継ぎ接ぎの怪物

作者:雨乃香

 日もすっかりと落ちた夜の街。
 冬の間近に迫る夜の風は酷く冷たく、人気の少ない工場街を歩く少女は首元に巻いたマフラーに口元を埋め、小さく身を震わせた。
 歳は十六かそこら、黒縁の眼鏡に野暮ったい厚手のコート。場所も、その格好も、夜の街に遊びに出たという風情にはとても見えない。
「今日こそ足取りを掴むわ」
 そう呟きながら、少女は手元の携帯端末を操作し、映し出される光景と、辺りの風景を照らし合わせる。彼女が開いているのはニュースを纏めたサイトのようで、その見出しには、怪奇、夜の工場街を歩く継ぎ接ぎの死体、という、なんとも胡散臭い文字が躍っていた。
「夜な夜な腐りかけの自らの体を交換するために、生きた人間を求めて彷徨う人造人間……写真に収められれば、私のサイトにも箔が作ってモノよ……」
 ぶつぶつと呟きながら端末に目を落としていた少女は、柔らかな何かにぶつかった。
「あたっ! あっ……すみません」
 尻餅をついた少女はその視界に映った、ほっそりとした足に反射的に謝っていた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 頭上から降る言葉に、少女が顔を上げるよりもはやく、その胸元に大きな鍵がつきこまれていた。
 悲鳴を上げる間もなく、少女の体はその場に倒れふし、変わりにその隣で、何かがのっそりと立ち上がる。
 それは継ぎ接ぎだった。額に走る縫い目を境に変わる、髪の色と、その長さ。左右の色も大きさも違う瞳、太い腕と、ほっそりとした美しい手、体と顔の基部はおそらく女性と思われるものの、それに性別という概念が存在するのか、そもそもにして怪しい。
 継ぎ接ぎの怪物は、明かりの疎らな夜の工場街をゆっくりと歩みだす。

「すっかり寒くなって、皆さんお風邪をひいてはおりませんか? 日頃より体調には気をつけて、暖かくしていてくださいね? 特に、今回は夜の出撃ですし、しっかりと防寒対策をしていきましょうね?」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はそういいながら、短いスカートを翻し、ケルベロス達の前に暖かな飲み物を並べると一つ咳払いをしてから、話し始める。
「今回皆さんにお相手してもらいたいのはオカルトマニアの少女の興味から生まれた、継ぎ接ぎの怪物です。なんでもここ最近噂になっている都市伝説がモデルらしく。とある工場で秘密裏に人の死体を継ぎ接ぎにして作れた人造人間だそうで、自らの腐りかけの肉体を新鮮な人体と交換するために、生きた人間を襲うそうです。
 なんともまぁ、今時聞かない捻りのない感じのレトロな都市伝説ですが、現れてしまったものはしかたないですね?」
 やれやれと首をふり、ニアは溜息を一つ吐いて端末を操作し、情報を映し出す。
「目標は人気の少ない夜の工場街を彷徨っています。うっかり一般人が鉢合わせ、という可能性もなくはないので、人払いくらいはしておいた方がいいかもしれません。
 目標の知能はそれ程高くないようで、死んだふりをすると、軽く体を揺すったりして反応が無いか確認した後、何もなければそのまま去っていくとか……。体験談を創作するために点けられたフレーバーなんでしょうかね……?」
 作戦にいかせるかどうかはわかりませんが一応、覚えておいて損は無いでしょうと、語った後ニアは続けて、敵の用いる攻撃についても説明していく。
「さっきも言ったとおり知能は高くないようで、肉弾戦が主のようです。ただ、そこそこ力はあるようなので、一応お気をつけください」
 説明を終えるとニアは、小さくくしゃみをしたのち、やや恥ずかしそうにしつつ、それをごまかすように声を張り上げた。
「寒空の下、犠牲者は眠ったままですからね。急いで目を覚ましてあげないと、風邪を引いてしまいます。さぁ、いきましょうか皆さん」


