「今日のおやつは鯛焼き? ボクあんこきらーい」
テーブルの上にはお皿とおやつ。
ぽいっと皿の上に鯛焼きを投げだすと、子供が冷蔵庫に向かった。
扉をあけてお気に入りのジュ-スを取り出したとき、うしろでガタンと音がする。
「何のおと? ウワーー、タイヤキが襲ってくるー!」
そこには巨大になった鯛焼きが、ガオーっと大きな口を開けてるではありませんか。
子供は逃げ出そうとしますが、そうはいきません。
投げつけたジュースもなんのその、巨大鯛焼きは子供をパクリと……。
「うわー!? って夢か。……よかった~」
ガバリと目を覚ました子供は、汗をかきながらおそるおそる、布団の中を確認した。
おねしょしてないと知って、安心するのだが、ちょっと早かったかもしれない。
『私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ』
「え?」
後ろからかけられた声に子供が振りむくと、そこには彼に鍵を差し込んで来る奇妙な女の子と、倒れるのと入れ替わるように巨大なタイヤキが……。
それが子供の見た最後の光景であったと言う。
●
「子供ゆうのは自由な発想を持っとります。大人になると荒唐無稽な夢で、理屈とかは全く通って無いのですが……」
ユエ・シャンティエがドリームイーターの事件簿と書かれた巻き物を開き、感情を奪う魔女というコーナーを指差した。
そこには様々な感情に対応したドリームイーターの事件が記載されている。
「今回は、『驚き』の感情を子供から奪う魔女のようですね。本人はもう去った後の様ですが、このままだと、奪われた『驚き』を元にして現実化した怪物型ドリームイーターが、事件を起こそうとしてしまいます」
このドリームイーターを倒す事ができれば、『驚き』を奪われてしまった被害者も、目を覚ましてくれるでしょう。
ユエはそう言って、倒す必要を語るとともに、心配そうに窺う者を安心させた。
「敵は一体で、巨大なタイヤキの形をしています。配下などはおらず、被害者の御近所に居るようですね」
ユエはそう言うと、被害者宅周辺の地図を半紙に描き始めた。
筆が止まった時に書かれたソレは、あまり広くないことから、今から向かえば捜索するほどのことは無いようである。
「敵は噛みついてきたり、死んだ魚の様な目で見つめてきますが、基本的にはドリームイーターの能力が外見的に変化したレベルの様です。攻撃力こそ高いですが、単体攻撃のみなので対処その物は難しくないでしょう」
そこまで語った上で、みなが理解するのを待ってから、ユエは付け加えた。
「そういえば、このドリームイーターは、後ろや、四辻などに浮かび、驚かなかった相手を優先して襲う傾向にあるようです」
いずれにせよ放置できませんが、うまくやれば有利に戦えるかもしれませんね。と言って微笑むと、ユエは地図や相手の姿を書いたメモを渡してくれる。
「子供の無邪気な夢を奪って、ドリームイーターを作るなんて許せません。被害者の子供が、再び目を覚ませるように、ドリームイーターを倒して、事件の解決、よろしくお願いしますえ」
ユエはそう言うと、軽く頭をさげてみなの相談を見守るのであった。
参加者 | |
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ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112) |
燈家・陽葉(光響凍て・e02459) |
揚・藍月(青龍・e04638) |
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082) |
青葉・リン(あふれる想いを愛しいあなたへ・e09348) |
アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974) |
青葉・ラン(もふもふツンデレラ・e11570) |
霧島・龍河(発火点・e20735) |
●
「ふむ……。それにしても中々、昔懐かしい趣きのある裏通りだな……」
夜の町並みに、たばこ屋に魚屋などが立ち並び、角には御地蔵さまが見守っている。
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)はどこかで見たような、そんな風景だと呟く。
「おっと、こんな所で悠長なことはしていられないな。この辺り一帯を封鎖したいが、構わないか?」
大首領は仲間の方を振り返りながら確認するが、実のところ人払いの結界は晴れないので、察して欲しいなーと祈っておく。
「では通れない様にしておくですね。しかし、空飛ぶたい焼きですか……」
青葉・リン(あふれる想いを愛しいあなたへ・e09348)は頷くと、周辺の路にテープを張り始める。
だが、その心境は如実にフリフリ尻尾が語っていた。
気になっているフリをしているが、すっごく! 気になっているのだ!
