花恋のディーヴァ

作者:柚烏

 ――もう、冬の足音は直ぐ傍まで迫っていた。息を吸い込む度に、森の凍てついた空気が肺を満たし――それが、ともすれば物思いに耽りそうになる山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)の意識を、現実へと引き戻す。
(「……今までの事件は、茨城の森の近くで起きてた」)
 攻性植物に寄生され、後戻りが出来ないまでに侵食されてしまった少女たち――彼女らもまた、アイドルに憧れていたことを知ったほしこは、その夢が元で狙われてしまったのではと調査を進めていた。
 とくり、とくりと彼の胸は早鐘を打ち、何かに導かれるようにして、ほしこは茨城にある晩秋の森を進む。と、その奥で――あかあかと燃える夕陽に照らされ、大樹の傍に寄り添う赤薔薇、否、赤薔薇の攻性植物である少女を見つけたのだ。
「あの子は――」
 みどりの髪を薔薇で飾り、魅力的なスタイルに纏うのは薔薇のステージ衣装。そう言えば、薔薇は茨城の県花だったとほしこは思い出す。
「……まさか、今までの事件を起こしていたのは」
 かつては愛らしかったであろう面差しに、匂い立つ野心を漂わせた魔性の薔薇を一瞥してから、ほしこは震える拳を握りしめながら森を引き返した。

「……ほしこさんの調査のお陰で、人型攻性植物の動きを察知することが出来たよ。ようやく、一連の事件を起こしていた攻性植物を攻撃できるチャンスが巡って来たんだ」
 ほしこの調査を元に、ヘリオンでの予知を行ったエリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は、遂に此方から打って出ることが出来るのだと言って気合を入れた。
 彼もまた、攻性植物の犠牲となったひとびとを救えない現実に心を痛めていたから、悲劇を断てる機会の訪れを待ち望んでいたのだろう。
「攻性植物は、艶やかな赤薔薇で……その肉体はかつて『美咲』と呼ばれていた子のものみたいだよ」
 けれど、と顔を曇らせるエリオットは、もう彼女の意思は失われているのだと続ける。
「だから、彼女が何か言って来たとしても……それは攻性植物が、生前の彼女の記憶を元に喋っているだけだからね」
 ――故に、心惑わすような甘言を囁いたとしても、それは本来の美咲とは全く関係ないのだとエリオットは念を押す。その上で攻性植物は薔薇の棘や花弁を操る他に恋のうたを歌い、此方を惑わしてくると言った。
「……これが、彼女との決戦になる。今まで犠牲になった子たちの為にも、どうか此処で終わらせて欲しい」
 尚、この戦いにはヴェヒター・クリューガー(葬想刃・en0103)も同行し、回復面でのサポートを行う予定だ。愛らしい少女が攻性植物と化した事実に、ほしこは複雑な表情をしていたけれど――やがて覚悟を決めて顔を上げた。
「美咲ちゃんは、もしかしたら一緒に歌う仲間が欲しかったのかも知れねぇ、けれども……!」
 それが攻性植物の野心によるものならば、立ち向かう――自分なりの方法を示すのみだ。心の通じた皆を誘い、ちょっぴり強引にユニットなんかを組んだりして、一緒に歌い踊る。そんな自分の信条をぶつけてやろう。
「歌って踊って祈っちゃう、それがおら達『山彦のメモリーズ』だから――!」


参加者
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
ギュスターヴ・トキザネ(ケルベロスの執事・e03615)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)
伊・捌号(行九・e18390)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
オーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)