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
エンミィ・ハルケー(白黒・e09554)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
藤林・シェーラ(詐欺師・e20440)
ケオ・プレーステール(燃える暴風・e27442)

■リプレイ


 住宅街からやや離れた場所に位置する工場街。
 街の明かりは遠く、薄暗い夜の闇に沈み立ち並ぶ、飾り気のない効率だけを求められた無機質な建物の群れは、ホラー映画のワンシーンのように、かすかな月明かりに照らされ、その輪郭をぼぅと浮かび上がらせている。
 そんな不気味な夜の工場街には不釣合いな、おかしな一団が連れたって建物の間の細い路地を歩いていた。
 背丈も種族も年齢も、まるでバラバラな彼らであったが、その口からこぼれる言葉には幾つもの共通点があった。それは、都市伝説。
「目撃証言があったのはこのあたりでしょうか?」
 先頭を歩いていた結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は足を止めて軽く周囲を伺う。路地の先、ひしめき合う工場と工場の隙間、人が並び立てるやや開けた場所。
「あぁ、ちょうどこの角度からだと写真と合致しますね。間違いないかと」
「へぇ、ここがあの継ぎ接ぎの怪物に襲われた人がでた場所かぁ」
 同じくその場で足を止めた羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)はレオナルドの言葉に、手にした携帯端末に映し出された画像と周囲の景色を見比べ、その隣で藤林・シェーラ(詐欺師・e20440)は興味深そうにその継ぎ接ぎの怪物が現れたという場所を興味深そうにしげしげと眺めている。
 そんな彼らの様子を、何も知らない人達がみたのであれば、オカルトマニアのオフ会にでもみえたかもしれない。しかし、ここに集った八人はそのようなミーハーな集団ではなかった。
「しかし継ぎ接ぎの怪物とは、フランケンシュタイン……の怪物みたいだね?」
「ハロウィン終わって冬も近いのに、まさか仮装なんてことはないかな?」
 ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)が辺りに視線を走らせながら軽く呟いた言葉に、篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)はそんな思いもしない言葉を重ねつつ、用心深く、周囲の情景や物音に注意を払っている。
 噂話は撒き餌であり、彼らはいうなれば囮であった。
 最近この辺りに流れているという、継ぎ接ぎの怪物の噂。その噂を元に生まれてしまったドリームイーターをおびき寄せ、叩くためにケルベロスという接点をもつ彼らはここに集っていた。
 中にはレオナルドや紺のように少なからず噂の怪物に対し怯え、苦手意識を持っているものもいたが、間違いなく彼らは継ぎ接ぎの怪物のドリームイーターを倒すためにやってきた一団であることは間違い無かった。
「……しかし、寒い夜だ」
 そんな怯えつつも囮としての役目を果たしてくれている仲間の姿をケオ・プレーステール(燃える暴風・e27442)はやや離れた位置から眺めながら呟く。
 囮として行動する五人とは別に、現れた敵を包囲し、先制を仕掛けるために彼女と、エンミィ・ハルケー(白黒・e09554)、姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)の三人は敵が動き出すのをじっと待っている。
「雰囲気、は十分……はやク拝見したい、ものデス」
「あたしはあんまり得意じゃないから……心の準備ができるのを待って欲しいかな」
 不思議な抑揚の電子音声のような声で喋るエンミィに対し、ロビネッタは寒さだけでなく、かすかな恐怖から体を震えさせ、視線を仲間達の方へと向ける。
 吐く息が白くにごり、くらい夜の闇に消えたその時、金網のけたたましく揺れる音が静かな夜の工場街に響いた。


