●恐怖のハロウィン
とある街、或る邸宅のガレージにて。
普段は倉庫として使われている其処には蝙蝠や骸骨の飾りや、ジャック・オ・ランタンなどのハロウィンらしい装飾が施されていた。つい先ほどまでガレージ内では近所の人達を呼んだパーティーが行われていたのだが、人々は既に帰途についた後。
片付けは明日に、ということで住民も家屋へと戻っている。
そんな場所に怪しい影、それも招かれざる客が現れた。
「私が失っていた『服従』の心は満たされた。あぁ、誰かに服従してその為に働く事の、なんと甘美なる事か。魔女の力が最も高まる今夜――第十一の魔女・ヘスペリデスがその役目を果たすとしよう」
双眸を細め、そう語った魔女は片手を掲げる。その手にはモザイクが掛かった籠が下げられており、中には攻性植物が実らせるような林檎が見えた。
「ユグドラシルにおられる『カンギ様』の為に、私の黄金の林檎からハロウィンの日に相応しい植物を生み出そう」
――さぁ、ハロウィンの魔力を集めて私に捧げよ。全てはあのお方の為に。
呪文めいた言葉が紡がれ、リンゴが放り投げられた刹那。魔女の傍には甘いデザートのような姿をした異形が姿を現した。
「さぁ、人間共の夢の残滓と黄金の林檎より生まれし、ぱんな・こったよ。人間どもを喰い散らかすがいい」
そして、魔女ヘスペリデスは踵を返してその場から去る。
後に残された菓子型攻性植物は辺りをきょろきょろと見渡した後、破壊の限りを尽くす為にガレージを出た。
そう、未だハロウィンパーティーは終わっていないとばかりに――。
●ベリーの誘惑
「皆さま、ハロウィンパーティーはとーっても楽しかったですね!」
貰ったお菓子の籠を提げ、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は笑顔を向けた。だが、この場にケルベロス達を呼んだのは事件の気配が察知されたからだ。
パーティーは終わったばかりだが、辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)が新たな敵の動きを見つけた。麟太郎の調べで新たな魔女が動き出したことが分かったのだ。
「事件を起こしたのはパッチワークの魔女の一体、第十一の魔女・ヘスペリデスという相手でございます」
リルリカは真面目な表情になり、概要を説明していく。
彼女は日本各地のパーティーが行われた会場に現れ、会場に残ったハロウィンの残滓と彼女が持つ黄金の林檎の力で強力な攻性植物を生み出す。
このままではパーティーを楽しんで家路につこうという人達が襲われて、殺されてしまうかもしれないとリルリカは語った。
「ハロウィンの日はずっと楽しいままがいいです。今夜を惨劇で終わらせない為にパーティー会場に向かって、攻性植物を撃破してくださいです!」
ぐっと掌を握った少女は強い眼差しを向け、仲間達をしっかりと瞳に映す。
そして、詳しい状況が語られていく。
現場は広い庭がある邸宅。庭の片隅にはガレージがあり、其処にぱんな・こったという菓子型攻性植物が現れている。ハロウィン飾りが施された倉庫内には誰も居らず、家の持ち主も近所の人を送る為に外出しているので周囲被害の心配はない。
「人がいる所に行って避難誘導をしている時間はありません。皆様が負けることが周辺の方々の被害に繋がりますので必ず倒してくださいです!」
その為、すぐにガレージに向かって敵を迎え撃たなければならない。
攻性植物はたった一体だが、その体は三メートルと巨大だ。敵はその甘そうな見た目らしく、実らせた苺やラズベリーの果実を飛ばして来たり、癒しの力に変えたりしてくる。
やや愛らしい外見ではあるが実力は恐ろしいので油断は禁物だ。
そうして、説明を終えたリルリカは首を傾げる。パッチワークの魔女がハロウィンに事件を起こすのは納得出来るが、現れる敵が攻性植物であるのは不自然だ、と。
「ヘスペリデスが攻性植物を武器にしているのでしょうか。それとも、攻性植物がヘスペリデスを手駒に……?」
