パッチワークハロウィン～いたずら南瓜

■リプレイ

「ライブが終わった直後を狙うなんて、ロッカーの私が許しませんよ！」
　リプレ・レシュノルティア（スウィーツロッカー・e24078）は気合いが入っていた。
　深夜０時の少し前、ケルベロス達はライヴハウスに到着していた。
「頑張りましょうね皆さん！　え？　おキヌちゃん話があるって何？」
　リプレがくるりと振り向けば、親友である艮・鬼怒（無影の凶梟・e13653）が提案する。
「リプにゃん、せっかくライブハウスなんだから、何かアーティストっぽいことしようよ」
　この話にリプレが瞳を輝かせた。

●深夜０時の秘密のギグ
　照明の落ちたライヴハウス内に、響き渡るギターの音色。
　ほぼ同時に点灯するスポットライトが、ステージの中央に佇んでギターをかき鳴らしているリプレを照らし出した。
　鬼怒が照明設備を弄くって、リプレにライトが当たるようにしておいたのだ。
　ステージで光を浴びながらギターを奏でるリプレが、声を上げる。
「最後のギグには間に合ったみたいですね！　いきますよロックンローーール！」
　リプレはケルベロスコートをばさりと脱ぎ捨てた。
　ライヴハウスに光が満ちる。
　全ての照明を点灯して照らし出されたのは、大きな南瓜のお化け。
　ハロウィンボムモドキ。
　大きな南瓜の顔は、笑ったような表情をしており、口はにんまりとつり上がっていた。
　ハロウィンライヴの名残が見られる内装は、レンガの壁紙に人工の蔦や葉が彩り、たくさんのランタンが吊されていた。蜘蛛の巣やコウモリ、顔がくりぬかれた南瓜などもあちこちに飾られて、一寸お化け屋敷のような雰囲気もあった。
　そんなライヴ会場に出現した南瓜お化けの攻性植物は、違和感なく場に溶け込んでいる。
「Trick！ or Trick！」
　しゅるしゅると蔦触手を蠢かせながら、敵はライヴハウスの床と融合していく。
　内装と混じり合い、新たな装飾のように魔法のコウモリを作り出して、ケルベロス達の間を羽ばたかせた。ばさばさと飛び交うコウモリがケルベロス達に襲いかかった。
「成程。ハロウィンだから、南瓜。わかりやすいね」
　ウェイン・デッカード（鋼鉄殲機・e22756）の青い瞳が敵の姿を映した。
　ウェインは抑揚無く淡々と呟く。
　こういう時にはこういうのが人間のルールだと、ウェインは学んだのだ。
「――トリック・オア・トリート」
　南瓜は反応しない。違うの？と問いたげに、ウェインはシーネ・シュメルツェ（白夜の息吹・e00889）を見る。
「パーティは終わりました、悪い南瓜にはお帰り願わないと……ですね？」
　シーネがウェインに微笑んで頷く。
「そうだね……帰ってもらおう」
　ウェインは稲妻を帯びた超高速の突きで南瓜お化けを狙う。
　ガッ、と鈍い音が響き、硬い手応え。
「ハロウィンと言えばカボチャだけど……」
　アイリ・ラピスティア（宵桜の刀剣士・e00717）は宵桜を構える。
「本当にカボチャのお化けが出てきて人を襲うなんて、見過ごせる訳が無いよ」
　雷刃突、雷の霊力を帯びた宵桜が、神速の突きを繰り出す。
　動きと共に夜色のコートがはためく。
「それに。ハロウィンはもう、終わったんだからね」
　アイリの刃は敵が伸ばした蔓をひとつ断つ。
　時刻はちょうど、零時を過ぎて日付が変わった頃合。
　10月最後の日から、11月へ。
　片桐・宗次郎（星を追う者・e17244）がハンマーを砲撃形態に変形させ、轟竜砲を撃つ。
　竜砲弾が異形の植物を破壊する。
　シーネはメタリックバーストを発動、全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、中衛の超感覚を覚醒させた。
　リプレのゲイボルグ投擲法が、分裂した槍群を敵へと降り注ぐ。
「ぶん投げたスコップで顎先をかすめて脳を揺らしただと！？」
　すかさず鬼怒が驚きと共にツッコんだ。リプレがふふっと笑う。
　槍の雨に続くのは、ドラゴンの幻影。
　エフェメラ・リリィベル（墓守・e27340）による竜語魔法、掌から放たれたドラゴンの幻影が南瓜の攻性植物を激しく焼いた。
「あなたはお強いかしら？」
　炎が包む敵を見つめるエフェメラの金色の瞳に浮かぶのは、強い敵を見つけた時の愉悦。
「オォ……ォォ……」
　南瓜お化けの枝がメキメキと軋む。
「Trick or Treat　なんて、――」
　鍔鳴・奏（世界樹崩し・e25076）はメタリックバーストを放ち、光輝くオウガ粒子で前衛の仲間達の超感覚を覚醒させる。
「お前に貰う菓子も、お前にするイタズラも無いか」
　奏のボクスドラゴン『モラ』も、ブレスを吐いて援護する。
「さあ、最初から飛ばして行くよ！　無音無影、千旋凶梟！」
　鬼怒は気配を消しつつ高速で駆け回る。
　そして敵の急所を複数箇所、一瞬のうちに打ち抜く。その攻撃一打一打に螺旋力が籠められており、敵の体の自由を奪っていく。
「おキヌちゃん！　自分で叫んじゃったら無音じゃないよ！？」
　リプレがすかさずツッコミを入れる。
　無音ではなかった千旋凶梟の高速の凶爪は、だが確実に敵を捕捉していた。
　ちぎれた葉が落ちて、枝が軋む。
　真喜志・脩（星・en0045）の弾丸が蔓を撃つ。
　しかし南瓜お化けの顔は相変わらず笑っているように見え、蔓を蠢かせている。

