パッチワークハロウィン~あまい夜には罠がある

作者:天草千々

 新月の夜だった。
 冷たさを増す一方の夜に追われるように人々は帰途につき、熱狂の気配はすでに遠い。
 ただわずかに残された小さな装飾だけが、過ぎ去った祭りのことを寂しく知らせている。
「私は今や満たされた。誰かにつき従い、ただ命ぜられるままに動く――そのなんと甘美なことか」
 誰もいないショッピングモールの中庭で、緑衣の女が手にとったのはモザイクにおおわれた黄金の果実。
「魔女の力が最も高まる今夜、第十一の魔女・ヘスペリデスが、この日に相応しい植物を生み出そう。全ては、ユグドラシルにおられる『カンギ様』のために」
 言って女、ヘスペリデスは果実を軽く投じる。
 それは弾けるように膨れ上がり、確かな姿を形作っていく。
「さぁ、夢の残滓と黄金の林檎から生まれしものよ、人間どもを食い散らかすがいい」
 ほどなく現れたのは、3Mを超す巨大なチョコレートプディングのアラモードだった。

「パーティ直後にすまないが、デウスエクスの大きな動きが察知された」
 とんがり帽子にマント、指し棒がわりに小さな杖と魔女に扮したままの姿で、島原・しらせ(ヘリオライダーガール・en0083)は集まったケルベロスたちに説明を始めた。
 辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)の働きにより、ハロウィンパーティの直後を狙って、パッチワークの魔女の1人である第十一の魔女・ヘスペリデスが動き出そうとしていることが判明した。
「彼女は各地のパーティ会場あとに現れ、その残滓と自身が持つ黄金の林檎の力で、強力な攻性植物を生み出す気だ」
 あいにくそれを阻止することはできないが、生み出された攻性植物によって犠牲者が出ることは防げる。
 至急パーティ会場に向かい、敵を撃破してほしい、としらせは言った。
 向かう先は、とあるショッピングモール。
 攻性植物がいるのはその中庭だ。
 ちょっとした広場になっているそこでは週末からイベントが行われていたが、平日ということもあって、閉館時間を過ぎた到着時には小さな装飾が残るのみで無人になっている。
「建物の中を経由するより、直接ヘリオンから降下したほうが早いだろう。すぐに戦闘になるだろうから、そのつもりで頼む」
 巨大なデザートの姿をした攻性植物の名はブラック☆ぷりん・あら・もーど。
 プリンの上にのった目玉のような部位から放つ熱光線、ブラックインヴェイジョンに似たチョコソースを飛び散らす攻撃、触手のような部位による打撃にヒールグラビティも扱う。
「見た目は奇妙だが、決して侮れる相手ではない。注意してほしい」
「今年も盛り上がったしそのせいカナー? あ、あたしも手伝うよー」
 こちらも着替える時間が無かったのか、三角帽子に赤毛のウィッグで女海賊に扮した柳川・かれん(瞳のアトラクション・en0184)が、おもちゃの銃で帽子を持ち上げて、家に帰るまでがお祭りだし、と笑った。
「ドリームイーターの魔女が攻性植物を生み出すのも奇妙な話だが、ひとまずは人々の安全が第一だ」
 油断せずに頼む、と言ってしらせは杖をくるりと回した。


参加者
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
サフィーナ・ファイアワークス(菊牡丹の双華・e00913)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
ベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171)
虎丸・勇(ノラビト・e09789)
周防・衣絵奈(頑張り屋の小さなお姉さん・e17039)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)
卜部・サナ(小学生ヴァンパイア・e25183)