■リプレイ

●森に潜む薔薇
 粛々と一行は、落ち葉の降り積もる晩秋の森を進んでいた。獣たちは厳しい寒さを耐えるべく、備えを始めていることだろう――すっかり葉の落ちた木々を捉えた筐・恭志郎(白鞘・e19690)は、間近に迫る冬を思い白い吐息を零す。
「薔薇の攻性植物の事件は……元々は友人が追っていた事件です。……これ以上の被害を、出さない為に」
 そうして恭志郎は、覚悟を決めた足取りで森を行く山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)の華奢な背を追った。一連の事件を引き起こしていた攻性植物は、彼の見知った少女――美咲を宿主に選んで暗躍していたようなのだ。
(「それから美咲さん本人みたいに、利用されてしまう子をもう出さない為に」)
「大切な夢を利用されちゃうなんて、とってもかなしいよね、なると」
 さくさくと枯葉を踏む音を響かせながら、オーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)は傍らのウイングキャットのなるとへ、零れるような空色の瞳を向けた。なーと頷くように鳴いた彼の、ふかふかの背を撫でるオーキッドは、微かに滲んだ涙を堪えてきりりと前を向く。
「もう手はとどかないのかもしれないけれど、それでも――」
 そうして懸命に己を奮い立たせるオーキッドの肩を、ぽんぽんと優しく叩くのはヴェヒター・クリューガー(葬想刃・en0103)。困難に立ち向かうのはひとりじゃないと伝えるように、彼はにっと笑みを浮かべてみせた。
「……斯様な形で少女の夢を利用するとは狡猾な。悲劇の根は断たねばなりますまい」
 と、まるで此処が優雅なお屋敷の一室であるかのような立ち振る舞いで、ギュスターヴ・トキザネ(ケルベロスの執事・e03615)は恭しく皆に付き添っている。彼の柔和な相貌、その片眼鏡の奥の瞳が微かな揺らめきを宿す中――猫の耳を立てた黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)は身軽に森を駆け、夕陽に沈むみどりの世界へ、鮮やかな紫の髪が舞った。
「美咲ちゃん……遮二無二トップを目指す姿勢、嫌いじゃなかったよ。一体何があなたを……!」
 ――何時しか周囲の景色は、ほしこが彼女の姿を見つけた場所に近づいていって。勝気ながらもひとを惹き付ける魅力に溢れていた、かつての美咲を思い出した彼は、もっと違う形で対決をしたかったと拳を握りしめる。
(「嘗ては純粋な思いだったんだろう。こんな形で花開くのは皮肉だけど」)
 きっと上昇志向を誰かに利用されたのだろう、とほしこが語っていたことを思い出しつつ――ゼレフ・スティガル(雲・e00179)は無意識の内に、夕陽の色を宿した己の髪をくしゃりと掻き上げていた。この髪も眸も容易く光色に染まって、ふらりと雲が漂うように生きて来たけれど。だからなのか、彼らが夢に向かって懸命に生きる姿が、ゼレフには余りにも眩しく映った。
「それでも、最後ならば花道を――ね」
 一歩足を踏み出した、その先に作り出されるのは隠された森の小路。ひとりでに曲がる植物たちは、ゼレフが呟いた通り舞台への花道を開いてくれて――その行く手には嫣然と、大樹を背にした美咲が佇んでいた。
(「何か、嫌な感じっすね」)
 其処へ辿り着いた瞬間、鳥や獣の鳴き声が遠ざかったような気がした伊・捌号(行九・e18390)は、油断なく辺りを見渡す。暮れなずむ森はあかあかと燃え上がるかのようで、傾いた陽は彼女の透き通る肌も薔薇色に染めていった。