●南瓜と爆弾
　ケルベロス達の攻撃を受けながらも、笑った顔の南瓜をゆらゆらと揺らすお化け南瓜。
　その顔の中に無数の小さな南瓜を生み出して、ころころと頭を揺らした。
「――３、――２、――１、……BOM！！」
　パン！　パン！　パンッ！！
　炎に包まれた小さな南瓜の爆弾が、前衛に立つケルベロス達の目の前で大量に爆ぜる。
　爆発の中、ウェインはスパイラルアームを伸ばした。
「幾ら南瓜の皮が硬かろうと、攻撃を集中させれば――」
　ドリルのように回転する斬撃が、敵の南瓜の硬い部分をがりがりと砕いていく。
　砕けた箇所を、連携したシーネの戦術超鋼拳が強打する。
「ハロウィン気取るには遅いのですよ！　煮ても焼いても美味しくなさそうですし！」
　シーネは背中の地獄化した翼から焔を吹き上げて挑発する。
「ガガッ……」
　攻性植物の南瓜の首はまだ落ちないが、蔓が幾つかちぎれ落ちた。
　アイリの凍てつく「霊気」を纏った刃が、月のように弧を描いて斬撃を放つ。
「宵闇に浮かぶ月の如く。冷たく、鋭く、鮮やかに」
　宵桜・氷月（ヨイザクラ・ヒョウゲツ）――切り裂かれた傷口は出血もせず凍りつき、終いには砕け散る。
「宗次郎、ケルベロスとしての先輩の強さ、見せてくれなー？」
　奏が声をかければ、
「先輩って……仕方ないな！」
　宗次郎は足元を踏みしめて敵を確りと見据える。
　ルーンを発動させて振り上げたルーンアックスを、光り輝く呪力と共に振り下ろす。
　ルーンディバイドによる一撃は、着実なダメージを与え敵を追い詰めていく。
　ライドキャリバー『ギン』もスピンして攻撃を援護する。
　奏はスターゲイザーの煌めきと重力を宿した飛び蹴りで、敵の機動力を奪った。
　リプレのルナティックヒール。
　満月に似たエネルギー光球は、仲間達の南瓜爆弾による傷を癒すと共に凶暴性を高める。
　リプレの傍を離れないオルトロス『シンゲン』も、パイロキネシスで敵に炎を放つ。
　エフェメラの猟犬縛鎖、精神操作によって鎖は伸びて、敵を南瓜の頭から蔓まで、キツく締め上げていく。
　その鎖に縛られた敵へと触れるのは、鬼怒の掌。
　掌に籠めた螺旋の力が、触れただけで敵を内部から破壊していく。
　タン、タン、と脩の撃つ弾丸が壁を跳ね、敵を死角から貫く。
　ぐらり。傾いたかと思った南瓜のお化けが、また起き上がる。
「Trick or Trick！　……Happyyyyyyyy Halloweeeeeeeeeen！」

