パッチワークハロウィン~悪戯するお菓子は

作者:雨音瑛

 ハロウィンパーティーが終了した、とある都市の市民ホール。魔女の姿をした女性が、ひとりぽつんと佇んでいた。
「私が失っていた『服従』の心は満たされた。あぁ、誰かに服従し、その為に働く事の、なんと甘美なる事か」
 女性はゆっくりと目を閉じ、胸元のモザイクに触れる。
「魔女の力が最も高まる今夜、第十一の魔女・ヘスペリデスがその役目を果たすとしよう」
 ヘスペリデス、と自身を呼ぶ女性は、目を開け、手元の籠に視線を落とした。
「ユグドラシルにおられる『カンギ様』の為に、私の黄金の林檎からハロウィンの日に相応しい植物を生み出そう——さぁ、お前達、ハロウィンの魔力を集めて私に捧げよ。全ては、『カンギ様』の為に」
 ヘスペリデスは籠の中のリンゴに触れ、眼前まで持ち上げる。
「さぁ、人間共の夢の残滓と黄金の林檎より生まれし、攻性植物『ホワイト☆ぷりん・あら・もーど』よ。人間どもを喰い散らかすがいい」
 放り投げられた林檎が、姿を変えてゆく。ガラス容器にプリンを載せたような異形の上で、赤黒い目が開いた。
 
●ヘリポートにて
「ハロウィンパーティーは楽しめただろうか? パーティーが終わったばかりなのだが、新たな敵の動きが見つかったようだ」
 ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が、緊張した面持ちで告げる。
 パッチワークの魔女の一人が動き出したことが、辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)の調べでわかったという。
「動き出したパッチワークの魔女は、第十一の魔女・ヘスペリデス。彼女は日本各地のハロウィンパーティーが行われた会場に現れる。会場に残ったハロウィンパーティーの残滓と彼女が持つ黄金の林檎の力で、強力な攻性植物を生み出すようだ」
 このまま放置すれば、パーティーを楽しんだ人々の帰路に攻性植物が現れ、人々は殺されてしまう可能性がある。
「楽しいハロウィンを惨劇で終わらせないためにも、パーティー会場に向かって、現れた攻性植物を撃破してくれ」
 戦場となるのは、とある県にある市民ホール。周囲には人はいないため、人払いは不要だ。
「現れる攻性植物はこのような形をしている」
 ウィズは、掌の上に立体映像を出した。ガラス容器に入ったプリンや果物、生クリーム、そして目玉のような物体のあるデウスエクスだ。
「楽しげな見た目だが、体長4mほどもある。また、それなりに強敵だ」
 この敵が使用するグラビティは3種類。生クリームを足元に絡みつかせて捕縛するグラビティ、容器の上に乗ったフルーツを投げつけて爆発させるグラビティ、容器に乗ったフルーツを増量して自身を修復するグラビティだという。
「ヘスペリデスが攻性植物を武器にしているのか、攻性植物がヘスペリデスを手駒にしたのか……ともあれ、私はヘリオンを出す。折角のハロウィンを台無しにしないためにも、頼んだぞ」
 ウィズがケルベロスを見渡し、ヘリオンへと促した。


参加者
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)
ミストリース・スターリット(ホワイトマーベル・e03180)
イリヤ・ファエル(欠翼独理のエクシア・e03858)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)
劉・沙門(激情の拳・e29501)

