●手に入れた手掛かり
これまでに幾つか起こった事件を踏まえ、デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)が近隣で積極的に聞き込み調査を試みたところ、唯一、手掛かりになりそうな話が浮かんできた。
「塔子が少し前に言ってたんです。礼児くんが何か、おまじない的なものにハマってるって。でも、それが何処かに出かけてからの事みたいで……誰かに唆されたんじゃないか、って」
毎日、部活で忙しいのに、おまじないを探してる余裕なんてある筈がない、と言うのが根拠らしかった。
「でも、ついこの前――いなくなる前の日のことだったか、原因が分かったと言ってたの。たぶん、これだと思う……って」
それは、学校新聞のバックナンバー、6月号の記事。
『七夕直前! 今からでも間に合う、願いを叶えるマル秘スポット!!』と題し、かの山中にあるらしい、小さな泉が紹介されていた。
そこには1枚の写真と地図、そして詳しい道順まで……。そして、この新聞は関係者各位に配られている以上、誰の目に触れてもおかしくない。
「そういう事ね……」
一連の事件の経緯に予想がついた以上、もちろん放ってなど置けなかった。
――そして、およそ2時間後。
地図に沿ってたどり着いた小さな泉。日は、とっくに暮れている。
そこには件の、右手が枝の先にリンゴを実らせた木、左手は天然木でハートを描いたような杖を携えた、アンジェリックプリティな少女と、見ず知らずの女性。
新たな犠牲者だろうか。その女性の掌には例の『種』……。
●宿敵邂逅
すぐさま手を出そうとしたケルベロスたちに、杖の先から零れる水が弾丸のように飛ぶ。
ジュッ!
皮膚に触れた瞬間、焦げたような音。
「何やら外野がざわついてきたみたいだけど、気にしないで。そんなことより、あなたの願い……叶うかどうか、確かめてみると良いわ」
少女の言葉を受け、女性がこっくりと頷く。そして、その手の種を……。
「いい加減、お痛が過ぎるわよ……『魔法少女』サン!」
己が宿敵を前にして、デジルの表情は一変していた。
参加者 | |
---|---|
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203) |
クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408) |
斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823) |
鏡月・空(不幸な運命は認めない・e04902) |
歯車・巻菜(天衣無縫の弾丸娘・e15522) |
アニマリア・スノーフレーク(疑惑の十一歳児・e16108) |
青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474) |
西城・静馬(極微界の統率者・e31364) |
●希望を絶望させる希望
「希望を絶望させる希望、ここで終わりにしてあげるわ」
「ええ。願いは自分で叶えるもの。こんな問題がある叶え方……って言うか、叶ってないし。だから……全力で止めるよ」
「うん。人の心を利用するなんて許せない……これ以上、被害を出さない為にも私たちが倒してみせる!」
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)の小さな呟きに、深く頷いたクーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)と歯車・巻菜(天衣無縫の弾丸娘・e15522)。
その強き想いは、言葉に関わらず今まさに向かっている皆が等しく抱くもの。
ゆえに記事に描かれた地図に沿って駆け上がり、目的の泉にたどり着きはしたものの、既に陽は落ちてしまっていた。
――闇の力が強くなる夜。魔の住まう泉。
しかし、其処にいるのは、闇や魔と言った言葉とは程遠い姿の少女。右手はリンゴを実らせた木の枝、左手は天然木でハートを描いたような杖を携えた、アンジェリックプリティの魔法少女。
そしてその傍らには、掌に携えた『種』を今まさに飲み込もうとする女性。
一瞬の躊躇もなく止めに入ろうとしたケルベロス達に、魔法少女のの持つ杖の先から零れる水が、弾丸のように飛んだ。
ジュッ!
