パッチワークハロウィン~だれもがカボチャを愛してる

作者:土師三良

●南瓜のビジョン
 海が見える児童公園。
 一時間ほど前までは町内会のハロウィンパーティーが開かれていたのだが、今は誰もいない。
 少なくとも、人間は。
 代わりに、人間ならざる何者かがいた。
 体に蔦を絡めた女だ。
「ここにも生み出そう……」
 自分自身に語りかけながら、女は金色のリンゴを投げた。
「ハロウィンに相応しい植物を……」
 地面に落ちた瞬間、リンゴはリンゴではなくなった。巨大化し、姿を変えたのだ。女が言う通り、『ハロウィンに相応しい植物』に。笑顔が刻まれたカボチャ――ジャックオーランタンに。
「『カンギ様』のために……」
 変化は続いた。ジャックオーランタンの頭頂部が開き、太い茎が伸びていく。
 そして、茎の先端にもう一つのジャックオーランタンが生じたことを見届けると、女は公園から消えた。
「ユグドラシルにおられる、『カンギ様』の……」
 そんな呟きを残して。
 
●ザイフリートかく語りき
「地球の女は『いもたこなんきん』なるものを高く評価していると聞いたが、それもむべなるかな。サツマイモにタコにカボチャ、どれも優れた食材だ」
 ヘリポートに集まったケルベロスたちの前でヘリオライダーのザイフリートが語り出す。
「その三つの中ではサツマイモとタコが二強だと思っていたのだが、なかなかどうしてカボチャも捨てたものではないな。総菜によし、スイーツによし。そして、カボチャご飯やカボチャパンにすれば、主食としても通用する……うむ、素晴らしい! 万能食材といっても過言ではあるまい」
『いや、過言だろ』などと野暮な反論をするケルベロスはいなかった。しかし、何人かは肩を震わせている。ザイフリートの口から『スイーツ』という言葉が出たのがおかしくて、笑いを堪えているのだ。
 そんなリアクションに気付くことなく、ザイフリートは話を続けた。
「食材ではなく、装飾品としての役割も忘れてはならんな。そう、今夜はハロウィン。カボチャのランタンが溢れかえる夜だ。おまえたちもハロウィンパーティーを楽しんだことだろう。しかし、残念ながら、ただ楽しむだけでは終わらないようだ。辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)が調べたところによると、ドリームイーターが動き出すらしい」
 そのドリームイーターは、パッチワークの魔女の一体である第十一の魔女・ヘスペリデス。彼女は、日本各地のハロウィンパーティーがおこなわれた会場に現れ、そこにあるパーティーの残滓と、彼女自身が持つ黄金の林檎の力によって、強力な攻性植物を生み出すのだという。
「そういうわけなので、その攻性植物を倒してほしい。おまえたちが担当する場所は茨城県日立市の児童公園だ。敵は、カボチャのランタンのような攻性植物。今年の二月に現れたハロウィンボムに似ているので、『ハロウィンボムモドキ』と呼んでおこう」
 公園に出現するハロウィンボムモドキは見かけ通り、いかにもハロウィンといったグラビティを有している……わけではなく、他の祭日にちなんだ攻撃を仕掛けてくるらしい。日本人の多くはハロウィンの歴史や詳細を知らないので、その心の残滓から生まれた攻性植物もハロウィンから少しばかりズレた存在になってしまったのだろう。
「しかし、危険な存在であることに変わりはない。なんとしてでも倒すのだ。多くの人が楽しんだ今日という日を惨劇で終わらせないために。そして――」
 月のない夜空を見上げて(カボチャ型の星座でも探しているのかもしれない)、ザイフリートは叫んだ。
「――万能食材たるカボチャのイメージを守るために!」


参加者
大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
夜月・双(風の刃・e01405)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
千手・明子(雷の天稟・e02471)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
百丸・千助(刃己合研・e05330)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)

