孤毒ニ狂エシ復讐ノ花

作者:朱乃天

 長野県飯田市の南端に位置し、信州の奥座敷とも言われる秘境・遠山郷。
 この地で発生した攻性植物事件の足取りを追って、山が連なる奥地を結城・勇(贋作勇者・e23059)が調査に訪れた。
 木々が鬱蒼と生い茂り、夜空に浮かぶ月明かりだけが朧気に森の中を照らし出す。
「隠れてるならこの辺りが怪しいと思ったが……。一体どこにいるんだ」
 姿を現さない攻性植物に勇は苛立ちながら、警戒して森の奥に踏み込んでいく。
「次の被害者が出る前に、早く居場所を突き止めないといけませんからね」
 調査に同行したリコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)は、攻性植物の犠牲者達を憂いつつ、自らの心に戒めるように言い聞かす。
「この奥に攻性植物が潜んでいるのかな。それなら、次が起きる前に決着を付けたいね」
 これまでの犠牲者が行方不明になった森にこそ、元凶がいるに違いない。ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)はそう確信を抱いて、草木を掻き分け先へと進む。
「ふん……どっちにしても早く戦いたいものだ」
 外套に身を包んだペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)が、目深に被ったフードの奥から目を光らせる。
「あ、待って下さい。……あれって、もしかして?」
 ミゼット・ラグテイル(夕鈴・e13284)が手を伸ばして仲間達を止める。彼女が視線を送った方角に注目してみれば、一人の男性が覚束ない足取りで前を行くのに気が付いた。
 ケルベロス達が息を殺して男性の様子を伺うと、茂みの奥から白磁色の肌を露わにした女性が姿を見せる。
 全身には蔓草を巻き付けて、髪には薄紫のトリカブトの花が妖しく咲き誇る。アレこそが、おそらく一連の事件の元凶たる攻性植物であろう。
「人を憎しみ、世間を疎むか……。ならばお前に力を分け与えよう」
 男性の身体にトリカブトの花が絡みつく。このままでは男性も攻性植物の餌食となってしまう。ならばここで選択するべきは――危機に瀕した男性を救出することだ。

「目を覚まして下さい……!」
 ミゼットが大きく声を張り上げる。すると男性は彼女の叫び声に反応し、意識を取り戻してケルベロス達の方を振り返る。
「早くこの場から逃げて! 後は私達に任せて下さい!」
 リコリスが呼び掛けると男性は攻性植物の存在に気が付いて、声にならない悲鳴を上げて尻込みしながら急いで去っていく。
「……何だお前達は。私の仲間になりに来た……というわけではなさそうだな」
 攻性植物がケルベロス達の方を見て、呟くように口から毒色の息を吐き出した。
「僕達が代わって相手をするよ。ここから先は通さない」
 ウェインが拳に力を篭めて攻性植物の前に立ちはだかった。攻性植物の女性は無表情のまま、番犬達を一瞥すると蔓の鞭を撓らせる。
 ――攻性植物の瞳に宿るは怨讐の紫焔。狂おしい孤毒の香を漂わせ、この地に留まらせる妄念が、新たな獲物を束縛しようと牙を剥く。
 両者睨み合いながら、決戦の火蓋が間もなく切られようとする――。


参加者
空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)
柊・乙女(黄泉路・e03350)
ミゼット・ラグテイル(夕鈴・e13284)
除・神月(猛拳・e16846)
ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)
結城・勇(贋作勇者・e23059)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)

