至高の使用済みリコーダー

作者:雷紋寺音弥

●少女の縦笛ペロペロ教
 深夜、誰もいない私立の女子小学校の校庭にて、何やら怪しい人影が。片手に懐中電灯を持った彼らの中心にいるのは、全身を羽毛に包んだ鳥頭の怪人だった。
「世の中には様々な楽器があるが、やはり最も素晴らしいのはリコーダーだ。それも、作られたばかりの新品では駄目だ。使い込まれた跡のある、中古品こそが至高なのだ!」
 その中でも、小学生女子の使用していたリコーダーこそ、真に味のある楽器である。どう考えても変態としか思えない主張を叫びながら、ビルシャナは目の前の校舎を指差し、信者達の前で高らかに宣言した。
「今! この校舎には! 生徒も教師も、用務員さえも全くいない! つまり……この校舎の中に眠る宝の山は、全て我らのものにできるということだ!」
 周りに人がいないのを良いことに、堂々の窃盗宣言である。しかも、盗もうとしている対象が対象だけに、二重、三重に性質が悪い。
「うぉぉぉっ! ついに、あの秘密の花園へ、俺達が突入する時がやってきたぁぁぁっ!」
「JSの使ってたリコーダー最高! あぁ……早くペロペロしたいぜぇ……」
 聳え立つ校舎を前に、邪な欲望を全開にして叫ぶ信者達。だが、彼らの他には誰もいない深夜の校庭には、変態どもの暴挙を止める者など一人もいなかった。

●禁断の中古品
「うぅ……だんだん寒くなって来たところで、もっと背中が寒くなりそうな未来を見ちゃいました……」
 その日、ケルベロス達の前に姿を現すなり、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は両手で身体を抱えながら、身を震わせてケルベロス達に語り始めた。
「ミセリア・アンゲルス(オラトリオの自宅警備員・e02700)さんが心配していた通り、小学生の女の子が使っていたリコーダーが最高っていうビルシャナが現れたみたいで……夜の小学校に忍び込んで、リコーダーを盗もうとしているようです」
 案の定、今回ものっけから突っ込みどころ満載な事件だった。というか、どう考えても犯罪の臭いしかしない。変態的な妄想だけでもキモいというのに、加えて窃盗のオマケ付きとは。
「戦いになると、ビルシャナは氷の輪とか、意味不明な経文とか、後は鐘の音なんかで攻撃して来ます。それと、上手に説得できていないと、ビルシャナの配下にされていた人達も、サーヴァントみたいな感じになって、戦いに参加して来ちゃいます」
 ねむの話では、配下にされた変態……もとい、一般人の数は10名程。だが、数に反して戦闘力は極めて低い。諸悪の根源であるビルシャナを倒せば正気に戻るが、その前に信者達を倒してしまうと簡単に死亡してしまう。
「配下の人達の目を覚ますには、ビルシャナの言葉に負けないような説得が必要です。でも……たぶん、理屈じゃ説得できないと思います、今回も……」
 説得の際、重要になるのはインパクト。信者達はビルシャナの影響で頭のネジが吹っ飛んでいるため、一般的な縦笛の使用方や道徳観に訴える説得では効果が薄い。多少、斜め上な内容でも構わないので、彼らの意識を小学生女子の使用済みリコーダーから逸らさせることが重要だ。
「うわぁ……。なんかもう、存在自体が色々と間違ってる気がするよね、その人達。もし、ボクの方へ向かってきたら……これで頭を叩いて気絶させてもいいかなぁ……」
 なにやら、げっそりとやつれた様子で、溜息交じりに立ち上がったのは成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)。そんな彼女の手には、重たい金属性のリコーダーがしっかりと握り締められていた。


参加者
暁・アギト(神霊使い・e01465)
セシル・ソルシオン(修羅秘めし陽光の剣士・e01673)
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
ミセリア・アンゲルス(オラトリオの自宅警備員・e02700)
神籬・聖厳(日下開山・e10402)
秋野・もみじ(せーぎのみかた・e15534)
ヘルメス・メリクリウス(変態執事・e17045)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)

