パッチワークハロウィン~とろぉりベリーソース

作者:地斬理々亜

●出現、ぱんな・こった
 ここは、軽井沢の一戸建て。とある一家の別荘である。
 中では、小さな子供が無邪気に作ったらしき折り紙のカボチャやオバケが、壁のあちこちに貼られている。
 広々としたリビングルームの、オレンジと黒の布がかかったテーブルの上には、ケーキやジュースなどを飲食した後に見える食器が、そのままになっていた。鳴らした後の、紙テープが飛び出たクラッカーもある。
 家族達は帰った後らしく、姿はない。片づけは次に来た時にやるのだろう。
 そんな場所に現れたのは、女性の姿をしたデウスエクス。
「……誰かに服従し、そのために働く……なんたる甘美よ。魔女の力が最も高まる今宵こそ、この第十一の魔女・ヘスペリデスが、その役目を果たすのにふさわしい。ユグドラシルにおられる、『カンギ様』のために。このハロウィンの日に似合う植物を、生み出すとしよう」
 ヘスペリデスは、手に提げたバスケットの中を探る。
「さぁ、お前達、ハロウィンの魔力を集めて私に捧げよ。全ては、『カンギ様』のために」
 バスケットから取り出されたのは、モザイク塗れの黄金の林檎だ。
「さぁ、人間どもの夢の残滓と黄金の林檎より生まれし、攻性植物『ぱんな・こった』よ。人間どもを永遠の眠りへと誘え」
 テーブルに放られた黄金の林檎が、むくむくと変化してゆく。テーブルを破壊しながら顕現したその攻性植物は、真っ赤なベリーソースがかかった、3メートルほどのパンナコッタの形をしていた。

「ハロウィンパーティー、楽しかったですね」
 白日・牡丹(自己肯定のヘリオライダー・en0151)は微笑んで言い、それから表情を引き締めた。
「パーティーが終わったばかりですが、お知らせです。辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)さんが、新たな敵の動きを見つけてくれました。麟太郎さんの調べによれば、パッチワークの魔女の一人が動き出したようです」
 牡丹が告げたその名は、第十一の魔女・ヘスペリデス。
「ヘスペリデスは、日本各地のハロウィンパーティーが行われた会場に現れ、会場に残ったハロウィンパーティーの残滓と、彼女が持つ黄金の林檎の力で、強力な攻性植物を生み出すようなんです。……このままにしておくと、誰か、攻性植物に殺される人が出るかもしれません」
 牡丹は真っ直ぐにケルベロス達を見る。
「楽しいハロウィンを、惨劇で終わらせないために。パーティー会場に向かって、現れた攻性植物を撃破してください」
 牡丹は一度、ケルベロス達に頭を下げてから、説明を続ける。
「皆さんに向かっていただきたいのは、軽井沢の別荘です。パーティー会場になっていた、リビングルームに攻性植物『ぱんな・こった』がいます。周囲に人はいませんから、戦いに集中できると思います」
 敵は1体のみだが、それなりに強い。油断はできないだろう。
「攻撃方法は、皆さんを催眠状態に誘ういびきと、ベリーソースを触手のように操って絡めとる、というものの2つ。それに、おいしそうな匂いを放出するヒールグラビティもあるようです」
 ポジションはジャマーだという。
「楽しいハロウィンを悲劇に変えるなんて、許せません。どうか撃破を」
「分かった!」
 再度頭を下げた牡丹へと、アッサム・ミルク(食道楽のレプリカント・en0161)は力強く頷いた。それから彼は、他のケルベロス達に言う。
「なんかおいしそうなのが、なんていうかコメントしにくい敵だけど、その、みんな、頑張ろうね!」


参加者
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
ロイ・リーィング(勁草之節・e00970)
神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)
ガルソ・リーィング(若き古城の領主・e03135)
ミリム・ウィアテスト(ブラストトルーパー・e07815)
シーレン・ネー(玄刃之風・e13079)
千里・雉華(警部補の再訪・e21087)
桃湯・花蓮(言葉のピンボール・e32916)

