月の光と紫色の花弁

作者:沙羅衝

「本当に、この辺り……なんだろうか?」
 一人のケルベロスが、ふと呟く。
 辺りは真っ暗な山道。月の光と、己の手にある灯りだけが、自分の行く道を照らしている。
「……うん。前回からの事件を考えると、この辺りの滝に、何かの関係性があると……思うのよね」
 立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)が、その言葉に答えるが、自分自身も、そこまで自信があるわけではない。
 それでも、調べずにはいられなかった。ケルベロス達は、小さくまとまりながら、捜索を継続する。
 ヒュゥッ……。
 風は冷たく、少し大きくなってきていた。
 ざわざわと、木々が揺れ、葉が落ちる。紅葉も少し始まってきている。赤や黄色といった鮮やかな色彩が、彼らの目の前に落ちた。
「あ……あれは!?」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)が目を凝らすと、月の光に照らされて、ゆらゆらと揺れながら歩いている人影が見えた。女性のようだ。
「彼女なのか?」
 調査を手伝っていたリコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)が夏雪に尋ねる。
「この距離では分かりません……。しかし……」
「そのままには、しておけません……ね」
 ケルベロス達はそう言うと、そのまま一つの滝に繋がる道へと降りていく人影を追った。
 ザアァ……。
 人影を追っていくと、滝つぼへ落ちる水の音が、だんだんと大きくなっていく事に気付く。
 滝は近い……。ケルベロス達は、そう思いながら、目の前へと近づく人物を追う。
「待て!」
 いよいよ滝が見え、人物に接触できる距離になった時、一人のケルベロスが、全体を小声で止めた。
「どうしたのですか!?」
 アーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)がその静止の理由を尋ねる。
「見ろ、何かいる」
 一人のケルベロスが指差す方向に、それはいた。
 薄紫色の帽子のようなものを被った、人の姿であった。滝のそばの岩に腰掛け、近づいていく人物を見ている。
「……人!?」
「いや、分からない……」
 ケルベロス達は、物陰に息を潜め、その成り行きを確認していると、何かしゃべっているように見えた。しかし、滝の音で何を話しているのかは分からない。
「……怪しい、よな?」
「おい、マズくないか?」
 その薄紫色の帽子を被った人物が、先程の女性の前にひらりと舞い降りる。
「あの帽子の形……。トリカブトの花だわ!」
 彩月が気付き、声を上げる。
「アレが、今までの事件の犯人です……ね」
「でも、どうするんだ! このままだと、彼女攻性植物にされちまうんじゃないのか!?」
 カルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)の声に、奥歯をかみ締めるケルベロス達。
 目の前で、人間が攻性植物にされそうになっている。
 しかし、このデウスエクスの情報はまるで無い。帰ってヘリオライダーに調べてもらうという手も頭によぎった。
 数刻、滝の音だけが、辺りを支配する。
「だめ……です。これ以上、犠牲者は出したくないのです」
 アーニャは、そう言い、飛び出した。
「仕方ない……」
「行こう!」
 他のケルベロス達も続く。

 ヘリオライダーの情報がない戦い。
 敵の戦力も分からない。
 思えばかなり無謀だったのかもしれない。
 でも、悲劇を終わらせたかった。それにただ……助けたかった。
 ケルベロス達はその一心で、現場に突っ込んだのだった。

「その人を放しなさい!」
 その声に、あら? と声を発しながら、左手に咲く紫の花弁を女性に乗せようとしていた、攻性植物の動きが止まった。


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
フィオレンツィア・グアレンテ(闇屠る一閃・e00223)
立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)
鮫洲・蓮華(サキュバスの見本市・e09420)
アーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)

