地に俯し天に仰ぎ

作者:宮内ゆう

●禁句
 人気のない裏通りに、数人の若者たちが集まっていた。
 無造作に飲み食いし散らかし、下品な笑い声をあげて騒ぐように話をしている。
「ひゃっはは、お前それやべーって」
「だろだろ? あ、やべーっていえばよ、あいつ最近ヤバくね?」
「ああ、あいつ! だな、まじやべーな! アレになってからじゃね?」
 彼らの言うあいつとは、この場にいない仲間のひとりを示しているようだ。
「やべぇ強さだよな……でもそれ以上にやべーな見た目!」
「だろだろ? いくら強くなってもあれじゃ人間として終わりだぜ」
「全くだぜ、あのアホ毛……えぐぇ!?」
 突如若者のひとりがうめき声をあげた。見れば蔦のようなものが首に絡みついている。
「や、やべっ……!?」
 いないと思っていたが、当の本人が近くで聞いていたらしい。そして――。
「バカに……するなぁぁぁぁ!!!」
 アホ毛とは、彼にとっての禁句だったようだ。
 
●ゆらゆら
「アホ毛ですッ!」
 なぜか素敵に目を輝かせてリリウム・オルトレイン(晩成スターゲイザー・e01775)が叫んだ。
 一房飛び出た髪の毛が左にゆらゆら。
「アホ毛なのですッ!」
 右にゆらゆら。
 話が進まない。このままでは困るので、ヘリオライダーであるダンテが間に入ってきた。ちょっとバツが悪そうに引きつり気味に笑みを浮かべている。
「ええっとっすね。攻性植物の事件っす、それ自体はよくあるものっすけど……」
 かすみがうら市で攻性植物の果実を体内に受け入れて異形化した若者が、悪口を言ったグループの仲間を殺してしまうというものだ。
「なんていうか……リリウムさんが危惧した……危惧? まぁいいっす、危惧したような相手が出てきたわけっす」
 全体的に植物っぽい外見になってはいるが、中でも目立つのは頭から生えた芽だ。まるで蔦のように伸び、縦横無尽に動き回る。
「まぁ、これはいわゆる――」
 アホ毛である。
 紛うことなきアホ毛である。
「攻性植物っすね」
 あえてそういうダンテである。
 場所は路地裏だがそれなりに広く戦闘に支障はない。人通りもないだろう。問題は放っておくと若者たちがアホ毛に殺されてしまう点である。
「連中を追い払ってもいいっすけど追いかけられると面倒っす。出来れば敵の注意を引きたいところっすね」
 片手を頭に当てて、ダンテが考えるしぐさをする。
「何か、気を引くような言葉でもかけられれば……」
 なんか本気で考えている。
 怒らせでもして注意を引けば、若者たちの心配をせずに戦えるだろう。
「細かいことは任せるっす。こっちの事件も見過ごせない状況っすから何とか撃破してほしいっすよ!」
 そう言ってダンテは説明を締めくくった。
「わたしわかりました!」
 といったところで、いまのいままでおめめきらきらさせていたリリウムが急に真顔で叫んだ。
「アホ毛にはいいアホ毛と悪いアホ毛がいるんです! 悪いアホ毛は退治しないとです!」
 なるほどそれは倒さねばならない、とその場の全員が頷いた。


参加者
出門・火蓮(自称地獄から来た爆炎娘・e00672)
シーネ・シュメルツェ(白夜の息吹・e00889)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
楚・思江(楽都在爾生中・e01131)
エルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)
オルネラ・グレイス(夢現・e01574)
リリウム・オルトレイン(晩成スターゲイザー・e01775)
ララミー・フェイ(ダンシングウォーター・e03877)

