パッチワークハロウィン~ファッショナブルナイト!

作者:螺子式銃

●夢のあとさき
 街中のとあるパーティホール。
 テーブルには開けられたアルコールの瓶、菓子の包みや空になった料理の皿がずらりと並んでいる。
 飾り付けられた南瓜のランタンを始め、オレンジと黒を基調にする内装を見れば、誰だって楽しいハロウィンパーティが終わったことが判るだろう。
 また、目立つものはもう一つあった。
 幾つもの脱ぎ捨てられた衣装、シルクにオーガンジー、リボンにレース、ハロウィンに相応しい華やかな色合いだ。
 若者向けのファッション雑誌が目立つところに飾ってあり、どうやら雑誌主催で行われたハロウィンパーティらしい。
 お楽しみは全て終わって、後は片づけられるのを待つだけ。
 だが、夢みたいな時間の残り火を探すように、一人の女が現れた。――第十一の魔女・ヘスペリデス。
 足元に転がっていた、黒猫のぬいぐるみを一撫でして彼女は微笑む。
「魔女の力が最も高まる今夜、第十一の魔女・ヘスペリデスが、その役目を果たすとしよう。――ハロウィンは、まだこれからだ」
 そして、陶酔したような声音は続ける。
「ユグドラシルにおられる、『カンギ様』の為に、私の黄金の林檎から今宵に相応しい植物を生み出そう。――さぁ、ハロウィン・ボムよ、人間どもを食い散らかすがいい。全ては、『カンギ様』の為に」
 高らかな宣言。魔女は、黄金の林檎を高く放り投げる。――すると、林檎は光を撒いて変じ、後には、巨大な南瓜の頭を持った攻性植物が残る。
 ハロウィンナイトは、終わらない。

 招集に応じてくれた皆へと一礼すると、トワイライト・トロイメライ(黄昏を往くヘリオライダー・en0204)は資料を手に口を開く。今回彼が説明するのは、第十一の魔女・ヘスペリデスが引き起こしたハロウィンの事件だ。
 辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)の調査によって、新たな敵の動きが判明したのだとまずは前置いて。
「ハロウィンパーティ、君達は存分に楽しんだろうか?
 パーティが終わった直後で間が悪いと言うべきか良いと言うべきか、――パッチワークの魔女が、また事件を起こした」
 賑やかなハロウィンの名残を楽しむ余地もないことに嘆息を落して、トワイライトは状況を伝える。
 動き出したパッチワークの魔女は、第十一の魔女・ヘスペリデス。
「この魔女は、日本各地のハロウィンパーティ会場に現れる。といっても、既にパーティを終えた会場にだ。
 そこには当然だが、パーティの残滓がある。彼女が持つ黄金の林檎の力とを利用して、強力な攻性植物を生み出した。この攻性植物は、パーティ帰りの人々を襲い、殺すかもしれない。だが、未だ会場に行けば間に合うだろう。
 急ぎ、パーティ会場に向かって攻性植物を撃破して欲しい」
 会場は、都内のパーティホールとなる。百人ほどを収容できる広さで、ファッション誌主催のハロウィンパーティが終わったばかりだ。
 幸い、片付けなどは深夜に業者が行う予定ということで今は、周辺が無人となっている。
 テーブルや椅子が並ぶ室内は明るく、戦闘に支障はない。
 敵は、ハロウィンの南瓜を頭部に据えたような姿の攻性植物で、体長は4M程。見た目はユーモラスにも感じられるかもしれないが、けして侮れる相手ではないとトワイライトは語る。
 南瓜型の爆弾を投げるのが主な攻撃方法だが、爆発したかと思えば布を巻き付けてこちらを動きにくくしたりと様々に阻害の手管に長ける。
「――しかも、場所が場所だったからだろうか。なんというか、ファッショナブルな攻撃の時もある、らしい。十分に気をつけて」
 神妙な面持ちで、トワイライトは警告を促す。やや、考えるように。
「しかし、パッチワークの魔女と攻性植物、どうにも不自然な取り合わせだね。どういった関係なのか……。
 ともかく、今は解決が先だ。ハロウィンが、楽しい時間であるように。パッチワークの魔女の思惑を、阻止してくれ。――いってらっしゃい」
 トワイライトは最後に皆の顔を一人ずつ見渡して、穏やかな笑みでケルベロス達を見送る。