■リプレイ

●変態の集い
 人知れず、深夜の校庭に集う謎の影。一見して、ホラー映画のオープニングのような光景だが、しかし集まっていたのは妖怪ではなくビルシャナに率いられた変態だった。本物の怪談話でないのが幸いだが、しかしこれは別の意味で恐ろしい。
「はぁ……世の中困った変態どももいたもんだ。そんな奴らの説得なぁ……ぜってー正攻法じゃ無理だよな」
 血気盛んな変態窃盗団の姿に、セシル・ソルシオン(修羅秘めし陽光の剣士・e01673)は早くも呆れ顔である。同じ変態でも、白昼堂々とエロ本を読んでいるような連中の方が、まだ健全に思えてしまうのが悲しい限り。
「し、小学生の使用済みって……完璧に犯罪だろ!? 不法侵入までやってやるの!? さ、最近の奴はよくわからん……」
 暁・アギト(神霊使い・e01465)に至っては、目の前の光景が信じられず、既に錯乱の一歩手前だった。シャーマンズゴーストの祓之清姫が『お前も最近の若者だ』と書かれたプレートを持って突っ込んでいたが、しかしそれも目に入っていない模様。
「おや? なんだね、君達は? もしや、我々の作戦を邪魔しようというのではあるまいな?」
 こちらに気づいたビルシャナが、信者達と共に鋭い視線を向けて来た。が、その視界の先に小学生女子と思しき年齢の者が数名ほどいたことで、直ぐに気色悪い笑みを浮かべながら近づいて来た。
「まったく、駄目じゃないか~、こんな遅い時間に小学生が外を出歩いたら~♪」
「もしかして、忘れ物を取りに来たのかい? だったら……お兄さん達が、代わりに取って来てあげようか?」
 どう考えても下心丸出しの顔をして、信者達が一斉にこちらへ迫って来た。しかし、言葉では善意を装っているが、その裏にある下品な妄想をまったく隠し切れておらず、どう見ても指名手配中の幼女誘拐犯にしか見えなかった。
「ホントにこんなビルシャナがでるなんて絶望したかも~」
 自分の懸念したことながら、我ながら酷い存在であると、ミセリア・アンゲルス(オラトリオの自宅警備員・e02700)は遠間から微妙な視線を送っている。だが、そんな彼女とは反対に、秋野・もみじ(せーぎのみかた・e15534)は何ら警戒することなく信者達の方へと近づいて、屈託のない笑顔で彼らに尋ねた。
「ねーねー! なにしてあそぶのっ!?」
「……ふぁっ!? あ、遊ぶ……!?」
 穢れを知らない、純粋無垢な少女の微笑み。これぞ正に、天使降臨! 唐突に現れた天の御使いに、変態信者の脳内妄想はボルテージマックス!
「そ、そうだねぇ……。だったら、僕達のリコーダーを、君に吹いてもらうっていうのはどうかなぁ?」
「そうそう! さ、最初はちょっと苦しいかもしれないけど、少しだけ我慢してくれれば大丈夫でござるよ! でゅふふふ……♪」
 両手をわきわきさせながら、口から涎を垂らし、股間を無駄に強調した姿勢で信者達がもみじへと迫る! だが、当のもみじは状況が飲み込めていないのか、首を傾げて佇んでいるだけだ。
 そんな中、エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)が、近くのファストフード店で買ってきたシェイクを飲みながら颯爽と現れる。一瞬、自分の方へ目が向いたところで、彼女は改めて信者達へ尋ねた。
 そもそも、何故リコーダーでなければいけないのか。鍵盤ハーモニカの方が、洗い難いから良いのではないか。いや、むしろ女子小学生が口にしたものであれば、何でも良いのではないかと問い掛けて。
「これ、のみたいひとー?」
 最後は、高らかに飲み掛けのシェイクを掲げ、信者達を釣ってみた。
「うぉぉぉっ! そいつを俺に寄越せぇぇぇっ!」
「いや、俺様が先だ! そして、シェイクを飲ませてもらった代わりに、俺様の生絞りシェイクを彼女にも飲ませてあげるんだ!」
 それぞれ、好き勝手な言葉を叫びながら、一斉にエルネスタ目掛けて猛突進! 暗闇の中で血走った目が輝き、その様は正に獲物を見つけて襲い掛かる野獣の如し!
「ね、ねぇ……。あれ、なんだかすっごく危ない感じがするんだけど……」
 本能的にヤバ過ぎる何かを察し、成谷・理奈(ウェアライダーの鹵獲術士・en0107)が仲間達に救いを求めるような表情になって言った。他の者達も、さすがにこれは拙いと思ったのか、とりあえず信者達を制止するように立ちはだかり。
「お巡りさんこの人達です……じゃなかった」
 思わず警察を呼びそうになり、自ら訂正を入れるリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)。まあ、こんな変態を前にしたら、その気持ちも解らないわけではない。
「まったく、ビルシャナに唆されているとは言え、JSのリコーダーを盗もうとは、度し難い奴らよ。しかし、元は一般人。JS以外の女の良さを説いて犯行を思い止まらせるか」
「ふむ、そういうことならば……理奈たんや。作戦にどうしても必要なお願いがあるのじゃが……。理奈たんの体操服を貸してくれんかのう?」
 神籬・聖厳(日下開山・e10402)の言葉に続け、ドサクサに紛れて危ヘルメス・メリクリウス(変態執事・e17045)が、理奈に危険なお願いをしていた。
 果たして、これは大丈夫なのか。一抹の不安を覚えつつも、ケルベロス達は変態どもの目を覚まさせるため、次なる一手に出ることにした。

