●アポロン暗殺作戦・始動
「山間部で発生していた飢餓状態のローカストの事件を解決した、御子神・宵一(e02829)さん達多くのケルベロスの皆さんの調査によって、太陽神アポロンとローカスト残党の集結している拠点を発見することが出来ました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の報告に、その場に集ったケルベロス達の間にどよめきが起こった。
「ローカストの拠点は、太陽神アポロンの住む急造の神殿らしき建造物を中心に、有力なローカスト氏族がその周辺に布陣しています」
その布陣は一見すると堅固なものに見える。ですが、とセリカは言った。
「ローカス達のグラビティチェインが枯渇している影響か、周囲への警戒は疎かになっています。その為、電撃的にアポロン神殿を急襲し、アポロンを暗殺する事も十分可能です」
アポロン暗殺。
それは黙示録騎蝗(ローカスト・ウォー)の終結を意味する。
アポロンの撃破に成功すればローカスト組織は崩壊していくはすだ。
「とはいえ、アポロン暗殺は一筋縄ではいきません。神殿には有力なローカストの護衛がいる可能性が高く、周囲のローカス氏族も神殿が襲撃を受ければ援軍を差し向けてくるはずです。
今作戦では、太陽神アポロン暗殺を実行する部隊を中心に、神殿の護衛に対処するチーム、周辺の有力なローカストへと攻撃を仕掛け援軍を出させないようにするチームと、複数のチームが協力して事にあたってもらいます」
そこでセリカは言葉を区切り、ケルベロス達へと目を向ける。
セリカの目には彼らケルベロスがとても頼もしく見えた。
「大変な作戦ですが、皆さんであればきっと成功に導いてくださる事でしょう。どうかよろしくお願いします」
セリカの口元に自然と柔らかい笑みが浮かんだ。
●紅雀と蜂雀
「皆さんのチームには、アポロンとの戦いに赴く部隊の護衛を担当していただきます」
セリカがアポロン神殿周囲の地図を広げ、作戦の説明を始める。
「太陽神アポロンの神殿は切り出した岩を積み上げて作られていて、その神殿外周部を『紅雀』という紅雀蛾型のローカストが守っています。さすがに外周部まで接近してしまうと発見されないまま神殿に突入するのは不可能なので、紅雀との戦闘は避けられないでしょう」
「紅雀は『蜂雀(ホウジャク)』という蛾の幼虫のような配下を多数従えています。皆さんを発見次第、紅雀は何だかの通話能力で即座に神殿内のアポロンへと襲撃を知らせ、侵入者へ蜂雀をけしかけてきます」
「もしも全員で神殿内に突入してしまうと背後から紅雀たちの追撃を受けてしまいます。そこで、皆さんは神殿内に紅雀たちを侵入させないよう神殿入り口で彼らを迎撃してもらう事になります」
さらにセリカは紅雀と蜂雀についての詳しい説明を続ける。
「紅雀はアポロンに心酔しており、アポロンと黙示録騎蝗(ローカスト・ウォー)の為に他のローカストや配下の蜂雀たちが犠牲になる事は当然だと考えているようです。戦闘となれば紅雀は後衛の安全な位置から、蜂雀たちの指揮を取ります。どうやらフェロモンのようなグラビティで蜂雀たちを半強制的に使役しているらしく、蜂雀を凶暴化させて多少の強化を行える他、フェロモンで皆さんの行動を阻害してきます」
「蜂雀は嚙みつき、体当たりといった直接攻撃を仕掛けてきます。また地面に潜り奇襲攻撃を仕掛けてくる事もあるようです。一体一体の戦闘能力は低いのですが数が多いです」
後方の指揮官の紅雀と数を頼りに攻撃を仕掛けてくる蜂雀。
大量の蜂雀を全て撃破するのは難しいとセリカは表情を硬くする。
「付け入る隙があるとすれば、指揮官の紅雀が数を頼りの力押ししか出来ない器量の持ち主である事と、私たちの作戦の最終目的はアポロンの撃破であり、紅雀と蜂雀の完全撃破では無い事でしょうか……」
敵は数は多いが組織立った戦術を取ってくる事は無い。
アポロンに戦いを挑む部隊を信じ神殿入り口に陣取り、アポロン撃破までの時間を稼ぐ。
