●弱者を呼ぶ攻性植物~決戦
その女の右手には、かなり読みこんだであろう、ブライダル情報誌が握られていた。
左手には二つに破かれた写真。
「……今度こそ、幸せになれると思ったのに。いつも、いつも……私が幸せを掴もうとすると、別の女が私の邪魔をする。私は1人の男性と幸せになりたいだけなのに……行かなきゃ……そして幸せになる力を貰うのよ」
女はぶつぶつと呟きながら、自分を呼ぶモノの元へと向かう為、夢遊病者の様な足取りで森へと入って行く。
「……明らかに、正気やあらへん。あの子の後をつけてみよか? 何かしら分かるかもしれんね」
木々に身体を隠しながら、劉・鵬玄(オラトリオのウィッチドクター・e28117)が仲間達にそう告げれば、仲間達も頷く。
そして女は自分を呼んだモノと対面する。
「よく、ここまで来たな。お前もカースト下位の人間なんだろ? 難い奴が居れば殺せばいい。幸せになりたきゃ奪えばいい。その為の力を俺様が与えてやるよ」
植物に包まれた派手な髪の男がそう言えば、女は頷き、それに応じる様に女の周りにアイビーの花が咲き乱れる。
無数のアイビーが女を飲み込もうとした時だった。
「そうは、いきませんわよ」
言葉と共に、琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)が、御業で生成した炎で無数のアイビーを焼き払う。
「んあ? なんだ!」
攻性植物に身体を侵された男が、突然の出来事に声をあげる。
「咲次郎様、彼女の避難をお願いしますわ」
「了解じゃ。安全な所に、避難させたらすぐ戻るからのう。みんな、油断せんようにな」
淡雪の言葉を受けると、野木原・咲次郎(金色のブレイズキャリバー・en0059)は、その大きな両腕で気を失った女を抱え上げ、森を駆けていく。
「あなたが、これまでの黒幕ですね。泰明君や史郎さん、立場の弱い人達に偽りの力を与えて、惨劇を引き起こそうとしていた……」
「てめえは!」
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)が、これまでの怒りを爆発させる様に言葉を発せば、攻性植物もルーチェの顔を見て険しい顔をする。
「魔法少女とかぬかして、俺に説教をたれた女じゃねえか! てめえの所為で、俺は! 俺はーー!!」
攻性植物が怒りの声をあげると、緑の葉が刃となって宙を舞いケルベロス達に浅い傷をつけていく。
攻性植物の顔を見て、ルーチェも思い出す。
数ヶ月前、街を荒していたチンピラを魔法少女として成敗した。
だが、そのチンピラは反省するどころか『力を手に入れて絶対復讐してやる!』と言って逃げて行ったのだ。
「あの時の……復讐心で本当に力を手に入れてしまったんですか……?」
ルーチェが驚愕に目を開く。
「もう、てめえになんか負けねえ! 力は手に入れたんだ! 後は、手下を増やして俺はカーストの上位になるんだよ!」
猛獣の牙を生やした攻性植物の花が、ケルベロス達に襲いかかろうと涎を垂らす。
「なんて事……」
「ルーチェ、大丈夫かいな? 呆けるんは、あとや。こいつを倒さんと何も解決せんやろ?」
鵬玄が、仲間達と視線を交わしながら、ハッキリと言う。
「……ですよね」
ルーチェの瞳に強い意志の炎が灯る。
「弱きに目をつけ、悪意を広めるあなたは、もう救えないでしょう。ならば、ここで私達があなたを倒し、負の連鎖を止めて見せます!」
森の中にルーチェの攻性植物への宣戦布告が響けば、ケルベロス達はそれぞれの武器に手をかけるのだった。
参加者 | |
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暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443) |
天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981) |
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774) |
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093) |
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143) |
ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179) |
明星・紫姫(夢色赤ずきん・e24614) |
劉・鵬玄(オラトリオのウィッチドクター・e28117) |
●因縁の戦い
「渦巻くは、螺旋の如く! で、ございまーすっ!」
オウガメタル『チョーキさん』を体内に取り込み、自身の血液と融合させると、ウージュは血と鋼の二重螺旋を小阿久・統冶にぶつける。
「咲次郎様、今のうちでございます!」
ウージュが言えば、野木原・咲次郎(金色のブレイズキャリバー・en0059)は、抱えた女性が傷付かぬ様に足早にその場を離れようとする。
背を向けた咲次郎を巻き込む様に、統冶が緑の葉を乱舞させる。
「悪いな。咲次郎には、一旦ここから離れてもらわないといけないんだ」
言いつつ、陣内は咲次郎を襲う緑葉の刃を身体で受ける。
「さあ。お前の恨み辛み、苛立ちを臓腑ひっくり返して吐き出せ。少しは楽になるだろう」
陣内が言葉にグラビティを込めて統冶にぶつければ、統冶の眼前に一瞬菊の花の幻影が映し出される。
「てめえ!」
「……馬鹿なの?」
陣内に苛立ちを覚える統冶に、嘲りの赤き言葉を投げると、アガサは琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)に向かって『任せろ』と親指を立てる。
「淡雪さん、ファイトだぞ! 咲次郎さんと女の人は無傷で避難させるからな~」
ヒールグラビティを放ちながら、リーズレットは咲次郎の後ろを護る様に一緒に駆けて行く。
「これであの女性は安心かしら……ふっ……」
艶っぽく、淡雪は統冶に勝ち誇った笑みを浮かべる。
「なんだ、てめえ! その笑いは!?」
「あら、ごめんなさい。何人もの人を犠牲にする様なデウスエクスですから、もっと大物かと思っていたんですけれど……貴方みたいな方でしょう?」
グラビティを込めた藍色の瞳からの笑み……統冶の顔が更に歪む。
「傷ついた人の心に付け込んで、惑わせて……。こんなの……自分勝手な僻みに、関係ない人を巻き込んでるだけじゃんか!」
怒りの声を叫ぶと、暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)は、体内に宿す膨大なグラビティ・チェインを一つに紡ぎ合わせ、自身をグラビティそのものと化し、その超機動力を活かして統冶の懐に飛び込み、獅子が刻まれた剣で統冶を切り裂く。
「お前には……事件も、復讐も……どっちもさせない……! もう、何もさせない!」
そう強く言う輝凛の身体は、グラビティが溢れ金色に輝いてている。
「馬鹿にしやがって……」
「随分とイライラされているようですね……短気は損気、ですよ。隙だらけです」
統冶の死角を取る様に背後に回っていた、天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981)は、ゆったり言うと流星の軌跡を描きながら、統冶を蹴り上げる。
「カーストの上位というのはよく分かりませんが、誰かを傷つけて、力尽くで奪うというのは随分と小物な印象です……。手を取り合い、お互いを助け合うケルベロスの強さに貴方は勝てません」
そう言って振り返ると、雲雀は光の剣の切っ先を統冶に向ける。
「ボクはあなたに何の因縁もないけど、史郎さんと戦った時に思ったんだ……」
刃の鋭さを備えた蹴りを統冶に撃ち込みながら、明星・紫姫(夢色赤ずきん・e24614)は、心の中で呟く。
(「史郎さんを救えなかった事に対するごめんなさいは、元凶を倒すことで償うからって……ボクがその元凶さんと戦うとは思ってなかったけど……史郎さんを倒した以上、ボクにも責任があるから……全力で戦って償うよ」)
「あなたは必ず、此処で討ち取る!」
ハッキリと言葉にし決意を固くする紫姫の赤い頭巾を被った頭を、温かな手が柔らかく叩く。
「ボク等で必ず倒そ。紫姫には、みんなとボクも付いてる」
細めた眼を優しく紫姫に向けると、劉・鵬玄(オラトリオのウィッチドクター・e28117)は、仲間達に向け紙兵を放ち護りの力とする。
「ほんま性根の腐ったような奴やね。ボクも人の事言えるような人間ちゃうけど……あんたは、嫌いやわ」
紫姫に向けた温かい眼差しとは全く真逆の、蔑みの瞳で統冶を見ると鵬玄は、髪に咲く竜胆……倒した『彼』がすがった花を揺らしながら、低い声で言葉を紡ぐ。
