青木ヶ原樹海。富士の樹海とも呼ばれる山梨県に広がる広大な森は、静岡県と山梨県を繋ぐ国道139号が通っている事から、富士宮市からも容易に辿り着ける場所でもあった。
国道を、そして整備された林道を外れ、森の奥深くへ進む。
向かう先は判っている。そこに彼女がいると、『それ』が教えてくれたからだ。
道無き道を踏破する柵・緋雨(デスメタル忍者・e03119)の表情は曇っていた。
(「私は誰なのかしら?」)
攻性植物の声が蘇る。まるで自分の到来を歓迎するかのような声は、耳の中で五月蠅いまでに木霊する。
それは呪縛だ、と思う。自身を雁字搦めに捕らえ、放さない。まるで蜘蛛の糸の如く、動けば動く程、身動きが出来なくなっていく。
暗い森を進む自分は、その蜘蛛の顎に捕らえられようとしているのかと錯覚すら覚えた。
やがて、視界が開ける。
木々の重なりが途切れる空間に、それはいた。
(「ああ、そうだ。彼女だ」)
今も昔も変わりなく。白詰草に囲まれた彼女は自分を待っている。哀しそうに伏せられた視線も、痩身を彩る清爽なまでの青い洋服も、何もかも、記憶のままだった。
「来てくれたのね、緋雨さん」
微笑う。嘲笑う。狂笑う。
零れる涙はそのままに、攻性植物は笑顔を彼に向け、同時に、幾多の触腕――白詰草の蔦草が、鎌首を擡げた。
光が奔走る。蔦草が疾走る。
それらを紙一重で回避したケルベロス達を無視し、迸るそれらは木々を、草花を薙ぎ倒し、粉砕していく。
「斉藤・絵梨佳は言った。泣くのは痛いからだと。佐々木・センイチは言った。身体に傷が無くとも心が痛みを覚える事があるのだと。そして八木・和典はもたらした。緋雨さんを殺せば、この痛みは止まる、と」
攻性植物が告げた名は今までの犠牲者達。そして彼女は涙に濡れた表情を向ける。
「悲劇のクロバは柵・緋雨と言う名の個体を殺す。そうでなければ……体液が勿体ないわ」
でも、と言葉を句切る。その後の語句は、ケルベロス達に言い聞かせるように紡がれた。
「貴方達にも寄生し、集落を作るのもいいかもしれないわ。皆で愛し合い、子を為し、そして世界を私で覆うの。貴方達はグラビティ・チェインを。代わりに私は愛を与えて上げる。クロバと言う身体の記憶は、そんな未来を望んでいるわ」
さぁ。と攻性植物は笑う。
さぁ。とクロバは慕情にも似た瞳を向ける。
「どちらでもいいわ。選ばせて上げる」
浮かべた表情は侵略者特有の、醜悪な笑みを以て形成されていた。
「お前の言いたい事は判った。だが」
呻く緋雨はその言葉を口にする。心が痛い。まだ、震えは収まらない。
それでも、と拳を握り締め、得物を構える。目の前の存在は倒すべき敵。それ以外の何者でもない。
「お前の好きにさせない。なぁ……」
そして、それの名を口にし、戦いの開始を告げる。
過去に決別する為に。デウスエクスの侵略を阻止する為に。
呼んだその名は――。
参加者 | |
---|---|
星詠・唯覇(星々が奏でる唄・e00828) |
柵・緋雨(デスメタル忍者・e03119) |
七種・酸塊(七色ファイター・e03205) |
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166) |
相摸・一(刺突・e14086) |
御影・有理(書院管理人・e14635) |
巽・清士朗(町長・e22683) |
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の猿忍・e29164) |
●裏切りよ、こんにちわ
「お前の言いたい事は判った」
深緑に包まれた樹海の中、柵・緋雨(デスメタル忍者・e03119)の言葉は力無く響く。
嘆くべきか、それとも怒るべきか。自分の感情は判らない。
目の前にいる女は判る。悲劇のクロバと名乗ったデウスエクスは微笑を浮かべている。それはまるで、恋人の告白を待つ少女の様にも思えた。
「お前の好きにはさせない」
