●花時雨
夕暮れの雨が街に花を咲かせた。
雲の彼方で傾く夕陽、その陽射しで銀色に輝く雨が街路樹の銀杏の葉を叩きはじめれば、雨の到来を予想していたひとびとが次々に傘の花を咲かせていく。
銀杏並木の葉から零れた雨滴は色とりどりの傘に跳ねて躍って街路を潤し、大きな街路が重なるスクランブル交差点の信号が切り替われば、雨滴を躍らせる傘の花が一斉に交差点へ溢れだした。
鮮やかな花の流れ。幾つもの傘の花が流れ交差し時にくるりと回って夕暮れの街を渡る。
だが、突如交差点に突き刺さった巨大な牙が咲き溢れる花を散らした。
雨の到来を予想していたひとびとも牙の到来までは予想できるはずもない。悲鳴とともに割れて散った人波の中心で、巨大な牙は竜牙兵へと変じ、高らかに声を上げた。
『オマエたちの、グラビティ・チェインをササげよ』
『ゾウオしろ、キョゼツしろ! オマエたちのソレらが、ドラゴンサマのカテとナル!!』
禍々しき大鎌が傘ごとひとの首を刈り、星辰輝く剣が傘ごとひとの胸を割る。
転がる傘の花の合間を、雨に溶けて滲んだ紅の彩が染めていった。
●竜星雨
「竜牙竜星雨(ドラゴンファング・ファランクス)の精鋭部隊だね」
天堂・遥夏(ウェアライダーのヘリオライダー・en0232)が語ったのは未来のできごと。街に出現する竜牙兵のことを遥夏はそう告げた。決して侮れぬ相手ということだ。
彼らが現れる前に避難勧告を出せば予知にない別の場所が襲撃されるだけ。
ゆえに交差点に竜牙兵が現れた瞬間にヘリオンから降下し、戦いを仕掛けることになる。
「そうなれば一般人の避難誘導は警察に任せて大丈夫。あなた達ケルベロスが現れれば敵の意識も間違いなくあなた達に向くからね、竜牙兵を撃破することに専念して欲しいんだ」
ケルベロスとの戦いとなれば、竜牙兵もケルベロスの排除を優先する。
敵は四体の精鋭だ。
簒奪者の鎌を手に猛攻撃をしかけてくるだろう者が二体、もう二体はゾディアックソードを持ち後衛からそれを揮う。ケルベロス達との戦いとなれば癒しも担うだろう。
「彼らの戦意は凄く高いからね、撤退なんて考えもしないと思う。個体の能力ではあちらが格上、それが連携して戦ってくるから、こちらも連携して全力で臨まないとやばいかな」
無策で挑めば敗北は必至。舐めてかかるのは論外だ。
「――あなた達にもかなりの流血を強いることになると思う。けれど、あなた達なら、必ず勝利してくれる。そうだよね?」
挑むような笑みに確たる信を乗せて、遥夏はケルベロス達をヘリオンに招いた。
さあ、空を翔けていこうか。夕時雨と傘の花に彩られた、数多のひとの営み息づく街へ。
参加者 | |
---|---|
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079) |
クローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590) |
大御堂・千鶴(堕ちた幻想・e02496) |
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608) |
ジエロ・アクアリオ(贖罪のクロ・e03190) |
海野・元隆(海刀・e04312) |
クリスティ・ローエンシュタイン(行雲流水・e05091) |
フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594) |
●花雨
橙色の夕暮れを渡る雨雲は、彼方で傾く陽射しで灰銀にも金にも染められた。
街に降る雨は銀の絹糸、次々花開いた色とりどりの傘の花が一斉に交差点へと咲き溢れ、突如飛来した巨大な牙に乱される。だが傘の花咲かせたひとびとの鮮血が咲くよりも空から救い手達が降り立つほうが速かった。
