命を待ちわびる花

作者:質種剰

●樹海の奥
 その森の奥地は、異様な雰囲気が漂っていた。
 ろくに光も射さぬ暗い暗い小径のそこかしこ、白くぼんやりと浮かび上がる何かが。
 鬱蒼と生い茂る木々の太い枝に、紐で白い看板が吊るしてあるのだ。
『生きていれば必ず良い事がある』
『止まない雨は無い』
『希望は見つかります』
 また、地面に何本も突き刺してある立て札にも、
『借金は解決できます』
『救いのダイヤル。今すぐお電話を』
『今一度、家族の声を聞いてみませんか』
 そんな文言が綴られていた。
 看板の群れを抜けると、常ならざる空気はますます色濃くなっていく。
 男性が通勤用に使っていそうなセカンドバッグが落ちていたり。
 かと思えばやたらと綺麗な新品同様のアタッシュケースが放置されていたり。
 腕時計、茶封筒、革靴。
 何故落ちているのか考えるのを拒否したくなるような物が散乱していたりする。
 そして、切実な看板や不穏な落とし物地帯の、更に奥では。
「さあ……どんどん僕のところへおいで……」
 綺麗に花開いたゼラニウムの両腕を広げて、どことなく精神集中しているようにも見えるフレッド・ネグローニの姿があった。
「大切な友の命、僕が有効に活用してあげるから……」
 その呟きは、温かみが無ければ冷たさもなく、ただただ平坦である。
 もしかすると、今まで森の奥へと自ら進んでいった被害者達の行動は、被害者当人の意識へ気づかれる事なく、フレッドが影響を与えていたせいなのかもしれない。
「…………」
 クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)と天音・迅(無銘の拳士・e11143)、祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)は、遠目にフレッドの姿を確認すると、硬い表情で踵を返した。

●いざ決戦の時
「警戒活動をしてくださった皆さんのおかげで、人型攻性植物の動きを察知する事ができたであります」
 小檻・かけら(鉄球ヘリオライダー・en0031)が真面目な面持ちで話し始める。
「今までの一般人取り込み事件を起こしていた攻性植物を攻撃できるチャンス、逃す訳にはいかないでありましょう。皆さんには、今回居場所が判明した黒幕、フレッド・ネグローニの討伐をお願いしたいであります!」
 人型攻性植物フレッド・ネグローニは、全身に大輪のゼラニウムを咲かせて『友情破壊ブーケ』なる技を使う。敏捷さに満ちて舞い散る花弁が単体を斬り刻む、射程の長い斬撃だ。時に催眠効果を齎す事もある。
 また、『蔓触手形態』に変化して、距離の近い相手1人を破壊、同時に捕縛する事もある。
「なおかつ『埋葬形態』へ変じて、地面と接した根から戦場を侵食、複数人を飲み込んだりもしますからご注意くださいませ」
 戦場ごと侵食するだけあって射程は長く、複数人へ魔法によるダメージと催眠効果を及ぼす。
「今回発見された敵は、人間に攻性植物を寄生させ配下を増やす能力を持ってるであります。かなり厄介な能力でありますから、必ず撃破してくださいませ。宜しくお願い致します!」
 かけらは彼女なりにケルベロス達を激励、打倒フレッドの機運を高めるのだった。


参加者
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
天音・迅(無銘の拳士・e11143)
ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)
クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)

■リプレイ


 夜の帳すら届かぬほど鬱蒼と繁った樹海。
「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
 御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)が、暗緑色の布を頭からすっぽり被った内側で静かに呟く。
 精悍な体格と漆黒の髪を持つ地球人の青年で、普段は隠しているものの、極光の如く揺らめく『煌青色』とでも言うべき瞳の色が印象的。
 常識人の皮を被って日々殺人衝動を抑えているが、血の気が多く戦闘も嫌いではないそうな。
 そんな白陽は、暗がりに融け込んでフレッドへ接近を悟らせぬ為なのか、布を人数分持参し、滑り止めのついた靴を吐いて足音を立てず歩いている。