敵の全滅を目指す方法も考えられるが、今回は防衛的な作戦を取る事も有効といえる。
「これまでの皆さんの活躍の甲斐あって、遂にアポロンを追い詰める事が出来ました。アポロンを撃破しない限り、ローカスト達は滅亡するまで無謀な戦いを止める事はないでしょう。ご武運をお祈り申し上げます」
参加者 | |
---|---|
岬・よう子(金緑の一振り・e00096) |
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080) |
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256) |
十守・千文(二重人格の機工巫女・e07601) |
高橋・月子(春風駘蕩たる砲手・e08879) |
黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568) |
日月・降夜(アキレス俊足・e18747) |
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977) |
●
此処は決して人間たちの目の届かぬ秘匿されし場所。
此処は種族の精鋭に守られし無敵の牙城。
何よりも此処は偉大なる神の住まう神聖不可侵の聖地。
そう聞かされていた、そう信じていた。
だから神殿の守護を任された蜂雀たちは目の前の光景に呆然とするしかなかった。
神殿の目と鼻の先。
何の先触れもなく、多数の人間たち――ケルベロスが出現したのだ。
そして次の瞬間だった。
あり得ぬ闖入者の集団から放たれた多数のグラビティが彼らを襲った。
蜂雀の視界が砂埃に包まれ、激しい衝撃が全身を貫く。
と、眼前で左右から白銀の光がきらめいた。
これは剣?
それを認識しようとした所で蜂雀の命は断ち切られた。
岬・よう子(金緑の一振り・e00096)の手の剣の切っ先から赤い雫が滴り落ちる。
足元には十字に切断された蜂雀の死体があった。
よう子が今回の標的である太陽神アポロンの居る巨大な神殿を仰ぎ見る。
「地を蝕む虫は駆除せねばならん。神を殺せば陽すら落とすぞ、不遜こそ人の人たるものと知れ」
急ぎ神殿の入り口へと向かう仲間たちを確認し、今度は周囲へと目を移す。
そこにはよう子と同じく殿を務める者たちの姿があった。
「この場の連中はさっと片付けたけどさ、もう敵さんも襲撃に気づいているだろうねぇ」
黄檗・瓔珞(斬鬼の幻影・e13568)が口元に不敵な笑みを浮かべ、刀についた蜂雀の血を拭う。
周りには彼らが撃破したのであろう蜂雀たちの死体が転がっていた。
「やはり電波は繋がらないか……」
アイズフォンの起動を試みていた星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)がそれを諦めて、周囲の警戒に意識を移した。
「いつどんな敵が救援に現れるのかも全く不明な状況だ。油断せずにいこう」
到着した地点でこの場所が携帯の圏外である事は分かっていたので、ちょっとした確認作業であった。
あとは他の班が上手くやってくれる事を信じ、自分たちも最善を尽くすのみと、気持ちを切り替える。
「言ってるそばから来たみたいね。まあまあ、沢山」
遠く蜂雀の群を発見し高橋・月子(春風駘蕩たる砲手・e08879)があらあらと呟く。
蜂雀の群は左右からこちらへと近づいてきていた。
月子はその数を数えようとして、すぐに諦めた。
今、見える範囲で20体は下らないだろう。そしてその数はさらに増すように思えた。
「あの大群……囲まれたら厄介だ。神殿の中で迎撃するぞ」
「ああ、それが一番だな」
開けた場所での戦いはこちらに不利だ。それに対して建物の中ならば、敵の侵攻を一方向に限定し多数を同時に相手取らなくて良い。
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)の提案に同じ事を考えていた日月・降夜(アキレス俊足・e18747)が頷く。