真っ先に話しかけようとしたアニマリア・スノーフレーク(疑惑の十一歳児・e16108)の手に触れ、皮膚を焦がす。
「くっ……ま、待ってください!」
肌を灼く痛みに耐え、声を絞り出す。
「……そんなモノに頼らなくても、願いを叶える現実的な方法を知らないんですか?」
しかし、音として届きはすれど、中身を伴って女性に響くまでには至らない。
(「既にそこまで……。いい加減、お痛が過ぎるわよ、『魔法少女』サン!」)
デジルが直接止めに入ろうと駆け寄っていくが、向こうもただで通すはずがない。その足下から這わせた根が蠢いて、目の前の地面を侵食してゆく。
「アンナちゃんたちが邪魔はさせませんよ! さあ、アンナちゃんたちが押さえている間に女性の方をお願いします! そーれ、レビくんディーフェンス!」
青木・杏奈(やかましかしましお喋り大好き・e30474)のサーヴァント、レビくんの画面が眩い閃光を放つ。
「Destruction on my summons――!」
その隙にクーリンが素早い詠唱で召喚術を唱え、魔法少女に向けて解き放つ。
「デジルお姉ちゃん達の所へは行かせないよッ!」
さらに召喚獣から敵の集中を逸らすべく、巻菜がアームドフォートから放つ一斉砲撃で、周囲の樹々を薙ぎ倒す。
爆音と閃光が辺りを包む。
否応なく視線の逸れた魔法少女に、召喚されたコヨーテが地を跳ねるようにして喰らいついた。
「目の前でなんて、やらせるものかよ」
さらに、斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823)の手から伸びた鎖が、まさに猟犬の如く左右から、追い詰めるように魔法少女の腕――リンゴの枝に届いた。
「貴方の願い、欲望。それは彼女に叶えて貰っていいような物?」
仲間たちのサポートを得、ようやく声の届く距離に到達したデジルが犠牲になりつつある女性に向かって呼び掛ける。その真剣な声音は魅了の響きを以て彼女に届き、飲み込む寸前の種を握りしめつつ振り向いた。
(「んっ! でも、あれじゃ狙えませんね……」)
オーラを練り、種を撃ち落とすべく構えていた、西城・静馬(極微界の統率者・e31364)が微かに舌打ち。やむなく気咬弾を魔法少女の牽制に換える。
「自分の力で果さない願いは、叶えてもその願いに自分で誇るようなことはできない。貴方の願いをどうして叶えたいと思ったのか、思い出して!」
なおも彼女の心に訴えようと言葉を紡ぐデジル。しかし、そこに一層高い声が響いた。
「……叶えたい願い……あなたの希望、は、もうその手の中……」
鎖に締め上げられたまま、魔法少女が言葉を絞り出す。
「早く、しないとあなたも……襲われ……」
言葉の力、そして目の前の状況。それらを比べた女性は、再び種を口元に近付けてゆく。
一か八か、鏡月・空(不幸な運命は認めない・e04902)が小さな楔で種を撃ち落とそうと狙う。
「穿ち、貫く!!」
が、いかに集中していたとしても、1センチにも満たない――かつ掌の上の種を、10センチほどの楔で撃ち抜くのは、幾らなんでも無理がある。
しかも、空を切った楔を目の当たりにしたことで、却って死の恐怖を感じた彼女は、勢い余って種を……飲み込んでしまうのだった。
●せめて苦しまず
「ちっ!」
短く舌打ちし、すぐさま駆け寄る空。
女性を押し倒すと、強引に口の中に指を突っ込む。
「吐き出せ! いますぐその種を……。死にたいのかっ!」
ごふっ! ゴホゴホッ!!
「ソレに頼ったら、自分が自分で無くなりますよ!」
「そうよ。彼らのように、なりたいの!?」
アニマリアの台詞に続き、デジルが魂の残滓を絞り出して人型を形作る――それは少し前に犠牲となった2人の、変わり果てた攻性植物としての異形の姿。
衝撃的な姿に、女性がひときわ大きく瞳を見開いて種を吐き出そうと試みる――が、その気付きはもう既に……。
鎖による拘束を力ずくで脱した魔法少女の哄笑が山中に響き渡る。
「なんで、そんなに一生懸命? せっかくあげた力を捨てちゃう気? 夢を……叶えたいんじゃなかったの!?」
人の夢を叶えるのが使命……自らも信じて止まない魔法少女が杖を振るって、彼女の周りに集まった2人に滴る液体を迸らせる。
ジュジュッ!!
