山間部で発生した飢餓ローカストの襲撃事件も、無事に解決を終えられた。
その後、御子神・宵一(e02829)を含めた多くのケルベロス達の調査活動により、太陽神アポロンとローカストの残党が集結している拠点を発見することができた。
「本当にみんな、よく頑張ったね。ここまで来ればもうひと押しだよ」
玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)はケルベロス達に労いの言葉を掛けながら、今回実行する作戦の説明に移る。
ローカストの拠点は、太陽神アポロンが住む急造の神殿らしき建物の周囲を、有力なローカスト氏族が取り囲むように布陣している。しかしグラビティ・チェインが枯渇している影響か、周囲への警戒は疎かになっているようだ。
この隙を突いてアポロンの神殿に直接攻撃を仕掛ければ、太陽神アポロンを暗殺することも充分に可能な状況だ。それに太陽神アポロンを仕留めればローカストウォーの効果も消える為、ローカスト達の組織は破滅の一途を辿ることになりそうだ。
但し、神殿には有力なローカストの護衛が居る可能性が高い。また、神殿が襲撃されれば周囲のローカスト達も援軍を出そうとする筈である。
「そこで三つの作戦を同時展開して、太陽神アポロンを倒すのが今回の作戦なんだ」
その三つの作戦とは、まず中心となるのが太陽神アポロンを暗殺する部隊。そして神殿の護衛に対処するチームと、周辺の有力ローカストを牽制・足止めするチームがそれぞれの敵を引き付けて、暗殺する部隊を補佐するといった内容だ。
作戦には各チームの協力が不可欠であり、互いが役割を確実に果たせれば、任務を成功に導くことができるだろう。
「今回キミ達には、有力ローカストへの陽動作戦を仕掛けてほしいんだ。それで、戦う相手となる敵なんだけど……」
その敵の名は、スコルピア・ヴェノム。黄道十二星座の星辰を宿した、強大なデウスエクス集団『光導十二神将』の一人だ。
戦闘力はドラゴンとも対等に渡り合えると言われる程で、アポロンの覚えもめでたく、古強者の精鋭ローカスト達からも一目置かれる実力を秘めている。
だがそんな彼女が束ねているのは、寄せ集めばかりの雑多な弱小ローカスト軍団だ。しかも配下は限界までグラビティ・チェインを搾取されているようで、とても戦力として数えられたものではない。
「どうやらそういう状態らしいから、スコルピア・ヴェノムに戦いを挑み、アポロンの増援に向かわせないようにするのがキミ達の目的になるよ」
つまり、戦闘ではスコルピア・ヴェノムだけに集中し、戦力にならない配下達は放置しておいても問題ないという訳だ。
しかし、ローカストの中でも特に強力な個体である彼女と戦えば、こちらも大きな被害は免れない。撃破まで狙うには困難とも言える難敵である。
スコルピア・ヴェノムと太陽神アポロンのいる場所は、幸いにして距離が離れている位置にある。よって作戦開始から10分程度足止めすれば、当面の目的は果たせるだろう。
敵の攻撃方法は、蠍のローカストらしく毒を操る攻撃を得意としている。
閃光の如く放たれる闘気は多数を纏めて薙ぎ払い、その身に宿した星辰の力は加護を授けるとされる。更に細身の星剣から繰り出される秘剣『蠍の刻印』は、破壊力が段違いに凄まじく、戦闘において特に脅威となりそうだ。
――永きに渡るローカストとの戦い。太陽神アポロンを追い詰めている今の状況は、敵将を討つ千載一遇のチャンスだ。もしここで仕留められなければ、ローカストは滅亡するまで無謀な戦いを挑み続けて、更なる犠牲を生むことになる。
「この作戦は、全てに決着を付ける為の戦いになる。だからキミ達の手で……完全に戦いを終わらせてほしいんだ」
シュリは説明を伝え終えて言葉を結ぶと、真剣な眼差しでケルベロス達を見る。
一つたりとも失敗の許されない過酷な任務だが、彼等なら必ず成し遂げられる。
そう信じて願い、戦地に赴く戦士達の武運を静かに祈った――。
参加者 | |
---|---|
ティクリコティク・キロ(リトルガンメイジ・e00128) |
