道化師は手編みで作れますか?

作者:青葉桂都

●ミス・バタフライの指令
 町を見下ろすビルの屋上に、1人の女が立っていた。
 まるで胡散臭い手品師のような服装をした女の名はミス・バタフライ。螺旋忍軍に所属するデウスエクスだ。
 夜の街をぐるりと見渡し、彼女は口を開く。
「あなたたちに指令を与えます」
 バタフライの背後には、奇妙な2人の男が影のように控えていた。
 1人は見るからにサーカスにいるような道化師であったし、もう1人もたくさんポケットがついた原色の派手な衣装を着ている。
 どうやら2人目のポケットには、棘のついたボールやナイフといった武器らしきものが様々入っているようだった。
「この町に、手作りのあみぐるみを売る雑貨屋を開いている女性がいます。まずはその女性と接触して仕事内容を確認すること」
 バタフライの命令を2人は無言で聞いている。
「そして、もし可能なら技術を習得した上で殺害しなさい。グラビティ・チェインは奪っても奪わなくても構わないわ」
 振り返ることなく告げた彼女に、2人の男たちはうなづく。
「了解いたしました、ミス・バタフライ。私には予想もつきませんが、この作戦も巡り巡って地球の支配権を大きく揺るがすことになるのでしょう」
 道化師のほうが口を開いた。
「このミスター・サグと取玉にお任せください」
「よろしい。ならば行きなさい」
 3人は男なく姿を消した。まるで、最初から誰もいなかったかのように。

●ヘリオライダーからの依頼
 集まったケルベロスたちへと、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は語り始めた。
「ミス・バタフライという螺旋忍軍が動き出したようです」
 彼女が起こそうとしている事件は小さなものだが、巡り巡って大きな影響を及ぼすという厄介な代物であるらしい。
「もっとも、小さいとは言っても見過ごせば殺されてしまう犠牲者が出ます」
 とある町に手製のあみぐるみ……編み物で作ったぬいぐるみを売る店を営んでいる女性がいるらしい。バタフライの部下は彼女の技術を習得した後、殺害するのだという。
 犠牲になるのは柘植愛美香という20代後半の女性で、売っているあみぐるみはすべて彼女の手製の一点ものらしい。
 商売になっているくらいなので技術は高いのだろうと芹架は言った。
「そして、この事件を阻止しないと、高い確率でケルベロスにとって不利な状況が引き起こされてしまうようなのです」
 風が吹けば桶屋が儲かるという理屈があるが、正にそれが実際に起こってしまうのだ。
「殺されちゃう人はもちろん守らなきゃならないし、それがボクら自身を守ることにもつながるってことだね」
 集まったケルベロスの1人、有賀・真理音(レプリカントの巫術士・en0225)の言葉に芹架はうなづいて見せた。
 今回は珍しく、襲撃から早い段階で犠牲者に接触できる。具体的には3日ある。
 もっとも、犠牲者を避難させてしまうと、螺旋忍軍は姿をあらわさなくなる。他の誰かが狙われる可能性もあるため、守りながら迎え撃つしかない。
「ただ、襲撃までの期間で皆さんのうち誰かがある程度の技術を習得して作品を作り上げることができれば、螺旋忍軍に皆さんを狙わせることもできるかもしれません」
 事情を話して頼み込めば、犠牲者もケルベロスたちに作り方を教えてくれるだろう。
 もっともそれなりの出来にならなければ囮になることはできない。3日間で覚えるにはかなりの努力が必要になるだろう。
 いずれにせよ襲撃は犠牲者が営む雑貨屋AMIで行われる。
 3階建てビルの1階にある小さな店だ。全員が入れる程度のスペースはあるが、戦闘するには少し狭い。店内で戦うと、ビル内の他の店にも被害が及ぶかもしれない。
 もちろん、店内には陳列棚がそれなりの数で存在する。ケルベロスやデウスエクスにとってはさしたる障害ではないだろうが。
「囮になれる程度の技術を得られれば、襲撃する敵をうまくだまして有利に戦うことができるかもしれません」
 敵は問答無用で襲撃してくるのではなく、あくまでまずは仕事内容を確認し、技術を教えて欲しいと頼んでくるからだ。
 ミス・バタフライから送り込まれる螺旋忍軍は2人。バタフライ本人は来ない。
 道化師のような姿をしたミスター・サグと名乗る男と、多数の武器をポケットに収めた取玉という男の2人組だ。
「ミスター・サグは螺旋忍者と同じ技を使う他、おどけた動きで挑発しながら攻撃してきます。受けると冷静さを奪われ、思わず道化師を攻撃してしまう可能性があります」
 取玉のほうは、ポケットに仕込んだ武器でジャグリング……お手玉をしながら攻撃してくるらしい。その動き自体、態勢を整えて回復し、威力を高める効果があるようだ。
 まずは棘付きのボールやナイフを連続して投げつけてくる。敵に命中した武器をさらに空中で受け止めて追撃してくることもあるという。
 油を染み込ませた布を巻いた棒をジャグリングすると、空中で火が付く。それをばらまくことで敵を炎上させる範囲攻撃も行うようだ。
「2人は連携して戦うようなので、その点でも注意が必要でしょう」
 はっきりした役割分担まではわからないが、どちらかというと取玉のほうが前面に出る形で戦うようだと芹架は告げた。
 ヘリオライダーが説明を終えたところで、真理音が言った。
「なんか難しいことを企んでるみたいだけど、結局は倒しちゃえばいいんだよね」
 芹架がうなづく。
「編み物も楽しそうだから、できたら覚えたいなあ。……ボクは不器用だから、囮になれるほどうまくはできなそうだけどね」