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
八千代・夜散(濫觴・e01441)
辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)
エンデ・シェーネヴェルト(青い眼のねこ・e02668)
御船・瑠架(紫雨・e16186)
ネリネ・ウァレ(さよならネリネ・e21066)
レイラ・クリスティ(氷結の魔導士・e21318)

■リプレイ

●パーティ・ナイト
 パーティの後はいつだって寂しさばかりが残る、筈だけれど。
 今日ばかりは特別だった。
「似合ってンじゃねえか。ばっちり雰囲気合ってンぜ」
 指先を立ててちらりと片目を瞑る、八千代・夜散(濫觴・e01441)の言葉の通り。
 ネリネ・ウァレ(さよならネリネ・e21066)は連れのリリンと揃いの尖り帽子に、漆黒の魔女服は動く度に星屑みたいにラメが光る。
 薄氷を巡らせたように淡く水色が差す白髪を雪結晶の簪で結い、白を基調にやはり雪の結晶を描く着物を纏ったレイラ・クリスティ(氷結の魔導士・e21318)はたおやかに微笑んでいて。
 エンデ・シェーネヴェルト(青い眼のねこ・e02668)は、夜から抜け出してきた黒猫のよう深い色で仕立てられた和風の袴に帽子、口を襟巻に埋める様は書生のもの。
 絢爛豪華な色の洪水はこちらも和装、真白の手に杯は艶やかな朱塗りで酒精の気配を漂わせる御船・瑠架(紫雨・e16186)は酒呑童子の装いで、角の生えた顔を軽く傾いで見せる。
 称賛への礼、仮装を楽しむ遣り取りは往路の内に。装いは様々なれど、戦いに対する侮りは無いが故に許される他愛のない時間。
「時々やたらと空気読んで時節のイベント系挟んで来んの何な訳……」
 口許を斜めにエンデが呟くと、瑠架が内緒話みたいに小さく笑う。
「不謹慎かもしれませんが少し楽しみです」
 なんたって、ハロウィンなのだから。
 そして、示し合わせたよう口を閉じるのは観音開きの扉、会場前に到着したその時で。
「一気に、踏み込みますか」
 三和・悠仁(憎悪の種・e00349)がゆらりと右目の炎を揺らして、低めた声で告げる。仲間達と見交わす頷きは数度、肩から扉に突っ込むと、イルルヤンカシュ・ロンヴァルディア(白金の蛇・e24537)も扉を蹴り倒す。
「祭りの後片付けは確りとやらなくちゃね!」
 盛大に響く声がノック代わり。視界が、大きく開けた。
 パーティの余韻を全て踏みつけて、南瓜頭がケルベロス達を見下ろしている。
「ここで、決着をつける。人々を襲わせはせん」
 躊躇わず踏み込むイルルヤンカシュに、ネリネが続く。彼等は一番前で、壁となる為に。
「…本当にかぼちゃ、なんですね…びっくりです」
 青紫の眸を瞠りながらも、レイラは彼等に雷の守護を纏わせる。雪色の彼女が放つ雷は、殊更に冴え冴えと。
 一拍を置いて踏み込んだ夜散は、ナイフを逆手に回し詠唱を口遊む。夜の始まりに寄せて紡ぐは古代語、浮かべるは楽しげな笑み。
「さァ、パーティを始めようぜ」
「ああ、盛大に行こう」
 石化の光線が迸ると同時、ネリネが銀の粒子を従える。迸らせる銀色はクラッカー代わりだ。
 身石に覆われた葉を振り回す南瓜に駆け寄りながら、辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)は真っ直ぐにその姿を見据える。
 ハロウィンの夜に起こる事件は彼の予想の通り。厄介だ、と嘯きながら、表情は好戦と挑戦を宿す。
 見つけたのだから、戦える。戦える以上は、倒せるのだ。
「随分と楽しそうだねぇ、カボチャ頭。俺等もちょいと混ぜてくれや」
 麟太郎に据え付けられた砲台が一斉に敵を向く。南瓜が爆発するのと、ほぼ同時。
「上等だ。仮装出来るモンならやってみな! この一張羅は伊達じゃねぇぞ!」
 相打ち上等と真っ向勝負での着弾。
 爆風の後、仁王立ちの姿勢を崩さない侭毅然と立つ麟太郎の姿は長い学ランの裾を風に翻らせ、潰した制帽に白手袋も鮮やかな姿になっていた。
 応援団長か、はたまた旧制高校の影の番長か。
 いずれにせよ、苛烈な戦いを色んな意味で予想させる幕開けだった。