■リプレイ

●再会
 全国各地で発生した寄生型攻性植物による事件。
 その足取りを追って調査を行っていたケルベロス達の目の前に、事件の元凶たる首謀者がついに姿を現した。
 白磁色の肌を露わにした黒髪の女性。頭には薄紫色に咲くトリカブトの花。人間と植物が融合した異形の存在を見て、除・神月(猛拳・e16846)の目の色が変わる。
「……んな所で何してんだヨ、なんて感傷に浸る趣味はねーんでナ。トリカブトを見た時に予想はしてたゼ、あたしの勘はあたるんダ」
 神月は攻性植物に取り込まれた女性に見覚えがあった。かつて共に強さを求めて競い合った仲である姉弟子に、容姿が酷似していたからだ。
 しかしだからといって感慨に耽る訳でもなく。あくまで平静を装う神月の言葉を受けて、攻性植物の女性が口を開いた。
「お前は私のことを……この人間のことを知っているのか? ならば丁度良い。お前も我々の『仲間』に加えてやろう」 
 女性に寄生し一体化した攻性植物『モンクスフード』が、新たな獲物を逃すまいと蔓草を伸ばして襲い掛かってくる。だが神月を遮るようにして、柊・乙女(黄泉路・e03350)が前に出る。
「デウスエクスというだけで許し難いが……その上根腐れしているとはな」
 身体に纏わりつこうとする蔓草の群れを払い除け、乙女は御業の力を用いてすぐさま反撃に移る。
「人を憎み世を呪い、あろう事か他人の心にまで根を張り腐らせる……。醜悪極まりないその性根、ここで断ち切ってやる」
 乙女の足元から這い出てくるのは、亡骸を寄せ集めたような集合体だ。呪いを篭めた力は渦巻く炎に変幻し、放たれた業火が攻性植物の蔓を燃やして灼き切った。
 攻性植物が起こした一連の事件は何が目的か、誰の指示で動いていたのか。気になることは多いが、今言えるのは一つだけ。
「通りたければ――」
 Sagittarius――ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)の口から電子音声が発せられ、戦場を駆けると眩い銀光が彼の身を包む。
「――僕たちを越えてみせなよ」
 疾走し、紫電を帯びた突きを放った瞬間。ウェインの全身は、蒼銀の装甲を纏った機械人間の姿になっていた。
「もう誰も死なせやしねぇぞ。てめぇを地獄送りにして全部終いだ、くたばれ雑草風情」
 空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)が粗暴な口調で言葉を吐き捨てる。その台詞の裏にあるのは、これまで犠牲となった人々への憐情と、そうした犠牲者を生んできた攻性植物への怒りであった。
 満願は魂喰らう降魔の力を、身に纏った桜木の攻性植物へと宿し。トリカブトの攻性植物に喰らいかかると血飛沫を撒き散らし、薄紅の花弁は桜吹雪の様に華麗に闇夜を舞い踊る。
「クク……男とお楽しみのところだったようだが、お前たちのような輩のお楽しみを邪魔してやるのが楽しくてな」
 全身を外套で覆い包んだ小柄な少女、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)が目深に被ったフードの奥から目を光らせる。視線の先にいるのは、探し求めた討つべき元凶だ。
 ペルは身軽な動きで木々を足場にして跳ね回り、加速し重力を宿した蹴りを炸裂させると、口元を微かに吊り上げ愉悦した。
「新たな被害が出る前に捕捉できたことは良かったのですが……それにしても、どのように呼び寄せたのでしょう」
 リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)は次の犠牲者となり得る人物を察知して、他の仲間との合同調査で被害を食い止められたことに安堵した。しかし一連の事件の切欠は何なのか、その情報は未だ掴み切れていない。
「素直に教えてくれる……なんてわけはありませんよね」
 どうせまともに語るとは思えない。リコリスは諦観して呟きながら、それなら力尽くでもと。腕に咲かせた曼珠沙華に命を下して、鮮やかな緋色の花が薄紫の毒の花へと絡みつく。
「ゲリラ戦はよくある作戦だし、仲間を増やすってのも理解はできるが……。やっぱ許容はできねぇな」
 いくら種族の為だろうとはいえ、一般人が犠牲になるのを結城・勇(贋作勇者・e23059)は見過ごせない。
 攻性植物に取り込まれた人間を救えなかった。敵の非道な行為に怒りが込み上げてきて、勇が眼光鋭く睨み付けると、溜めた怒りをぶつけるように攻性植物の肩が大きく爆ぜた。
「物言う草。お前らには意思が、意図があるのか。仲間を、憎しみを集めて、何を企む?」
 ミゼット・ラグテイル(夕鈴・e13284)が、低く静かな声で攻性植物へ問いかける。だがモンクスフードは何も答えない。ミゼットもまたそれ以上は深く語らず、紙兵を展開させて敵の攻撃に備えるのだった。