■リプレイ

●GUARDIANS
 海に臨む小高い丘の上に公園がある。
 かつて、エインヘリアルが二度、ドリームイーターとビルシャナが一度ずつ現れた公園だ。
 今夜、そこには第五のデウスエクスがいた。
 攻性植物のハロウィンボムモドキ。
 高さ三メートルほどのその体は二つの巨大なカボチャによって構成されていた。土台となっている人面カボチャ(手描きのような人面だった)と、そこから伸びる太い茎の先にある人面カボチャ(手彫りのような人面だった)。いかにもハロウィンといった姿だが、ところどころにハロウィンらしからぬ意匠が紛れ込んでいる。モドキがつく所以だ。
 所謂『コレジャナイ感』が漂うハロウィンボムモドキは土台のカボチャの両端を交互に上下させて、移動を始めた。街に出て、殺戮を繰り広げるために。
 だが、その行く手に立ち塞がった者たちがいる。
 風神と雷神に扮した二人組――アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)と千手・明子(雷の天稟・e02471)だ。
 明子とともにポーズを決めて、有名な屏風絵を活人画さながらに再現しつつ、竜派ドラゴニアンのアジサイは大音声をあげた。
「魑魅魍魎の姿を借りて、菓子を求めて練り歩く、そんな童の悪戯を、笑って許すがハロウィンよ。夢を食らって、生き血を啜る、鬼畜に劣る貴様の所業も、今宵ばかりは笑って許そう。なぜなら、地獄の猟犬が――」
 どこかで拍子木が鳴った。
「――悪戯程度で収めるからだぁーっ!」
 次の瞬間、アジサイは活人画から人間砲弾に変わった。己の叫びの余韻を吹き飛ばすかのような勢いでボムモドキに突進し、上部のカボチャに頭突きを食らわせる。ただの頭突きではなく、『とても無駄な意地の見せ方(サイキョウクールデサエタヤリカタ)』というグラビティだ。
「口上が長すぎるわよ、アジサイ。ずっとポーズを取ってたから、腕がだるくなっちゃった」
 肩を押さえて腕をぐるぐると回す明子。
 その背後に黒い人影がうっそりと現れた。
 鴉天狗の仮装をした夜月・双(風の刃・e01405)だ。
「来たれ、旋風……宵の風に囚われよ」
 静かな詠唱に応じて、紺藍色の旋風が巻き起こる。
『宵闇の旋風』という名のそれは無数の黒い羽根を舞い上げながら、ボムモドキの体に纏わりついた。
 そして、その風が刻んだ見えない軌跡を追うようにして、二人のケルベロスが疾走した。ティンカー・ベルに扮したオラトリオのレクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)とピータ・パンに扮したドラゴニアンの百丸・千助(刃己合研・e05330)。
「いくぜ、ティンク!」
「ええ、ピーター!」
 千助は防具特徴の『ダブルジャンプ』を用いて、レクシアは地獄の翼から妖精の粉ならぬ青い火の粉を撒いて空を舞い、ボムモドキめがけてスターゲイザーを放った。
「cXGnYo'g!」
 人間には発音できない叫びを発して、ボムモドキが身をよじらせる。いや、手彫りの口から出たのは叫びだけではない。カラフルな卵型の弾丸も発射されていた。標的はアジサイ。先刻の頭突きに怒りを付与する効果があったからだろう。
 卵はアジサイの胸に命中して炸裂し、彼の体を毒で蝕んだ(命中箇所が緑色に変色するという実に安直なビジュアルを伴っていた)。
 しかし、ボクスドラゴンのポヨンがよたよたと飛んできて、属性インストールでヒールした。何故に『よたよた』とおぼつかない足取りならぬ翼取りになっているかというと、大きなカボチャの仮面を被っているからだ。
「ナイスだ、ポヨン!」
 ポヨンの主人の木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)が黒いマントを翻して斬霊刀の『シラヌイ』を振るい、ボムモドキのカボチャの表皮を雷刃突で削り取った。マントからも判るように彼もまた仮装をしている。唇の端から覗くのは作り物の牙。そう、吸血鬼だ。
 西洋の怪人に続いて、東洋の神に扮した明子も電光のグラビティでボムモドキを攻撃した。ゲシュタルトグレイブの稲妻突き。
 次にボムモドキに肉薄したのはイリオモテヤマネコの人型ウェアライダーである比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)。とんがり帽子とマントを身に着けて、魔女に扮している。もっとも、ボムモドキにぶつけたグラビティは魔女らしからぬ荒っぽい獣撃拳だったが。
 そして、連続攻撃を締めくくるべく、軍服を着た大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)が――、
「Trick or Treat?」
 ――無駄に良い発音でハロウィンの決まり文句を披露して、簒奪者の鎌から時空凍結弾を発射した。攻撃のモーションの後で可愛い(『あざとい』とも言う)ポーズを決めることも忘れない。本人はごく自然に振る舞っているつもりなのだろうが、『可愛く見られたい』という意思がありありと見て取れる。
 そんな彼女に白い眼を向けているのは、ヴァオ・ヴァーミスラックス(憎みきれないロック魂・en0123)だ。
「ネイティブでもないくせに無駄に良い発音をする奴って、ちょっとイラッとするよな……まあ、いいけどさ」
 ヴァオは気を取り直し、拍子木をバイオレンスギターに持ち替えて『紅瞳覚醒』の演奏を始めた。効果が上がるわけでもないのに、ダイナミックな(『イタい』とも言う)ギタースピンを加えることも忘れない。本人はさりげなく加えているつもりなのだろうが、『カッコよく見られたい』という意思がありありと見て取れる。
 そんな彼に言葉が白い目を向けた。
「その無駄に派手なギターアクションもけっこうイラッとするんだけど……」