其処まで呟いてはっとしたリルリカは改めてケルベロス達に視線を向けた。今は何よりも楽しいハロウィンを台無しにしようとしている敵を倒さなければならない。
「それでは、皆さま。どうかよろしくお願いしますっ!」
ヘリオンに仲間を案内した少女は向ける微笑みに変わらぬ信頼を宿し、応援の気持ちを抱く。さあ、今こそ――折角の楽しい日を不幸に染めない為にもケルベロスの力が必要だ。
参加者 | |
---|---|
シア・フィーネ(ハルティヤ・e00034) |
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054) |
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707) |
桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883) |
花筐・ユル(メロウマインド・e03772) |
響・千笑(ガンスリンガー・e03918) |
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244) |
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924) |
●南瓜の燈
楽しく過ぎゆくハロウィンの日。
灯の燈されたジャック・オ・ランタンや蝙蝠、蝋燭やお化けなどの飾りやパーティーらしい様相の残る庭に踏み入れば、つい先程まで此処にあった賑わいが感じられた。
「ぴー。ここでも素敵なパーティーがあったんだねっ」
シア・フィーネ(ハルティヤ・e00034)はハロウィンの飾りにわくわくしながら、無邪気な笑顔を浮かべる。今日は天使の羽を仕舞っているシアの背には妖精めいた翅。揺れるポニーテールには南瓜お化けの髪留めが飾られており、その手にはきらきらの星を振りまく魔法の杖が握られている。
その傍らにはティンカーベルに似合いのピーターパン、テレビウムのジルが付いている。その赤い羽付きの緑のプチハットが愛らしく感じ、ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)は口許を薄く緩め、似合っているなと少女達を褒めた。
「さて、折角のハロウィンを台無しにするつぎはぎ細工の苦い悪夢には、オレたちケルベロスからとびっきりの施しをしてやらないとな!」
意気込み、軽く拳を握ったルトの様相は山伏の服装に一本下駄を履いた烏天狗の仮装。自前の羽の色が隼めいている為、烏天狗ならぬ隼天狗のように見える。
花筐・ユル(メロウマインド・e03772)は洋装と和装の其々の仮装に静かに目を細めた。そんなユルは黒いナース服を着ているのだが、これは平常運転。
「この格好、便利なんですよね……寄って来る人が分かり易くって、ふふ」
流石に最近は際どいラインかと思うのだけど、と零したユルに対し、桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)がくすりと笑んだ。
「仮装でなくとも素晴らしい。血を吸いたくなる位、とても麗しゅう御座いますよ?」
そう言って冗談を告げた綾鷹は銀の長髪に、紅い目の紳士然とした吸血鬼に扮装している。普段の彼とは違う上に少々軟派らしさが見えていたが、こういった台詞を言えるのも仮初めの格好をしているからこそ。
そして、リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)はそっと前方を見遣る。
「後片付けは大事よね。どんな催し物の後でも」
「楽しいパーティも最後に被害が出ては台無しです」
そうならないように尽力しましょう、と軍師の仮装姿のウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)が答え、一行はガレージがある方へと歩を進める。
そのとき、向かう先から妙な姿をしたものが姿を現した。
