幸せの再来

作者:絲上ゆいこ

●天国の階段
 陽が落ちだした山道を慌てた様子で駆けていた少女。
 街の明かりが見えると彼女は胸を撫で下して、足取りを緩めた。
「……ここもハズレでしょうか」
「……」
 ソーヤ・ローナ(風惑・e03286)の呟きに、王生・雪(天花・e15842)は拳を強く握りしめる。
「調査結果によると、この山が一番疑わしい様なのですが……」
 幾つもの線が引かれた地図を北郷・千鶴(刀花・e00564)の指先がなぞる。
 周辺を捜索する度に鈴蘭の香りは、たしかに近づいてきているように思えた。
 そして山に入る一般人に気づかれぬように、尾行を続け数度目。
 事件が起こらず一般人が無事山を下ることができる度に、安堵感と焦燥感に苛まれる。
「次の方法も検討せねばなりませんね」
 眉を寄せて頭を振る雪の肩に、吉柳・泰明(青嵐・e01433)の掌が添えられた。
「ああ。しかし焦りすぎても良い結果は出ないだろう」
「泰明様……。そうですね……」
 彼女の胸中が複雑であろう事は解っている。
 故郷の事件に似た一連の騒動。
 黒幕の尾すら未だ掴めぬ現状に、言の葉はどれほど有効だと言うのだろうか。
「……――」
「にゃっ」
 静かに肩に寄り添っていたウィングキャット達が一斉に耳をピンと立てた。
 糸に操られるかのように、獣道へと歩きだす少女。
「どうやら、当たりだな」
 レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)は鋭く銀色の瞳を燻らせて、立ち上がる。
 辺りを漂う花の香りは一層濃くなったようであった。
 
●季節外れの森のミュゲー
「……――」
「見えました!」
 ソーヤの声掛けと共に、泰明がまろぶような足取りの一般人の少女を背より抱きしめる。
「君は此処までだ」
「なぁに、やめて、あの子に、あの子に呼ばれてるのよ!」
 腕の中で暴れる一般人の少女。
 喚き声に、森の奥地で座っていた少女がゆっくりと振り向いた。
 薄桃色の長い髪、翠色の双眸。――揺れる鈴蘭の花。
「わ、お友達を沢山一緒に来てくれたのね」
 鈴蘭の葉を纏った姿は、これまで出会ってきた攻性植物とよく似ている。
「……!」
 その姿を見て、雪と千鶴は目を見開き身体を強張らせる。
 過るのは、過去の記憶か。
 攻性植物の少女はケルベロスたちへと駆けてくると、へにゃっと幸せそうに人懐っこく笑った。
「ねぇ、遊んで」
 彼女が纏う花が揺れ、葉が大きく広げられる。
 それは、一般人の少女とケルベロス達を包み込むように。
「させねえよ!」
 レスターが葉を打払い、噛みつかんばかりに睨め付ける。
 その葉に攻撃の意思はまだ無い様子で、少女は驚いた様子で首を傾げた。
 獣の耳をピンと立てたままソーヤが得物に手を添え、慎重に尋ねる。
「この子をどうするつもりですか?」
「お友達になってもらうだけよ」
 ろん、と揺れる鈴蘭の花。
「もちろん、あなた達も一緒!」
 息を飲み。得物に手を添えた雪と千鶴は口を開いた。
「……悲劇の連鎖は、此処で絶たねばならぬでしょう」
「あの子とは――、あなただったのですね」
 攻性植物の少女、――幽囚童は不思議そうに首を傾げてから、解した様子で微笑んだ。
「そう、みんな一緒に遊んでくれるのね」


参加者
北郷・千鶴(刀花・e00564)
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)
吉柳・泰明(青嵐・e01433)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
ソーヤ・ローナ(風惑・e03286)
レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)
王生・雪(天花・e15842)