 更には、置いても使える壁掛けランタン風ライトや、逃走された場合の追跡用らしい鈴つき紐をタオルに包んで携えるという、冷静沈着かつ何事にも慎重な性格を垣間見せた。
「……探してみるものだな。……増えるものは元から断たねばならない。……祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟る……」
 相変わらずの調子でぼそぼそと呪詛を吐くのは、祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)。
 長い黒髪に光を失った赤い瞳、ところどころ血に染まった白装束、手には愛用のハンマーや五寸釘に藁人形。
 どこからどう見ても丑の刻参りで人を呪おうとする装いで、イミナの万物を呪わしく思う気持ちがその見た目にも独特の雰囲気となって表れている。
 彼女も腰に提げられるライトを準備していたが、その眩い光で下から照らされた様子など、紛れもなくホラーである。
 擦れ違った人が例え悲鳴を上げて逃げていこうと気にしない程感情の希薄なイミナだが、フレッドのやり方には思う所があるのか、松茸事件に引き続いての参加で頼もしい限りだ。
 一方、天音・迅(無銘の拳士・e11143)もまた、かの松茸事件の解決に尽力した1人だ。
「フレッド、か」
 その時に亡くなった名前も知らぬ少年を思いながらも、決して感情に捉われ過ぎず、強気に陽気に振る舞うと決めた迅。
 短めの赤い髪に垂らした藤の花房と白く大きな翼が特徴のオラトリオで、手足が長くすらっとした体型。
 前回の松茸事件の際に抱いた懸念を払拭する為、自力の調査でフレッドの潜伏場所を見つけ出した迅である。
「ヤツにはヤツなりの価値観があるのかもしれねえ。でも、これ以上は見逃せねえ。此処で止めるぜ」
 フレッドへ対する思いも他の仲間同様、並々ならぬものがあるに違いない。
「これ以上の犠牲を出さないためにも、こ、怖いけど頑張ります……!」
 隠された森の小径で邪魔な雑草達へ我から脇に避けさせて皆を先導するのは、クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)。手にはちゃんとライトを持って翳している。
 艶めく銀髪と澄み切った鏡のような瞳が綺麗な美少女で、人の悪意を知らぬまま育つとこうなるという具体例の如きオラトリオ。
 オルトロスをオっさんと呼んで可愛がっているものの、その音から連想する意味のせいか、オっさん当人はその呼び名がお気に召さないらしい。
 ともあれ、クリスティーネも先の2人と同じ、フレッドの居場所を根気強い捜索で突き止めている為、その胸中は強い決意に満ちていた。
 他方。
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪、参ります」
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)は、毎度依頼前のルーティンとして、刀印を結んだ指で神霊剣・天の刀身をうっすらとなぞる。
 その後は、怖がりなクリスティーネが焦って転ばぬようにとその手をしっかり繋いで、彼女の隣を歩いた。
 黒髪と黒い瞳がどことなく物静かな雰囲気を漂わせる青年で、陰陽師の直衣と指貫を身に着けている沙雪。
 かつて双子の姉を殺されるという重い過去を背負いながらも、拝み屋稼業やウェイターとして日々逞しく生きているそうな。
 この日は、樹海の足場が悪いと踏んで、滑り止めつきのブーツを履いていた。勿論灯りの準備も忘れていない。
「しかし、樹海は思った以上に暗いね。クリス、足元には気をつけて」
 優しくエスコートする様子からも判るように、クリスティーネとは恋人同士であり、互いに互いを想い合う仲睦まじさが微笑ましい。
「これまでの事件の元凶、ようやく対峙出来るのですね。新たな犠牲者が出る前に、その元凶を断ちましょう……」
 そう決意を語るニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)の声は、どことなく固い。
 赤いリボンで結い上げた焦げ茶のポニーテールが可愛らしい、ドワーフのメイドさんであるニルス。
 クラシカルなエプロンドレスのよく似合う溌剌としたイメージの彼女だが、最近は大人びた表情も見せるようになり、新たな魅力を振り撒いている。
