輝く白き孤高の存在

作者:白鳥美鳥

●輝く白き孤高の存在
「……遠くからじゃないと流石に見る事は出来ないけど」
 森の茂みに隠れて、透は滝の上の絶壁を見ていた。
「遠目でも良いんだ。遠吠えをするらしいし、白く輝いているみたいだし……」
 透は、その時を胸を高鳴らせて待っている。
「……白き狼、か。……まあ、小さく見えるだけだろうけれど、その輪郭だけでも……遠吠えだけでも聞きたい」
 そんな透の前に、第五の魔女・アウゲイアスが現れると、彼の心臓を持っていた鍵で一突きした。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 崩れ落ちる透。そして、彼の傍から、白き狼のドリームイーターが現れたのだった。

●ヘリオライダーより
「狼……みんなの中にもいると思うんだけどね」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、そう言って話し始めた。
「不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に調査を行おうとしている人がドリームイーターに襲われて、その『興味』を奪われてしまう事件が起きしてしまったようなんだ。その『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消してしまったみたいなんだけど、奪われた『興味』から現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしているみたいで……みんなにはそれを倒して欲しいんだ。倒せば、被害者の人も目を覚ましてくれるからね」
 デュアルは続ける。
「場所は、高い滝の上が見える森の中。このドリームイーターは白く輝いているみたいだ。でも、森の中だから、戦う場所は考えた方が良いと思う。このドリームイーターは『自分が何者か?』って問いを人間をみかけると聞いてくる。そして、正しく対応できないと殺してしまうんだ。だけど、このドリームイーターは自分の事を信じていたり、噂をしている人がいると、その人の方に引き寄せられる性質がある。この性質を上手く使えば、戦いを有利に進めることが出来ると思うよ」
 デュアルは最後に、皆に訴える。
「今回、被害者が見ようとしていたものは……とても綺麗なものだったと思うんだ。だから……その綺麗なものを穢さないでほしい。みんなの活躍を期待しているよ!」


参加者
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
月枷・澄佳(天舞月華・e01311)
姫宮・愛(真白の世界・e03183)
丹羽・秀久(水が如し・e04266)
水咲・玲那(月影の巫女・e08978)
暁・マヒロ(レクトウス・e24853)
アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)
ユウ・アーベロート(黄昏と生きる・e32575)

■リプレイ

●輝く白き孤高の存在
 夜の帳の中、満月が美しく輝いている。近くでは滝の流れ落ちる水音が響き、森の中は薄暗かった。
 作戦を開始する前に、ケルベロス達は戦いやすそうな拓けた場所を探す事にする。場所を探し出すために懐中電灯やライトを使って、条件が合いそうな場所を探していった。
「滝の側だけど戦闘に適しているようだぞ」
 泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)が、大体の場所をライトで照らして他のケルベロス達に分かるように呼びかけ、一旦、皆で集まった。
 今回の作戦は、滝の近くの場所で誘い出す班と、森の近くに潜む待機班に分かれて、ドリームイーターが出現次第、双方で挟み込み、最終的には囲い込んで倒すものだ。
 戦闘場所には戦いの邪魔にならない程度、かつ最低限の戦闘照度の確保の為に、高輝度LEDランタンを慎重に配置していく。相手は白狼のドリームイーターなので、俊敏な動きをする事が予想される。だから囲い込んでも動き回ると思われるので、それなりの広さを念頭に置きながらの作業だ。
 誘い出しを担当するのは、壬蔭、月枷・澄佳(天舞月華・e01311)、丹羽・秀久(水が如し・e04266)、暁・マヒロ(レクトウス・e24853)、ユウ・アーベロート(黄昏と生きる・e32575)の5名。姫宮・愛(真白の世界・e03183)、水咲・玲那(月影の巫女・e08978)、アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)の3名は森の方に潜み、ドリームイーターの出現を待つ。
(「白い狼さん、愛は見たことないので1度見てみたいです」)
 愛はドリームイーターを見てみたくて、興味深々、そんな様子だ。
 誘い出し班は、噂話を始める。
「この森には月のように輝く白狼が出るそうだ。いつだって孤高の狼に人は心惹かれる。きっと今日のような月夜には、姿を見せてくれるに違いない」
 狼はきっと幻のように美しいのだろうと思いながら話すマヒロに、澄佳が頷く。
「白く輝く狼、ですか。遠目に見るだけなら神秘的なのでしょうけれど……」
 壬蔭は、月明りに照らされる景色を見渡した。
「狼自体希少になってきているのに……白狼が居るって話なら尚更お目に掛かりたくなるよな……。ある意味アルビノなんだろうか?」
「まるで物語の様だよね」
 ユウは幼子が心躍らせながら読む絵本の様な……そんな想像を膨らませる。
「写真に撮りたいな~」
 皆の話を頷きつつ聞いていた秀久は、持参してきたカメラを皆に見せながら、その姿を探すようにして。
 すると、とんっと軽く降り立つ音が聞こえる。そこに居るのは白狼。全身には淡い月明りの様な光を纏い、とても神秘的だ。
 白狼は、気品に溢れる声でケルベロス達に問いかける。
「こんばんは、良い月夜ですね。お目にかかれて嬉しく思います。……皆様には、私がどの様な者に見えますでしょうか?」
 あくまで上品に、綺麗で、そして誇りを持った、そんな声。
(「……綺麗だ、そして何ていう迫力なんだ……。見とれている場合じゃないな……」)
 現れたドリームイーターの美しく荘厳な姿に、壬蔭は思わず見とれてしまうけれど、気持ちを引き締める。
 ユウもその姿は絵本に出てくるものの様に思った。ただ、その問いの答えはユウには答えられない。誰かに決めつけられた訳ではなく、そうありたいという願いを持って。それがユウだから。
 その問いかけに答えるのは澄佳。
「倒すべき敵」
 その言葉に、白狼は少し残念そうな顔をした様に見えた。
「……致し方ありません。貴女が私を倒そうというのなら、私も貴女を倒すだけです」
 それを見て、愛、玲那、アルトが飛び出し、招き寄せ班のケルベロス達と共に挟み込む体勢に入る。
 月明りを纏う白き狼と、ケルベロス達の戦いの火蓋が切って落とされた。

