魚に脚が生えただけの奴が走り回っているらしい

作者:なちゅい

●魚に脚が生えたやつって……
 今、SNSなどで、まことしやかにささやかれている話。
 曰く、脚の生えた魚が走り回っているという。
 ただ、それは単なる都市伝説の一つでしかなく、荒唐無稽な噂話でしかない。
 しかしながら、それを確認してみたくなるのが、思春期の少年少女というものなのかもしれない。

「このへんに出るって、聞いたんだけどなあ……」
 中学生の少年、夏目・義博は時折立ち止まり、スマートフォンへと視線を落としつつ辺りを見回す。
 そこは、海岸沿いの道。11月ともなれば、かなり海沿いの場所は寒さを感じる。義博はそれでも好奇心が抑えられず、夜にその場へとやってきていた。
 しばらく、彼はその道を歩いていたのだが、それらしき姿を見つけることが出来ない。
「やっぱりダメかぁ……」
 溜息をつき、帰ろうと考える彼の背後に、いつの間にか、ぼろぼろの黒い衣装を纏い、ひどく病的な肌をした魔女がいた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 その魔女は持っていた大きな鍵で、義博の胸を貫く。彼はすぐに意識を失って倒れてしまった。
 だが、倒れる義博の体からは血が流れ出すどころか、傷一つついてはいない。
 それを見下ろす魔女。彼女のそばには、モザイクに包まれた腕が見えた。この魔女はドリームイーター……第五の魔女・アウゲイアスと呼ばれている。
 アウゲイアスが見下ろす義博の体から、何かが現れる。それは、ブリみたいな魚に、人間の脚が生えたような化け物。胴体と脚のつなぎ目を中心としてモザイクが広がっている。
「オ、オデハ……!?」
 そいつは何かを呟いた後、いきなりその場からダッシュしていく。アウゲイアスはそれを見届けてから、いずこともなく消えていったのだった。
 
 ヘリポートにやってきたケルベロス。
 そこに集まっていたケルベロス達は、魚に脚が生えた化け物が現れたと聞きつけていたようだ。
「どうやら、そういう姿のやつが走り回っているらしいが……」
 そう語るのは、アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)だ。
 話を聞き、ヘリオンの重力子演算装置で予知を行っていたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)がヘリオンから降りてくる。
「どうやら、間違いないようだね……」
 彼女は自身で視た情報を元に説明を始める。どうやら、ドリームイーターによる事件が起こっているらしいと。
『魚に脚が生えただけの奴が走り回っているらしい』
 それは一つの都市伝説。ネットの掲示板に出回る根も葉もない噂話でしかない。
 だが、それに強い『興味』を持って、実際に自分で確かめようとする少年がドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまうようだ。
「奪われた『興味』を元にして、怪物型のドリームイーターが実在化してしまっているよ。この夢喰いが事件を起こそうとしているようだね」
 すでに 『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消している。こちらも気にはなるところであるが、今は被害が出る前に、怪物型のドリームイーターを討伐してほしい。
「このドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった被害者も、目を覚ますはずだよ」
 今回、『興味』を奪われたのは、夏目・義博、中学3年生だ。
 感情を奪われた彼は、現場近くの道路で倒れ、昏睡状態にある。無事にドリームイーターを倒したのならば介抱し、何かフォローしてあげてもよいだろう。
「現場は、富山県富山市内の海岸線の道路だね。『興味』から生まれたドリームイーターは、夜中、その道路を疾走しているようだよ」
 幸い、夜はほとんど車の往来のない場所。人払いはそれほど気にする必要はない。
 また、このドリームイーターは、この脚の生えた魚についての都市伝説を信じていたり、噂していたりする人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質がある。これを利用して相手をうまく誘い出せば、有利に戦うことができるはずだ。
「現れるドリームイーターは怪物型1体だけ。配下などは従えてはいないようだね」
 魚に脚がついた姿はさすがに目立つ。胴体と脚のつなぎ目のモザイクを見るまでもなく、それがドリームイーターだとすぐに分かるはずだ。
「怪物型のドリームイーターは、人間を見つけると『自分が何者であるかを質問してくる』よ」
 この返答によっては、相手を殺そうとするようだ。ドリームイーターと出くわした一般人がこれによって、危機に瀕する可能性がある。
 もちろん、ケルベロスとしては見過ごすわけにはいかないので、返答内容に関わらず、早々に討伐してしまいたい。
 ドリームイーターは魚の頭での頭突き、そして、敵陣へと猛ダッシュすることで、相手を怯ませてくる。また、モザイクを飛ばし、相手の『興味』を奪うこともあるようだ。
 一通り説明を終えたリーゼリットは、ケルベロス達へとヘリオンに乗るよう促す。
「純粋な『興味』を利用して、怪物を生み出すドリームイーターを許してはおけないね」
 この時期に、海沿いの道に放置された少年のことも気がかりだ。彼の救出と怪物の討伐を、リーゼリットはケルベロス達に強く願うのだった。