■リプレイ

 新月の夜、冴えた空から舞い降りる一団がある。
 10月の最後の日、ハロウィンの夜に相応しく着飾った者が見受けられる彼らは地獄の番犬、ケルベロス。
 例え祭りの気配を残していても、目的が悪戯やお菓子であろうはずはない。
 ――いや、お菓子ではあった。
「見た目は美味しそうだけどね」
 先頭を切って地に降り立つと同時、敵を見上げてシェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)が口元を歪める。
 そこにいるのは見た目には完ぺきなチョコレートプディングのアラモードだ――大の男も見上げるほどの大きさであることと、その正体が攻性植物であることを除けば。
「トリック・オア・トリート! 吸血鬼の卜部・サナ、只今参上なの! お菓子と血をくれなきゃ悪戯しちゃうのよっ!」
 続けて夜に降り立った吸血鬼、卜部・サナ(小学生ヴァンパイア・e25183)は手にしたボール型のライトを撒いていく。
 非常灯の光だけがぼんやり輝いていた中庭を、祭りの夜は終わらないとばかりに転がる明かりが再び照らし上げる。
「楽しかったハロウィンを台無しになんてさせないから……!」
 そこへ舞い降りた純白の天使は周防・衣絵奈(頑張り屋の小さなお姉さん・e17039)。
 本来、柔和な表情の衣絵奈は顔をきっと引き締めて攻性植物を見据える。
「……やっぱり平穏には終わらなかったかぁ」
「終わった後の方が、警戒が緩いって考えたのかな」
 かぼちゃの顔が描かれたスカートがふわりと広がるのを慣れぬ様子でさばいて虎丸・勇(ノラビト・e09789)が言えば、双子の魔女の片割れサフィーナ・ファイアワークス(菊牡丹の双華・e00913)も軽く疑念を口にする。
 けれどシートを叩いて相棒のライドキャリバー、エリィを送り出す勇も、揃いの衣装のビハインド、カミヒメと飛び行くように仲間の前へ出るサフィーナも、すでに戦う意志は固まっている。
 攻性植物の体表を覆うチョコソースが、弾丸のように飛んで前へと出た者たちを撃った。
「やる気充分って感じだね」
「そっちがその気ならー、みなのものー、やぁっておしまい!」
 最後に降り立った赤毛の女海賊、柳川・かれん(瞳のアトラクション・en0184)が銃を構えて反撃の声をあげ、番犬たちは祭りの夜を守らんと動き出した。
「――届け、絢爛たる花の導き」
 戦いの喧騒よりもさきに、穏やかな男声が中庭に響き渡る。
 燕尾服にシルクハットのベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171)の歌は、秋の夜空に花弁をよび、それは光の中で時期を急いだ雪のように舞った。
 その舞台を、金の髪で揺れる青い花が駆け抜ける。
「ぎゃ、お菓子がっ」
 兎の耳と、恋人と同じ燕尾服――けれどいくらか活動的なアレンジのシエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)は、鞄から零れた戦果に悲鳴を漏らしつつもその足を速めた。
 華やかなブーツスタイルのエアシューズが中庭のタイルを高く鳴らし、スターゲイザーの一撃がチョコレートプディングを大きく揺らす。
「花の鎖は艶やかに。心に絡みつけば、ほら、もう目が離せない」
 アームドフォートを展開した鎧装騎兵の姿はスミレの一輪に似ていた。
 ランタンの青い光で攻性植物を照らしながら、シルク・アディエスト(巡る命・e00636)は魔術で幻の眷属を生み出す。
 可憐に咲き誇るスミレの花束が、プディングの頂点に鎮座する異形の目を奪った。
「効果あり、かな?」
 コミカルな見た目のぐるぐると渦巻く瞳が、それでもシルクの動きを追うのを確認してサフィーナは縛霊手の指を敵へと向ける。
 巨大な爪先から放たれた時空凍結弾がプリンにすっと飲み込まれると同時、背後に回ったカミヒメが一撃を叩き込んだ。
「でも、傷のほうはよくわからないねえ」
 猫顔負けの俊敏さで相手の間合いに踏み込んだ勇が、両の手で逆手に構えた惨殺ナイフを閃かせる。
 雷をまとった刃は相手を切り裂き、電流で打ち据える。見た目通りのあまりに滑らかな手ごたえに眉をひそめる主人の後退を炎をまとったエリィが体をぶつけて助けた。
「――あ、いい匂い」
 あたりに漂った砂糖の焦げる甘い匂いに、衣絵奈が思わず声を漏らす。
「おっと、可憐な天使が、と思ったらイェーナさんか。いやー、良く似合っているね」
 降魔の一撃を叩き込んだあと、大きく間合いを取った竜の男が少々わざとらしく驚いて見せた。
 けん制するように振るわれる触手を両手の武器でいなしつつ、小柄な娘にさっと視線を向けて片目を瞑る。
「そうですか? えへへへぇ……」
 背負った羽を細かく動かして恥じらう姿は、あるいはシェイの軽口は事実だったのかもしれないと思わせるほどだった――構えた妖精弓から放たれるのはあいにく愛の矢ではなかったが。
 一方、真に迫るという点ではサナの努力も負けてはいなかった。
「今宵のサナは血に飢えてるのーっ! がおーっ!」
 長い兎の耳とマントをたなびかせ、突き従うコウモリはファミリアロッド、そうして吼える口からはちらりと牙ものぞく。
 スターゲイザーの一撃をプリンに叩き込んだ小さな吸血鬼は、拍子に口元に跳ねたチョコソースを仰々しい仕草で指に取るとぺろりと舐めた。
「……あまーい!」
「え、食べれるの!? ボク蹴っちゃったんだけど!」
「詳しく!! 焦がしたらダメカナー?」
 驚きをともなったサナの言葉にシエラシセロとかれんがぱっと顔を輝かせる。
 甘いものへの誘惑が狙いを反らさせたか、かれんのドラゴニックミラージュは夜空を花火のように駆けて消えた。

