暗夜に現る

作者:犬塚ひなこ

●暗夜に再び
 広島県は呉市。
 とある交差点では信号機が点滅する光がちかちかと瞬いていた。
 人の気配のないその場所に、何かの影が横切る。まるで夜の中を泳ぐようにゆらりと揺れ、浮遊する物体の正体は――怪魚の姿をした死神だ。
 青白く発光し、泳ぎまわる怪魚の軌跡はまるで魔法陣のように浮かびあがる。
 すると、その中心に人影が現れた。
「…………」
 顔には螺旋模様の仮面、身にまとう装束は夜に溶け込むような漆黒。その手には螺旋手裏剣。そして、首に巻きつけている長布は目が覚めるほどの鮮やかなブルーだ。
 それは以前、ケルベロス達が倒したはずの螺旋忍軍の男だった。
 だが、その姿は生前とは違う。
 その腕は獣めいたものに変じており、足取りはおぼつかず、知性を完全に失っている様子が見て取れた。怪魚を従えた男には明確な目的は見えず、周辺をただ彷徨うのみ。

(「ああ、元同僚さん。やはり死神にサルベージされてしまったようですね」)
 その様子をリリィ・オルティナ(元螺旋忍軍にして技の鹵獲者・e00131)はしっかりと見つめていた。彼女は死神の動きを予想し、ひっそりと周辺の偵察を行っていたのだ。
 そして現在、懸念は現実となった。
(「急いでケルベロスの皆さんに知らせなくては――」)
 リリィは地を蹴り、仲間の元へ急ぐ。今は彷徨うばかりの螺旋忍軍だが、それが何らかの危険に繋がる可能性も高いだろう。
 そんなことは絶対にさせないと心に決め、リリィは夜を駆け抜けた。
 
●夜に屠る
「ということなので、皆さんに協力して貰いたいんです」
 自分が実際に見た光景を語り、リリィは集ったケルベロス達に願う。
 今回、倒すべき相手は『青マフラーの螺旋忍軍の男』と、彼をよみがえらせた下級死神の『怪魚』だ。彼らは今、真夜中の街をうろついている。
 どうやら現場に現れた怪魚型の死神はケルベロスによって殺されたデウスエクスの残滓を集め、その残滓に死神の力を注いで変異強化した上でサルベージし、戦力として持ち帰ろうとしているらしい。
 ヘリオライダーから聞いた死神の目的を皆に説明し、リリィは掌を握った。
「死神の思うようにはさせません。ですから、螺旋忍軍を再び倒しに行きましょう」
 変異強化された螺旋忍軍の男は知性を失っている。
 敵は言葉も話せず、ただ目の前の敵を屠ることしか考えられないようだ。何らかの情報を引き出せるわけではないので今回は戦うことだけを考えればいい。
 しかし、男の傍には怪魚も控えているので甘く見てはいけない。
 気を引き締めて行きましょう、と告げたリリィは思いをあらたにした。螺旋忍軍から逃げ出した過去を持つリリィは、倒した男を『元同僚』と呼んでいた。それゆえに個人的に思うことも少しはある。
「せっかく倒した元同僚さんを復活させるなんて許せません。それに、妙なことをする死神の策略は止めなければいけませんよね」
 そして、リリィは決意を抱いた。
 暗夜に消えた男がまた現れるなら、再び夜の底に沈ませてやろう、と――。


参加者
リリィ・オルティナ(元螺旋忍軍にして技の鹵獲者・e00131)
早門瀬・リカ(星影のイリュージョニスト・e00339)
クラウス・ロードディア(無頼剣客チンピラ系・e01920)
紅狼・蓮牙(ワールウィンド・e04431)
上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)
デレク・ウォークラー(鋼焔のアリゲーター・e06689)
雨瀬・雅輝(ウィザードガンズ・e11185)
黄檗・瓔珞(草臥れ浪人・e13568)