それでも懸命に女性の背を叩き、吐き出させようとする2人。そんな彼女らを、ボクスドラゴンが小さな身で庇う。さらにカバーしきれない部分には巻菜が駆け寄り、身を挺した。
その間にも杏奈がオウガ粒子を前衛の面々に散布し、超感覚の覚醒を促す。
「まだ遅くないよ。がつんとがんばって!!」
「もちろん!」
応えながら、クーリンが上空に掌をかざして竜を呼ぶ。その幻影の炎が辺りを蹂躙。
が、その派手さゆえ、前衛に立つ彼女は狙われやすい。ゆえに霧夜が彼女自身の幻影を紡いでフォロー。
「諦めるんじゃないよ。まだ、少しでも可能性があるのなら。それまでアイツは僕たちが……」
「止めたって無駄。だって、種はもう体の中で根付いた頃……」
「嘘!」
魔法少女の台詞に焦り女性が叫んだ瞬間、その身体が激しく変貌し始めた――腕が、脚がみるみるうちに植物と化し、やがてその整っていた筈の顔立ちも……。
「痛っ……」
口を開けさせようとしていた手を噛まれた空。
背を叩くデジルの想いを踏みにじるように、次第に植物と化してゆく彼女。そんな彼女の腕から伸びた蔓が瞬く間に絡みついて締め上げる。
(「くっ、間に合わな……」)
攻性植物に支配され、豹変した女性。
「何を願っていたかは知らないが、こうなった以上、ただの『敵』だ」
静馬の身体にナノマシンが集束し出す。
「この胸に沈みし残滓を燠となし、行く手を阻む闇を振り払う曙光となれ」
荒れ狂う光の奔流が塊となって敵に叩き付けられる。力の暴走が攻性植物の体内で渦を巻いて荒れ狂う。
「あなたは願いを叶えたかったんじゃない。叶わないから逃げたんです。それも……自分から」
アニマリアも、呪力を込めたロザリオ『シルバーラース』を振り下ろす。光輝くその刃は、彼女の無念の裏返し。事態は、この女性を倒さずして収束する事など出来ないのだから。
…………救えなかった。
「ごめんなさい。せめて……せめて苦しまずに、楽にしてさしあげます。この身に誓って」
攻撃に移る前に、空が心からの誓いを手向けた。
●魔法少女スターアップル
「さぁ……一緒に。これから私と一緒に皆の願いを叶えてあげましょう。まずは邪魔者を追い払うところから……」
魔法少女の右手の蔓が硬質化。槍のように変貌し、近くの面々を刺し貫く。
「まだまだ……これからだね。ドローン展開……行くよ!」
小型の無人機が前衛の皆の周りを飛び交い始める。
その支援を受けながら、クーリンはターゲットを魔法少女から犠牲となった女性の方へと振り替えた。
「……ごめんなさい。でも、その苦しみ。少しでも早く終わらせてあげる」
無理やり変貌させられた歪みを狙って杖の先を叩き込む。
「ぐっ……」
小さな呻きと共に俯いた女性の隙を逃さず、アニマリアが合図。
「今です!」
空と2人で一斉に地を蹴った2人が、頭上からルーンアクスを振り下ろす。が、その寸前に気付いた女性が枝となった腕の先になっているリンゴを2人の間に投げた。
リンゴが――牙を生やして襲い掛かる。小さな悪魔のように凶悪な表情を湛えたソレのせいで狙いを外す2人。
その五月蠅く飛び回るリンゴを叩き落としたのは杏奈のサーヴァント、レビくん。背から取り出した鉄屑を、的確に投じてぶち当てたのだった。
「やったね! じゃあアンナちゃんはこっちね!」
静馬の力を賦活する電気ショックを放つ。
「……早めに、楽にしてあげる事が、せめてもの出来る事、か―――逆巻け旋風。嵐と成れ」
霧夜の描いた螺旋が、小さな竜巻となって女性を巻き込む。思うように動けなくなり苦痛の声を漏らした。
「大丈夫。楽にしてあげる」
魔法少女の杖から滴る水滴が、女性の傷を癒してゆく。
「……こんな事で私が挫けてちゃダメよね。やりたい事は、まだいっぱいあるんだから」
救えなかった心痛から立ち直ったデジルが、女性の頭上を飛び越え、魔法少女に電光石火の蹴りを見舞う。
「……覚えてる?」
「さぁ……知らないわ」
囁くような台詞の応酬は、とても微かな声音で、直後に現れた幻影竜の息吹にかき消され、仲間たちにも届かぬ程度。
直後、魔法少女が杖を振るって飛び散った滴が肌を灼き、ボクスドラゴンがブレスで気を引く間に、ひとまず退がるしかなかった。