■リプレイ

●ハロウィンの後に
 お菓子の甘い香り。魔女や南瓜の飾り付け。まだハロウィンの余韻が残る市民ホールでは、巨大なデザートのデウスエクスが今にも外に出ようとしていた。
「明日は朝からミサがある。本当はこんな所で貴様を相手にする時間も惜しいのだがな……」
 フサリアの出で立ちをしたカジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)が、ぼやきつつもゾディアックソード「Sloj」を床に突き立てる。
 立ち上る光の向こうに見えるのは、ヘリポートで聞いた「ガラス容器に入った生クリームと果物付のプリン」、すなわち「プリン・ア・ラ・モード」の姿をした攻性植物——ホワイト☆ぷりん・あら・もーどだ。
(「こんな形の攻性植物を使役するとは、いよいよもってパッチワークの連中、何を考えているんだ?」)
「甘いお菓子は可愛い女の子と一緒に居る時に欲しいのだけれどね」
 と、イリヤ・ファエル(欠翼独理のエクシア・e03858)がぼやいて三つ編みを払う。敵の見た目に引き気味になりつつも紙兵を撒き、前衛の加護を厚くする。
 何にせよ、とカジミェシュはSlojを引き抜いた。
「こんなふざけた連中に祭りを壊されてはかなわん」
 その思いは、クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)も同じ。
「パーティー後の余韻を壊そうなんて、そんな無粋な真似はさせないよ」
 端正な顔をわずかに曇らせ、ゾディアックソード「Gladius de《Virgo》」で乙女座を描いてゆく。
「ええ、みなさんの楽しい思い出を汚すわけにはいきません。余計なことをするつもりなら——今すぐ、消えてもらいましょう」
 加護を受けた深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)は、獣化した拳でホワイト☆ぷりん・あら・もーどを殴りつけた。
「パーティーにお前の様なモノを呼ぶはずが無い、さっさと失せろ」
 ルティエが敵に向ける視線はひたすらに冷たく。銀色の毛並みが人のそれに戻るが早いか、果実がホワイト☆ぷりん・あら・もーどのガラス容器の中から飛び出した。放物線を描く果実は赤く、速い。着弾と同時に弾け、カジミェシュの鎧越しに熱を伝えた。
「ぐ、思った以上に重いな。やはりこんな見た目でも、デウスエクスはデウスエクスか」
 直後、カジミェシュのボクスドラゴン「ボハテル」とルティエのボクスドラゴン「紅蓮」がそれぞれの属性をインストールした。
「俺は攻撃に専念する。フォローは頼んだ」
 そう告げ、取り出した緑縁の眼鏡をかける星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)。ホワイト☆ぷりん・あら・もーどを見遣って放つ地獄の炎弾は、優輝の提督服を一瞬だけ赤く染めた。
「美味しそうですね。では、殺しましょうか」
 いつの間にかホワイト☆ぷりん・あら・もーどの背後に回りこんでいたのは、シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)。
「どうも、攻性植物さん。シマツです。では、いただきますね」
 仰々しい一礼が似合いそうな挨拶が述べられると、シマツの光の翼が暴走を始めた。やがて彼女の全身が「光の粒子」に変わる。そこからは浴びせるは、目にも止まらぬ斬撃。
「斬らせていただきました」
 穏やかな笑みを浮かべ、距離を取る。
 気付けば、ミストリース・スターリット(ホワイトマーベル・e03180)の周囲に小さな光の粒が集まっていた。
「星々の小さな光よ、集まって我が力となれ!」
 星の形に凝縮された光は、ミストリースの一声とともに撃ち出される。ガラス容器に直撃し、星が弾けたように光が飛び散った。
 ミミックの「オウギ」は主である劉・沙門(激情の拳・e29501)の指示を受け、具現化した武器で殴りつける。そこへ沙門が旋刃脚を見舞った。
「攻性植物と戦うのは初めてであるな。我が八方天拳は果たして通用するのであろうか?」
 沙門は着地し、自身の二倍以上はあろうかというホワイト☆ぷりん・あら・もーどを見上げる。そして、これからの戦闘が楽しみだといわんばかりに口の端を吊り上げるのだった。