 ニルスは暗がり対策として、腰のベルト付高輝度LEDライトとライドキャリバーであるトライザヴォーガーのヘッドライトを点灯させていた。
 その傍ら。
「……皆……こっちなら歩き易い……」
 狩猟服を身に纏い隠された森の小径を活用、クリスティーネと協力して仲間が歩き易いよう気を配っているのは、フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)。
 光を跳ね返さない茶の瞳や紫のストレートヘアがどこか生気に乏しく虚ろな印象を与える、記憶を無くしたレプリカントの少女。
 人見知りらしく口数は決して多くないが、打倒フレッドを叶えるべく彼女も到着までの間積極的に相談へ加わっている努力家。
 フローライトは紫葉牡丹の葉っさん(小型攻性植物)を飼っていて、今もその内の一株を照明代わりに携えている。
 また、ニルスやフローライトは、フレッドの逃走対策として、蛍光塗料入りカラーボールをそれぞれ装備していた。
 さて。
「お前を見つけるのに10年もかかったぞ……この大馬鹿野郎」
 ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)は、南瓜のマスクで表情こそ判らないものの、微かに笑った声を出す。
 長年探し求めていた宿敵との決着がようやくつこうかという時であるにも拘らず、その胸の内は妙に穏やかだ。
 フレッド・ネグローニの居場所が特定されたと聞いただけで、自然と心の整理が付いてしまったらしい。
 敢えて例えるなら、友の墓前へ花を供えに行き、昔話を始めてしまうような感覚とでも言おうか。
 ともあれ、彷徨い続ける死に損ないと己を卑下してジャック・オ・ランタンに扮するジャックだが、今の彼には充分な生気が感じられる。
 それだけ、フレッドを討つなら自らの手で——という決意が強いのだろう。
 そんなジャックも光源の準備は抜かりなく、闇夜を照らすランプをベルトに付けていた。


「いいよ……どんどん、僕のところにおいで……」
 樹海の奥。フレッド・ネグローニはゼラニウムを咲かせた両腕を広げ、じっと精神を集中させていた。
 奴がこちらの気配へ無関心なのを良い事に、ケルベロス達は接近、フレッドを取り囲んで布陣する。
 ぱしっ!
 フローライトやイミナ、沙雪が一斉にペイントボールをフレッドへ投げつけた事で、ようやくフレッドは両腕を降ろした。
 ちりん。
 白陽が投げた鈴つき紐も、奴の肩の茂みに上手く引っかかっている。
「不思議だね」
 フレッドが抑揚のない声で呟くや、樹海一帯を侵食すべく根を地面へ張り始める。埋葬形態だ。
 前衛陣が地面の揺れに足を取られ、平衡感覚も危うくなる。
「君達とは友達になれそうもない。僕の為にグラビティ・チェインを集めに行ってくれないのだもの」
 その言いように、今まで落ち着いていたジャックが歯噛みする。
 フレッドに人間だった頃の意識など、やはり微塵も残っていないと解ったからだ。
「これ以上あいつの声で喋るんじゃない」
 吐き捨てるや否やリボルバー銃を構えて、硬い地面へ命中させんと射撃。
 地面より跳ね返った弾丸で、フレッドの死角からその背中を貫いた。
「あ、足元が、ぐらぐら、しますっ……」
 強敵たるフレッドと遂に対峙した事への怯えもあってか、ぺたんと尻餅をつくのはクリスティーネ。
 それでも懸命に地を蹴って跳躍し、流星の煌めきが尾を引く蹴りを放つ。
 重力宿りし飛び蹴りをぶち当てて、フレッドの機動力を奪った。
 オっさんも彼女と息を合わせてフレッドへ突っ込み、咥えた剣で斬りつけている。
 ニルスはフレッドへ向かって丁寧に一礼した後、
「貴方にも生への執着があるのでしょう。でも、他者を顧みず物のように扱う……断じて許す訳にはまいりませんっ」
 毅然とした態度で言い切ると、アームドフォートの主砲を一斉に発射。
 狙い澄ました正確無比な弾道でフレッドへ強い衝撃を与えると同時に、微かな痺れをも残した。
 その傍らでは、トライザヴォーガーが炎を纏って突撃、フレッドへ体当たりして火傷を負わせた。
 ガイバーン・テンペスト(吾唯知足・en0014)も、オウガメタルに具現化させた黒太陽で絶望の黒光を照射、フレッドの根を乾し固める。
「お前は何故、移動を繰り返して人間を攻性植物に変えたんだ?」
 柚月は崩雷天華を仕掛ける際、フレッドの不可解な行動を問い質している。
「さあ、ケリをつけようぜ?」
 と、バスターライフルの銃口を向けるのは迅。
