秋のスウィーツ・フェスタ

作者:朱凪

●秋のスウィーツ・フェスタ
「行こうぜ!」
 瞳をきらきらさせて少年が突き出したチラシをとりあえず受け取って、けれど友人らしい少年は片眉を釣り上げた。
「これ、近所の商店街のキャンペーンじゃん」
「そう! 食べ歩きスウィーツ15種類制覇したら割引クーポンプレゼント!」
「行こうもなにも、勝手にやれよ……食べ歩きなんだからハードルも高くねぇし、期間内に食い切ればいいんだろ?」
 ひとりでも無理ないじゃん。そう続けた友人へ、少年は大きく首を振る。
「それがさ! 1日で食い切ったらなんと! 南瓜魔女が連れ去りに来るらしいんだ……」
「おいおい、ハロウィンはとっくに終ったぞ」
「だからだよ! ハロウィンに帰り損ねたオバケが、『仲間』だと思って魔界に一緒に連れ帰る……ってことらしいんだ。いやバカバカしいって俺も思ってるって。でも、こんな噂が立つってことがなんか怪しくね?」
 きりっ、と真面目な顔をした少年に、友人の少年は明らかな呆れ顔。
「……パス」

「ちくしょー、友達甲斐のない奴め」
 友人と別れた帰り道、少年は呟きながら突き返されたチラシに視線を落とした。
「……絶対楽しいと思ったし……なんかさ、だって、可哀想じゃん……。いやそりゃついて行けるわけじゃないけどさー、……いや、俺だけでも。せめて見送ってやりてぇし」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
「へっ?」
 上げた視線の先には、蒼白い肌、白い髪、妖しい光を灯す紅い瞳の魔女。生気の薄いその姿からは想像もつかない疾さで繰り出された鍵が、少年の胸を突く。
 意識を失って崩れ落ちた少年の傍に、ゆらりと立ち上がる黒衣の南瓜。
 その手には命を刈り取る鋭い鎌が握られていた。
 
●秋のスウィーツを満喫しよう
「食べ歩きスウィーツって素敵ですよね……!」
 苺色の瞳を輝かせて、エルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)は告げる。
 お菓子作りが好きな彼女にとっては、当然お菓子を食べることも『素敵なこと』。
 同じく製菓好きの暮洲・チロル(夢翠のヘリオライダー・en0126)も肯く。
「そうですね、Dear。しかし俺は、そんなに食べられる気がしませんが……」
「だからみんなで行くんですよ! 複数人でひとつのキャンペーン・カードを埋めるのも、反則じゃないらしいんです」
 ぴっ、と既に用意した白紙のキャンペーン・カードを見せて、エルトベーレは笑う。
 なるほど、と肯いてチロルは手帳を繰った。
「現れる敵は『南瓜魔女』。黒のローブに南瓜頭、手には大鎌……所謂『死神』のような姿の南瓜頭です。キャンペーン・カードを埋めた時点で現れますがすぐ戦闘にはなりません。どうやら『自分が何者であるかを問う』そうです」
 そこで宵色の三白眼を、ケルベロス達に向ける。
「つまり、うまく返事ができれば、ひと気のない場所……被害の少ない場所へ誘導することも可能だということです」
 うまく言ってあげてくださいね、と告げた彼に、彼女も肯いた。
「南瓜魔女の噂を信じているひとに引き寄せられる性質があるみたいですね」
「そうです。それにこの南瓜魔女を倒せば、この『興味』の持ち主である少年は無傷で目を醒まします」
 彼の言葉を受けてエルトベーレはヘリポートに集まった仲間達へ、ね、と視線を向けた。
「ドリームイーターに奪われた男の子の『興味』が、新しいドリームイーターになって他の方を襲う……そんなの、放っておけませんから」
 そして彼女はぎゅっと拳を握った。
「食べ歩きスウィーツ、全制覇しましょう!」
 力強い肯きがいくつか返るのを確認して、チロルは「心強いですね」と笑った。


参加者
エルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)
ツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661)
ルルゥ・ヴィルヴェール(竜の子守唄・e04047)
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)
ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)
イジュ・オドラータ(白星花・e15644)
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)