「美味しそうな…、じゃない、食べごたえがありそうな……、じゃない……お腹すいてきましたね。どっちにせよ、ここは早く……ちょっとー聞いてるのですかー!」
「(空飛ぶたい焼き…、おいしそうね…、何人前かしら? でも、空飛んでるしこの寒さだし、冷めてそうよね……)」
リンはお腹がぐーっとしてきたので、妹の青葉・ラン(もふもふツンデレラ・e11570)に声を掛ける。
だがやっぱり姉妹だ。可愛い妹はナニカ(当然タイ焼き)に夢中で、ちっとも聞いて無かった。
「このままでは子供がかわいそうです。なんとしても助けないとなのです!」
「ゴメ……。鯛焼きなんか欠片も残さず倒しちゃわないとね。子供の無邪気な夢を奪うなんて許せないわね……絶対助けてあげなきゃよね!」
耳元で声を荒げると、流石に御姉ちゃんの声に妹も反応する。
鯛焼きなんか要らないんだから! と主張して、話を聞いて居なかった事実は誤魔化しておく。
なお尻尾は、極上なまでにパタパタ振っていたそうな。
そんなこんなで店屋を確認しながら歩くと、後ろにナニカ見え……。
「大判焼きに……たい焼き……。ほう……こんなところにも豪勢なたい焼き屋の看板が――…動いた!? 鯛焼き屋の君に聞くのだが最近の看板は動くのか?」
「いやいや。あれが本命だろ? しっかし……一応鯛焼き屋……ってか、茶屋の店長なんだけどなァ……」
大首領が驚く演技をしながら(本気で驚いているのだが)尋ねると、霧島・龍河(発火点・e20735)は苦笑しながら応えた。
もう、いろいろと有り過ぎて、ツッコミが追いつかない。
「……にしても流石に鯛焼きが巨大化して空泳いでるとか、現実だろうと逃避してェわ……。てかさ、だからもうなんでその図体で背後取ってくンだよ!?」
もはやツッコミ所があり過ぎて、唖然とするしかナイワー!?
「恨みか!! 日頃鉄板で地獄のように焼かれ続けてる事に対する恨みかァ!?」
龍河は……驚かずに済むンだろーか。とか思いつつ、蹴り飛ばす為に身構える。
●
「タイ焼きか……確か良い歌があった気がするね」
戦いに赴く者とは思えぬ泰然さで、揚・藍月(青龍・e04638)は微笑んだ。
扇子でもあれば、仰いで居そうな雰囲気である。
『ま、ま、ま……』
「そうそう。毎日毎日とか始まるんだったな。まあ、そんなに闘い続けるつもりはないがね」
藍月はパチリと指を鳴らし、周囲を爆発させる。
それは仲間達の動きを僅かながらに覆い隠し、鼓舞する力を秘めている。
彼が引き付けたこの時を逃さず、ケルベロス達は一斉に攻撃を仕掛けた。
「キャア!」
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)は一瞬だけ片目を見開いた。
キシャー!
どかどかと乱舞というしかない程、重い蹴りを連続で叩き込んで行く。
蹴り跡が膨れ上がって元通りになっているようには見えるが、強烈なダメージだったのは間違いない。
「これはもう、タイヤキじゃなくて、タイヤキの色をした魚ですね。なんで目玉だけ生っポイのかしら」
ラーナは一息つくと、もとのやんわりとした表情を浮かべる。
落ち付いた様子の彼女に(元から演技の気もするが)続いて、仲間達も一気に攻撃を始める。
「……なんで巨大化してる上に浮いてるの!?」
燈家・陽葉(光響凍て・e02459)は仲間と入れ替わるように、一足飛びに飛び込んだ。
稲妻の様な踏み込みでザクリと抉って、ターンを掛ける。
「ていうか本当、なんでもかんでもドリームイーター化させるよね、魔女たち……。少しぐらい内容を選べばいいのに……」
「反応度の差でしか判断がつかないのではないか?」
陽葉の疑問に藍月は軽く答えながら、相手の反撃に割って入る。
見た目はファンジーだがデウスエクスには違いあるまい、重たい衝撃が手足にしびれを残した。
とはいえ敵の姿には驚くと言うよりは呆れるばかり、でドリームイーターは条件反射しているのではないかと疑いたくもなろう。
「まずは驚いて見せなくてはな。まさか!? 空を浮かぶタイヤキなんてー!?」
アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)はせっかく仲間が囮をしてくれているので、ワザワザ驚いて見せる。
多少わざとらしい気もするのだが、敵は正体不明のドリームイーター。
騙せているのか、あるいは驚かせことで多少なりとも力を得ているのか、まった見分けがつかない。
「ふふふ、夢があってよい話だが子どもが健やかに目覚められるように、速やかに倒すとしようか。……さぁ、勝負と行こう、飛ぶタイヤキ君っ」
アンゼリカはふっと息に乗せて石化の魔力を発動させる。
柔らかなはずの鯛焼きが、僅かながらに凝固し始めたのは気のせいだろうか?
