パッチワークハロウィン~オバケモドキの夜

作者:久澄零太

 ハロウィンも幕を閉じた夜の事、ヘスペリデスは黄金の果実を掲げる。
「フフフ、皆楽しい思いを過ごしたようで……ならば、私たちだってちょっとくらい楽しんでもいいでしょう?」
 人気のない広場で、彼女の掲げた果実がハロウィンという一日限りの夢を喰らい、肥大化していく。
「さぁ、お行き? お菓子を食べた人間どもはさぞ美味しい事でしょう……」
 ころり、地面に転がされた果実は一体のデウスエクスに姿を変えて、誕生と空腹の叫びをあげた……。


「皆大変だよ! 辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)さんのお蔭で、デウスエクスが動こうとしてることが分かったの!」
 紫のシャツに赤ネクタイ、銀の髪留めに黒のスラックスでケルベロスコート、とどっかで見た事ある姿の大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある広場を示す。
「ハロウィンが終わって、町には皆の夢の欠片が残ってるの。どうやらパッチワークの魔女の一人がそれを利用して、カボチャっぽい攻性植物を生み出そうとしてるの!」
「カボチャなんですか、ハロウィンらしいですね……」
 頷く芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034)に、ユキは首をぶんぶん。
「いや、カボチャっぽいだけでカボチャじゃないよ?」
「……はい? え、カボチャっぽいだけ?」
「うん、名前もハロウィンボムモドキだし」
「モドキ……」
『……』
「敵はこの広場に現れるよ! 少し前までパーティーしてたから、交通規制何かがかかってた影響で、ちょうど誰も居ないタイミングになるの。誰か来る前にビシッとやっつけちゃって!!」
 微妙な空気をなかったことにするかのように気合を入れ直すユキなのだった。
「敵は目からビームを撃ったり、散ってる思い出の欠片を食べて誰かの仮装っぽいものに自分の姿を変えて身を守ったり、逆にこっちに無理やり仮装させて動きを封じたりしてくるよ! ちょっとコミカルだけど、威力は本物だから気をつけて!」
 と、ここで四夜・凶(恋バナ好きな悪人面・en0169)を示し。
「仮装してなくても軽くホラーなのもついてくから、うまくパシリにしてね!」
「オイコラ」
 ジト目をスルーして、ユキは拳を握る。
「皆の楽しかった思い出を利用するとんでもない奴だよ。ビシッとやっつけて、いい思い出のまま終わりたいよね。さっさと片付けて後夜祭しちゃお!!」


参加者
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)
芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034)
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
シェスティン・オーストレーム(冥界列車の白車掌・e02527)
舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)
コルティリア・ハルヴァン(機動猫コルティリオン・e09060)
北條・計都(燃え猛る凶星・e28570)

■リプレイ


「カボチャっぽいってなんですか! どう見てもカボチャじゃないですか!!」
 芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034)は翼を突きつけてツッコミ。彼女は雀姿……そう、仮装である。
「どこをどう見てもわたくしには南瓜にしか見えないのですが……」
 唸りつつ、シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)が改めて敵を見直す。
「ハロウィンを悪用すること自体が既に許すまじ、なのだ!!」
 パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)は両手を振り回して怒り心頭。
「我らハロプロ、ハロウィンの敵はやっつけるのだ!!」
「おー!」
「りぼん様、そのお姿は可愛らしいのですが動きづらくないのでしょうか」
 拳を突き上げるパティに合わせるりぼんだが、丸っこい雀の為、羽があんまり上がらない。
「大丈夫ですよ! ご覧の通り!!」
 鳥の脚で歩いて見せるりぼんだが、どう見ても大丈ばない。
「何事も無く良い思い出のまま終わったかと思えばコレですか」
 ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)は青い翼を広げる鳥型の装甲に身を包み、ため息をこぼす。
「あれ?」
 青い上半身を覆っていたソウエンが剥がれ落ちると、鍵盤と渦巻きを重ねた人型をとる。
「ソウエンさんも仮装したかったんですね」
 頷くソウエンだが……これどう見ても異世界の人だね。
「折角の楽しいハロウィン、楽しく終わらせないとですね……しかし四夜さんはなんだってあんな格好に……?」
 こがらす丸を駆る北條・計都(燃え猛る凶星・e28570)は黒を基調に赤を散らしたスーツに、パーカー部分は燃えている姿で、半泣きの凶を見やった。
「女装……ですよね?」
 照明にもなる首を傾げる計都の視線の先には……。
「わっ! ユキさんモドキ!?」
「見慣れぬお嬢様かと思えば凶様でしたの! とてもお似合いですわ!」
 ユキの仮装で顔真っ赤の涙目な凶。黒い猫耳と猫尻尾がフルフルと震えている彼に、りぼんとシエルが迫る。
「凶はちゃんとユキの恰好して来たのだな……ポーズ! ポーズも取って!」
「嫌ですよ!? ていうか誰得ですか!?」
 カメラを掲げるパティから逃げようとするが、右の雀に左のシンデレラ。
「あ、あまり四夜に無茶を言うのは……」
 白地に黒のレースをあしらった漢服姿の舞原・沙葉(生きることは戦うこと・e04841)はオロオロ。額にお札を貼った彼女は両手を伸ばしたまま、周りのテンションを前に止めることもできず右往左往。
「じー……」
 退路を失った凶の背後に、白いコートのシェスティン・オーストレーム(冥界列車の白車掌・e02527)。白手袋にエンブレムの入った帽子をかぶり、列車はいつでも発進できそうだが今向かうは駅ではなく。
「きょーちゃん」
「……はい」
「にゃーん、です」
「に、にゃん?」
 両手を互い違いに挙げて、片脚を上げるシェスが微笑むと、釣られて凶も同様にして尻尾がぴょこっと跳ねた。

