宴の後はいつも寂しい。
夜半過ぎ、都内の公民館。地元有志が開催したパーティはひとまず終わり、後は明日に片づけを残すだけ。
人の姿はなく、お化けやカボチャの飾りつけだけが残されたパーティ会場跡、祭りの高揚と憂鬱な日常の狭間は奇妙な空虚さに包まれていた。
「第十一の魔女・ヘスペリデスが役目を果たすとしよう」
人気のないはずの公民館に、緑の魔女は忽然と姿を現した。胸元のモザイクは彼女がパッチワークの魔女、ドリームイーターであることを示しているが、その手の籠にはモザイクがかった黄金の林檎があった。
「魔女の力が最も高まる今夜、全ては、あのお方の為に。ユグドラシルにおられる、『カンギ様』の為に」
歌うような声と共に、魔女は籠から林檎を投げる。
「人間共の夢の残滓と黄金の林檎より生まれし、攻性植物ハロウィンボムモドキよ。人間どもを喰い散らかすがいい。ハロウィンの魔力を集め、捧げよ……」
モザイクが弾けるように姿を現すカボチャの怪物。その様子に恍惚な声を残して魔女が去っていく。
「私が失っていた『服従』の心は満たされた。あぁ、誰かに服従し、その為に働く事の、なんと甘美なる事か……」
残された会場でカボチャが動き出す。ここからは惨劇のパーティだとばかり、会場跡が爆発した。
「ハロウィンパーティが終わったところすまないが、事件だ」
自身も慌ただし気な様子のリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は、辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)が見つけたというデウスエクスの新たな動きを説明する。
「首謀者はパッチワークの魔女の一体、第十一の魔女・ヘスペリデス。つまりドリームイーターなのだが、彼女と直接戦うわけではない……何か、妙な様子なんだ」
彼女は、日本各地のハロウィンパーティーが行われた会場に現れ、パーティーの残滓と彼女が持つ黄金の林檎の力で強力な攻性植物を生み出しているという。
「皆に頼みたいのは都内の会場の一つだ。生み出された攻性植物……敵が称するところの『ハロウィンボムモドキ』は、パーティ帰りの人々を襲い、殺そうとしている。魔女の事も気になるが……まずは敵が動き出す前に会場へ駆けつけ、攻性植物を退治してくれ」
ハロウィンボムモドキはその名の通り、爆弾の性質をもったカボチャの怪物だ。敵は一体だが、全長は三メートルと大きく、かなり強力な攻性植物らしい。
「攻撃は名前の通り、カボチャの口部分から自分によく似た爆弾を吐き出してくる。爆破スイッチの爆弾を思い浮かべてもらえばいいかな? だいたいあんな感じだ」
口から吐き出すカボチャ型の爆弾による『遠隔爆破』や『エスケープマイン』のような攻撃はもちろん、『ブレイブマイン』のようなヒールもこなせる爆弾は例外なく高火力。
更にクラッシャーのポジションで積極的かつ派手な攻めを好むため、防御には注意が必要だろう。
「幸いというか、パーティの終わった会場跡は人気もないし周辺被害は気にしなくて大丈夫だ。建物はヒールで直せるし、思い切りやってしまってくれ」
一気に説明した後、リリエは気を付けてくれと一言付け加える。
「パッチワークの魔女がハロウィンに事件を起こすのは納得だが……現れた敵は攻性植物だ。ヘスペリデスが、攻性植物を武器にしているのか、或いは、攻性植物がヘスペリデスを手駒にしたのか……」
ともあれ、攻性植物の撃破が第一だ。ハロウィンの最後を頼む、と彼女はケルベロスたちを激励した。
参加者 | |
---|---|
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708) |
古海・公子(化学の高校教師・e03253) |
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
津上・晶(錆びついた刃・e15908) |
空木・樒(病葉落とし・e19729) |
成瀬・涙(死に損ない・e20411) |
フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191) |
●ハロウィン・レイトアタック
ハロウィン深夜。
会場跡に生まれ、生誕の地を爆破せんとするボムモドキを弾幕のジャブが盛大に吹っ飛ばした。
「パーティの主役は遅れてやってくるってか? そうはいくか」
倒れた机に足をかけ、ガトリングガンを担いだ嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)はお化け啖呵を切る。
「遅刻したマヌケは喰いっぱぐれるんだよ。わざわざ戦いやすい場所に出てきてくれやがって、驚くほど何もする必要がねぇ!」
「ハロウィンは終わり、と思ったらもう一回楽しめるんだよ! 面白いお祭だからボクはもっと遊びたいんだ~」
無邪気な笑顔でフェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)が爆破スイッチをオン。容赦ない先制爆破がボムモドキを再び転がした。一発、二発……三発?
