似顔絵を描く女

作者:荒雲ニンザ

 遠くから潮の香りのする街。
 横浜マリンタワーの展望台より更に上、塔の頂上に立ついかにも女性的な美しいシルエットが、観覧車の光を見つめている。
 その元に、2つの影。
 ピンと弾いたカードが、赤と橙の光に輪を描く。
「あなた達に使命を与えます。この町に、似顔絵描きという、顔の特徴を捉えて描くことを生業としている人間が居るようです。その人間と接触し、仕事内容を確認、可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
 それを受け、2つの影は身を低くする。
「了解しました、ミス・バタフライ。一見、意味の無いこの事件も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう」
 その意味深な言葉と影は、風と共に消えた。

 言之葉・万寿(高齢ヘリオライダー・en0207)が、天姫・夕輝(紫水桃華・e22445)を横に説明を始める。
「夕輝様の調査で、螺旋忍軍のミス・バタフライの動きをつかんだようでございますぞ」
 この事件は、先を見越した話となる。
 ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、直接的には大した事は無いのだが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないという、厄介な事件だ。
「今回の事件は、似顔絵描きという、珍しい職業をしている一般人の所に現れ、その仕事の情報を得たり、或いは、習得した後に殺そうとする事件になります」
 この事件を阻止しないと、まるで、風が吹けば桶屋が儲かるかのように、ケルベロスに不利な状況が発生してしまう可能性が高いのだ。
 勿論、それがなくても、デウスエクスに殺される一般人を見逃すことは出来ない。
「皆様には、この一般人の保護と、ミス・バタフライ配下の螺旋忍軍の撃破をお願いしたいのです」

 詳細はこうだ。
 基本は、狙われる一般人を警護し、現れた螺旋忍軍と戦う事になる。
 だが、ターゲットを事前に避難させた場合、敵が別の対象に切り替えてしまう恐れが非常に高いため、その作戦をとる事ができない。
「その問題となる対象の人物ですが、似顔絵マリー様、42歳。山下公園を中心に活動、デパート等でも活躍の場を広げておられる方です」
 この依頼では、事件の3日程前から、対象の一般人に接触する事ができる。事情を話すなどして仕事を教えてもらうことができれば、螺旋忍軍の狙いを自分達に変えさせることができるかもしれない。
「自分達が囮になるためには、見習い程度の力量が必要でございます。かなり頑張って修行し、その技を教えてもらって下さい」
 修行内容は『顔の特徴をつかむ』と、『人物の雰囲気を捉える』の2つ。
「ただ『がんばる』だけではなく、『何をどうがんばるのか』明確なビジョンがあれば、修行もしやすいでしょう」
「根気よく頑張って下さいね」

 敵は2体。
 武器は螺旋手裏剣を使用し、螺旋忍者と同じグラビティを使用する。
 人通りの多い山下公園できちんと修行をこなしていれば、敵はケルベロス達の修行を気にしているはずだ。
 囮となることに成功した場合は、螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始める事が可能となるだろう。
 戦闘場所は横浜の山下公園にある、氷川丸のオープンデッキ。
 夕方5時以降になれば、氷川丸の営業は終了となり、人がいなくなる。4時30分以降から入館は終了となるので、この時間でうまく調節をつけてほしい。
 船内はAデッキからDデッキまであり、Dデッキまで下りれば、オープンデッキで何かあっても音は聞こえないだろう。
 場所が観光地なので、被害が広がらぬようにうまく陽動し、船上で闘ってもらいたい。
「あと、螺旋忍軍を片付けたら、船のヒールも忘れないようにお願いしますね」
 夕輝の台詞に万寿も頷く。
「おお、そうですな。文化財は大切に! デウスエクスは海の藻屑に!」
 ニコニコ穏やかな二人が言うと何やら物騒な感じはするが、しっかりがんばってほしい。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
滝・仁志(みそら・e11759)
プルミエ・ミセルコルディア(フォーマットバグ・e18010)
トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)
天姫・夕輝(紫水桃華・e22445)
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)

