パッチワークハロウィン~残滓のマレフィキウム

作者:柚烏

 夢のように楽しいハロウィンが終わり、パーティー会場は夢の名残りを残したまま、しぃんとした静寂に包まれていた。
 本格的な後片付けは、後日となるのだろう――床に散らばったままの紙吹雪やリボン、壁や天井を飾る賑やかなオーナメントは何処か寂しげで、まるで秘密の魔法が解けたかのよう。
 ――しかし其処に、音も無くふわりと現れたのはパッチワークの魔女。その名を、第十一の魔女ヘスペリデスと言う。
「……私が失っていた『服従』の心は満たされた。あぁ、誰かに服従し、その為に働く事の、なんと甘美なる事か」
 何処か陶酔した口調で囁く魔女は、艶やかな唇を歪めてくつくつと嗤った。魔女の力が最も高まる今夜、このヘスペリデスが、その役目を果たすとしよう――ユグドラシルにおられる『カンギ様』の為に、私の黄金の林檎からハロウィンの日に相応しい植物を生み出そう、と。
「さぁ、お前達、ハロウィンの魔力を集めて私に捧げよ。全ては、『カンギ様』の為に」
 ヘスペリデスの指先から零れ落ちるのは、モザイクに包まれた黄金の林檎。それが地面に落とされるや否や、林檎は祭りの残滓と混ざり合い――人間よりも一回り大きな、お菓子の形をした攻性植物と化した。
「さぁ、人間共の夢の残滓と黄金の林檎より生まれしものよ。人間どもを喰い散らかすがいい……」

 皆、ハロウィンパーティー楽しかったねと微笑みながら、エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は色とりどりの飴玉が入ったキャンディポットをころころと転がす。
「でも、パーティーが終わったばかりだけれど、新たな敵の動きがあったみたいなんだよ」
 と、真剣な表情になったエリオットが伝えるには、今回の事件は辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)が見つけてくれたものらしい。彼の調べでは、ハロウィンパーティーが終わった直後に、パッチワークの魔女の一人が動き出したようなのだ。
「……動き出したパッチワークの魔女は、第十一の魔女・ヘスペリデス。彼女は、日本各地のハロウィンパーティーが行われた会場に現れ、会場に残ったハロウィンパーティーの残滓と、自身が持つ黄金の林檎の力で、強力な攻性植物を生み出してしまう」
 ――このままだと、パーティーを楽しんで家路につこうと言うひと達が襲われて殺されてしまうかもしれない。楽しいハロウィンを惨劇で終わらせない為に、皆にはパーティー会場に向かって現れた攻性植物を撃破して欲しいのだと告げ、エリオットはびしっと敬礼した。
「場所は神奈川県にある街の公民館で、付近のひと達がハロウィンパーティーの会場として使っていたんだ。もうパーティーは終わって、周囲にひとが居ない状態での戦いになるね」
 現れる攻性植物は1体のみだが、体長は3~4mほどあり、そこそこの強敵と言えるだろう。その、お菓子の形をした攻性植物の名は――。
「ブラック☆ぷりん・あら・もーど……!」
 翡翠の瞳をきゅっと細めて、エリオットはぽつり。何だか可愛らしい名前だが、決して油断してはならない。その名の通り、黒くほろ苦さを湛えた攻性植物は、まるでブラックスライムの如き変幻自在の攻撃を行ってくることだろう。ついでに、ぐるぐる模様の瞳にも注意する必要がある。
「魔女が事件を起こすなんて、何だかまだハロウィンが続いているような気もするけど……」
 どうか頑張ってと皆を激励するエリオットだが、今回現れる敵が攻性植物であるのは、不自然かも知れないと首を傾げた。
「ヘスペリデスが攻性植物を武器にしているのか……或いは、攻性植物がヘスペリデスを手駒にしたのか……」
 ――真相は分からないが、やることはひとつ。夢の残滓を綺麗に片づけて、悪い魔女の魔法を解くことだ。
「お祭りは楽しいままで終わらせたいから、どうか……よろしくお願いするね」


