パッチワークハロウィン~南瓜の森に甘い罠?

作者:秋月諒

●パッチワークハロウィン
 さあ、明かりは消して。これより先は夜の時。
 かわいい猫の子供も、狼さんも、吸血鬼だってお家に帰った頃。
 足跡の代わりは甘い香り。お菓子をたんまりと抱えた子達の後ろに残るのは南瓜の森。振り返ってはいけないよ。真っ暗闇の中に、何が潜んでいるかなんて覗き込んじゃいけないのだから。

「あぁ……」
 静けさを取り戻したパーティー会場に、感嘆の息が落ちた。ショッピングモールの一角、外に作られたハロウィンパーティーの会場には大小様々な南瓜の置物が置かれていた。その中に、カツン、カツンと足音を響かせて影は行く。冷えた風に髪を揺らし、吐息の主は南瓜の森に笑みを零した。
「私が失っていた『服従』の心は満たされた。あぁ、誰かに服従し、その為に働く事の、なんと甘美なる事か」
 満足げな息をひとつ零し、声の主は言う。
 魔女の力が最も高まる今夜、第十一の魔女・ヘスペリデスが、その役目を果たすとしようーーと。
「ユグドラシルにおられる、『カンギ様』の為に、私の黄金の林檎からハロウィンの日に相応しい植物を生み出そう」
 機嫌よく、ヘスペリデスは告げる。手にした黄金の林檎を空へと掲げ、さぁ、お前達、と謳うような声が響いた。
「ハロウィンの魔力を集めて私に捧げよ。全ては、『カンギ様』の為に」
 ヘスペリデスが黄金の林檎を投げると、金色の果実は大きなお菓子型攻性植物へと変化した。姿こそ菓子にーープリンアラモードに似てはいるが全長3メートル程ともなれば、甘いばかりの菓子ではあるまい。
「さぁ、人間共の夢の残滓と黄金の林檎より生まれし、ブラック☆ぷりん・あら・もーどよ。人間どもを喰い散らかすがいい」
 ひゅん、とチョコレート色の鞭が地を叩く。甘い香りが漂う中、ヘスペリデスは笑みを浮かべた。

●南瓜の森に甘い罠?
「トリックオアトリートって一度やってみたかったんですよね」
 ふ、と笑い、狐の耳をぴん、と立てた娘は集まったケルベロスたちに笑みを見せた。
「皆様、ハロウィンパーティーが終わったところですみません。パッチワークの魔女に動きがありました」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言って顔をあげた。
「辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)様が敵の動きを見つけてくださりました。動き出したパッチワークの魔女は、パッチワークの魔女の一体、第十一の魔女・ヘスペリデスと判明しました」
 ヘスペリデスは、日本各地のハロウィンパーティーが行われた会場に現れ、会場に残ったハロウィンパーティーの残滓と、ヘスペリデスが持つ黄金の林檎の力で、強力な攻性植物を生み出すようだ。とレイリは言った。
「このままだと、ハロウィンパーティーを楽しんで家路につこうという人達が襲われる可能性があります」
 それを許すわけにはいかないし、させるつもりもない。
 そう言ってレイリはケルベロス達を見た。
「皆様に依頼です。パーティー会場に現れた攻性植物を撃破してください。ハロウィンの終わり、この日の終わりをどうか守ってください」
 敵は攻性植物一体。
 出現するパーティー会場は、ショッピングモールの一角、野外に設けられたハロウィンパーティーの会場だ。
「いろんな大きさの南瓜が置いてある場所は、パーティーの時はその中で食事をしたり、南瓜に腰掛けたりできたそうです」
 ハロウィンの不思議な南瓜の森。
 パーティーが終わって、椅子やテーブルは片付けられているが南瓜たちはまだそのままあるのだとレイリは言った。
「足元や南瓜には十分注意してください。それと、南瓜は固定されていて、簡単に転がるようなことはありません。大きな南瓜は結構頑丈で、上に乗ったりしても壊れたりはしないようですよ」
 いざとなれば足場に使うこともできるだろう。
 一番大きな南瓜で、大人の身長ほどはあるのだという。
「敵はお菓子の姿をした攻性植物です。見た目は……チョコレートのプリン・アラ・モードみたいです」
 器もちゃんとついてるんですよ、とレイリは言った。
「全長3メートルほど、チョコレート色の鞭のような蔓による攻撃と、チョコレートの甘い香りによる攻撃があります」
 見た目に反して頑丈なのだと告げると、レイリはケルベロス達を見た。
「それと、どうやらこの個体は甘いお菓子を持っている人に惹きつけられるようです」
 基本は攻性植物だ。甘い香りに惹かれても不思議もないということか。
「どうか、気をつけください」
 
