない。やるべきことを、確実にやろう」)
「ええ。敵が一人なら、回復は私だけで十分! 強制魔術執刀、開始!」
 頷いた姶玖亜が飛びだし、ヴィルフレッドがそれに続く。
「同感だね……今は攻撃あるのみ。それが一番の防御だ」
 降り注ぐのは、二重の制圧射撃。
「う、おぉお!」
 銃弾の雨の中、騎士は体内のオウガメタルを呼び起こし、鎧を修復する。だが。
「分断包囲されては、ヒールも焼け石に水ですね。前哨戦に時間を掛けている暇はありません」
 背に回ったリモーネの絶空斬が肩を裂き、その顔面にばすてとさまが飛びつく。同時に、綺華のロッドが足をすくって。
「……勝ち目はありません、騎士さま。手を引くならば、命までは取りません。お戻りください」
 アリア騎士は、がむしゃらに槍を振り回して前衛を突き崩そうとする。勝ち目はなくとも、少しでも時を稼ごうという試みか。
 転機になったのは、一気呵成に騎士を押し返していたB班へ、A班から入った援護。オルガ・ヴィヴァルディの気咬弾。
「あんた達に用はないのよ。寝てなさい」
 脇からの一撃に騎士蟻が見せた隙に、B班連絡役の綺羅星・ぽてとが突貫する。
「ここは私のステージ! 舞台に立った偶像は無敵よ!」
 そこに合わせるのは、シルディ。
「合わせるよ! こんな闘いはこれで終わりにしてみせる!」
 かつて交わした共存の約束には、まだ遠い。だが、それでも。
「これが第一歩になるって、ボクは信じる! これで退いて!」
 シルディの轟竜砲が、綺羅星のステージに重なり合う。
 三重の衝撃はB班と対峙していた騎士の一人を吹き飛ばした。
「……!」
 あまりに鮮やかな連携に、残りの二体が一瞬、立ち尽くす。
「ひ、退け! 十分だ!」
 二体の騎士蟻はぐったりした仲間を抱え……逃げ込んだ。
 番犬たちの前に開いた、巨大な大穴。
 いや、その周囲に積み上がった、無数の土塊と岩の拠点の中へ。