●ファッショナブル・パンプキン
「けほっ……もう、一体何が……って、え?」
 レイラが爆風に喉を掠れて咳き込ませたかと思うと、可憐な横顔が一瞬の制止。それから肩が微かに震えるのは、笑いを堪える故か、敵のセンスに戦いた故か。
「なかなか厄介な攻撃をするようですね」
 前情報通り、と生真面目に告げる悠仁は巨大な魔斧を振り上げる。一歩目で地を蹴り、二歩目は空を駆ける。呼吸は、三歩目に一度だけ。息を落すと共に、触手を叩き伏せる斬撃。死骸の骨が織り成す斧が、鈍い音を立てる。
「――楽しいですね。けれど、楽しいパーティーに終わりは付き物」
 ハロウィンの魔法は、けして憎いばかりではないけれど。瑠架は花の流れる番傘をゆるりと畳んで、斬霊刀を掲げる。霊は集う、呪うように、恨むように。白刃はあっという間に黒に転じて。
 それは外法の表れなのかもしれない。けれど、飾り紐を揺らし瀟洒な身のこなしで切り刻むさまは眩しくも艶やかだ。
「ええ、ハロウィンはもう御仕舞、幕引きの時間です」
 レイラが重ねるのは雷の壁。長い袖を靡かせ杖を高く掲げる。青睡蓮の意匠が刻まれた金の杖は雷の力を撓め、再生を叶えるもの。
 皆やるねえ、とイルルヤンカシュも笑って、タイミングをずらし飛びかかる。戦装束の裾が風を孕んで翻り、戦乙女は高く中空に舞った。粗野にも見える一連の仕草は、その実驚異的な速度と精密さで弾き出されたルートを辿り、――終着点は、敵の頭上。
「その南瓜頭、叩き割ってあげるよ!」
 星の守護を抱いた剣を叩きつける。斬るや薙ぐより、勢いをつけた力任せの仕草で。
 風圧にひらりと揺れたのは猫の尻尾、――いや、一筋だけ長いエンデの髪だ。青色の余韻を残して目にも止まらぬその姿は、首を支える細い茎を蹴り倒す。
 しかし南瓜も黙ってはいない。無数の葉がざわりと蠢き、振り被って――。
「食い物投げんな勿体ねーし服汚れる!」
 すかさず早口でエンデが突っ込むが、無慈悲にも熱々焼き立ての南瓜パイが彼の肩に投げつけられる。ぐつぐつと煮えたぎる南瓜のジャムは甘くて熱い。痛みを感じる様子はないが、嘆息は素直に落ちた。
「あーもー…帰ったらクリーニング使わねーと駄目かなこれ」
 そんな嘆きも聞き届けられず、更に後衛にも投げつけられる。
「……意外に、これは上質の味ですね」
 悠仁は目の前に来たパウンドケーキを撃ち落としていたが、欠片はどうしても口に入る。濃厚な南瓜の甘味に、発酵バターの風味が豊かに舌に広がった。マーブル生地はカラメルソースを練り込んであり、変化をなかなかに楽しめる。
「おっと、後ろに下がってな!」
 レイラに投げつけられるのは煮え立ったチーズのピザ、彼女には如何にも酷に思えてイルルヤンカシュが弾くよう受け止める。
「有難うございます。すぐに、冷やしますね」
 イルルヤンカシュの腕に無残な焦げ跡を見ると、一目で緊急の手術が必要だと判断する。水際立った技術で指先が動き、編み上げるのは盤石なる治癒の力。熱をあっという間に和らげていく。
 リリンはと言えば、夜散を狙った南瓜のキッシュを大きく口を開けて一飲み。
「火傷には気をつけろ」
 美味しいか熱いのか目を白黒させるリリンにネリネは真面目な顔で告げている。
「有難うな」
 囁く声を残す夜散に、リリンは元気に尻尾を揺らす。瑠璃色が微かに笑む残滓を残して、身を低く懐までの距離を大きな歩幅で詰め。禍々しく捻じれた刀身に写る面差しだけは、怜悧に。逆手から薙いで大きく傷口を暴き抉っていく。
「熱いのは専売特許ってわけでもねぇな!」
 呵々大笑してみせるのは、麟太郎。履かされた下駄捌きは如何にも堂に入ってからころと音を立て、その足には炎が燃え盛る。仲間達を傷つけられた返礼とばかり、鍛えられた脚で大きく蹴り飛ばす。
 エンデがその動きに合わせ、青焔のランタンを揺らしながら鎌で薙いで行く。刈り取るのは、死神の仕事だ。
 敵の攻撃は愉快なだけではなく、重く強い。だが、連携と作戦を編んで挑んだ番犬達は五分以上の戦いを繰り広げていた。とはいえ――。
「さて南瓜頭さんのファッションセンスの腕前は如何ほどでしょうか」
 無数のボム達に、瑠架がいっそ楽しげに微笑む。色とりどりの布が舞い上がる、爆風。
「確かに汚れたけど、そういうことじゃねーよ!」
 着替えは要らないとばかり声を荒げるエンデに、真っ白もふもふふかふかの長手袋と靴下を押し付けにいくボムから、ネリネが庇いに行く。――と、ぽんと衣装が弾けて淡い翡翠の花弁となりネリネに降り注いだ。
 魔法の一振りで春の魔女に。エメラルドグリーンを基調にした幾重もの布に無数の花が裾を、縁を彩る。リリンの頭にもお揃いの花。
「こいつはそういう猫か、っっていうとね!」
 オニクシアの見事な黒曜の毛並みに、一輪の薔薇を首に飾ろうとするとすい、と身を反らしての猫引っ掻き。相棒の性質を心得ているイルルヤンカシュが豪快に笑う暇もあればこそ、大輪の艶やかな薔薇を意匠とするロングドレスが押し付けられて、布の洪水に一瞬息が止まるが払い除けることは叶った。
「成る程、――オシャレ好きですね」
 目を細める瑠架とて、その姿は淡く白と見紛う桜の袴。振袖は見事な紅に金に縁取られた桜の枝が大胆に描かれた姿、鬼の角はそのままに顔の片側を隠すは鬼の面。
 終わらぬハロウィンの夢を、南瓜は撒き続ける。