「さあご覧あれ、今宵のショーはとっておき!」
愛らしいふんわり耳を揺らしたボクスドラゴンから注がれる力に、そして胸元に煌く碧に勇気づけられ、ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)が咲かすのは飛びきりの笑顔と華やかな唄、恐れも緊張も吹き飛ばすべく敢えて高らかに楽しげに。途端に溢れだす星屑や花にカードが舞って煌いて、ひとびとでなく剣を手にした竜牙兵の目を釘付けにして足止めする。
「さて、一仕事といこうか。犠牲など出さないようにね」
「無論のこと。竜牙兵どもよ、汝らには何ひとつ奪わせぬ!」
避難誘導を完全に警察に任せたこともあり、先手を取ったのは此方側。
一瞬で状況を見て取ったジエロ・アクアリオ(贖罪のクロ・e03190)が笑みの吐息を竜の炎と成し、灼熱のヴェールで大鎌使いの竜牙兵二体を覆うと同時、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)が鋭い煌きを奔らせた。
解き放つ鎖は竜牙ペンデュラム、ドラゴンの居所を示すとの謂れは『そう言われている』だけのようだが、彼の意志を乗せて翔けた猟犬縛鎖は確かにドラゴンの下僕を捕え容赦なく締め上げる。次の瞬間、
「キミ達の相手はこっちだよォ。キャハ、ボクと遊んでェ!」
濡れたアスファルトに軽やかに跳ねた雨滴と共に大御堂・千鶴(堕ちた幻想・e02496)が舞い、正確無比な狙いで迸らせた漆黒で鎖の中の剣使いを貫き毒に染めた。
『オマエたち、けるべろすダナ!』
『オモシロイ、オマエたちをタオせば、ニンゲンどもからサラなるゾウオをエられよう!』
――stupido molto.
「竜牙兵は揃いも揃って同じことを言う。芸のないことだ」
「あなた達が得られるのは私達の攻撃だけですよ!」
実にくだらない、と母語で呟いたクローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590)が両手に弄ぶ白と黒のナイフから撃ち出すのは星の輝き凝らす金の光弾、銀糸の雨を煌かせた金の軌跡に続いて、フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)の幻影竜が白く輝く彼女の翼も朱に染めるほどの巨大な炎を剣使いへと叩きつける。
虚を纏う大鎌の刃がクローチェめがけ振り落とされたが、迷わずそれを斬霊刀で受けとめ防具耐性で威を殺した海野・元隆(海刀・e04312)が骨の眼窩を覗いて不敵に笑んだ。
「生憎、お前さんは後回しでな」
瞬時に凝らせた気咬弾は刃を噛ませた眼前の敵でなく、後方で星辰の剣を揮う竜牙兵へと喰らいついた。前衛の大鎌使い達をジエロの範囲攻撃で牽制、後衛の剣使いから集中砲火で撃破していくのが今回の策だ。
無論竜牙兵達も押されるばかりでなく、雨の中を大鎌が派手に舞い星座の輝きが氷と共に波となり襲い来る。続け様に展開されたのは星の聖域、
「あの骨! 耐性ついたよ!」
「問題ない、すぐに破砕する」
標的の変化を見逃さずヴィヴィアンが声をあげれば、完璧な狙撃を決めた彼女の矢が敵の頭蓋半分を粉砕すると同時、初手で御業を纏い破剣を得たクリスティ・ローエンシュタイン(行雲流水・e05091)が中衛から時をも凍らす弾丸を撃ち込んだ。
骨の躰に三重の氷を奔らすそれが確実な破魔で星の加護をも散らす。
天使の少女が纏う御業の鎧を砕かんと放たれた反撃は、癒し手の破魔を重ねた星座の氷の輝き。更に守護を砕く星の斬撃が襲い来るが、即座に翔けたふんわり耳のボクスドラゴン、そして水の煌き帯びたジエロのボクスドラゴンがクリスティを護りぬいた。