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
ホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709)
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
スマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)
ラズェ・ストラング(聖夜までに彼女作るの余裕だろ・e25336)

■リプレイ

●あみぐるみを作ろう!
 いきなり店に姿を見せたケルベロスたちに、店主は面食らったようだった。
「率直に言います。柘植さん、デウスエクスがあなたの命を狙っています」
 黒一色の服に身を包んだ風魔・遊鬼(風鎖・e08021)が、店主に告げた。
「あ、あの……それじゃ、すぐ逃げたほうがいいんてしょうか?」
「いや、違うぜ。敵は愛美香の技術を欲しているので、すぐに危害を加えるわけではないんだ」
 月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が首を横に振る。
「デウスエクスが来たら俺たちが対応する。だだ、変装には自信があるが、それなりの技術を見せられなければすぐに偽物だとばれてしまうからな」
 見た目については、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は親しい者でなければ見破れないほど似せられると自負しているが、専門知識まではカバーしようがない。
「だから、ボクらに柘植さんのあみぐるみをちょっと教えて欲しいんだ。……あ、ボクはどっちかっていうと、編み物をしてみたいだけなんだけど」
 有賀・真理音(レプリカントの巫術士・en0225)が店主に笑顔を見せた。
「ああ……もちろん、構いません。人に教えられるほど上手ではありませんが、それでもよければ」
「それでいいぜ。ただ、念のため、すぐに裏の部屋に逃げ込める場所に常にいてくれよな」
「はい……わかりました」
 朔耶の言葉にうなづきながら、愛美香は少し表情を曇らせた。
 9人のケルベロスのうちおよそ半数があみぐるみの作り方を教わっていた。もっとも、うち2人はもともと作った経験があったが。
 ホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709)は練習する仲間たちをぼんやりとながめていた。
「作戦は囮作戦みたいだし……どこで時間潰したもんか どーにもこういう裁縫ってのは出来ないんだよなー……」
 不機嫌そうな顔をした少年に、緑の髪を持つヴァルキュリアが口を開く。
「商品を見てるのもなかなか楽しいよ。巧いもんだ。あたしも1つ欲しくなる」
 スマラグダ・ランヴォイア(竦然たる翠玉・e24334)は商品を眺めながら、店内の間取りを確認している
 遊鬼は壊れ物を移動させているようだ。
 店の扉が開き、ケルベロスたちが油断なくそちらに目をやる。
 入ってきたのは葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)だった。
「戦える場所や隠れられる場所はあるが、隠れられて、かつ戦える場所は難しいな」
 口当ての下から影二は言った。
 店内での戦いに備えて準備はしているが、できれば店の中ではなく外におびき出して戦えるに越したことはない。
 ただ、おびき出せるかどうかは囮役次第だった。
 猛烈な勢いで、白い玉を編み上げて、それに割り箸を突き刺しているのはラズェ・ストラング(聖夜までに彼女作るの余裕だろ・e25336)だった。
「……それは、なにを作ってらっしゃるんでしょうか?」
「これか? これは『タンポポの綿毛畑』だ。以前、とある行事で作ったことがあってな……敵をごまかすために店に飾らせてほしいんだが」
 店主の問いに、ラズェは得意顔で言った。
「そうですか……わかりました。デウスエクスを倒すためでしたら仕方ないですね」
 あまりのシンプルさが、芸術品といえば芸術品に見えるかもしれない――そんなラズェの思いを知ってか知らずか、愛美香は少し困惑した顔でうなづいた。
 朔耶はライオンや道化師といった、サーカスに関係あるあみぐるみを作っていた。
「裁縫や編み物が趣味だというだけのことはあるな。本職の彼女ほどじゃないが、上手じゃないか」
 隣であみぐるみの練習をしている女性が声をかける。
「本気を出せばもっと上手にできるぜ。ただ、本気になっちゃうと仕事を忘れて没頭しちゃうからなあ」
 しゃべりながらも朔耶は手を止めない。
「義兄も始めたばかりにしてはなかなか上手じゃないか。それに……その格好、普段の義兄からは想像もつかないな」
 ……いや、女性ではなかった。女装したヴォルフだ。
「今はいいが、敵が来る日は義兄とは呼ぶなよ。俺も朔耶とは呼ばない」
「ああ、わかってるぜ」
 言葉を交わしながらも、2人は作業を続けていた。
 真剣な顔で猫のあみぐるみを作っているのは、ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)だった。
「ミスターバターナイフ、でしたっけ……」
 彼女の呟きに、仲間たちは反応しなかった。
「……突風で桶屋が儲かるそうですし、台風ぐらいならどこまで起こせるんでしょう? ……猫さんを絶滅させることだけは阻止しないと」
「なんのことかよくわからないけど、猫が絶滅するのはよくないよね。可愛いし」
 首をかしげながらも真理音が言った。
「そうですよね! 猫を三味線にしようとするデウスエクスは許せません!」
 編み棒を力いっぱい握りしめる。
 風が吹けば桶屋が儲かる、その途中経過の話をしているようだ。聞いていた仲間たちはどう突っ込むべきか考えていたが、ミリア本人はあくまで真顔だった。
「あんまり力を入れすぎないほうが上手にできますよ」
「あ、はい、ありがとうございます、柘植さん」
 愛美香に言われて、ミリアは少し落ち着いたようだった。
 そして、3日が経過した。