■リプレイ

●頂くもの
「アホ毛です!」
 遠巻きに敵を発見。びしーっと声高々に指を突きつけてリリウム・オルトレイン(晩成スターゲイザー・e01775)が言った。
「アホ毛なのです!」
 もう一度言った。
 しかし、他の全員は押し黙ってしまった。
 距離があるとはいえはっきりわかる。アレが今回の敵なのだと。
「俺はよ、生まれた時から竜派だからわからねえんだけど」
 ようやく、楚・思江(楽都在爾生中・e01131)が声を絞り出すように言った。
「アレがアホ毛ってやつなのか?」
 人の腕のひと回りもふた回りもありそうな太さ。攻性植物である緑色のそれは真上に伸びたのだろう。自重を支えられなくなって反り返り、地に垂れ下がって歩くたびに引きずられていた。
「う、うーん。普通はもっとこう、ちょーんと可愛らしい感じなんですけど」
 正そうとするがどう説明したものか、エルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)の頭に小鳥姿のリヒトさんが乗っかってきてぐーっと身体を伸ばした。何か違う。
「む、毟るとかちょん切るってレベルじゃねーぞ……」
 相手の強大さにさすがの出門・火蓮(自称地獄から来た爆炎娘・e00672)もわなわな震えだす。もはや伐採するレベル。むしろ巨大トカゲのしっぽみたいに持ち上げて振り回すことすら可能に見える。
「そうね、あれじゃあ輪投げの輪っかも通らないわ」
「そういう問題か!?」
 輪っかを人差し指でくるくる回しながら、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)はさもつまらなさそうに言う。とここでアホ毛の子が輪っかに気づく。
「どーなつですか! どーなつですね!?」
「輪っかだからってドーナツとは限らないから。逆もまた然りよ」
「輪っかでは……ない……!?」
 リングじゃないドーナツを受け取って、衝撃と共にリリウムのアホ毛がそそり立つ。でもおいしい。
 左にゆらゆら。
「ゆらゆら~」
 右にふらふら。
「ふらふら~」
 アホ毛の動きに合わせてシーネ・シュメルツェ(白夜の息吹・e00889)の頭も左右に振れる。
「……私はだんだん眠くなるー、のです……」
 恐るべき自己暗示。またここにアホ毛の力が証明されてしまった。
「あら?」
 みょんみょん揺れるアホ毛をみてオルネラ・グレイス(夢現・e01574)が気づいた。
「あなた、アホ毛が2本?」
「気づいてもらえました!」
 えっへんと胸を張るリリウム。どうも事前にアホ毛をもう一本装着しておいたらしい。アホ毛は装着するものなのかという論議はいずれするべきだと思う。
「これで私のアホ毛力は2ばい……」
 アホ毛力とはなんなのか。
「1たす1で! 100!! 10ばいですよ、10ばい!」
「あらまぁ、それはすごいわねぇ」
 足し算と掛け算の理論が崩壊してる。
 アホ毛は避けてそっとなでなでしてあげるあたりがとても大人。
「あなたはまだまだこれからだから、勉強もして大人になりましょうね」
「はいっ!」
(「さすがお姉さま……上手く流しました!」)
 これがオルネラの大人の対応。
「さて、談笑も良いところですがそろそろですよ」
 ララミー・フェイ(ダンシングウォーター・e03877)が全員に呼びかける。
 今の間もケルベロスたちは早足で攻性植物との距離を詰めていたのだ。そろそろ声をかけて気を引くのにちょうどいい頃合いだ。
「はっきり言ってアホ毛には見えないんですが」
「がーん!」
「作戦は同じで構いませんよね」
 なんか聞こえたノイズは無視。
 想定以上のアホ毛だったが、作戦は問題なく機能するはず。
「そういえば、このアホ毛って名前なんていうのかしらね」
 ふと、芍薬が考える。
「ま、いっか。アホ毛で」
 どうでもよかった。

