アポロン暗殺作戦~慈愛幼帝アリアンナ

作者:ともしびともる

●決行の時
「山間部で発生していた飢餓状態のローカストの事件を解決した、御子神・宵一(e02829)さん達多くのケルベロスの調査によって、ついに太陽神アポロンとローカストの残党が集結している拠点が発見されました。太陽神アポロン暗殺を決行する時が来たのです」
 作戦を伝えるセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の口調には緊張感がこもっていた。
 ローカストの拠点は、太陽神アポロンが住む急造の神殿らしき建物の周囲を、有力なローカスト氏族が取り囲むように布陣している。
 だがグラビティ・チェインが枯渇している影響か、周囲への警戒は疎かになっており、アポロンの神殿に直接攻撃を仕掛け、太陽神アポロンを暗殺する事は充分に可能だと判断された。
 神殿には、有力なローカストの護衛が居る可能性が高く、また、神殿が襲撃されれば周囲のローカスト達も援軍を出そうとするはずだ。
「そこで、太陽神アポロンを暗殺に向かう部隊を中心として、神殿の護衛に対処するチームと、周辺の有力ローカストに攻撃を仕掛けアポロン神殿への援軍を出させないようにするチームが複数編成されました。すべてのチームが協力する事が、作戦の成功、つまり太陽神アポロンの撃破につながっていくでしょう」
 太陽神アポロンが撃破されれば、ローカスト・ウォーは効力をなくし、ローカスト達の組織は崩壊するだろう。

●蟻の巣へ向かえ
「皆さんに担当して頂くのは、3チーム連携による、狂愛母帝アリアの勢力への攻撃作戦となります。そして皆さんのチームには、狂愛母帝アリアと英雄アリオスの子である『慈愛幼帝アリアンナ』の襲撃をお願いすることになります」
 狂愛母帝アリアの勢力はローカスト残党の最大勢力で、アポロン神殿から少し離れた場所に蟻の巣を作って拠点としている。その戦力はアポロンの神殿と比べても勝るとも劣らない。
 とはいえ、アリアの勢力下でもグラビティ・チェインの枯渇は深刻で、蟻の巣の外にはグラビティ・チェインの枯渇した働き蟻達がぐったりと倒れているような状況のようだ。
「アリアの娘であり次代の女王である幼帝アリアンナはこの状況を悲しんで、巣の外の弱った者たちへの慰問に度々訪れてるようです。皆さんには、この慰問に訪れたアリアンナを襲撃してもらうことになります。」
 次代の女王が襲撃されれば、アリアの軍勢はアポロンからの援軍要請など無視して巣とアリアンナの防衛を優先しようとするので、アポロン神殿への増援を阻止する事ができるだろう。
 慈愛幼帝アリアンナを殺害する事に成功した場合は、復讐の為に追撃してくるローカストの軍勢から命がけで撤退する事になるだろう。
 アリアンナ殺害による混乱をうまく利用すれば、狂愛母帝アリアや、その夫、英雄アリオスの撃破も狙えるかもしれない。
 慈愛幼帝アリアンナを襲撃するだけで撃破できなかった場合、ケルベロス達はその場に留まって迎撃に来るローカストを撃破するなどして、アリアンナが狙われ続けていることを知らしめ、アポロン神殿に向かわせないようにする必要があるだろう。敵が拠点に引き篭って防御を固める状況になれば、作戦は成功となる。
 また、アリアンナを殺害した場合、ローカスト達が復讐の追撃に出た後、ケルベロス達は撤退組と別行動組に分かれ、拠点内部に潜入調査などを行う事もできるかもしれない。戦力を分散する事になるが、有益な情報を得るチャンスかもしれない。
「アリアンナの戦闘力は低く、まわりのローカストも弱っていて戦力にならないので、彼女を撃破することに難は無いでしょう。ですが、狂愛母帝アリアと英雄アリオスは強敵で、1チーム単独での撃破は難しいと思われます。敵をかく乱して孤立させたり、複数のチームで協力して戦う事ができれば撃破も可能かもしれません」
 そこまで説明すると、セリカは戦地に向かうケルベロス達に敬意を込めて、深く深く頭を下げた。
「皆さんには、重大な決断をいくつも迫ることになりそうですが……皆さんが悩み抜いて選んだ答えなら、間違いなんて絶対にないと私は信じています。どうか――よろしくお願いします!」