「今のは……?」
「きたみたいだね」
 顔を青くしつつ呟く紺に対し、安心させるようにヴィットリオは軽く笑みを浮かべそう返す。
 即座に何者かの接近に気がついたケルベロス達は、事前の手筈通り、それぞれが動く。
 囮として動く五人は、噂話の継ぎ接ぎの怪物への対処法の通り、その場で死んだふりを行い、その様子を離れた位置から見守っていた、ケオをはじめとする三人は、彼らのすぐ傍へと静かに移動する。
 そうしてお取の五人が地に伏せたのとほぼ同時、それはすぐさま現れた。
 額の縫い目を境に左右で色も長さもバラバラな不思議な髪。大きさも色も違う、おぞましい瞳。アンバランスな左右の手、顔と体、少女のものと思われる小柄なそれと裏腹に、片手と片腕は逞しく、それは酷く醜い容姿をしていた。
 まさしく継ぎ接ぎの怪物と呼ぶに相応しいそれは、地に転がる幾つもの人の体を見つけると、その動きを止め、子供がするかのように、首を体ごとカクンと傾け、不思議そうに首を傾げた。
 歳相応の子供がやれば微笑ましく映るであろうその行為も、目の前の怪物が行えば、湧き上がるのは嫌悪感以外にない。
 ひとしきりそうして、五人のケルベロス達を眺めた怪物は、不意に一番近くに倒れていた紺の方へと振り向き、その顔を覗き込む。
 その距離は必要以上に近く、紺の顔を怪物の生温い吐息が撫でる。
 それは酷く不快なにおいをしており、紺は思わず眉を寄せそうになるのを必死に堪えた。
 恐怖に震えそうになる体を、口を、押さえつけ、唇をきつくかみ締め紺は何とかその時間を耐え切った。
 怪物は、ぶらりと紺の傍を離れると、ヴィットリオの顔を覗き込み、メノウの肩を揺さぶり、シェーラの柔らかな頬をつつき、飽きたかの様に立ち上がると、最後にレオナルドへとひたひたと裸足の足音を立ててゆっくりと近づいた。
 紺の時の様にその顔を覗き込んだ怪物はふと、レオナルドが死んだふりのため、口の端から垂らした血液代わりのトマトジュースに目を向けた。
 怪物は緩慢な動作でレオナルドの口元へとその指を伸ばす。。
 口元に触れた指の感触は、生きた人間のそれはとはまったく違う。
 ぐずぐずとして、今にもその形を維持できず、腐り落ちてしまいそうな冷たい指が唇に触れていた。
 怖気の走るその感覚にレオナルドの意識が酷く揺さぶられる。
 怪物の指がジュースを掬い取り、レオナルドの唇から離れる。ホッと息をつくのも束の間。怪物はそれを自らの口へと運ぶ。ケルベロス達の間に緊張が走る。
 だが、下手に動けばそのままレオナルドの無防備な頭部が潰されてしまうかもしれない。
 飛び出したい衝動をケオは必死に堪え、固唾を呑んで顛末を見届ける。
 怪物は味わうように指に付着したそれを舐めとり……首を傾げた。
 誰もが、ダメだと思った次の瞬間。
 怪物はその場に転がる五人のケルベロス達からまるで興味を失ったかのように、ゆらゆらと体を揺らしながら、その場を立ち去ろうとする。
 怪物にまともな味覚が備わっていなかったのは、ドリームイーターとしての特徴なのか、それとも噂がその細部にまで拘って作られていなかったためか……どちらにしろケルベロス達の前に、事前に想定されていた通りの好機がしっかりとやってきていた。
 待機していたロビネッタが息を呑み、そっとケオとエンミィに目配せをする。
 二人が同時に頷きを返すと、三人は短く息を切り、一斉に待機場所から飛び出した。