●白狼型ドリームイーター
 白狼より先に動いたのは壬蔭。
(「倒すのが勿体ないな……。そうも言っていられないし……」)
 目の前にいる白き狼がドリームイーターだとしても、その姿は倒す事に抵抗を覚えるくらいに綺麗だった。しかし、ドリームイーターであるからこそ、倒さなくてはならないのだ。
 壬蔭は白狼のドリームイーターへと急所に狙いを定めて蹴りを放つ。その動きを見たドリームイーターは、その俊敏性を生かして跳ねて避け、完全には攻撃が入らなかった。
「流石、白狼……。素早い。攻撃は慎重に行った方が良いな」
 自らの攻撃の入り具合に、壬蔭は仲間達に呼びかけ、それに皆は頷く。
 続いて動くのはドリームイーターの方だ。その俊敏性と躍動感を最大限に生かして、澄佳に向かって襲い掛かる。だが、それを秀久が受け止めた。
「秀久さん、ありがとうございます」
「大丈夫ですよ。こちらも、守りを固めていきます」
 秀久はドローンを展開して、マヒロ達を守らせる。彼に守って貰った澄佳も攻撃へと移った。
「汝、冥府を泳ぐ、熾炎の硬魚」
 護符から死神「ザルバルク」を召喚し、増殖力の高い彼らをドリームイーターへと放ち、白狼の足を捕える。そこを狙い、愛の輝きを放つ重い蹴りが叩き付けられた。
「さて、お前が存在すんなら『存在すること』は信じてやっても良いが、お前は所詮それを基にした役を演ずる『役者』に俺は見えるなぁ? 『本物』かどうか、証明してみせろよ、夢喰い」
 アルトは挑発する様に白狼のドリームイーターに言い放つ。それは、過去にアルトがダモクレスの『代用』であった事に起因していて、『本物』という事は重要な要素の一つなのだ。
 しかし、現状、攻撃の要である壬蔭の攻撃がまともに入っていないので、あの白狼のドリームイーターが『役者』であろうと、『本物』であろうと、攻撃がまともに入らない事には確かめようも無い。
「マヒロ、申し訳ねえんだが……俺は攻撃が確実に入るように動く。他の護りは任せてもいいか?」
「……分かった」
 アルトの言葉に、マヒロは言葉少なめに頷く。それにアルトは感謝の意を示すように頷くと、自らの胸の傷口……コア付近に潜り込んでいるオウガメタルを使って、オウガ粒子を放ち、玲那達の集中力を研ぎ澄まさせていく。一方、役割を任されたマヒロは黄金に輝く果実の力を使って秀久達に護りの力を与えていき、マヒロの相棒であるボクスドラゴンのラプラレプラは、まずユウの所に飛んで、属性インストールを行い護りの力を高めていった。
 玲那は漆黒の闇でドリームイーターを捕えようとするが、白狼はトンッと飛び上がるとその攻撃を器用にかわす。
「……! かわされてしまいましたか」
 やはり、かなり素早いようだ。
 ユウは、先程攻撃を受けている秀久へと施術を行って回復させた。
 白狼のドリームイーターは、素早く体勢を整え直すと、不思議な声色の遠吠えを使い、アルトを惑わそうとするが、マヒロがそれを庇う。
「助かったぜ、ありがとな」
 アルトの言葉に、マヒロはこくりと頷いた。心配するなと語るように。
「vermiculus flamma」
 壬蔭は大気との摩擦で生じた炎を拳に纏わせると、それをドリームイーターへと思いっきり叩き付ける。今度は、しっかりと手ごたえがあった。
「回復しますね」
 秀久はマヒロに向かってオーラを放ち、彼が受けた傷などを癒し浄化していく。その間に、澄佳はドリームイーターの急所を狙う蹴りを放ち、愛は魔法の矢を次々に撃ち込んだ。
「よし、もう一回行くぜ……!」
 アルトのオウガメタルが輝き、放たれるオウガ粒子は壬蔭達の感覚を更に研ぎ澄ませる。マヒロは自らの傷をオーラによって治療し、それにユウが重ねる様に施術による回復を重ねて体力を取り戻させた。ラプラレプラはアルトの方へと飛んでいき、属性インストールを行って護りを固めていく。
「今度こそ当てます……!」