「俺は……既に手遅れで、助けられない事件って避けてたんです」
 ――そんな、一枚の絵画に収められたような世界に、波紋を広げるのは恭志郎の声。急げば助けられる、救える可能性のある方を自分は選んできた――そう続ける彼へ、美咲の姿をした攻性植物は挑発じみた嘲笑を浴びせる。だったら何故、貴方は此処に居るのと問いかけるように。
「そういう事件に向かうのが性に合ってる、そう思っていましたけど……でも。救えないような事件だからこそ向き合って、手の届かない事件を届く所まで引き寄せた友人達が居たから」
 彼らが居たからこそ、自分は此処に立っているのだと恭志郎は言った。その上で彼は刀の鞘を握りしめ、震える声で自身に呟く。
「……そして、俺は逃げようとしてたんだ、って気付いたから」
 けれど、一緒に向き合うことが出来るなら――そう言って顔を上げた恭志郎に、最早迷いの色は無かった。彼の友人であるフィーは、頑張ろうと言うように頷いて――この攻性植物は、ほしこの知っている子だったのかと納得しているようだ。
「教えてけろ。かすみがうらからこっち、攻性植物使って裏で糸引いてんの誰さ! 人の夢食い物にして! オーズの種? カンギ様とかってやつ!?」
 やっと巡り合えた相手へ、気が付けばほしこは己の抱く疑問をぶつけていた。しかし、向こうは真剣な彼の姿を面白そうに見つめてから、くすくすと鈴の音のような笑い声を響かせる。
「面白いわ、聞かれたからと言って素直に答えると思っていたの?」
 ――問いに答える義理など無いと敵は断じ、これ以上のやり取りは無意味と判断した一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)は、懐から銃を抜いてゆっくりと照準を合わせた。
「わたしは貴方の気持ちを、分かってあげることはできないのでしょう」
 アイドルを目指したこともないし、自分が実際にやっていることと言えば危険な運び屋の相棒だ。けれど、そんな刺激的な日常に身を置いている所為なのか――淑女然とした瑛華の物腰には、時折どきりとするような艶が滲む。
「……だからせめて、静かな眠りを貴方に。ごめんなさいね」
 頬にかかる銀糸の髪をかき上げ、彼女は淑やかに――しかし淡々と美咲に語った。凛とその声が森に吸い込まれると同時にざわりと木々が揺れて、美咲は攻性植物としての本性を露わにする。
「美咲ちゃん……おらは、ノマドご当地アイドル『山彦のメモリーズ』として受けて立つだ! 歌には歌を――おら達の生き様を思いっきりぶつけるつもりで!」
 この時の為にユニットを結成した仲間たちを見渡し、ほしこは美咲に向けてびしりと指を突き付けた。こんな形でも、ただ攻性植物として倒すのではなく、アイドルとして受けて立つ心意気――それはきっと、アイドルとして上り詰めたかった彼女への手向けになるとフィーは思う。
「最善の結末を、この手に掴もう。それが、僕の求める物語」
 ――ステージの開演を告げるように、そして攻性植物化の根源へ届けとばかりに、彼女は空へと照明弾を打ち上げた。ほしこを思わせる黄色の光がぱっと弾け、それは裏方に徹して皆を支えようと思っていた、ぽてとの決意も後押ししたようだ。
(「『山彦のメモリーズ』の信条を持って立ち向かうのならば、そこはほしこちゃんのステージ……なら、貴方のハートで決着をつけなさい!」)