 そこまで話すと、レイリはひとつ息を吸ってケルベロス達を見た。
「パーティーが終わったばかりだというのに、最後まで聞いていただきありがとうございました。折角のハロウィンですから、ちゃんと楽しんで、帰るとこまで楽しい時間を守りましょう」
 パッチワークの魔女の好き勝手にさせるわけにはいきません。
「それに……、事件を起こすそれ自体は納得できますが、現れる敵が攻性植物だという事実はやや不自然に思えます」
 今までの事件から考えると特にだ。
 魔女ヘスペリデスが、攻性植物を武器にしているのか。或いはーー……。
「攻性植物がヘスペリデスを手駒にしたのか。気になりますが、今は、目の前のことにまず対処すべきでしょう」
 ハロウィンの一日を守るために。きっと色々なことがあった楽しい一日を、ちゃんと終わらせるために。
「行きましょう。ハロウィンを好き勝手にはさせません。皆様に幸運を」


参加者
銀冠・あかり(夢花火・e00312)
武田・克己(雷凰・e02613)
眞山・弘幸(業火拳乱・e03070)
メルキオス・トゥエスティ(チェシャ猫・e04334)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
ディオニクス・ウィガルフ(ダモクレスの黒剣・e17530)
小花衣・雅(星謐・e22451)
龍・鈴華(龍翔蹴姫・e22829)

■リプレイ

●不思議なプリン
 夕焼けを夜の藍が追い越していく。冷えた空気が頬を撫でた。賑やかなハロウィンパーティーの会場から離れてしまえば、ひどく、静かに感じる。カツン、と進む足音が響く静寂に、ディオニクス・ウィガルフ(ダモクレスの黒剣・e17530)は息を吐く。
「広い場所で安心だ……コレなら思う存分ヤれンじゃねェか」
 ひとつ、ふたつ、と目についたそこから数えて十を数える頃になれば、大小の南瓜の森の向こう明らかに様子の違うものが見えてくる。しゅん、と聞こえる音は空を鋭く切る音だ。鞭に似たそれに目を凝らせば、鋭い音とは不釣り合いな姿がケルベロスたちの目に見えた。
「プリン・ア・ラ・モードだ……」
 それは誰の声だったか。
 驚きが乗ったその声と共に姿を見せたのは、全長3メートルほどの巨体。チョコレートのプリン・アラ・モードの姿をした攻性植物。それこそが、このハロウィンパーティーの後に、第十一の魔女・ヘスペリデスが生み出した攻性植物であった。
 甘い空気に小花衣・雅(星謐・e22451)は息をつく。
「折角の楽しい雰囲気が台無しね。楽しいことは楽しいままで終わらせるべきよ」
 会場に残ったハッピーハロウィンの文字。楽しげな空気はまだ少し残っている。ぱしん、と地を叩く鞭の音が大きくなったのはこちらを見つけたからか。
(「パーティーが終わって、最後まで楽しくってところにお邪魔虫さんめっ」)
 キョンシーの姿で、すぅ、と龍・鈴華(龍翔蹴姫・e22829)は息を吸った。
「デザートだから美味しく食べられるなんて甘く見ないよ!ボクたちがやってやるんだー!」
 ハロウィンはおウチに帰るまでがハロウィンだよ!
 鈴華の声が響いたところで、チョコレートのプリン・アラ・モードーーの姿をした攻性植物が『目』を動かす。ぐるぐると、落書きでもされたかのような目はーーだが、確かにケルベロス達を『見て』いた。
 蓮水・志苑(六出花・e14436)は息を吸い、は腰の刃に手をやる。指先が滑る衣は常とは違う白。靡くは白と水色を基調とした雪女の和風アレンジ衣装だ。
(「夜も更けて参りました。悪魔も魔女も黒猫も喧騒と共に去り、子供達は家へ、静かな夜は死者の魂を見送る時間です」)
 そのような時間にひどく無粋な事をなさるのですね。
(「見た目はお菓子そのものですが油断は出来ません、それでは参りましょうか」)
 真っ直ぐに視線を合わせれば、空気が変わる。戦場特有のそれに、眉間に皺を寄せたまま眞山・弘幸(業火拳乱・e03070)は息をついた。
「このデカいプリンが本物なら子供がわんさと喜ぶだろうになぁ」
 ストライダーの衣装がはたはたと揺れる。
「パーティー会場は片付けが終わっているようだがこちらもしっかり始末して片付け完了としようじゃねぇか」
 荒く落ちた男の声に、落書きのような攻性植物の目が、ぐん、と開かれた。

