「本当にいるのかな……ヨジババってのは」
神社の境内にある茂みに身を潜める少年は小声で独り言を呟いた。手にはカメラを起動させたスマホをしっかりと持って。
「大体、4時までに帰宅しない子供をさらうって、部活やってたら無理じゃん。中学生は子供にならないってか? どうせ近所のばーさんが怒鳴ったりするだけだろ」
ぶつぶつと呟きながら周囲をよく観察する。手にしたスマホの時刻は15時47分。
「……いたら写真撮ってやるぜ」
すると、少年は背後から何者かに心臓を穿たれ、土の上に倒れてしまった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
大きな鍵を持った黒いローブの女性――魔女・アウゲイアスが一人ごちる。
その傍らには、古びた着物を着た老婆が立っていた。
「不思議な物事に強い『興味』をもって、自ら調査を行っていた方がドリームイーターに襲われる事件は皆さんもご存知でしょう」
祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
蒼梧が見た予知では、1人の少年が神社の境内の茂みに隠れ、伝承にある『ヨジババ』の正体を突き止めようとしていたようだ。
「『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪った『興味』を元にして現実化した老婆が事件を起こそうとしているようです」
被害が出る前に老婆ドリームイーターを撃破して欲しいと続ける。
「この老婆を倒す事ができれば、『興味』を奪われた少年は目を覚ますでしょう」
時刻は16時前。まだ明るく、神社の境内もそこまで広くはないが、動き回るのに問題はない。
「この老婆は、昔話に出てくる山姥のようなボサボサの白髪に古びた着物を着てまして、心臓部分がモザイクになっておりますので、一般のご老体と見間違える事はないでしょう」
更に、自分が何者であるか聞いてくるという。問われて正しく対応できなければ襲ってくる。
つまり『おばあさん』『ヨジババ』等の答えであれば襲われない。しかし、『妖怪』『山姥』等と答えると襲ってくるそうだ。
「この特性を使って、戦闘を有利に運ぶようにできるかもしれません」
続いて老婆ドリームイーターが使うグラビティの説明が続けられる。
妖怪じみた姿に見合って、状態異常の攻撃が厄介だから注意して欲しいと続けた。
「伝承の真実を知りたい、そういった好奇心が民俗学の発展へと繋がるのではないでしょうか。しかし、それを奪って化け物を生み出すなどあっていい筈がありません。どうか、ドリームイーターの撃破をお願い致します」
参加者 | |
---|---|
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031) |
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686) |
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737) |
箱島・キサラ(チェイサー・e15354) |
鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900) |
舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956) |
スノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453) |
アリサ・ロードレット(オラトリオの鎧装騎兵・e25161) |
●ヨジババの仲間?
「ヨジババ、か……昔、そんな話を聞いたことがあるような気もするんだよ。私の時には鏡の中から出てくるとか、そんな話だったと思うんだよ」
アリサ・ロードレット(オラトリオの鎧装騎兵・e25161)が聞いた事のある話を思い出す。
「少し調べてみましたけれど、3時ババアも存在するようですわ。他にもいそうですわね」
「『紫ババア』とかなら聞いたことアリマス。名前だけデスガ」
その言葉に、箱島・キサラ(チェイサー・e15354)が口を挟むと、スノードロップ・シングージ(堕天使はパンクに歌う・e23453)が似ている名前を思い出した。
「ふむ。怪談ってなんであんなにバリエーション豊かなんだろうか」
解釈とか印象で変わってしまうのか、とセルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)が少し考え込む。
今回は、『4時までに帰宅しない子供をさらうヨジババ』という怪談を調査している少年が『興味』を奪われた。その『ヨジババ』に関して、アリサが聞いた事がある話やキサラが調べて見つけた話、スノードロップが知っている名前、近いようだが微妙に違う。