 大きなエネルギー光弾を射出、フレッドへぶち当ててそのグラビティを中和、弱体化させた。
 ばさっ。
 戦闘中は殊更言葉少なになる白陽が、無言で布を脱ぎ捨てたかと思うと、瞬きする間もなくフレッドの視界より消え失せる。
 そう錯覚させる程の速さで肉薄した刹那、電光石火の蹴りを繰り出して奴の細くない下腹部を抉り抜いた。
「フレッド・ネグローニ、ここで終いにしたいところだね」
 今まで隠密気流を纏っていた沙雪もこれを解除、戦闘態勢に入って半透明の『御業』をけしかける。
 真っ直ぐ飛んだ『御業』はフレッドの頭を鷲掴みにして、ギリギリと力を込め、その動きを封じるのだった。
「その花……とても好き……『ゼラニウム』……フローラの大好きな……お姉様の花で……名前……」
 フローライトは地面へ守護星座を描きながら、フレッドへはっきりと嫌悪感を示す。
「……だからこそ……あなたが気に入らない……」
 完成した守護星座が淡い光を放射して、前衛陣の失った体力を回復させ、異常耐性も齎した。
 一方で、後衛へはビーツーが雷の壁を構築してくれた。
「……お前達みたいな配下を増やす知能持ち植物が一斉に動き出したのは偶然か否か、どうでもいい話だ。……だが見つけた以上は祟るだけ」
 他方、淡々とした声音でフレッドへ呪わしげな言葉を紡ぐのはイミナ。
「……大人しくして貰う。……締め上げ、潰し、祟る」
 縛霊手を嵌めた拳で殴りかかると共に網状の霊力を放射、フレッドを緊縛せんと格闘した。
「……呪いの重ね掛けだ。……蝕影鬼、やれ」
 彼女のビハインドである蝕影鬼も、ポルターガイストを起こしてフレッドの根をビシバシと打ち据えた。


「友になれないから仕方ない。手向けの花をあげるよ。受け取ってくれるよね?」
 フレッドは再び両腕を天へ翳すと、その全身に次々とゼラニウムの蕾をつけて一気に開花、色とりどりの花々を咲かせる花葎とでも言うべき外見へと変貌する。
 ゼラニウムの花びらは風も無いのにふわりとフレッドの身体を離れ、一斉に襲い掛かってくる。
 一見花嵐のようで美しいが、その統率の取れた動きは虫の大群みたいな気持ち悪さもあった。
「うぅぅ、花いっぱいの筈なのに、不気味で怖いです……!」
 怖がって沙雪の背中へ隠れようとするのはクリスティーネ。
 そんな彼女の性格を理解しているのか、ディフェンダーたるオっさんはクリスティーネの前へ仁王立ちして、代わりにダメージを喰らった。
「オっさん……わたくしもオっさんのように皆さんのお役に立たないと……!」
 たった一撃で戦闘不能手前までの大怪我を負ったオっさんを前に発奮したクリスティーネは、簡単操作のお手軽爆破すいっちをぽちり。
 どごーーん!!
 フレッドの身体に貼りつけた『見えない爆弾』を爆発させ、得体の知れぬ威圧感も与えた。
 腰の後ろへ交差させて差していた斬霊刀を抜いて、空の霊力を込めるのは白陽。
 短めに仕立てた刀身を閃かせ、フレッドの傷跡を正確に斬り広げた。
 その後も一進一退の攻防が続き、じわじわとフレッドへ確実にダメージを蓄積させていく一方で、ケルベロス側はオっさんとトライザヴォーガーが友情破壊ブーケの直撃を受けて戦闘不能に陥った。
 イミナもフローライトを庇って蔓触手に絡みつかれたが、一目見ただけではどれがフレッドの蔓でどれがイミナの乱れた黒髪か判別つかない辺り物凄まじい。
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
 白陽は、一時的に普遍的無意識まで拡大した己が存在へ自らを沈めて、世界にも溶けゆく。
 そうする事で、フレッドへ物理的な傷を与えずとも存在と生命の根源を直接解体し、容易には消えぬ斬り傷を刻みつけた。
「鬼魔駆逐、破邪、火之迦具土神! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 刀印を結び、その手で四縦五横に印を切るのは沙雪。
 聖なる気の流れを作った後は、九字印を唱えることでその聖なる気を破魔の炎へと変えて放出、フレッドを炎の渦に包んだ。
「……何本目まで耐えられるか、試してやる。……祟る祟る祟る祟る祟る祟る祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟……封ジ、葬レ……!」
 イミナは、呪力のこもる杭をフレッドの胸へ直接打ち込む。
 この杭で穿つと呪力により体の自由を奪うが、杭そのものが齎す痛み自体尋常でない。
 カーンカーンカーンカーンカーン!