「危ない、伏せて!」
異変に気付き、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)がアメジスト・シールドを掲げて割り込んだ。
直後、特大の大爆発。
「けほっ、こ……これは……予想以上です」
吹っ飛びそうになったコスプレの赤備えの兜を抑えたミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)は、飛び交う瓦礫を振り落として立ち上がる。
「元々ハロウィンは悪霊祓いのお祭り……人々を脅かす輩は、この日のうちに消えてもらわなければね」
彼女もまた毘の旗印を手にした武者ヨロイのコスプレ姿だが、その衣装にはケルベロスの本分がしかと用意されている。
楽しいハロウィンを悲しい思い出にはさせるわけにはいかない。包囲するように布陣した成瀬・涙(死に損ない・e20411)の頷きに応え、振り下ろされる旗上りのエクスカリバール『大戦幟『毘』』
「……そう硬いわけでもなさそうですね」
古海・公子(化学の高校教師・e03253)は景気良い音でバカン! と突き刺さる旗指物を前に分析し、竜の幻影を召喚する。
「確か、長雨が続くと、南瓜は実と皮との生育バランスが崩れて、破裂したりしますし……」
「さすが本職、詳しいですね」
感心した様子で津上・晶(錆びついた刃・e15908)が異装の二刀流を抜く。ハロウィン仮装で男装姿の公子と並ぶ姿は不思議と絵になった、
「専門はちょっと違うんですけど、一応理科の教師なもので……あと、レンジで温めて爆発させたとか……と、きます!」
「そうはいかせません。ハロウィンはもう終わりですよ……瞬断」
短い和やかな空気は終わり、爆風が再びやってくる。身を低くし、達人の見切りで晶は爆風を裂いて切り込んでいく。
破片と衝撃のダメージは少なくないが、問題はない。既に彼の後ろには破壊のルーンが浮かんでいた。
「出来栄えはともあれ、癒し甲斐はありそうですね。速やかに徹底的に、掃除をするといたしましょう」
毒性がない事に心中で落胆しつつも、空木・樒(病葉落とし・e19729)の癒しは手を抜かず、的確に仲間たちを癒し、強化する。
「響け、双刃よ」
受け取った破壊の魔力を込めたゾディアックソードが星辰を増し、斬霊刀へと共鳴していく。
「響き渡る、刃の音色……命脈を断つ」
晶の二刀から放たれた波動の衝は、鋭く化けカボチャの表皮を撃ち抜いた。
●爆発! 爆発!