「そうですね。私はこのお話を聞くのは初めてですが、いろいろな伝承もあるようですし地域によっては混ざってしまうのかもしれませんね」
穏やかに十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が微笑んだ。
「……どうやら結構広い神社のようですし、鳥居と本殿は離れているようですね」
片目を閉じてアイズフォンで神社の情報を確認していたソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)が仲間達に声をかける。
「こちらは準備完了しましたよ」
キープアウトテープを手に持った舞阪・瑠奈(サキュバスのウィッチドクター・e17956)が鳥居の前から仲間達に報告した。
一足先に神社へと向かった瑠奈は、万が一に備えて一般人が神社に入り込まないようにしていたのである。
「ありがとうございます。では、少年を助けるためにも、犠牲者を出さないためにもさっさと撃破してしまいましょう」
鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)が微笑み、すぐに表情を引き締めて神社の奥――本殿を見据えた。
鳥居近くの茂みを確認すると、少年が倒れている足元が見える。
「やはり……ここなら大丈夫そうですね」
茂みを通りかかったソラネが呟いた。
「こんな寒のに外で寝てると風邪ひいちゃうノデ、ぱぱっとやっつけた方がいいとオモイマスネー」
茂みを覗き込んだスノードロップが、ぐっと拳を握って気合を入れる。
「では、なるべくこちらへ来ないように誘導しながら戦いましょう」
瑠奈が提案すると、皆がその言葉に同意して、本殿へ向かって歩き出した。
●お前は……
ケルベロス達は本殿の中央、賽銭箱の前をゆっくりと歩く老婆を見つける。
ボサボサの白髪に古びた着物。白髪の間から見える額がモザイクになっているので間違いない。
本殿の近くまで行ったら手分けして探そうという事になっていたのだが、拍子抜けしてしまう程簡単に見つかった。
――こつ、こつ、こつ。
老婆の姿に、泉がエアシューズを3回慣らす。
「どうしたんですの?」
その動作に気付いてキサラが首を傾げた。
「魔法をかけているのです。内容は秘密ですけれどね?」
キサラの問い掛けに穏やかに微笑んだ泉は、すぐに顔を引き締める。
魔法の内容が気になったキサラであったが、まずはドリームイーターに意識を集中する事にした。
人の気配に気付いた老婆はケルベロス達にゆっくり近付いてくる。
『わしは誰かのう?』
老婆がしわがれた声で訊ねた。まるで痴呆の老人のよう。
(「おばあさんと山姥、どんな違いがあるのでしょう?」)
老婆の姿を見ながら泉の頭に疑問が浮かんだ。しかし、ここで『山姥』と答えてしまえば自分が狙われる側に入ってしまう。
「おばあさん?」
作戦通りそう答えた。
「どうしたんですか、おばあさん」
「自分の事も分からないのか、このヨジババは」
潮流が老婆を気遣うように口を開くと、セルリアンが呆れたように溜め息混じりに口を開く。
「アナタが噂のヨジババデスネ!」
「その姿、噂通りですわね。ヨジババさん」
スノードロップがビシっと指差し、キサラが何かに確信を持ったような顔で言い切った。
「貴女の名前は『ヨシババ』さんです」
瑠奈が痴呆の老人に言い聞かせるように真っ直ぐ老婆を見る。
「ミス・ババーンなんだよ!」
「確かに老婆と見間違えそうですが、そのモザイクが妖怪の証明です」
アリサが何となく思い浮かんだ妙な名前を高らかに宣言すると、ソラネが真面目な顔で静かに答えた。
『ババーンなどという名前ではない!』
●16時になったらお前が帰れ!
急に鬼のような形相になった老婆は、アリサへモザイクを飛ばす。
「……っ」
咄嗟に身構えたアリサをモザイクが包んだ。
アリサの瞳が時折何かに怯えるような色を滲ませる。体を包んだモザイクが精神を侵食しているようだ。
「輝ケ、華刃剥命!」
スノードロップの声が響くと、アリサの横を走り抜けながらルーンを発動させて光り輝く呪力と共に老婆に思い切り斧を振り下ろす。
『グア!』
鬼の形相が苦しげに歪んだ。本当に山姥のようである。
「妖怪は状態異常を多く使ってくるようですね……紙兵を使って対策しましょう!」
ソラネが自分に敵意を向けさせる為に挑発しながら、さっと前衛に紙兵をばら撒く。
「ありがとなんだよっ」
紙兵散布によって傷を癒されるも、精神を蝕む悪夢までは取り払われず、アリサは礼を言いつつ何度か頭を振って悪夢を取り払おうとしていた。
「備えあれば憂いなしー、ってね」