柔らかな毛並みを凍てつかせた箱竜を大鎌が氷ごと斬り裂くが、
「アネリー!!」
「大丈夫です、絶対倒れさせないですよ!!」
案じるヴィヴィアンの声が響くよりも速く馳せたフィアルリィンが鮮やかな手並みで魔術切開、瞬く間に氷片を摘出し傷を綺麗に縫合する。
微かに瞳を細めナイフを翻すのはクローチェ、
「癒しを怠った愚か者に惨劇を見せてやるとするか」
「ああ、取って置きのやつをな」
仲間の刃に凝る魔力の気配に口の端を擡げ、元隆もナイフの刃を閃かせた。鏡像の魔力が双方向から迸って氷を抉り具現化させた惨劇もが剣使いの竜牙兵の敵となる。爆ぜた悲鳴に明るく弾けたのは千鶴の笑声、
「どんなトラウマ見てるのかなァ? ドラゴンサマのお仕置きとか!?」
跳ねる声と共に石化の魔法光線が駆け抜けたなら、相変わらずなことで、と息つくように笑ったジエロが水瓶を戴く杖を翳した。傘の花咲かせたひとびとが誰ひとり傷つくことなく逃れた様子に眦を緩め、大気中の水分を――銀糸の如く降る雨を震わせる。
密やかに水を震わせ繊細に煌かせ、大鎌使い達を襲うのは魔力の音色。
敵の頭蓋の中へ直接響いて思考を妨害するというそれは、
「さぞかし綺麗な音で聴こえるのだろうな」
「そう。ナイチンゲールの鳴き声みたいな、鎮魂歌がね」
思わず零れた呟きに返った言葉に小さく笑み、クリスティは巫術札を閃かす。召喚された氷の騎士が煌く雨の世界を馳せる。
――ああ、こんな雨の中で戦うのも悪くない。
●時雨
凍てる波たる星座の輝きが押し寄せるが、前衛陣の厚さが幾らか威力も凍気も和らげる。それでもなお黒き鱗に薄氷が奔ったが、降りやまぬ雨滴を鱗で弾き氷の冷たさにも負けじとレーグルの腕の炎が猛る。
地獄と化した腕で揮うは巨大なる竜の槌、
「まずは一体、頂戴致す!!」
轟く砲声をも凌がんばかりの咆哮と同時に撃ち込んだ竜砲弾が絶大なる威でもって星辰の剣ごと竜牙兵を粉砕した。同胞が霧散するのにも怯まず敵前衛が彼めがけて大鎌を揮うが、
「そう簡単に届くと思うな――ってな!」
「残念だったね、通さないよ」
左右から雨風を切った刃を元隆とジエロが引き受ける。護り手であり斬撃耐性をも備えた彼らには大鎌の猛撃も脅威とは成り得ない。
「御二人とも感謝致す。氷が付与された者を集中攻撃するようであるな」
「なら氷がついた人を最優先で癒すですよ!」
「ああ、私も手伝おう」
癒し手の浄化を乗せた雷杖の輝きを撃ち込んだのはフィアルリィン、クリスティも三重の浄化を乗せた天使の極光を舞わせれば、銀糸の雨に淡い虹が幾重にも踊り、いっそう千鶴の心を弾ませる。
「キャハハ、後方不注意で狙われちゃうかもよォ、褐色糸目野郎! ――なァんて!!」
「糸目か。それを言うならそちらの目は節穴だろう? きちんと狙いたまえ」
遠慮無用の軽口を応酬しつつ、前衛陣を包む極光とジエロの肩越しに確実に狙いを定めた千鶴の鋭い漆黒がもう一体の剣使いを穿てば、頬を掠めんばかりの至近を翔けた黒き残滓をまったく意に介した風もなくジエロが水瓶の杖から火球を迸らせた。
敵前衛を呑み爆裂する火球、舞い散る雨滴が熱で煙るがヴィヴィアンのガトリングガンが構わず吼えて、狙い過たず後方の剣使いを蜂の巣にする。
重ねられる星の聖域、癒し手たる剣使いはヒール一辺倒に追い込まれるが、単体回復より威に劣る星の聖域では癒える端から矛として猛攻勢をかけるクローチェとレーグルに回復量以上を削られていくばかりだ。
更に痛手を上乗せするのは浄化しきれぬほどの氷を与えるクリスティの技、
「氷の花に彩られる竜牙兵というのも多少は趣があるな」
「ふむ。ゴミどもには過ぎた手向けだ」
骨の肩を直撃した時空凍結弾が新たな氷を咲かせれば、
――Fac me Cruce inebriari.