「間違った強さは身を亡ぼすんやで……あの世で反省しぃや」
「ゴチャゴチャうるせ―!!」
その時、仲間達の言葉、そして……統冶の言葉、両方を聞きながらも言葉を発さずにいた、ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)が無言でバスターライフルからエネルギー光弾を放った。
銃口を下げると、ルーチェは確認する様に言葉を選び、統冶に言葉を浴びせる。
「今までに感じた悪意は貴方だったんですね……こうなるとわかっていれば、あの時……いえ、今度こそ見逃したりはしません!」
ルーチェの緑色の瞳には、魔法少女……いや、1人のケルベロスとしての強い覚悟が秘められていた。
●全てを奪う為
「ここまで避難させれば大丈夫じゃろ……」
抱えていた女性の身体を大きな木に預けると、咲次郎が呟く。
「後は私達がやっておくから、咲次郎さんは本隊の方へ合流してくれて大丈夫だぞ!」
リーズレットがそう言えば、ウージュも力強く頷く。
「そか。なら、わしはみんなの所に戻るな」
咲次郎が戦場へ戻ろうとした時、森を掻き分け二人の男女が現れた。
「咲次郎さんがここに居るって事は、攻性植物の手がかりがあったみたいですね」
寄生型攻性植物のサンプルを独自に収集している悠乃が確認する。
「そうなんじゃが。今は説明している時間も惜しいんじゃよ。わしもみんなに合流せんと。みんなが今、攻性植物を増やしとった奴と戦っとるんじゃ」
「やっぱりいたのか、事件の元凶ってやつが……!」
独自で調査していた、柚月は咲次郎の言葉を聞くと、目を鋭く細める。
「現場に案内してくれ、野木原さん。事情は向かいながら聞く!」
そう言う柚月と悠乃を連れ、咲次郎は来た道を急いで引き返す。
それと同じ時……戦場では、土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)の癒しの言葉が響いていた。
「護りの力を! 大きな光るお星さまが護りますよ!」
岳の手から放たれた光の盾は、淡雪の傷を癒すと盾として輝く。
(「ルーチェさんの仰る通りです。あの方を倒して解放して差し上げましょう。悲劇を……繰り返さない為にも……」)
ルーチェ……そして、自分達と対峙する統冶を交互に見ながら、岳は心の中で呟く。
(「それにしても……些末なことで、ご自分の魂をデウスエクスに明け渡すだなんて。……そしてデウスエクスがいなければ、あの方も或いは……」)
「男として、のし上がって行きたいって気持ちはわからないでもないが……他人の弱みに付け込み、悪意を広めると言うやり方は見過ごせねぇ! マリア!」
統冶に男としての理解を示しながらも、そのやり方を真正面から否定すると、ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)は、相棒のビハインドの名を呼んだ。
ジョーの言葉を聞くとマリアは、統冶を縛るエネルギーを放つ。
「くそがあ! そんなもんで俺様が縛れるか!」
「本命はそっちじゃねえよ」
統冶の意識がマリアに行ったほんの一瞬で、ジョーは空高く跳躍していた。
「どうした? 俺はコッチだぜ? 捉えてみろよ!」
カンガルーのウェアライダーであるジョーは、自慢の脚力で戦場を縦横無尽に跳びはねると、統冶をを何度も蹴りつける。
目にも留まらぬ速さで攪乱され、幾本もの流星の様な蹴りを統冶は身体に受け続ける。
「面倒くせえ! てめえ等は同士討ちしろや!」
ジョーの連撃に耐えかねた統冶は、身体に咲く花から攻性植物独特の狂おしい香りにグラビティを込め ケルベロス達に放つ。
その香りは、統冶を包囲する様に接近していたケルベロス達を一気に包む。
「同士討ちって事は、催眠ですね。雷光の守護を!」
岳がすぐに、雷の障壁を構築する。
(「普通の人間がこれだけの力を得るんですから、デウスエクスは本当に厄介ですね。心の弱さや闇につけ込むデウスエクス……卑怯としか言えません」)
「大人しゅうしときや」
石化の魔力光線を放ちながら、鵬玄が飄々と言う。
「ボク、他人の邪魔するん大好きやねん♪ 覚悟してや?」
「それいい趣味なのかなあ? でも、今回はボクも鵬玄さんと同じ役目だから、頑張るね」
鵬玄の言葉に苦笑いを浮かべながらも、紫姫は駆けると自身を輝く星として統冶に蹴りを入れる。
(「盾になる事だけがみんなを守る事じゃないよね。ボクは、ボクの出来ることをするよ)
「今だよ、雲雀ちゃん!」