 小さな吸血鬼のもたらした新事実は戦闘に新たな動きを加えていた。
「確かに見た目は美味しそうなプリンだけど……」
「流石にこんな量を食べたら胸やけしそうだねっと」
 サフィーナもシェイも、言いながら自ら試してみようという風ではない、あくまで食べられるのであったらという興味程度だ。
「美しいものや、美味しいものに毒があるというのは植物では珍しくありませんね」
 熱光線の一撃を受けてなお平然とした顔で、フォートレスキャノンでやりかえしながらシルクが説明を買って出る。
 そのまま食べる野菜や香辛料、甘味に使われるものまで毒性を持つものは実のところ数多い。いずれの場合も問題になるのはその摂取量だ、とシャドウエルフの少女は続ける。
「――だそうですよ、シェラ」
「ちょ、ちょっともったいないかなって思っただけだよ!」
 むくれるシエラシセロに、ベルカントは意地悪い笑みでこれはこれは失礼を、と仰々しく帽子を取って謝罪を送る。
「2人とも仲がいいんだね」
 茶化すでもなく羨ましそうな衣絵奈に、1人は顔色を赤く1人はそしらぬままで物語から抜け出てきたような燕尾の2人は同意する。
「でも少しだけなら食べても大丈夫かもしれない!」
「止めといたほうがいいと思うよ、かれんさん」
 なお諦めきれない様子の女海賊を猫娘が苦笑交じりになだめる。
 気持ちはわからないでもないが、祭りの成果が腹痛ではやりきれないだろう。
「食べられないなら真なる闇に呑まれなさいっ! ……如法暗夜の太刀っ!」
 すらり抜き放たれたサナの刃は、あたりを照らす光さえ飲み込む暗色をまとってガラスの器に見える部位を大きく切り裂いた。
「残念だけど、美味しい物は他にもあるしね」
 とりなすように言って白い天使は銀のフルートに優しくそっと息を吹き込んだ。
(「……癒しの光と音よ、遍く安寧をここに」)
 ぽう、と小さな光が生まれ、揺れる明るい茶の髪と花冠を照らし出す。
 暖かな旋律は戦場の音にも負けずに響きわたり、シルクの傷を癒した。
 そこへまったく無感動な様子で攻性植物が、触手に似た部位でスミレの花に鞭を撃つ。
「――容易く手折れるほど、やわらかであるつもりはありませんよ」
 自らを打ち据えたそれを掴み、むしろ引き寄せるように力を込めながらシルクの声は穏やかなままだ。
 一方で再び花の鎖を使い、敵を怒りに捕らえたままにしようとする様はどこか危うささえ感じさせた――スミレ属もまた毒持つものが存在する種である。
「1人で無理しないでね」
 それを癒すのは黄色い菊の花。
 髪から切り落としたそれでシルクの傷を巻き戻して、サフィーナは肩を並べる少女に声をかける。
「ええ、分かっています」
 そう答えながらもシルクの青の瞳には意固地なところが感じられて、菊牡丹のオラトリオは自らを盾にする覚悟を強くする。