端的に詠唱紡ぎ、クローチェが撃ち込んだ鮮烈な金の光弾が華やかな煌きを躍らせ氷ごと骨を粉砕していく。虚を纏って揮われ、時に宙に旋回して襲い来る大鎌の刃には護り手達が徹底して盾となり痛撃を齎す隙を与えない。其々の属性で癒しを注ぐ箱竜達の奮戦もあり、
「ウィッチオペレーションは必要なさそうですね、ならブーストさせてもらうですよ!」
「ああ、ありがたいぜ!」
皆の状態を的確に見極めるフィアルリィンが揮うは大きく傷を癒す手術でなく雷杖の力、生命を賦活する電圧が攻撃力を跳ね上げてくれる感覚に笑って、元隆は煙る雨の彼方、遠い海から幽霊船を招来した。
「そら、癒し手は連れていかせてもらうぞ」
巨大な幽霊船が竜牙兵を逃さず捉えて押し潰し、粉塵となったそれごと彼方へ消える。
戦場に吹く風は完全に此方のものだ。
華やかに咲き溢れた傘の花、竜牙兵達は一輪たりともそれを散らすことは叶わない。
「散るのは君達だ。速やかに眠りたまえ」
穏やかに告げたジエロが、苛烈な炎で残る竜牙兵達を染め上げた。
だが彼らもひときわ戦意を滾らせ猛然たる勢いで大鎌を揮う。弧を描く刃は唸りをあげて風を切り、己がグラビティ・チェインを強大な破壊力と成して叩きつけたクローチェの刃を跳ね上げた。
『ナラバせめて、ヒトリでもミチヅれにするダケのこと!!』
「ほう、気概だけは確かだな」
追尾の力を備えたクローチェの光弾は確実に敵へ命中していたが、それら遠距離攻撃より命中率が劣る近接攻撃ではそうもいかないらしい。
だが、最早敵に浄化の手段がないとなれば、動きを鈍らせる縛めを重ねるだけのこと。
「誰も下賤な骨の道連れにはさせないのです!」
「うん! 何ひとつそっちの思うとおりにはさせないんだからね!」
胸を裂かれた彼の傷をフィアルリィンの緊急手術がたちまち癒す様を視界に捉えながら、気丈に笑ってヴィヴィアンはいっそう華やぐ唄声で鮮やかな光を咲かせていく。
舞い踊る花に星、赤や黒に彩られたトランプ達、楽しげに煌くそれらが敵の目を奪えば、すかさず撃ち込まれたレーグルの轟竜砲が骨の脚を砕く。精悍なる長躯を誇る黒竜の陰から跳んだクリスティが一気に肉薄し、白き手でアスファルトに触れたなら、神秘的な紫に透きとおる水が噴き上がった。
深く強く敵を縛める、澄んだ紫水。
彼女を狙って振り落とされたもう一体の大鎌を左腕で受けつつ、元隆は軽く揮った右腕で雨の中にヒールドローンを展開する。足元から噴き上がる水の飛沫、降りやまぬ冷たい雨。その感覚が呼び覚ましたのは荒ぶ嵐に揉まれる船の上、波でずぶ濡れになりつつ戦っていた頃のこと。
海を駆けた仲間はもういないが、新たな仲間と、地を駆ける。
●夕雨
――この時期の雨は嫌いだよ。
愁いを湛えるように降り、静かに熱を奪っていく冷たい雨。
大切な存在を奪われ失った遠い日の記憶がジエロの胸の奥で疼くけれど、耳元に燈る星が疼きを和らげてくれる。間断ない攻防でアスファルトに撒かれた己や仲間の血も冷たい雨も塗り替えるべく、彼は医の魔法を秘めた癒しの雨を戦場に降らせた。
優しい雨が街路樹の銀杏の葉にも跳ねて光の滴を躍らせる。
負けず楽しげに足取り弾ませ、千鶴が飛び込むのは満身創痍の敵の懐。悪戯な紅玉の瞳で骨の顔を見上げ、軽やかに踵を打ち鳴らした、瞬間。
「ボクのかわいい植物で眠らせてあげるよォ!」
――強欲なる柊よ、無垢を棄てる兇刃と成れ!