■リプレイ

●フェスタ開幕
「スウィーツ食べ歩き……なんて素敵なイベントでしょう!」
「甘いものがいっぱいな、ここは天国でしょうか……」
 商店街のアーケードを飾るキャンペーンの幕や幟を見渡し、エルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)が両手の指を組み、ルルゥ・ヴィルヴェール(竜の子守唄・e04047)も長い前髪の下で琥珀色の瞳を輝かせた。
「ど、どれもおいしそう……!」
「あれも美味しそうだよ! あっキャンペーン対象外……?!」
 きょろきょろわくわく、目移りするイジュ・オドラータ(白星花・e15644)の袖を引いたリィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)が、見付けてしまった蜜柑大福。どうしよう、あれも食べたい……! 思わず零した声に、彼の傍で大切な家族であるトパーズを抱いた灰縞・沙慈(小さな光・e24024)もこくこく。
「見てるだけで幸せンなれそーな光景じゃのォ」
 はしゃぐ仲間達の少し後ろ、早速キャンペーン・カードにスタンプをひとつ捺したぶどうソフトを手にドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)が呟けば、その顔を覗き込んでツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661)がにやにやと笑う。
「へーぇ? ほー?」
「な、なンじゃいその面ァ……」
 悪友のような存在の視線が気恥ずかしいのは──八割方そいつの所為だ。断言できる。
 残りの二割は。ちらと見遣った視線の先、グループの先頭でキャンペーン・カードを手にきらきら輝く苺色。自然と綻ぶ口許を悪友に見られぬよう、最後のコーンを押し込んで。
「どうだ?」
 冷えた指先にグレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)が差し出すホットコーヒー。
「別のもんを探すつもりが、美味そうな対象外ばっか見付けちまう。どっちが本題か、忘れねえようにしないとな」
 スイートポテトを片手に、悪戯っぽい笑みと揺れる尻尾は年相応。ありがたくカップを受け取りながらドミニクが肯き、ツヴァイが肩を竦める。
「ま、食って仕事で一石二鳥っすよ!」

●シェア・パーティ
 ふわふわのシューをひと口かじって、中身をチェーック!
「! トパーズ、和栗だよ!」
 クリームがモンブランなのも嬉しいけれど、たっぷり詰まったそれは和栗のやさしい甘さでけれどしつこくない。
「沙慈ちゃん、僕にも! こっちの南瓜餡の大福も美味しいよ、食べて食べて!」
 ぱたぱた翼を動かす彼女に、リィンハルトが三色大福を差し出す。
 むにー、と伸びる餅に甘い餡子、瑞々しい葡萄。三色の内のひとつを頬張って、ルルゥも幸せそうに相好を崩す。
 パリパリと音を立てる最中にずっしりの栗餡も「……最高っ!」うっとりなイジュがはい、と沙慈に差し出す。
「中のがね、マロングラッセなの!」
「!」
 ぴんと伸びた背筋。そわそわと伸びた手が受け取る傍ら、ふわふわの耳をぴょこぴょこと跳ねさせて、「見てください、ドミニクさん!」手にしたものを彼に見せるエルトベーレの顔は誇らしげ。
「秋色ドーナツですよ! それにタルトタタンの林檎のキャラメリゼって、幸せがぎゅってなった味ですよね!」
 例えふたりの距離が変わっても、彼女にとって彼が『素敵なもの探し』の師匠であることには変わらない。差し出す淡い色合いのチョコからは甘く香ばしい栗の香りがふんわり。
「あァ、美味そうじゃのォ」
 チョコよりも甘く蕩けそうな笑顔につられ、ドミニクは彼女の頭をぽふぽふと撫でて──はたと我に返った彼女はぱぱっと頬を赤らめた。
 カシャ。
 そこに響くシャッター音。
「……なにしとンじゃ、ツヴァイ……」
「いや、ドーナツも美味そうっすねマロンチョコとか! 俺も買って来るっすよー」
 切り分けてもらったタルトタタンを片手に、享楽パパラッチ、脱兎。