●再戦
「復讐なんて辛気臭ぇのは嫌いでナ。あたしはあたしの楽しみ方を貫かせて貰うゼ」 
 例え相手が誰であろうと、喧嘩好きの血が滾るのを止められない。神月にとって見知った顔だろうと、戦うべきは攻性植物だと割り切って。
 闘争心の赴くままに、素早くモンクスフードの懐に潜り込み。繰り出す蹴りは刃の如く鋭い斬れ味で、風を鳴らして攻性植物の脇腹を裂く。
 次々に身体を傷付けられるモンクスフードだが、無表情のまま動じることなく平然と佇んでいる。傷口からは毒々しい色の血が流れ、それが形を成して人を喰らう花へと変化する。
「怨嗟を種に寄生する攻性植物、か。ならば私は呪術医として、この身と御業を以って仲間を護る盾となろう」 
 乙女は御業を召喚すると自分の身に纏わせて、全身を鎧う装甲とする。直後、モンクスフードの血から生まれた人喰い花が、禍々しい毒の唾液を滴らせ、乙女を飲み込もうと迫り来る。
「オールドローズ、柊先生を守り抜け」
 ミゼットが指示を出すのを分かっていたように、黒衣のビハインドが先んじて動き、乙女の前に割って入って人喰い花の捕食を阻む。
 そこへ横合いから満願が飛びかかり、鋼の龍を纏い銀の翼を広げて滑走し、超鋼鉄の拳で殴打する。
「てめぇはなんであの子を狙った? 何に付け入ってあんな真似晒しやがった、答えろ!」
 満願の脳裏に浮かぶのは、攻性植物の犠牲となった少女の顔だった。命を救えなかったことへの後悔と、命を弄ぶ攻性植物への怒りが混ざり合い。険しい形相で問いかける。
 しかしモンクスフードは一言も答えない。口から漏れるのは、攻撃を受けた衝撃から込み上げてくる血反吐のみだった。
「ここで終わりにしよう『魔女の花』――『鋼鉄殲機』は君の『復讐』を否定する」
 抑揚のない言葉で淡々と語るウェイン。表情を変えることなく感情すらも表さず。しかし攻性植物を見据えるその瞳には、怒りの炎が静かに揺らめいていた。
 ウェインは燻る思いを拳に溜めて。敵愾心を露わにするように、激しく回転させた拳撃をモンクスフード目掛けて捻じ込んだ。
 ペルは常に敵の挙動を意識しながら位置を取り、注意を引き付けようと闘気を派手に噴き上がらせる。
「どうだ。少しは嫌な顔してくれれば、やった甲斐もあったというものだぞ?」
 だがモンクスフードの表情は一向に変わらない。感情までも支配されたかのように、冷たい視線をペルに投げかける。
「……ふん、顔には出ないタイプか。面白くもない奴だ。そんなに寒いなら、温めてやらんこともないぞ……死ぬほどな」
 全く反応を示さないモンクスフードに、ペルは不満そうに一瞥しつつ。闘気を掌に集めて竜の幻影を造り出し、炎の息吹を浴びせて灼熱の幕で包み込む。
「骨を晒して空を眺めるモノ共よ。喚け、笑え、叫べ――」
 リコリスが魔力を念じて呼び集めているのは、森に散乱している廃棄物達だ。人の傲慢さを嘆きながらもそれを力に変換し、組み込まれた廃棄物群は異形の大砲に変貌していった。
「想いを散らせ――世界をお前の声で揺るがせよ」
 リコリスの胸に燃え盛る地獄を砲身に注ぎ込み、放たれた魔力の奔流は、一筋の光芒となって攻性植物を撃ち貫いた。
「こういうトコで何もしてやれねぇんじゃ、勇者を名乗る資格なんてないからな」
 更に息をもつかせぬ攻撃で、勇が二本のゾディアックソードを操り攻め立てる。重力を帯びた剣を振るえば大地が揺れて、振動が衝撃を伝えて攻性植物を捻じ伏せる。
 番犬達の攻撃を重ねて受け続け、モンクスフードの消耗度が徐々に増していく。その瞳は虚ろで無機質で、しかし澱んだ紫色の奥には昏い炎が灯っているようだ。
「全く……目障りな犬共が。お前達は、こいつで消し飛ぶといい」
 頭上の花に月明かりが降り注いで光を放ち、掌を翳すと紫焔がうねりを上げて膨張し、激しく燃える怨讐の炎がミゼットを狙う。
「ミレイにぁ、罷り間違っても怪我なんざさせねぇ!」
 頭で思考するより本能的に身体が動いたか。満願が咄嗟に飛び込み身体を張って、ミゼットを抱きかかえるように庇って紫焔の焦熱を耐え凌ぐ。
「兄様……!? 早く治療を……!」
 ミゼットが呪文を紡ぐと、両手が黒い糸で覆われて。満願の傷口を縫うように、糸が咒紋を編んで蜘蛛の巣状の魔法陣を描き、治癒の力を施した。
「世を呪う者が手にするべき力は、お前じゃない。呪詛に溺れた先に待つものを教えてやるよ」
 入れ替わるように乙女がミゼットの前に立ちはだかって。正対する攻性植物を凝視しながら、御業の力を解放させる。
「沈め――お前はただのひとりきり、無念のままに死んでいけ」
 乙女の全身に浮かぶ百足の痣が、彼女自身を蝕んで。それを糧に蠢く亡骸の群れが、地の底へ引き摺り込もうと攻性植物を掴んで離さない。
 足を絡め取られて動きが鈍るモンクスフード。その隙を逃すまいと、ペルがすかさず追い討ちをかける。
「白き魔力よ、破壊と引き合わす引力を宿せ」
 拳に宿した白き魔力が、モンクスフードを吸い込むように引き寄せる。重力を増幅させて敵を抑え付け、そのまま拳を捻じ込んで。威力に押されてモンクスフードの身体がグラリとよろめいた。