 姉の気分を感じ取ったか、戦闘に巻き込まれて砕けた椅子を飛ばしつつカミヒメが仕方ないねと言った感じで小さく首を傾げた。
「当てないでね、ルカ!」
「仰せのままに、お嬢様」
 輝く二羽の鳥を呼び出したシエラシセロに多くを問い返すこともなく、ベルカントはライトニングロッドを構えた。
 双鳥を輝くガントレットとして拳にまとい、敵へと一直線に駆ける年下の恋人を見送る目にあるのはゆるぎない信頼だ。
 金の髪がふらりと揺れて右へ、伸びてきた触手を抑えるように弱い雷を一撃。
 続いてはシエラシセロが動くより先にその背へ向けて一撃、直前で彼女は左にかわし、ほとばしった雷が再び攻性植物の触手を弾く。
 その間に、勿忘草のオラトリオは巨体の懐へともぐりこんでいる。
「少し強めに行きますよ」
「楽しいパーティの日を壊すなんて――赦さない!」
 言葉はベルカントが、一撃はシエラシセロが先だった。
 掌から放たれた衝撃破の音がケルベロスたちの体を重く叩く、直後の小さな羽ばたきは轟く雷鳴にかき消され、余人の耳には届かない。
「キャーおふたりサーン!」
「いやいや、これは派手だね」
 かれんがここぞとばかりに囃したてて、シェイは口元の笑みを深めた。
「私も負けてられないな、っと」
 口調はあくまでひょうひょうと、けれど両の手の武器は神速でもって瞬く。
 だがそれさえも目くらましに過ぎなかった。
 黒竜剣・幻刃の神髄は実の中に隠された虚の刃、グラビティが生み出した無色のそれは夜の暗さも相まって不可避の連撃となって敵を切り刻む。
「――ん、どうやらこれは斬るのが正答かな?」
 仲間たちの攻撃と自らの手ごたえから推測された答えをシェイは口にする。
「確かに叩いたりしても平気そうだよね」
「切り分けて食べられるんならもっと良かったけど……エリィ!」
 ぷるぷると震える体を見据えて衣絵奈が言えば、勇は相棒に声をかけて走る。
 駆動音を高く相手の気を引くエリィを囮に、目玉の死角へ――果たしてこんな姿の相手がどれほどそれに頼っているのかは知れないけれど。
「甘い匂いも、嗅がされ続けるとお腹いっぱいだよ」
 そろそろ終わりにしよう、とリボンがスカートが、それにつけられた猫の尻尾が、主の後を追うように揺れ踊る。
 ナイフの刃が閃くたびに、鮮血のかわりに甘い匂いのソースが飛び散った。
「やっぱり切れすぎる気がするけど――っと」
 動物とも植物とも、そうして食物とも違う手ごたえにそう漏らした勇のフードがばさりと落ち、舞のペースが変わった拍子に触手が目の前をぶんと薙ぎ払っていく。
「蝙蝠さん、がぶって噛んじゃえー!」
 わっと声をあげる勇をフォローするようにサナの眷属がキィキィと飛び掛かり、フルートの音が再び響き渡った。