穿たれた穴が煙を吹く。危険の予兆に飛び退いた晶たちの手前で、大爆発。
駄菓子のような極彩色の爆風で会場跡を包みつつ、勢いを増したボムモドキははしゃぐように跳ね回った。
「あまり、使いたくはないんですがね……目が疲れますから……あぁ、ありがとうございます」
心眼を覚醒し、狙いを澄ます彼を労うように涙のウイングキャット『スノーベル』が翼を寄り添わせる。洒落にならない火力の前に、仲間たち、サーヴァントたちの援護は身に染みる。
「疲れ目ですか? では……かつて中央アジアに興った遊牧民が用いた夜目の秘薬です。かの薬効の前には夜闇に沈む小さき星すら成り下がるでしょう」
樒の薬匙『セミラミス』から処方される『王薬【朽ち星落とす偉大なる鏃】』が拡散され、晶と仲間たちの目を研ぎ澄ます。爆風の煙幕の中、ケルベロスたちは倒すべき攻性植物の陰をはっきりと捉えた。
「うーん……種を飛ばすとかでもなくて、とにかく爆発なんだよねー。先輩、どう思う?」
爆発から身を避けたフェニックスは癒しの風を届けて回る『まろーだー先輩』……小首を傾げたウイングキャットに問いかけながら攻撃と観察を続ける。
攻性植物として見ると一風変わった敵だが、それ以上の何かはないものか。足がかりを見つけられればとは思うのだが……
「と、きた!」
スイッチを叩きつつ跳躍。直後、ボムモドキと仕掛け爆薬が爆発した。ビリビリと衝撃が光の翼を震えさせて駆け抜けていく。衝撃波相殺されたといえ、キンキンと叩きつけられる爆音はフローネが思わず耳を抑えたほどだ。
「回復は十全……と、いいたいですが……」
「守っていては……押し負けてしまいます……!」
樒をもってして警戒させるその火力。撒かれたウイルスも、秘薬も一撃で吹き飛ばされてしまう。
ならば攻めるのみと、フローネは十文字槍に模した両手のゲシュタルトグレイブに菫色のオーラをまとい、果敢に多段突きを叩き込む。ガスガスと皮を抉られ飛び退こうとするボムモドキ。
逃がしはしないと踏み込むケルベロスだが、その前にバラバラと濃蜜柑色がバラまかれる。
「これ、爆弾……!」
「ハッハー! なかなか愉快な射的ゲームだ、誰かスコアとっとけよ!」
声に割り込み、警戒していたタツマのガトリングガンが薙ぎ払う。爆発、更に爆発。思わぬ伏撃にひるんだか、大物に比べて威力は小さい。
それでも大した火力だが、タツマは守りをドローンと仲間たちに任せここぞろばかりに撃ちまくる。
「……ここは妨害でよさそうですね。その火力は危険なもので」
爆破スイッチを手にした公子も、その暴れっぷりに援護へと作戦を切り替えた。グラビティを込めたオーラの蹴りが、跳ね回るボムモドキを叩きつけ、地へと勢いを殺していく。
「それじゃ、お願いします!」
「心得ました……!」
敵の動きが止まるのに公子は飛び退く。ミチェーリたちディフェンダーが仲間たちを庇うなか、再びボムモドキが爆発した。
●爆発が爆発を制する
数度にわたる大爆発で、壁も窓も砕けた会場跡は吹き抜けになりつつある。ヒールグラビティで直せるとはいえ、そろそろ崩落が心配になってくる様相だ。
「思う存分エキサイトにドッカーン! したし、そろそろ決めないとまずいよね」
「……踏み込み……裂く……」
地獄化された涙の声がフェニックスに答えた。爆破の反動で飛び退き、再び突進準備を始めたボムモドキに突き付けた指をナイフに見立て、切り裂くような動作。
スノーベルが猫の手でそれを復唱し、まろーだー先輩が更に真似て頷く……いかんせん、猫の手では招き猫か何かのようになってしまうけど。
「そのためには……あの爆発を制する必要がある、と」
「もしもし? 公子さん?」
晶が思わず声をかけるほど、俄然元気な公子が割り込んだ。
「私の方に一日の長はありますからね!」
握りしめた拳に構えられたのは怪しげな化学反応の泡を立てる栓付きの試験管。ぱっと見でわかるヤバさにタツマが笑う。
「おぉ、いいじゃねぇか。射的ゲームも飽きてきたところだ、ぜっ!」
露払いとばらまかれた小カボチャ状の遠隔爆弾にガトリングガンを叩きつけ、タツマは篭手に覆われた拳を振り上げる。闘志に呼応し、共棲するオウガメタルが超鋼の拳を作り上げた。