参加者
マイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
千手・明子(雷の天稟・e02471)
コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)
パーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)
ガルフ・ウォールド(欠け耳の大犬・e16297)
リヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)

■リプレイ

●呆気に取られるような噂に……
 富山県富山市。
 そこは、富山湾を一望できる海岸の道。
「富山は海産物とか期待できて、嬉しいところだな」
 パーカー・ロクスリー(浸透者・e11155)は富山の地酒を片手に、頑張ろうと小さく意気込む。
 このどこかに、『魚に脚が生えただけの奴が走り回っているらしい』。そんな噂が具現化した夢喰いが現れると聞いたケルベロス達はまず、道なりに歩いてみることにする。
 すでに、夜も遅い。海風は寒く、メンバー達の体をも冷やす。ケルベロスにそれが応えることはほぼないが、気を失ったままの少年は……。
 メンバーは程なく夏目・義博少年を発見し、介抱する。夢喰いが具現化している状況だからか、目を覚まさない。マイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)はアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)から預かった暖かコートを、彼へとかけていた。
 そして、義博の体をやや離れた場所へ移した後、メンバーは改めて敵を誘い出す為の準備を始める。
 ほぼ人通りのない場所ではあるが、コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)が心配ないと思いながらも殺界を作り上げていく。
 その手伝いをしていたミカ・ミソギ(未祓・e24420)は、ほとんど寒ブリの為にこの依頼へとやってきていると言っても過言でもない。
「ふふふーん、ふふふーん、ふふふーん、ふふーん♪」
 ミカはマイペースに、氷見の寒ブリを主題とした歌を口ずさむ。
(「ナイフも丁寧に砥いできたんだ……。惨殺と名がついていても、きっといい包丁代わりになってくれる」)
 所持するかばんの中には、お箸と刺し猪口が入っていた。彼の頭の中は、依頼よりも寒ブリのことでいっぱいである。
「……奇妙な噂を信じる奴もいたもんだな……」
「いや、こんな噂、興味持つなって方が無理だと思う……」
 殺界を張り終えたコールがそう呟くと、明かりを点灯させていたガルフ・ウォールド(欠け耳の大犬・e16297)は腕を振って否定する。スマートフォンで件のSNSで噂を確認したガルフは心底それを信じ、実物に会いたがってすらいる。
「フザけた内容でも、興味は興味か……」
 コールは独りごちてから、決意を口にした。
「ま、何でもいいさ。敵は殺す。少年は助ける」
 いつも通り。ただそれだけだと、彼は気を引き締める。
 ある程度準備が整ったタイミングで、メンバー達はドリームイーターを引き寄せる作戦を始めた。