「待ち侘びたぞ! 覚悟するんだな!」
 物陰からいち早く飛び出したケオの蹴りが怪物の背を痛烈に蹴り抜く。
 続けざまに、エンミィがライフルから放つ光弾が怪物の体を押し潰すかのように飛来する。振向きざま、怪物が振り上げた腕を、ロビネッタの抜き放った銃の弾丸が打ち抜き、その出鼻を挫く。
「囮捜査成功だねっ」
 苦手な見た目の敵といえど、こうして相対し、攻撃が通じるとわかり、ロビネッタは自らを鼓舞するように口に出しながら、怪物を見据える。
 怪物の巨体が揺れ、不釣合いな腕から血を流し、だらりとそれを下げる。
 異形の双眸は怒りに満ち、ケルベロス達の攻撃にほつれた背の糸が内臓のようにぶらりと垂れ下がり、揺れる。
 右側だけ頬まで裂けたその口で歪んだ笑みを形作り、怪物はロビネッタに狙いを定め、襲い掛かる。
 一度は平気だとそう思いはしても、間近に迫る怪物の異形に、ロビネッタは声を失う。ケルベロスと言えど、年端もいかぬ少女が直視するには、怪物のその姿はあまりにもグロテスクだ。
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」
 怪物の背が、目にも留まらぬレオナルドの斬撃により、ズタズタに切り裂かれる。
 先程まで死体として認識していたレオナルドに背中かから手酷い攻撃を受けたのがよほど不思議なのか、怪物は何度も自身のモザイクの覗くその傷跡と、レオナルドの姿を交互に確認し、やがて、声にならない咆哮をあげた。
 胸をそらし、両の腕を強く握りこみ、大きく開いた口を天に向け怪物は咆える。その咆哮に音はなく、しかしびりびりと震える空気越しにその怒りがケルベロス達にはひしひしと伝わってくる。
 怪物のその挙動と、先程の恐怖に、震えそうな足で紺は踏み出す。
 自らの恐怖を打ち払うべく、怪物の前に躍り出た紺はその掌を怪物へと向け、その体に住まう黒い意思をもつ液体へと命令を飛ばす。
 すぐさまブラックスライムは使役者の命に従い、大きな顎を形成し、怪物の体を飲み込まんと襲い掛かる。
 怪物が反応する間もなく、その体はブラックスライムの中へと取り込まれ、次の瞬間、黒い液体が周囲へと弾け飛び、怪物がブラックスライムを引き裂き、紺へと飛び掛っていた。
 見かけと裏腹にその動きは素早く、力強い。
 咄嗟に紺は怪物の拳を受け止めるものの、その軽い体は易々と宙に浮き、工場の壁面へと強かに打ちつけられる。
 受身を取るまもなくたたきつけられ、息つく暇もなく、迫る敵の姿が彼女の視界に映る。
「喰らいたくはないけど……ね」
 そんな言葉とは裏腹に、ヴィットリオは紺を背に庇うように飛び出し、怪物の体を抉り取るような一撃を、受け止めた。
「ディート!」
 相棒の名を呼べば、黒と紅の車体が唸りをあげ、怪物へと向かい突進する。
 怪物はすぐさまヴィットリオへの攻撃の手を止め、その車体を受け止めると即座に飛び退り、その後を追って放たれたヴィットリオの矢が、怪物の胸元を穿つ。
「大丈夫?」
「助かりました……」
 声をかけられ、体勢を立て直した紺は礼をいいつつも、先程の攻防で一層敵への警戒を強めたのか、目は自然とそちらへと向かっている。
「頭は回らないみたいだケド、身のこなしと勘はいいみたいだねぇ」
「了解、シェーラ君、仕掛けるよ!」
 言葉とともにメノウとシェーラの二人は同時に飛び出す。
 それを迎え撃つべく怪物は両腕を広げ、振りかぶる。
 右から襲い来る一撃をシェーラは受け止め、左から来る一撃にメノウは斬撃をあわせる。
「受けてみなよ、篁流剣術、偃月!!」
 怪物の右腕が切り飛ばされ、跳ね上がった剣先を返し、切り下ろしの一閃。怪物の腕に篭る力が弱まると同時シェーラが受け止めた左腕を弾き返し、敵の体勢を崩すと、その頭部に炎を纏う渾身の一撃を叩きつける。