 ぱしゃり。

「……うん、綺麗に撮れたのだ!」
 カメラを確認するパティを前に凶が崩れ落ちる。
「その、あー……少年のような雰囲気で可愛らしいのではないか、と思う……うん」
「沙葉、その台詞俺の目を見て言ってみ?」
 彼女はふいっとソッポを向くのだった。



「トリックオアトリート! ……お菓子なんて持ってないよね? 存分に悪戯しちゃうんだから!」
 敵を前に番犬が騒いでいる間に、唯一対峙していたオレンジ色のリボンが特徴的な魔女服にとんがり帽子、ブーツという魔女姿のコルティリア・ハルヴァン(機動猫コルティリオン・e09060)。眼鏡も外してくりくりおめめなコルティリアは指の銃を構える。
「カボチャ弾、発射!!」
 指先に収束した重力鎖を編んでカボチャ型の砲弾を生み出し、顔面めがけて叩き込む。散々放置されて待ちくたびれ、油断していた攻性植物が吹っ飛ばされ、瞳をキラキラと輝かせるコルティリア。
「この格好でグラビティ使うと私、本当に魔法使いになった気がしちゃう……! にゃははっ、今日はなんだかいつもより楽しいにゃ!」
 ウィンクして指の銃を上に、フッと硝煙を吹く真似。
「マジカルコルティ、見参! 悪い南瓜はトリックオアトリック☆」
 スッと、指先という名の銃口がモドキに照準をセット。
「お菓子をくれないカボチャは、お菓子になっちゃうといいにゃん♪」
 実にいい笑顔で、悪戯用弾幕でベッタベタにするこるちーなのだった。
「あれ、でもカボチャじゃないんだっけ?」
「そういえばカボチャ『っぽい』だけだと言ってましたね?」
 首を捻るコルティリアと反対に倒す計都。お腹に渦巻きのシャツ、目がついた青いコート、白いミトンを装着する彼はまさにニョロ……うわなにをするやめ。
「いくぞこがらす丸!」
 改めて相棒のアクセルを握り込み、モドキへ突撃。
「あんたがハロウィンの仮装の思い出を食うのなら、俺達はそれを守る武装になってやる!」
 計都が跳び、ハンドルを担う上層部が回転しながら後方へスライド、中心から前後に割れるとそのまま立ち上がるかのようにして前面武装を上に、上層部を下に。
 更に前後に装甲が割れて、計都を挟むように装着、ボディは脚甲に、前面装甲は鎧に、二門の機関砲を両腕に滑らせて。
『strike mode』
 騎乗機と合体したカエルの姿に!
「蛙さん、です?」
 右にコテン。
「鴉さん、です?」
 左にコテン。
 鴉武装の蛙というカオスにシェスティンは疑問符ぐーるぐる。計都自身も虚ろ目。
「うん、分かってる。さっきのレッドフレアの方がカッコよかったって。でも仕方なかったんだ、こっちのカエルパーカーの方が耐久性高いんだもの……!!」
 しかし割り切り、片脚に炎を纏う。
「これは八つ当たりじゃない、早急な決着による武装の解除の為に必要なことなんだ……!」
 こがらす丸のエンジンが唸り、更に炎は猛って赤い火柱に。
「さっさと燃え尽きてくれないかなぁ!?」
 一足跳びに距離を詰めた回し蹴り。業火をもって焼き払いながら、打ち下ろしの軌道で体勢を崩させる。
「いきますよ、ソウエンさん!」
 続くビスマスが抉り込むようなアッパー、巨大な攻性植物を打ち上げる、反転。手を重ねて、人型化したソウエンを飛ばさせる。ビスマス結晶の異形は両の拳を重ね、スレッジハンマー。跳ね上がるモドキの身を地面へ叩き落とした。
「列車が、参ります。危ないですから、雷壁の内側まで、お下がりください」
 シェスティンが線路確認をするように見回して腕を伸ばせば、古びた合図灯の色が赤から青へ。番犬の前に雷のフェンスが張られ、稲妻を纏う列車が入ってくる。
「この列車は、ケルベロス経由、冥界行、です。次は、デウスエクス、デウスエクス、です!」
 駅のホーム案内のように合図をとると列車は霧散。前衛を守る加護に姿を変えるのだった。