参加者
ミライ・トリカラード(三鎖三彩の未来・e00193)
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
レヴォルト・ベルウェザー(叛逆先導アジテーター・e00754)
アリューシア・フィラーレ(亡羊の翼・e04720)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
アリス・リデル(見習い救助者・e09007)
オルガ・ヴィヴァルディ(誠の愛はいつも傍にある・e26910)

■リプレイ

●嵐の前の
 アリア氏族の巣穴から少し離れた場所、木々にもたれて座り込む蟻や、地面にぐったりと倒れている蟻たちの中心に、アリアンナは居た。彼らに飴を配りながら元気づけ、英雄譚を無邪気に語り聞かせている様子を、ケルベロス達は身を潜めて見張っていた。
「……だめか。やっぱりここらは通信圏外だな」
 片目を閉じたレヴォルト・ベルウェザー(叛逆先導アジテーター・e00754)が、アイズフォンが通信遮断状態になっているのを確認しながら言った。
「携帯も、だめそーだな。無線機能は使えそーだけど」
 アリス・リデル(見習い救助者・e09007) )も手にした携帯電話を操作しながら言う。
「巣穴も一つだけっぽいし、声だけでも十分連携は取れそうだよ。……アポロン討伐隊のことは、信じるほかなさそうだね」
 ミライ・トリカラード(三鎖三彩の未来・e00193)がモノスコープで巣穴周りを確認しながら言い、オルガ・ヴィヴァルディ(誠の愛はいつも傍にある・e26910)が頷く。
「そうね、そしてあたしたちはあの姫様を力いっぱい脅かせばいいだけ。私自信あるわよ、本当は虫大嫌いだから」
 冗談めかして笑うオルガ。
「アリアンナさん……アポロンさんへの援軍阻止とはいえ……怖い思いをさせる事に……ごめんなさい……」
 アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)は視線の先の無邪気そうな少女に対し懺悔の思いを抱かずにいられない。
「とにかく、アポロンの存在が癌だ。そして、ケルベロスとローカストの未来はアリアンナが鍵になるだろう。アポロン暗殺班、頼んだぞ……!」
 空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)の口調には、決意と祈りめいたものがこめられていた。
 目を閉じて瞑想しながら仲間達の思いに静かに耳を傾けていたエヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)、組んだ両手を解いてすっと顔を上げ、
「さぁ、いこうか……」
 自分を奮い立たせるように呟いた。

