●張られた罠
「きゃあああああ!!!」
岩手県某所の昼下がり、山奥にある一軒家の、その側に建っている大きな米蔵に女性の悲鳴が響いた。
その薄暗い米蔵の入口から、女子大生の飯田優子が必死の形相で飛び出してくる。
「やだ、もう……! 蜘蛛の巣に突っ込むなんて最悪……!!」
涙目になりながら、顔や腕を何度も拭う優子。
久しぶりに父の実家を訪れた優子は、子供の頃にこの蔵でよく遊んだのを思い出し、懐かしくなって久々に蔵の中を探検していた。だが、その薄暗さから蔓延っていた蜘蛛の巣に気付かず、大きな蜘蛛の巣に顔から思い切り突っ込んでしまったのだ。
腕を拭っても耳を拭っても、まだどこかに糸が残っている気がする。纏わりつく糸への嫌悪感に戦慄していると、背後から女の笑い声が聞こえた。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
不意に胸を貫いた違和感に声を上げる間もなく、その場に昏倒する優子。 第六の魔女・ステュムパロスは優子を貫いた鍵を引き抜くと、傍らに巨大な女郎蜘蛛を出現させた。身体の文様をモザイク化させた巨大蜘蛛は薄暗い蔵の中へと入っていく。ステュムパロスは満足そうに姿を消し、米蔵には生まれたばかりの怪物がカサカサと這い回る音が響いていた。
●巨大女郎蜘蛛
「蜘蛛の巣に引っかかるのは、最悪っすよね。あの感覚は、一度味わったら忘れらんねっす……」
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は苦い顔をしながら、事件の説明を続ける。
「そんな蜘蛛の巣への嫌悪が利用されて、巨大蜘蛛のドリームイーターが創り出されちまったみたいっすね……」
今回の敵は巨大な女郎蜘蛛の姿をしたドリームイーターで、その全長は2メートルを超える。巨大女郎蜘蛛は米蔵の中に巣を張り巡らせて潜み、迷い込んだ人間を捕らえて襲うつもりのようだ。
「優子さんが襲われた時点での飯田家は留守なので、今すぐ現場に急行すれば、一般人を巻き込まず密かに事件を解決できそうっす」
襲われた優子は蔵の外、入口付近に倒れているが、ドリームイーターを倒せば問題なく目を覚ますだろう。
巨大女郎蜘蛛は蔵の中に幾つも巣を作っており、その巣が密集した場所に獲物を投げ込むことで捕縛を狙ってくる。そうして蜘蛛の巣に捕らえた獲物に噛み付いて、体力を吸収するのだ。
蜘蛛の巣は攻撃を加えることで破壊することができる。巣に捕らえられてしまった者は、その巣を破壊することで救出が可能だ。蔵内の蜘蛛の巣が全て無くなると、敵は攻撃を止めて少しの間巣の再生に集中する。ちなみに、蜘蛛の巣は部屋の隅や壁際に重点的に作っているようだ。
「蔵を壊したりや蜘蛛を外におびき出す作戦は、ちょっとオススメできないっす、何が起こるか解らなくなっちまうんで……」
米蔵は頑丈で簡単には壊せない上、火をつけたり破壊を試みたりすれば、一般市民が異常を察して集まってくるだろう。蔵から蜘蛛を追い出せば、蜘蛛は他所の暗がりか獲物を求めて逃走してしまうかもしれない。そうなれば、自体の収束は困難になってしまうだろう。
「大きな蜘蛛と大きな蜘蛛の巣……気持ち悪いですが、一般人が襲われる前になんとかしなくちゃですね」
羽衣乃・椿(衣改の魔女・e20239)がそう言って表情を引き締める。 ダンテは神妙な顔で頷いて、ケルベロス達に向き直り頭を下げる。
「罠に飛び込めと言っているようで正直申し訳ないっすが……皆さんが協力し合えば絶対に大丈夫っす! 皆さん、よろしくお願いしますね!!」
参加者 | |
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桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855) |