 好むのは素材の味を活かしたもの。
 賑やかな面々を眺めながら、シナモン香る柔らかな焼き林檎をひと口、グレインは思わず口許を緩めた。
 ──前より甘いものを食べることも増えたな。
「食うか?」
「食べる食べる! 折角だからぜんぶあじわいたいもん……!」
 欲張りは自覚済み。せっせとしっとり甘いさつまいもタルトを攻略していたリィンハルトが誘いに飛びつき、その姿に思い起こすのは知人の影。食べ切れないほど注文を重ねたそのひとと共に過ごしたから、シェアには慣れている。
 逆に同年代の仲間でこうして楽しむことがなかったルルゥにとっては、新しい時間。掬ったかぼちゃプリンはしっかりとした食感で、
「甘いかぼちゃとカラメルの苦味が絶妙で美味しいです」
 ふにゃりと笑う彼女が更に興味を惹かれたのは、故郷のお菓子、シブースト。
 ──わたしだって大人だもの。大人の味には惹かれちゃう!
 とびきり甘いのも魅力的だけど、とイジュがそれをひと掬い。口に運べば、「!」プリンにふわりとワインの香り。大人の味ってこういうこと! 粒を感じるいちじくも淡く甘く、思わず頬を押さえて幸せにもだもだ。大人の味に頬緩めたのはドミニクも同じ。
「おォ。これはえェのォ」
 ベーレ、どうじゃ? さらり差し出されたスプーンを彼女は喜び勇んでぱくりくわえて。
 ──あれっ、これって……、
「ルルゥちゃんも気になるならどーぞ! あーん!」
「わ、ありがとうございますっ」
「……っ!」
 仲間に図らずも再現されて、再認識。朱い顔で見上げた先の彼は、涼しい顔で視線を逸らした。

 固めのタルト生地にたっぷりの洋梨は甘く誘う。
 結局ほとんどを買い揃えシェアして食べたお蔭で、折角の割り振りもあまり意味をなさず、結構おなかはいっぱいだ。それでも。
 ──みんなで美味しい味をシェアして共有する時間、とっても素敵だよね♪
 仲間達の笑顔にリィンハルトも負けず笑みを零し、瑞々しいタルトにかぶりつく。
「珈琲ン礼じゃ」
 好みそうだとグレインにドミニクが差し出すのはシンプルな干し柿。糖分が白く浮いて、しっかりした噛み心地の中に天然の甘みが滲み出す。
「ああ。ありがたく貰うぜ」
「ね、見て、見て、です……!」
 そこへ沙慈が持って来たのは、大きなパフェ。小さな彼女の手にあるとは言えど、それでも両手に納まらないのは『食べ歩き』用としてはいかがなものか。
 だけど構わない、気にしない! 秋色パルフェの登場に、乙女達の瞳が輝く。
「うわあ、本当に秋が丸ごとって感じだねっ! どこを食べるか悩んじゃう……!」
 葡萄、林檎? それとも梨? 栗も、さつまいもスティックも、あっこのクリームって、もしかして南瓜? 上のは紫芋アイス、なんて贅沢!
「幸せが詰まって、溢れてます、ね……!」
 イジュとエルトベーレが思わず見惚れ、だけどいつまでも見つめてるだけじゃ勿体無い!
 みんなで分けてひと口。またひと口。
「一口一口、甘さが詰まっててとても美味しいです」
「それじゃ俺はここもらうぜ」
 ルルゥの言葉に、ひょいと掬った栗はほろりと崩れ、素直にグレインも同感だと思う。
「あっという間だね!」
 器を持ってくれている沙慈の口にたっぷりのクリームと一緒に栗を運んであげながらリィンハルトが言えば、「こンくらいなら余裕だァな。全部丸々ひとつでもいけらァ」けらりとドミニクも笑う。
 ──くりくりー、美味しいぞー。
 頬を緩めた沙慈が仲間にお願いしてトパーズにも林檎をひと欠け、「おいしい?」と訊けば、家族も幸せそうに丸い目を細めて見せた。
「埋まってきたな、次でいよいよお出ましか」
「そうっすね」
 キャンペーン・カードを覗き込んで呟いたグレインに、かりかりのさつまいもスティックを噛み砕いて、ツヴァイが買い求めたのは梨のコンポート。用意は良いかと視線だけで問えば、仲間達は肯き返す。
 適当に食べ歩いたわけじゃない。
 最後のスウィーツを食べ切れば、敵が現れる。場所は商店街、極力被害は出したくないと、ひと通りの少ない場所を探しながら来た。
 道中、『敵』の噂もしながら。
「さくっと食うつもりだったっすけど……ま、うん、食べやすくて良いっすね」
 どっしり甘かったパルフェの後なら、甘さ控えめの生クリームはさっぱりして後味が良いくらい。
 他の仲間にもと買ったもうひと皿を受け取り、ルルゥも他の仲間達と分け合って。
 最後のひと口と同時に──ゆらり、南瓜頭の死神がどこからともなく現れた。
「ワタシ、ハ、ダァレ?」