 玲那は、白狼に逃げられない様に素早く走り込むと、凍結の一撃を放った。それは、かわそうと動く前のドリームイーターへ叩き込まれる。
「攻撃、入りました!」
 玲那の声に、仲間達は優しい目を向ける。初依頼の彼女にとっての記念すべき第一撃だ。
 しかし、白狼のドリームイーターも後方へと宙に舞い、体勢を整えてくる。そして、身に纏う神秘的な光を伴い放たれる強い敵意は、攻撃の要である壬蔭へと向けられる。それにひるみそうになるが、それを秀久が盾変わりした。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。代わりに攻撃でお礼をさせて貰う」
 壬蔭は秀久に礼を述べると、ドリームイーターへと駆けていき、気脈を断つ一撃を与える。
「愛さん、連携していきましょう」
「はい、頑張ります」
 澄佳の言葉に愛は頷く。
「タロー君、宜しくお願いしますね」
 澄佳はそう言うと、杖をファミリアのゴールデンハムスターへと変え、ドリームイーターへと放つ。続けて、愛は煌めく重い蹴りを叩き込んだ。
「もう一回、更に重ねていくぜ」
 アルトのオウガメタルが輝き、オウガ粒子が玲那達に放たれる。命中率を確実に積み重ねていくのだ。
 マヒロは黄金の果実から生まれる聖なる光で秀久達を包み込み、加護の力を高める。ラプラレプラは秀久の所に向かい属性インストールによる回復を重ねた。更にユウの施術も加わって回復していく。その間に、玲那は御業をドリームイーターへと放った。だが、避ける様に動く白狼を完全には捕えきれない。この段階に来ても、相当素早い相手だ。
 しかし。
「白狼が肩で息をしはじめた。もう少し頑張ろうか!」
 壬蔭の声が仲間のケルベロス達に届く。確かに、白狼のドリームイーターにも疲れが見えてきたようだ。それでも、躍動するのが白狼。やっかいな相手だと感じたのか、ずっとサポートを続けているアルトに再び狙いを定めてくる。一度後方に下がると躍動してアルトに向かって襲い掛かる。だが、それをマヒロとラプラレプラが同時に庇った。
「悪い、また守って貰っちまったな」
「……気にしなくていい」
 アルトの言葉に、マヒロは頷いて答えた。
 白狼がマヒロから離れた所を狙って壬蔭の急所を突く蹴りがドリームイーターへと入り、秀久は加速して突撃攻撃を行う。澄佳は死神「サルバルク」を召喚してドリームイーターの動きを止め、愛が放つ魔法の矢が次々と叩き込まれた。
 アルトは、まだ玲那の命中率の心配がある為、再び玲那達へとオウガ粒子を飛ばして、神経を研ぎ澄ませる。その力を受けた玲那は、凍てつく一撃をドリームイーターへと放った。ユウはその間にマヒロの治癒を行っていく。
「動きのキレが無くなって来たぞ」
 壬蔭の炎を纏った拳がドリームイーターへと叩き付けられる。
 確かに白狼の動きは悪くなっている。俊敏に動いていた身体も、今はその勢いは無い。しかし、誇り高き狼。そんな事で終わる訳が無い。月の光を浴びて、より一層白く美しく輝く白狼は、誇りを込めた力強く美しい遠吠えで吠える。その美しさに玲那は心揺さぶられてしまった。
「直ぐ治します」
 秀久は直ぐにオーラを放ち、玲那の身体も心も癒していく。
「行きますよ」
「愛も続きます」
 澄佳の蹴りがドリームイーターの急所を狙って蹴りつけられる。そこに愛の拳が叩き付けられて、白狼は吹き飛んだ。
「よし、そろそろ攻撃に回るぜ」
 アルトはドラゴニックハンマーを変形させると、ドリームイーターへと砲弾を撃ち込み、マヒロは弱点へと強烈な一撃を放つ。ラプラレプラは玲那の元に飛んで属性インストールを行い、ユウはマヒロの回復を更に高めていった。
 玲那は漆黒の闇を使ってドリームイーターを捕える。
「さて、お休みの時間だ……」
 壬蔭はそう言うと、最後のトドメにオーラを全身に纏った壬蔭はドリームイーターに対して思いっきり叩き付ける。
 ……そして、その攻撃を受けて、ドリームイーターは月の光の様に儚く消えていったのだった。