 そんな何より恐ろしい杭を、イミナは嬉々として打ちつけていく。
 フレッドの両手足や腹へ。かつて他の生け贄へしたように、さっさと意識を手放せと言わんばかりに、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
「自分を犠牲にしてでも……皆を護るお姉様の『決意』……フローラはずっと近くで見てた……」
 そうぽつぽつと洩らしながら、バックラーとして身に着けていた葉っさん(小型攻性植物)を空へと掲げるのはフローライト。
「同じ花でありながら……あなたはその真逆……本当に……不愉快……本当に……『愚か』……」
 フレッドに対してゼラニウムの花言葉を交えた皮肉を浴びせる傍ら、葉っさんへは夜中にも拘らず太陽の光が降り注ぎ、光合成形態へと変じて、イミナの傷を治癒するのだった。
「ザヴォちゃんの分まで私が頑張りませんと……」
 ニルスは、バスターライフルの長く大きい銃身から凍結光線を発射。
 しっかと狙い澄ました軌道でフレッドへ命中させ、その体温を一気に奪った。
「アンタが死なせた人々の分だけ、アンタは足跡を残したんだ」
 澱のように降り積もった怒りや悲しみを闘志に変えて、フレッドへ言い放つのは迅。
「わかるかい? 次はアンタの番ってコトさ」
 真っ直ぐ向けられた掌より迸る『ドラゴンの幻影』が、フレッドへ取り憑くや奴を焼き捨てる勢いで群れ巻いた。
「どちらかがヘマした時はその片を付ける約束だったな」
 ジャックは、ゆっくりと南瓜のマスクを外し、包帯だらけの顔を隠さずにフレッド・ネグローニと向かい合う。
 地獄化した顔を轟々と燃え上がらせる最中、ジャックの胸に去来したものは何だったか。
 攻性植物に呑み込まれる前、かつてのフレッドは、とても心優しくて人を傷つける事など好まない性格であった。
 幼馴染であるジャックと並び立てる強さを求めて、攻性植物へ手を出した——ジャックはそう記憶している。
 しかし、唯一無二の親友だったフレッド・ネグローニは、もういない。
 今目の前にいるのは、フレッドを身の内で殺してその知識や声色を利用している攻性植物だ。
「お前との約束……やっと果たせそうだ」
 ジャックは、地獄の炎を全て燃え移らせるぐらいの激しさでフレッドを焼き尽くす。
 魂を焼べる炉に投げ込まれたかの如き業火に燃やされて、とうとうフレッド・ネグローニが地に膝をつく。
 そのまま前へと倒れ臥した奴の全身を、ジャックの赤い地獄が黒焦げになるまで焦がしていった。
「う……」
 フレッドが最期の力を振り絞って腕を伸ばす。
 思わずジャックが手を取ろうとするも、その手は宙で止まった。
 ゼラニウムの花から零れ落ちたのは、一粒の種。
 フレッドが死ぬ間際まで執着したのは、人間へ攻性植物を植えつけて一体化させる事だった。
「……」
 被り直した南瓜のマスクの中で落胆するジャック。
 フレッドの遺体に、友の面影は全く無かったが。
 頽れた花葎の中から、焦げた首飾りが出てきた。ビール瓶の王冠を繋げたネックレス。
 人間のフレッドが攻性植物と一体化した際に、そのまま花の中へ埋もれていたと見える。
「ありがとうございます、皆さん。おかげで友との約束を果たせました」
 ジャックはネックレスを懐の中へ仕舞い、仲間達へ礼を述べる。
 南瓜で素顔は見えなくても、その声は幾分晴れやかに聞こえた。
「おつかれさん。何とかなったな。また組めたらいいな!」
 それへ答えるように、迅も皆へ明るく声をかける。
「これでおしまいになりますよう……」
 ニルスはフレッドが落とした種をジャックに断ってから処分すると、改めて犠牲者達へ黙祷を捧げた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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