●トリックオア?
「来ます……!」
「来るぞ」
 志苑と弘幸の警戒が高く響いた。ぶわり、と瞬間、広がったのはむせ返るほどに甘いチョコレートの香りだ。
「ったく」
 その甘さに、弘幸は顔を歪める。は、と息を吐きーー同時に感じる体の重さは、奪われた体力と毒か。
「甘いもんより酒のが好きなんでな」
 言いながら、地を蹴る。た、と身近な跳躍と共に一気に距離を詰めれば、あの不可解な目が瞬く。
「避けられるもんなら避けてみな」
 地獄の業火をまとった左脚が、攻性植物の胴にーー落ちた。
 ガウン、と重い音と共に、一撃は攻性植物に沈んだ。それでもぐん、と身を寄せてくるのは持ち込んだ菓子のお陰だろう。この攻性植物は甘い香りに誘われるという。
(「食べ物の姿をした攻性植物だ? 食い物への冒涜も祭りを台無しにした事も断じて許さん!!」)
 食い物と祭りは明日への活力だって教えてやる!!
 キン、と素早い抜刀と共に、武田・克己(雷凰・e02613)は一気に攻性植物の間合いへと踏み込んだ。避けるように、軽く敵は身を引くがーーそれよりも、男の踏み込みの方が早い。
「食い物を真似るなんざ食への冒涜!!祭りを台無しにしたことも許さん!! てめぇは此処でぶった斬ってやる!!」
 ゴウ、と雷が刃に乗った。
「全速でぶつけるのみ!!」
 突き出す一撃が、プリンのガラスの器に突き刺さった。ギン、という重い音と共に手に返る感触はガラスのそれとは違う。何よりーー。
「硬いか」
 踏み込みからの着地で、克己は横に飛ぶ。防御力は高い、という話だ。それに、この一撃に対して自慢の防御力を発揮できるのならばーー。
「それ以外はどうなるか」
「はい」
 頷いて、銀冠・あかり(夢花火・e00312)は赤いフードの中、視線をあげる。ハロウィンの仮装は、去年の仕事で仕立ててもらった赤ずきんの衣装だ。大切な友人に選んでもらった衣装。大切にしていたから、着るのもこうして動くのも何の問題もない。
「皆さん、とっても似合ってて、素敵だな……」
「今年はこの格好で行列に初参加だったんだよ♪」
 笑みを零し、鈴華はつい、と帽子をあげてーー呼ぶ。
「おいで、リンリン!」
 姿を見せたのはボクスドラゴンの鈴々だ。元気よく姿を見せた相棒に、ディフェンダー宜しくね、と言って、今宵のキョンシーは手を掲げる。その手にあるのは黄金の林檎。
「皆、十分に気を付けてねーっ!」
 その輝きは、正しく仲間を癒しーー盾を紡ぐ。
「では毒は、こちらで」
 あかりはすい、と手を空へと向けた。瞬間、生まれるのは薬品の雨。空になった試験管が空でふわりと消える。
「ギ」
 軋むような音がひとつした。感じた視線に、あかりは息を吸う。
(「おいしそうな植物さんだけど、甘い香りに惑わされないようにしっかり頑張らなきゃ」)
 この辺りに逃げ遅れた人はいない。関係者と話しているタイミングは無かったがーーがらんとした会場の近くに人の気配はなく、会場の入り口付近には終了の看板もかかっていた。なら、後はこの攻性植物を倒すだけだ。
「アステル、ディフェンダーに」
 雅の横、翼を広げた美しいウィングキャットが頷くように鼻先をあげた。すぅ、と息を吸い、少女は星座の守護を持つ剣を構える。照明の陰でできたそこには猫の尻尾。雅の仮装は黒いケットシーだ。
「色は違うけれど、アステルと同じ猫。なんだか新鮮だわ」
 ぽつり、と零せば、アステルがゆるりと尾を揺らす。ふわり、と雅の描いた守護星座が光り、癒しと共に守護を前衛へと届ける。それは、満ちる毒への耐性。その光の中を、志苑は前に出る。接近に気がつき、こちらを向いた攻性植物に、志苑は刃を振り下ろす。衝撃に、僅かに巨体が傾ぐ。——だが、すぐにぐん、とブラック☆ぷりん・あら・もーどはその身を起こした。近づくなとばかりに、振り上げられた鞭に、志苑は間合いを取り直す。た、と素早く引いたのは、踏み込む仲間の気配を感じていたからだ。
「美人の魔女に林檎から生まれるお菓子の攻性植物……Halloween Nightにはおあつらえ向きだ」
 ディオニクスだ。
 上着を翻し、拳を打ち合わせると漆黒の炎が生まれる。炎は腕から肩まで燃え上がりーーやがて形を成す。業炎の縛霊手と共に、地を蹴り前に出る。僅かに体を倒し行けば、踏み込みは食らいつく獣のそれだ。
「過日の幻、薄暮の現、黄昏の夢、宵闇の真――」
 紡ぐ声と共にディオニクスは手を伸ばす。その爪は浅くーーだが確実に攻性植物に食い込んでいく。
 それはアトラス精霊術の一種。その爪で切り裂き流し込む絶望の獄炎に、神経を晒す事で行う精神操作。
「汝が脳裏に刻まれし、棄て去れぬ者の面影よ…。……今一度、会い見える時――……さァ……」
「——」
 絶望の獄炎は今——届いた。
 びく、と攻性植物はその身を揺らした。ギ、ギ、と軋む音が響きーーやがて暴れるようにその蔦を振るう。ひゅん、と鋭い音に身を逸らせば、ぐん、とプリンの上にある目がディオニクスを向く。
「——!」
 だが次の瞬間、瞳は泳いだ。メルキオス・トゥエスティ(チェシャ猫・e04334)の持ってきたパイの香りに誘われたのだ。
「シェアハウスの料理番にパンプキンパイ焼いてもらったからねー」
 甘い香りは右に左に。
 この戦場まで連れ込んでしまえば、攻性植物を誘う香りは多くある。勿論、あっちも甘い香りはするのだが。
(「食べれないお菓子とか、アリエナーイ!! 匂いがするとか! なんなの! お腹すくじゃん!!」)
 大きなチョコプリンに一撃を叩き込めば、甘い香りが溢れる。お腹は空く。結構空く。
(「折角焼いてもらったパンプキンパイも温かい内には食べれないしさ。八つ当たり、開始だよ!!」)
 は、と息を吐き、メルキオスはぐん、と顔をあげた。
「ワンダーランドへごしょうたーい☆」
 高らかな声と共に、生まれるのはグラビティで作り出されたドア。開ける時にガツン、とメルキオスは敵にぶつけた。その衝撃はーー巨体を傾かせるのに十分すぎる。
「さぁ、彷徨ってきてね!」
 攻性植物が扉の中に消える。踏み外したかのように落ちーーだが、すぐに戻ってきたプディングから、ちょっとツヤが消えている
「ギィ、ギ、ギ」
 軋む音が響く。しゅん、ぱしゅん、と攻性植物はチョコレート色の鞭を振るう。暴れるようなそれと共に、ぐん、と攻性植物はその身を前に飛ばした。