■リプレイ

●救出
「何かご用?」
 目の前の女性に乗せようとしていた左手を、そのままの位置で停止させ、状況を楽しむかのように話す攻性植物。
 そこへ、暗闇からカルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)が、釘を生やしたエクスカリバールを頭上へと振り下ろした。
 ガツッ!!
 攻性植物は、その一撃を左手のトリカブトの花で、そのまま打ち払う。
「へへっ。全力で行くぜ! 始めっからフルスロットルだ!」
 カルナはそう言いながら、すぐさまその場を離れ、幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)と入れ替わりに飛び込んでいく。
「人の負の感情に……でも、それもここまで。貴方の全て、砕くっ!」
 鳳琴は低空で繰り出した流星の煌めきと重力を宿した蹴りで、攻性植物の膝を叩くと、攻性植物がその勢いのまま回転しながら宙に飛び上がる。
「アーニャさん、今!」
 フィオレンツィア・グアレンテ(闇屠る一閃・e00223)が、ライトニングロッドで雷の壁を構築させ、前を行く自らのシャーマンズゴースト『マカロニ』と、シュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)、立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)、鮫洲・蓮華(サキュバスの見本市・e09420)、アーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)とアーニャのウイングキャット『ティナ』へと纏わせていく。
「アーニャさん、悪いけど10秒で何とかして!」
 その雷の壁の力を得ながら、彩月が回転しながら降り立った攻性植物と、足取りがおぼつかない被害者の女性の間に入り込んだ。
「さあ、こちらへ!」
 アーニャが女性の手をとろうとする、しかし彼女は心ここにあらずといった状態で呆然としており、アーニャの言葉には反応しない。
「あら、その子を連れていってしまうの? 折角来てくれたのに……」
 その様子を見た攻性植物が、笑みを浮かべながら話す。そして、身体を少し前に傾ける。
「そう簡単にそっちには向かわせないよ!」
 蓮華がバトルオーラの弾丸を放ち、攻性植物の動きをけん制する。
「……そっちばっか構ってないで、ニューフェイスの顔も拝んでくれよ?」
 攻性植物が蓮華の弾丸を避けた瞬間を狙い、黒煙のオーラを集中させるシュリア。
『逃げてもいいぜ。…その先地獄行きだ。』
 シュリアの放った黒煙のオーラを纏う銃弾が討ち放たれる。
 攻性植物は、そのまま少しバックステップを踏みその弾丸を避ける。しかし、その軌道は攻性植物の動きに合わせてまとわり付き、右肩をえぐった。
『夕闇切り裂く緋色の魔弾! 顕現せよ! レッドバレット!』
 更に、滝の反対方向からの弾丸が火を噴きながら打ち込まれる。彼女らの他に、この事件を調査していた村雨・柚月が、打ち込んだものだった。
 その弾丸の直撃を受け、攻性植物から炎が上がる。
「あらあら……乱暴ね」
 攻性植物は、そのダメージを見ながら距離を取り、左手の花を咲かせ、自らに紫色の花弁を降らせる。すると、先程の鳳琴とシュリアが与えた傷が塞がり、炎が消えていく。その花弁は攻性植物の傷を治した後、身体の周りをひらひらと周回しながら漂った。
「アーニャ、引くぞ」
 リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)がアーニャの前に立ち、声をかける。
「こちらは僕達で持ち堪えます……。被害者さんを救ってあげてください……!」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)が、アーニャに呼びかけながら、歌を口ずさみ、前を行くシュリアと蓮華、それに彩月とマカロニへと力を与えていった。
「私もサポートします。行きましょう」
 巡命・癒乃の声に、アーニャが頷く。
「皆さん、必ず戻ってきます。宜しくお願いいたします」
 そう言って彼女を負ぶさったアーニャは、リコスと癒乃に護られながら、素早く戦線から離脱していったのだった。