■リプレイ

●鈴蘭の揺れる音
「黒幕がこんな子供だったとはな」
 こんな子供が『鈴蘭』で被害者を生み出していたのだ。
 驚きにも、呆れにも似た響きでレスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)は呟く。
「何をして遊ぼう、鞠つき? 蹴鞠? 皆で遊べる遊びは何かしら」
 子供という形容詞がどこまでもしっくりくるような少女。
 てん、てん、と鞠を幾度か跳ねさせて。当の幽囚童は無邪気にあどけなく思案する。
「はなし、て……っ!」
 その間も幽囚童に呼ばれ、吉柳・泰明(青嵐・e01433)の腕の中で暴れていた一般人の少女は無理矢理身を捩って飛び出す。
「いけません、――この場を離れて下さい!」
「……!」
 それを制したのは北郷・千鶴(刀花・e00564)の鋭い声音だ。一瞬で解放された殺気と剣気が少女へと向けられる。
 気配に射止められ、驚いた様子でその脚を止めた少女は追い立てられるように逆方向へと駆け出した。
 悔いも詫びも尽きぬけれど――私もまた、最善を尽くさねば。
 彼女を庇護する形で千鶴もまた駆け出す。――もう悔いを生まぬ為に。
 王生・雪(天花・e15842)は苦痛に似た表情で、眉宇を寄せて瞳を細めた。
 あの鞠には見覚えがある。――雪が妹のように思っていた少女へと誕生日に贈ったものだ。
 ――春。
 純粋なまま変わらぬその声と笑顔。
 あの日1人にしてしまった事を、雪は悔いても悔やみ切る事は出来ない。
「……助けられず、御免なさい……」
 嗚呼、あの日から、ずっと――。
 漸く再会出来たというのに、再び共に暖かな季節を迎える事は叶わない。
「嘸……嘸や、寂しかった事でしょう。然れど斯様な友を増やしては、なりませぬ」
 得物を固く握り直す雪。
「――斯様な遊びを続けては、なりませぬ」
「鬼ごっこ? かくれんぼ? でも、捕まえちゃえば一緒よね!」
 雪の言葉に被せるように言い放ち。
 大きく跳ねさせた鞠を手元に収めて、表情を輝かせた幽囚童がぴょんと跳ねる。
 その瞬間大きく葉が爆ぜ、逃げる少女と千鶴の背へと吐き出された。
「このまま一人迷い続けていては、辛かろう。……純粋たる花と幼子が、もう人の身を毒さぬように」
 駆けた泰明が縛霊手を真横に構えてその軌道へと飛び込み、逃げる彼女たちを追った葉を握り潰す。
 あの少女。……幽囚童の姿は嘗てを知らぬ身ですら、心苦しくてならぬ姿だ。
 そして、命救えぬ歯痒さも、痛い程に。――同志達に背負い込むな、とは最早口に出来ぬ程。
「今日こそ、幕引きを」
 ならば、自らの出来る事は1つだ。
 あれ程芯の強い同志達が、心挫かれぬように。
 幼子が安息の眠りに至れるように。
 せめて――支えとなろう。
 泰明は両の脚でしっかりと地を踏みしめた。