■リプレイ

●死神の影
 深く巡る夜闇には、あの日と同じ静寂が満ちていた。
 交差点を照らすのは幽かな街燈と明滅する信号機の光のみ。物寂しくも映る深夜の光景の中、奇妙な魚の影が揺らいだ。
 ゆらゆらと夜を泳ぎ回る怪魚の傍には、虚ろな様子の人影が見える。
 あの夜に対峙した螺旋忍軍の男で間違いないと判断し、リリィ・オルティナ(元螺旋忍軍にして技の鹵獲者・e00131)は小さく呟く。
「何とも哀れな事ですね」
 名も知らぬ元同僚ではあるが、リリィは同情を禁じえなかった。ただ、無様な姿を人様の眼に晒さぬ内に倒すのがせめてもの情けというものだろうか。
 そして、ケルベロス達は一気にヘリオンから降下した。
 身体で風を切り、目標地点を見据える。
 ――三、二、一。
 戦闘開始の時を計るように、距離を数えたデレク・ウォークラー(鋼焔のアリゲーター・e06689)はしかと敵影を捉え、鉄塊剣を抜き放った。
 着地と同時、勢いが消えぬうちに刃を振りあげたデレクは地獄の炎を螺旋忍軍の男に叩きつける。
「ケッ、余計なことしやがって。死人は大人しく死なせとけってんだ」
「……さぁ、ダンスタイムだ。せっかくシャバに戻ってきたんだ。刺激的に踊りなよ、デッドニンジャマン」
 間髪入れずに雨瀬・雅輝(ウィザードガンズ・e11185)が氷を司る精霊に呼びかけ、張り巡らされた氷のレールを滑るようにして敵陣へと飛び込んだ。狂爛舞奏界の力を発動させた雅輝の声と共に銃弾が舞い、標的の身体を貫いてゆく。
 だが、不意打ちを察した死神怪魚と螺旋忍軍はすぐさま迎撃態勢を取った。
 襲い来るのは男が放つ手裏剣。
 双方からの攻撃が来ると察し、身構えた黄檗・瓔珞(草臥れ浪人・e13568)は螺旋忍軍からの一閃を受け止めた。
「やれやれ。死んだ以上は、そのまま閻魔のお世話になってほしいんだけどねぇ」
 身体に走る痛みを堪え、瓔珞は紅弁慶と名を冠する霊刀を抜き放つ。月光の斬撃で男に反撃を見舞い、瓔珞は自分にとっても元同僚でもある男を見据えた。
 続いて戦場に舞ったのは怪魚の怨霊弾。
 その一撃は早門瀬・リカ(星影のイリュージョニスト・e00339)に向かい、弾けるように毒を撒き散らしていった。
 リカが痛みを払うように首を振れば、そのポニーテールも合わせて揺れる。
「倒した敵が復活しちゃうなんて、死神って話に聞いていた以上に厄介だね」
 死神を見つめるリカは紡いだ魔力で幻獣を生み出し、その牙で敵を狙わせた。そこに合わせてリリィが螺旋の氷縛波を放つ。
 上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)は全身を地獄の炎で覆い尽くし、己の力を増幅した。
「死神のサルベージ能力か……」
 零が興味を抱いているのは、死神が持つ特殊能力のこと。何とか解き明かせないかと考える零だったが、今は戦いに集中すべき時だと自分を律した。
 ひとたび、戦いが始まれば気は抜けない。
 クラウス・ロードディア(無頼剣客チンピラ系・e01920)は太刀を敵に差し向け、生気のない螺旋忍軍の男を見遣った。
「ナンマンダブ、っと。死骸を好き勝手されるってのは胸糞悪ィ話だな」
 ちらりと死神怪魚に視線を移した後、クラウスはその刃で以て緩やかな弧を描く斬撃を放つ。刃は敵の手甲で弾かれたが、今はそれで良い。
 クラウスが身を引き、視線を送った。その先には隙を突き、今まさに敵に迫らんとしている紅狼・蓮牙(ワールウィンド・e04431)の姿がある。
「迷える魂に永遠の眠りを与えんがため。さて、皆様。参りましょうか。」
 仲間と見事な連携を連ねた蓮牙は、電光石火の蹴りで敵を穿った。男の身が揺らぎ、夜の空気がしんと震える。
 この場に存在しているのは、ここに在るべきではないもの。
 暗夜に消したはずの不安がまた現れたならば、ふたたび消してやるまでだ。
 そして、ケルベロス達はそれぞれに戦いへの決意を強めた。