■リプレイ

●狙われたマリー
 山下公園。
 ちょっと先にいい角度の氷川丸が見える好位置。似顔絵描きのマリーはいつもそこに店を構えていた。
 そこにケルベロス8名が訪れる。
「8名様? そんなにいっぺんに描けるかしら」
 ニカッと大きく歯を出して笑う元気なおばちゃんに、天姫・夕輝(紫水桃華・e22445)が会釈し、身分を証明する。
 そして、唐突ですが、と付け加え、マリーが螺旋忍軍に狙われている旨を伝えると、当然本人は目を丸くして驚いた。
「何で私が狙われるのかしらねえ?」
 アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)が熱く続く。
「螺旋忍軍は生かしておけない、倒さなくちゃいけない。やつ等のせいで犠牲になる人が出るなんて我慢ならないんだ」
 真剣な表情。失いたくないという思いは、夕輝もアバンも本当だ。
 そこで玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が、今回の任務で必要なことを伝え始める。
「似顔絵描きとして弟子入りしたい。だが期日が三日しかない。それらしく見えるだけの技術を取得できれば、俺たちの誰かがマリーの身代わりになれるかもしれない」
「ヤダそんな。殺される身代わりだなんて!」
 ちょっと話が飛躍した。まいったな、といった表情で、陣内が頭を搔く。
「仕事上の名目もあるが……『絵を描く』ことに真面目に向き合いたくて。若い時は他の人の言葉を素直に受け入れられなかった。襟を正して臨みたい」
 マリーは『ふぅん?』と首をひねる。
 彼女は似顔絵描きだ。人の筋肉を読み、それを描写する。その道のプロ。陣内の素振りから何かを察したようだ。
「貴方も、似顔絵、描いてみたいの?」
 背後に立っていた滝・仁志(みそら・e11759)とトライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)に視線が投げられる。
 突然のことに、『え』と間を置き。
「……個人的な動機でアレなんですが、たくさんの人の笑顔を描けるようになりたくて」
 仁志に続き、トライリゥトも。
「俺、小さい頃、婆さんに描いてもらった似顔絵を今でも大事にしてるんだ。今度は俺も描けるようになって、誰かを笑顔にしたくてな」
 それからマリーは夕輝に視線を戻す。隠すつもりはなかったが、こうも早く話が進むとは思っていなかったので、彼は少し俯きながら口を開いた。
「かつて病院で同室だった友人達の顔を、描きたいですの。長期療養の身でしたので……」
「みんなとってもいい理由。ところで、こちらの3名は、どうしたいのかしら?」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)を横に、左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)が軽く手を前に出す。
「俺たちは他にやる事があるんで、弟子入り志願はしねぇよ」
 残る一人はプルミエ・ミセルコルディア(フォーマットバグ・e18010)。表情を変えることがない電波娘が相手では、さすがのマリーでも顔を読むことができなかったようだ。
「私は、今回の使命とか関係なく、召喚獣の似顔絵を描きたいんです。待ってる子達が居るので」
 召喚獣? とマリーが首を傾げる。
「説明するより早い気がするので、ここで召喚してみたいのは山々ですが、どこで螺旋忍軍が見ているか分かりませんので、本番まで保留します」
 ハリネズミとか猫とか狼とか巨大な蟹が召喚獣らしいのだが、はたしてそれを描くことが似顔絵の分野に入るかどうかは怪しい。まあ、プルミエ的には、『顔』を似せて描けば、似顔絵に該当するのだろう。
「子ども達にグッズがほしいと言われまして」
 変わった子だが、マリーとしては、動機として十分だった。
「ウフフ、何だ、仕事で仕方なく絵を描くのに弟子入りしたいのかと思っちゃったけど、そうじゃないのね。だったら、見込みあるわよ。みんなね!」
 プルミエが言う。
「絵心ないんですよね、私」
「大丈夫! そのために私がいるんでしょ!」
 命を狙われている、たった三日の師匠が、胸を叩いた。