●襲撃者の来訪
 デウスエクスが現れるという日には、朔耶とヴォルフ、ミリアとラズェの4人が交代で店番をしていた。
「店で戦うようなら有賀さんは柘植さんを守っていてください。連れ出しがうまくいったら、後方から攻撃を」
「うん、わかった。……守ってるだけだとさすがに不安になりそうだね」
 遊鬼の言葉に真理音が頷く。
「ですが、万が一にも柘植さんを殺させるわけにはいきません」
「だよね……無理しないでね」
 遊鬼はうなづいて、顔の下半分を覆面で隠した。
 扉が開く音がする頻度は、実際それほど多くはない。
 幾度目か、扉が開いた時のことだった。
「失礼いたします」
 落ち着いた声と共に入ってきた2人組は、あからさまに怪しかった。
 入り口付近に並んでいた『タンポポの綿毛畑』を一瞥しただけで素通りした彼らに、ラズェがちょっと落胆した顔をして奥へつながる扉の前に移動する。
「この店の商品は、すべて手作りと聞いております。もしよろしければ、その素晴らしい技術を我々に教えていただけないでしょうか」
 レジに立つ朔耶に道化師が話しかけた。
「あみぐるみの作り方を知りたいのか? 構わないぜ」
 とりあえず愛美香の代わりになることはできたらしい。
 ボロが出ないうちに、囮役の4人は遊鬼に頼まれていた通り、適当な口実をつけて外に連れ出そうと試みていた。
 ただ、営業時間中に店主が外出するのは不自然だ。
 適当と言ってもうまく騙すのは難しい。もっともらしい口実を考えるには知識がいる。
 技術的なこと以外も教わっていれば別だったかもしれないが、特に急いで覚える工夫もしていなかったので3日ではとても足りなかっただろう。
 無理そうだと判断したケルベロスたちが、ボロが出ないうちに愛美香を隠れさせて攻撃態勢に入る。
 ヴォルフは敵に気づかれぬよう拳を握った。
(「螺旋忍軍のデウスエクス……どのくらい傷つければ、殺せるんだろうな?」)
 殺意と興味はヴォルフにとって同じことを意味する。
 演じている『店主の従姉』には似つかわしくない表情を見せたのと同時に、ヴォルフの拳が店内の空気をかき乱す。
 吹き飛ばされた道化師が店内の棚をなぎ倒した。
 奥から飛び出してきたホワイトがジャグラーを鋭く蹴り飛ばすと、敵は窓際にあった棚とあみぐるみを踏みつけて体勢を立て直す。
「さあ、状況開始……」
 ラズェは思わず言葉を止めてしまっていた。
 ジャグラーが体勢を整えるとき踏みつけたものに気づいたのだ。
 彼が精魂込めて作った『タンポポの綿毛畑』が無残な姿になっていた……。
 朔耶が手にした黄金の果実が輝いた。光を背に、ラズェはジャグラーへと追いすがる。
 移動しながら、ジャグリングを始める敵の弱点を高速で演算。
「これは哀しみに散ったたんぽぽの分! これも、そしてこれもだ!」
 拳を一撃叩き込むごとに、原色の派手な服が破けていった。
 近くでは道化師が遊鬼によって爆破させられている。
「覚悟召されよ。……何人も逃れること、叶わぬ」
 赤い刃の鎌を影二が投げると、それは無数に増殖して道化師に襲いかかった。
「患者さんの苦しみを、貴方も味わいなさい……」
 スマラグダがオウガメタル粒子を散布する後方で、ミリアの作り出した病魔の弾丸がジャグラーを撃ち抜く。
 狭い店内を目まぐるしく動く敵が、それぞれ放ったナイフと氷結の螺旋を放った。ラズェと朔耶のオルトロスが仲間をかばった。