リシティアが身構え、ウィッカもかの敵――ぱんな・こったと呼ばれる不可思議な攻性植物を見据えて敵意を強める。
響・千笑(ガンスリンガー・e03918)は一歩踏み出し、黒のロングスカートを翻した。白いタイツと白いフリルの付いたエプロンが揺れ、千笑はメイド然とした口調で問いかける。
「トリック・オア・トリート。あなたはどちらをお望みですか?」
しかし、問いかけても返答がないことくらい分かっていた。それに、もう美味しそうな名前が付いているのから悪戯、つまりは戦闘一択。
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)はしっかりと頷き、敵の姿を瞳に映す。如何見ても苺が乗ったパンナコッタの化け物にしか見えないそれからは、何だか仄かな甘酸っぱい香りが漂ってきそうだ。
「スイーツ、普通に食べたかったなぁ……でも、こいつが一般人に被害を与えたら大変だ」
僕たちが倒して守らなきゃ、とエーゼットが勇敢なる者への標を紡ぐ。勇気が出るおまじないは歌となり、仲間達をふわりと包み込んでゆく。
その間に綾鷹とルトが駆け、身構えた敵へ攻撃に向かった。
「つー事で先手必勝!」
「ああ、その通り!」
一瞬、視線を交差させた二人は其々の力を解き放つ。綾鷹による炎を纏った激しい蹴りが炸裂した刹那、ルトが放った地獄の焔が敵に衝突した。
「ぴー。とってもおっきー敵だけどがんばろー! ぱんぱかまーちでもりもりだよ!」
えいっとシアがミラクルパンプキンライトを振ると、ジルとおばけ南瓜がぴっぴと行進して仲間達にハロウィンの加護を与えてゆく。
続いたユルは仲間の頼もしさと微笑ましさを覚えながら、自らも力を紡いだ。その傍らでは棺桶型ミミックの助手が静かに控えている。
今日は橙の燈火に誘われて霊も妖精も目覚める夜。
「……アナタもそう? けれど、生憎と今宵はもうお菓子は十分なの」
――だけど、折角だから地獄の番犬流のおもてなしをしてあげる。そう囁かれた言葉と共に周囲に深紅の薔薇が咲き乱れ、甘い芳香が戦場を満たした。
●支えあう意志
苺に付いた眼が開き、鋭い眼差しが此方を貫く。
そして、ガレージから完全に出たぱんな・こったは臨戦態勢を取ってケルベロス達を狙い打つ。解き放たれたベリー爆弾がウィッカに向けられた。だが、攻撃の矛先を察して即座に飛び出したエーゼットがそれを阻止する。
「させないよ。ねえ、シンシア」
エーゼットは自らの相棒、ボクスドラゴンのシンシアに呼び掛ける。すると匣竜も仲間を守ってみせると語るようにして羽を広げた。
「ありがとうございます。では、私も――」
ウィッカは攻撃の準備に移ると視線で告げ、呼び出した御業を鎧に変形させた。敵がどんな守りを固めようと壊してみせると心に決め、ウィッカは次なる動作の準備を整える。
その隙を埋めようと動いたリシティアは狙いを定め、指先を敵に差し向けた。
「面倒だけどさっさと済ませてしまいましょう。……吹き飛びなさい」
展開された魔方陣から放たれた魔力の弾丸は牽制代わりの制圧射撃。足止めにしては少々強力すぎるかもしれないと口にしたリシティアの言葉通り、鋭い衝撃が敵を襲った。
されど、動きを封じられるまでには至らなかった攻性植物は蔓を激しく動かす。
また攻撃が来るかもしれないと感じ、千笑は更なる手を打つ。
「さぁて、今回は取り込まれた人はいないし、安心して全力攻撃できますね! 援護も力いっぱいいきますよ、ご主人様方!」
メイドとしての振舞いをしながら千笑は両手に持った紙兵を宙へ放り投げるように散布した。彼女が敢えて一歩下がっているのは戦場を見渡して後方支援に徹する為。
綾鷹は支えてくれる仲間の存在を感じ、薄く笑む。
「もう一度、全力で蹴っ飛ばしてやらぁ」
蠢く敵の死角に回り込み、跳躍した綾鷹は鋭い蹴りを見舞った。一閃は宛ら流星のように敵を貫く。綾鷹はこの件の黒幕でもある魔女への警戒を強め、腰の刀に手をかけた。
次の瞬間、シアが敵の動きを察知する。
「みんな、またくるよ! ばーんってなるからベリー爆弾はいやだよ!」