●再会……?
 ともあれ、ケルベロス達はドリームイーターのおびき寄せに移る。
「この辺に、なんか魚に脚が生えただけの奴がいるらしいわ。そんなのがいたら、ぜひお目にかかりたいわね」
「立派な体格の魚らしいが、秋だし、サバかカツオ、サケという可能性もあるよね?」
 視界を確保すべく照明をつけた千手・明子(雷の天稟・e02471)が仲良しのマイに語りかけると、まさか、旬を外したブリなんていうことはないだろうと、マイは首を振る。
 ちなみに、彼女達は後方に何かちらちらと気配を感じているのだが……。
(「後ろのなんか怪しいのは相棒じゃない。わたくしは何も見ていない」)
(「見えないフリ、見えないフリ……」)
 明子もマイも、それを見ないようにしている。作戦上、それを2人は見るわけにはいかないのだ。
「ブリ? マイはサバ説を推してるみたいだが、お兄さんサンマだと思うんだよねぇ」
 リヴァーレ・トレッツァー(通りすがりのおにいさん・e22026)が女性2人に合いの手を入れる。彼もまた仲間だと思われないように、笑ってしまわぬよう、後からついてくるそれに気づかぬフリをしていた。
 コールはそんな仲間達に話を合わせる。気を良くする彼だが、やはり、後ろには何があろうと、絶対に視線を向けようとはしない。
 それとは……、後ろからぴたり、ぴたりと歩いてくる脚の生えたブリ。着ぐるみに両腕と頭を格納したアジサイである。
「……………………」
 アジサイはひたすら敵が出現することを信じて黙し、仲間達の5歩後ろをぴったりとついてくる。
「最近は足の生えた魚が爆走するのか……。あれが噂になったのだろうか?」
 パーカーはちらりと着ぐるみを確認する。
(「俺が、俺こそがブリなのだ」)
 アジサイは時折、脚でリズムを取ったり、ムーンウォークしたりして、自由なブリを演出していた。
(「ええい、キリキリ歩きなさい!」)
 それに気づいた明子は、相棒の……いや、ブリの仕草にやきもきしていた。
 ふと、明子が前方を見やると。てけてけと走ってくる、魚に脚が生えただけの生き物の姿が……。
「ぎゃあああ、挟まれたわーーー!!」
 騒ぐ明子は敵の足元を見やる。しかし、その繋ぎ目を包むように、魚の腹の辺りはモザイクに包まれている。紛れもなくドリームイーターだ。
 それは、男子中学生の想像を具現化した存在であったわけだが、なぜか色めかしいほどにセクシーで。
「……コメントに困るわ!!」
 なぜか、明子はそれに逆切れしてしまう。
「オ、オデハ……?」
「出たな、サバ怪人!」
 そいつは自分の存在について、ケルベロス達へと問いかけてくると、すかさず、マイが叫ぶ。仲間が目の前の相手をブリと断じる前にサバと主張する彼女はどうしても、ブリと認めない様子である。
 そんなメンバー達の後方では、身を震わせるブリの着ぐるみが。
「に……兄さん!?」
 アジサイは目の前のブリへとダッシュし、声をかける。
「兄弟がついに会えたんだな、よかったな……!」
「やれやれ兄弟か、敵が増えてしまったかな?」
 感動の再開(?)にガルフは感極まって目を潤ませ、パーカーは軽く笑っていた。
「さぁ、盛り上がってまいりました。俺の脳内が」
 リヴァーレは敵とアジサイを見て、調理的意味でと意味不明の供述を行っている。捌くことの出来るサンマが並んでいるよう、彼には見えているのだろう。
「イイハナシダナー」
 コールは状況を見守りながら待機していた。仲間達が賑やかにしているこの状況に不思議な感覚を抱くが、そのノリに好感すら抱く彼である。
「寒ブリ、寒ブリ……すまないアジサイ。今から君の兄弟が新鮮なうちに〆る。今日の食卓の為に」
 ミカは丁寧に研いできたナイフを取り出す。惨殺と名がついていても、きっといい包丁代わりになると彼は信じて。
「この敵は確かに、何者だろうか? 一体どんな魚の種類だろうか?」
 微笑を浮かべたまま、パーカーはううんと唸る。切り身を見れば分かるかもしれないが、外見でわかるはずがないと。
「オデ……ハ……!」
 敵は期待している答えを得られず、ギロリとケルベロスを見つめて突進してこようとする。
「貴様も出世魚なら、サバにジョブチェンジくらいして見せろ!」
 ミカから飛ぶブリという言葉に、マイは敵に向けてダメだししてみせた。
 茶番はそろそろいいだろうかと、コールはドラゴニックハンマーを手にする。
「そんじゃあ、お仕事開始だぜ」
 コールに続き、メンバー達はあれやこれやと騒ぎ立てながらも攻撃に乗り出すと、ブリっぽい姿のドリームイーターもまた、じたばたと脚を動かして突撃してきたのだった。