参加者
月織・宿利(ツクヨミ・e01366)
オペレッタ・アルマ(ドール・e01617)
遠矢・鳴海(駄目駄目戦隊ヘタレンジャー・e02978)
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)
楝・累音(襲色目・e20990)
レテイシャ・マグナカルタ(自称遺跡探索者・e22709)
ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)

■リプレイ

●刀剣ジャーと悪の結社
 楽しいハロウィンの宴も終わり、パーティー会場はまるで魔法が解けたかのような、儚い夢の名残を漂わせていた。しかし其処に招かれざる魔女が現れて、邪悪な魔法をかけてしまう。
 ぷるぷると黒いボディを震わせる、愛らしくも凶暴な攻性植物、その名を『ブラック☆ぷりん・あら・もーど』と言う――!
「魔女の魔法で生まれるお菓子みたいなお化け、なんて確かに、ある意味ではハロウィンらしいとも言えるけど……」
 念の為立ち入り禁止のテープで入り口を封鎖しつつ、遠矢・鳴海(駄目駄目戦隊ヘタレンジャー・e02978)はぎゅっと斬霊刀の柄を握りしめた。
「結果が惨劇、なんていうのはいただけないな」
 直ぐに現場へ急行した一行は、パーティー会場を我が物顔で占拠する攻性植物と対面――人間よりも一回り大きな、ぷるんぷるんのブラックぷりんの姿に『わぁ』と歓声を上げる。
「本当、美味しそうな見た目をしてるね。でも今日はね、皆楽しい思い出に包まれて、幸せな夢を見るのよ」
 だから悪戯はさせないと、月織・宿利(ツクヨミ・e01366)の艶やかな黒髪がふわりと宙を舞う中で、傍らのオルトロス――成親も勇ましく毛を逆立てた。と、其処で周囲を見渡した宿利は、戦いの邪魔になりそうなテーブル類が片付けられているのを藍染・夜(蒼風聲・e20064)と確認し合ってから、軽やかに一歩を踏み出して名乗りを上げる。
「刀剣ジャー、ウルトラマリン参上です!」
 ――身に纏う仮装は、戦隊ヒーロー風の鮮やかなスーツ。その名に相応しい、深い青の瞳を煌めかせて宿利がポーズを決めると、夜は宵空を思わせる藍の髪を靡かせクールに続いた。
「刀剣ブルー……インディゴ参上?」
「刀剣ジャー……アメジスト参上、だ」
 更に加わる楝・累音(襲色目・e20990)は、青と見せかけて紫色だが、これは彼の瞳の色にちなんだものだ。余り細かい事は気にするなと淡々と告げる彼に頷き、フリルのあしらわれた女の子っぽいコスチュームで登場したのは、ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)である。
「私は刀剣ジャーラピス! 刀剣ジャーはよく知らないけど、ノリと勢いで一緒に楽しむわ!」
 ラピス――瑠璃の名を名乗るティリクティアだが、彼女の持つふわふわの髪も愛らしい瞳も、輝くばかりの金。ついでに刀剣士でもないけれど、今日はハロウィンのお祭りなんだから細かいことは気にしない。
(「それに、女の子だし可愛らしく……ちょっとした拘りは大事なのよ!」)
 要は気持ちなのだとドヤッとした顔を決める彼女に、分かっているとばかりに鳴海は親指を立てて応えた。
「そう、お祭りはやっぱり、楽しくにぎやかに終わらせなくちゃ! ハロウィンの平和は、私達が守る……刀剣ブルー・サファイア参上だよ!」
 彼女も加えてこれで5人――戦隊ヒーローに丁度良い数が揃い、如何なる運命の巡り合わせか、地球人の刀剣士で統一されたのだ。まぁ、都合によりレッド不在とか青系ばかりでちびっこがヒーローを区別するのが大変そうだとか、ティリクティアはシャドウエルフだけど地球育ちだからセーフとか、そこら辺は適当に流しておこう。
「――地球人戦隊刀剣ジャー、見ッ参!! ……なんてね♪」
 お茶目なノリで、鳴海たちが全員でポーズを決めたその時――反対側からはふははははと、物凄く悪そうな高笑いが響いてきた。
「トウケンジャー、ここで会ったが百年目……」
 かつん、と高らかにヒールの音を鳴らして現れたのは、レテイシャ・マグナカルタ(自称遺跡探索者・e22709)。ゴテゴテした如何にもな装飾品を身に着け、セクシーなスリットの入った黒のミニスカワンピを着こなしたその姿は、正に悪の組織の女幹部だ。
(「ガキ共の相手で、ごっこ遊びは結構やってんだよな。敵役は任せとけ」)
 豊かな胸をたゆんとゆらし、にやりと口角を上げるレテイシャは、マントを翻して傍に控える配下たちに堂々と宣言する。
「だが、まずはあの邪魔者から片付けてやる、いくぞお前たち!」
 びしっと彼女が指し示すのは、攻性植物のブラック☆ぷりん。その命令にこくりと頷くオペレッタ・アルマ(ドール・e01617)は、星を散りばめた黒のチュチュの裾を摘まんで、優雅にお辞儀をした。
「『これ』におまかせください、レテイシャさま。刀剣ジャーには、まけません」
 ついと上げた精緻な相貌、その頬にはほろりと雫のペイントが施されている。凝ったオペレッタの仮装に『いーな』と微笑むアルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)は、悪の下っ端結社団員になりきるべく、黒のライダースーツに顔の下を覆うハーフマスクと言うワルっぽい出で立ちだ。
(「な、なんか羽が出てないと落ち着かない……て!」)
 鮮やかな羽は仕舞っているけれど、ノリノリでなりきっちゃおうとアルベルトはポージング――下っ端っぽく振る舞おうと声を張り上げる。
「えっとレテイシャ様! 僕にこそお任せなんだよー! ゐー!」
「ゐー」
 戦闘員風の掛け声を彼が決めると、オペレッタも無表情で唱和するのがちょっぴりシュールだ。突然鉢合わせた正義のヒーローと悪の結社、双方が共闘したりするのもアリだよねと鳴海は笑う。
「だってハロウィンパーティーの一夜だもん、ゐー!!」
「ああ。悪の結社とも共闘する、この壮大な演出が粋じゃないか。ゐー」
 飄々とした様子だが意外とノリの良い夜も、『ゐー』と『良い』を引っかけて頷いてみせると、累音は穏やかな声音でしみじみと呟いた。
「しかし、戦隊ものっぽい仮装というのをする機会があるとは思わなかったな。……悪の結社もブルーの皆も、良く似合っているよ」
「うんうん、悪の結社さんも、格好イーねぇ」
 幼馴染の言葉にこくこく同意する宿利は、戦隊ものが少し憧れだったようで嬉しそうだ。何だか、戦いを前にほっこりとした雰囲気が漂いつつも――背中に覗くビターなハートチョコのゼンマイを調節したオペレッタが、黒ぷりんを見据えて冷然と告げる。
「トリック・アンド・トリート。これより、『イタズラ』にて『おもてなし』いたします」
 ――その一言で正義も悪も、真の黒幕である攻性植物を倒す為に手を取り合った。
「夢の如き時間の残滓が、トリートである筈の菓子の悪戯とはなかなかユーモアがあるけれど」
 詠うように囁く夜の手にした刀が、冴え冴えとした月の輝きを宿して緩やかな軌跡を描き――彼はその切っ先を、ぴたりと獲物に向けて突き付ける。
「今日を楽しいままで終わらせる為に、迎え撃ってトリート――持て成しをしようか」