と、その時。
チーターのウェアライダーである降夜の耳が喧騒に混じった微かな声を捉えた。
「――ケルベロスの襲撃だと、信じられん。アポロン様に――」
反射的に声の方へと振り向く。
遠く蜂雀の群の後方。
そこに指揮杖を手にした紅色のローカストの姿があった。
今は亡き妻の姿が脳裏をかすめる。
即座に降夜は全身の血がゾワッと泡立つのを感じた。
無意識の内に強く噛み締めた歯がギシギシと音を立てる。
「――俺たちで最後だ、急ぐぞ!」
アスカロンの声にはっと我に返る。それは一瞬の出来事だったのだろう。
「……了解だ」
胸の内にあるモノを押し殺すように淡々と答える。
そして憎き宿敵に背を向けると神殿の入り口へと駆け出していった。
●
先を行く仲間に続き神殿内に駆け入った十守・千文(二重人格の機工巫女・e07601)。
千文たちが短い回廊を進んだ先に開けた空間があった。
どんな用途の場所なのかは不明であったが、敵を向かい討つには絶好の場所といえた。
広間の中央で足を止めた千文の目に、さらに先へと向かう他班の仲間の背中が見えた。
彼らがきっと太陽神を討ち取ってくれるはずだ。
踵を返し、今来た回廊へと目を向ける。薄暗がりの先に追手の蜂雀らしき影があった。
千文の銀の髪が無風のはずの建物の中でフワリと脈打つ。
『神』は『髪』を依代に顕現す。『機』と『鬼』を操る千文の瞳に決意が浮かぶ。
「……さぁ裏方の仕事、ここで通行止め、だよ」
『私』は英雄になれないが、『ボク』は英雄を助ける事はできる、と。
「グッドラック!」
優輝が先を行く仲間に明るく声を掛けると、「頼む、出来るだけ時間を稼いでくれ」と返事がくる。
「時間を稼ぐのはええけど――」
その言葉に小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が笑みを浮かべて言った。
「別に、おばちゃんたちが全部倒してしまっても構わへんのやろ」
●
「来た! 絶対にここで食い止めるぞ」
いつの間にか眼鏡を掛けていた優輝が緊迫した表情で前方を見る。
続々と広間に雪崩れ込む蜂雀。
優輝はコンバットナイフを構えるとその群へと臆する事無く飛び込んでいった。
「力が無ければ技を磨け、技が無ければ血を流せ、生憎神に捧げる血など持ち合わせないゆえ、舞って御覧に入れよう」
優輝と同じく敵の群の真っ只中。よう子が左右一対の剣を華麗に振るった。
「我が剣舞は地球のため、この地に生きるものの為に」
蜂雀から巻き上がる血飛沫と悲鳴の渦中でよう子は美しくも凄惨に舞ってみせる。
「鬼機之操戦術、その身に受けよ、だよ」
千文の左右の髪から砲塔が出現。狙いを優輝とよう子の相手取る蜂雀へと向けた。
「機操、砲」
2人がその場から飛び退ると同時にブラスターを射出。
着弾点が閃光に包まれ、直撃を受けた蜂雀の身体がボロボロと崩れ落ちる。
開始直後からケルベロスたちの激しい攻撃が蜂雀を次々と葬り去っていった。
しかし。
「こいつら、神殿の外にいた連中と何か違うぞ!」
優輝が腕に噛みついてきた蜂雀を無理やり引き剥がす。
蜂雀たちは傷つく事を省みず無謀といえる突撃を繰り返してきていた。
無論そのような戦い方をすれば被害は甚大だ。
しかしそうした被害を無視して蜂雀は一撃を見舞い、次々と息絶えていった。
「紅雀に操られ理性を失っているんだ……あの時と同じだ」
同じくまとわりつく蜂雀を振りほどき、降夜が苦々しげに答えた。
「恐れ知らずのバーサーカーってわけやね。おばちゃん、けったくそ悪いわ」
軽口を叩く真奈であるが蜂雀を見る目は笑ってない。
「信じるものの為に戦えるのは幸せな事よね」
後方で仲間の支援を続ける月子が唐突に言った。
「大切な人々、神様、自らの思想、復讐や贖罪であったってそう。だから今、私たちは幸せなのだろうし、アポロンの為に戦う敵の指揮官もきっと幸福だと思うわ」
少しクセの強い解釈ではあるが、そういった一面があるのも確かだろう。
「でも彼らは違う。この戦場で彼らだけが不幸なのよ」