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026) |
カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084) |
ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306) |
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258) |
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108) |
柚野・霞(瑠璃燕・e21406) |
佐竹・駒(ケルベロスの人間離れ・e29235) |
●作戦血行
ローカストとの戦いも大詰めとなり、ケルベロス達はアポロンへの暗殺作戦を決行する。
「どれほど輝いたとしても、沈まぬ太陽などないからねえ。さて、こちらは夜天に輝く蠍の星を落としに行こうか」
敵の拠点を前にして。メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)が飄々としながらも、意を決するように呟いた。
作戦の一翼を担う八人のケルベロス達。彼等に課せられた使命は、アポロン臣下の一人である『スコルピア・ヴェノム』を足止めすることだ。
「10分が目安だけど、可能な限り稼ごう。……倒したって構わないんでしょ?」
物陰に隠れて様子を伺うティクリコティク・キロ(リトルガンメイジ・e00128)。
相手はドラゴンとも渡り合える程の難敵だ。それを八人だけで迎え撃つことの危険さを、ティクリコティクは十分熟知している。しかしだからこそ、より成果を求めるだけの気概が大事だと。古びたナイフを握る手に力を込めた。
「光導十二神将の蠍座……似ている、けど違いますね。私の地獄は疼かない……」
蠍座を冠する敵と聞き、カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)は妙な胸騒ぎを覚えたが。思い当たる相手とは違ったようだ。
けれどもこれも何かの縁だと思い直して、襲撃を行うべく気を引き締めながら身構える。とは言え小細工が通用する相手では到底ない。ならば正面から堂々と強襲するのみと。
「ようやく邂逅できたワね。光導十二神将!」
敵の注意を引き付けるように、ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306)が高らかに叫ぶ。
「我が名は黄道十二騎士が一角。蠍座の騎士、ドローテア。師より継いだ意志と我が剣に賭け……貴女を討つ者の名を、その身に刻むといいワ!」
名乗りを上げて、スコルピアに蠍座の星剣を突き付けるドローテア。されど蠍の女帝は、彼女を意にも介さず、独り言ちるように言い捨てる。
「これまで星の数程倒してきた者達を、覚えている物好きではないのでな」
素気無くあしらわれ、ドローテアは憤りで身体を震わせる。そんな彼女を宥めるように、茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)が軽く肩を叩いて囁いた。
「先の戦争ではゆっくりツラも拝めなかったと伺っておりやす。折角の邂逅でさァ、どうぞご存分に、マダム」
着流し姿の女侠は努めて冷静に。右眼に地獄の炎を灯して、討つべき敵を確り見据える。
「さぁ、一時の逢瀬、お付き合い頂きましょう……!」
威勢よく真っ先に飛び出したのは、旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)だ。
戦闘を快楽とする彼女であっても、命を軽んじ道具としか扱わない、アポロンの非道な行為を許せずにいた。この戦いで全てを終わらせる為、先ずは蠍の女帝の足止めに専念する。
「……貴女は確実にここで仕留めさせて頂きます!」
竜華が念じる八岐の鎖が、スコルピアに巻き付き締め上げる。次いで柚野・霞(瑠璃燕・e21406)が竜の幻影を創り出し、炎の息吹で包み込む。