●ブラック☆ぷりんのお味は如何
 ――と、すっかり正義と悪のヒーローに出番が食われたのに怒ったのか、ブラック☆ぷりんはぷるるんと身じろぎしてから此方に襲い掛かって来た。
「さぁ、来なよ。美味しく食べてやろう」
 しかし先手を打った夜は、誘うように艶やかな笑みを口元に浮かべ――ファンタジックな宵に相応しく星々の煌めきで魅せようと、流星の如き蹴りを攻性植物に炸裂させる。
「こいつは食いでがありそうな菓子だなおい、トリックオアトリートだぜ!」
 そして二本の剣を左右の肩に担ぐレテイシャも、ニヤリと不敵に笑ってから夜に続いた。左右の剣で攻撃すると見せかけて、彼女が繰り出したのは追い打ちの足止めだ。勢いをつけて突進しつつ、飛び膝蹴りがぷりんボディに突き刺さると、黒ぷりんはぐるぐるおめめを更にぐるぐるさせて目を回しているようだった。
「へへ、悪戯大成功だな!」
「うん、なんだかとても美味しそうな敵ね。お菓子好きとしては、とってもうずうずしちゃうけど、貴方は敵なの!」
 お味はちょっぴりビターな感じかしらとティリクティアは想像しつつ、それでもキュートな女の子は割り切りも早い。ごめんなさいねとお辞儀をしつつ、彼女の宿した御業が苛烈な炎弾を黒ぷりんに叩きつけた。
「トリックオアトリート!! お菓子をくれないから、倒しちゃうわよ!」
「えへへ、なんか仮装して皆でお祭りとかってワクワクするよね!」
 甘めの顔に蕩けそうな笑みを浮かべ、アルベルトはハロウィンの夜を楽しみつつ――来年も此処で楽しいパーティーが出来るようにと願い、銃口から時空凍結弾を放って氷結ぷりんを精製していく。
「ハッピーハロウィン、だね!」
 更に宿利が卓越した技量で以て一撃を繰り出し、続く累音は竜語魔法を紡ぎ、幻影の竜に獲物を焼き払わせた。ひえひえ、且つこんがり――一体、どんなおあじがするのでしょうと、首を傾げるオペレッタは守護星座を描いて次々に仲間たちへ加護を与えていく。
 ――が、このまま美味しく頂かれるブラック☆ぷりんでは無い。ぷるるんとそのボディから飛び散るのは、此方を丸呑みするかのようなとろとろちょこれーとだ。
「……『チョコレイト』」
 ふわりと漂う甘い匂いに、オペレッタの瞳キラキラが二割増しになるものの――まともに被った前衛が守りを打ち崩されたのに気付くと、食することは不可能と知りしゅんと肩を落とした。
「いってて……黒いプリンだからほろ苦い? 黒ゴマプリンさんやココアプリンさんに謝れー!」
 ちょっぴり涙目の鳴海は、全力で抗議するべく精神を集中してぷりんを爆破させて。成親はと言えば、毛並みをべたつかせるチョコをぶるぶると振り払っている。
「おお、怪我をするとはなさけなイー!」
 そんな中、アルベルトは茶目っ気たっぷりに激励しつつ、オーロラの紗幕で傷ついた仲間たちを癒していき――一方のティリクティアは生きることを肯定する歌を、ハロウィンアレンジで楽しく歌い上げていった。
(「ポップで、少しダークでキュートな感じにね。だって今日はハロウィンなんだから!」)
「『これ』は『命令』します。……みなさまに、守護を」
 前衛で皆を庇ってくれている、宿利と成親――彼女たちの負担が大きいと判断したオペレッタは、小型治療無人機の群れを展開。その頂きにそっと黒い仮面を乗せて貰った彼らは、舞うように宙を泳いで警護を行う。
「オラオラ切り分けてやるぜ!」
 そうして支援を助けるべくレテイシャは、両手に掲げた星辰の剣を思い切り振りかぶった。ふたつの星座の重力を宿した、天地を揺るがす十字斬り――それは黒ぷりんのコーティングに亀裂を生み、痺れを与えて身動きを封じていったのだ。

