パッチワークハロウィン~マジェスティ・パンプキン

作者:鹿崎シーカー

 窓にかかる暗幕の端から、沈みかけの夕焼けが注ぐ。
 消灯されたホール内、赤い光に照らされるのは、凝りに凝った装飾された室内だった。
 いくつも並ぶ丸テーブルにかけられた、クモの巣模様のテーブルクロス。ドクロのランプやフェルト製のクモ人形、古めかしい燭台風の電灯のそばに置かれた食べかす入りの金属トレイ。天井からはコウモリに幽霊の飾りが吊るされ、黒いカーペットには魔法陣が描かれている。
 魔女のサバトめいた不気味さと遊び心のある空間は、熱狂の残滓と寂しさをかもしどこか虚無的。しかしそこにたたずむ一人の女は、うっとりと金のリンゴを眺めていた。
「嗚呼……とても、とてもいいわ。これが私の求めていたモノ。求めてやまなかった服従の心……」
 リンゴの表皮に映り込む、歪んだ自分と見つめ合う。手にしたそれを高々と掲げ、第十一の魔女ヘスペリデスは宣言する。
「この心に報いよう。そして、この心をくれた『カンギ様』の為に力を振るおう。さあおいでなさい。その力を以って、人間共を食いつくすがいい」
 放り出された黄金リンゴは弧を描き、魔法陣に落下する。複雑な模様の中央で、まばゆい閃光が膨らみ消える。長い緑の体をくねらせ現れたのは、とんがり帽子を持つ南瓜の怪物。
 過ぎ行く夕暮れの中で、怪物はけたたましく哄笑した。


「パーティー終わってすぐ仕事なんて……デウスエクスもちょっとは休んでてほしいよねー……」
 シルクハットに南瓜型のサングラス。ハロウィン気分が抜けきらない様子の跳鹿・穫はしぶしぶ資料を手に取った。
 パーティー終了直後だが、ドリームイーターの魔女集団『パッチワーク』の一人が動き始めたようだ。
 現れたのは、心のうち『服従』を失った第十一の魔女・ヘスペリデス。彼女は日本各地のハロウィンパーティー会場に現れ、そこに残った夢の残滓と黄金のリンゴの力を使い、強力な攻性植物を生み出そうとしているらしい。
 放置すれば、生まれた攻性植物は周囲にいる人間を虐殺してしまうだろう。そうなる前にパーティー会場に急行し、この攻性植物を討伐してほしいのだ。
 今回現れる敵は、ハロウィンボムモドキという名の攻性植物だ。単騎のみでの登場となるが、体長三メートルでキャンディ型や南瓜型の小型爆弾を無数にばらまいて攻撃する戦法を取るそこそこの強敵だ。出現ポイントはとある大学の体育館なのだが、装飾など燃えやすい物が多いので戦う際には注意が必要。
 また、体育館内に人影はないものの、校舎などにはまだ残っている人がいるかもしれない。ハロウィンボムを外に出すと大きな被害が出る可能性が高いので、その辺りにも一工夫が必要だろう。
「終わって早々なんだけど、大暴れされたらたまったものじゃないからね。がんばってやっつけて来て!」


参加者
篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)
一式・要(狂咬突破・e01362)
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)
太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)
天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027)
牧島・奏音(マキシマムカノン・e04057)
カーネリア・リンクス(刀使い・e04082)
アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)

■リプレイ


「せいッ!」
 窓ガラスが砕け散り、丸テーブルが外へ飛び出す。聞こえる破砕音に、体育館のネットに登った天海・矜棲(ランブルフィッシュ海賊団船長・e03027)が振り返った。
「ダイナミックお片付けかよ。絶対ぶっ壊れてるぞ今のやつ」
「後で直せば問題ないわよ。そぉーれっ!」