「大丈夫。まだまだ行けます。悲しい気持ちはひとまず横に追いやって……躊躇なくして頑張りましょー!」
杏奈の元気一杯の声が戦場に響き、皆の活力を呼び醒ます。
すると女性も枝の自らの枝の先に実らせたリンゴを捥ぎ、清らかな光で魔法少女の傷を癒す。
「みんな……お願い! もう終わらせないと!」
再び、小型無人機の群れを召喚する巻菜。ただし今回は攻撃用の砲台を搭載――無数の砲火が四方八方から女性を撃ち、身動きを封じ込める。
そして、砲撃が止んだその瞬間。静馬が一気に間合いを詰めた。
「少女の願いから生まれし悪夢よ、ここで終幕だ――墜ちろ」
将来、いや、来世に望みを託す『信』の一撃で、哀れな女性に終焉を与えたのだった。
信じ抜いても救われるとは限らない。現実の厳しさに晒されたことで、霧夜の瞳が鋭さを増す。そこに普段の飄々とした感はなく、ただ無言で銘刀【雪君】を一閃。空を絶つ一撃が魔法少女を斬る。さらにクーリンは構えていた杖を子犬の姿へと戻す。
「キィ、今日もお願いね」
魔力を込めたファミリアによる超速の突進が、魔法少女の躯を掠め、その隙に死角に回っていた巻菜の細身のナイフが神風のように敵を斬り裂いた。
それに応じるかのように、返す刀ならぬ返す蔓が襲う。そこへボクスドラゴンが割り入った。
「もう二度と……こんな悲劇は繰り返したくありませんから。蒼穹の恵みに抱かれしモノよ、凍てつく山の影巫が命ず、その薬毒の力を我らに与えよ」
アニマリアの翼から、空色の光が降り注ぐ。祝福をもたらす聖なる光がデジルの傷を癒す。
癒しを受け、再び魔法少女の元に向かうも、その蹴りは躱され……た、と思った瞬間、魂の残滓が作りあげた精霊が、魔法少女を貫いた。
「あなたの力の犠牲者よ。恨みって怖いわね」
くっ……杖を支えに少女が体勢を保った。
「願いを叶えさせるのであれば、あなたのやり方は間違っていますよ。次は、もっと具体的に行動しては? もっとも次は無いと思いますがね」
空の投じた楔が、杖の真ん中辺りで炸裂し、叩き折る。そのまま倒れる攻性植物の魔法少女。
そこに追い討ちを掛ける巻菜の小型無人機たち。その砲撃が止んだところに叩き込むのは、光り輝く呪力を込めた斧を振り下ろすアニマリア。
「お願いしますよ!」
妖精たちの祝福を込めた矢を放つ杏奈。その一矢から受け取った祝福を、荒れ狂う光の奔流へと乗せる静馬。
「人は脆く失敗する生き物だ……それでも自ら立ち上がろうとするからこそ、強くなれる」
光輝の塊が、魔法少女の頭上から叩きつけられた。
「トドメを……」
知った顔なら、その当人が決着をつけるべき。それは皆も同じ気持ちだった。
「ありがとう……これで終わりにするわ」
デジルの蹴撃が、魔法少女の胸を貫いた。
「じゃあね、他のも後で送ってあげるわ、『星』」
「え?」
……まさか。魔法少女の表情が一変。
「貴方……ジデ」
ぐっ……蹴りぬいた爪先を抜き、噴き出した鮮血が、言いかけた台詞をかき消す。
――結局名乗ることはなかったけれど、その言葉が、魔法少女スターアップルの最期となったのだった。
●終止符
「助けてあげられなくて ごめんね……」
巻菜が、先に倒れた女性の方に駆け寄る。
「終わったね……目の前の悲劇には力及ばなかったけれど、もう二度と起こらないと思えば、まだ救われる。そうだよね?」
その背を見下ろしながら、静馬が声を掛けた。
「願いを叶える方法――教えてあげたかった。結果を求めないこと。結果のために本気で立ち向かうこと、って」
そうすれば、勝ち負けに関係なく願いは叶う、と宣うアニマリア。
ふと見ると、女性もスターアップルも、一見してただの人の姿に戻っていた……。
「終止符――この目で見届けられてよかったと思うよ」
クーリンがそんなことを言った瞬間、
「まさか……!?」
とある想像が皆の脳裡を駆け抜ける。とは言え、証明できる根拠は何もない。
だが今はそれで良い。寄生型攻性植物の脅威の1つが、終焉を迎えたのだから。
作者:千咲 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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