理性を失い、仲間に襲いかかる蜂雀に悲しそうな目を向ける。
「でも、ごめんなさい。私にはあなた達を助ける事はできないわ――ファイア」
月子の放った砲弾が直撃し蜂雀が四散する。
「まさしく彼らは使い捨ての道具ってわけだ。敵ながら気分の良い話じゃないねぇ」
瓔珞の言葉に、千文が一瞬動きを止めた。
(「理由も分からず戦わされて、傷ついて、捨てられる……それじゃまるで――」)
瓔珞が腰の刀を抜く。
「僕もそれなりに生きてきたからね。こういう手合いの恐ろしさは良く知っている」
その口元から笑みが消え、刀の刀身が黒く染まる。
「だから手段は選ばない。僕は神でも仏でもないんでね――我に鏖殺されし那由多の屍よ。尽きること無き無量の怨嗟よ」
漆黒の刃を床に突き立てると黒い闇が足元から周囲に広がる。
「生者を羨め。命を渇望せよ。幾許かの時を与えよう――『黄泉尽十方夛夥禍原(ヨミジンジッポウタカマガハラ)』」
広がった闇の中から一体また一体と出現した黒い骸が、蜂雀にまとわりつき、悲鳴を上げる蜂雀の肉を剥ぎ取っていった。
その凄惨な光景を瓔珞はゾッとする程に冷たい瞳で見つめていた。
●
戦いが始まりどれだけの時間が経ったのだろう。
ふと、アスカロンの脳裏に別の場所で戦っているであろう妹の姿が浮かんだ。
「……っと、しっかり自分の務めを果たさないとゼラとフローラに笑われてしまうな」
仲間の為、家族の為、そしてなによりも最愛の妹たちの為。
彼にとって戦う理由などそれで十分だった。
右手の年代物の籠手『家守』をチラリと目に留め、共に戦う仲間たちへと顔を向ける。
蜂雀の決死の攻撃に怪我をしていない仲間は居なかった。自分が授かった癒しの力がきっと役に立つはずだ。
「国護の血を引く者として希う。呪われし術を以て、『清らかなる心』を此処に具現化させよ――『六道・三善趣(サンゼンシュ)』!」
『家守』から放たれた癒しの波動が仲間たちの傷を癒し、戦う力を与えていく。
「助かった! しかし、どれだけ倒せば終わるんだ……」
優輝が肩で息をしながら、続々と現れる蜂雀を睨みつける。
壮絶な戦いでトレードマークの白い軍服はあちこちが破け、その大部分が返り血で赤く染まっていた。
「兄ちゃんは若いんやから、これ位で弱音はいたらあかんで」
見た目は美幼女なドワーフの真奈が優輝に笑顔をみせる。
「ほれ、まだまだみんな元気や」
真奈が指さした先に千文がいた。
三方から千文へと蜂雀たちが襲いかかる。
それに対し千文は自分の周囲にドローンを展開していった。
「我、空間の理を知り、陣を描く」
更に袖から無数の符を取り出すと、その符がふわりと空中に浮き上がる。
ドローンと符。それらが千文を中心に真紅の線で結ばれていく。
「陣よ、我が力を依代に真紅の要塞となりて、我を守れ」
三体の蜂雀が大口を開けて千文へと噛み付いた。
「完成です、だよ」
真紅の線が光を放ち、陣を形成。
赤い防壁が蜂雀の牙をすんでの所で阻む。
「まだまだ、倒れるわけにはいかないのです、だよ!」
千文の紅い瞳に煌めきが見てとれた。
「恐るることはない」
と、そこによう子が乱入する。
「奢るることはない」
顔に笑顔を浮かべ、左右の剣の切っ先を蜂雀たちに突き立てる。
「戦場で共に踊ろう」
身じろぎ反撃を試みる蜂雀の一撃を踊るようにかわす。
華麗なよう子と怪物たちの舞踏。
『御先の旗印(フィールド・イズ・マイン)』、まさに彼女の為の戦場であった。
そんなよう子の側に優輝が現れる。
「君のような幼い女の子が戦っているのに、俺が弱気になんてなれないな」
するとよう子が不思議そうに優輝を見る。
「何か勘違いをしているぞ。我輩は『多少』若作りをしているが、おそらく君よりも年長者のはずだ」
目が点になる優輝。ドワーフならまだしもよう子は地球人だ。
その小柄な身長と服装も相まり、優輝には可愛らしい少女にしか見えなかった。
「……女って、怖いな」
小さく呟くと新たに出現した蜂雀へと向かっていく。
「『逆襲と反抗の解放(エターナル・レリース)』!」