●グッド・ナイト!
「雪女らしく、凍らせて差し上げます」
 語尾が楽しげに弾んで、レイラが真下に描くは魔法陣。氷を操る彼女に相応しく、巨大な氷柱が現れ南瓜を打ち砕く――効果は、確かなものだ。しかし、南瓜の方も執拗に。
「きゃ、また…ですか…!」
 爆風の後衣装は和から洋へ。薄い紗を幾重にも重ねて広がるエンパイアドレスは純白、裾だけが無数に涙型の水晶を縫い付けられて青くしゃらしゃらと儚くも美しい音を立てる。剥き出しの肩には温かな白のケープが被せられ、胸元を結ぶリボンは青。気恥ずかしげに布を引き寄せるレイラに夜散は口角を引き上げて。
「皆、見事な華だぜ。見応えは十分ってなァ、――おっと、こいつはどうも」
 仲間達に見入ったところで敵の攻撃は帽子の投擲。深い赤茶のトップハットは金の歯車が目立つ仕様で、衣装に合わせて。編み上げブーツにパンツ、スチームパンク風の装いは歯車と螺子、幾つもの部品で左腕から胸までを覆われ、がらんと空洞を模した胸部にブリキの鍵がぶら下がる。
「とは言え、そろそろ向こうも消耗しているようですね」
 表情薄く様子を測る悠仁の頭に乗るのは、髪色に合わせた帽子。縁取りは金で、見れば装飾を様々に縫い付けられた上着は赤と金。王子と見紛う豪奢さだが大きく片手を広げれば、靡く真紅のマントが威風堂々としたマタドール姿を完成させる。
「華やかなのは悪くはねぇが、仕舞い時を見極めるのが粋ってもんだぜ」
 そろそろ店仕舞いの頃合いだと告げる麟太郎とて、更に衣装替えを経てボルサリーノを斜めに被るファー付きロングコート姿だ。
「うむ、若者のファッションはだいたいわかったぞ」
 ネリネが重々しく頷く。積み重なる不調を見て取ると、両手でそっと解き放つネリネのとっておき。きらきらひかる妖精達はそれぞれに小さな花を抱えていて、皆へと撒くと儚くも甘い花弁が舞い散り衣装を彩っていく。
 重なるのは、レイラの放つ淡い光。今は長手袋に覆われた指先に、宝石が幾重にも煌めく。杖の宝石と同じ色を瞬かせ、ネリネの花弁も乗せて波打つように光が揺れる。
「――さて、終わらせに行くとするか」
 麟太郎は悠然と矢を番える。妖精弓をまるでライフルか何かのように取り扱うのが似合う格好で、狙うは勿論――南瓜の頭部。風切り音と共に矢が穿つ、その瞬間に。
「頭ぶち抜いたらどうなるンだろうなァ!」
 夜散がうっすらと笑う。興を楽しむ先程とは違い、酷薄な色すら瑠璃に浮かべて掲げた銃の向こうにルーン魔術を編み上げる。描かれるのは、昇華円環。現れる位置は、巨大な南瓜頭の斜め上。不意打ちで現れたその円をを貫いた瞬間、銃弾は異様な加速を可能とする。直前で加速する速度についていけず、弾け飛ぶ頭は斜めに傾ぎ。
「牙を剥け、我が内より来たる憎悪の声、叫び、慟哭。潰えた夢の更に彼方、最早訪れる事無き希望を噛み殺せ。【憎悪を刻め我が枝よ】!!」