●若紫大作戦!
「ボクのたいそうふく、ちいさいのに、なににつかうんだろ?」
「さあ……? なんだか、すっごく不安なんだけど……」
 自分達の体操服を、言われるがままに貸したもみじと理奈。二人の不安を余所に、ヘルメスはドヤ顔で体操服を握っているが……その表情が信者の変態どもと同じ危険さに満ち溢れているのは、果たして本当に偶然なのか。
「ふぉふぉふぉ、JSのリコーダーが至高とな……? 笑止! せっかく小学校に不法侵入するなら、JSの体操服を手に入れ、思う存分匂いを嗅ぐのが紳士というものじゃろう!」
 ああ、やっぱりそんな邪なこと考えていたんですね。なんというか、これはのっけから凄まじく酷い。
「わたしのたいそうふく……あせくさいよ……? な、なんでにおいなんてかいでるの……?」
「う、うわぁぁぁっ! へんったいだぁぁぁっ!!」
 さすがに、これには二人もドン引きだったが、それでもヘルメスは気にしていない。ともすれば、この程度では足りないと、その辺にいた仲間の女子高生へと神速の如き足並みで接近し。
「秘拳・パンツ返し!」
「えっ……!? そ、その布は……」
 なんと、恐るべき早業で彼女の下着を奪い、これ見よがしに信者達へと見せつけた。
「さあ、JSを卒業し、JKの世界に足を踏み入れようではないか!」
 後ろで響く、少女の悲鳴。これでは、どちらが変態なのか解ったものではない。しかも、それを見たビルシャナの信者達まで、何故か怒りを露わにしてヘルメスに突っ込んできた。
「はぁ!? 俺達は、別に臭いフェチじゃねぇっての! 幼い天使と間接ちゅっちゅもできる、リコーダーが欲しいんだよ!」
「それに、最初からJKのパンツ奪うくらいなら、小学生の体操服なんかに萌えてんじゃねーよ!」
 同じ変態でも、見境がないのは却って低俗。そんな、実にどうでもよい理屈をまくし立てながら、勝手に逆ギレし始めた。
「えっと、同じ楽器なら、中学生のアルトリコーダーじゃダメなのかな? それとも、やはりJSなるものでないとダメなのか……」
「あたり前だろ! JKで通用しないからって、JCで妥協しろってのか?」
 アルトリコーダーを持って中学生のふりをしていたリティでさえ、バッサリと切り捨てて叫ぶ信者達。「妥協を許さない俺達ってカッコいいぜ!」なんて思っている辺り、なんというか痛々し過ぎる。
 こうなれば、やはりここは小学生か、それっぽい雰囲気を持ったもので説得するしかない。ランドセルを背負い、小学生らしさを前面に押し出しながら、尺八片手に聖厳が信者達へと近づいて行き。
「うひゃぁっ! な、なにをするでござるか!? 小学生が、そんな悪戯したら駄目でござるよ!」
 いきなり密着された上に、尻まで揉まれた信者の一人が、思わず妙な声を上げて飛び上がった。
「儂は女子小学生ではない、熟女ドワーフじゃ!」
 間髪入れず、上目遣いの目力で真実を告げる聖厳。続けて、プロレス技を仕掛けて相手の顔面に圧し掛かると、意味もなく尺八を吹いてみせ。
「儂はおぬしより強い! 儂に従え!」
 何故か、最期は強引な力押し。ついでに、この尺八もやるから持って行けと、尻の下敷きにした信者の手に握らせた。
「う、うわぁぁぁっ! JSのふりした熟女に殺されるぅぅぅっ!」
 もっとも、当の本人は恐怖でいっぱいだったのか、恐ろしく失礼な台詞を吐き捨てながら、涙を浮かべて校庭から走り去って行ってしまった。
 とりあえず、これで一人は解放されたが、しかし信者はまだ大半が残った状態。もう少し数を減らしておかねば、いざビルシャナと戦いになった際に、無用な犠牲を出し兼ねないわけで。