白光したナイフの刃で蜂雀を切り裂くのだった。
●
「喰らいつけ――『喰(ジキ)』」
降夜が放った気弾が上昇。
そして頭上から蜂雀へと喰らいつき、地面へと叩きつける。
それは獲物を狩る野生の獣さながらの動きであった。
身動きの取れなくなった蜂雀に近づいた降夜が、渾身の力でその頭を踏み砕く。
血が床に流れ落ちていく。
広間には動かなくなった蜂雀の残骸がいたる所に残っていた。
床は一面が真っ赤にそまり、所々に血溜まりが出来ている。
「さっきはああいったけどな。ちょっと、おばちゃんも息切れしてきたわ」
そう言う真奈の足元はかなりおぼつかない。
それは他の仲間も同様だ。
全員がギリギリの所で堪え忍んでいるような状況だった。
「こいつら、どんだけいんねん」
また回廊からやってくる蜂雀をみとめ、ため息をついた。
「今、始末したので32体目だな」
息を整えながらよう子が答える。
「そろそろ向こうの決着がつく頃合かもしれないね」
アポロン班の戦いを想い、瓔珞が呟く。
「こっちはまだ大将が姿を見せやしない……弱虫もいい所だねぇ」
●
蜂雀の懐に潜り込んだ優輝のナイフが心臓を貫き命を断つ。
すると広間がしんと静まり返った事に優輝は気付いた。
「これは?」
いつの間にか広間に居るのは仲間たちだけになっている。
無限に湧いてくるように思えた増援はピッタリと止んでいた。
「ホンマに全部倒してまったんか?」
真奈が目をパチクリとさせる。
「いや、でもそれなら……」
真奈が次の言葉を続けるより早く。
突然、降夜が入り口に向かって駆け出していった。
(「もし蜂雀が全滅したというのなら……何故紅雀が現れない!?」)
外へと急ぐ降夜の中で渦巻く戸惑い、そして予感。
早鐘のような胸の鼓動が降夜の頭の中に鳴り響いた。
「もぬけの殻か、指揮官は逃げたのだろう」
よう子が神殿の入り口近くで棒立ちなった降夜の背中に声をかける。
降夜を追って仲間たちと神殿の外へと出てきたのだ。
外もまた神殿内部同様に静まり返っていた。
そこに、蜂雀、そして紅雀の姿は無かった。
紅雀がアポロンを残して戦場から立ち去るとは考えられない
つまりそれはひとつの事実を示していた。
「アポロンは死んだ、紅雀は失敗した、ざまァ無いな――ハ、ハ、ハハハッ!!!」
降夜が笑い声を上げる
「ハハハッ!! 紅雀のやった事は無駄だったんだ、全部、全部、全部だ……くそッ」
降夜が握りしめた拳を地面へと叩きつける。
怒り、憎しみ、そして――。
胸の底に溜まっていたモノを吐き出すように何度も、何度も拳を地面に叩きつけた。
「勝ったんです、だよ……私たちが勝ったのですね」
確かめるように千文が言葉を繰り返した。
するとそれを証明するかのように、奥へと向かった他の班の仲間たちが神殿の入り口から続々と姿を現すのが見えた。
半数以上の者が傷つき、ボロボロの風体であった。
しかし、その顔には皆、任務を成功させたという達成感が見て取れた。
「終わったねぇ」
瓔珞が気が抜けようにふうと息をつくと、月子が静かに頷いた。
「あれは、ゼラ!?」
アスカロンが別の敵へと向かった妹の姿をみとめ、駆け寄っていった。
「大丈夫……終わったよ」
「そうか……終わったか」
激しい戦いだったのだろう。
傷だらけの妹は今にも泣きそうな顔をしていた。
「無理しなくていいんだ」
その頭に手をあて、優しく撫でてやる。
堰を切ったようにポロポロと涙を流す妹を、何度も何度も――。
かくてケルベロスと太陽神アポロンとの戦いは終わった。
残された因縁。ローカストの今後の行末。
全てが解決した訳では無いのは確かだろう。
だが、今だけは彼らに一時の安らぎのあらんことを。
ケルベロスは神に挑み、そして勝利したのだ。
作者:さわま |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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