●
「ふふん♪ 大きなたい焼きがどうしたのですか? ただ大きいだけではないですか!」
ここで反対側から、挟み込むようにして包囲網が作り上げられる。
リンは月の加護を祈り、仲間達を包み込むように結界を拡げて行く。
「さぁ、さっさと終わらせたいので来るといいのですよ! タマも、Goなのです」
リンの指示で翼猫のタマも羽ばたき始めた。
もふもふ、もふもふ!
姉の意気込みは仲間達、特にかわいい妹には指一本触れさせない勢いである。
「もう定番で気にしないで言い気もするけど……まあいいわ。たい焼きが飛んでる!? 毎日毎日鉄板の上で焼かれて嫌になってしまったのかしら!?」
ランは最初どうしようかと思った物の、御姉ちゃんがじーっと見てるので溜息つくと言い訳の様に驚いて見せた。
何と言うか過保護で恥ずかしい……気がする。さきだって、閉鎖するのに手取り足取りくっついて回ったのである。
「だったら、こんがり温めなおしてやるわよ! ……と、思ったけど、元のコンディションに戻さない方が良いわよね、凍り漬けにしてあげるわ」
ランは炎を波居てくれるドラちゃんのカードを忘れて来たので、仕方無く氷の騎兵団を召喚。
賢明な読者にはおわかりであろうが、当然ながら思い直したという言い訳を付けて攻撃させる。
槍騎兵が飛び去った後に歯、尻尾をたらしてシューンとするランが見られたそうな。
「フハハハハ……我が名は、世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領!! 何、きゅあっきゅあきゅあきゅあー? ふむ」
「そうだな。しかし紅龍の言いたいことが、良く判ったな」
いえ、判りません。
大首領はそう言いたい気持ちを抑えて、知ったかぶりを返す癖を後悔した。
彼としては声が聞こえたので取り合えず頷いただけであり、藍月が言うように箱竜の言いたいことなんて判る筈が無い。
だが、ここに至って、いえ無理ですから! なんて言える訳ないではないか。
「さっきあの娘が……。お、驚かせおって! た、たい焼き風情が、我が威光の礎にしてくれようか」
いたたまれなくなった大首領は、ランの言葉を流用しつつ、ツッコミが入る前に攻撃に移った。
鉄槌を変形させて砲門に替えると、轟音で誤魔化そうとしたのである。
だが、まさかそれが正解であろうとは!
「確かにあの娘や紅龍が言うように、タイヤキは温かい方が良いな。こんがりと焼いてやるとするか!」
箱竜の紅龍は藍月のやる気に火を付け、摩擦で炎すら帯びる蹴りを放たせた!
こうして本人の知らない所で、さすがの大首領こと、さす首領の伝説が始まるのである(?)。
●
「さんざん驚かせてくれたんだァ。腹の中身でも驚かせてくれるんだろーなァ?」
龍河は周囲の様子を窺いながら、愛用のロッドを握りしめ雷撃を放った。
先ほど放った蹴りは当たったが、今度は残念ながら外してしまう。
「っちィ、あともう二・三発蹴りを叩き込むかねェ。本命はその後だな」
回避されてしまったものの、おおよその能力が読めるようになった。
避けられるのを覚悟して地味に足を止めて行くか、仲間と共同すれば普通に当てられるようになるだろう。
その時に備えて、技の組み立てを測り始める。
そしてロッドは刀を担ぐ様に構え直し、再び蹴りを浴びせる為に様子を窺うのであった。
『凍てつけ!』
陽葉はサイドステップで滑るように斬り込み、反回転で遠心力を利用する。
蒼い閃光が走ったかと思うと、極寒の刃が斬り割いた。
「あ、何か零れた……。餡子以外の何かって何なのだろう……餡子の方がおいしいのに……あ、僕は頭から食べる派かな」
「私はこし餡が好みですね。今なら芋餡とかでもいいですが……まあ今は、置いておきましょう、少し我慢してくださいね」
陽葉やラーナ達は共に苦笑を浮かべつつも、気を引き締め直す。
気が抜ける相手とはいえ、本当にを抜くわけにもいくまい。
雷鳴の結界を張ると同時に、代謝を活性化させて前衛陣の治療を始める。
「あんこだけじゃなく、チョコが入っているタイヤキというのもあったね。っと、ではいくか」