「ええと、せっかく不法侵入して来たみたいだけど、この学校の笛はあなた達より上級のヘンタイが、なめたりかじったり、あまつさえ笛をあれに見立てて、あんな事やこんな事に使用済みかも~」
 そんな笛でよければ、勝手に探して盗んで舐めろ。それが嫌なら、より上級なエクストリーム変態を目指してみろと、ミセリアが敢えて信者達を煽り立て。
「あ、チャレンジャーさんには先着一名様で、わたしの縦笛でよかったらプレゼントしてもいいかも~」
 そう、ミセリアが付け加えた瞬間、残る信者達の目が一斉に獲物を狙う狼の瞳となって輝いた。
「よっしゃぁぁぁっ! こうなりゃ、もう早い者勝ちだぜ!」
「な~に、抜け駆けしようとしてるでござるか! あのリコーダーは、拙者がいただくでござる!」
 たった一本のリコーダーのために、バトルロワイアルを勃発させる信者達。慌ててビルシャナが止めようとするが、しかし目先のリコーダーという宝物に目がくらんだ彼らは、もう誰の言葉も耳に届かない。
 結局、最後の一人になるまで殴り合いを続け、気が付けば他の信者達は全員が力尽き果て気を失っていた。
「うへへ……。縦笛……縦笛、ペロペロ……」
 勝ち残った最後の一人が、ミセリアに報酬のリコーダーをもらうべく近づいてくる。満身創痍な身体に薄気味悪い笑みを浮かべている様は、まさしく変態ゾンビというに相応しい。
「そんなに好きなら、自分の手元に置いて愛でりゃいいんじゃね? その方が手っ取り早いしなー」
 生き残った最後の一人に、諭すようにして告げるアギト。その言葉を受け、セシルもまた自らの切り札を……禁じられた説得の言葉を紡ぎ出す。
「おい、お前ら。お前らは当然、JSを愛してるからそういう行動に出るんだよな? だったらリコーダー窃盗なんてセコい犯罪してねぇで、JS拉致監禁して自分好みに育てるとか、そんくらいのデカい悪事働けよ!! 真のJS好きならリコーダーなんてセコいもんで満足してねぇで、JS本体に関わるべきだろ!!」
 なんというか、さすがにこれは斜め上過ぎる理論ではあるまいか。というか、説得のために完全なキャラ崩壊を起こしているのだが、言っているセシル本人の精神は大丈夫なのだろうか。
「うっ……! し、しかし、さすがに誘拐までやる勇気は……」
 ほらみろ、やっぱり信者だって引いているじゃないか。だが、ここで諦めてしまっては全てが終わり。どうせやるなら徹底的にと、エルネスタも敢えてセシルの言葉に便乗し。
「わたしたちのこと、ひとりのおんなのことしてみてくれないの? わたしたちもおんなのこなんだから、ちゃんとせっしてくれないとイヤ。ほんとーにすきなら、こそこそしないでよ。このいくじなし!」
 ここで勇気を出せたならば、真正面から抱き締めてやる。そんな彼女の言葉に、最後の信者もさすがに落ちた。
「そ、そうか……! そこまで言うなら……俺の愛、受け止めてくれぇぇぇっ!!」
 欲望全壊で、エルネスタの胸元に飛び込む変態男。それを正面から受けとめるエルネスタだったが……何故か、飛び込んだ男の顔が、だんだんと青くなっている気が。
「ぐぎょべっ!? ちょっ……ぐ、ぐるじ……」
 完全に泡を吹いて、ガックリと倒れる最後の一人。胸元に飛び込んで来た信者のことを、エルネスタはハグすると見せかけて締め落としたのだ。
「な、なんということだ! 私の計画が……幼女のリコーダーで、ハッピーライフ計画が……」
 なんやかんやで手駒を失ったビルシャナが、ここに来てようやく焦りの表情を浮かべていた。
 こうなれば、後はこの鳥頭を倒すのみ。諸悪の根源を滅するべく、ケルベロス達はそれぞれの武器を手に、ビルシャナを一斉に取り囲んだ。