ジルくん、とテレビウムに呼び掛けたシアは目をぎゅっと瞑りながらも皆の前に立ち塞がった。そして、瞼を開いたシアは攻撃される前にとロッドを構える。爆弾が迫り来る方向にジルが走って行く合間に、シアは魔法の矢を一気に放った。
その軌跡が敵を翻弄していく最中、ルトは翼を広げて宙へ翔ける。
「頭上がガラ空きだ。遠慮なく行かせて貰うぜ」
余裕めいた表情を浮かべ、ふっと金の双眸を緩めたルトが空中で華麗に回転する。其処から急降下の蹴りを入れる彼は様はまさに天狗と表すに相応しかった。
そしてルトは、今だ、と仲間に合図を送る。
彼の視線を受けたユルは助手に指示を送り、噛みつかせに向かわせた。ユル自身は更なる援護に回る為に力を解放していく。
「今夜は夢と現と幻が甘く溶け合う、年に一度の祭り。さぁ、集ったあやかしさん達。枷を解き放って、想いを、ままに咲き乱れて魅せてくださいな」
花は囁く。強く願い、求めるのは力。
幾ら幻想的で不可思議なものが目の前に居ようとも、かの対象は甘いままではいさせてくれない。リシティアは瞬きをした後、身体を僅かにずらす。
すると、一瞬遅れて甘い蔓がそれまでリシティアが居たところを奔っていった。
「蔦に足を取られるのは面倒だからね」
そうして、リシティアは幻影竜を生み出して解き放つ。敵への関心が殆どなくとも、ケルベロスとして相手を屠る意志はしっかりと抱いていた。
ウィッカもリシティアに続き、まだ揺らがぬ敵を見つめる。
「おいしそうな外見の割りになかなかの強さですね」
相手の力量を認めながらも、ウィッカは竜槌を構えて跳躍した。敵の可能性を奪うべく振り下ろされた一閃は見る間に蔓を凍りつかせていく。
「差し詰めフローズンスイーツってか? ぶった斬ってやるぜ」
綾鷹は黒き斬霊刀を抜き放ち、絶空の斬撃で以て敵が抱く不利益を増やした。
それから攻防は幾度も巡り、削り削られの戦いが続く。千笑はルトやウィッカが目の前で激しい攻勢に移って行く様を見つめつつ、動き回りたくてうずうずする気持ちを抑えた。
「ご主人様方をお護りするのが私の役目」
スカートの裾を摘み、一礼した千笑は魔鎖を展開して魔法陣を描く。回復の後押しに自分も勇気付けられていると感じたエーゼットは、シンシアと共に防護と攻撃に立ち回った。
更にユルがファミリアを具現化させ、敵に向けて舞い飛ばす。
苺に齧りつきそうになった真白なエゾモモンガに、そんなの食べたらお腹を壊すわ、と笑んだユルの言葉にシアもおかしそうに笑った。
そうして、少女は両手を振って皆に呼び掛ける。
「シアね、シアね、みんなに安心して戦って貰えるようにがんばるよっ!」
「頼りにしてるぜ。さあ――思い切り燃えろ!」
その声に応え、信頼を送ったルトは胸に宿る地獄を烈しい焔へと変えた。腰に携えたジャンビーアを手に取った少年はその切っ先を敵に差し向ける。
刹那、揺らぐ炎が空気をも焦がす勢いで真っ直ぐに解き放たれた。
●終息の光
攻性植物が焔に包まれ、紅の軌跡を残しながら暴れる。
苺は回復の為に眠りつこうとしたが時既に遅し。火に氷、足止めと様々な痛みを刻まれた今、癒しなど焼け石に水だ。
エーゼットはシンシアと頷き合い、敵の力が弱り始めていると認識する。
「きっと、これが最後の勇気が出るおまじない――」
癒しと鼓舞の力を紡いだエーゼットは仲間達に信頼の思いを向けた。見つめた敵はやや美味しそうではあるが、今やそんなものに騙されはしない。
頼んだよ、と告げたエーゼットに頷いた千笑は最期ならば自分も攻撃に回ろうと決める。縛霊手を構えた千笑は一瞬で光の弾を生み出して放った。
「油断大敵ですよ」
「これだけの攻性植物を大量に生み出すとはパッチワークの魔女は侮れませんね。ですが、この場所の危機はこれで終わりです」
千笑の攻撃に合わせたウィッカも近付く終わりを感じ取り、魔剣葬呪の力を解放する。
魔術文字を刻んだ魔剣が敵を突き刺せば致死の呪いが巡った。黒の禁呪が容赦なく敵を蝕む中、綾鷹は敵が引き腰になっている事に気付く。
「テメエが吹っかけてきた喧嘩だろ? 雑草もどきが弱腰かましてんじゃねえよ」