●攻城
 C班は、作戦通り左翼へと陣を進める。
「騎士蟻が退いたのは……時間を稼ぐ任務が終わったから、か」
 ここまで追い詰められても諦めない強靭さに、リリーがため息を落とす。
「前々からこういう事態に備えてたんだろうけど……やれやれ。あれを踏み越えるのは骨が折れそうだ」
 姶玖亜の言葉は、本音半分といったところだ。
 逃げ込んだ騎士蟻を収容した岩の隙間から僅かに見えるのは、忙しく動いている働き蟻たち。すでに急造のバリケードは完成していた。
「しかし、全力であれを組み立てていたなら、増援に向かう暇はなかったはず。ここまでは予定通りです」
 リモーネの言う通り。後はここに敵を釘付けにするだけ。
 頷いたヴィルフレッドが、前へ出る。
「じゃ、せいぜい中で怯えていてもらわないとね……さて! アリの巣を水責めじゃなくて手榴弾で潰すなんて中々できない経験だ! ……それ、プレゼントだ!」
 ばら撒いた無数の手榴弾が、小山に向けて降り注いだ。すぐさま遠距離グラビティが集中し、そこは射撃戦の様相を呈した。中の働き蟻たちは壊れた個所を修繕し始め、時に投石で反撃する。
「実際に巣に踏み込む気はないから……ここでこうして膠着してるといいんだけどな……」
 睡の放った氷に、簡易の要塞はみるみる崩れ始める。
 濃密ながら無意味な時間。
 だが。
「出撃する。どいてくれ」
 それは、膠着した戦線を引き裂く、低い声。
 瞬間、半ば残骸と化していたバリケードは吹き飛ばされた。
 その中央に立つのは、黒い英雄。
 後ろに、万全の態勢を整えた騎士六体を引き連れて。
「アリオス……!」
 そう呟いた誰かの声が響くと同時に、アリオスの姿はかき消えている。黒影は、中央のB班へと躍りかかっていた。
 呆然とする間は、ない。
「騎士蟻が来るよ! 数は二体!」
 遠隔爆破を放って、シルディがそう叫ぶ。
 風のように駆け抜けたアリオスの背後で、六体の蟻は二体ずつに分散し、三方に突撃する。爆破を踏み越えて躍りかかる騎士から仲間を庇って、シルディはぶつかり合った。
「さっきの時間稼ぎの蟻とは、気迫が全く違う! 気をつけて!」
 それを聞くと同時に、リモーネの体は瞬間的に踏み込んでいる。月を断ち切る剣閃で、もう一体の騎士と馳せ合う。
「精鋭、ですね。いいでしょう。あなたたちなら、全力で打ち合えます……!」
「ああ……でも、のんびりやってる暇はないよ。手強い旦那様のお出ましだ……! こいつらは速攻で片付けないと!」
 姶玖亜のメタリックバーストが輝き、それをリリーの紙兵散布が追う。
「二体なら、倒せない相手じゃないわ! 急いで! あっちは、まるで暴風よ!」
 長期戦に備えて前衛を支え抜く布陣を取ったC班は、疲労の色は見えつつも戦力は健在。
 だが隣では、アリオスが音も無い雷鳴のようにB班の布陣を裂き、二匹の騎士蟻がその後を追ってB班に襲い掛かっている。
「確かに、あんな化物をここから解き放つわけにはいかないな。攻囲を狭めて、押し返すんだ……!」
 ヴィルフレッドの陽光を背に、全身するのは綺華。
「ええ。行かせはしません……! 前に出ます」
 ばすてとさまとアロンを率いて、突撃してくる騎士をいなす。
 押さえの後ろから、睡の念の爆発とキアリの火炎の弾丸が、騎士蟻を押し返した。
「時間は結構経ってる。もうそろそろ、援軍には間に合わなくなるはずだ」
「でも連絡は……難しいんだよね。もう少しだけ……抑えないと」
 守りつつも前進するC班。ついに騎士蟻たちはじりじりと後退を始める。良く見えないが、右翼であるA班の戦闘音が近づいてくる。向こうも敵を押し込んでいる様子だった。
「B班、戦闘不能が二人! もうもたないよ!」
 シルディが叫び、八人は反転の構えを見せた。
 A班はそのまま巣の中へ騎士蟻を押し込む勢いを見せる。
 そして英雄の瞳は、それを見逃しはしなかった。
「中央は、もういいだろう。任せる」
 その言葉と同時にアリオスは跳躍した。C班と、騎士蟻の間に。
「……!」
 黒い風の如く現れ、英雄は敬礼するように剣を下げた。
「我が名は、アリオス」
 そしてその翅が、大きく広がって。
「来ます! 下がってくださ……!」
 綺華の声が、爆風のような衝撃に裂かれた。音が飛び、それに呑まれたアロンとばすてとさまがかき消える。
 滲む視界の中、無理矢理に焦点を合わせると、勢いを盛り返して突進してくる騎士蟻の姿が目に映る。
 綺華は、最後の力でその突撃に立ちはだかった。
(「これからを生きるあなたたちのために祈りましょう……蝗の王から解放された者たちの未来に……祝福あれ」)
 血が跳ね飛び、小さな体が倒れる。
 シルディが、綺華の名を叫びながらもう一体の騎士と揉み合う。
 連戦に次ぐ連戦。
 リリーと姶玖亜の癒しは全力で前衛を支えているが、ダメージは深く蓄積しており、氏族長級の攻撃の前には敵わない。
(「限界、だな。でも、一矢も報いないわけにはいかないよね? そうだろ?」)
 ヴィルフレッドの木の葉が、舞っている。その援護の中、落ち葉を散らして跳躍するのは……リモーネ。
(「アポロンはもう終わりです。願わくばその暁には、あなたたちとも……」)
 騎士の頭上を踏み越えて、英雄と乙女の瞳が、交錯する。
 今は互いに、一介の戦士として。
 待ち受ける英雄は、全てを了解したかのように、手を広げた。
「参ります。蟻の英雄」
 一閃が、迸った。
 雷鳴のごとき突きは、確かにアリオスの胸倉に突き立ち、そして……。
「……!」
 血の滴る黒い手が、その刃を掴んでいた。貫き通す寸前で。
「よくわかった……番犬たちよ」
 漆黒の一閃が、リモーネの意識を両断した。

●撤退
 その後、アリオスは踵を返し、今度はA班の元へと跳躍した。
 唯一、優位を保っていたA班の勢いもみるみる削がれていく。
「時間は稼いだ。攻囲を解こう」
 睡が、静かに言う。
 戦闘不能は二人。だが、A班、B班ともに同様の犠牲を出している。もはや包囲も遠巻きになり、三部隊に攻撃を継続する力は残っていない。
「二人は無事よ。ただ、もし追撃を受けたら……」
「耐えきれるかは……ぎりぎりの賭けだね」
 綺華とリモーネは、すでにリリーと姶玖亜が担ぎ上げていた。
「もう十分だよ! みんな、撤退しよう!」
 シルディが叫ぶ。三部隊は声を掛け合い、潮のように退いていく。
 張り上がる、鬨の声。
 騎士蟻たちは頭数こそ減らしても突撃の構えに槍を並べ、B班からは金髪の戦乙女が殿に進み出る。
 これより始まるのは、苛烈な追撃。熾烈な撤退。
 だが。
「……!」
 それを止めたのは、英雄の手。
「逃れてきた者たちを見た時は半信半疑だったが、剣を交えてわかった。お前達はアリアンナを殺すつもりは無かったのだと。ならば我らも、命は取るまい」
 アリオスは騎士たちに撤収の指示を出して、言う。
「行くがいい……」
 呆然とする騎士蟻と番犬たちに背を向けて、蟻の英雄は燃ゆる瓦礫へ身を翻した。
 飛びだすように叫んだのは、キアリ。
「アリオス! 私、彼女と……! アリアンナと、友達になりたい! きっと……きっと!」
 英雄は背を向けたまま。炎に煌めく黒い目に、如何なる感情が宿っているのか。それはわからない。
 ヴィルフレッドが、その肩を押さえて。
「行こう。ここにはまだ、彼ら以外にも敵がいる」
 一瞬の交錯の後、番犬たちは撤退する。

 アポロン暗殺作戦、アリア氏族陽動戦は、幕を閉じた。
 撤収の道中、番犬たちは知ることになる。
 黒き太陽の落日を……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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