●わらべうた
 今出来る、最善。
「……これで最後に、致しましょう」
 覚悟に漆黒の瞳を揺らし、雪は幽囚童を見据える。
 今できる最善、――安らかな眠りに就けるよう、導く事。
 そして火蓋を切ったのは緩やかな銀弧を描いた雪の刃だ。
 重ねて、白いウィングキャットの絹の翼が清浄の風を巻き起こす。
「やっぱりチャンバラごっこにするの? 皆で遊ぶのなんていつぶりかなぁ」
 楽しげに声を弾ませた幽囚童が地を蹴るように跳ねた。
「負けないよ!」
 彼女の跳ねた地は侵食され、大人の腕ほどの太さの根が幾本もケルベロスたちへと向かって一直線に伸びる。
「……いいだろう。遊びたきゃ遊んでやる。お前の操ってた『友達』の分までな」
「これ以上、被害を出させる訳にはいきません。決着をつけましょう!」
 リングから具現化された光の刃をレスターが構える横で、ソーヤ・ローナ(風惑・e03286)は生え伸びた根を足場代わりに蹴り上げ、飛び上り。幽囚童へと流星の重力を纏わせた蹴りを叩き込む。
 そのまま茎と葉を蹴り裂き一気にバックステップを踏んだソーヤは、大きなカンガルーの耳をピンを立てた。
「……来ましたね」
 それは仲間の盾を買い、根の前へと踏み込んだ泰明の耳にも届いた微かな風切り音。
 確信と共に、彼は吠える。
「ギヨチネ、――来い!」
「畏まりました」
 一直線に風を切り、迷いなく飛び込んでくる象牙色の竜の羽。
 足裏で山肌を削りながら降り立ったギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)は、仲間を庇う形でドラゴニックハンマーを奮い根を一気に引き受ける。
「――詩人の後胤よ、我が見るは、汝が母なり」
 花弁が舞う。
 一瞬で咲き乱れた花々が芳しい香りを撒き散らす。
 それは幻想の花畑。幽囚童の心を掻き乱す香りだ。
 鋭く息を吐き出して。合わせる形で飛び出したレスターはギヨチネと泰明により生み出された空白を駆け、間合いを一気に詰める。
「……お前はやり過ぎたんだ、遊びじゃ生温いぐらいにな」
 脇腹を凪ぐレスターの光刃。
「やっぱり皆で遊ぶと楽しいね」
 幾枚も葉を重ねた盾でガードを上げ、傷つけられながらも幽囚童は楽しそうに笑う。
「そう、じゃあ、一緒にあそぼ」
「オレたちも仲間にいーれて」
 草葉を掻き分ける足音。
 地へと星座が広がり、攻性植物に実った果実が煌々と黄金の輝きで周りを照らす。
 ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)の眠たげにも見える翠色の双眸。
 その横で加護の光に照らされて鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)が口端を持ち上げて見せた。
 因縁の敵との邂逅ってのは、何度見ても複雑なものだ。
 それがこんな幼子の姿となりゃ、益々以て苦々しい。
 昏ぇなァ、――脳の中でいつかの言葉がリフレインするようだ。
「いーいーよ」
 わらべ唄を口ずさむように答えた幽囚童は鈴蘭の花を揺らして頷いた。
 遊び相手が増える事を本心から喜ぶ少女のように。無邪気に、幸せそうに。
 揺れる鈴蘭を睨めつけ、雅貴は得物を強く握りしめる。
 以前は雪に助けられたこの身。
 ならば、礼を返す番だろう。――僅かでも力になれるように、尽くすしか無い。
 