シェナ・ユークリッド(ダンボール箱の中・e01867) |
卯京・若雪(花雪・e01967) |
ミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213) |
神崎・晟(剛毅直諒・e02896) |
葦原・めい(世紀末バニー・e11430) |
羽衣乃・椿(衣改の魔女・e20239) |
死屍・骸(空想的フィロソフィ・e24040) |
●
「うわあ……これは、ごっついな……」
蔵に足を踏み入れ、内部を見渡した桜狩・ナギ(花王花宰の上薬・e00855)が嫌そうに眉をひそめる。
「これはこそこそするのにぴったりのすてきなお蔵です。こんなに蜘蛛の巣がなければなお良いのですけど」
シェナ・ユークリッド(ダンボール箱の中・e01867)も頬に手を当てながら呟く。
蔵の中は本当に蜘蛛糸まみれで、映画でしか見たことのないような蜘蛛の巣屋敷になっていた。むせ返るような糸の量に、呼吸をするだけで糸が口に入ってきそうな気さえする。
「実家の納屋を掃除していると、角に蜘蛛の巣が引っかかることがあるが…」
神崎・晟(剛毅直諒・e02896)は眼前の惨状に粘った感覚を想起してしまい、思わず角を拭う。
一方死屍・骸(空想的フィロソフィ・e24040)は張り巡らされた糸を見渡し、拾った枝で蜘蛛の巣をつつきながら感心した様子をみせていた。
「蜘蛛の巣……確かに感触としては不愉快極まりないけれど、蜘蛛が生成する糸は構造を見てみると素晴らしいの一言だわ。蜘蛛の性質によって糸にも様々な特徴が出てくるのだけど語ってると長くなっちゃう。……ふうん、縦糸はちゃんと粘着しないようになってるのね」
卯京・若雪(花雪・e01967)は持参した光源を掲げながら、蔵中を見回して、脅威となりそうな大きな巣の数を数える。
「ひいふう、み……13ヶ所、といったところでしょうか」
人を捕らえられそうな蜘蛛の巣は、部屋の各隅で8ヶ所、壁際の4ヶ所、天井に1ヶ所で合計13ヶ所生成されていた。
「本当に蜘蛛の巣が至る所に…相手も捕らえてくるでしょうし、気を付けて戦わないといけませんね……」
身を固くして呟いた羽衣乃・椿(衣改の魔女・e20239)の両肩に、彼女の相棒である葦原・めい(世紀末バニー・e11430)が励ますようにぽんと手を載せた。
「大丈夫、あたしがいるよ。大好きな椿ちゃんのためなら、クモぐらい何でもないから!」
笑顔で元気づけてくれるめいの姿に、椿もお礼を言って少し肩の力を抜く。
「女郎蜘蛛かー。蜘蛛の毒には気をつけんとな! ……おっと、お出ましや」
蔵の奥、木棚の裏から細く長い蜘蛛の脚が見え、壁の蜘蛛の巣をゆっくりと這い上がりながら、巨大女郎蜘蛛が全身を露わにした。不気味な姿を目にしながらも、ミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213)は勝ち気にニッと笑う。
「ドリームイーター相手は久しぶりだな…といっても相手はローカストみたいなものだがな。……蔵も丈夫そうだし多少暴れても大丈夫だろう……多分」
ミツキが二丁のドラゴニックハンマーを慣れた手つきで構えた。隣で若雪も刀の柄に手を触れさせ、精神を集中する。
「人の命を絡め取らんとする糸を――そして暗躍を続ける魔女達の目論見を、断つ為に力を尽くしましょう」
●
「本当にモザイクかけたくなっちゃいそうなおっきな蜘蛛さんです」
シェナは微笑みながら淡々と言い、その手から燃え盛る幻影の炎を放つ。
蜘蛛は激しい炎に巻かれながらも、ケルベロス達に向けて飛びかかってきた。
「来るぞ!」
晟が叫び、仲間を庇うために前へ飛び出す。蜘蛛は勢い良く前足を払って前衛陣を吹き飛ばし、中空に投げ出されたラグナルとナギ、晟が手近な蜘蛛の巣へと叩きつけられてしまう。