●尻笛エクストリーム!
 深夜の校庭に響き渡る戦いの音。周囲に倒れている信者達を余所に、ケルベロス達とビルシャナは、激しい応酬を繰り広げていた。
「敵戦力確認……データベース照合……火器管制システム、アップデート完了。最新パッチ、配信します」
 リティの飛ばした小型偵察無人機の群れが、仲間の攻撃を補佐するべく展開される。それらの援護を受けて力を溜め、もみじが力強く大地を蹴る。
「くらえー! すーぱーみらくるうるとらはいぱーもみじきっくだー!!」
「ぐほっ! あ、あばらがぁぁぁっ!」
 痛烈な跳び蹴りが炸裂し、ビルシャナは身体をくの字に曲げて悶絶した。全ての信者を失った今、状況はビルシャナにとって不利だった。
「変態にも、見たくない過去ってのはあるもんだよな?」
「ビルシャナよ、この攻撃を受けるが良い!」
 アギトのナイフに映し出された鏡像が具現化し、続けてヘルメスの放ったトラウマボールの直撃を受けて、今度はビルシャナが頭を押さえて苦しみ始めた。なにやら、「へ、変態の群れがぁぁぁっ!」などと叫んでいる辺り、自分のことを棚に上げるなと言ってやりたくもなるのだが。
「変態はそっちだよ! 女の子の笛は、他の人が舐めていいものじゃないから!」
 理奈の放ったファミリアシュートの一撃が、ビルシャナの後頭部に炸裂する。お返しとばかりにビルシャナも氷の輪を飛ばして来るが、しかし前衛に立っている者が多過ぎたために効果が拡散してしまったのか、ケルベロス達に致命傷を与えるには至らなかった。
「へ、へんたいだー! えーんがちょ! 安全ばーりあかーぶせた!」
 どこからか、小学生男子ばりなセリフと共に、ヒールドローンが飛んで来た。これらの補助も相俟って、ビルシャナは更に追い詰められて行き。
「てめぇみたいな変態野郎、速攻地獄送りにしてやんぜ!!」
「えぇい、服なんぞ着ていられるか! たとえ刀が無かろうと……裸体ひとつで最後まで戦ってみせる!」
 セシルの脚がビルシャナの尻を蹴り跳ばし、着衣という名の拘束具を破り捨てた聖厳が、経絡秘孔を貫いた。
「みたまさんおねがい!」
 駄目押しとばかりに、エルネスタが敵の急所を狙い、縛霊手より御霊を載せた針を発射する。放たれた鋭い針は、狙い通りビルシャナの急所……羽毛に覆われた股間の部分に直撃したのだから、堪らない。
「はうぁっ! も、悶絶ぅぅぅっ!」
 両目を見開き、口から涎を垂らしながら、ビルシャナが全身を震わせている。だが、今の攻撃で死ねたならば、その方が幸せだったとも言えるだろう。
「チェーンソーでお尻を切られるのと、お尻に笛をつっこまれるの、どっちがいい~?」
 天使のような満面の笑みを湛えながら、ミセリアがサラッと恐ろしいことを問う。片手にはリコーダー、片手にはチェーンソー剣。その、あまりにミスマッチな光景が、却って下手なホラー映画よりも恐ろしく。
「まあ、あなたの答えは、どうでもいいんだけどね~」
 何故なら、どっちにしろ両方とも試すつもりだから。それだけ言って、ミセリアはビルシャナの尻をチェーンソー剣で斬り付けると、その傷口にリコーダーを捻じ込んだ。
「うぅ……もっと……JSのリコーダーをペロペロしたかった……」
 最後に、それだけ呟いて、ビルシャナが力尽き果て倒れ伏す。断末魔の悲鳴の代わりに、尻に突き刺さった笛から『ぷひ~』という情けない音が響き渡り、諸悪の根源はここに滅びた。

●おまわりさん、こっちです!
 戦いは終わった。しかし、説得によって妙な世界に目覚めやしていないかと、セシルは心配で仕方がなかった。
「あぁ、これでマジでJS誘拐事件とか、こいつらが起こしたらどうしよう」
 そんな彼の不安を悟ったのか、ミセリアは既に警察へ通報済み。ドサクサに紛れ、パンツを奪われた女子高生が、ついでにヘルメスのことまで通報していた気もするが、それはそれ。
「終わったか……え、ちょっと待って!? 清姫!? オレの趣味じゃないから!! ロリコンじゃねぇから!!」
 そんな中、主人を置いて帰ろうとする祓之清姫の姿に、アギトは慌てて後を追った。
「任務の為だし、一般人を正気に返すために言ったことだから!! 全くもってオレの趣味じゃねぇから!!」
 まあ、こういう言葉は否定すればするほど、却って誤解を生んでしまうものだ。変態の討伐された校庭に、彼の悲痛な叫びが響き渡った。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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