●沈む陽
 剣戟は幾度も響き、夜天に沈む翠嶺。
 木々の間よりケルベロスたちの下げた明かりが漏れる。
 今にもまろびそうな足取りで、幽囚童は未だ無邪気に笑う。
 植物がそうさせるのだろうか、それとも。
 ――幸せの再来。
 再び来たとしてもそれは同じものでは無いというのに。
 旋転しつつ踏み込んだソーヤは、回転の勢いのまま両手に構えたエクスカリバールに黄金の雷を宿し十字に振り抜く。
 合わせてレスターは跳ね、巨大な竜骨の剣を擡げる。
「貴方には今、親しい方はいますか? ……根が同じと思われる事件が同時に起こっています」
 ソーヤは思考を巡らせながらもステップを踏みながら尋ねる。
 彼女らが花ならば、元にあるのは種だろうか、……最近オーズの種の噂を聞かない。そして、ソーヤはアレは人に宿る事を知っていた。
「うーん? ……もう皆お友達でしょ? もっと、仲良くしましょ!」
 少し首を傾げてから、花が咲いたように幽囚童は笑う。質問の意図を理解したとは思えぬ表情。
 振り抜く勢いに裂かれ、弾き飛ばされた童幽囚童の後ろに巨大な根が生え伸びる。
 自らから生えた巨大な鈴蘭とその根をクッションにして勢いを殺し、倒れた体勢のまま幽囚童が両足を地に叩きつけた。
 その瞬間、幾本も根が地より吐き出される。
 重ねられたバッドステータスは、幽囚童の狙いを自然と前衛と定めさせたようだ。
 剣を振り下ろす目前まで迫っていたレスターに根が殺到し、衝撃が彼を貫く。
「……!」
 ガードに引いた剣を再び振り上げようとステップを踏んだレスターは、微かに目を見開いて息を飲む。
 娘が生きていれば、娘が成長していれば。
 自らにかけられたバッドステータスがそうさせるのだろうか、脳の中で敵と娘が重なったのだ。
 ――こいつは敵だ、……惑わされるな。
「まだまだ、遊びたらぬようでございましょうか」
「レスター様、ソーヤ様!」
 真っ先にその身を盾と駆けるギヨチネの身を叩きつける根。
 絡み付けるように根を引き絞り、凄まじく振るわれる勢いはギヨチネの脚の形に轍を生み。続き、千鶴が日本刀を薙ぎ根を叩き落とす。
 その前衛たちを包む柔らかい風。
「にゃ!」
 鈴の癒しが吹き抜け、絹が数珠の輪を鋭く奔らせる。
「後ろはあたしたちに任せて、ね」
 そして瞳を伏せたジゼルは思う。午前一時の話。――おとなにはわからない。
 思い出は、力になる。
「あたしがお前様の事は覚えておくから、……最後まで遊ぼう。楽しい思い出を抱えてさようなら」
 仲間の踏み込む隙を与えるべく、ジゼルは巨大なハンマーを振るう。
 頭を振ったレスターはギリと歯を噛み、幽囚童を見据えなおした。
「童にとっても最後の遊びになりましょう。……全力で参りまする」
「……解っている」
 庇い続け、傷の増したギヨチネの逞しい背が駆ける。頷いたレスターが追随する。
「はあっ!」
 踏み込みから巨大なハンマーをギヨチネは逆水平に薙ぐ。
 みぢみぢと降るったギヨチネの筋と植物の軋む音。
 硬い葉が受け止めるが勢いは殺しきれない。
 反動を受け流すように旋転しようとした幽囚童に、ぐんと身を低くしたレスターが回り込んだ。
「――尽きろ!」
 地獄の炎を纏った巨大な剣をブチ上げる刃の一撃。銀炎が砕け舞い、返す手で更に連撃を叩きつける。
 幽囚童が倒れ込んだのは雅貴の目前だ。
「なぁ、その花の言葉は幸せの再来であって、悪夢の再来なんざじゃねぇよなあ」
 倒れた幽囚童を無理矢理擡げ立ち上がらせる植物に、日本刀の刃をひたりと押し当て雅貴は呟く。
「人の命と心を散々踏み躙った狂い咲きは、終わりにしてやる。……いい加減その子を解放しろよ」
「罪無き幼子の姿と言葉――これ以上、利用させてなるものか。季節どころか、道まで外れたままではならぬ」
 態勢を立て直そうする植物に走る銀刃。泰明の低い声音。
「こんなトコでこんな遊び続けてちゃ、皆悲しむぜ……――オヤスミ。テメーはさっさと朽ち果てろ、忌々しい植物め」
「奔れ」
 影より駆ける狼と鋭刃。
 同じ影から生まれた性質の違うグラビティは、攻性植物を巻き上げ、蝕み、喰らう。
「ずっと一緒にいることも、命をあげる事も、出来ませぬ。――孤独に彷徨う日々から、解放する事。それが今出来る、手向け」
 墨を流したかのような黒髪を風に遊ばせ、千鶴は呟く。
 あの子を攫った忌わしき者は――何としてでも、此処で討ち果たせばならぬだろう。
 花が透けるカンテラに照らされた銀刃が揺らめく。
「さぁ、哀しい童遊びは仕舞いにしましょう」
「もう日が暮れます……帰りましょう」
 雪と千鶴の声が重なる。
 酷く、優しく悲しく響くそれは決別の覚悟を籠めた声音だ。
「「春」」
 蠢く葉が暴れ、幽囚童は眩しそうに笑んだ。
 そして口を小さく開き――。
「――剣と成りて、斬り祓い給へ」
「――良い夢を」
 蝶が舞い、群成す菖蒲が咲き誇り。斬り伏せる刃は、鈴蘭の花弁を散らす。
 彼女が最後まで大切に抱きしめていた鞠は、てん、てん、と地を転がった。
「……こんなに迎えが来てくれてんだ。早く帰って……、ゆっくり眠りな」
 一瞬で枯れ果てた花々と植物より幼子の身体を擡げ、雅貴は瞳を閉じてやる。
「春」