「ぶわっ! ……あ゛ーっ! こんにゃろ、オレの尻尾の毛並みが乱れたがな!」
ナギは動きを封じられながらも、自慢の尻尾に蜘蛛の糸がベッタリ絡んだのを見て血相を変えて叫んだ。
「何のこれしき……!」
ラグナルはじたじたと暴れて蜘蛛の巣を振り払おうとし、晟は腕に絡んだ糸を力の限りに引き千切ろうと試みる。グラビティが込められた糸は蜘蛛糸に恥じぬ強度を見せつけながらしなやかに伸び縮みし、そう簡単に払えそうになかった。無暗に動けば動くほど、かえって糸が体に絡んでしまう。
「晟っ!」
友の危機にミツキが飛び出し、溶鉄滴るハンマーを振るって晟を絡め取る蜘蛛糸を焼き払った。続いて跳躍しためいが超加速の飛び蹴りを放ち、ナギを拘束する蜘蛛網を蹴り払う。
「あんがとや! さあ反撃いくで!」
開放されたナギは着地するや否や、身体に雷光を纏わせ蜘蛛へと突撃する。蜘蛛が体勢を崩している隙に、昴は2つの巣を焼き払ってラグナルを開放した。
「これで壊せた巣は4つ……13個とは、微妙な数ですね」
若雪は冷静に状況分析しながら、わずかに眉をひそめて言う。全員が蜘蛛の巣壊しに集中しても1ターンで必ず壊しきれるとは言い切れない数で、出撃前の情報からするとそれで採算が合うかは微妙な見通しだった。
「……しかし、当初の采配通りでも3、4分に一回は巣を壊しきれそうですね。作戦通りで参りましょう」
若雪が言い、各員が了解を伝える返答をする。ディフェンダーである晟、めい、ラグナルと、メディックの椿が巣の破壊をメインに、他ポジションのメンバーは蜘蛛への攻撃を主として動くのが作戦の大筋だ。
体勢を立て直した蜘蛛はシェナに素早く蜘蛛糸を飛ばして巻きつけ、天井側へと放り投げた。咄嗟に受け身を取ろうとするも、天井隅の蜘蛛網に全身を貼り付けられてしまう。
「……あらあら。本当に動けませんね、これは大変です」
シェナは四肢の自由が奪われているのを確認しながらも、どこか平然とした様子で言う。
ナギが素早く跳んで指天殺でシェナを捕らえる蜘蛛の巣を払い、シェナの身体を受け止めた。
「ありがとうごさいますナギさん。素敵ですわ、カッコいいです」
「……胆の据わった姉ちゃんやなぁ」
拍手をして喜ぶシェナを、彼女を抱えたまま着地したナギが感心気味に見返した。
「ドリームイーターとはいえ昆虫型だし、炎が効くんじゃねぇか?」
ミツキが業炎球を連射し、直撃した炎が蜘蛛の外殻を激しく焦がす。若雪は煙を上げる蜘蛛へと駆け出し、すれ違いざまに霊力のこもった一太刀を浴びせる。
「そちらばかりに足封じはさせません」
小花の戒を受けた蜘蛛の足には蔓や花が絡み合うように咲いて、蜘蛛の機動力を落とさせた。そこに2本の槍を構えた骸が素早く飛び込んでいく。
「蜘蛛糸でかき乱してくれる前に、さっさと倒しちゃうから」
人形のような可憐な容姿の少女から、破壊力を追求した百烈槍突が蜘蛛の身体へと苛烈に叩きこまれた。
順調に巣の数が減り、蜘蛛へと攻撃が浴びせられていく。対する蜘蛛も負けじと前足攻撃を繰り出した。幾人かの前衛が突き飛ばされ、ナギを庇っためいが壁の巣に叩きこまれてしまう。ミツキは空中で身を捩って蜘蛛の巣を避けようとしたが、服の袖が天井に垂れ下がった蜘蛛の巣に触れてしまった。
「わっ、しま……」
振り子のように身を揺られて、ミツキの全身は天井の蜘蛛の巣に絡め取られてしまう。
「うわ、本当に取れねえ、くっそ……!」
宙づりにされもがくミツキ。シェナは隠し持った槍を振るい、巣を切り払ってミツキを解放した。
「サンキュ、シェナ!」
「どういたしまして、旅は道連れ世は情けです」
同時に地面に降り立ち、笑って言葉を交わしあう。
「めいさん! 今助けますっ!」
「待って! あたしは大丈夫、椿ちゃんは回復と強化支援をお願い!」