否定の言葉は弱々しく。攻性植物の繁茂する未来を認める事は出来ない。彼の紫色の瞳はその意志を映し出していた筈なのに。
ゆるりと悲劇のクロバは緋雨への距離を詰める。無数の白詰草が彩る触腕が優しく彼の身体を抱きしめる。
抱擁はあくまで優しく。
「オーナー……」
進み出ようとした星詠・唯覇(星々が奏でる唄・e00828)の歩みはしかし、伸ばされた手に遮られる。
その主は遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)であった。美しい横顔は悲愴な迄に気丈で、目の前のそれを無理矢理受け入れているようにも思えた。
(「当然だよな」)
訳有りとは言え、恋人が別の女に縋られる姿に思う事が無ければ嘘だろう。
「僕は無力だ」
緋雨の声は小さく紡がれる。
数年ぶりに感じた息づかいは小さく、押しつけてくる身体は細く。故に拒めなかった。身体は己を求めたクロバそのもので、攻性植物に侵されようとそれは変わりない。
「ありがとう、緋雨さん。ずっと一緒よ……」
それが最後の告白だった。
白い指が掴む花冠はまるで、誓いの指輪の如く彼の頭に載せられる――その刹那。
緋雨の指が花冠を掴んでいた。掴まれたそれは、彼女の意志に反して彼の頭に収まる事を許さない。
「この花冠は『彼女』の物だ。返してもらうぞ、デウスエクス!」
同時に緋雨の唇から薄紅色の霧――毒霧が迸った。至近距離からそれを浴びたクロバは全力で緋雨の身体を突き飛ばすと、侵食する毒を追い出すべく、自身の顔を覆う。
「ああ」
白い顔は瞬時に白詰草に覆われ、補修を開始していた。頬を縫うように走る蔦草をそのままに、クロバは笑う。
そこに涙は浮かんでいない。まるで、その結末を予期していたかのように。
「柵?」
鈍い銀色のガントレットをクロバに向けながら、相摸・一(刺突・e14086)は声を掛ける。茫然自失の感はなかった。ただ、その視線は消えていく白詰草の冠に注がれていた。彼が奪った事で、攻性植物としての力を失ったのだろう。儚いな、とそんな感想が浮かんでは消える。
(「そうだ。消えてしまっているんだ」)
クロバは緋雨を憎んでいた。裏切った自分を許しはしないぐらいに。だから、その憎しみが攻性植物を侵食し、我が物にした。――そんな都合の良い話が有るわけがなかった。目の前のそれはあくまで、侵略者。異邦の神なのだ。
「お前は悲劇のクロバだ。彼女じゃない」
それでも生きていて欲しかった。こんな最期を迎えて欲しくなかった。その事実だけが、胸を疼かせる。
故に、切り捨てる。今、目の前にいる彼女はデウスエクスだ。クロバと言う女性は、緋雨に愛を求めた女性は、その器でしかない、と。
「また、私を裏切るのね」
笑う。哄笑う。嘲笑う。それは侵略者の表情で紡がれていた。
「こんなに愛しているのに。貴方と共に居たい。それだけなのに」
「戯れ言はやめろよ、デウスエクス」
聞くに堪えないと七種・酸塊(七色ファイター・e03205)はウンザリした表情を浮かべる。
「お前のそれが愛と呼ばれてたまるかよ。そんな一方的な暴力は愛でも何でもねえ、支配だ」
だから此処で終われと、纏うオウガメタルからオウガ粒子を放出した。浴びた粒子によって、自身を含めた仲間達の感覚が研ぎ澄まされて行くのを感じる。
「此処で会ったがって奴だ。アタシ達がお前に引導をくれてやる!」
「――出来る物なら」
酸塊の言葉に応じるよう、無数の触腕が地獄の番犬たちを迎え入れるように広げられた。
●遠き日の約束は果たされずとも
「愛、か」
螺旋の仮面を被った岩櫃・風太郎(閃光螺旋の猿忍・e29164)は唸る。クロバの語る愛、酸塊の告げた支配のそれに戦慄すら覚えていた。
「なんたる宿主の情念!」
悲鳴を受け止めるクロバは笑う。それがどうした? と言わんばかりの涼しい顔は、しかし、横合いからの言葉に殴りつけられる。
「否だ。それが彼女の想いで有る筈がない」