●2体のブリっぽいものが入り乱れる戦い
 仲間の状況にやや気が抜けていたコール。しかし、戦闘となれば手を抜くことなく全力で当たる。砲撃形態にしたドラゴニックハンマーを敵に向け、彼は竜砲弾を発射した。
 ドリームイーターの前に立ち塞がるブリの着ぐるみを被ったアジサイは、頭と両腕を突き出して雷の壁を作り上げていく。そんな偽者のブリに……いや、ドリームイーターとて偽者のブリだが……敵は暴れるように走り、突撃していく。
 敵のダッシュは前に立つケルベロスの身を竦ませてしまうが、ミカはしっかりと身構えて対処し、隙を突いてナイフを振るう。
「ブリ大根……ブリ照り……味噌煮……麹蒸し……」
 あくまで、ブリ料理しか頭にないミカ。実際に、相手を三枚におろそうと考えている。
「鯖にもなれず、課長でもないくせに何が出世魚か!」
 マイは先ほどからボケにボケを重ねながら、仲間の包囲網を埋めようと立ち回り、体当たりを食らった攻撃役メンバー優先に分身を纏わせてその力で回復も図る。テレビウムのてぃー坊も画面に応援する動画を流し、ケルベロスを元気付けていたようだ。
「着ぐるみを誤射しないよう注意だな」
 パーカーは、ブリの姿の敵を嘲笑する。やはり、そいつをこんがりと焼き上げたいのか、敵の魚部分に竜の幻影を放つ。
「皆に、魚の焼ける匂いをプレゼントだ」
 それを受け、魚の焼ける香ばしい匂いが周囲に漂う。
 ガルフは敵の立ち回りを確認していた。その上で、彼もまたドラゴニックハンマーから砲弾を発射する。
「クラッシャーに間違いないようだな」
 それが敵の頭へとまともに命中したのを見てガルフは確信し、仲間達へと大声で知らせる。
 力任せに攻撃する相手は、うまく立ち回りさえすれば比較的攻めやすい相手だ。敵の逃走を懸念しつつ、かつ、間違えてアジサイを攻撃しないよう、明子が敵を見定める。
(「腕がない方……」)
 相棒だというのに、なんとも雑な扱いでアジサイを確認し、明子は突進してくる敵に対する。
「遅い!」
 明子は右片手上段へ構えた自らの刀を擦り上げ、その侵攻を阻む。さらに、敵のカマ……アゴの下部辺りを目掛けて斬りかかった。
 切り落とされるカマ。だが、それはモザイクと化して消え去ってしまう。
「沈黙は同意の印……大人しく食らっとけ?」
 リヴァーレがそこで、氷の杭を魔法で作り出す。彼はマインドリングからパイルバンカーを具現化し、その杭を直接敵の体へと打ち込んでいく。
「冷凍保存。コレで長持ちですね!!」
 ド挨拶代わりのリヴァーレの一撃で多少体を凍らせようとも、ドリームイーターは動きを止めることなく固い頭をケルベロスへと叩きつけて来るのだった。