「光導十二神将がいくら強いといったところで、デウスエクスには変わりありません。私達なら、きっと倒せます!」
仲間達を鼓舞する霞の言葉は虚勢を張っているだけかも知れないが、時間稼ぎが目的だと察知されない為の誇張でもあった。
「丁度退屈していたところだ。暇潰しに付き合ってやろう」
十二神将が相手だろうと恐れず立ち向かう番犬達に、女帝がその力の一端を見せる。
星の力を宿した剣を振るえば、巨大な白い蠍のオーラが現れて。飛び掛かる番犬達を次々に薙いでいく。攻撃を受けた者は蠍の毒に冒されてしまい、次第に身体を蝕んでいく。
「そうはさせません……! すぐにその毒を浄化します」
回復役の佐竹・駒(ケルベロスの人間離れ・e29235)が、白い翼を広げて癒しの光で仲間を覆い、清らかな温もりが禍々しい邪気を消し祓う。
「皆を支えるのは私達に任せてもらおうか」
もう一人の癒し手、メイザースが紳士然とした様子で攻性植物に命じると。薄青の時計草から光が溢れ、時の流れを進めるように、毒への耐性能力を引き上げる。
戦いはまだ始まったばかりだが。この10分間は、短いようで果てしなく長く思えることになるだろう――。
●10分間の死闘
「どうした? かかってこいよ、腰抜け!」
ティクリコティクがフラスコに納めたブラックスライムを、スコルピアに叩きつけるように投げ放ち。罵声を浴びせて意識を自分の方へ向けさせる。
「良いだろう、貴様も纏めて一網打尽にしてくれる」
ティクリコティクの挑発行為を受けて立つと言わんばかりに、蠍の女帝が刃を振り翳す。放たれた闘気は閃光の如く煌めいて、遍く星々の衝撃が、隕石のように番犬達を激しく打ち付ける。
「……やはり噂に違わぬ力のようですね。ですがこの程度では、まだ私達は倒れません!」
身体に走る痛みを堪えつつ、カルディアが気丈に振る舞いながら闘志を滾らせる。分厚い鉄塊の如き巨大剣を大きく振り被り、力任せの重い一撃をスコルピアに叩き込む。
「光導十二神将……何者だ、お前さん方」
敵の行動は些か不自然だ。三毛乃はそれを不審に思いつつ、攻撃を仕掛けながらスコルピアに問い質す。
「尋常のローカストとは、どうも別枠のように見受けられまさァな。アポロンの傍で何を目論んでいやがったんで?」
だが当の女帝は黙して語らず。揶揄うようにせせら笑い、不意を狙った三毛乃の射撃に反応し、瞬時に剣で弾いて受け流す。
「『小さき鍵』の名の下に、増幅の円陣よ――開け!」
霞が翠の弓を引き絞り、番えた矢が地面を射抜くとそこに魔法陣が描かれる。霞の呪文に呼応するように、六芒星の円陣が赤く眩く輝いて、仲間に更なる力を賦活する。
「こちらも互角に戦えています。この調子で行きましょう」
駒が星座を描いて加護の力を齎して、仲間の勇気を奮い立たせる。戦況はまだどちらが優勢とも言えず、ここまで一進一退の攻防を繰り広げている状態だ。
やがて戦闘開始から5分が経過した。前半を乗り切り、後は残り時間を耐え凌げば良い。
しかし敵の力は想像していた以上に凄まじく。時間が経つに連れ、疲労の色は次第に濃くなっていく。
「流石はドラゴンと渡り合うだけはあるね……。でも、ボク達の本気はこれからだよ!」
ティクリコティクが息を荒げながらも気力を振り絞り、狼のように勇猛果敢に大地を蹴って懐に潜り込み。炎の闘気を纏った両脚で、灼けつく蹴りを女帝の脾腹に炸裂させる。
「ぐっ……!?」
スコルピアから微かに呻き声が漏れ、上体がグラリと傾いた。ドローテアはその隙を逃すことなく、魔力を高める術式を起動する。
「チェイン接続開始。術式回路オールリンク。封印魔術式、二番から十五番まで解放――」
剣に宿る魔力が、切っ先の一点に集束されて強度を増していく。
「――捉えた! 秘剣、“蠍の刻印”!」
狙いを定めて鋭く研ぎ澄まされた一突きが、緋色の軌跡を描いてスコルピアの心臓を――貫くには至らなかった。
今日まで磨き上げた剣の技。その集大成とも言える奥義は、堅牢な甲殻に阻まれてしまい、僅かに亀裂を入れるのが精一杯だった。