●月を見上げて
 それぞれに分かれて、痛んだ箇所を見つけてはヒールをしてまわる。
「おつかれさまでした」
「お疲れ様。ケルベロスの仲間と戦うのは初めてだったが、心強い限りだった」
「私も、無事に初めての事件が解決できて嬉しいです」
 愛がそう声をかけ、初の戦いだったマヒロと玲那が感謝の言葉を述べる。
「滝と月の絶景ポイントが近いらしいから行ってみないか?」
 壬蔭の言葉に誘われて、皆で月を見に行くことにする。辿りついた場所は、本当に月の綺麗な所だった。
「温かい緑茶を持ってきました。皆さん、宜しかったら如何ですか?」
 澄佳は、冷えない様にと事前に保温瓶に入れてきた温かい緑茶を仲間達に勧める。
 それからは、皆でのんびりと月を眺めていた。
(「スーパームーンは過ぎたが……落差のある滝と月のコラボ……まさに絶景だな……」)
 月を見上げながら壬蔭は美しい月と景色に心を奪われる。でも。
(「あの白狼が居れば……」)
 月の光を纏った白狼。それが忘れられない。壬蔭は、滝の上を眺める。何となくそこに白狼がいるような……そんな気持ちになった。
 愛も狼と仲良くなりたかった一人だ。
(「狼さんと友だちになれたらよかったのに……」)
 そう思うけれど。でも、この綺麗な月を見る事が出来て良かったと愛は心から思う。
「良い月、ですね」
 澄佳の言葉に玲那は頷く。時間も忘れ、月に照らされた滝を、ただ眺め続けていた。
「……あの白狼は『本物』だったのか、違ったのか……。どちらにせよドリームイーターだからな……」
 アルトはその辺りがまだ少し引っ掛かっている。
「この世は不思議な事ばかりだから、いつかそれが現実になるのかもしれないね。誰かの心に在り続けるのなら、尚更」
 そう、ユウが答えた。少なくとも、あの『白狼への興味』は、間違いなく『本物』なのだから。……だから、あのドリームイーターは『デウスエクス』でもあり、『本物の興味』とも言えるのだろう。
 月と滝を眺めるマヒロの頭の上には、ラプラレプラがちょんと乗って楽しそうにしている。
「森の導きに感謝を」
 そう、マヒロは小さな声で呟いた。それにラプラレプラがニカッと笑う。
 その頃、秀久は『思い出カメラ』で、月や景色を撮ったりしていた。
「後で、みんなで記念写真、撮りませんか?」
 秀久の言葉に、仲間達は笑顔で頷く。
 月の綺麗な夜。それは、幻想的な景色と優しい時間。……まるで、違う世界に来たような、そんな気持ちになるひと時だった――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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