●ラスト・ハロウィン
「おっと、舞台役者さんか? 演劇ホールはここじゃねえぜ」
 問いにわざと間違え、誘導する。そう決めていた。
 だけど。

「違ウ! ワタシハ、仲間、ダ!!」

「ぐッ──!」
「「!」」
 途端に激昂した南瓜頭の大鎌が、グレインの肩を深く穿った。素早くリィンハルトが放つ殺気。か、と開いたルルゥの瞳。浮かび上がる魔術の糸がグレインの傷を縫合する。
 ──そう、か。
 この『南瓜魔女』は、『ハロウィンに帰り損ねた』『可哀想な』魔物なのだ、興味の元である少年にとって。
 楽しくお菓子を分け合った仲間達とは違う扱いをされたならば、悲しく思うのも、
「……ごめんなさい。そうですよね」
 エルトベーレはきゅ、と瞳に力を籠めて、周囲に向けて声を張り上げた。
「私達はケルベロスです! 私達が戻るまで身の安全を第一にお願いします!」
 そして、南瓜魔女へ向き直る。
「……魔女さんには、ハロウィンの世界にお帰りいただきます!」
 ついていくことはできないけど、見送りだけでもと。彼が望んでいたのだから。

「甘いは幸せ、幸せでこそ人生!」
 ふわっ、とスカート泳がせ、跳躍したイジュが振り上げるのは、身の丈以上の巨大な斧。光を纏う刃が重力と速度を乗せて、南瓜頭へ一閃する。
「そんなステキな一時を邪魔しようなんてふとどき者は成敗だよっ!」
 ──食べ歩きの楽しみも、甘いものを食べる幸せも、壊させたりなんてしないんだから!
 悪戯気に星を宿す菫色の瞳が、ね、と同意を求めるかのように沙慈へと移り、彼女はこっくりと肯く。
「幸せな気分の邪魔しちゃダメなのですよ」
 いくつも湧き上がった小型治療無人機が、前衛の仲間達へと加護を与える。──皆を少しでも守ってね。彼女のやさしい願いを乗せて。
 やれやれと軽く頭を振って、グレインが姿勢を正す。まっすぐ見据える、南瓜魔女の大鎌。
「そいつは菓子を食べるにゃ物騒すぎるぜ」
 封じてやりたいが、あいにくと手持ちの術にその効果はない。仕方ないと軽く嘆息、「その南瓜も」ガリ、と地を掻くように放った炎が奔って、黒いローブに火の粉が絡む。
「よーく焼いたら甘みがでるかね」
「アアアァア!」
「あ、ちょっと良い匂いするっすね」
 嘘か真か、おどける様子で告げる台詞。羽ばたく地獄の炎で補った左の翼。纏う業火から掴み出すかのように振り抜く、巨大な刀身──『魂喰竜の牙』。
「とっとと退場してもらうっすよ。さっと終わらせて、食べ歩きの続きと洒落こみたいっすからね!」
 炎熱脈打つその牙が、名の通りに敵へと喰らいついた。