●防戦
「さぁ、……骨の髄まで楽しもうぜ?」
 シュリアがアーニャの行った方向に身体を寄せ、にやりと笑い、八重歯を見せながらドラゴニックハンマーを構える。
「ふふ……そうね。楽しめそうね」
 攻性植物はそう言うと、いきなり右腕を振り上げ、頭上にグラビティを集中させる。そして、音も立てず振り下ろした。
 ドドドドドドド!!
 その力が炎となり、シュリアと蓮華、それにマカロニと彩月に勢い良く降り注いでいく。
「チッ!」
 シュリアは舌打ちをしながら、かろうじて避ける。だが、他の二人と一体はその攻撃をモロに食らい、体から炎が上がり、幾つかの補助の力が失われていく。
「人の復讐心を利用するなんて、つくづく不愉快な奴ね」
 フィオレンツィアがその攻撃を見て、マカロニに指示を出しながら薬液の雨を降らせ、燃え盛る炎を消していく。
「てめぇの目的は何だ? 何故復讐の気持ちを利用した? テメェの宿主の影響ってヤツか?」
 カルナがそう尋ねながら、重力を籠めた飛び蹴りを放つ。
「ふふ……答える必要が?」
 攻性植物は、そう言いながらもカルナの蹴りを容易く避ける。
「あなたは何でここに出てきたの? やっぱりグラビティチェインが目的?」
 炎から回復した蓮華も、思いっきり力の乗せたドラゴニックハンマーを振り下ろす。
 ドゴン!
 鈍い音を立てながら、攻性植物がガードした左手の花が数枚散る。
「それは……貴女達が勝手に納得する為でしょう? 私には、関係のないことね」
 少し傷が付いた花を見ながら、再び笑う。
「ハアッ!」
 鳳琴が気合の声をあげ、ドラゴニックハンマーから狙い済ませた一撃を攻性植物の足に叩き込む。
 ドウッ!
 攻性植物はその勢いで体の半分程後退するが、直ぐにバランスを整え、立ち上がる。
「この前の子の彼氏を寝取った女と、わたしが似ていたそうで、いい迷惑だったわ!」
 彩月がその隙を付こうと、フェイントを入れながら、更に蹴りつける。
「あら、そう。それは思いの外仕事をしてくれたみたいね、あの子」
 だが攻性植物はその蹴りをひらりと避け、問いを煙に巻く。
「強い……ですね」
 夏雪が攻撃の補助の為に、オウガメタルからオウガ粒子を放出し、前を行くメンバーに力を与えていった。
 ケルベロス達は、様々な問いを攻撃しながらも訪ねていく。しかし、この問いと攻撃は、まず被害者の女性、千里を逃がす為であった。元より正確な解答など期待はしていない。
 その甲斐があってかどうかは分からないが、少なくとも、千里を逃がすことには成功したのだった。
 ただ、こちらはその分戦力を欠くこととなってしまう。ケルベロス達は、十分な回復は行えたのであったが、決定的なダメージを与える事は出来ないまま、徐々に体力を削られていく。
 そんな状態であるにも関わらず、ケルベロス達の目は希望を失っていなかった。

●悪寒
 幾つかの攻防を繰り返した時、ケルベロス達の体力は既に半分が尽きようとしていた。
(「10秒なんて言ったけど、手こずっても何とかしてあげるわ」)
 彩月はそう思いながら、前に立ち続ける。
 ドシュ!
「あっ!?」
 その彩月の腹に、攻性植物の背中から伸びた蔓が勢い良く突き刺さった。彼女の肌がどす黒く変色していく。
「彩月さん!」
 夏雪が駆け寄り傷の具合を確認すると、明らかに猛毒の反応であった。それに、かなりの傷の深さが確認できた。
『大丈夫……。痛くない、です……。』
 夏雪はその傷に、自らも痛みを感じる。しかし、目を逸らさずに祈りをこめ、泡雪状のグラビティを傷口に溶かしていく。すると、傷は塞がり、食いついていた蔓も消滅していった。が、前に立ち続けていた彩月は、とうとう膝を付いた。
「ありが……とう。夏雪、さん」
 それでも、必死に立ち上がろうと、全ての力を振り絞る。
「まずは、一人。かしら? 大丈夫、皆倒れたら、皆に私の種をあげるから……」
 そう言って攻性植物は、再び背中の蔓を持ち上げる。
「させっかよ!」
 カルナが肘から先をドリルのように回転させて、突っ込む。だが、その攻撃は空を切る。
「これが幸家の技――さぁ。勝負だっ」
 カルラの攻撃を囮にした鳳琴が、攻性植物の動きを見切り、必殺の蹴りを叩き込む。
『輝け!私のグラビティ。我が敵を――砕け!』
 鳳琴の龍状の蹴りは攻性植物の胸部にヒットし、その勢いのまま、攻性植物は吹き飛ばされ、岩に叩きつけられた。
 その前を、マカロニがふよふよと漂いながら、ケルベロス達と攻性植物の間に位置した。
「そう、その位置で良いわよ。そのまま……皆を護るのよ」
 フィオレンツィアがマカロニに指示を与え、自らは再び雷の壁を張る。
「皆さん、戻りました!」
 そこへ、アーニャが激しく息をつきながら、駆け込んでくる。
「アーニャちゃん!」
「間に合った……な。へへ……楽しくなってきたな」
 蓮華とシュリアが言うと。攻性植物は岩を祓いながら再び立ち上がり。そして、口を開いた。
「ふふ……お帰りなさい」
「てめえは何モンだ、何故アーニャを狙う?」
 カルナが問う。
「私はトトリカ。……そう、アーニャと言うのね。私は貴女のその美しい顔が復讐にゆがむ瞬間が見たいの。どう? 私が憎い? 傷つけたい? 美しい花こそ毒があるって言うじゃない? きっと似合うわ」
 トトリカはそう言って目を細め、妖しく微笑む。
 その微笑に、アーニャは事件の間襲われていた自身への悪寒の正体を確信し、ティナも威嚇の構えを取った。
「……違います。そう言った気持ちはありませんし、これからも復讐に心を奪われることはあり得ません。……ただ、これ以上悲劇が生まれることは耐えられません。貴女だけは許すことができません」
「あら……残念ね」
 トトリカはそう言い、持ち上げていた蔓を、アーニャに向けた。