 テーブルを手近な窓から放り出しつつ、一式・要(狂咬突破・e01362)は事もなげに言う。窓を微妙な顔で見つめる矜棲の真下で、カーネリア・リンクス(刀使い・e04082)は声を上げた。
「おーい、何やってんだよー」
「…………。わり」
 コウモリや幽霊の人形を、つるし糸を切っては落とす。落ちてくるそれらを取っては、篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)に手渡していく。人形を隅に投げては戻ってくるメノウに、フェルトのコウモリを差し出した。
「なあメノウ。千枝先輩と奏音どこ行った? さっきまで上にいたよな?」
「千枝ねーちゃんは外見てくるって。奏音ちゃんは知らない。多分その辺にいると思うけど」
「まぁ、こんな時にどっか行くわけねえか。……おっと」
 オウガメタルがカーネリアの肩から飛び出し、人形をキャッチ。隅に装飾が積み上げられていく中、体育館の扉が開いた。叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)が下ろしたバケツが飛沫を散らす。
「水を持ってきたよ。首尾はどう?」
「おお! わざわざ済まねえな!」
 シュラウドにしたネットから降りる矜棲。テーブルを投げていた要はフェルトのドクロを放って肩を回した。
「ふー……軽いけど、肩悪くしちゃいそう。あといくつあるのよ……」
「急いだ方がいいぞ。もうじき時間だ」
 閉じた扉を尻尾で開き、アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)が顔を出す。両手にはやはり水を満たしたポリバケツ。装飾に水を被せる宗嗣の足元に、メノウは装飾を投げ込んだ。
「ねえそーしさん。千枝ねーちゃんと奏音ちゃんは?」
「ああ、二人ならその辺で見たよ。何か探してる風だったけど」
「きっと消火設備と一般人ね。ごめんねえ。あたし、手ぇ離せなかったから頼んじゃったのよー……あら」
 要の言葉が終わるか早いか、体育館にチャイムが響く。差し込む光は消える前の輝きを見せ、燃えるような赤。片づけ切れなかった装飾を見まわし、カーネリアは舌打ちをする。
「もうこんな時間かよ。まだ残ってるってのに」
「俺、二人を呼んでくる。後は頼むよ」
 空になったバケツを持ち速足で出ていく宗嗣。遠ざかる足音を背後に、アベルは虚空をにらみつけた
「お前達、早いところ水をまいて隠れるぞ。……奴が来る」
 残るメンバーはバケツをつかみ、水をまく。魔法陣を湿らせ、数か所に積んだ装飾ごと濡らしていく。
 夕日は今、地平線に沈もうとしていた。


 数分後。消えゆく残照をかき分けて金の光が顔を出す。夕焼けの赤をねじ曲げ現れたのは、まばゆく輝く黄金のリンゴ。鈴に似た音を散らして光が弾け、リンゴは魔法陣に落下する。
 ピシッ。静寂の中、突如リンゴがひび割れた。亀裂は広がり、すぐにリンゴ全体を覆い尽くす。産声として上がるのは、甲高い不気味な哄笑。
『アハッ! アハハハハハ! アハハハハハーッ!』
 リンゴが中から光を放ち、破裂する。暗い体育館を照らす金色の中から、ぐねぐね伸びる影を映す。凶悪な面相の南瓜頭と細長い黄緑の胴。右手に南瓜、左手に帽子を持った影は、花火のごとく消えた光からはい出し首を傾げた。
 半分殺風景な体育館。数か所には掃除された枯れ葉のように積まれた装飾があり、窓はいくつか割れている。しかもまばらに水気まであるという状態に、南瓜の顔がいぶかしげな表情になる。近くには獲物らしい気配もない。
「…………。ケッ」
 不服そうに吐き捨て、とんがり帽子を扉に向ける。帽子の口が光芒をこぼし始めたその瞬間、ハロウィンボムの背後、ステージにかけられた暗幕がばさりと揺れた。
「今だリアちゃん! 合わせるよッ!」
「おうよ! そこで大人しくしてな南瓜ァ!」
 驚き振り返る南瓜の目を光線が刺す! 牧島・奏音(マキシマムカノン・e04057)とカーネリアは声をそろえて高らかに叫ぶ!
『篁流射撃術ッ!』
 跳躍し錐揉みするカーネリア。回転の力を加え、指に挟んだ銀の飛針を投げ放つ!