●人を読む
 いつもマリーがいる場所に、妙な団体ができた。
 ケルベロスの仲間達同士で輪を作り、互いの表情を探っていく。
 ベンチに座りながらその光景を見て、弟子入りしない二人が言った。
「似顔絵の技術とか、何に使うんだろうな?」
 純粋な疑問と言うより、面倒臭さを感じている十郎の台詞に、鬼人も頷く。
「相変わらず、回りくどい事してるよな。螺旋忍者ってよ」
 それから鬼人はマリーに引っ張られ、モデルとして輪の中央に立たされてしまった。
 一斉に視線を向けられ、うへえ、といった顔で硬くなる鬼人に、仁志が苦笑い。
 それとなく趣味や最近の楽しい出来事を聞いてやり、自然に笑顔を引き出そうと試みた。
 陣内もまた、その話を聞きながら、ちょっとした表情の変化を観察し、見たままだけじゃない、『その人らしい』と思える表情を探している。
「へえ、陣内さん、技術的にしっかりしたもの持ってるのねえ」
 マリーの台詞に、少々照れて会釈をした。
 美大出身。画力はある。だが若い時のまま、キャンバスの絵は止まっている。
「似顔絵はねえ、知り合いとか友達とか、好きな人とか親しい人を描くのが、一番雰囲気つかめるのよ。これは『お金』がかかってない絵だから、デコレーションしないで、心のまま筆を動かしてね」
 そこでふと見失っていたことを思い出し、陣内が顔を上げた。
 アバンが鬼人の特徴を掴めるように、様々な角度から観察している姿があまりに真剣で、モデル本人は帽子で根深く隠してしまいたい。しかもその表情が、そのままスケッチされているのを見て、マリーが微笑んだ。
 仁志が潮風にぼんやりしていると、カポが足下でぺしと彼を叩く。それを見た夕輝が『あらあら、まあまあ』と笑った。
「潮風もいいものですわよ」
「レプリカントとして生活し始めて数年、恥ずかしながら今回初めて似顔絵描きって職を知ったんだけど、似顔絵で人を笑顔にできるってすごいな」
「出来た似顔絵で、笑顔に出来るのなら。とても、とても素晴らしいことですの」
 トライリゥトがその話に乗る。
「昔俺が描かれて嬉しかったのは、俺らしい特徴を描いてくれたからだ。顔はただの体の一部じゃねぇ。……魂を、心を……描くから絵が輝くってやつかな」
「マリー様は、何故、似顔絵を?」
 夕輝の問いに、マリーは少し考える。
「人の顔、大げさに描くのって、楽しいわよ!」
 ほら! と、プルミエが描いている、ファンシーにデフォルメされた鬼人に大喜び。
「……デフォルメって、チャレンジすると画伯になり易いですからね」
「いいのよー、似顔絵だものー、それでえ-!」
「子ども向けっぽいより、ファンシーな似顔絵にしたいんですが」
 まあ、現時点では、完全に画伯だ。
 その日はそれで日も暮れたが、それから毎日、彼らは山下公園で人の顔をデッサンした。
 個人練習も含め、朝から晩まで人の顔と、『その人なり』を見つめ続けた。