濡れたアスファルトが割れて巨大な柊木犀が天を衝く勢いで背を伸ばした。
鋭利な棘持つ艶やかな緑の葉が乱舞し幾重にも斬りつけ、骨の躯を粉々の欠片に変える。本来なら敵の血で紅く染まる花が白いままなのは残念だったけれど、
「ま、骨じゃあ仕方ないよネェ!」
拘ることなくあっけらかんと笑って、千鶴は即座に最後の敵へ標的を切り替えた。
「さあアネリー! 一緒に終わらせにいこう!!」
雨の中を戦い続けて指先も爪先もすっかり氷のようだけれど、ヴィヴィアンは寒さを吹き飛ばす勢いでより強く明るく華やかに唄い上げる。悲劇を防ぐためなら、一緒に戦う仲間がいるなら、こんなのどうってことないんだから!!
雨を幻の光や彩が飾り、彼女に併せて箱竜がブレスを迸らせる様にレーグルが眦を緩め、
「ジエロ殿、クリュスタルス殿にもブレスをお願いしたいところだが」
「そうだね。クリュ、頼んだよ」
竜牙兵めがけ鎖を迸らせれば、彼の意を汲んだジエロも水瓶の杖を蛇に戻して解き放ち、水の箱竜クリュスタルスの息吹も重ねて敵の縛めを深めにかかった。
連携すべき同胞はすべて撃破され刻まれた禍も増えていくばかりとなれば、最後に残った竜牙兵が戦場に立っていられたのも僅かな間だけ。
眼前の敵の命を喰らうべく揮われた虚を纏う刃の斬撃も精彩を欠き、斬霊刀であっさりといなした元隆が相手の肋に気咬弾を喰らわせる。
「これ以上お前さん達に血をくれてやる気もないんでな」
「お別れなのです。あなた達の創造主さんにはいつか私達の攻撃を捧げてあげるですよ!」
仲間の血ではなく骨の欠片が散る様に強気な笑みを咲かせ、フィアルリィンが顕現させた幻影竜が迸らせた炎が竜牙兵を呑めば、一瞬の迷いもなくクローチェが飛び込んだ。
「さて、僕は仕事で来ているのでね。『恨まないで』くれたまえ」
慈悲の白と宵闇の黒、両手のナイフを軽やかに翻し、冷たくも華やかな剣舞の如く斬撃を躍らせて、骨の躰すべてを砕いて雨の中に散らした。骨の破片が霧散し、大鎌が音を立てて濡れたアスファルトに転がれば、憎悪も拒絶もなく、ただ無意識の癖でそれを踏みにじる。
「この後すぐに君達を忘れよう」
――Addio.
淡々とした声が落ちれば、世界にも忘れられるようにして、大鎌も消えた。
流れた血は僅かではなかったが、想定していたよりはずっと少なかった。
この日掌から零れ落ちたものは何ひとつなく、安堵の吐息を洩らしてレーグルは、自身の腕の炎を癒しに変えてアスファルトに踊らせる。穏やかに降るジエロの癒しの雨、雷の杖を揮うフィアルリィンの癒しも重ね、巨大な牙に穿たれた穴も戦いの痕も綺麗に修復された。
癒えた交差点に淡い幻想が映すのは、花の如き傘模様。
降りやまぬ雨に、真冬じゃないだけマシかと軽く身を震わせつつ、元隆が皆を振り返る。
「随分冷えたしな。皆、これから一杯どうだ?」
「成人組は楽しみが多くていいな。あったかくて美味しい料理とかあると嬉しいんだが」
「おう。そんじゃ美味い鍋の店でも探すか」
大人達への羨望を込めてクリスティが小さくむくれて見せればそんな言葉が返り、
「いいですね! まずは持ち主さんを探してこの傘を返して、それから繰り出すですよ!」
嬉しげに声を弾ませたフィアルリィンが、先程の避難の際に誰かが交差点の隅に落としていったと思しき傘を拾い上げた。
暖かな夕暮れめいた茜色を咲かせる傘を彩るのは血ではなくて。
無数に煌く雨の滴と、華やかに黄葉した銀杏の葉ひとひらだけ。
作者:藍鳶カナン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年12月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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