「霧雨ッ!」
「アハーッ!?」
 降り注ぐ鉄の雨がハロウィンボムの身を削る。とっさに防御姿勢をとるも飛び散る黄色や緑の破片! 奏音の照準は針が刺さった地面を狙う!
「……あたし式・『星屑』ッ!」
 青白い光が薄闇を裂く! 彗星めいて発射された銃弾は狙い違わずハロウィンボム周囲の床で炸裂し、床を爆破。突き刺さった針が弾け飛び、南瓜に前後から襲いかかった。
「ぃよっしゃあっ! みんなぁーっ! もーいーよーっ!」
「出番待ってたぜぇッ!」
 扉を勢いよく開け放つ矜棲! その両脇を風めいて飛び出したメノウと宗嗣がそれぞれの剣を抜き放つ!
「もうお祭りはお開きしたんだ! あげれるものも何もないっ! 早いとこお引き取り願おうっ!」
「お前たちに、皆の夢は奪わせない。薙ぎ祓うぞほのか……!」
 宗嗣と並走する炎のトンボが切っ先に止まって溶ける。渦巻く炎は黒い刀身に収束し、赤熱する刃と化した。赤い軌跡を描き突進! 黄緑の胴めがけ横薙ぎに打ち振るう!
「惨禍燎原……!」
「アバッ!」
 背後から斬られたハロウィンボムがぐにゃりとのけ反る。上下逆さになった目が、赤に囲まれ刀を斜めに引き絞るメノウの黒い瞳とかち合った。
「篁流射撃術……降り注げ」
 突き上げる白刃! 南瓜の顔を浅く切ったそれで天を差し、ギロチンめいて振り下ろす!
「『凍白雨』ッ!」
 宙がまたたき、抜き身の刃が落ちてくる! 澄み切った斬撃の雨を前にハロウィンボムは帽子をまさぐり中身を地面に打ちつけた! 噴き上げる爆炎! 飲まれかけたメノウを引っ張り代わりに矜棲が前に出る。
「ぐえっ……!」
「それ以上爆破はさせねえ! 変・身! さあ、錨を上げるぜ!」
 腕を振り、バックルの操舵輪を回転させる。ほとばしる雷とともにすさまじい勢いで回り始めた舵から響く電子音声!
『オモカジイッパーイ! リベル! ヨーソロー!』
「ハッハァーッ!」
 うなる稲光をまとった拳が爆炎めがけて放たれる! しかしパンチが届く寸前、燃え上がる炎の中からハロウィンボム右手の緑南瓜が振り下ろされ海賊ハットを打ち据えた! 緑南瓜起爆!
「ぐほぁッ! 熱っちィ!」
「ングァァァアアアッ!」
 怒りの叫びを上げ無数の小型南瓜が放り出された! 高く投げられ、そこら中にぶちまけられる爆弾を、踏み込んだアベルの大鎌がなぎ払う。遠くに落ちた物が爆発! 奏音が隠れていた暗幕までもが燃え上がる!
 火と煙になるカーペット。なおも流星群めいて落ちてくる南瓜に、奏音は狙う間も惜しんで引き金を引く!
「だぁーもぉーっ! なにこれっ! 新手の空襲!?」
「言い得て妙だ。もはや悪戯で済むレベルではない」
 アベルにテーブルが蹴り飛ばされ、そこに南瓜爆弾が落下し爆破! ハロウィンボムは帽子をひっくり返して激しくシェイク。転がり出た飴玉が四方八方に転がっていく。広がるパステルカラーの地雷原! 
 太田・千枝(七重八重花は咲けども山吹の・e01868)は腕に展開したホロパネルに猫柄の札を次々並べ、バスケゴールを蹴って宙を舞う!
「奏音ちゃん、メノウちゃん、リアちゃんっ! 巻き上げて!」
「千枝先輩! ……っしゃあっ! いくぜコランッ!」
「僭越ながら、協力するよ」
 カーネリアのオウガメタルが刀に変形。離れた位置のメノウ、宗嗣と身を屈め、刃を持つ手を全力でひねる。
「合わせてカーネリア、そーしさんっ! 篁流剣術!」
「ちょ、あたしは!? えっと、あーもうっ!」
 半分破れかぶれで銃を上向ける奏音。アフリカを進む軍隊アリめいて迫る飴爆弾が触れる直前、三人は溜めた力を解き放った!