●作戦開始
 お伽噺を語り続けるアリアンナの周りに突如雷鳴が鳴り響き、アリアンナのごく直近の地面が深く抉れる。驚くローカスト達の前に、3班のケルベロス達が物陰から姿を現した。
「…激しいドアノックで失礼。御機嫌よう、アリア氏族のお姫様。…取り敢えず、ここから消えて?」
 雷撃を放ったのはアリューシア・フィラーレ(亡羊の翼・e04720)だった。突然のことにたじろぐ蟻たちとアリアンナ。
「ケ、ケルベロス……!」
「天より来たるは以下省略!慈愛幼帝、覚悟!」
 ミライが威勢よく名乗りを上げ、他班の者からも次々と脅しの口上が挙げられていく。
「襲撃だ! アリアンナ様を……」
 危機的状況に、力なく倒れていた蟻たちもなんとか体を起こそうとする。その彼らを庇うように、アリアンナは両手を広げてケルベロス達の前に立ちはだかった。
「お願い……みんな、殺し合わないで!」
 震える膝で、刺客たるケルベロス達の前に身を晒すアリアンナ。
「仲間の慰問に、今度は盾になろーってか、ごたいそーなこった。ケド、悲しむだけなんてそこらのガキにもできるぜ。こいつらを救いてぇならもっとやれることあったんじゃねぇの、姫様? ……まっ、もー手遅れだけど、さ」
 恫喝を兼ね、アリアンナの王族としての責務を問うたアリス・リデルの指摘に、アリアンナは、え?と瞠目する。
「健気だとは思うけれど、ごめんね? 虫唾が走るの。今すぐ消えてもらえる?」
 オルガの美貌からは、本当に演技なのか疑わしいほどの殺気が放たれている。
 次々と殺意の言葉を投げかけられ、その身に銃口が向けられても、アリアンナは覚悟を決めたかのようにその場を動こうとしなかった。
「撤退だ! 敵襲を報せろ! アリアンナ様の盾となれ!」
 アリアンナの生命の危機に、もはや戦う力もないはずの蟻たちが死力を尽くして立ち上がった。ふらつきながら肩を組み、肉の盾となってアリアンナとケルベロスの間に割り込んだ。
「…君たち邪魔。姫様共々、消えて」
 無表情で凄んだアリューシア。本音は言葉通りとっとと撤収してくれればいいと思っているのだが、あえて誤解を招くような言葉足らずの言い方をしていた。
 蟻たちは慌ててアリアンナを抱えて巣穴へと逃走を始め、アリアンナに危害を加えずに済みそうな様子に、アリス・ティアラハート密かに胸を撫で下ろした。
「フェイズ1無事完了ってところだなァ。A班、追撃するぜェ!!」
 レヴォルトが叫び、ケルベロス達は蟻達の追走を開始する。
 おぼつかない足取りで逃げる蟻達を、ケルベロス達は追い撃つ真似はしなかった。ただ牽制の攻撃を蟻たちの足元に放ちつつ追っていると、彼らと入れ替わるようにで3体のアリア騎士がケルベロス達の前に現れた。
「……たったの3体か? 流石に相手にならないぞ」
 怪訝そうなモカの声。陣形は自然と8対1で敵を相手取るような形になる。
「おそらく時間稼ぎのつもりだ。早々に散らしてしまおう」
 エヴァンジェリンが素早く飛び込んでアリア騎士の胴に破鎧衝を打ち込み、間髪入れずにモカがその胴へと螺旋掌を叩き込んだ。
 早々の連撃によろめくアリア騎士。攻撃体勢を整えていたオルガは、不意に左に視線をやり、
「あんた達に用はないのよ。寝てなさい」
 目の前の敵でなく、B班に相対していたアリア騎士へと気咬弾を放った。
 オルガの機転を利かせた不意打ちに、B班のぽてこ、C班のシルディが即座に対応した。
「ここは私のステージ! 舞台に立った偶像は無敵よ!」
「合わせるよ! こんな闘いはこれで終わりにしてみせる!」
 気咬弾の衝撃によろめくアリア騎士へと鎌と槌の一撃が叩き込まれ、B班の騎士が成す術なく地に倒れ伏す。
 鮮やかな連携と仲間がふっとばされる様子を呆然とやっていたA班の騎士。その目前に、アリューシアが立ちはだかる。
「まだやるの? 消えてもらって、いい?」
 口をかぱっと開いたリュカと共に敵へと手をかざし、ほぼ本音の脅し文句を口にするアリューシア。
「じゅ、十分だ、撤退する!」
 踵を返し、倒れた仲間を引きずって逃走するアリア騎士を追うように、ケルベロス達は巣穴へと向かう。