「……ちょっとこの子元気すぎないカナー、お腹空いたナー」
 ストラグルヴァインをかわされ、全身を何やらおいしそうに輝かせる攻性植物の姿にかれんの口から愚痴が漏れる。
「多分、もう少しの辛抱ですよ」
 そこへ迫る触手をゲシュタルトグレイブで払い、シルクが励ますように言った。
「ヒールを使うってことは弱ってきてるんだろうしね」
「うん、終わったら甘いものでも食べようよ」
 サフィーナとシエラシセロの言葉は、あるいは仲間全員に向けての励ましでもあったのだろう。
 見た目はともかく、この攻性植物がしぶといのは間違いのないところだった――あるいはこの怪物を生み出した祭りが、それだけ人々に楽しまれたことの証明だったかもしれない。
 ともあれ長い戦いは体力と集中力を着実に奪っていく、そうなってからは気持ちの勝負だ、自らを奮い立たせるためにご褒美があってもいい。
(「こんな夜中にとは大胆だねえ」)
(「大丈夫ですよ、運動は十分にしていますから」)
 筋骨たくましいシェイと細身のベルカント、乙女の敵とは無縁の2人は仲間の怒りを買わぬように声を抑える。そんな冗談を言う気持ちの余裕もまた必要であった。
(「――聞こえなかったことにしておくの」)
 まだまだ大人たちの事情には関係ないサナはそう結論して、刀を握る手に力を込める。
「みんなを悩ませる悪いデウスエクスは成敗! なの!」
 闇夜のオーラをまとい、鉄をも切り裂く愛刀は今夜も冴えわたっている、そう言えばお菓子を切った後の手入れはどうすればいいのだろう?
 ともあれ道は示された。刃を恐れたように攻性植物が一歩を引いたのを見逃さず、ベルカントが声をあげる。
「――それではそろそろ幕を引きましょうか」
 それを聞きとがめたようにベルカントたちに向けて打ちだされたチョコソースの弾丸の雨を、2人の魔女が傘となって受け止める。
「ありがとね!」
「助かります」
 ホウセンカのオラトリオに続いて短く礼を言うと、ベルカントはバリケードクラッシュで後へ続く仲間の道を切り開く。
「楽しいことにも、区切りはつけないとだよ!」
「命の巡りへ戻しましょう……!」
 シエラシセロが再び車輪の音を高らかに鳴らし、シルクがゲシュタルトグレイブで刻まれた無数の傷を掻き切った。
「後のことは心配しないで」
 サフィーナは攻め手をカミヒメに任せ、自らの傷を癒しながら次なる攻撃に備えて敵の動きを注視する。
 番犬の狩りは群れで行うもの、なれば支える役もまた必要だからだ。
「さて、長いハロウィンの夜も終わりかな」
 シェイの虚実を交えた斬撃がプディングの中ほどまでを深々と切り裂く。
 竜の男の笑みはずっと変わらずそこに在る、あるいはあと数時間後だって彼はそうして笑って戦っているだろうと思わせるほどに変わらず。
「――悪いけど、そろそろじっとしてもらえるかな」
 最後にエリィのシートを軽く蹴って跳んだ勇の雷刃が、プディングのその容器までを縦に切り裂き、甘い匂いとお菓子まみれのハロウィン・アンコールはその幕を下ろした。

「――みんなお疲れ様、大変だったね」
「ありがとう、イェーナさんは本当に天使だね」
 仲間の傷を癒してまわる衣絵奈にシェイが再び軽口を叩いて彼女を赤面させ、指笛を鳴らそうとしたかれんがふぶっと変な音を漏らした。
「もう少しハロウィン満喫したかったけど、クリスマスも楽しみだね」
「ええ、でもその前にプリンにしましょうか」
 気の早いシエラシセロの言葉にベルカントは微笑み、傷の入った中庭のタイルをヒールで癒していく。
「他のところも大丈夫だったかなぁ……」
「きっとみんなも頑張ってるよ!」
 心配げに呟いたサフィーナと修理したテーブルを並べなおしてサナが声をあげる。
 確信はないけれど、予感はあった。
 こんな日に、本当に悪いことなんてきっと起きないと。
 小さな吸血鬼が見上げた月のない秋の空にわずかな星が輝いている。
 地上にはその何百倍もの光があり、その一つ一つできっと今日の宴を話して、あるいは眠りの中で夢に見ている人々がいるはずだ。
『――』
 恐れを知らぬ娘と、恐れながらも戦う娘は今日もそれを守れたことに安堵の息を吐いた。

作者:天草千々 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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