『「月出」ッ!』
 銀、赤、すみれ色。三色の竜巻が飴を捕らえ跳びあがる! つかまえきれなかった爆弾が真下を潜る!
「止めるわよ!」
「無論だ」
 広げた要の腕から水色のオーラが広がり進路を妨害。双刃の大鎌を手の中で回し、地を這うように投げ放つ。積層した水の盾に立て続けに爆発が起き、鎌は爆弾を切り裂きながらハロウィンボムめがけて飛翔! シェイクの手を止めブリッジ回避するスキに、爆弾を巻きこんだ三人は中空で剣を振り上げた。自分めがけて殺到する斬撃に向かって、千枝はパネルに光を灯す!
「篁流回復術、『断風』っ!」
 札が輝き、カマイタチめいた風が吹き下ろす! 螺旋を描いて昇る斬撃は全て風に乗って急転直下! 身にまとった爆弾もろともハロウィンボムに直撃した! 大爆轟! 付近の飴地雷を巻き添えに、三つの斬撃は爆発四散! 熱風に先んじた癒しの風が仲間たちを包み込む。
「アッハーッ!?」
「うおおおおおおっ! どうにでもなれぇーっ!」
 奏音が構える銃口に、爆炎が吸い込まれていく。
「千枝さん、メノウちゃんっ! 上手く回復出来たら攻めてくよ……!」
「なら先もらうぜッ!」
 次第に晴れる炎と煙に矜棲はドクロマスクの目を光らせ突進! 残った飴爆弾を次から次へと爆砕しながらピストルを抜く!
「菓子もねえしイタズラもさせねえッ! 不完全燃焼してろ南瓜野郎ッ!」
 かき消える炎から現れた南瓜の顔に銃弾が刺さる! ハロウィンボムは怒りに満ちたうなり声を上げ小型南瓜を投げつけた! すんでのところで受け止める矜棲。
「うおっ! ちょっ、これ……! ……あれ?」
「矜棲さんっ! 前っ!」
「……んあ? ごふっ!」
 千枝の警告に面を上げた矜棲に、複数のキャンディが散弾めいてめり込んだ。爆発!
「本物来たごっはぁッ!?」
「矜棲くん? それ、ちゃんと持っとくのよ!」
 焦げ臭い煙を吐き転がる矜棲に、要はハロウィンボムを挟んだ向かい側からオーラを放つ。水に似たオーラが火をかき消すのと同時、振り向いた南瓜にサイドキックし素早くバク転! あごをひび割れさせ飛ぶ爆弾魔に、奏音の銃が炎のビームを撃ち出した!
「た、篁流射撃術! 『餓鬼雨』っ!」
 早口の口上とともに、またしても大爆発! 揺れる足場を踏みしめ、メノウは刀をくるくる回す。
「もう、奏音ちゃん派手すぎ。これじゃどっちがやってんのかわかんないよ」
「フォローしてあげましょう、メノウちゃん。姉弟子として」
 パネルに並べた千枝の札から香る風が巻き起こる。それはメノウの剣舞に乗って、散らばる火種をロウソクのように吹き消した。
「篁流回復術、『華風』。……からの!」
 中段で切っ先を止め、弾丸のごとく走り出す! その先にはアベル、要と南瓜爆弾をばらまき殴り合うハロウィンボム! 一瞬の目配せのうち要が沈み、アベルが跳躍!
「さあ行くぞッ! ここで退くわけにはいかない!」
 胸当てにゆらめく炎が脈を打つ。ブーツを砕いて現れた黒いかぎ爪で、アベルは回し蹴りを繰り出した! えぐり取られる南瓜の顔面!
「ァァアアアアッ!」
「痛いかしら? でもごめんねえ。南瓜……じゃない、これ以上燃やされると困るのよッ!」
 激流となるオーラを宿し、要は間欠泉めいて地を蹴りハロウィンボムのあごを撃ち抜く! 浮き上がる下半身に刃を走らせるアベル。錐揉みしながら飛ぶ南瓜頭に、要が拾った飴を投げつけた! 目と鼻の先に飛び来る敵に、メノウは手の中で刀を反転。刃を上向け、居合い斬る!