●嵐来たれり
 巣穴の周りには、働き蟻のマイナー達が岩や瓦礫などを積んで急造したらしいバリケードが立ちはだかっていた。
「蟻共ォ!! とくと味わうが良いぜェ! このレヴォルト様の歌声をなァ!!」
 レヴォルトが牽制を兼ねて叫び、ハイトーンヴォイスを響かせて、ギターを掻き鳴らす。『紅瞳覚醒』を歌い上げる彼の美しくも威圧的なメタルパフォーマンスに、味方は力を得て、バリケードを守る蟻たちは恐怖に身構えた。
「あの壁を破って、攻め気を見せましょう……!!」
 アリス・ティアラハートが意を決し、バリケードへと凍結弾を放った。ケルベロス達の遠距離グラビティが次々と発動し、急造のバリケードが徐々に崩されていく。
 バリケード突破も間近といった所で、突如バリケートが内側から突き破られた。壊れたバリケードの裏から現れたのは、一振りの剣を携えた屈強な肉体のローカスト、英雄アリオスだった。
「来たか、アリオス……!」
 アリオスと共に、さらに6体のアリオスの直属らしいアリア騎士が現れた。アリオスの号令で、精鋭アリア騎士達はケルベロスへ向かって突撃を始め、アリオスは中央のB班へ猛然と襲いかかっていった。
「作戦通りだ、プレッシャーかけるぜェ!」
 アリオスが他班をターゲットにしたのを確認し、レヴォルトが叫ぶ。号令に合わせて、8人は巣穴に突入する勢いで一斉に走り出した。
 突撃するA班を、2体のアリア騎士が迎え撃つ。鋭く差し出された槍を、ミミックのミミ君がその身で受け止めた。
「もっと熱く! もっと激しく! 盛り上がってこーぜ!」
 戦いの火蓋は切られた。アリス・リデルが奏でる熱い恋の歌声が響き、情熱の炎がモカと対峙していたアリア騎士を襲う。
 炎に巻かれるアリア騎士に、オルガが続けざまにバスタービームを放ったが、もう一体のアリア騎士が射線に割り込み一方を庇った。
 敵は攻撃役のクラッシャー、と補助、回復役のディフェンダーで連携を取っているようだった。シンプルながら効果的な連携で、ケルベロス達を押し留めてくる。
「うっとおしいな、大人しくしてくれる?」
 ミライは連携の阻害を狙い、クラッシャーの方に電光石火の蹴りを叩き込む。急所を打たれ呻くアリア騎士へと、モカがさらに旋刃脚を重ねて敵の動きを益々阻害した。
 一進一退の攻防が続く中、アリオスの様子を伺ったエヴァンジェリンがはっと息をのむ。視線の先ではB班のぽてとアドルフが倒れ伏し、C班の面々がアリオスの範囲攻撃に吹き飛ばされているところだった。
「ここを片付けて、援軍に行かないと、まずい……!」
 エヴァンジェリンの緊張した声。ケルベロスたちは敵の撃退に方針を切り替え、敵クラッシャーに狙いを絞って次々攻撃を叩き込む。
「決めるぜェ、合わせろアリス!!」
「おっけーレヴォルト! いいねえ、めっちゃ燃えるじゃん!!」
 レヴォルトとアリス・リデルはにやりと笑って息を合わせ、魂揺さぶる即興のセッションを始めた。レヴォルトから発射された超音量アンプ内蔵のミサイルポッドが敵を囲むように展開され、演奏と歌声の熱く激しい四重奏が響き渡る。アリス・リデルの炎が戦場を包み、アンプからレヴォルトの爆音ハイトーンシャウトが木霊して、クラッシャーの騎士は目を回し、武器を手放しその場に倒れた。
「……よし、あとは二手に分かれて、援軍に……」
 瞬間、アリューシアの視界の端にこちらへ一直線に突っ込んでくる黒い影が映った。
「……危ない!!」
 アリューシアの咄嗟の警告。
 オルガが狙われていることに気づき、アリス・リデルが反射的にオルガを突き飛ばす。次の瞬間、飛び込んできたアリオスの剣が、アリス・リデルの右肩に深く突き刺さった。
「……!!!」
 悲鳴を嚙み殺すアリス・リデル。剣を引き抜かれた傷口から鮮血が噴き出し、たまらずその場にうずくまる。右手に力が入らず、これ以上の戦闘は不可能そうだった。庇われたオルガが、怒りに震えた表情でアリオスを睨む。
「このお返しは、高く付くわよ……!」
 オルガが怒りのオーラを纏った腕でアリオスへ気咬弾を撃ちだした。その身を食らう衝撃をまともに食らっても、アリオスが怯む様子はない。
「……これ以上、好きにはさせない……!!」
 レヴォルトの演奏による支援を受けながら、エヴァンジェリンがオウガメタルを右腕の鎧装に変え、雄叫びを上げてアリオスへと飛び掛かる。胸部を撃ち抜かんとする破鎧衝の一撃を、アリオスはその剣で正面から受け止めた。甲高い金属音が響き、剣と拳の火花散る鍔迫り合いとなる。剣から伝わる想像を絶する圧力に、彼女の腕は直ぐに悲鳴を上げ始める。
「ぐ……っ! ……はあああああ!!!」
 エヴァンジェリンは吼え、アリオスの圧倒的な力と威圧感に折れかける膝を、気力と根性だけで支え、かろうじて持ちこたえていた。
「ヘルズゲート、アンロック! コール、トリカラード!!」
「来たれ雷鳴、其の腕以って打ち据えよ!」
 ミライとアリューシアの叫びに似た詠唱とともに、3本の鎖と雷鳴の精霊が同時に召喚された。三色に燃える炎の鎖が精霊の雷電を帯びながらアリオスへと襲い掛かる。執拗に纏わりつく雷撃と3色の鎖を振り切るようにアリオスが飛びのき、エヴァンジェリンが鍔迫り合いから解放された。
 その隙を見計らってアリス・ティアラハートが黄金の果実のヒールを仲間に施す。しかし次の瞬間、アリオスは背の羽を震わせ、強烈な冷気の突風を放った。すさまじい暴風に後列のケルベロスたちが吹き飛ばされ、リュカが姿を消し、アリューシアが地面を転がって倒れ、意識を手放す。
 アリア騎士が後列に追い打ちの一撃を放とうとし、モカがその斜線に割り込んだ。モカは騎士へと反撃を繰り出すふりをしてその脇を駆け抜け、アリオスの胸部へと一気に詰めて螺旋掌を叩き込んだ。衝撃に後ずさるアリオス。会心の一撃が入った感覚があったが、なおもアリオスが倒れる様子はなかった。