「しかし餡子は良い物だ。中が違うと言うのが残念でならないな」
アンゼリカは不敵に笑うと、みんなエンジン掛って来たなと手元の時間を凝固させた。
彼女が凍った刻を投げつけるのに合わせ、藍月は籠手の霊威を強大化させながら射線を塞ぎに入るが、残念ながら反撃は別方向であった。
「っと、させないのですよーよー……。あ、あんなことやそんなことはまだ早いのですよ! めーなのです」
「何の話よって見えないけどトラウマかな。誰かキュアお願い! 居ないならタマ~」
リンが鉄拳を振るいながら、仲間に向けられたタイヤキの視線に割って入るのだが……、ランの手を取って心配し始めた。
どうやら家族に捨てられてしまう光景(多分、けっ結婚ね)でも見たのだろう。
「これはもうオシオキが必要ね『我を守護する賢狼よ、 仇なす者に裁きを与えよ!』あーもう、お姉ちゃったら恥ずかしいな、もう」
ランは銀狼を召喚して退魔の咆哮を浴びせる。
恥ずかしいが、姉離れを寂しがる姿は、ちょっぴり嬉しい気がしないでもない。
こうして攻防が続いて行くと、目に見えてタイヤキの動きが鈍って来る。
ならばとケルベロス達は猛攻を掛け始めた。
「そろそろよかろう『全て我が掌の上だ!』さあ、締めにかかるぞ!」
大首領は空に歪で巨大な腕を具現化させると、タイヤキを握り潰しにかかった!
するりと掌から逃げようとしたので、拳を握り込んでブン殴る。
「んじゃァ、終わらせ……んにゃ料理に掛るとしますかねェ!『さぁ、お前の腹の中も手の内も、綺麗さっぱり晒してやるよ』 後は任せた」
ここで龍河はロッドを水平に構え、稲妻を迸らせた。
パリリと雷光が奔れば、白刃ならぬ打撃面が刀の様に鋭利さを帯び始める。
そっしてタイヤキを抉ることで、トロリとアンコならぬ暗黒が零れ始めたのであった。
『八卦炉招来!急急如律令!行くぞ紅龍!今こそ俺達の力を見せる時だ!』
藍月は八つの板型の符を呼び起こすと、タイヤキを中心に結界を築き始めた。
当然ながらこれは敵を守るものではない、上空より紅龍が神火と呼ばれる炎弾を数十発打ちこみ……味方にすら被害が及びかね兼ねないほどの超高温にて焼き尽くす秘儀である。
結界によって行き場を失った神火は、塔のように豪火を上げて爆散していく。
「そういえば聞いた事がある。宝……いや他人の奥義だ、余計なことを言うまい」
「ふーん。楽ができたわけだし、別にトドメさせなくとも良いんだけどね。でも、タイヤキかあ……」
大首領が知ったかぶりを注視した所で、ランは符から手を離してタイヤキの名残りを眺めた。
素直じゃない誰かさんの気持ちを知ってか知らずか、戦い終えた所で仲間から声が掛る。
「実は俺はタイ焼きって食べたことはないんだよ、美味しいのがあるのであれば食べてみたい所だ」
「甘くておいしいたい焼きを食べに行きたいです! でもこの時間じゃ無理ですかねえ。なんだったらうちで……」
「おう、それなら俺が今回の子供用に色々用意してるぜ。足りなきゃ遊びに行くのもいいかもなァ」
藍月が思い出したように呟くと、カフェを営むリンと、茶屋を経営する龍河が応じる。
「タイヤキ―……あの子は、喜ぶだろうかね? クリームに抹茶もあるのか」
「せっかくだし食べ比べに幾つか寄ってみても良いかもね」
被害者の子供と、脳裏に浮かぶ別の人物。
そんな事を思いながらアンゼリカが今食べる用とは別にお土産を提案すると、陽葉は全部の店に寄ろうと欲張りな提案した。
「まだ夜ですけど、お年寄りの朝は早いので少し待つだけでいいかもしれませんね。やはり焼き立てが一番です」
ラーナはそんな事を言いながら、最後に弔いの言葉を呟いたのである。
「還るべき心は帰るべきところに、あなたは夢に戻りなさい」
かくして夢は夢に戻り、事件はまさに泡沫の夢と消えた。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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