●SAVE US
 仮装して戦っている仲間たちを冷やかすため……ではなく、手を貸すために新たなケルベロスが現れた。
 怪しげな闇医者に扮した玉榮・陣内とナース姿の新条・あかり。陣内のほうは『南瓜用鋸』と名付けたチェーンソー剣と『南瓜用槌』と名付けたドラゴニックハンマーを手にしている。
「うわー」
『千年王国』で後衛陣のジャマー能力を上昇させながら、あかりは興味津々といった眼差しで皆の仮装を見回した。
「アジサイ先生とあきらちゃんさんは対になってるんだね。カッコいいなぁ。アガサさんもスタイルがいいから、魔女姿が似合うね」
「ありがと」
 アガサは礼を言うと、ボムモドキに突進して拳の一撃を食らわせ、すぐに離脱した。今度は獣撃拳ではなく、降魔真拳だったが、魔女の衣装に似つかわしくないという点では同じだ。
 そんな武闘派魔女の後方から烏天狗の双が天狗礫ならぬクイックドロウで礫を飛ばした。
(「着替える暇がなかったから、仮装のままで来たが――」)
 皆に視線を巡らせて、双は無表情のまま、心中で安堵の溜息を漏らした。
(「――一人だけ浮いてしまうという事態は避けることはできたな。よかった」)
 彼の心を読み取ったわけでもないが、アガサも同じように視線を巡らせて、同じようなことを言った。
「ハロウィンだから、全員がそれっぽい恰好をしてきたんだね。ヴァオもちゃんと仮……」
 声が途切れた。視線はヴァオのところで止まっている。
「……」
 たっぷり五秒ほど、ヴァオをまじまじと見つめた後(なぜかボムモドキまで動きを止めて凝視していた)、アガサは目を逸らした(なぜかボムモドキも気の毒そうに目を逸らした)。
「……ごめん。素のままだったのか」
「今の間はなんだよぉー!? 俺の私服が『もう何年もヒット曲はおろか新曲も出してないくせに過去の栄光を笠に着てデカい顔してる老害ロッカーども』というテーマの仮装だとでも思ったかぁー!」
 ツッコミにかこつけて強引にロック界の大御所たちをディスるヴァオであったが、その怒声は雷鳴にかき消された。
 アジサイが前衛陣にライトニングウォールを展開したのだ。
 それを見て、明子が不満げに唇を尖らせる。
「いい度胸してるじゃない、アジサイ。雷神姿のわたくしを差し置いて雷系のグラビティを使うなんて」
「あははははは。実はエレキブーストも用意してきたんだ。おまえのお株をぜーんぶ奪ってやるよ」
「もう! 後で覚えてらっしゃい」
 相棒への怒りをとりあえず脇に押しやり、明子は第二の得物を手にした。『白鷺』の銘を持つ日本刀。本当は先程と同様に雷神らしく稲妻突きで攻撃したいのだが、同じグラビティを連続で用いると、敵に見切られる恐れがある。
「雷の代わりに――」
 直刃刃紋が走る『白鷺』の刀身に地獄の炎を纏わせて、ボムモドキに叩きつける。
「――炎でいくわね。ほっこほこの焼きかぼちゃにしてあげる!」
「ほっこほこぉーっ!」
 と、言葉も簒奪者の鎌でブレイズクラッシュを決めた。
 二人分の炎によって、ボムモドキの体が燃え上がる。
 そこにジグザグという名の薪をくべるべく、千助が斬霊刀『葦切』と日本刀『綿摘』を縦横無尽に振るった。傷跡を斬り広げる絶空斬だ。
 更に主人を真似るかのようにミミックのガジガジが刀を振るった。ただし、彼(彼女?)のそれは普通の刀ではなく、エクトプラズムで具現化したものだが。
「おうおう、燃えてる、燃えてる。そいじゃあ、俺も――」
 ケイが悠然とした足取りで間合いを詰めた。
 そして、『シラヌイ』を鞘に納めたかと思うと、間を置かずにまた抜刀した。
 刃に刻まれた『情無用』の文字を外灯の明かりが照り返す。ほんの一瞬。その一瞬の後に鍔鳴りが小気味良く響いた。刃が再び鞘に戻ったのだ。
「――燃やしてやろうかねえ」
 突然、どこからともなく桜吹雪が舞い上がり、ボムモドキの体が新たな炎に包まれた。
『烈風散華(アバヨ)』という名のグラビティが生み出したその炎を見ながら、ケイはボムモドキに向かって吐き捨てた。
「おまえさんに会うのは初めてだが、その顔は見飽きたぜ」
「確かに見飽きるかもな。今夜は町中がカボチャだらけだし」
 したり顔で頷く千助。
 だが、ケイはかぶりを振った。
「いや、そういう意味じゃない」
「え?」
「ここ最近、カボチャ尽くしの食生活が続いてるんだよ。朝昼晩とパンプキンスープ! もうカボチャは飽き飽きだぁー!」
 逆恨みである。
「あたしもこいつは気に食わないの!」
 と、言葉がボムモドキに指を突きつけた。
「よりにもよって今日という日に行動を起こすなんて!」
「確かに許せないよな。お菓子がもらえるハロウィンをぶち壊そうとするなんてよ」
 したり顔で頷く千助。彼は甘味が大好きなのだ。
 だが、言葉もかぶりを振った。
「ううん。それだけじゃないの」
「え?」
「今日は私の誕生日なのよ! こんなめでたい日を利用するなんて、絶対に許せない! ぷんぷん!」
 もし、ボムモドキが人語を喋れるなら、『ぷんぷんじゃねーよ! そんなこと、俺が知るかー!』とでも怒鳴っていただろう。
 怒鳴る代わりに彼(たぶん、彼女ではない)は口からまた異物を発射した。今度は卵型の弾丸ではなく、カボチャ型の爆弾だ。
 それが前衛陣の手前で爆発すると――、
「……!?」
 ――ボクスドラゴンのぶーちゃんが体をびくりと震わせた。ダメージよりも爆発音にショックを受けているらしい。ぶーちゃんだけでなく、ヴァオも(後衛なのでダメージは受けてないにもかかわらず)パニックに陥りかけている。
 しかし、当然のことながら、他のケルベロスたちはその程度のことで怯まなかった。
「カボチャなら、こっちにもありますよ」
 青いドレスに身を包んだレクシアが流れるような動きで手を突き出すと、腕に巻き付いていた蔓が伸びた。ハロウィンに相応しい攻性植物――パンプキンヴァインだ。
「ザイフリートさんの言うとおり、カボチャはいろいろなお料理に使えるんですよね。私もよくお世話になっていますが……悪いカボチャはしっかり退治します!」
 燃える『悪いカボチャ』をパンプキンヴァインの蔓が破鎧衝で抉り抜いた。