●雨降って地は
「……悔しいが、時間稼ぎは十分だ、退くべきだぜ……!」
 歌声で仲間の傷を癒やしたレヴォルトが進言する。アリオス隊の圧倒的な力に、他班からも撤退の機運が高まってくる。
「……やむを得まい、だがこの状況、撤退できるか……!?」
 モカが苦々しく呟く。強大なアリオスに、未だに気力十分なアリア騎士団。負傷者を抱えたケルベロス隊の殿を務めようと、B班からクリームヒルトが歩み出る。彼女が自らの力を暴走させようとしたその時、不意にアリオスが剣の構えを解き、アリア騎士団を引き留めた。
 呆気にとられるケルベロス達。剣を収めながらアリオスが落ち着いた声で語りだした。
「逃れてきた者たちを見た時は半信半疑だったが、剣を交えてわかった。お前達はアリアンナを殺すつもりは無かったのだと。ならば我らも、命は取るまい」
 アリオスの突然の停戦宣言に、ミライは目をぱちくりさせ、やがて大げさにため息をついて見せた。
「……やれやれ、結局はお見通しかー。おっけ、こんな戦いはもうおしまい!」
 ミライが肩で息をしながら、まいったとばかりに片手をあげて少し笑う。
 モカも汗を拭いながら着けていたベルトポーチを外し、自分の足元にそっと置いた。
「怪しい物じゃない、中身はキャラメルだ。私達が去った後、良かったらアリアンナに渡してくれないか? どうするかはあなたと彼女に任せる」
「……そうね。謝ることは出来ないし、しないけれど、怪我した子たちにはお大事にって伝えてくれる?」
 オルガも一つ息をはいて、穏やかな声音で言う。
「行くがいい」と、アリオスは促し、ケルベロス達に背を向けた。
 レヴォルトと共に目覚めた仲間を介抱していたアリス・ティアラハートは、大きく息を吸い、巣穴に向かって精一杯の大声で語りかける。
「アリアンナさん! ひどい事をしてしまい……本当にごめんなさい……! こんな形になってしまいましたけど……いつか普通に……お逢いできたらって……!!」
 彼女の悲痛で真摯な叫び声。エヴァンジェリンも去りゆく背中に、一つのメッセージを託す。
「アリアンナに伝えてくれないか、その慈しみの心で地球を愛して欲しいと。……出来るなら、貴方にも」
 アリオスは答えず、炎を上げるバリケードの残骸を踏みしめながら、悠然と歩き去っていく。少女の声がアリアンナに届いたのかは分からないが、彼女達の思いを、目の前のアリオスはきっと聞き届けてくれただろう。強者同士、刹那の間剣を交わしあった者同士の絆が、そう予感させてくれていた。

作者:ともしびともる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年12月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。