●道化師を狙え
 ケルベロスたちは道化師に攻撃を集中していく。
「……邪魔」
 けれど、接近しようとしたホワイトをジャグラーが阻んだ。
 距離を取りながら戦おうとする道化師にはなかなか接近できない。仕方なく、刀とナイフ、2つの刃をジャグラーへと振るう。
 道化師の側は隙を見て近づき、ホワイトを挑発する。
 ミリアは普段から不機嫌な顔をしていたホワイトが、さらに不愉快そうな顔をしたことに気づいた。敵の技の影響だ。
 彼女だけではなく、炎を浴びた他の仲間たちも回復しなくてはならない。
 薬液の雨を、店の中に降らせる。
 ケルベロスたちを燃やしていた炎が鎮火する。
「ホワイトさんも、落ち着きましたか?」
「別に……怒ってないし」
 不機嫌そうに眉を寄せているのは変わらないが、落ち着いた様子のホワイトを見てミリアは胸をなでおろす。
 ジャグラーに張り付くように接近し、ホワイトは攻撃をしかけ始めた。
 狭い戦場で戦い続けるのは敵にも味方にも都合のいいことではない。
 やがて、自然と戦場は店の外に移った。
 ケルベロスたちは道化師はなかなか倒しきれずにいる。ジャグラーが道化師を狙う攻撃を代わりに受けていたからだ。
 ヴォルフや影二が弱体化させようとするが、分身をまとう道化師はなかなか止めきれない。
 長引く戦いの中、朔耶のオルトロスが倒れ、ラズェの体力も危なくなっていた。
 スマラグダは朔耶とともに、ジャグラーの足止めを試みていた。
「我が劍、万象捻じ曲げる幻妖の刃よ。天光を鎖し、偽りの姿を刻め――玖之祕劍ヘロヤセフ!」
 九つ目の秘剣が光を屈折させ、敵の網膜に偽りの彼女を刻む。
 幾度目かになるこの攻撃で、ジャグラーの目はだいぶ惑わされているはずだ。ジャグリングで態勢を整え直しても、虚像は消えることはない。
 投げつけてきたたいまつ――それによって燃えたのは、味方である道化師だった。
 驚愕する敵に向かい、スマラグダは高々と跳躍する。
「残念だったわね」
 2本のゾディアックソードが十字を描き、超重力が敵を捉えた。