●事件当日
 鬼人と十郎が現地の下準備に入る。
 まず、氷川丸の関係者に身分を明かし、17時以降は船内に誰もいない様にしてもらう。
 その後、スタッフの制服を借り、Dデッキに下りる。時間間隔を少しでも麻痺させられれば儲け物と、BGMでスロージャズを少し大きめでかけた。
 それからキープアウトテープを用意し、敵が引っかかるまで待つ。
 仲間が戦闘を開始するまで部屋の近くで隠れて待機。
 一方、囮チーム。
 現在の時間は16時45分。すでに16時30分から入館は終了となっており、新しく観光客が船に来ることはない状態だ。
 あと15分で営業終了。
 マリーはDデッキで隠れ、ケルベロスと共に待機している。
 囮チーム一同がDデッキで作業していると、二人組の男が声をかけてきた。
 こんなギリギリの時間に怪しい二人組の男、十中八九螺旋忍軍だろう。
 広くはないDデッキだけやたらと人がおり、向こうも面食らったようだ。
「何か催しでもあるんですか?」
「ああ、明日、デッキで似顔絵を描くイベントがあって、そこに出店するんだ。その打ち合わせと準備で……」
 陣内が仕掛けると、敵はまんまとノってきた。
「おお、いいですね。私達、絵画をやっているのですが、似顔絵は経験したことがなくて。明日のイベントに行けば、技術指導もなさるのですか?」
「いや、明日はお客さんを描くだけなんだ。よければ、今教えてやるぜ?」
「ええ! 本当に!?」
 トライリゥトの申し出に、敵はしめしめと思っているだろう。
 分担開始だ。仁志が言う。
「ああ、でも時間がないからな……そちらの恰幅の良い方、イベントの準備をちょっとだけ手伝ってもらえませんか? 複数会場があって、この荷物をオープンデッキに運ぶだけなんですが」
 画材道具と、飾りの横に、大量の似顔絵の束をみつけ、それを頂戴できたらラッキーと考えた敵は快く頷いた。
「俺が個人の練習場所に使っているDデッキで、似顔絵の技術を教えるぜ」
「ってわけであなたはこちら側に」
 プルミエに指示され、片方がトライリゥトとDデッキに残ることとなった。
 時は17時を告げる。
 待機していた鬼人と十郎が目配せをし、一般人が誰も船内にいないことを確認してから、入口と出口にキープアウトテープをはった。
 用意は完璧だ。
 オープンデッキに荷物を運んできた敵が、階段の最後を上り終えた後、バンと背後で甲板のドアが閉まる。
「……ん?」
 前を歩いていた夕輝がゆっくり振り返り、険しい顔つきに転じると、武器を構えた。
「覚悟なさいませ。ここが、あなた様の散る場所ですわ!」
 敵はそこで初めて罠だったと悟ると、分断され、7名に囲まれた自らを悟って声を荒げる。
「ケルベロス!!!」
 変装を解いたクラウンが牙を剥いたが、Dデッキの片割れにその声は届かなかった。
 得意のコンビネーションが封じられてはいたが、大人しくやられるデウスエクスではない。
 シュリケンスコールが雨の如くケルベロス達に降り注ぐ。