●月の光と紫色の花弁
 戻ったアーニャと癒乃が戦線に加わり、戦況は徐々にケルベロス達に傾いていった。
 傷を受けても、フィオレンツィアと夏雪、それにティナがフォローし、更に力を与えていく。そしてその力はトトリカの炎の攻撃を凌駕する。
 それでも、トトリカは立ち上がった。それは、どうしてであるかは、ケルベロス達には分からなかった。
「負けられない! 私たちで、悲劇を止めるんだ……負ける、もんかっ」
 鳳琴が再び必殺の蹴りを叩き込むと、その背中の蔓が全て弾け飛び、柚月が追撃を行う。
「終わりね。あなた、強かったわ」
 フィオレンツィアがそう呟き、魔導書を導き出す。
『これは禁じ手の一つ。嘗ての私の悲劇を眼前に、あなたはどうするのかしら?』
 召喚された竜の幻影が、雷を帯びながら、トトリカの右腕を切り裂いた。
「悪いけど、あなたの生命、少し分けてもらうね」
 蓮華がコスチュームをチェンジしながら、尻尾を蛇に変える。
『さぁ、わたしの中にいらっしゃい・・・。』
 その蛇がトトリカにまとわり付き、膝を付かせた。
「どんなに恨みあるっつっても、それにズッと囚われるほど人はヤワじゃねぇ。人間様ナメてんじゃねぇよ」
 カルナがシャークマウスが光る黒々としたナパーム弾を召喚する。
「ここで、悲劇を終わらせます……! カルナさん!」
 夏雪がオウガ粒子をカルナに纏わせ、その輝きがカルナと弾丸に舞い降りる。
『―HA!派手にいくぜっ!』
 ドドドドドド!
 激しく爆音が轟き、トトリカの周囲一帯が、火の海に変わる。
「美しい花こそ毒がある……いいね、その花……あたしが摘んでやるよ1つ残らず、な?」
 そう言って、リボルバー銃の銃口をガチャリと構えるシュリア。
(「人嫌い、復讐……人間のきたねぇ所だよな……それこそ摘み取ってやんねーと」)
 シュリアはそう思いながら、引き金を引いた。
 ドゥン!
 一発の銃声が響き、トトリカの額を貫いた。
「あ……」
 その弾丸が、トトリカの重力の鎖を断ち切る。だがトトリカは、ふらりと立ち上がり、また、ふふ、と笑ったのだった。
「最期です。せめて私の月を見て、消えて下さい」
 トトリカと対峙するアーニャ。そして、祈る。
『いくよ、準備はいい。』
 アーニャのグラビティが、光り輝く月となり、空に浮かんでいく。
「彩月さん。お願いします」
 アーニャの浮かべた月が、滝の上へと高く舞い上がる。そして、上空に浮かんだ本物の満月が、この時を待っていたかのように、ひときわ大きな姿を完全に現した。
 その二つの月の間から、ゲシュタルトグレイブを構えながら飛び込んでくる彩月。
『月のエネルギー充填完了。この一撃を受けて立ってられるなら立ってごらん!』
 ザシュ!
 その一撃が、鋭い音と共にトトリカの胸へと突き刺さった時、左手の紫色の花弁が散り、トトリカは消えていった。
 その顔に、妖しい笑みを浮かべたままで。