●戦いの終わり
「すまねえ……たんぽぽ……仇を取れなかったぜ……」
 長引く戦いの中、ラズェが氷結の螺旋を食らって倒れ伏した。
 けれど、道化師のほうもすでに限界が近い。
 遊鬼は無言で攻撃を続けていた。
 戦場が店外に移れば、彼のスタイル通りの高速機動戦闘ができる。両手に構えた手裏剣が高速で回転し始める。
 2つの竜巻が彼の両手の先に生まれた。
「バカな……こんなところで私が……」
 挟みつぶした道化師の最期の言葉にも遊鬼はただ無言だった。
 残るはジャグラーのみ。ホワイトやスマラグダの攻撃ですでに傷ついている。
 ただ、ケルベロス側も防衛役がもういない状態だ。
「気をつけろ! 逃げようとしてるぜ!」
 朔耶が仲間たちに警告を発する。
 影二は隙を見て離脱しようとしたジャグラーの横に回り込む。
「逃がしはせぬ」
 螺旋が敵を凍らせ、逃げようとする足を止める。
「些か面妖ではあるが、人に害を為すならば見過すわけにはいかぬ。何を企んでいるのかは知らぬが、全力を以って阻止させてもらう」
 冷徹な言葉とともに影二はさらに敵を追い詰める。
「こうなれば、皆殺しにしてやる!」
「馬鹿の寝言は聞き飽きた……」
 ばらまかれたたいまつの炎に焼かれながらも、ヴォルフが魔法弾を放つ。
 激高した敵はもう逃げる様子もなくヴォルフに狙いを定めた。
「無理はしないでくださいね、ヴォルフさん!」
 ミリアが火傷を負ったヴォルフに心霊手術を施した。
「ポテさん、頼んだぜ!」
 朔耶はファミリアロッドをフクロウに戻して、ジャグラーへと飛ばした。
 スマラグダと朔耶自身、さらに影二が与えた不調をポテさんことポルテが突撃してさらに傷口を広げていく。
 身動きの取れなくなってきた敵に、ケルベロスたちが攻撃を集中する。
 ジャグラーが最後の力を振り絞って投げたナイフがヴォルフの胸に何本も突き立って彼を打ち倒した。
「義兄!」
 怒りの声を上げた朔耶が攻撃をくわえる。
 もはや、戦いの結果は明らかだった。
 ホワイトは至近距離で黒い刀とナイフを収める。
「耐えてみれば?」
 素早く繰り出す拳と蹴りが、ジャグラーを狙う。
 一撃一撃に莫大なグラビティ・チェインを籠めた攻撃を、敵の内部へと打ち込む。
 大量のグラビティ・チェインで安定しない拳を無理やり急所に叩き付けると、ジャグラーはそのまま倒れていた。

●あみぐるみのお店
 店の奥で待っていた愛美香と真理音のところに朔耶が顔を出す。
「どうにか倒せたぜ。うちの義兄やオルトロスとラズェがやられたけど、ひどいケガじゃない」
「まあ……あのお兄さんが。ごめんなさい、私を守るために」
「いや、これもケルベロスの役目だ。気にしなくていいぜ」
 心配げな表情を見せた愛美香に朔耶は答える。ただ、表情には少しばかり陰があった。
 残念ながら店はだいぶ荒れた状態になっていた。
「あー…店の修繕かー。やっとくしかないんだろうなー」
 心から面倒くさそうにホワイトがつぶやく。
「……編みぐるみは手術と作り直しのどっちが良いでしょうか」
 ミリアが手術の準備をしながら首をかしげる。
「作り直しとなれば、申し訳ないが作り方を習った皆に頼むしかないが」
 壊れた棚を片付けながら影二が言った。
「手伝ったらどうだ? 仕事の後なら好きなだけ没頭できるだろう」
「そうだな。次の事件が起こるまで、編み物に集中するのもいいかもしれないな」
 手当てを受けているヴォルフに言われて、朔耶が考える。
「すみません、片づけまで手伝ってもらって」
「なに……悪いのはデウスエクスだ。あんたが気にすることじゃないさ」
 同じくまだ動けない状態のラズェは愛美香を気遣っていた。
「でも、残念ね。片づけが終わったら買い物をしていきたかったのに」
「巻き込まれないように移動させておいた分がありますよ。買い物はできるんじゃないでしょうか」
 残念そうに言ったスマラグダに、遊鬼が冷静な声をかける。
 風が吹けば桶屋が儲かる。
 けれども、ケルベロスたちの活躍で、今回風は吹かなかった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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