●船上の戦い
 一方、Dデッキでロープを引き留めているのはトライリゥトだ。
「会話を重ね、性格を把握することが技術習得の鍵だな」
 そんな長話にも敵は全く気づいてない様子で、任務に忠実に働いている。
 あれから大分時間が経過した。そろそろ誘き出した1体を倒していてもいい頃なのに、仲間達からの連絡はない。
 トライリゥトはさすがにおかしいなと思い始め、何かあったのかと胸中穏やかではない。
 話の最中、何気ない雰囲気を取り繕い、携帯を取り出して確認すると……圏外!
 そうであった。こんな分厚い装甲の、よりにもよって船の最も奥、一番下! 外からの電波が携帯電話に届くはずがない。
「みなさん遅いですね。上で何かやっていらっしゃるのでしょうか……」
 敵ですら疑問に思い始めた。これはマズイ。
「行ってみるか」
 トライリゥトは賭に出た。ここDデッキには闘うスペースがない。それ以前、マリーが隠れているのだ。何かあれば大変だ。
 ならばいっそ、このまま敵をオープンデッキまで運んでしまおう。
 階段をBデッキまで上がってくると、振動が伝わってきた。まだ闘っている。
「何だ……?」
 敵が足を止めた。
 頼む、もう少し……と願うトライリゥトの冷や汗が背筋を伝った時だ、目の前の壁が破壊され、オープンデッキが開けた。
 客室になだれ込むクラウンを目にし、ロープが罠だと気がついた。
「おのれ、たばかったな!!」
 ロープは分身の術をクラウン目がけて放ち、床を蹴って態勢を整える。
「まだ連絡してないぞ!」
「電波入んねんだーよ、あそこ!」
 トライリゥトの悲痛な叫びに、十郎がしまったと目をつむる。
 螺旋忍軍への憎しみのあまり、衝動に身を任せたら何をするか分からないと案じたアバンは、セーブしながら闘っていた自分に若干後悔している。
「くっそ……!」
 こうなれば、一気に行くしかない。
 ジャマーへと移動後、青白く輝く光として集約し、ソウルレイ・ジェネレードを敵に叩きこむ。
 敵がそちらに意識をとられた隙に、陣内は荒地に潜む雪豹の如く気配を消し、死角から急所を狙う。目の前にゴーストスケッチで描かれた自らの似顔絵が舞い込み、それを彼の猫が猫ひっかきで破ると、敵は裂かれた顔を押さえた。
「我ながらよく描けたと思ったんだがな。破られた」
 鬼人が気怠く笑い、敵の中心を刺突でぶち抜いた。
「じゃあ、此奴らの親玉に、此奴らのデスマスクの似顔絵でも届けてやるかな?」
 鬼砕きを真正面から受けたクラウンは絶命し、ロープを残して砂になる。
「おのれぇぇ!!」
 言うや毒手裏剣を放つ敵の攻撃を受け止め、仁志がそのまま至近距離で氷の粒を放つ。
「きれいでしょ、あげるよ』
 氷が描く放物線を前に、カポが主人に応援動画を施す。
 トライリゥトは絶空斬で切り込み、先まで似顔絵を描いていたロープの表情を見てニッと笑う。引きつる敵の頭上から、セイのボクスブレスが放射された。
 夕輝は回復を十郎に任せ、ドラゴニックミラージュで重ねて炎を付与、その燃えさかる隙間から十郎がシャウトを仁志にかけた。
 無表情のままプルミエが静かに手を上げる。
「今宵……あぁ、昼でしたか、のエリーゼは一味違います。なんせ似顔絵の練習台になってて動けずストレスがたまってますから」
 そのまま死を呼ぶ大神獣を召喚し、子供に大人気の巨大なハムスターが船上を走り回ると、ファンシーな見た目に反した武闘派な体当たりでぶっとばされたロープは、マストに激突してから落下、オープンデッキに妙な形の穴を開けて最期を迎えた。

 最後に少々ヒヤリとしたが、大した事もなく終了。
 一同、荒れた重要文化財のヒールにかかる。
 修復作業を猫にまかせたまま、陣内は悠々と煙草を一服。
 大切な人の似顔絵でも描いているのだろう。その表情を思い浮かべながら、口許は無意識に微笑が滲んでいる。
 鬼人がヒールをしながら言った。
「この任務が終わったら、先生に滅多に合えなくなるんだから、最後のレッスンを受けておいたらどうだ? 先生の似顔絵でも書いて、よ」
 それに賛成した数名。Dデッキで怯えているだろうマリーを迎えに行ったら、頼んでみようという話に。
 実を言うと、ここ三日、ずっと無口であった十郎も、絵を描くのは好きだ。だがいかんせん、人にものを教わるのが苦手な性分ときてしまい、色々と素直になれなかったらしい。
 皆がマリーの似顔絵を描くのには、彼も興味がある。ちょっと覗かせてもらおうかな、と考えたりもしたが、口が裂けてもそんなことはもらさない。
「俺が描いた物でも喜んでもらえるかなあ……?」
 アバンの言葉に、自らも心配した仁志が頷くと、トライリゥトが呟いた。
「果たして、俺の絵は誰かを笑顔にできるかね……」
 いや、しないとな。
 誓うように続けた言葉は、そのまま潮風に乗って運ばれた。
 マリーなら、大きく笑って言うだろう。
 その気持ちがあれば大丈夫、と。

作者:荒雲ニンザ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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