「祈りは平和な未来の為に……。願いはあなたの来世の為に……。決意は今此処で悪の連鎖を断ち切る為に!」
雲雀が一つ一つの言葉に願いを込めると、想いは一本の光輝く矢となる。
「強い想いは力になります。私は決して折れません。決して揺るぎません。願い、祈り、決意……全ての想いを乗せて流星の如く降り注げ!」
放たれた一本の矢は空に吸い込まれると、流星となって統冶に降り注いだ。
自身のグラビティをヒールエネルギーに変換しようとしていた統冶に、その隙を与えまいと超高速で近づくと、輝凛は掌に螺旋エネルギーの塊を圧縮すると、統冶に撃ちすえる。
「『カースト下位にいる現実』から抜け出せなかったホントの理由は自分だって、実は分かってるんでしょ?」
「そうですわよね。カースト下位の者ばかり狙うって事は、その下位者の気持ちがよく解るってことよね。つまり貴方自身も下位だから、似たような相手を見つけられたのよね?」
ゲシュタルトグレイブに雷を纏わせ、淡雪は言葉と共に統冶を刺し貫く。
「玄田・泰明、蒼井・史朗……この名前、覚えていますか?」
ルーンアックス『シャイニング・ハート』を振り上げ一気に統冶の頭蓋へと叩きつけながら、ルーチェが問う。
「ぐあ! ……名前だと? 知らねえよ! そんな奴等!」
「あなたが、自分の目的の為だけに利用した人間を……!」
「うっせえー!!」
「前に出過ぎんな!」
怒りの咆哮と共に伸びた統冶の獰猛な花が仲間達を一斉に襲った時、ジョーはルーチェの姿を統冶から隠す様に立ち塞がると、一際大きな牙を持った花に肩口を喰らい付かれる。
ジョーの肩から噴き出す夥しい出血。
陣内が星の聖域を広げ、相棒の猫が聖なる翼をはためかせる。一番手酷い傷を負ったジョーには、アガサが更にオーラを注ぎこむ。
「俺は、これくらいじゃ仕留められねえぞ。偉そうに啖呵を切ったんだ……男なら最後まで向かってこい! キッチリ相手してやる!」
ジョーはそう言うと『進化の可能性』そのものを奪い凍結させる、超重のハンマーの一撃を統冶の脇腹に打ち込んだ。
痛みと共に統冶の頭を言葉がよぎる。
『あの女は許さねえ! 目の前に居るこいつ等も許さねえ! 全てを奪い尽くす! 命も! 金も! 地球も! グラビティ・チェインも! 全て俺のものだ! そうだ、全て……『ユグドラシル』のものだ!!』
●悪しき攻性植物
「咲次郎様! 癒しの雨を降らせて下さいませ!」
大鎌で統冶を薙ぎながら淡雪が叫べば、咲次郎が薬液の雨を戦場に降らせる。
戦闘開始から、8分以上が経過していた。
3分程前だろうか、柚月と悠乃を連れた咲次郎も戦場に戻って来ている。
「神聖なる白の力! 顕現せよ! ディバインエッジ!」
聖なる力を秘めたカードを詠唱により発動させると、柚月は三日月状の刃を統冶に向け飛ばす。
「この羽根は示す、踏み出すべき時を」
悠乃がオラトリオの翼を羽ばたかせ羽をふりまけば、攻撃を続けるケルベロス達の集中力が研ぎ澄まされていく。
「このまま尻尾を巻いて逃げるなんて格好悪い事、しませんよね? あなたはカーストの上位ですものね?」
統冶に光の剣を突き立てながら、雲雀が柔らかに言う。
「うっせえ! うっせえ! 俺は、上位だ! 力があるんだー! 全てを手に入れるんだー!!」
激昂で更に勢いよく舞う硬質化された緑の葉。
「メタルさんよろしくです!」
煌々と宝石のように輝くオウガ粒子を仲間達に降り注がせながら、岳は考える。
(「随分冷静さを欠いているようですね。追い詰められていると言うところでしょうか……」)
「もう、終わらせましょう。貴方も犠牲者のお一人です。……強がりは弱さの裏返し。貴方も只々、自分という存在を認めてほしかっただけなのですよね? 自分を失くしてまで、そうされようとするなんて……お可哀想に……」
「黙れえ!」
岳の言葉を遮り統冶が叫べば、怒りと憎しみがグラビティとなって大気を震わせる。
「これ以上の挑発は、いらねえみたいだな。だったら、さっさと終わらせるぜ!」
マリアが周囲の木々をぶつけることで統冶の気を逸らせば、ジョーがその間を縫って強烈な蹴りを放つ。
「もう終いやね。紫姫、奴の動きを止めるで」
鵬玄が数度目の石化の魔力を放てば、紫姫も大きく頷き。
「そうだね……ちゃんと倒して、終わりにしようね。みんなを護る為に」
赤い頭巾を揺らしながら、紫姫は星の力を右足に込め、統冶に向かって蹴り下ろす。
「悪意の影、絶望の闇! この輝きでぶっ飛ばすっ! レディアント・レオ――――ッ!!」