御影・有理(書院管理人・e14635)だった。ずっとクロバと、攻性植物に寄生された分体と戦い続けていた彼女だからこそ、それを否定する。また、書を管理する人間としてその文言は認める事が出来なかった。
「記憶を奪い、有している事は否定しない。だが、それはただのデータだ。そこに思いがあるわけじゃない。本と同じく、受け手が『こうに違いない』と思うのは自由」
だけど、と指を突きつけ、言葉を叩き付ける。それは、有理の心からの叫びだった。
「人間を騙るな、植物風情が!」
共に放たれた竜砲弾がクロバを強襲する。ぶちぶちと蔦草を千切りながら、痩身に着弾したそれは炎を上げ、その皮膚に炎の痕を刻む。
続けざまにボクスドラゴンのリムが唯覇に自身の属性を付与。バッドステータスに対する耐性を強化する。
「さて。幕引きと行こうか。行くぞ、我が影」
自身の全身を地獄の炎で覆う巽・清士朗(町長・e22683)の言葉に有理はコクリと頷き、応じた。
「ああ、やる事はただ一つ。降魔を討つのみ」
そして野茨の影が走る。一の炎を纏う蹴りはクロバの身体を直撃し、その痩身を枯れ枝の如く宙に舞わせた。
「身軽だな。キャスターか?」
「ご名答」
触腕を木々に伸ばし、空中で体勢を整えたクロバはにいっと笑う。立体的な動きを描く彼女は捕捉に苦労しそうだった。
だが。その対策は打ってある。一瞥した視線の先で、酸塊が、鞠緒が微笑する。有理が頷く。そして、自身もまた、それを乱す術を心得ている。
ケルベロス達が一丸となれば、倒せない相手ではない。
オウガ粒子を散布する鞠緒を目に、唯覇の戦い続ける者への戦歌を耳に焼き付けながら、思いを抱く。鞠緒のサーヴァントであるヴェクサシオンも、清浄な羽ばたきで仲間に邪気を払う力を付与している。唯覇のサーヴァントのカランはクロバに肉薄し、手にした凶器で応戦していた。
それは願望ではない。確信だった。
「クロバ」
緋雨の静かな声が鋼の拳と共に紡がれ。
「これから、貴殿を地獄に送る」
月の光を自身に付与する風太郎の声は葬送の如く告げられた。
「ああ」
それでも、悲劇のクロバは笑う。微笑にも嘲笑にも似た笑みは、誰に向けられたものか。
彼女からは既に、涙の色は失われていた。
●貴方が望む最期
木々が軋む。或いはたわむ。幾多の時を刻んだ樹木はデウスエクスの触手ごと痩身を支える強度を有していた。
枝から枝に移り、光条を、蔓槍を繰り出すクロバの攻撃は、ケルベロス達を削って行く。
「ええい、厄介な!」
風太郎の悪態と共に放たれた凍結光線はしかし、クロバの蔦草を砕くのみに留まる。
彼女が纏うキャスターの加護はケルベロスの攻撃を阻み、対して自身の攻撃をケルベロス達に届けるのに十二分の効果を発していた。
対する酸塊と鞠緒が行う付与もまた、彼女を捕らえるべく幾多も重ねられている。だが、それを以てしても、全ての攻撃を叩き付けるのには不十分だった。
「これは、あなたの歌。懐い、覚えよ……。あなたのその苦しみはあなたが受けるの」
鞠緒は歌う。クロバの抱く寂しさを、愛への飢えを。その想いはクロバの胸を焦がし、その動きを封じる筈――だった。
「寂しい? この世界に繁茂し、自身で埋め尽くしたい感情を寂しいと言うの?」
胸に渦巻くわだかまりすら、蔓草で補修しながら疑問を浮かべる。
それが悲劇のクロバの行動原理。自身が繁茂し世界を覆う。それが彼女の抱く唯一の望みだった。
「ならば私は寂しい。だから、愛して上げる。世界を私達に染め上げる。貴方達が居てもいいわ。苗床は多い方がいいもの」
「だから、それは愛じゃないって何度言わせるんだよ!」
酸塊の叫びに、クロバは小首を傾げる。
「ならば、愛とは何?」
疑問は光条と共に放たれた。答えが有っても無くてもそれでいい。その有り様に有理は眉を顰める。
(「ああ、これが悲劇のクロバだ」)
疑問を問う事で解消し、新たなる疑問を見つける。最初に得た寄生主が緋雨に執着する女性ではなく、違う人間だったらどうなった事だろうか?