「篁流剣術、『三日月』ッ!」
「アバッ……!」
 正中線に弧を描いた斬撃が埋まった。さらに踏みしめられる、狼の足跡を模した靴。全身のバネで押された刀が滑る!
「『月光通し』ッ!」
「アバ……アバーッ!」
 胴体を刺し貫く稲妻の剣! 血の代わりに炎を噴き出し、黄緑の茎が思い切りのけ反る。炎は火だるまの南瓜や飴へ姿を変えて、装飾やテーブルに降り注ぐ!
「千枝先輩ッ!」
「はいリアちゃん!」
 上空のカーネリアが放つ氷結の波動が育とうとする炎を凍結させる。右手を鉄に、左手を獣のそれに変化させた背中を風が押す!
「好き放題やりやがって……オレとコランの力、見せてやる! そこどけメノウ! 篁流格闘術ッ!」
 刀を引くメノウの姿が赤い軌跡を残して消える。やや離れた場所で彼女を抱え、炎トンボの羽を生やした宗嗣は自らの剣を切り払う。
「これでよし、と。篁流、煉剣技複合刀技……」
 刀身半ばまで鞘に収まる黒刀が、音を立てて収まった。
「『焔月』!」
 薄れかかった軌跡が爆発! 火球に押され、持ち上げられたハロウィンボムの両腕めがけ、カーネリアは腕を引く!
「『雪狼』ィ!」
 突き刺さる獣と鋼鉄の正拳突きが、南瓜の両手を噛み千切る。ばらばらと散る飴や南瓜を黒い影が貫いていく。爆弾を数珠つなぎにした尾の先は、ハロウィンボムをも体育館にぬい止めた。
「宴は終わりだ。そろそろご退場願おうか! やれ矜棲!」
 キャットウォークの手すりを蹴った矜棲は爆撃にさらされるハロウィンボムの上に立つ。勢いよく回る舵のバックルが光を放ち、錨の形に収束していく!
「バカスカやってくれた礼だ! 百倍にして決めてやるぜッ!」
『オモカジイッパイイッパーイ! アンカーストライク!』
 手にした巨大アンカーを振り上げ、ジャベリンめいて投げ下ろす。敵を押しつぶしたそれに向かって、飛び蹴りを繰り出した!
『ヨーソローッ!』
 錨ごと踏み抜かれたハロウィンボムが悲鳴を上げる。
 南瓜型の爆弾魔は、断末魔とともに爆発四散した。


「よーし! それじゃあ今回は、定番所でいってみよー!」
 ステージ上で宣言し、奏音は高らかに歌い始める。そんな友人の声を聞きながら、カーネリアは肩を回した。
「あー……祭りの日だったってのに疲れたぜ。マジで空気読んで欲しいぜ」
「だが、怪我人が出なかったのは幸いだ。被害も館内で済んだしな」
「装飾は焼けたけどね」
 腕を組むアベルに、宗嗣は手のビニールを見下ろした。黒く焦げた装飾の山に、メノウが神妙な面持ちで集めた物を流し込む。そんな妹分をなでていた千枝は、戻って来た要の腕に目を向けた。
「要さん? それは……」
「ふふふ。そこら中に転がってた南瓜よ。せっかくなんだし、食べなきゃ損でしょ?」
 腕いっぱいに抱えられたオレンジの南瓜。山のようなそれらを疑わしげに見下ろし、矜棲は眉根を寄せた。
「……実は爆弾ってオチじゃねえよな?」
「ぶつけてみればわかるわよ?」
「それはマジでやめてくれ!」
 飛び退る海賊に苦笑しつつ、千枝は南瓜をじっと眺める。
「そうですね……沢山あるみたいですし、良ければ何か作りましょうか?」
「お、やった! 千枝ねーちゃん、あたしにもなんか作って!」
 焼け跡の残る体育館に、癒しの歌声が響く。
 慌ただしいハロウィンの夜は、冬の足音を残して過ぎ去るのだった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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