 怪物の皮膚が焼け、糸がほつれ、その下からモザイクが姿を現す。
 都市伝説を元にしたそのドリームイーターは興味を持った対象の想像の及ばぬところまでは作りようもなく、その皮膚の下に広がるのは紛れも無いドリームイーターの体そのものだ。
 とはいえ、それはそれで不気味な姿であることに変わりは無い。だが、得体の知れぬ怪物に比べれば、デウスエクスの相手であれば、ケルベロスは慣れたもの。
 落ち着きを取り戻し、呼気を短く切り、紺は敵の動きを見据える。
 怪物は更に増えた傷に怒っているのだろう、身を低く屈め今にも飛び出しそうな構えを取っている。
「どうした怪物、怖がらずにかかってきたらどうだ?」
 余裕の態度を見せるケオとその後ろで画面を点滅させ、挑発するテレビウムのキオノスの様子に、怪物はあっさりと触発され、力強く地を蹴る。
 だが、その前には、レオナルドが立ちはだかっている。
 邪魔なものを打ち払おうと、腕を振り上げ、下ろそうとする。
 その腕をシェーラの操る黒鎖が縛り上げ、レオナルドの斬撃が怪物の体を薙ぐ。かしぐ怪物の体、紺は狙いをその頭部に定める。
 その腕を怪物の体から垂れた糸が捕らえる。その太い糸は紺の左の掌を貫き、手首から肘までをミシンで縫いつけるかのように縫い上げ、その腕を拘束しようとする。
 その痛みは計り知れないものだろう。しかい紺は叫びも、涙も浮かべることなく、あろうことかその糸を強く引いた。
「繋がれたということは、貴方も動けないということです」
 淡々と言い放った紺は左腕を強く引き敵の動きを封じると右腕をしっかりと伸ばし、礫を撃ちだす。
 それは、狙いを違わず、怪物の額を打ち抜き、糸がその腕からするすると抜けていく。
「ドローンくんたち、回復、よろしク」
 エンミィの操るドローンの群れが小さく切り取られた空を舞い、紺の傷を癒していく。
 ロビネッタは、紺の受けた傷がエンミィの手によって治療されていくのを確認すると、先程の紺の一撃に、膝をついている怪物に向けて銃を構える。
「よーし、ここにサインを印そう!」
 立ち上がった怪物の体を無数の弾丸が貫く。柔らかなその体を弾丸が突き抜け、あるいは体内に留まり、その体を穴だらけにし、その場へと縫いとめる。
 R.H.と描かれたカードが宙を舞い、怪物の目の前を通り過ぎようとしたところで、ケオが敵に向けた掌から、龍の幻影が立ち昇る。
「終わりだ、情熱の炎に身を焼かれるがいい!」
 ズタボロになった怪物の体を龍が飲み込み、その肉を焦がす。
 体を繋ぐ糸が焼け落ち、怪物の体は崩れ、肉片が炎に焼かれていく。
 薄暗い路地の中央で、真っ赤な炎が煌々と燃え盛っていた。


「だ、大丈夫ですか?」
 肩を揺さぶられ、声をかけられ少女は目覚める。
 野暮ったい眼鏡のレンズの向こう、視界一杯に浮かび上がるのは、レオナルドの真っ白な狼の顔と、口元から垂れる真っ赤な液体。
 悲鳴が、夜の工場に木霊する。
 レオナルドはそこでようやく自分の状態に気づくと慌てて口元を拭い、なんでもないと少女に元通りの姿を見せる。
「あったかいもの、どうぞ!」
 そんな様子をおかしそうに眺めていたロビネッタはすっかり体の冷えてしまっている少女へと暖かなペットボトルを差し出す。
「夜の工場街に、悲鳴、それにライオンの獣人……」
「新しい都市伝説ができるんじゃないかな?」
 メノウの悪乗りするような言葉に、シェーラも乗り、困ったようにレオナルドが頬をかく。
「継ぎ接ぎ、の怪物さん。あなた、は何を想い、何、を感じていマシタか……?」
 帰ることの無い電子の音の問いが虚空に消え、その想いを夢想するエンミィは最後に地面に残った焦げ痕をヒールすると、おつかれ、とケオがその背を軽く叩き、二人は仲間達のほうへと歩いていく。
 継ぎ接ぎのようなまるで接点のなさそうな彼らは、しかし、互いに笑いあい、健闘を湛え、少女の話す都市伝説に耳を傾ける。
 例え不恰好でも、彼らは確かにしっかりと繋がっていた。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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