挑発と同時に音と姿を消した綾鷹は先手を奪い、周辺の空間ごと鋭い斬撃を見舞った。それによってぱんな・こったが傾ぎ、苦しげな動作を見せる。
すかさず助手が赤紫の煙によって形作った医療器具達を放ち、敵の動きを固めた。そのまま押さえていて頂戴、と助手に告げたユルは片目を瞑る。
「ふふ。ぱんな・こったさーん、採血のお時間ですよ」
皆の愛らしいティンカーベルやメイド、隼天狗には適わぬかもしれないが、今宵くらいは看護婦らしい事をしてみても良いだろう。そう微笑んだユルの一閃が敵を穿ち、続けてルトが攻撃の機を得る。
「……ああ、そうそう。言い忘れてたぜ。――Trick or Treat? もちろん悪戯に決まってるから、その立派な果実を収穫してやる!」
歪んだパーティはこれで終わり。
なーんてな、とジャンビーアを半回転させ、自身の背後に現れた扉を開いたルトは悪戯気な笑顔を浮かべた。その直後、扉から放たれる雷鳴轟く漆黒の一閃が敵を容赦なく貫く。
有無を言わさぬ雷霆に合わせ、シアとジルも懸命に戦場を駆け抜けた。
「シアとジルくんの正義のハロウィンパワーくらえー!」
二人にとって大切なハロウィンを守るべく、放つのは一生懸命な凶器攻撃と魔法の矢。二人が繋いだ隙を逃すまいとリシティアが動く。
既に攻性植物は動く事すら出来ない。それなら、とリシティアは指先を天に向けた。
「一瞬で黒焦げにしてあげるわ、降り注げ雷光」
遥か天空に形成された魔方陣が轟雷を地上に叩きつけ、閃光が散る。その様は正に神の杖、または剣であり、裁きのようで――。戦いは光の柱の収束と共に終息した。
●夢の終わりと始まりと
苺がころころと地面に転がり、やがてそれすらも跡形もなく消滅していく。
ルトは敵の気配が完全に消えたと察し、リシティアも戦いの終わりを感じた。千笑はあれほど大きな苺が消えたことを少しだけ残念に思いながらも仲間達へと微笑みを向ける。
「皆さま、お疲れ様でした!」
「やっと終わったな。これでひと段落か?」
綾鷹は何処か気怠げに伸びをしながら周辺を見渡す。戦闘でやや荒れた部分はあったが、攻性植物の残滓やドリームイーターに関する危険なものは見当たらなかった。
「ぴー。壊れちゃったとこ無いカナー。はっけーん!」
シアもきょろきょろと庭やガレージを眺め、ぴゃっと崩れた場所を指差す。ジルもシアの後について修復箇所へ走っていった。
その様を見つめたリシティアは皆で直しましょう、とヒールを施していく。
ユルもそっと安堵を抱き、助手を連れて荒れた箇所をひとつずつ確かめていった。
「あら、紫の花と橙色の蔦が絡まっていますね」
癒すことによって幻想的になったガレージの様子にユルがくすりと笑むと、ウィッカもまるでハロウィンカラーだと目を細める。
「ヒールでファンタジーになって、ここは明日以降もハロウィンみたいですね」
帰って来た住民はきっと驚くだろうが、きっと面白いサプライズに変わるに違いない。
いっぱい楽しい! と、ぴょんぴょんと跳ねるシアとジルに混ざって助手がこっそりと棺桶の蓋をぱかぱかと開け閉めしている様は何だか微笑ましい。
エーゼットもシンシアを撫で、取り戻した穏やかさを嬉しく感じた。だが――。
「帰りにパンナコッタ、お土産に買っていこうかな……普通の」
スイーツが食べたい気持ちは今も消えず、エーゼットはこっそりと帰路の寄り道を決める。それが良い、と笑ったルトは改めて庭を見遣った。
「悪い夢はこれでおしまい。甘い夢は、甘いままで……ってな!」
揺れる南瓜ランタンに騒がしくも愛らしい蝙蝠達。癒しの幻想によって絡まる蔦と不可思議に咲き誇る花。これはきっと、今日が特別なハロウィンの日だったという証。
さあさ、召しませ甘い夢。
夜の昏さがほんの少し怖くても、南瓜の燈が全てをやさしく包み込んでくれるはずだから。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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