 起き上がるモドキの頭から、カッと閃光が迸る。
「目からビーム! 確かに、普通の南瓜でしたらこんなことできないですわ……!」
「避けるのだシエルー!?」
 こるちー性トロロにより片目からしか出なかったが、上に放たれたビームが曲がり、シエルへ降り注ぐ!
「あ、熱いですの……って、これビームじゃありませんわ!?」
 かかったそれは、カボチャスープ。
「ビームに見せかけてスープでしたのね……あ、でもいい匂い」
「シエル! あとで凶が好きなお菓子くれるから、倒れるのは早いのだ!」
「じゃあパンプキンンマフィンがいいですわ!」
「ちょっと!?」
 凶をスルーしてパティがカボチャ型の光を放てば、シエルの体を包み込んでスープを洗い流し、蝙蝠の髪留めを添える。
「私はお米のお菓子がいいです!」
 挙手ついでにデッカイスパナを投げつけるりぼん。今ゴスッていったぞ、ゴスッて! ていうかカボチャにスパナ刺さったよ!?
「あ……まぁいっか!」
 いくない!
「いくぞ」
 刀の柄に手を添える沙葉だが、死角に回り込んだ瞬間に南瓜がグリン、今度こそ目からビームを食らう。
「くっ……!」
 白煙を振り払い踏み込もうとして……転んだ。
「な……なぁ!?」
 何かを踏んだ気がして自身を見下ろせば、レースを幾重にも重ね、裾は長く尾を引く様な純白の……ウェディングドレス。それを見た彼女は舌打ち。裾が長くて脚さばきが狂い、邪魔でしかないからだ。しかし、稲光と共に冥界列車が通過。一瞬姿が隠れた沙葉の姿が戻り事なきを得る。
「こいつ、人の封じ方を分かってる……!?」
 計都が警戒を強め、にらみ合い……シェスティンにカボチャスープ砲!
「ほぇ!?」
 不意打ちされるシェスティンの前に計都が滑り込み、ギリギリ盾になるが、直撃。
「あっつぅ!?」
 のたうつうちに冥界列車に轢かれて、火傷は癒えるが全身を焼く様な熱は消えない。
「大変、です……!」
「シェスティン、合わせるのだ!」
 計都の周りを白い霧が覆い、カボチャを模した光が舞う。霧が晴れるとほぼ完治した計都が伸びていた。ヒール直後の二人を狙うモドキだが……。
「よくもやってくれたな?」
 沙葉の神速の突きが茎を穿ち、切っ先が貫通していて、押し切る様に振り抜き、太い茎を縦に裂く。振り向き反撃しようとするモドキの頭を大きな弁当箱が直撃。蓋ごとジャックが飛び出し、頭突きをかましたところでナメビスによるさんが焼きブレス。傷口を焼き抉るようにして魚介の旨みが香る。
「必殺ビックリ弁当箱なのだ!」
「お味はいかがですか?」
 ドヤ顔する主たちの肩へ箱竜が降り立ち、シエルが植木鉢を振りかざす。
「泣きっ面に鉢ですわ!!」
 ガチョン! 割れた破片が傷口に突き刺さり、痙攣し始めるモドキなのだった。