 その軌道を知っていたかのように、悠仁が跳ぶ。体からぞろりと生やすは、獄炎に包まれた黒き枝。怨嗟と苦痛を引き連れて、枝は南瓜へと絡みついていく。万力のように締め付け、がらんどうの眼窩へと潜り、炎を流し込んでいく。
「……ハロ、ウィイイイン!!!!」
 断末魔の如き叫びをあげて、南瓜も炎を燃え上がらせる。その枝の一つ一つから生まれる菓子達は前衛を薙ぎ払おうとする業火。
「ハロウィンも終わったというのに未練がましい輩だね!」
 イルルヤンカシュの声に、そればかりはどう感とばかり猫も飛び出す。炎を真正面から受けて立つのは、攻撃手が喰らえば一撃で消し炭になる可能性すらあるからだ。髪が、肌が炙られても傲岸不遜にイルルヤンカシュは笑う。――笑い、証明し続けるべきものがあるから。
 ぶん、と乱暴に振り抜いた剣の一撃は庇う葉を散らし、防御を剥ぐもの。ネリネも動く、重ねて抉るのは庇う枝を真横から殴りつけて。二人分引き受けた炎に撒かれながら。
「そろそろ、魔法の時間は終わる。南瓜頭の中身を見せてもらおうか」
 託すのは、攻撃手達。庇われたその後ろから踏み出す足取りは、静かに。
「私の鬼火達と鬼事は如何ですか?」
 黒の刃に宿るは鬼火、烈烈と。無数の火は広がり、飛び交い刃の周囲を揺らぎ漂う。とん、と爪先が踏み込で至近の距離で、彼の唇は鬼火に照らされ紅く弧を描く。そうして、嘯くように告げるのだ。勿論、私が鬼です、と。
 一方的な鬼事は、幾ら避けてもついていく、追い込まれる。そしてその先に立つのはエンデ、真っ青な眸はしんと深く見据え腕を差し伸ばした。ただ触れるだけにも見える所作、けれど鋭利な何かに触手が切断される。それは、巧妙に隠された猫の爪。抱擁に似て、手向けに似て。これより先はただの一歩も、動けない。
 鬼火はもう、すぐ其処で。
「――さようなら、美しい世界にお別れを」
 刻まれ燃える、その生に。餞の言葉は、ひとつだけ。

「ワイルドハントの始まり、ってか。……厄介なこったぜ」
 祭りの後の惨状を眼下に、苦々しくもニヒルに告げる麟太郎。――だが装い故為に、抗争帰りのその筋の人にしか見えないのが困りものである。
「さて、ちょっと周りみてみるかなぁ…」
 エンデの言葉を皮切りに、皆思い思いの片付けや調査を始める。
「ヒールもしていきましょうか」
「業者の方にそのまま投げるのは、気の毒ですしね…」
 瑠架に頷くのは悠仁だ。ファンシーになるのも、この際悪くはないだろう。
 皆の表情は真剣で、未だ油断のないもの。この事件に、謎は多い。
 けれど、敢えて朗らかにレイラは笑う。
 「皆さん、大丈夫ですか? …えと、色々な意味で。――でも…ちょっと楽しかったですね」
 そう、楽しいままにハロウィンの夜を彼等は守れたのだから。
 ハッピー・ハロウィン!

 

作者:螺子式銃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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