●STARLIGHT
 激しい戦いが続いた。
 そう、激しい戦いのはずだった。
 にもかかわらず、そこで繰り広げられている光景は『激しい戦い』というイメージから何万光年もかけ離れていた。
 なぜなら――、
「可愛くなあーれっ!」
 ――という詠唱(?)とともに言葉が負傷者たちに『女の子は正義(キューティフル・ガーリー)』を施していたからだ。
 それはリボンだのフリルだので対象を飾り立てて癒すヒール系グラビティ。今夜はハロウィンであるためか、リボンやフリルだけでなく、ゴシック仕様のカボチャの被り物までもが生み出されている。
 そのため、ケルベロスの大半は頭がカボチャになっていた(最初からカボチャの被り物をつけていたポヨンに至っては、大小二つのカボチャが重なって瓢箪のようになっている)。
 そして、それを嬉々として受け入れている者がいた。
「え? 言葉さん、私もカボチャでデコってくれたの? 誰か、鏡ちょうだい、鏡!」
 明子だ。
「どれどれ……やーん! かーわーいーいー! カボかわぁー!」
 戦いを忘れてはしゃぎ回っている。
 その隙を突いて、彼女に攻撃を仕掛けたのはボムモドキ……ではなく、同じくカボチャ頭の魔女と化したアガサ。
「おーっと! なにするんですか、アガサさん!」
「ごめん。敵も味方もカボチャ頭だから、見分けがつかなくて……」
 紙一重で攻撃を躱した明子にカボチャ頭を下げて詫びるアガサであった。
 味方を癒しているのは言葉だけではないし、味方を攻撃しているのはアガサだけではない。陣内もまた味方を癒すと同時に攻撃していた。デコピン型のヒール系グラビティによって。
「耐えろ。これが俺流のオペだ」
「んのわぁー!?」
 眉間にデコピンをお見舞いされて、アジサイがのけぞった。もちろん、彼の顔もカボチャに包まれている。
 そんなコント然とした……いや、混沌とした状況の中、半泣きのヴァオが両腕を振り回して叫んだ。
「おまえら、いろいろと自由すぎるぞ! もっと真面目にやれよぉーっ! まーじーめーにー!」
 その叫びに奇妙な歌声が重なった。
「ncJD flC CugT~♪」
 ボムモドキが体を揺らして歌っているのだ。傷を癒すと同時に異常耐性を付与する季節外れの歌を。
「クリスマスソングか……」
 双が呟き、ヴァオの肩を叩いた。
「ヴァオ、ここはハロウィンソングで対抗だ」
「おう! 任せとけい!」
 ヴァオは一瞬にして機嫌を直し(哀しいまでに単純な男なのである)、『ヘリオライト』の演奏を始めた。
 それを聞きながら、双は天狗の錫杖ならぬファミリアロッドを投擲した。ロッドは一羽の烏に変じて、ボムモドキの傷口に嘴を突き刺していく。ジグザグを効果を持つファミリアシュートだ。
 ジグザグの攻撃はそれだけでは終わらない。驚かされたお返しとばかりに(まだ少しばかりビクくつきながらも)ぶーちゃんがボクスブレスを浴びせた。
「クリスマスには早すぎらぁ!」
 千助がハウリングフィストを放ち、ボムモドキの異常耐性をブレイクした。その拳を覆っているのは通常のバトルオーラではなく、オレンジ色のハロウィンオーラである。
「一応、魔女っぽいこともやっておくか……」
 誰にともなくそう言って、アガサが二枚の札を取り出した。黒と赤のシャーマンズカードだ。
「出でよ、黄金竜!」
 ケレンに満ちた台詞と大仰な身振りによって召喚されたのは、龍の形をした黄金のエネルギー体。
 その実体なき顎がボムモドキの太い茎に食らいつくと同時にカボチャ頭のアジサイが二度目の頭突きを上部のカボチャにぶつけた。
 二つのカボチャが衝突して火花が散り、更に二条の残光が彩りを添える。明子とケイの絶空斬だ。
 度重なるジグザグによって虫の息のボムモドキ。
 その眼前にレクシアが舞い上がった。とどめを刺すために。
「マッシュパンプキンにしてあげます!」
 数度目のスターゲイザーが打ち込まれて、ボムモドキは四散した。
 クラッカーを思わせる軽快な音を響かせて。