●怒り猛りて
 作戦の概要はこうだ。
 アホ毛の注意を引いて叩く、以上。
 要は被害者である若者達を逃がせればあとは普通に戦うだけなのだ。早速怒鳴るような大声をあげて思江がつっかかっていく。
「おうおう、なんだその頭のぺんぺん草はよ! 全然似合ってねえじゃねえか!」
「ぐさっ」
「どっからどう見ても頭悪そうにしか見えねえぜぇ?」
「ぐさぐさっ」
「むしろもとのむしろもとの頭の悪さが透けて見えそうだぜぇ?」
「ぐさぐさぐさっ」
「……いや、あくまで作戦だからな?」
「な、なぜでしょう、作戦なのにとっても胸がいたいです……」
 めそめそ。でもどーなつを与えておけば平気。
 味方であるリリウムには甚大なダメージ。だがアホ毛の方はというと、こっちに気づいたがあまり反応していない。
「一房だけふらふら揺れてるの、何か頼りないっていうか」
 シーネがアホ毛ちらちら。
「こう、見てると斬り落としたくなるっていうか」
 リリウムが思わず頭を庇った。なんかちょっと罪悪感。
 それはさておき、問題はアホ毛である。思った以上に挑発に強いのだろうか。
「……もしかして」
 ララミーが何かに気づいたようだ。
「その頭、わざわざそうやってセットしてるんですか? 毎日? 無駄な苦労をしてらっしゃるんですね」
 せせら笑うが反応はない。
「頭が悪い、お里が知れるといってるんですよ?」
 ストレートに言ってみるが反応はない。
「……アホ毛」
「バカにすんなああああああああ!!!」
 ララミーがぼそりと呟いただけで、憤ったアホ毛が突進してきた。
「もはやアホ毛という単語にのみ反応してますー!?」
 思わずエルトベーレが声をあげる。
「一体あのアホ毛さんにアホ毛に対するどんな因縁があるのかを想像しえません! アホ毛言えどもただのアホ毛にあらず、アホ毛であるが故のアホ毛の悲劇がアホ毛さんにもあったのではないかと……」
「あ、エルトベーレ」
「なんでしょうお姉さま!」
 そっとオルネラが口を挟む。
「単語に反応するなら、そんなに連呼すると」
「きさまぁぁぁぁ!!!」
「へぶぅっ!」
 標的を変えてきたアホ毛が伸びて来て、エルトベーレをふっとばした。すぱーん。
「危険よ?」
 遅かった。戦いは無情である。
「か、回復を……」
「怪我を直すのに薬やグラビティに頼ってちゃダメよ?」
「そーいう場合ではないです!?」
 代わりにノイアさんが癒してくれました。ついいじめちゃうのがお姉さまの悩みだとか。
「それにしても見事な攻性植ぶ……いえ、攻性アホ毛ってところかしら。危険なアホ毛はさっさと引っこ抜いて再起不能なまでにちょん切ってしまいましょ」
 リリウムの方を見……なかったことにした。
「も、もちろん悪いアホ毛だけよ!」
「そーだな、ちょっとしたことで暴れて迷惑かけられても困るし、刈り取ってやるとするぜ!」
 暴れるアホ毛を迎撃するべく立ち向かっていく火蓮。ぐるんと鉄塊剣を回して遠心力を加える。
「だいたいなぁ……」
 そして、飛び込みながら炎を纏った一撃を振り下ろした。
「単語にのみ反応とか、わざわざ挑発のセリフ考えてきたあたいに謝れ!! そんなうにょうにょ動きそうなアホ毛とか恥ずかしくないの、めっちゃバカに見えるし人間として終わりだなー!」
 仕方ないので今全部言った。
 アホ毛は燃えたが、太すぎて燃やし尽くすには至らない。じっくり攻撃を加えて落としていく必要があるだろう。
 こん、と突然何かがアホ毛に当たった。
「ああっ、惜しい!」
 悔しそうに芍薬が声をあげる。その手に輪っかを握って。
「あて、ゆらゆら揺れるから通しにくいわね」
「そういう問題じゃないぞ! どう見ても輪っかより太いだろあのアホ毛!」
 思わずツッコミを入れてしまう火蓮。そして。
「あ、やべ」
「ゲェェェェ!!!」
 アホ毛はさらにいきり立った。そこですかさずガードに来てくれる九十九さん有能。