●死人忍者
 死して尚、生者の世界に引き上げられた男は虚ろに見えた。
 声も発さず、ただ目の前の外敵を排除する為だけに動く男はどうにも痛ましい。デレクは軽く舌打ちをし、剣を大きく振り払った。
「蘇っちまったモンはしゃーねえ、もう一度引導渡してやらあ」
 放たれる地獄の炎弾は男に見舞われ、その力を奪い取ってゆく。だが、この程度で倒せるほど甘くはないとデレクは知っている。
 クラウスも精神を極限まで集中させ、双眸を鋭く細めた。
「まあいいさ、斬って終いだ。きっっっちりあの世に送り返してやらァ」
 細かいことは最早どうでもいい。刀を抜いた瞬間から斬ることしか興味が無くなっているクラウスの思考は、如何に両断するかの一点に収束されていた。
 そして、その場で刃を斬り払うと同時に敵の周囲に爆発が起こり、クラウスは薄い笑みを浮かべる。
 瓔珞は敵の強さを肌で感じ取り、片手で無精髭を撫でた。
「まあ、お仲間にならないようにこっちも頑張ろうか」
 瓔珞が絶空の斬撃を放ち、続いた雅輝も古代語の詠唱と共に魔法光線を敵に向けた。
 更にリカも仲間に機を合わせ、次は螺旋の男へ幻影雷獣撃を解き放つ。
「このまま放っておくのは螺旋忍軍の人も可愛そうだよね!」
 ――我が呼び出すは虚なる雷の獣、目の前を敵を噛み砕け。詠唱の直後、解き放たれた雷獣は敵の動きを一瞬だけ止めた。
 対峙するのは虚ろな男に死神怪魚。
 両者ともに不気味な様相だが、リカは決して怯まなかった。
 一方、怪魚の相手を務める零は敵の接近を感じて身構える。迫る怪魚が口を開けて牙を剥き出しにするが、零とて負けてはいなかった。
「俺に近付くな。この焔で焼き尽くしてあげるよ」
 地獄の焔と共にブラックスライムを放ち、零は怪魚を捕食が如く黒液を操る。
 見事に捕縛された死神の動きは鈍くなっている。そこに隙を見出し、リリィは更なる一撃を撃ち込むべく両手の手裏剣を高速回転させた。
「まあ彼があんな風になったそもそもの要因は私たちですし、今度こそ終わりにしてあげますよ、元同僚さん」
 私が戦うのは主に死神の方ですけど、付け加えたリリィは螺旋の力で竜巻地獄を巻き起こしていった。零とリリィの二人が怪魚を相手取って行く中、蓮牙も螺旋忍軍の男相手に攻勢に移っていく。
「鉄式銃闘技、見切れますかな?」
 この身は鉄風雷火にして、死をもたらすものである。そう言い切った蓮牙は敵に近付き、至近距離で銃撃と蹴業のコンビネーションによる連撃を見舞っていった。
 だが、敵もケルベロスを排除しようと応戦する。
 死神は零を狙い続け、怨霊弾を次々と放ってきた。デレクがすぐに仲間を庇おうと動くが、そのすべてを受け切ることは難しい。
 されど、仲間が受けた傷は雅輝がすぐに癒していった。
「灰は灰に、影は影に。ニンジャは夜の闇に消えるもんさ」
 癒しの力を霧として解き放った雅輝は、不敵な笑みを浮かべて敵の末路を宣言する。この言葉通り、必ず闇に屠ってみせる。
 瞳でそう語った雅輝に頷き、クラウスは螺旋忍軍の男を睨み付けた。
「死人は大人しく、土に還れ」
 斬ることを何よりも優先して見舞われてゆく旋刃の一撃は鮮烈に、暗夜の中で激しく巡ってゆく。