だが、起きなかった出来事は想像でしか補えない。弱者を食い物にする悪鬼としてこの地球に咲き、そして三者の犠牲を生んだのは彼女そのものだ。その生き様は例え寄生主が違っても、変わる事は無かっただろう。
所詮、目の前のこれは侵略者なのだ。
「何処に在す、此処に亡き君。鎮め沈めよ、眠りの底へ。形無くとも、届けと願い。境の竜よ、御霊を送れ」
忘れない。忘れるものか。
この悪鬼が三人、否、四人の無辜の命を奪い、此処に存在する事実を。
それを償わせる事が、その魂が安らかに眠れる事が、有理の願いだった。
有理の召喚した幻影竜が吠える。咆哮は哀しげに響き、その旋律はクロバの身体を侵していく。
ああ、と嘆く。咆哮に打ち据えられる彼女はしかし、それをただの攻撃としか認識していない。
それが、何故だか哀しかった。
「そんな顔をするな」
九曜鱗の紋様を抱く陣羽織がはためく。清士朗の黄色の龍を纏った拳は、無念無想の動きを以て、咆哮に身を固めるクロバに、叩き付けられていた。
「ウチの有理を泣かせてくれ礼だ。とっておけ」
まっとうに受けたクロバは無様に吹き飛ぶ。身体は地面を転がり、白詰草の草花に柔らかく受け止められた。
そこに待ち受けていたのは風太郎だった。
「これは貴様が今まで奪った犠牲者の痛みと知れ!! 喰らえ! これが拙者の怒りの炎! サンライトォッ! フレイムゥッ! ニンジャヒュージシュリケェーンッ!」
太陽光を螺旋に込めたエネルギー体が手裏剣と化し、クロバを切り裂く。咄嗟に防御に回った蔓草を、そして彼女の身体を切り裂くそれは、着弾と共に爆発すると、蒼色の衣服を、白い肌を焼き焦がしていく。
「これが、痛み、か」
恍惚とした表情で傷を補修しながら呟く。それは新たな知識を得た童女のように、輝く瞳で紡がれた。
「痛みを知りたければ、もっと教えてやる」
それは憎悪だった。それは狂気だった。緋雨の紫眼を染める感情は、強く吐き出される。
もし、左手に感じる鞠緒の温もりが無ければ、憎悪に飲まれてしまいそうだった。それ程までに彼は強く憎んでいた。デウスエクスを、悲劇のクロバを、こんな巡り合わせの宿縁を。
「緋雨さん!」
二人の声が響く。同時に放たれた鋼の拳はしかし。
「――その程度が、痛み?」
柔らかいまでにゆるりと、クロバの触腕に受け止められる。その程度では痛みすら受けられないとの笑みの元、無数の白詰草の蔦葉が二人に絡まり、侵食を開始する。
「さぁ。愛し合いましょう。此処は直ぐに私の領域になる。そう、今、新しい苗床が届くわ。貴方も、貴方達も、そして新しい苗床も。皆、私にして上げる」
「「それは、ないな」」
二人を侵食する蔦草はしかし、一閃した西洋剣と縛霊手の爪によって切り裂かれる。
それを為したのは唯覇と酸塊だった。疑問の色を浮かべるクロバへと、淡々とした指摘が告げられる。
「国道から此処に繋がる道は全て、俺達が塞いだ」
それが彼らの策だった。攻性植物がテレパシーの様な手段で被害者を集めている事はこれまでの経緯から推測出来ていた。故にその道をキープアウトテープで塞いだ。それへの二人の思いは一つだけ。
「残念だったな、クロバ。この場に誘き寄せれば直ぐに寄生出来たんだろうが……来ない以上、それも出来ないよな!」