●真夜中のHalloweenモドキ
　南瓜お化けの攻性植物は楽しげに頭を揺らしながら、たくさんの蔓を伸ばして床や天井、壁と繋がっていく。周囲をますますお化け屋敷のような雰囲気に変えながら、生み出したコウモリの群れをケルベロス達に放った。
　真っ黒なコウモリがばさばさと羽ばたいて魔法をかけていく。
　コウモリが仲間に見える。仲間がコウモリに見える。
　そんな催眠を仕掛けるハロウィンの幻影魔法。
「店長さん？」
　ウェインの瞳が瞬く。シーネとコウモリ、その向こうに南瓜のお化け。
「ふゃゃ……ウェインさん？」
　ウェインを庇ってコウモリの羽ばたきを受けているシーネの視線がさまよっている。
「はい」
　ウェインのケイオスランサーが、南瓜頭のてっぺんを撃ち抜いた。
　鋭く貫かれたそこから毒が侵入して、敵を汚染してゆく。
　ミミック『アマリリス』も敵の足元にがぶりと食らい付いた。
　アイリのシャドウリッパー。影の如き斬撃が繰り出され、敵の急所を掻き斬っていく。
「トリックオアトリート……にも、もう遅いよ。さあ、片付けてあげる」
「オ……ォォ……ッ」
　南瓜お化けの呻き声がライヴハウスに反響する。
　宗次郎が達人の一撃で、蠢く蔓の一部を凍り付かせた。
　敵の動きが若干鈍くなる。
　リプレの「紅瞳覚醒」。
　奏でられるのは、立ち止まらず戦い続ける者達の歌。味方を奮起させ、理力は盾を創り出す。シーネの催眠が解かれた。
　曲調が変わり、生きる事の罪を肯定するメッセージが癒やしていく。くるくるとコウモリを見上げていたサーヴァント達も、脩のブラッドスターで催眠から覚める。
「ふゃー……ありがとうです」
　シーネはしっかりと敵を見据えると、おいしいおかしを放った。
「Trick or Treat！　お菓子あげるからその首寄越せですよ」
　おいしいおかし（ダトオモッタカバカメ）――敵は体の一部が麻痺した。
「Trick or Trick or Trick or Trick……」
「そう、静かに静かに蝕んで行くのです」
　エフェメラの魔導書38頁。そこで眠る闇竜の力が解放される。
　竜が吐き出す黒い霧が、南瓜のお化けを包み込んでゆく。……蝕まれておゆきなさい。それはとても静かで穏やかな竜――38頁の霧（トランクイロ・ネッビア）。
「Tri, Try, Try ttttt」
「あ。南瓜めげとる……」
　脩が指差す敵の頭が黒く蝕まれている。
　だがまだ、動く。次の攻撃を仕掛けてきそうなモーションだ。
　鬼怒の指天殺、指一本の突きが、敵の気脈を断った。
　ぐらり、ぐらり。敵は重たそうな南瓜の頭を前後に揺らした。
「じゃあ、俺達の役目を果たしますか！　存分に動けよ、宗次郎！」
　奏の放つ透明な鎖が、敵へと届く。その鎖によって引き寄せる事も、此方が近づく事も、全て瞬時に行なう事が出来る。――この息は神の域なり（ケルベロスチェイン）。
　南瓜のお化けは透明な鎖に絡め取られた。
　南瓜お化けは暴れ出す。
　じたばたと蔓を振り回しては、触手がケルベロス達を狙う。
　蔓触手形態に鬼怒が捕縛されかけたところを、オルトロス『シンゲン』が庇った。
　宗次郎の眼が敵を見据える。
　自分の役目は、あれを仕留めることではないのだ。
「……大人しく、してろッ！」
　首元に手を添える宗次郎、其処から溢れ出すグラビティ。
　それは彼の恐怖心を、憎悪を表すかのように血の赤に染まった獣の鉤爪へと姿を変え、敵へと襲いかかる。
　反転 不滅たる我が罪の象徴（ヴェレーノ・レストリツィオーネ）
　――獣の鉤爪が敵を引き裂く。
「……じゃあ、あとは任せた」
　ふっと小さく微笑んだ宗次郎は、仲間達へと視線を向ける。
　蔦を足場にして飛び上がったアイリの絶空斬が、もがく敵を高所から斬り付けた。
　空の霊力を帯びた刃が、傷口を正確に斬り広げていく。
「……tryccccccc」
　敵はカクカクと身体全体を震わせはじめた。
「トドメを！」
　奏が仲間に促す声をかける。
「Overcharge」
　と、電子音声が響いた。
　天蝎の刺刑（アンタレス・スティンガー）、蠍座を冠したダモクレスの技術。
　槍の先端を起点に、空間を湾曲させながら一直線に突撃し、敵を突き破った。
　無秩序に歪曲された空間は、触れたもの総てを等しく破壊する。
　色が混ざり合い、赤黒い光を放つ。
「Happyyyyyyyy Hallowewewewewewe――」
　ぼん！　と南瓜が爆ぜて、動きを停止した。
　急速に枯れてゆく攻性植物の姿を、ウェインは常と変わらない色の瞳で見続けていた。