「一気に仕留めますよ!」
 ビスマスが換装、スカートは白く、装甲は薄紅に染まり吸盤のように規則的な斑を描く。羽は収束して刃にも似た板状のリアユニットと化し、イカ状のビットを格納する。
「ソウエンさん!」
 相棒を呼び戻して両肩の砲台を形成、砲門の先へビットを射出。
「あなたは格が違うみたいですが……全方位攻撃ならどうでしょう!?」
 ソウエンから放たれた砲撃がイカビットに反射、ビットと砲撃の両者が相乗効果で輝きを増しながら光の尾を引いて檻を編む。やがて生まれた光球が圧縮されるようにして、文字通り全方位から、灼く。
「クロムもレッツダンス!!」
 コルティリアが人差し指を突きつけるとニュルン、ととんがり帽子の黒猫の群れが顕現。それらは砲撃の熱を吸い、つま先を赤く染めてモドキに殺到。
「ハロウィン限定ラインダンスにゃー!」
 二足歩行する猫達が一列に肉球スタンプを焼きつけていく。ジュッジュッジュー、楽し気なリズムと共に外敵を焼く音色が響けば、敵は指揮者こるちーを焼き払うべく光を放つ!
「それは通さない!」
 身代わりになる計都……光が収まると、首なし騎士がいた。
「この衣装、重っ!?」
 めっちゃプルプルしてた。
「お困りのようだな?」
 天の声に振り向けば、満月を背に腕組みをする白装束の白狐面。
「今宵は隠り世より現し世に現界せし日。縁ある者に力を貸そう」
 ポフ、煙管から立ち昇る煙が計都の身を包み、炎に姿を変える。それは重力鎖を活性化させ、エンジンを加速させる。通過する冥界列車が騎士の体を突き抜けると、元の鴉蛙に。
「どこの誰だか知りませんが、助かりました」
「……ふっ」
 仮面で顔が見えないとか、月光の逆光とか、色々重なって自分だと気づいてもらえなかった達也は幽鬼を気取ってちょっと寂しそうに姿を消した。
「こがらす丸、リミッター解除!」
『heat up』
 背面のマフラーから炎を噴き出し遥か上空へ。雲を突き抜けて満月の中、炎の翼を広げる人機一体の影が踊る。撃墜を試みるモドキだが。
「あ、手が滑っちゃったー☆」
 どこからともなく可愛らしい声と……鉄鍋。グワァン! 大銅鑼のような大音声と共に頭を直撃してグラグラ揺れるモドキへ、天より炎が舞い降りる。
「これが俺の、俺達の……」
 距離三十、二十、十……高度を下げるほどに熱を上げて、人機は吼える。
「精一杯だぁあああッ!!」
 ギリィ、踏みにじるようにして蹴り込み、全身の炎と重力を叩きこむ。反動でムーンサルト、装甲がパージして蒸気を噴き出しながら計都を乗せるこがらす丸へと戻った。
 地を這い牙を剥かんとするモドキへ、沙葉は大上段に得物を振りかざす。
「ハロウィンは終わったのだ……眠りについてもらおう」
 袈裟切り……刃を寝かせて薙ぎ、翻して斬り上げ、振り下ろし薙ぎ突き抉り斬り捨て回転斬り……一撃毎に速度上げていく乱れ斬り。剣閃ごとに煌めきと命を散らす。やがて剣客は背を向けたまま、眉間に深く刀身を叩きこむ。
「しぶとい奴め」
 一思いに引き抜けば果汁が噴き出した。
「りぼん、シエル、パティたちで終わらせるのだ……こんなハロウィン、悲しすぎるのだ」
 これだけ刻まれて、なおも消えない。それは、それだけ多くの夢を、『思い出』を食らった故に。
 そっと微笑んで、シエルが開くのは一冊の詩集。その一節を読み上げると、小さな妖精が現れて、彼女にそっと耳打ち。
「なるほど……りぼん様、あの刺さったままのスパナ、カボチャモドキの核を掴んでいるみたいですの!」
「なるほど!」
 パタパタと羽ばたき、手刀ならぬ羽刀でより深くスパナをぶちこんだりぼんはその柄をガッシと掴む。
「このスパナを回せば壊れたハロウィンを直せるんですね!!」
 頭部の中身をねじ回され、暴れるモドキだがりぼんはスパナにしがみつく。
「暴れないでください! 修理の邪魔です!!」
 引くのをやめて、逆にスパナをまっすぐ叩きこみ、ぶち抜いた先端が地面を叩いた。その先には、七色のモザイク……食われた、ハロウィンの思い出。
「それを……返してくださいっ!!」
 穿った傷から、引き抜く。奪い返した残滓はキラキラと人々の思い出が浮かんでは消えていく……。
「ハロウィンで悪さをするお主の魂……悪戯しちゃうのだ!」
 煙管の煙が、冥界列車が、カボチャの光がパティへと取り込まれた。
「ハロウィン列車、出発なのだー!!」
 まっすぐ指を突きつけた途端、周囲が夕暮れの西洋の街並みに代わり、その家々がハロウィンの装飾を施されていく。レールが敷かれ、彼女はカボチャ模様の蒸気機関車の先頭車両へ。
「さぁ、夢とお菓子の世界へ、発車なのだ!!」
 