●散る螺旋
 戦いは続き、幾重もの攻防が繰り広げられた。
 死した者と低級死神とはいえど、敵の強さは侮れるものではない。
「おっと、こっちは任せてくれよ」
「そう簡単には手出しさせやしねェ」
 瓔珞とデレクが仲間を庇う形で布陣しながら男に攻撃を加え、リカが両方の敵を的確に妨害していく。
「あたしもみんなと力を合わせて頑張るよ!」
 リカが敵の動きを封じるその間に蓮牙とクラウスが螺旋忍軍を、リリィと零が怪魚への攻撃を担っていった。
 その中で癒しを担当する雅輝はあるとき、ふと気付く。
 どちらを優先的に撃破するのか、皆の意思がばらばらであるかもしれない。そのため、どちらも撃破しきれずに戦いが長引いているのだ。
 そのことにはリリィも気付いており、零と自分だけが攻撃を向けている状態で怪魚を倒すことは出来ないと判断した。
 戦いが激化する中、雅輝は癒しに専念せざるを得ない。
「ニンジャが弱り始めてるぜ。おそらく、先に倒すのは向こうが良い」
「わかりました。このまま私達が抑えておきます」
 霧の癒しが広げられる中、雅輝の言葉を聞いたリリィは静かに頷いた。零も戦いの流れを察し、視線で以て了承する。
 だが、そのとき――。
 螺旋忍軍が氷結の螺旋を生み出し、蓮牙を狙い撃った。
「気を付けろ、物凄い氷の力だ!」
 すぐさまクラウスが蓮牙に注意を呼び掛け、瓔珞達も庇いに入ろうと地を蹴る。しかし、男はそれよりも速く氷の力を発動させた。
「く……死せる者とはいえ、これほどまでの力、が……」
「今すぐに癒しを……いや、遅かったか……!」
 蓮牙はあまりの衝撃に膝をつき、深い息を吐く。とっさに雅輝が癒しの力を施そうとするが彼の傷は相当に深く、これ以上戦うことは不可能だった。
「この、アンタが仲間に与えた苦痛……俺が今ここで返してやるよ! 一億倍にしてなぁ……!!」
 仲間を倒され、激昂した零は勢いのままに黑焔を纏う。
 そして、彼は噴き出した炎をブラックスライムと融合させる。炎と黒き液体が混ざりあった刹那、視認することすら困難な衝撃波が敵の至近距離で炸裂した。
 その隙を縫い、蓮牙に休んでいて欲しいと告げた瓔珞は薬師如来の印を組み、自らに癒しの力を宿した。
「――除病安楽、薬師瑠璃光如来の救いあれ」
 放出した霊力で蓮華の花のような陣を描き、前衛を回復した瓔珞は思う。
 脳裏に過ぎるのは螺旋忍軍だった日々。ある日、自身のあり方に疑問を持ち抜け忍となった過去を持つ彼は首を振り、蓮牙の分まで戦い続けることを心に決める。
 戦いは瀬戸際。
 零達は怪魚を抑えているが、いつ雅輝の癒しが効かなくなるかもわからなかった。このまま後手に回れば戦線が崩れ、敗北が近付いてしまうだろう。
 そうはさせないと掌を踏み締め、リカは軽い身のこなしで地面を蹴った。忍者らしく変幻自在に、敵に向けて手裏剣を放つリカは男だけを狙い撃つ。
「氷のお返しだよ!」
 螺旋の氷縛波で男を穿ったリカは、今だよ、と仲間に合図を送った。
 クラウスは合図を受け、駆ける。
 仲間や敵の攻撃の鋭さ。それらを眺め、自身はどうかとクラウスは常に自問自答していた。しかし、斬ることは誰にも譲らない。矜持を持ってして敵に当たることを誓った彼は、苛烈な気迫と共に剣を振りあげた。
「手向けだ、あの世に持ってけや」
 放たれたのは十絶陣が一つ、突進から放つ高速乱撃術。颶風の如き剣は幾度も振るわれ、螺旋忍軍を次々と切り裂いてゆく。
 デレクは今こそ好機だと察し、口の端を緩めた。
「テメェもツイて無ェな、二度も殺される羽目になるたぁよォ?」
 鎮魂歌を刻んでやる、と告げて身体に酸素を溜め込んだデレクは、螺旋忍軍に最期を与えるべく鉄塊剣を振るう。止まない律動を刻むが如く、放たれた鮮烈な連続攻撃はクラウスの攻撃と重なっていった。
 そして、二人の最後の一閃が振るわれた、次の瞬間――。
 男が巻いていた青布がはらりと舞ったと思うと、螺旋忍軍がその場に伏した。断末魔すらあげず、倒れた男の姿は幻だったかのように消えてゆく。
 これで片方の標的は倒した。
 リリィは横目で元同僚の最期を見遣り、静かに唇をひらく。
「さあ、これで後はあなただけですね、死神さん」
 彼女自身は青の螺旋忍軍には大して思い入れはない。それでも、死者をこき使う死神には言いようのない憤りを感じていた。 
 死神はまだ余力を残しているが、後は畳み掛ければ良いだけ。
 戦いの終わりが近付いていることを感じ、仲間達は更に気を引き締めた。