「……帰ル、帰ロウ、一緒ニ……!」
 炎に巻かれ、トパーズのキャットリングに武器を振るう動きも鈍った南瓜魔女は、それでもほとんど闇雲にそれを投げた。
「!」
 咄嗟のことに瞬時身を竦ませたエルトベーレ。その前に丹色の姿が飛び出して、凶刃から仲間を庇った。
「沙慈ちゃん!」
「……平気」
 花緑青の瞳が静かに敵を見据える。それは自分に言い聞かせるかのような、独り言。
 ──みんなが赤いのを流すよりは、ね。
「大丈夫! 任せてください」
 仲間達が回復に回ろうかと目配せするのを受けて、ルルゥが首を振る。大丈夫。大丈夫。失敗、しない。
「帰ろう、と言いましたね」
 仲間の傷口に掌を翳し、意識を集中する。魔術の淡い光帯びて、迅速に適切な処置が施されていく。
「興味から生まれた南瓜魔女さん。あなたを本来あるべき場所へ還す事が、私たちの仕事です!」
 ぎゅ、と両手を握って施術の終了を示し、敵を見遣った琥珀の瞳が炯と光った。
 それに応じるかのように剥かれたのは糸切り牙──ポイント・マーダー。どん、と響く音が届くが速いか、射抜いた神速の連弾。ぐらり傾いだ南瓜の周囲に現れたファミリアロッド。それは途端に彼女の大切な三匹の仲間──小鳥と栗鼠と兎へと身を転じた。
「りっちゃん、カイ、ハイルさん、ファイトです!」
 おともだち大集合!──ファミリア・マーチ! 無秩序な攻撃が南瓜の魔女を翻弄し、惑うその姿の前へと、蒼みを帯びた長い白髪と白いポンチョが躍った。
「素敵な時間を邪魔する魔女さんはメッ! だよ!」
 差し出した手。リィンハルトの伸ばされた指先に、ぽつり、雫。
「逃すを赦さず。刺し注げ、檻の熾雨──!」
 敵を隔絶する熾烈な雨が、南瓜の死神を捕らえて穿ち──そして雨が止む頃には、その姿はすっかり消え失せた。
「ハロウィンに帰り損ねた魔女さん……甘いスイーツじゃそのモザイクが晴れないのがちょっぴり残念、だったけど」
 だけどきっと、今度こそ。
 『彼』の元に、『還った』はずだ。

●フェスタ、再開!
 戦いを終えて、エルトベーレが一般人達にもう安心だと声を掛けて回るのを遠くで聞きながら、ドミニクは剥がれた石畳にヒールを施し、ぽつり。
「あー、食べ歩き、もう一周してェ……」
 その台詞に共にヒールしていた沙慈は「! 行きたい……!」とめいっぱい肯き、ルルゥもにっこり笑う。
「折角ですし、もう一度スウィーツを食べて回りませんか? 割引クーポンもあることですし、お土産に何か買っていきたいです」
「さっきのあれ、気になってたしな」
 ぶらり再発見の効果で見付けた『対象外』に心揺れていたグレインも口角を上げれば、なになに、とイジュが食いついて。
「あ、そうだ! 写メ撮ってチロルくんにも見せてあげよっか。食べ歩き実行中、って!」
「お、いいな」
 小食な誰かさんもあれなら行けそうかと思い巡らせ歩き出す背中を、リィンハルトが追い越す。
「もっともっと、美味しいスイーツみんなでいっぱい楽しも!」
「いいっすね、まだまだイケるっすよ」
 へらり笑ってツヴァイも軽く顎を上げる。ちらと更に背後を一瞥して、意地の悪い笑みをにやり。
 ──貸しひとつ、っすよ。
 ……なんて。

「……干し柿、土産に買って帰れンかな、家用に」
 誰も見ていないのを確認して、そっと繋いだ手。また驚かせるかな、とこっそり見遣ったエルトベーレの表情はやっぱり朱いけれど、どこか確かに嬉しそうで。
「秋色スウィーツ、まだまだめいっぱい楽しみましょうね!」
 ……ね、……ニコラスさん。
 元気いっぱいな台詞から急転、隣に並ぶ彼にしか聞こえないように囁いたその声に、彼は思わず目を丸くした。

 ──シェアも良いけど、ひとり占めしたいときだって、あるんです!
 

作者:朱凪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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