「あの……。有難う御座いました」
 トトリカが消え去った後、リコスにつれられた千里が一同の元に現れた。
「ははっ。礼ならこのちっちゃい子にいうんだな。あたしは楽しんだだけだしな」
 シュリアはそう言いながら、アーニャを両腕で持ち上げる。
「ええ……。アーニャさんがいたから……悲劇をここで終わらせることが出来たのです」
 夏雪も、シュリアに同意する。
「いえ……。これは、皆さんのおかげです。私がここまで出来たのは、皆さんがいてくれたから。皆さん、本当に有難うございました」
 頭を下げるアーニャ。その言葉に、少しの間忘れていた笑い声が響いた。
「……ここは、綺麗な場所だな」
 ザアァ……。
 滝を見ながら、カルナが呟く。滝は月の光を反射させ、きらきらと輝いている。
「それに、月がこんなに大きくて明るいなんて。アーニャさんは、月が好きなんですか?」
 鳳琴もその景色を見て、アーニャのグラビティを思い出す。雲がもやのように少しかかっているが、それでもなお、月の光は薄く地上に届いていた。
「はい、大好きです。今日も、この月が護ってくれた、そんな、そんな気がしています」
 その問いに空を見上げながら答えるアーニャ。
 少し風が吹き、色づいた落ち葉が、滝つぼに浮かび上がる。
「紅葉も、もう見ごろを迎えますね……あっ!?」
 彩月が愛用のカメラを忘れていたのを思い出した。それ程必死であったのだろう。
「戦いも楽しめたし、少しほっとしたわ。……もう暫く、この景色を眺めていたいわね」
「いいんじゃねえか? ヘリオライダーの絹に連絡してさ、夜が明けたらちょっと紅葉なんか見て帰ろうぜ」
 フィオレンツィアの言葉に、カルナが提案する。
「それなら……良い場所が沢山あります。私でよければ、案内させてください!」
 何か出来る事を探していた千里が、渡りに船とばかりにその提案に乗る。
「決まり、だね」
 蓮華はそう言いながらも、自らに課された敵の事を思い出した。
(「デウスエクスは人の感情や想いを取り込んで、何かしようとしているんだね」)
 蓮華は少し頭を整理しておきたかった事もあり、この提案には乗るつもりであった。
 滝の音と、乾いた落ち葉の音。その自然の豊かさを感じながら、ケルベロス達は安堵し、また笑った。

 こうして、トトリカの脅威は去っていった。しかし、ケルベロス達の戦いは、まだまだ終わることはない。
 そんなことは、ここに居る全員が分かっている。
 だが、それを言葉にするには余りに無粋であり、荘厳な景色と木々の色彩が言葉を詰まらせる。
 この景色、そして人々を護ることが出来た。今は、それだけで良かった。
 ふと、アーニャが口を開く。
「私……皆さんと会えて、よかった」
 一期一会のケルベロス達。いつ命を落とすのかも分からない。だからこそ、その出会い一つ一つが絆となる。
 アーニャの微笑みが、他のケルベロス達に伝わり、表情や仕草でその言葉を肯定し、同意する。
 トトリカの最後の瞬間と同じように、また雲の切れ間から完全に月が姿を現した。ひときわ大きく差し込む月の光が、流れ落ちる滝の姿を明瞭にする。
 その姿はまるで、目の前で起きたケルベロス達の勝利を、滝自らが祝福しているかのようであった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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