●暗夜に終わる
 死神怪魚は牙を剥き、怨霊の力を舞い飛ばす。
 その姿は恐ろしいものだったが、もう何も怖くなどない。リカは霊刀を抜き、凛とした瞳に敵の姿を映した。
「死神なんか怖がったりしないよ」
 斬り放った絶空の斬撃はその言葉を表すかのように、力強く見舞われる。
 クラウスも敵が弱ってきていると判断し、刃を振りかざした。
「もう何をしてきたって構うもんか。なァ、怪魚さんよ」
 闇夜に閃く月光斬は鋭く、クラウスは全力で以て死神の身を抉ってゆく。リリィも螺旋奥義を発動させ、黒いオーラで死神を包み込んだ。
「その怨嗟の力、私に下さい」
 怨霊弾についての知識を得るべく、リリィは漆黒の力で敵を穿つ。
 そこへ零が跳躍し、宙を駆けながら空中でブラックスライムを壁のように変換させ、それを足場として摩擦の炎を起こした。
「これで……どうだ!」
「もうそろそろ終わらせるとするか」
 零の蹴りに合わせ、雅輝も目にも止まらぬ速さで弾丸を放ってゆく。
 敵に反撃の機会すら与えず連撃に続き、デレクはふたたび苛烈な無酸素連撃を叩き込んでいった。流石に呼吸が乱れるが、疲れを感じさせぬ勢いを保つデレクは、あと一撃で敵が倒れることを察する。
「仕方ねェ、最後は譲ってやるぜ。……今だ!」
 デレクは仲間へと戦いを終わらせろという意味の呼び掛けを行った。
 即座に瓔珞が応じ、大業物・紫苑の柄に手を掛ける。
「さあ、此の刃で以って死を与えてあげよう」
 刹那、神速にして必殺の一太刀が怪魚に放たれ、剣閃が戦いの終幕を飾った。

 そして、螺旋忍軍がそうだったように、死神の姿も跡形もなく消える。
「派手に暴れられて満足だろォが、壊れ物。おやすみさん、だ」
「さようなら、元ご同業さんに死神さん。憐れみこそすれど、同情はしないよ」
 クラウスと瓔珞は消えて行った敵に彼らなりの言葉を送り、それぞれの思いを夜に馳せた。デレクも静けさに満ちた交差点を見回し、終わったな、と仲間を見遣る。
 倒れていた蓮牙の傷は、既にリカが介抱していた。
「もう大丈夫だよ」
「申し訳ありません。しかし皆様、頼もしい限りです。戻りましたらお茶の用意をいたします故、ささやかながら疲れを癒してくださいませ」
 何とか立ち上がれるまでに回復した蓮牙は小さく笑み、感謝の意を示す。リカは楽しみだと微笑み、期待を寄せた。
 零は仲間の無事に安堵しながらも、死神が消えた箇所をじっと見つめる。
(「サルベージの謎、解き明かしてみたいな……」)
 死神の力について考える零は、いつかこの思いが叶えばいいと願った。そんな中、リリィは戦場だった場所から踵を返す。
 危険は消えた。それならば、ここに居る必要もないだろう。
「仕事は終わりました。さっさと帰りましょう」
「静かな良い夜だ。俺たち番犬もひっそりと闇に消えるとしようぜ」
 リリィの言葉に同意し、雅輝も仲間達と共に帰路につくことにした。
 空の色は未だ昏い。
 だが――闇にひそんでいた危険は今夜、ケルベロス達がふたたび消した。もう何も案ずることはない。そうして、彼等が去った後には穏やかな夜の空気が満ちていた。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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