誇らしげに胸を張る酸塊は全身全霊を以てクロバに体当たりを行う。百五十八センチの砲弾と化した彼女の吶喊は、如何にデウスエスと言えど、耐えられる物ではなかった。
「デウスエクス。此処に居る誰もが、お前の愛とやらを受け入れる気はない!」
一の降魔の拳が突き刺さる。その一撃を受け、クロバの表情が変化する。
それは驚愕で、そして憎悪だった。
無数の蔦草が伸びる。掴んだ木々を支えに立ち上がる身体はしかし、憐れな程、緩慢な動きだった。
「終わりの時が来た、攻性植物よ。もはや戻らぬ魂は貴様に殺された。そして今、貴様そのものが終わるのだよ」
清士朗の言葉は言い聞かせるように発せられ、そして言葉が響いた。
「今だ、オーナー!」
唯覇の叫びと。
「死んだ者への義理を果たせ」
一の呟きと。
「悲劇の幕引きをその手で!」
有理の願いと。
「緋雨さん! わたしは!!」
そして、鞠緒の祈りが紡がれる。
「霧雨よ、甘く滴れ」
全てを一身に受け、緋雨は微笑する。それは何処か空虚で、寂しげな物だった。
交わされる抱擁はただ一度きりの物。重なる唇は、彼女が求めた唯一無二のものだったかもしれなかった。
「さようなら、アイリさん」
それでもこの身体は自分を愛した彼女の身体なのだ。斉藤・絵梨佳の事件で知った通り、この場で彼女は死を迎える。それが、肉体だけの死だとしても、それを下すのは自分だった。
だから。
(「貴方の事は忘れない。命尽きるまでこの罪を背負い生きていく」)
毒に侵され、肌を薄紅色に染めていく彼女は、ゆっくりとその命を失っていく。
「ああ、ひさめさ……」
「もう彼女の記憶を語るな。デウスエクス」
生命の消え行くデウスエクスの命を摘み取るように。
緋雨の手刀は、その首を切り落としていた。
●花言葉の名は『復讐』
クロバの身体が光の粒となって消えていく。腕に残る重みも温もりもそのままに、身体だけが消失していく。
だから、忘れないだろう。この身は知ってしまった。この心は知ってしまった。喪失の痛みを刻み、彼女は逝ってしまったのだ。
それが彼女の復讐ならば、それは成就していた。
「緋雨さん……」
自らを掻き抱く彼の手に、温かな手が重なる。震える鞠緒の手は、彼を現実に引き戻すように、柔らかく触れられていた。
声が出なかった。その手を迎え入れたいのか振り払いたいのか、自分でも判らないくらいの動揺は、それでも彼女に伝わらなければいいと願ってしまった。
だが。
鞠緒の言葉が耳朶を打つ。その想いは今の自身に強く、そして蕩けるように響いていた。
「わたしで間違いないの、緋雨さん、あなたの隣に居るのは。……あなたが手を取るのは!」
「さーて。野暮な外野は帰るかね」
恋人達の光景を前に、酸塊は声を上げる。
「だな」
「で、ござるね」
様々な声を上げ、ケルベロス達はその場を後にした。
残されたのは一組の恋人達と、そして、悲劇のクロバが倒れた事実だけ。
――哀しい花言葉が紡がれる事は、もう無いのだ。
作者:秋月きり |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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