 2体のブリっぽい生き物とケルベロスの戦闘は続く。
「皆、落ち着け! 股間にモザイクがかかってる方が破廉恥……いや、敵だ!」
 回復に当たり続けるマイが叫ぶが、もう、何がなんだかという感すらある。
「魚にそんな物、必要ねぇだろ」
 コールは今まで鹵獲してきた技術と知識の全てを駆使し、伝説として語り継がれる武器を再現した。
「――暴虐の凶顎は、欲望のままに貪り、無辜の血肉を無益に散らす――嗤え――」
 それは機械的な槍。発動により、チェーンソー状の刃を展開し、あらゆるものをズタズタに引き裂いていく。だが、思った以上にモザイク部分は硬く、分断するには至らない。
「マインドソードで3枚おろし、クイックドロウで串打ちだろ?」
 リヴァーレは言葉通り、サンマと信じて疑わぬ相手を柳場包丁のような形状の剣で切り裂き、スーツの内ポケットから竹串を取り出して素早く放つ。サンマの蒲焼をヒントにした攻撃だが、さすがに敵も簡単に調理される気はなさそうだ。
 ブリは頭突きをアジサイへと浴びせ、また、時にモザイクを飛ばして攻撃を仕掛けてきていた。
 アジサイもマイやてぃー坊が行う回復をサポートする為、自分や他の前衛メンバーに雷気ショックを飛ばしつつ敵の攻撃を防ぐが、時にそれが後方に飛び、明子を包み込んで彼女の興味を奪わんとする。
 それを受けた明子は、まるで養豚所の豚を見るような瞳で敵を見下し、燃え上がる名刀『白鷺』で敵の体を切りつけ、傷口を燃え上がらせた。
 炎に悶える敵の姿にパーカーは苦笑しつつ、アジサイの着ぐるみを経由させた跳弾で敵の体を撃ち抜いていく。
「ガァアアア!!」
 ガルフは大声で吠える。号令として発されたそれにより、彼は自らの心を奮い立たせ、眼前の敵に猛然と襲い掛かっていく。
(「寒ブリ、寒ブリ、寒ブリ……」)
 そいつを食べようと考える大食いなミカ。ヴァルキュリアの彼は光の暴走を制御し、自らの構成要素を変換した絶大な光粒子量を集束させ、突撃していく。
 艶かしい足が揺らぐ。パーカーはすかさずガトリング弾を浴びせかけたが、ブリは踏ん張り、態勢を整え直してしまう。
 しかし、敵はかなり傷んできているはずだ。早いところ刺身にしようと、握る刀に空の霊力を纏わせた明子が大きく刃を振るって切りかかる。
 さらに、マイがトドメを狙って敵の脚を掴んで引き倒した上、微電流と超振動波を纏わせた脚で蹴りを食らわせた。
「存分に味わえ」
 その壮絶なる電気あんまは、人型の男性であれば悶絶もの。
 だが、魚に脚が生えただけの夢喰いはそれに耐え切ってみせ、モザイクを飛ばしてこようとする。
「炙りっていいですよね」
 トドメの一撃。リヴァーレも竜の幻影を放ち、敵の体を炎上させる。
 途中まではこんがりといい匂いを発していた敵だったが、次第に全身がモザイクに包まれ、霧散するように消えていった。
「か、寒ブリ……」
 切り身でも落とさないかと淡い期待をしていたミカは、何も残されなかったことにがっくりと肩を落としたのだった。

●噂の真相……?
 夢喰いを討伐したことで、夏目・義博少年は目を覚ましていた。
 念の為にとマイが分身の力で手当てを行い、コールも介抱の手伝いを行う。
「……まぁ、これでいいだろ」
 そこで、近場の自販機からガルフが温かい飲み物を買って義博へと差し出す。ホットココア缶を口にする彼に、リヴァーレは笑みを浮かべていた。
「魚……、そうだ、脚が生えた魚は?」
 そこで、義博が周囲を見回す。この状況でも、彼は興味を強く抱いていたらしい。
「さ、あなたの見たかったのはこれかしら」
 明子が慈愛の表情で示したものは……、再び、頭部と両腕を格納し、ブリになりきったアジサイの姿。無言のまま立っていたアジサイは義博の視線を感じると、全力ダッシュでその真横を通り過ぎ、曲がり角を曲がって闇夜に消えていった。
「世の中には変なことがあるものだ」
 パーカーが事も無げに告げる。ただ、少年は思った以上にインパクトのある見た目に、完全に固まってしまう。
「アレは……」
 少年のトラウマにならぬようにと、マイはなんとかフォローしようとする。
「なんか、キモいゆるキャラみたいなものが……」
「現実ってこんなものだよ」
 駆け抜けたそれを目にして唖然としていた少年に、ミカは少しだけ大人になった瞳で告げた。
 そんな少年をガルフがおんぶする。もふもふあったかな毛皮に包まれ、少年は現実をかみ締めながら帰路に着いていくのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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