　戦いを終えたケルベロス達は、ライヴハウスをヒールで修復する。
　アイリは敵の亡骸周辺を、黄金の林檎の欠片でも残ってないかと探していた。
「手掛かりは何かしら欲しいよね」
　探りながら、ライヴハウスの中を出来るだけ綺麗に整える。
「ふゃゃ……うーん、どうでしょうね。……ともあれ、戦闘で壊れた場所はヒールしつつ、帰りましょ、です」
　シーネもあちこち眺めつつ首を傾げて、とりあえずは修復を行った。
「店長さん。トリック・オア・トリート」
　おかしください。とウェインに言われて、ふゃー、とシーネは笑った。
「Trick or Treat！　イベントが終わったらお片付け！　それが人間のルールなのです、よ。……ね？」
　シーネはウェインの口癖を真似つつ、小さく頷いた。
「リプにゃん、時間が遅くて観客は呼び込めないんだけど……」
「うん。じゃあわたしたちだけの秘密のライブだね」
　リプレは鬼怒にドラムを叩かせようとする。
「私、ドラムなんて叩いたことないんだけど！？」
「おキヌちゃんなら反射神経でいけるよ！」
　リプレは暗に鬼怒のリズム感は死んでると言ってる。
「おー？　何や演るのなら、皆で聴いていこや！」
　脩が面白そうにステージのリプレを見上げて、仲間達が帰路につく足を止める。
　――ハロウィンの夜は過ぎたけれど。
　あともう少し、楽しんでいくのも良いだろう。
　夜は賑やかに更けてゆく。

作者：藤宮忍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年11月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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