「……嘘。アタシの剣が、通じないなんて……」
自分の力が及ばなく、ドローテアは驚きを隠せず絶句する。それでも番犬達は、攻撃の手を止めることなく攻め立てる。
「炎の華よ、咲き誇れ……全て燃えて砕け!」
竜華の鎖が炎を帯びて真紅に染まり、八つの炎鎖がスコルピアを包囲する。後は敵を串刺しにするのみと、鎖の杭が一斉に解き放たれる。ところがこの攻撃も弄ぶように払われて。炎の華は儚く舞い散り、辛うじて肩に一撃通しただけに留まった。
「先程は面白いモノを見せてもらったな。こいつはそのお返しだ」
冷淡な声色で、スコルピアの蒼い瞳が殺意を帯びる。構えた剣に星の力が渦巻いて、女帝がついに真の力を発現させる。
「――秘剣、“蠍の刻印”」
繰り出された突きはドローテアの技と酷似していたが。速度、威力、技の切れ……その何れもが、比較にならない程桁違いだった。
竜を射殺す蠍の一刺しが、竜華目掛けて迫り来る。そこへカルディアが割り込み竜華を庇い、刻印を正面から受け止めた。
「くっ……かはぁっ……!!」
刻印は防御を容易く打ち破り、カルディアの心窩を深々と穿つ。傷口は血で滲み、鮮やかな朱が瞬く間に広がっていく。
「これはいかん。我が名を以て命ず。其の身、銀光の盾となれ――」
メイザースがすかさず治癒の力を行使する。魔力を分け与えたオウガメタルを、カルディアの全身に付着させ。身を護る流体盾に変化する。
「私の『盾』は、そう何度も簡単には抜けさせない」
己の術に自信を込めて、不敵に笑みを浮かべるメイザース。更に霞も回復役に加わって、残り時間を耐え凌ごうと仲間の補助に力を注ぐ。
「1分でも長く持ってくれれば……皆さん頑張って下さい!」
霞は煌めく鋼の粒子を散布させ、仲間達の意識にある戦闘感覚を呼び覚まさせる。
「こうなりゃ全力で殺るだけだ。切り裂いてやるぞ、ズタズタにぃぃ!!」
昂る気を抑え切れず、カルディアが闘争本能を剥き出しにする。胸に揺らめく地獄が蠍座の剣に共鳴し、満ちる怨嗟が大気を震わせる。
「これでも喰らえ! ル・クール・デュ・スコルピヨン!!」
剣に宿すは敵への憎悪。肉を斬り、骨を断つ怒涛の連撃を打ち込んで。これなら手応えがあったかと思われた。
「悪くない攻撃だ。今のは少々効いたぞ」
だが現実は無情であった。確かに女帝に血を流させた。が、深手というには程遠い。
敵の底知れない強さに戦慄し、恐怖に身体を縛られ動けない。もはや抗う力のないカルディアに、再び蠍の刻印が突き刺さる。
「ここまで、か……」
口から嗚咽と共に血泡が零れ、力尽きた身体は地面に崩れ落ちていく。それでも彼女の奮闘により、時間を稼げたのも事実であった。
●光導十二神将、その脅威
「もう少し……ここでやられる訳には、いか、な……」
か細い少女の首から下げた、ロザリオが虚しく転がり落ちる。カルディアの後を追うように、霞も刻印の洗礼を受けて地に伏してしまう。
仲間がまた一人倒れていく中で、突然ティクリコティクが気怠そうに踞み込む。
「参ったね。ここまで強いとは思わなかったよ」
大きく溜め息を吐いたと思えば。飴玉を口に放り込み、小憎らしいまでのしたり顔をして語り出す。
「……だけどお前の負けだ。ボク達に構ってくれてありがとよ、間抜け」
彼の言葉は即ち、この戦いの勝利宣言でもあった。激戦の末、番犬達は10分間を耐え抜いたのだ。
これでもう、アポロンの援軍に向かっても間に合わない。後は状況に合わせて撤退するのみだ。全ては作戦通りであった――ここまでは。
だがケルベロス達の思惑とは裏腹に、蠍の女帝は狂ったように高笑いして。番犬達を一瞥し、嘲るように言い放つ。
「利用価値を無くした暗愚の王が、どうなろうが知ったことではない」
その一言でケルベロス達は確信した。やはりこの女帝には、太陽神への忠誠心など微塵もない。では彼女は次にどう動くのか。この先に待ち受けていたのは、考え得る中でも最悪の展開だった。
敵は命を使い潰すことを厭わない、非情な性格の持ち主だ。ならば目の前にある命もまた然り。ティクリコティクは身に迫る危険を感じ取り、咄嗟に後ろに飛び退って躱そうとするが。容赦なく襲い掛かる蠍の毒針は、獲物を決して逃さない。