●夢の終わりに
 それでも黒ぷりんは諦めず、ぐるぐるおめめをぐるぐるさせて、此方を惑わそうと睨みつけてくる。思わずじぃっと見つめてしまったオペレッタの、背中のゼンマイがぱきりと欠けて――ふらりと振り返った彼女の瞳は、何処かぐるぐると虚ろだった。
「あああ、オペレッタ君ー!」
 悪の下っ端仲間のアルベルトが直ぐに異常を察知し、分身の幻影を纏わせて回復を図りつつ。反撃をしようと刀を構えた夜は、其処で累音とアイコンタクト――と思いきや、偶然目が合っただけのようだ。
「何見てるんだよ、集中しろ」
「そっちこそ何俺に見惚れてんだよ、前向け前」
 俺に惚れてるんじゃないだろうな、いや男に惚れる訳ないだろ――軽口の応酬をしつつもふたりは、息の合った連携で攻撃を加えていく。意志の強さを乗せた、遠距離からの剣圧――累音の繰り出す蘇芳菊は、鮮やかに攻性植物の急所を撃ち抜いて。
「……私達が護るから、思い切りお願いね?」
 聞こえて来ていた軽口に、思わずクスリと微笑んでいた宿利も、負けては居られないと成親と共に背筋を伸ばした。
「ああ、頼りにしている」
 幼馴染の信頼の笑顔へ、微笑を返した累音は本領の見せ所と気合を入れて――夜もまた、片目を閉じて笑みを返し、頼もしく愛らしい盾二人の背は必ず守ると誓ったのだった。
(「その為にも、戦闘を長引かせる訳にはいかないな」)
 ――何時しか戦いは佳境を迎えており、状態異常を蓄積した敵はじわじわと体力を削られているようだ。レテイシャの蹴りは炎を纏い、燃え上がる黒ぷりんからはふんわりと、焦げたカラメルソースの匂いが漂ってくる。
「焼きぷりんも乙だろ!?」
「わあ、この香りは素敵! 焼きプリンだったら何個でも食べれそう!」
 うっとりした表情でティリクティアが頬を染め、ついでとばかりに業炎でぷりんを炙っていく中、鳴海は正義のヒーローになりきって霊刀を振り下ろした。
「くらえー! スーパー刀剣スラッシュ!」
 ――六華の幻影が輝きを放つ、その正義の一撃は悪い奴等を倒す為に。刀剣ジャーの正義を愛する心は、悪を絶対逃がしはしないのだ。
「ゆけ! がんばれ! ぼくらのとうけんじゃー! ……って、はっ」
 途中から妄想の世界へ飛び込んでいた鳴海は、其処でふと我に返り――気が付けば戦いは、オペレッタの奏でる銃声によってフィナーレを迎えつつあった。
 銃口と化した彼女の指先から雨霰と降り注ぐ弾丸は、鳴りやまぬ拍手喝采のようで。背中を押されるように駆け出した夜は、流星の軌跡で刃を振るい――白鷹が獲物を狙うが如く、幾度となく剣閃を奔らせる。
「――お休み、楽しい夢の終焉に」
 其が示すのは黄泉路。そうして斬り刻まれたブラック☆ぷりんは、ぷるんと震えた後に四散し、跡形も無く消滅していった。