壁際に拘束されためいは、キュアをかけようとした椿を制止し、大きく息を吸い込んで……
「ウサァァァ!!!」
魔力を込めた凄まじい咆哮を放った。渾身のハウリングは自らを戒めていた巣を含め、計3つの巣を一気に破壊した。
床に降り立っためいを中心に、椿は黄金の果実のヒールを施す。
若雪は雷神突で蜘蛛の脇を切り抜けながら、蔵全体を見渡す。
「……蜘蛛の巣残り一つ、10時の方向下の隅です!」
若雪が声をかけ、晟がすかさず槍を構えて最後の巣への突撃を仕掛けた。
すべての巣が無くなったことに気がつき、蜘蛛は戦闘態勢を解除して新たな巣を形成し始めた。
「動きを止めたっ! 今がチャンスですっ!」
椿が叫ぶ。一方的に行動できる隙を得て、ケルベロス達が一斉攻撃を仕掛けた。
「そんじゃ、覚悟してもらおうか!」
ミツキがハンマーを蜘蛛の体へと振り落とす。超重の一撃は蜘蛛の外殻を砕き、その表層を凍てつかせた。
「伸びよ鞭よ!纏いし衣をその身に変えて、彼の者へ!」
サポートに徹し続けていた椿の初めての攻撃。椿は「戦衣再縫術」で自身の衣服を背中や鎖骨が露出するまでほどき、鞭へと変化させた。蜘蛛へとふるった鞭は麻痺の力を纏い、敵に体の痺れを蓄積させる。
グラビティの嵐を浴びながらも、すべての巣を再生し終わると、蜘蛛は少しふらつきつつ怯まずに向かってきた。骸に向かって糸を飛ばしたが、骸はこれを間一髪でかわす。
「っと、あぶない。蜘蛛の糸がお洋服に着いたら大変なのだ」
骸はすぐさま体勢を整え、雷撃の槍を構えて敵へと突撃する。電撃に身を震わせる蜘蛛を足場にして身を翻し、床の中心へと降り立った。
椿とラグナルによりBS耐性が行き渡り、巣による危険が減少したケルベロス達に対して、キュアの手段をもたない巨大蜘蛛の動きは徐々に精彩を欠いていく。2度目の巣の再生成は身体の痺れからか完成に時間を要し、巣が元通りになる頃には、蜘蛛はもはや満身創痍だった。
それでもなお蜘蛛は獲物の捕縛を諦めない。蜘蛛は椿に狙いを定め、その体に糸を巻き付けた。
「しまった、椿ちゃん!」
めいがはっとして叫ぶ、椿は放り投げられ、天井隅の蜘蛛糸へと十字に張りつけられてしまう。
「ひうっ!? べとべとするっ! 早く取らないとっ」
蜘蛛糸は大きく露出していた背中と肩に直接貼り付き、粘ついた感覚に椿はびくっと身体を震わせる。
飛んできたラグナルがボクスブレスで椿を捕える巣を焼き払い、椿を蜘蛛の巣から解放した。
「やってくれたわね……!」
めいが精神を集中すると、めいの全身から月光オーラが激しく湧きあがり、彼女のフィルムスーツをビリビリに引き裂いた。
「これが今注目の、スーパーウサギ人ルナだあぁぁっ!!」
額からは角状のオーラが現れ、彼女のウサ耳は巨大な光の翼の姿になる。生成された光翼を敵に向かって思い切り振るい、蜘蛛の胴体が光を散らしながら派手に薙ぎ払われた。
「あと一息です、畳みかけましょう!!」
めいに合わせるように斬撃を放った若雪の一声。ミツキが素早く反応し、その命すら噛み砕こうと、獅子にも劣らぬ力で蜘蛛の腹部を咬み壊す。
はびこる蜘蛛の巣を窮屈そうに見やっていたナギは、急にハッとして骸を振り返る。
「骸! 縦糸はベタベタせえへんて言うとったな!?」
「え? そうだけど……」
にやっと笑ったナギは、ダブルジャンプで空中加速して天井隅の蜘蛛の巣に向かって飛び出す。
「お前のフィールドを使わせてもらうで!」
空中で体の向きを反転させ、しなる蜘蛛の巣の縦糸だけを慎重に踏みしめて、その反動を利用した超急加速で敵へと突っ込んだ。
「ぶち抜け! ガルド流、晴龍透衝!」
突撃の衝撃と同時に周囲に雷閃が迸り、蜘蛛の胴体に深い穴が穿たれた。蜘蛛はギシィ、と苦痛めいた音を立てる。
「凄い! それ、面白そうっ!」