「そ、そん、な……」
彼もまた、刻印の餌食になってしまい、視界が霞んで意識が徐々に薄らいでいく。
「しっかりしろティコ君! 目を覚ますんだ!」
懸命に呼び掛けながら治癒を施すメイザース。駒も一緒になって治療に尽力し、少年は倒れても尚、見えない出口を探すように手を伸ばす。
光を求めた小さな掌が、必死に足掻いて掴んだものは――暖かい救いの手ではなく、冷たく痩せた土塊だった。
「……当方が殿を務めやす。各々方は、一刻も早く遠くへ逃げておくんなせえ」
スコルピアの追撃を振り切るのはおそらく不可能だ。となれば一人でも無事に帰還させようと、三毛乃が腹を括って囮役を申し出る。
それは苦渋の決断だった。竜華は奥歯を噛み締めて悔しさを押し殺し、メイザースは観念した様子で肩を竦める。三毛乃は最後に友たる淑女の顔を見て、踵を返すと二度と振り向こうとはしなかった。三毛乃の後ろ姿を駒は祈る気持ちで見送って、彼女の言葉に従い急いで撤退を開始した。
「敵に背を見せるのは性分じゃありやせんので。命に変えてでも、ここは絶対通しやせん」
女帝と対峙するのは一人の女侠。力量差は圧倒的でも、退こうなどとは思わない。女の意地を賭け、派手に啖呵を切って捨て身の喧嘩に打って出る。
剣戟が鳴り響き、硝煙が巻き上がったのも束の間で。決着は呆気ない程短くて。静かに佇むスコルピアの足元で、三毛乃の身体が力無く横たわる。女帝の白い体躯を染める夥しい量の返り血が、戦いの凄惨さを物語っていた。
既に戦力は半壊し、全滅するのも時間の問題でしかないだろう。
竜華にとって戦闘は、己の快楽を満たす為だった。しかしこの窮地では、仲間を見殺しにできる筈もない。 斯くなる上は――。
「これ以上……仲間達への手出しも、邪魔立ても、決してさせない……っ!」
仲間を救う最終手段。竜華が覚悟を決めて、潜在能力を『暴走』させようとした時だ。
視界の片隅に、別方向から現れた新たな人影を捕捉する。
その人影は、翡翠色の弓を携えた青年だ。纏う衣装も全て翡翠色に統一されている中で、赤と黒の螺旋模様の肩当てだけが、異質な雰囲気を醸し出していた。
「いつまで遊んでいる、ヴェノム。もうこの場所は用済みだ、すぐに戻るぞ」
「アルナスル、か……漸く興が乗ってきたところを。まあ良い、長居は無用というわけか」
青年の言葉に促され、戦意を削がれたスコルピアは彼に続いて戦場を離脱する。
「――『蠍の刻印』の使い手よ。次に刃を交わす時まで、せいぜいくたばらないことだ」
去り際に、一瞬だけ言伝を残していきながら。
「……あの者達は、一体何を企んでいるのでしょう」
余りに唐突だったが、最悪の事態だけは免れた。駒は唖然としつつも、十二神将について漠然と考えていた。
「あれ程の手練れがアポロンに加勢したのは、良からぬ目論見があったのではないかしら」
そして自分達に止めを刺さず撤退したのは、その目的が達成されたからではないか。
ドローテアは推測を述べるに留めたが、それ以上に、女帝への対抗心を燃え上がらせる。
十二神将の狙いが何であれ、自分達が取るに足らない存在だと思われていたことが、堪らなく屈辱的だった。
「私は……この剣で、貴女に勝つワ」
再戦する日が訪れたなら。今度こそ、蠍の心臓を貫くと――心と剣に固く誓うのだった。
作者:朱乃天 |
重傷:ティクリコティク・キロ(リトルガンメイジ・e00128) カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084) 茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258) 柚野・霞(瑠璃燕・e21406) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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