●響き渡る木霊
「……いいね、そういうの。なれば力になろうじゃないか」
 僅かに口角を上げるゼレフは、火花を散らすふたりの歌姫を見遣って得物を構えた。人生の途中まで、夢も抱く事無く生きてきてしまった為か――ふたりの様な生き方は、熱持つものに感じられて。相棒の良く知る人物だと言うゼレフと視線を交わした瑛華も、彼らのアイドルとしての矜持を蔑ろにしないよう、助力すると誓う。
(「彼女達の気持ちを理解しきることは出来ないのであれば。ならばせめて、彼女達のアイドルとしての戦いを邪魔しないようにしましょう」)
 敵は妨害能力に長け、此方の無力化ばかりか同士討ちも狙って来る――そう判断した一行にはサーヴァントを従える者も多く、彼らは瑛華の合図で事前に決めていた通りに隊列を組んだ。回復の減退が生じぬように列の人数を調整し、回復を担当する予定だったヴェヒターは付与役へと回る。
『響け、雄々しく! ちりゆく恋の花こえて、やぶれた夢も肥に替えて!』
 皆で歌えるようにアレンジを加えた、自分の代表曲――ほしこの歌う山彦の追憶・皆は、まるでこだまに乗って反響していくかのように歌声を連ねていき、一緒に歩んでいく者たちへ勇気を与えていった。
(「俺がこうして此処に居るのも、皆の努力があったからで。……ならば自分も、誰かの標になれるように歌い継いでいこう」)
 メインパートを支えるべく、恭志郎が担当するのはコーラスパート。霊力を帯びた紙兵が皆へ守護をもたらすと同時、舞わせた黄の紙吹雪には幸いであれとの願いを込める。
「自分は歌とか、しょーじき慣れねーっすけどね……でも、何か伝えてあげてーって思ったっすよ、美咲さん」
 ふてぶてしい口調で本心を覆いつつも、捌号は真摯に歌と向き合っているようだ。慣れない歌唱に苦戦しながらも、祈りに重ねて歌声を響かせる彼女――その手に握られた剣先が舞うように地を滑り、描かれた守護星座は聖域の加護を仲間たちにもたらしていった。
(「さぁ、魅せてあげなさい『山彦のメモリーズ』の、アイドルのハートって奴をね☆」)
 先輩アイドルとして、後輩へとエールを送るぽてとが口ずさむのは、自身の代表曲である元祖『藍のコトハナ』だ。言葉に出来ない想いを受け取ったフィーもまた、アンティークレースに彩られたドレスを翻して幻想のオーケストラを奏でていく。
「ボクも頑張るから! いくよっ、なると」
 白銀の翼を羽ばたかせてオーキッドは宙を舞い、皆の攻撃が当たりやすくなるように、攻性植物の機動力を奪おうと跳び蹴りを食らわせた。流星の煌めきと強烈な重力と――尾を引くように吸い込まれた彼の一撃に続き、なるとも爪を立てて鋭い引っ掻き傷を負わせる。
「行き過ぎた野心が己をも滅ぼす。デウスエクスとて例外から免れ得ますまい」
 一方のギュスターヴは、敵の足取りが鈍った所へすかさず、地獄の炎を纏った鉄塊剣を振り下ろした。みるみる内に燃え上がる魔性の薔薇を一瞥し、慇懃に彼が一礼をした所で――少しでも力になれればと、紫織が指先を滑らせて文字に込められた力を引き出す。
「……哀れね。あなたも」
 口元には微笑みを湛えているけれど、彼女の真意は如何ばかりか。手向けの文字は『雷』――宙にその字が書かれるや否や、空から雷が降り注いで敵を打ちすえた。更にほしこのシャーマンズゴーストの山彦るまが、後方から原始の炎を浴びせるものの、美咲は悠然と反撃に移る。
「――この歌で全てを、虜にしてあげる」
 その唇から紡がれるのは、花恋の名を持つラブソング。痺れるような眩暈、或いは陶酔が観衆の身を焦がさんばかりに襲い掛かり――胸に流れ込んでくる感情の波に、オーキッドは必死で耐えようとした。
(「この歌を聞くと、どうしてこんなに切ない気持ちになるんだろう」)
 零れ落ちそうになる涙も拭わず、けれど攻撃の手も止めずに、彼は構えた大槌から竜砲弾を轟かせる。聖なる聖なる聖なるかな――捌号の捧げる無垢な祈りが加護を与えていく様子を見つめていると、オーキッドの胸には仄かな灯がともっていった。
(「歌が胸に響くのは、記憶の中に潜んだ想いがあるからなのかなあ?」)
 響き渡る美咲の歌は、此方を翻弄するように心の隙間へ忍び込んで来るけれど、それに苦しめられるだろうことは織り込み済みだ。ほしこや捌号が手分けして回復へと動き、恭志郎とヴェヒターは状態異常の解除と共に、確実に耐性を付与していく。
「……貴方にも、音の楽しさが伝わりますように」
 同じ音楽を愛する人を、こんな目に遭わせ続けられないと決意する美琴は、黄色に輝く雪の光を辺りに舞わせた。ほしこをイメージしたその色は、彼らを応援するケミカルライトのようで――標的が心を奪われた隙を突いて、付近を警戒していた柚月は金色のカードによる召喚を行い、一行の戦いに加勢する。
「いい曲だね、全部君が作ったの?」
 互いの歌が正面から届くよう、ほしこを背にしたゼレフがぽつりと呟き、曲に合わせるようにして派手に得物を振るった。燃え上がる地獄の炎は、華の如く鮮やかに歌姫たちの舞台を彩り――其処へ瑛華の銃口から放たれるマズルフラッシュが、夕闇の森を眩く照らし出す。
「――っ!」
 跳弾により、死角から銃撃を受けた美咲が腕を押さえた所へ、ギュスターヴが投げつけたのはカラーパウダーだった。それは極限まで精神を集中し、彼が生じさせた爆発へと着色を行う。
「……これ以上、他に類が及ぶ前に決着を付けましょう」
 山彦の追憶の間奏に合わせ、爆音はステージを盛り上げるかのように辺りへ響き渡った。黄色に染まった爆風には、黄薔薇の花言葉の一つである友情を込めて――立場は違えど、これが同じアイドルとしての友誼に寄り添うものになれば良いとギュスターヴは思う。
『この星の未来を担う人々を守りなさい、時實』
 ――敬愛する主の最期の言葉が、不意に彼の胸へ蘇ったと同時。風に揺れた己の三つ編みに触れる、ちいさな手のぬくもりを感じたような気がして、ギュスターヴはそっと相好を崩したのだった。