骸は目を輝かせ、槍を棒高跳びのように利用して高く跳躍した。そのまま床の隅と天井隅に張られた蜘蛛の巣を利用して、ピンポールのように跳ねて槍での突撃を繰り出した。
続く衝撃に蜘蛛はふらつき、ケルベロス達を振り払うように前足払いを繰り出す。精彩を欠いた動きにほとんどの前衛がこれをかわしたが、晟は仲間を庇って本日幾度目かの蜘蛛の巣捕縛を食らった。
「あら、晟さん? あらあらあら……?」
「おい!? 別に私はマゾヒストではないぞ!?」
片手で口を覆って笑うシェナの含みある視線に、蜘蛛糸まみれの晟が思わず全力で叫ぶ。
冗談ですよ、とシェナが言い終わるのを待たずに、晟の全身が巨竜と化し始める。ラグナルと自分のグラビティを巨大竜のを外装として纏った晟は、蜘蛛の巣を引き裂き、米蔵を超える身長に蔵をミシミシと言わせながら、戟を装備した尾で幾ばくか小さく見える蜘蛛を叩き払った。成す術なく壁に叩きつけられ仰向けにひっくり返る蜘蛛。若雪が抜刀しながら、一気に距離を詰めた。
「さぁ、悪夢は終わりにしましょう――御覚悟を」
月弧を描いた若雪の刀線が、巨大蜘蛛の頭部を一瞬で切り落とした。巨大女郎蜘蛛はすべての脚を縮こまらせた姿で、そのままピクリとも動かなくなった。
●
「暗くて素敵な蔵の奪還、無事成功ですね! 皆さんお疲れ様です」
シェナは蔵内の探索を楽しみながら、戦闘で壊れた木箱などをヒールして回った。
「無事倒せてよかったが……かなりミシミシ言ってたからな……」
晟は巨大化時の建物の痛みを心配し、ラグナルと共に蔵の壁や柱などを重点的にヒールしていた。
「しっかしすごい量の蜘蛛の糸だなあ……」
遺された蜘蛛の巣を掃除していたミツキが、山のように集まった蜘蛛糸の量に呆れ混じりの感嘆をもらす。同じく蜘蛛の巣掃除をしていたナギが、蜘蛛糸の一部をロッドに巻き付けて興味深げに眺めた。
「こんだけ有ればいろいろできるかな?」
ナギの言葉に、ミツキが頷く。
「蜘蛛の糸は強度が高いらしいから、何かに使えるのかもな」
蔵の外では骸たちが倒れた優子を介抱していた。若雪に支えられ目を覚ました優子に、ホッとした笑顔で語りかける。
「御無事でよかった。災難でしたね……大丈夫ですか?」
目を瞬かせる優子に、若雪が落ち着いて事情を説明する。
「無事目覚めて下さったのは、不幸中の幸いですね。本当に良かった」
お礼を言い、謝る優子を骸が元気づけるように語りかける。
「気にしないで! 蜘蛛の生態や大きな蜘蛛の巣の構造を間近で観察できたり、とても貴重な経験ができたのよ? 蜘蛛の巣をぴょんぴょんと跳ねたりして、すっごく面白い体験だったの!」
瞳をきらめかせ、心から喜んでいる様子の骸の姿に、優子もつられたように笑った。
戦闘前に蔵の外に着替えを置いていためいは、蔵の裏手で椿と共にぼろぼろに裂けた服を着替えていた。
「ひどい目に遭いました……。めいちゃん、大丈夫ですか?」
「もちろん! ……あたしも椿ちゃんも、服ボロボロだね?」
めいはどこか楽しそうに笑う。脱衣魔法で戦う椿一人に恥ずかしい思いはさせまいと、文字通りひと肌脱ぐことが出来たことを、めいは密かに喜んでいた。
「人目につかない所で良かったね。一緒にお風呂入って、さっぱりしよっか♪」
「はいっ!蜘蛛の糸を取ってさっぱり…って、一緒にですか!?」
元気よく返事した椿だったが、一緒の風呂と聞いてかあっと顔を赤らめた。
ヒールと掃除を終えた晟達が蔵から出てきて若雪達に声をかける。薄暗い蔵を抜け出したケルベロス達の眼に、紅葉に染まる山並みが鮮やかに映えて見えていた。
作者:ともしびともる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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