●ビターアンド
 南瓜の森の中で、剣戟響く戦いは加速する。菓子の香りに誘われるまま飛び込んでくる敵はあの見た目でいて、ぶつかり合えば刃の打ち合いのように火花が散る。防御力は高い。だが攻撃に関しては高いというよりは手が多い印象があった。
「その、ジャマー、だと」
「えぇ」
 あかりと雅がいて尚毒に指先が染まるのだ。二人の言葉に頷き、メルキオスは地を蹴る。南瓜の上に飛び乗って放つは氷結の螺旋。一撃、その身に受けながらもぐん、と体を起こした敵にメルキオスはひとつの解を得る。
「弱点は、最初のだね」
 理力。
 呟けば、黙れとばかりに光線が放たれた。
「よっと」
 た、と南瓜から飛び降りて、一撃を避ける。代わりに砕け散った大きな南瓜を見送れば、踏み込み行く仲間の姿が見えた。
 甘い香りと共に戦場は加速する。受けた傷を、痛みを今は置いて。毒に蔓に、光線。使い分けて来る敵にケルベロス達のダメージは少なくはない。だが動けない程のことではなかった。何より、ケルベロス達は敵の防御力が高いことは分かっている。だからこそ、行くのだ。この足を止めず、振り下ろされる蔓に南瓜を蹴って、身を前に飛ばして避けて行けば、その影から踏み込んだ一撃を攻性植物に届かせる。
「お菓子の姿で現れるとはハロウィンらしくはありますが、誰も居ない夜で良かったです、このようなデウスエクスの姿、子供達が見たら泣いてしまうでしょう」
 ほう、とひとつ息を吐き、志苑は振り下ろされる蔓を刃で受け止める。
「お菓子ですから冷えた方が宜しいかもしれませんね。本日は私雪女、いつも以上に愛刀と共に彼の者を氷付けにいたしましょう」
 蔓を弾きあげ、もう一刀を抜く。
「あまりこの場を壊したくありませんが、どうかお許しを」
「——!」
 両手の刃から、放たれるのは霊体のみを斬る衝撃波。その斬撃に、攻性植物のガラスの器が欠けた。
 ぐらり、と大きく体を揺らす。相手の防御力が高いからこそ、ケルベロスたちは炎に毒、氷を使い。追撃を駆使してダメージを叩き込んだ。回復さえ不可能な深い傷を叩き込む為に。
 それが芯まで届いたのだ。
「ギ、ギ」
 暴れるように攻性植物は蔓を振るう。前に出る仲間を庇い、踏み込んだ弘幸を蔓が締め上げる。だが男は笑った。しゅるり、弘幸の腕からも蔦が伸びたのだ。
「!?」
「捕まえたつもりだったか? ワザとだ」
 口端上げ、男は笑う。
「肉を切らせて骨を断つってな」
 巻きついた弘幸の一撃が、跳ね上がり避ける動きを封じ込めた。ギ、と落ちた音、その一瞬に迷うことなく鈴華が行く。
「しびれる様な蹴り、受けてみる?」
 軽やかに宙を蹴った鈴華の蹴りがーー沈む。ぐらり、と大きく傾いだ攻性植物にディオニクスは言った。
「器付きのデザートの癖に人型食おうなんざ“甘い”ンだよ」
 踏み込んだ間合いで顔を上げる。
「デザートだけになァ?」
 瞬間、獣の尾が強かに、攻性植物を撃った。鋭い一撃に、プリンが揺れる。甘い香りが再び溢れようとしたそこに飛び込んだのはーー克己だ。
「いいか!! 本当のプリン・アラモードってのはな」
 克己は料理にうるさい。
 故に、食べ物を真似た攻性植物へ青年は敵意をむき出しに薀蓄を語りながらーー踏み込む。
「分かったらとっとと散れぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 それは、神速の踏み込み。
 咆哮と共に克己は上段から一気に、ブラック☆ぷりん・あら・もーどを斬り捨てた。ガラスの器が弾け飛ぶ。ぐらり、と巨体を揺らし、甘い香りを零しながら不思議な攻性植物は南瓜の森にーー倒れた。