あまり表情を変えずにぶっきらぼうな口調と共に、セルリアンが攻性植物に黄金の果実を宿させ、後衛の仲間達を聖なる光で包む。
「動きを制限しましょう」
潮流が半透明の御業で老婆を鷲掴みにした。
「いきますよっ」
御業に捕まれ苦しげに呻く老婆の体を、泉が惨殺ナイフで大きく切り裂き、その返り血を浴びる。
「大丈夫です。しっかりして下さい。すぐに治します」
医者である瑠奈は患者を励ますように、苦しげなアリサにジョブレスオーラを使った。傷を癒しながらメディックである効果で精神を蝕む悪夢を完全に取り去る。
「……あ、ありがとなんだよ。頭の中がはっきりしたんだよ」
すっきりした顔のアリサが瑠奈に笑いかけると、瑠奈は満足げに微笑み返す。
「守る、私が絶対に守る……!」
キッと表情を引き締めたアリサは、お伽噺の英雄譚を思い浮かべた。その幻想の力を借り受けて、まだ耐性のついていない中衛のセルリアンに不浄を消し去る見えざる盾を与えた。アリサのサーヴァントであるウィングキャットのニャーゴ大佐は、老婆にキャットリングを飛ばす。
「動きを封じさせてもらいますわよっ」
助走をつけてスターゲイザーを放ったキサラは、老婆に重力の錘をつけた。
『ぐ……お前達……』
次々と攻撃された老婆が憎々しげにケルベロス達を睨みつける。
「怒りに任せていては、当たる攻撃も当たりませんよ、妖怪さん?」
ソラネが攻撃を誘うように挑発。今度は自分を狙わせてアリサの負担を軽くする為に。
『妖怪ではない!! そんな考えは四次元に閉じ込めてしまえ!』
見事にその挑発に乗った老婆は、ソラネにモザイクを飛ばしてきた。
モザイクに包まれ、どうやら体を動かす命令を出す脳の一部を占領されてしまったソラネが手を握ったり開いたりしながら動きを確認する。
「……このくらい、なんでもありませんよ――!!」
ソラネは思い切り咆哮を上げ――ようとしたが声が上手く出せない。しかし、先ほどばら撒いた自分についている紙兵がソラネを蝕むモザイクを払った。
「死ト希望ヲ象徴する我が花ヨ。その名に刻マレシ呪詛を解放セヨ! スノードロップの花言葉、アタシはアナタノシヲノゾミマス!」
スノードロップが、己と同じ名を持つ花の花言葉に込められた死の呪詛を解放する。死の呪詛は真っ白な花弁となり、漆黒の羽と共に老婆に降り注いだ。
『ガ、ァア!!』
白い花弁と漆黒の羽を浴びせられた老婆は絶叫する。
「泉」
セルリアンが泉に目配せすると泉が無言で頷いた。
「Code:傷跡」
「十夜さんの魔法で16時の魔法を解いて差し上げます」
セルリアンが魔弾を放ち、老婆にできた傷口を深く、重く悪化させる。そこへ、タイミングを合わせた泉が無駄を省いた最小限の動きで、より速く、より重く、より正確にセルリアンのつけた傷口を抉り貫いた。
『ギャアアアアアアアアアア!!!!』
老婆が断末魔の叫びを響き渡る。絶叫と共に額のモザイクが広がり、全身がモザイクになった老婆はパァッと冷たい風にさらされ霧散した。
●何事も行き過ぎないように
老婆ドリームイーターが消えると、ケルベロス達は鳥居の方へと足早に向かう。少年の様子を見るために。
少年は上体を起こし、どうして自分はこんな所で寝ていたのかと難しい顔をしていた。
「目が覚めたようですね。体は大丈夫ですか?」
瑠奈が優しく声をかける。
「……誰?」
少年は見ず知らずの瑠奈とその周りにいるケルベロス達を見ながら眉を顰めた。
「私達はケルベロスです」
まずは少年の警戒心を解く為にソラネが名乗り、状況を丁寧に説明する。
「『好奇心は猫も殺す』ということわざがある。『過剰な好奇心は身を滅ぼす』という意味だ」
「そうなんだよ。だから、危険なうわさには近づかないのが一番なんだよ」
セルリアンがぼそっと口を開くと、アリサもピッと人差し指を立てて少年に注意した。
「でも、やめろと言われても簡単に抑えられるものではありませんわよね? 興味を持つ事は悪い事ではありませんもの」
2人の言葉にしゅんとしてしまった少年に、キサラが柔らかく微笑む。好奇心が強い方だという自覚のあるキサラには少年の気持ちがよく分かるし、その気持ちを大切にしてあげたかった。
「えぇ……興味を持ち、行動するのは大切です。が、何事も行き過ぎは良くないのです」
「そう、行き過ぎない、自分の安全を確保できる範囲で何か探してみるのもいいかもしれません」
潮流が優しく諭すと、泉が道を示す。
「…………。うん、分かったよ。助けてくれてありがとう」
ケルベロス達の言葉を考え込んでいた少年は、自分の中で答えが出せたようで、ケルベロス達に笑顔を向けた。
作者:麻香水娜 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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