●思い出を閉じ込めて
 こうして邪悪なぷりんは退治され、一行は後片付けも念入りに、手分けして会場をヒールしていく。ティリクティアはノリノリで歌を響かせ、夜は会場に幻想化の夢を添えようとしているようだ。
「後日、片付けに来た人達が目を丸くするかな?」
「……ふむ、中々粋な演出をするじゃないか」
 目を細めて修復を確認する累音だが、お菓子の敵を相手にした後だからと呟きポケットに手を入れて――取り出したのはチョコレート。
「ハロウィンだしな、菓子をやろう」
「少しお腹すいちゃってたから……丁度甘いものを食べたかったんだ」
 ありがとう、と嬉しそうに宿利がお菓子を受け取って、ティリクティアも夜から飴を貰ってご機嫌だ。これって子供の特権よね、と大喜びをする彼女に対し、皆へのお菓子を忘れてきた鳴海は悪戯に怯えている。
「わ、ワイロには騙されなゐー! ……でもありがとっ!」
 と、戦闘員気分の抜けないアルベルトは、悪戯をしないでとミントタブレットをお返しにして。最後に子供たちに見せたいからと言ってレテイシャが、皆で記念写真を撮ることを提案した。
(「余韻を残し胸にともる熱。これが、きっと――……」)
 シャッター音と同時にフレームに納まったオペレッタは、『楽しい』というココロを知ったような気がしたけれど。エラーエラーと頭で鳴り響く警告音に、彼女はそっとかぶりを振った。
「ですが、悪のココロは、まだ、わかりません」

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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