●召しませグラビティ
 仲間をかばい立て、時には翻弄しながら、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどの体力を削ってゆく。
「最近はローカストが活発だったが、攻性植物も活発になってきたな」
 優輝がホワイト☆ぷりん・あら・もーどを観察する。ハロウィンに紛れて動いた、デウスエクスは、容赦ない攻撃をケルベロスに向けて繰り出してくる。もし一般人がその攻撃を喰らおうものなら——。優輝は、そこから先の想像を止めた。惨劇を起こさないためにも、デウスエクスの動きはここで阻止しなければならない。
 帽子のつばを上げ、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどへと肉薄する優輝。目と鼻の先には、ガラス容器。手にするは、氷と炎の魔力を同時に宿した武器。弾けた魔力で『無』の力を生み出し、光の斬撃を放った。
 「運命と必然の刃」に傾くホワイト☆ぷりん・あら・もーどに、エクスカリバール「スマッシャー」を手にしたシマツが迫る。
「食べやすくなってくださいね」
 微笑みながら振り下ろしたスマッシャーが、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどのプリン部分を砕いた。飛び散るプリンの破片をそのままに、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどはルティエの足元に向けて生クリームを飛ばした。
「っ、早い……!?」
「させないよ」
 身構えるルティエを軽く押して、クレーエが割り込む。足元が汚れるが、そんなことはお構いなし。庇ったルティエの体はもちろん、もふもふした耳や尻尾には生クリームの飛沫ひとつついていない。安堵の笑顔を浮かべ、クレーエは敵に向き直った。
 容器の中では、砕けたプリンや射出した生クリームが生成されている。その様子を見たミストリースが、不満の声を上げた。
「プリン……ぼくプリン大好きです。おかあさんのプリンは、とくにてんかいっぴんです」
 だというのに、そのプリンがデウスエクスとして現れさらに人々を襲うなど、ミストリースにとって到底許せるものではない。
「悪いプリンなんて、ゆるさないですからね」
 睨みつつ、水晶剣の群れを召喚する。ホワイト☆ぷりん・あら・もーどを切り裂く剣は、生クリームを、果物をホールの中にこぼしてゆく。
 癒やし手を担うボクスドラゴンたちの助力もあり、回復は足りている。ならば、とイリヤは剣を抜いた。
「掠れば燃えるよ……ボクの剣は」
 地獄化した片翼から炎を生み出し、剣に纏わせる。そのまま刃を閃かせれば、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどに炎が灯る。
「焼きプリン一丁あがりってね!」
 炎はプリン部分を焦がし、甘く香ばしい香りを立ち上らせてゆく。
(「それにしても、おいしそうな敵です」)
 と、生唾を飲み込むミストリース。その横から、沙門が踏み出した。
「少しは手応えがあるようだが……これはどうだ? ——八方天拳、一の奥義! 帝釈天!」
 跳躍し、握った両手を叩きつける。重ねた手に溜まる気功が、爆発的な威力をもってホワイト☆ぷりん・あら・もーどのプリンを、果物を打ち砕いた。
 弾け飛んだプリンと果物の残骸が、ぼたぼたと床に落ちる。
「ふむ、なかなかどうして良い弾力。これは倒し甲斐がありそうだ」
 オウギに噛みつかれて減るプリンを眺めて、沙門は満足そうに呟いた。

●阻害
 時折、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどは攻撃を回避し、手痛い一撃を加えてくる。が、灯る炎や絡まる生クリームを、イリヤが鎮めてゆく。状態異常が残っても、他の仲間やサーヴァントがフォローすることで、事なきを得る。
 一方で、優輝をはじめとした攻め手が痛烈な一撃を加えてゆく。
 幾度となくケルベロスたちの攻撃を受け、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどは本格的に自身の修復を始めた。容器の上に乗るフルーツが、ひとつふたつと増えてゆく。同時にもたらされる加護は、ケルベロスたちが与える状態異常を打ち消すものだ。
「僕たちが有利にはなってきているけど……させないよ」
 クレーエの持つもうひとつのゾディアックソード、「Gladius de《Leo》」。獅子座の重力を宿して軽やかな一閃は、見た目に反して重い斬撃を加える。その一撃で、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどの巨大な容器にヒビが入った。
 しかし、まだ敵を取り巻く加護は残っている。シマツは小さく咳払いをした。
「では一曲」
 失われた面影を悼む歌が、紡がれる。「寂寞の調べ」で呼び寄せられた魂は、前衛の味方を纏うように取り巻き、敵の加護を打ち破る力となる。
「有り難い。——茫漠の空は即ち深淵/明星一つを導とし/求むる仇の臓腑を抉る/右のかいなに鋭き一矢/左のかいなに長き弓/射抜き貫き、夜天を越えろ」
 カジミェシュはSlojを掲げ、意識を集中させる。剣の集めるのは、射手座の力だ。軽く息を吐いて突き出した剣は、光の矢を生み出す。光の矢は、ホワイト☆ぷりん・あら・もーど目がけて飛翔する。同時に、淡い金色を帯びた光の軌跡が虚空に残る。カジミェシュがそれを視認するが早いか、光の矢はホワイト☆ぷりん・あら・もーどを容器ごと貫いた。
 ホワイト☆ぷりん・あら・もーどが体勢を立て直そうと左右に揺れれば、果物がぶつかって揺れる。
「隙あり!」
 エアシューズに炎を纏った沙門が蹴を加えれば、プリンと生クリームも弾むように揺れ動いた。
「さっきの回復もおいしそうでした……このデウスエクス見てると、おなかがすいちゃいますね……」
 でもがまんがまん、と首を振り、ミストリースはファミリアロッドをペットの形状に戻す。小さなうさぎの「うささん」に魔力を籠め、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどに向けて射出する。
「うささん、がんばって」
 真っ直ぐに飛んでいくうささんを応援するミストリース。うささんは見事命中。反動で宙を飛ぶものの、しっかりとミストリースの手元に戻ってくる。
「えらいです、うささん!」
 褒めて撫でれば、うささんは気持ちよさそうに目を細めるのだった。