●再見
 地獄の番犬と攻性植物の死闘は、熾烈を極めた。妄念を束ねた蔓の鞭で締め付けられて、死に至らしめる復讐の毒に侵食されようと。ケルベロス達は怯むことなく戦い続け、次第に攻性植物を追い詰めていく。
「さあ、懺悔の時間だ。君が犠牲にした人間に、それを聞かせに行く時だ」
 Overcharge――餞代わりに呟くウェインの鋼の肉体に、空から星々の光が降り注ぐ。制御していた全ての力を解除して、大地を蹴って高速移動を開始する。
 射手座のエンブレムをあしらえた銃を構えれば。青白い十字架が虚空に浮かび上がって、標的たるモンクスフードを枠に捉えて。
「この一瞬に、永遠の輝きを――」
 全身に銀の粒子を纏って、限界を突破し駆け抜ける。ウェインの身体は遍く星の煌めきとなり、流星群の如き飛び蹴りが、絶え間なくモンクスフードに打ち付けられる。
「てめぇはもうお終いだ。こいつで喰い潰してやる」
 満願が構えた右腕に、漆黒の炎が噴煙を上げて燃え滾る。炎は龍の籠手に纏わり獣の頭部を象って。猛るように地獄の顎門が大きく開き、業罪を貪るように攻性植物に喰らい付く。
「復讐に人嫌い、厭世家……。次に求めようとしたのは、栄光でしょうか」
 思い付くままトリカブトの花言葉を羅列しながら、リコリスが哀れむようにモンクスフードをじっと見る。
 この攻性植物は何を求めて仲間を集めていたのか、その動機は分からないままだ。ならばせめてひと思いにと、高々と掲げた聖なる斧を真一文字に振り下ろす。
「……本当に忌々しい連中め。一体どれだけ……私の邪魔をするというのだ!」
「何をそこまで憎んでいるのか知らないが、全て私が受け止めてやるよ」
 妖艶なる毒の花から放たれる、荒れ狂う憎悪の炎が例えその身を灼き焦がそうと。乙女は苦しむ素振りを微塵も見せず不敵に笑んで、揺るがぬ意思で痛みを堪えて踏み止まった。
「そろそろ終わってもらう。刈り取ってやるとしようか、命ごとな」
 ペルが喜々とした様子で命刈る刃を振り回し、斬りつけた傷口から流れる血を啜って生命力を奪い取っていく。
 敵の挙動、息遣い、刻まれた傷の量から判断しても、相手に余力は殆ど残っていない。立っているのもやっとの攻性植物に、止めを刺そうと勇が剣を握り締めた時。
「……なんか因縁があるのか知らねぇが、あんたの一発で終わらせてやんな」
 そう言って神月の脇を走り抜け、伸ばされた蔓の触手を断って道を切り拓く。
 勇の言葉に神月は黙って頷いて、右の拳で左の掌をパシンと叩き、自らを奮い立たせる。そして大きく息を吸い込んで、風を靡かせ全速力で突撃し――全身全霊を注いだ右の拳で、誇りを乗せた渾身の一撃を叩き込む。
「今度こそあたしの勝ちだナ……もウ、次はねーゾ」
 極限を超えた威力の拳撃が、攻性植物の野望を打ち砕く。
 直撃を受けたモンクスフードに抗う力はもはやない。糸が切れたように身体が崩れ落ち、儚く憂う瞳で神月の顔を見つめて、静かに瞼を閉じていく。