●アホ毛の善悪
 アホ毛が暴れだした直後、若者たちの姿は消えていた。さっさと退避してくれたのだろう。
 ならばあとは気兼ねなく戦うことができる。
「そう、私のアホ毛とあなたのアホ毛、どちらが正義であるかを決着つけるときです」
 荒ぶり猛る巨大なアホ毛を前に一歩も引かず、リリウムは小さなアホ毛(2本)を揺らした。
「真なるフィ……正しいアホ毛のみんなのために、悪いアホ毛さん! あなたをやっつけます! あとお夕飯はハンバーグに目玉焼きを乗せてください!」
 なんか関係ない話が出た。
「目玉焼きといったら半熟でソースでしょう……!」
 なんかララミーも言った。
「アアアアァァァァホオオオゥゥゥゥゲエエェェェ!!!」
「きょうのえほんは! こちらです!」
 襲い来るアホ毛にむかって絵本を開く。髭を蓄えた玩具の兵隊たち、次々にアホ毛に殺到しては爆発していく。こんな扱いあんまりだァ~とか言ってる気がするけど気にしない。
 アホ毛のあちこちを焼けただれさせながらも、勢いとどまることなくアホ毛は突っ込んでくる。だが、ただ暴れているだけならどうとでも対処しようがあるのもまた事実。
「死を司る神よ、今ここに現れ、我が敵となりし者の命を喰らい、破壊つくせ」
 掻い潜ったところでくるのは新たな攻撃。死そのものがじわりじわりとアホ毛を蝕む。
「かわいそうだとは思うけれど、悪くは思わないでね」
「首ー、首ーっ。首を寄越すのですよー」
 表情を曇らせたオルネラだが、そのタイミングでシーネが物騒なことを言いつつとびこんできたので思わず二度見した。
「……えと、じっとしてるのは性に合わなくて、ですね……!」
 弁解するシーネだが回復の手が空いていれば攻撃する分に咎めるところはない。それよりも気になるのは。
「あの攻性アホ毛の場合、どこからが首になるのかしら」
 そんなアホ毛はしっかりしっかり騙されてお菓子を食べてぴくぴくしていたりする。
「ホオオオオオオ!!!」
 それでもなお立ち上がり、アホ毛を振り回す。
「ぐぅるるるる……ごあああああっ! びよんびよんいわすんじゃねえ!!」
 半ばイラつきも混ぜて、思江が叫んだ。貫くどころかまとめて吹き飛ばさんばかりの眼力が威圧となってアホ毛の動きを鈍らせる。
「稲妻となり、轟き奔れ」
 その隙を逃さず、ララミーがアホ毛の懐に飛び込む。決まった軌道がなく変幻自在に舞う稲妻の連撃を見舞い、アホ毛に抉るような傷を刻み込んでいく。
「こういうところがやりづらいんですよね人間くさくて」
「大丈夫大丈夫」
 飛び退くと同時にすれ違いで飛び込んでいく火蓮が答えるように言う。
「敵の本体はアホ毛の方だからな!」
 投げつけたトラウマボールがアホ毛で弾けた。
「アアアァァ……」
「やったか……!」
 とうとう動きを止めるアホ毛、幾多の攻撃を受け続けながらも周囲に当たり散らしたアホ毛。その胸中には様々な過去が飛来しているのだろう、それらのトラウマが自壊を招く。
「ホオオオオオ!!!!」
「やっぱダメかッ!」
 だが、アホ毛は再度動き出した。
 これだけ追い込まれても動き続けるのはアホ毛ゆえか。それほどまでに苦しいのかといわんばかりに暴れ狂う。
「わかりました、私。苦しくて、辛いんですね、そのアホ毛が……あなたの中のアホ毛の歴史はきっと虐げられて貶められて、それでもアホ毛でしかいられなくて……」
 エルトベーレが手を合わせる。まるで祈るように。でもなんかすごい解釈ができたようだ。
「でもだからって暴れて人を襲うとはアホ毛の風上にも置けないアホ毛さんですね! さあ今すぐ世界中のいいアホ毛さんに謝ってください! それはもう悪いアホ毛でごめんなさいとそのアホ毛を地に垂らして土下座を!!」
 この掌返し。容赦ないにもほどがある。
「断言するならば! あなたの敗因は可愛くないアホ毛であったことです!」
「ゲエエエエェェェェ!!!!」
 それだけ言いたい放題言えば当然だ。エルトベーレを締め上げるべくアホ毛が伸びる。
「――エネルギー充填率、100%」
 だがそれは届くことなく、熱を帯びて赤黄色に光ったアホ毛は内側から爆発を起こして四散した。
「分析通りね。このアホ毛はあんたの最強の武器であると同時に、最弱の弱点だったのよ」
 赤熱していた芍薬の手から熱が抜けていくのと同時に、頭の根元からアホ毛を失ったアホ毛が崩れ落ちる。
「……あんたも元は人間なのよね。冥土の土産名前くらい聞いてやるわよ」
「あ……あ、あぁ……」
 うめき声をあげながら男が手を伸ばす。必死に口を動かして声を出そうとする。せめて最期に、自らの名前を残そうと。
「ほ……げ……」
 ぱたりと、男の腕が地に落ちた。
「……」
「……どうしよう」
 何とも言えない空気があたりに漂う。
 『あ』はただのうめき声。それで『ほ』が苗字、『げ』が名前のそれぞれ頭文字なのではないか。きっとそうだ、そう思いたい、信じることにする。