●ハロウィンの夜は更けて
 何度目かの果実の爆弾が、放り出される。眼鏡越しに軌跡を読む優輝は、拙い、と目を細めた。
「……こっちか」
 しかし、優輝が呟くよりも早くカジミェシュが動く。
「そちらには行かせんよ。……私が相手になろう!」
 爆音と爆風。一瞬途切れた煙の隙間から、今のうちに、とカジミェシュが前衛の仲間に視線を送った。うなずき、クレーエが言葉を紡ぐ。
「動きを止め、息を止め、生を止め……休んだらいいよ、オヤスミナサイ」
 自身の体内に宿る《悪夢》の残滓を、使役する。《怠惰》を体現する黒き翼を持つ悪魔の化身、その羽根がふわりと敵に触れた。途端、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどの動きが鈍る。そこへ、獲物を仕留める獣が如くルティエが迫る。
「私達ケルベロスが護る人々に手を出そうとしたこと、彼の世で後悔すればいい……サヨウナラ」
 瞳に妖しい紫の光を灯した銀狼は、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどへ冷たく告げた。そこからの動きは、ごく自然に。
 手にした刃を無音で一閃させると、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどの容器が水平にずれる。ずるりと落ちた上半分からプリンや果物、生クリームがこぼれ、瞬く間に霧散した。
 静まりかえった市民ホールには、もはやデウスエクスの気配はない。
「どうやら、俺たちの勝利のようだな! 変わった手応えだったが、うむ、俺は楽しかったぞ!」
 沙門が豪快な笑い声を上げてオウギを見れば、同意を示すように蓋部分を開閉しているのが目に入る。オウギも満足のようだ。
「全員無事で、何よりだ。……この程度の怪我なら、明日のミサは大丈夫だろう」
「無理はいけませんよ。念のため、ヒールさせてくださいね」
 カジミェシュを癒やすシマツの表情は、戦闘時と変わらない笑顔のまま。仲間のヒールはシマツに任せ、クレーエとイリヤ、そしてミストリースはホールの修復を始めた。
 彩り豊かなハロウィンの飾り付けは、すべて無事だ。
「一年に一度のお祭りだもん。きちんといい思い出のまま……また来年も楽しめるといーね」
 サキュバスミストを展開し、クレーエが床を修復してゆく。その後ろで、イリヤが壁にヒールを施しつつ、きょろきょろと辺りを見回す。特に、ホワイト☆ぷりん・あら・もーどが消え去った場所を念入りに。
「敵の消滅とともに何も残らず、か——うん、こっちの修復は完了。キミの方はどう?」
「ちょっと面白くなっちゃったけど……こっちも終わりました! さあ、帰っておかあさんにプリン作ってもらおうっと」
 楽しげに呟くミストリースの頭部で、白いチューリップも嬉しそうに揺れた。
「……うん。帰ったら動かない普通のデザートが食べたいな」
 呟き、肩の力を抜くルティエの後ろに近寄るのは——とても良い笑顔を浮かべたクレーエ。手を伸ばして、ルティエの肩に顎を置く。
「トリックオアトリート! ……とはいえ、俺はおやつはいらないから悪戯がしたいな♪」
 その手はもふもふした尻尾を、これでもかとばかりにもふる。そしてもふる。
「ふっきゅ!? ちょ、どさくさに紛れてもふらないで!? って、さりげなく耳にも手を伸ばさないのー!」
 毛をふわっと逆立てるルティエの抗議を受け止めつつ、クレーエはその感触を堪能するのだった。

 悪戯するお菓子は、ケルベロスたちがしっかりと片付けた。ハロウィンを楽しんだ人々は、きっと無事に帰り着いている頃だろう。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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