輝凛が叫べば、より一層、輝凛自身の輝きが増す。
(「全てをこの一撃に! 頼むよ、俺の獅子の剣!」)
その輝凛の一撃は渾身の斬撃と言ってよかった……だが、これまでの戦いで目に見えない数多の傷が付いた剣は、その一撃に耐えきれず刀身に亀裂を入れると、折れ砕けた。
スローモーションのように映る、相棒の武器としての終わりを見ながら、輝凛は少なからずショックを受ける。
「輝凛様!」
淡雪の声に、すぐに輝凛は意識を目の前の統冶に戻すと、柄を握り締めバックステップの要領で後ろへと下がる。
「貴方を焼き払う炎、お届けしますわ!」
御業で炎を形成すると、淡雪は勢いよく統冶に放つ。
「こんなもので俺がー!」
「誰にも負けない力を手にしたのに、また逃げるんですか? ムカつく小娘ひとり殺せないで!」
後退しようとした統冶の耳にルーチェの癇に障る声が聞こえる。
「ざっけんなー!!」
「終わりにしましょう、全てを……」
怒りの声をあげる統冶の眼前までルーチェは迫っていた。
「溢れる勇気を光と変えて……今、闇を切り裂く金色の刃と成す!」
ルーチェの指先に収束されたエネルギーは光輝き、全てを切り裂く金色の刃となる。
振り下ろされる、光の手刀。
光に斬り裂かれる統冶……光が最大限に達し、夜闇が光でホワイトアウトする。
森に夜の色が戻った時、ルーチェの前には何も無く……ただ肩を落とした魔法少女が、必死に涙を堪えていた……。
『小阿久・統冶』と言う男が存在した証は、一切何も残らなかった……。
●花言葉は『侵略』そして『略奪』
「今まで、ありがとう……」
刀身の無くなった剣の柄を握り、獅子の刻印を撫で、輝凛は小さく呟く。
「ふう……いつもと違う淡雪で疲れちゃったわね……どこかでエネルギー補給しないといけませんわねぇ……」
淡雪はそう呟くと、木にもたれかかる咲次郎をロックオンすると、一気に駆け寄る。
「咲様~♪ 今回も淡雪、一杯頑張りましたよね! あっ! ちょっと腕に擦り傷が出来ちゃってますわ! 咲様、治してくださいまし♪ ヒールじゃなく、舐めて消毒でお願いしますわ!!」
期待に目をキラキラ輝かせ、淡雪が左手の甲を咲次郎に差し出せば、咲次郎は何の躊躇いもなく淡雪の手を取ると、舌で一舐めする。
「これで、よかか?」
何事でも無いかのように、咲次郎が柔らかく笑えば、不覚にも淡雪の方が少し『キュン♪』としてしまう。
(「……咲次郎様なら絶対照れて、してくれないと思ってましたのに、こんなあっさりだなんて……何かの前触れですかしら」)
お仕置き覚悟の淡雪だったのだが、咲次郎からしてみればこれくらいのサービスは職業柄、日常茶飯事なので照れる事など無いのだ。
「お二人は、あの方に攻性植物にされた方の最後もご覧になっているんですよね……?」
雲雀が友人である、紫姫と鵬玄に尋ねれば。
「あの時は、グラビティ・チェインが尽きるまでは身体が残ってたかな?」
「すぐに、枯れ果てる様に消えて……欠片も残らんかったね……今回とあまり変わらんね」
それを聞いて、攻性植物のサンプル採取を目的としていた悠乃は、この場に用は無いと去って行く。
「……あなたが、攻性植物になった原因は分かりません。それでも今は、あなたが重力のゆりかごで安らかに眠れる事を祈ります」
岳は自分達が命を奪う事になった哀れな男が、死した後には安らかである様に祈る。
統冶が消えても動かないルーチェにジョーが声をかける。
ルーチェへの復讐心があの男を攻性植物にしたのであれば、ルーチェは自分がした事を後悔しているかもしれないと思ったのだ。
「ルーチェ……大丈夫か? お前の所為じゃねえ。……デウスエクスと関わりを持っちまったのは、あいつが願ったからかもしれねえ。願いが必ずしも、いいものとは限らねえよ」
そう言うジョーに、ルーチェは少しだけ微笑む。
「大丈夫ですよ、私は。……魔法少女はファッションではなく、もういない大切な人が教えてくれた生き方ですから……。これからも私の『心』に従います」
闇夜に一陣の風が吹くとルーチェの橙色の髪が揺れる。
「私は忘れません。泰明君、史朗さん、そして貴方の事も……」
ルーチェの言葉もまた、夜闇に溶けていった……。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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