●翠嵐の匂い
 君影草、谷間の百合姫、5月の小さな鐘、――沢山ある鈴蘭の異名の一つ。
「天国の階段」
 ぽつりと呟きソーヤは銀湾横たわる星空を見上げた。
 澄んだ山の空気は星をより瞬かせるようだ。
 ……果たして彼女は行けたのだろうか。
 同じような事件が、同時に起こっていたという事は『根』がまだあるのであろう。
「きっとこれで終わりというわけではないのでしょうから」
 仲間たちを背に、山道を歩くレスター。
「寂しかったのか?」
 小さく尋ねる言葉をぶつける相手はもう居ない。音を立てて煙草に火を付ける。
 頭を過る、童の最後。
 そして彼女の為に命を無くした彼の抜け殻みたいな重み。
 ゆらゆら揺れる煙のように頭の中を晴らすことの無い、未だ行方の掴めぬ自らの因縁。
 思考と酸素を埋め尽くす程、肺までしっかりと吸い込んだ煙草の煙は酷く不味かった。
「……次はおれの番だ」
 月明かりに、吐き出された紫煙が溶けた。
「ギヨチネ。とても無理をする。ね」
 自らの身を顧みず、仲間の盾と在ったギヨチネに癒しを与えながらジゼルは呟いた。
「仲間たちの因縁に割り込む形となったりましたが、負の連鎖は断ち切らねばなりませぬ。この力がお役に立つならば、喜んで私は盾となりまする」
「……分かった。よ」
 満身創痍といった様子の彼。でも彼の心臓はまだ、ちゃあんと動いているから。
 ジゼルは更に癒しを重ねる。丁寧に、丁寧に。
 一連の事件の被害者に、そして彼女に。彼女たちが迷わぬよう長い黙祷を捧げ、雅貴は口を開いた。
「俺にゃ黙祷して、弔うぐらいしか出来ねーケド。もう寂しくねーように、安心して眠れるよーに……心から祈るよ」
 瞳を閉じられた幼子の表情は、安らかだ。
「……人を恨む事すら知らぬ程に、純粋な子でした」
 今は唯、あの子が心穏やかに休めるようにと雪は瞳を閉じる。
「雪も、春も……長らく、よく頑張ったな」
「泰明様……。それに、千鶴様も、雅貴様、……ありがとうございました」
 親友たちだけでは無い。
 今まで支えてくれた仲間の皆に感謝を述べ、雪は立ち上がった。
 合わせて、雅貴が幼子の身体を抱き上げる。
 掌に知らず力が篭っていた千鶴は、その事に気がつくと細く細く息を吐き、緩めた。
「――皆で共に、帰りましょう」
 せめて、どうか。この子に安息を。
 2匹のウィングキャットが翼を広げる音。ケルベロスたちは、街へと歩み出す。
 雪の手には、あの赤い鞠。
 瞬く星空は、冴え冴えとケルベロスたちを照らし出していた。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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