「爆発物は、こう使うものですよ! この試験管に干渉できるは、この世の理と私のみ!」
遠隔爆破にタイミングを合わせ、投げつけられた『Explosion in vitro』が見た目に違わぬ爆発でボムモドキの爆弾を薙ぎ払う。爆風を突破し、ケルベロスたちが飛び出した。
「自爆でもしてくるつもりかもしれねぇがな、その前に俺が叩き潰す!」
猛攻に反応の遅れたボムモドキめがけ、タツマは拳を振り下ろした。ぶち抜く小気味良い手ごたえを感じつつ、めり込んだ拳を開き、握りこむ。
「釣りはいらねぇ、遠慮せずくたばれ!」
拳を引き抜けば、抉り抜いた穴から攻性植物の肉片と煙がまき散らされる。それが大爆発の兆候とはケルベロスたちも気づいていたが、あえて、更に踏み込んでいく。
「……花の如く、……弾けろ」
涙から臙脂色の炎が花のように舞う。それは正に導火線への火種の如く、仲間たちの猛攻を加速させた。ミチェーリとフローネ、二人の軌道がボムモドキへと螺旋の軌道を絞っていく。
「明鏡止水……ココロを澄ませて」
「極北の地を吹き閉ざせ……!」
挟み込まれた攻性植物の起爆、そのタイミングでアイコンタクトした二人の女武者が駆ける。
「……いきます!」
爆発! しかし間をおかず、爆炎は一文字に切り裂かれた。
「露式強攻鎧兵術、“雪風”!」
「紫閃……一閃」
手刀で作った居合の形。フローネはアメジスト・シールドを伸ばし、ミチェーリは冷気を集中させ、鏡合わせのように完璧なタイミング。止まらぬ勢いで旋回した手刀二刀が、ピーラーの様にボムモドキの皮を剥ぎ、凍結させて道を作る。その道を行くのは。
「止めを、フェニックス」
「おっけー! 祭の終わりにはとっておきの花火上げてあげる!」
炎の翼から供給されたグラビティにオウガメタルが霊槍を形成する。
まろーだー先輩の吹かす風をも吸収し、放たれた『ヴァルキュリア・フェニックス・フレイム』はボムモドキを打ち上げ、本当の意味で跡形もなく爆破した。
●祭の終わりに
「あー、終わった終わった。パーティ後のゴミだのなんだのも、敵の爆破で消し飛んでちょうどよかったなー……じゃ」
「そんなうまくいくわけないでしょう……あ、こら」
そそくさと現場を去るタツマに、公子が伸ばした手は残念ながら宙を切った。まぁヒールドローンを起動していくあたりは、彼なりの良心なのだろうけど。
「派手に壊してしまいましたね……」
会場跡は樒もため息をつく惨状である。あらかたのものが吹き飛び、ついでに壁も窓もドアも吹っ飛んだ。大半が横方向に吹き抜けてくれてはいるが、天井が落ちないか心配になる有様だ。
「……立つ鳥跡を濁さず、ヒールを頑張りましょう」
「……ん」
瓦礫に薬匙を傾ける樒に、涙は決意を込めて頷いた。さてこの状況、朝までに片づけられるのやら。
「あ、そちらはちょっと待ってください。少し、確認したい事が」
「奇遇ですね……ミチェーリさんも、魔女の足取りを?」
仲間たちがヒールに勤しむ一方、晶とミチェーリは少し別の件へと当たっていた。調査である。
「リリエさんも気にしてましたが、攻性植物を使役するパッチワークの魔女……あるいは逆か。何がしか足取りが残っているといいのですが」
「敵……ボムモドキの痕跡も当たってみましょう」
二人は手分けして集めた残骸、意味ありげな遺留品をまとめて袋に分ける。最終的な判断は集まった他の皆の情報と比較・分析してとなるだろうが、何がしかの役に立てばと晶は作業を続けていく。
「楽しい思い出で終わらせたいですからね」
ヒールを続け、フローネは明日からの日常に想いを馳せる……ところで、空気を裂く短い悲鳴。
「やってしまいましたよ……」
「あーっ、クリスマスだーっ!」
なんだなんだと集まってみればモミの木、柊、リース飾り。公子のヒールがもたらした、一足早い幻想効果にフェニックスが楽しそうに笑った。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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