 ポーッ!!
 
 白煙を上げて汽笛を鳴らし、車輪がゆっくりと回転を始めた。少しずつ加速する機関車はやがて超重量の突進兵器として、モドキを夜空の彼方へ吹き飛ばす。
「あ……」
 りぼんのスパナから残滓が砕け散り、キラキラと輝いて世界の思い出へと還っていった。



「四夜はハロウィンは満喫したのか?」
 破損した街並みにヒールをかけて、少しハロウィンの明るさを取り戻した広場で沙葉はそっと、凶の隣に。
「あー……はい」
 実はロクな記憶がないが、微笑む。
「そうか、楽しめたなら良いことだ。私は仮装だけはしたが……喧噪には飛び込めなかったな……」
 少しだけ寂しげに、胸に手を添えた。微かな苦しみに、耐えるように。
「その、今からでも間に合うだろうか」
「もちろんなのだ!」
「おうっ!?」
 凶が答える前にパティが飛び込んでくる。
「ハロウィンは終わったけど、仮装してるんだからまだロスタイムなのだ!」
 そしてユキコスの凶へ両手を伸ばす。
「トリックオアトリート!」
「フフフ、こんなこともあろうかと……あ」
 用意したお菓子はコートの裏ポケット。つまりユキのヘリオンの中。
「さぁ、後夜祭をやろーなのだ♪ お菓子を持ってないのなら……」
「ま、待ってください、沙葉も……」
「え?」
 蝙蝠や南瓜を象るお菓子の詰め合わせを出してる沙葉。何故か塩昆布があるのはご愛嬌。
「凶、悪戯決定なのだ!」
 ハイテンションなパティを見て、シエルはクスリと微笑んだ。
「パティ様にはこれからが本番ですものね……」
「皆さん、その前に写真撮りません?」
 計都がカメラを構え、一同が集まる中、そっと離れようとした凶にシエルが回りこむ。
「凶様、逃げてはダメですわ!」
「お菓子を出せない人に拒否権はありません!」
 りぼんに掴まれ、ど真ん中に配置される凶。そんな様子を眺めるビスマスがフルフル。笑いを堪えているのは秘密だ!
「写真、皆で一緒、です!」
 パタパタとシェスティンが凶の前に。計都が三脚にカメラをセットしつつ、手をブンブン。
「沙葉さん、もっと寄って……コルティリアさん微妙に見えてないです……」
「む?」
 初めての撮影に、よく分かってない沙葉の手を凶が引く。
「ほら、固まらないと入りませんよ? このあと北條さんも来るんですから」
「う、うむ……こういうのも、悪くないな」
 りぼんの雀グルミに乗っかりモフモフしてるコルティリアや、箱竜どうしで仲良く同じ箱に収まるジャックとナメビス、さんが焼き煎餅を差し出すビスマスに目を輝かせるパティと興味深々のシエル。皆の思い出を残す、写真。ただ、初めての写真なのに隣にが女装した強面という残念なモノになっているが。
「いきますよ?」
 タイマーをセットした計都が一同に加わり、フラッシュ。
 現像された写真を見て、計都の肩越しに写る狐面や、シェスティンの横からもう一人のピースサインなど心霊写真ができあがり、緋色蜂師団にてわかなが大笑いするのはまた別の話である。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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