●一つの終幕
 状態異常に対する万全の備えもあって、一行は身動きが取れなくなる前に回復を行い、深刻な事態に陥る事無く戦い続けている。しかし、盾がサーヴァントのみと言うのは、やや耐久力に不安があるだろうか――そう見越していた巌は盾役を請け負い、何としても皆を護ろうと身体を張っていた。
「アイドルってのは人に夢を与える存在で、それが夢を奪う存在になっちまうたァ、やり切れねェな」
 黒服姿で黄色のサイリウムを振る巌は、アイドルの親衛隊のようで。彼は気合を入れていこうぜと、ほしこへ勇ましい檄を送る。
(「歌ったり踊ったりはできないけれど、私は私のやり方で、ほしこさん達を守ります!」)
 そして戦友の対決に駆けつけたフローネも、彼らの歌や想いを守るため力になろうと、紫水晶の盾を掲げて敵の呪歌を弾いた。
「アメジスト・シールド、最大展開……!」
 その盾は茨を受けて傷ついていた、ボクスドラゴン達――捌号のエイトや紫織のナハトを、優しく包み込んで癒していく。一方で、歌を口ずさみながら気力を溜めていく恭志郎の姿に、勇気を貰ったオーキッドは何時しか微笑みを浮かべていた。
(「仲間の歌がまた、揺るがぬ強い想いをくれるから。ボクだって強くなるって、みんなを守るって決めたから――」)
 炎を纏った蹴りを攻性植物に叩きつけた後、オーキッドはそっとなるとの頭を撫でて。歌うのって本当は楽しいことだよねぇと、彼はヴェヒターを見上げて笑う。
「ねえ、ねえ、ヴェヒター。ほしこたちのお歌はとっても綺麗だね。ボクたちも、一緒に歌おうよっ」
「おー、あいつの歌なんかに負けない位の、でっかい声でな!」
 ――美咲のかなしいお歌も、心に募ったかなしい気持ちも。吹き飛ばせるくらいに泣きたくなるくらいに、明るくてまっすぐな勇気のお歌を。もう何処にもいない美咲へ、せめて少しでも届くように――祈りを込めた捌号の歌声も、それに重なり晩秋の森を震わせていった。
(「こんな悲しい未来を、きっと彼女も望んでいなかったと思うから」)
 ――あなたの望みなんて知らないけれど。そう呟き、容赦なく術を浴びせていく紫織も、捌号と同じ思いでいるようだ。竜の炎に灼かれる美咲は、何故自分が此処まで押されているのか分からずに、悔しそうな顔で一行を睨みつける。
「彼らの、彼女たちの歌声、聞こえるでしょう? だから、私達は……あなたの歌には、負けないわ」
 紫織の言葉通り、今や皆の心はひとつとなり、山彦の追憶はクライマックスを迎えていた。ともに進もう、 こだまを返す、峰のように――詞のひとつひとつが本来の美咲の心へ届くようにと信じて、ほしこは懸命に歌い続ける。
(「ホントにやりたかったことは、こんなことじゃなかったはず。ただ仲間と一緒に地元を元気にしてぇ……そうだっただよな、美咲ちゃん!」)
 動きを鈍らせた美咲の様子を確認し、威力重視の攻撃に切り替えた瑛華の手からは重力の鎖が舞って。有効射程内に拘束したと同時に銃声が響き――其処へギュスターヴの静かな怒りを込めた、煉獄の蒼炎が襲い掛かった。
「所詮は攻性植物の真似事と、断ずるは容易い。しかし命は失われてもその祈りが、想いが彼女の魂に届く」
 ――そう信ずれば何人たりとも、ほしこ様達の歌を止める事は出来ますまい。毅然とした態度で告げた彼に頷き、ゼレフは歌姫に捧げようと銀の炎を纏う刃を閃かせる。
「歌のための舞も知らないけど――生憎、芸はこれしか持ってなくてね」
 灼き焦がすかの如き抱擁が、追い詰められた美咲を包み込み――そうして彼女の身体は、灰となってはらはらと空に散っていった。

(「……この後も調査しなければならないから」)
 手掛かりを掴めたら、との一心で悠乃はサンプルを確保しようとしたが、残念ながら武装として扱えるほどの量は残らなかった。一方のほしこ達は、何らかの異変が無いかと森を探索したが、特に発見は無かったようだ。他の事件とも照らし合わせつつ、これからの地道な調査に賭けるしか無いだろう。
「……お疲れ様、二人の歌姫さん」
 言葉少なに労いの言葉をかけるゼレフは、ステージには喝采が必要だとささやかな拍手を送って。今はせめて共に帰ろうと、ほしこの背をゆっくりと追った。

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 8
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。