●不思議なお菓子は過ぎ去って
「——まぁ、こんなところか」
 床のひび割れがふわり、とヒールされていく。少しばかり凹んだそこが元に戻れば、転けていた南瓜の置物も身を正す。
「次は……」
 ゆるり、と弘幸は会場を見渡した。大きな被害があったというわけではなかったが、さすがに盾に足場にと置物の南瓜を使ってしまえば、ゴミも出るし、床も凹む。
「結構な重さだったんだねぇ〜」
 集めたゴミを袋に詰めて、メルキオスは会場を見た。夜の暗さにも慣れた瞳には、今ある明かりでも十分だ。ヒールされた柱からそっと手を離せば、またひとつ甘い香りがした。
「菓子残ったな……お前らも食べるか?」
「お菓子……?」
 ディオニクスの言葉に小さく雅が首を傾げればゆるり、と腕の中のアステルが尾を揺らす。
 会場のヒールも終わり、破片も片付け終えれば出来上がったのは少し広い南瓜の森。長く伸びた影を視界に、あかりはひとつ息を吸って、あの、と皆に声をかけた。
「ょ、よければ、どうぞっ……」
 差し出したのは手作りの、色とりどりのアイシングクッキー。
 おつかれさまの気持ちも込めて、差し出したあかりに、ふ、と溢れるのは笑み。ぱぁと鈴華も目を輝かせて受け取れば夜の会場に残るのはやさしい甘い香り。
「さて」
 じゃぁ、とメルキオスは無事に守りきったパイを見せた。
「パンプキンパイでお茶する? お茶する?」
 ゆるり、と浮かべた笑みが月夜に、浮かぶ。

 それはハロウィンの夜のこと。
 南瓜の森には、8つの影。星々だって覗いてしまう南瓜の森の不思議な不思議なティーパーティー。
 赤ずきんに剣士にストライダー、マッドハッタ―に雪女に魔族の軍人殿にケットシー、キョンシー。
 不思議に思うかい? なになに、やんちゃな梟だってきっと、君と同じ思いさ。
 だって今日はハロウィン。不思議なことだって、沢山たくさん起こる特別な日なのだから!

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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