●地に還り、天に昇る
 アホ毛が焼ける、焼け落ちていく。
 荼毘に付すというまでもなかった。
「こうするしかないとはいえ、申し訳ないことをしたわね」
 デウスエクスといえど、もとはといえばただの人間。命を奪うにはどうしても罪悪感がある。
「お詫びに私が天まで行けるようにお祈りしてあげるわ。でも、讃美歌は覚えていないから祈るだけよ?」
 そう言ってオルネラが目を伏せて手を合わせると、エルトベーレもそれに倣った。
「もう二度と、こんな悲しいアホ毛が生まれませんように、です……」
 悲しいアホ毛とはいったい何なのか。
「妙なアホ毛生やすとかバカなことしやがって……」
「ムチャシヤガッテ、です……」
 煙が立ち上っていく空に向かって敬礼する火蓮とシーネ。冥福を祈るというのもよくわからなくなってきた。空ではアホ毛が良い笑顔で笑っているように見えたような見えていないような。
「ところで、気になったんだけど」
「はい、攻性植物の実を与えた者のことですね。私もそこが気がかりで」
 芍薬がララミーに尋ねる。心得ていると言わんばかりに頷いた。
「いやそうじゃなくて」
「違うんですか」
「アホ毛はなんでアホ毛っていうのかしらね?」
「さぁ……どうなんですか、楚さん?」
「いや、俺に聞くなよ」
 聞かれても困る。思江は首を振った。
「リリウムみたいないいアホ毛なら可愛いと思うんだけど……てかいいアホ毛ってなんだ」
「可愛いとは確かに思いますが……どうなんですか、楚さん?」
「だから俺に聞くな! そもそもアホ毛ってぇのはいいとか悪いとかで区別するモンなのかね?」
 答えは出ない。
 当のリリウムはアホ毛を揺らして、ぶしのなさけですーと叫びつつどーなつを食べながら男のアホ毛だったものを燃やしている。テレビで見たとかいってるから間違いない。
 炎から上る煙はまるで天を目指すアホ毛のよう、しかしそれも今は倒れ伏し地に還った。
 ぱたりとリリウムの手から絵本が落ちる。
 炎から出る風に煽られてパラパラ捲れて開かれた絵本の最後のページには、天を目指して伸びるアホ毛が描かれ、こう締めくくられていた。
『いつかきっと綺麗なアホ毛の花が咲くでしょう』
「どんな絵本だよ!?」
 謀らずも見てしまった思江が叫んだ。

作者:宮内ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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