 ヒール系のグラビティを用意してきた面々――言葉、アジサイ、ヴァオたちが、戦闘によって損壊した場所を修復していく(言葉がこの公園を修復するのは二度目だった)。
 他の皆はその様子を見つめていた。ある者は労りの眼差しで。ある者は感謝の眼差しで。
 そして、明子は羨望の眼差しで。
「良いなー。わたくしもこの公園に歴史を刻みたいなー」
「歴史、ですか……」
 レクシアが苦笑を浮かべ、改めて見回した。幾度ものヒールによって『歴史』が刻まれた園内を。
「この公園の遊具もケルベロスにとっては戦友みたいなものだよなぁ」
 そう言いながら、ケイが一体の『戦友』を労わるように軽く叩いた。
「また誰か来るかもしれないが、その時はよろしくな」
 その『戦友』は大きなジャンルグジムだ。パンダのオブジェが組み込まれているのだが、それは『かつてパンダだったもの』とでも呼ぶべき姿になっていた。全身がピンク色に染まり、背中から翼が生えている。
 異形のパンダ(だったもの)を見ながら、レクシアが言った。
「今回のヒールでまたファンタジックな姿になってしまうのでしょうか……ちょっと不安ですね」
 彼女の不安は的中した。
 ヒールが終わった時、ピンクの有翼パンダの頭はカボチャに変わっていたのだ。
「この分だと、来年もハロウィンパーティーの会場に選ばれそうだな」
 カボチャパンダを前にして、双が呟いた。
 その口許には微かに笑みが浮かんでいる。
 カボチャパンダの口許にも。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 5
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