 ――私は、ただ、帰る場所を、取り戻したかった……。

 命尽きた骸は灰となり、風に吹かれて闇夜の中へ、跡形残らず舞い散った――。

「これでひとまずは決着が付いたようですね。ですが……この事件の一連の発生源、気にはなりますね」
 リコリスは共に戦い抜いた仲間達を労いながら、同様に起きた攻性植物事件の原因を思案する。件の攻性植物が消滅したのなら、他の手掛かりを当たって調査するべきか。
 静寂を取り戻した戦場で、乙女は木に凭れながら煙草に火を点け、紫煙を燻らせていた。身体の中に染み入る味わいが、戦いの疲れを癒してくれる。
 立ち上る煙は夜空に向かって伸びてゆき、見上げた先には月が煌々と輝いていた。
 ミゼットは金色の瞳に映る月を眺めて、倒した女性の冥福を祈る。あの女性も攻性植物に囚われた哀れな犠牲者だ。だから、その魂が迷わぬように。
 祈りを捧げる少女の頭に、満願が不意に手を添え優しく撫でる。きっと少しは浮かばれただろう、と。 
「……そういえば、あの文字ぁどーいう意味なんだ?」
 ふと、火傷を治した時に使われた力の中で、不思議な文字が見えたことを思い出し。問いを投げかけてはみるものの。ミゼットは軽く微笑んだまま、内緒と答えるだけだった。
 ――神月がこの戦いに臨んだ決意。宿敵たる攻性植物を倒し終え、それを果たした胸中たるや如何なるものか。その想いは、彼女だけにしか分からない。
 しかしただ一つだけ――その手に残る熱い感覚を、離さないよう拳を強く握り締め。暫く心の中で噛み締めていた。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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