■リプレイ

●ハロウィンの晩に
「ハロウィンを!! 滅茶苦茶にするやつは、誰が何と言おうと、俺が許さないからね!!」
 現場の別荘へ向かう道すがら、ロイ・リーィング(勁草之節・e00970)は吠える。
「まぁな。迷惑だからな、さっさと始末するぜ」
 そんなロイの左隣を歩む、ガルソ・リーィング(若き古城の領主・e03135)が同意を示した。
「はい、ガルソ様!」
 守るべき主たるガルソへと、ロイは嬉しげな笑顔を向け、狼の尾を振る。
「祭りは、最後まで楽しいものであるべきだよね。悲劇は断固拒否だよ」
 シーレン・ネー(玄刃之風・e13079)が、うんうんと頷く。
「まったく、今年のハロウィンも、よくも騒がせてくれるもんだね。まだ被害が出てない今のうちに退治してやるのだ!」
 意気込む、ミリム・ウィアテスト(ブラストトルーパー・e07815)。彼女の格好は、赤い頭巾を被り、飲食物や武器を入れた籠を手に提げている、という仮装の姿である。
「本当、デウスエクスは祭りの邪魔好きでスね」
 千里・雉華(警部補の再訪・e21087)はというと、フードつきのみすぼらしい服を着て、マッチの入った籠を持っている。ミリム同様、童話がモチーフの仮装のようだ。
 雉華の体には、稼働中のデジタルカメラが固定されている。映像記録を取り、攻性植物の調査を行うつもりだ。
 そのカメラになるべく映らないようにしながら、神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)は考える。
(「また今年もドリームイーター絡みか。でも攻性植物って、他のデウスエクスと相性いいっていうか、アルカンシェルの時も一緒に動いてたな」)
 いや、あれは『一緒に』と言えるのか? と首をひねりつつ、瑞樹は進む。彼らケルベロス達は、別荘の中へと侵入してゆく。
 そんな中、桃湯・花蓮(言葉のピンボール・e32916)は必死に不安と戦っていた。なぜなら、これが、彼女がケルベロスとして受ける初めての依頼だからだ。
(「大丈夫大丈夫きっと大丈夫絶対大丈夫、相談内容もちゃんと確認したし大丈夫……あっいもけんぴおいしい」)
 かりっと口にした、お芋の甘いお菓子は、日常を思い出させ、花蓮の心を落ち着けてくれた。
 リビングルームの扉の前に立った一同は、武器を構え、態勢を整える。
「みんな、準備はいいかな。開けるよ」
 シーレンが慎重に扉を開けば、部屋の奥に、巨大なパンナコッタ型の攻性植物の姿があるのが見えた。
「パンナコッタに悪戯された! といった感じだね」
 ボクはパンナコッタは嫌いじゃない、とシーレンは言う。
「でもこれは駄目」
 駄目らしい。
「あはっ、そう? ボクはおいしそうだと思うけどねー」
 キョンシーの仮装をした、アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)が笑った。
「何かの冗談みたいな見た目だけど、油断しないでしっかりお仕事を完遂するよ!」
 アンノは、垂れ下がったお札が視界の邪魔にならないよう、帽子を回して調整しつつ、言う。
「コインさん、本日の行方は如何に?」
 戦闘に移る直前、雉華はコイントスで吉凶を占った。
 結果は『裏』。
「なるほど、努力次第でスか。……さて、マッチの料金も菓子もないなら、さっさとお帰りくだサい?」
 鋭い雉華の眼光が、デウスエクスを射抜いた。

●交戦
「Zzz……」
 先に行動したのは、ぱんな・こった。催眠に誘ういびきが、後方に控えたケルベロス達を襲う。
「大丈夫?」
 ロイがミリムを攻撃からかばう。
「サンキューだ。まずは護りを固めるのだ」
 ミリムは地面に守護星座を描き、後衛の仲間達に守護と癒しを与える。
「咲き、乱れ、その身を守る盾とならん」
 『千紫万紅ノ舞イ』。ロイは、青い花々の形をした霊力を、前衛の仲間達の周囲に創造した。全て異なる青の、美しい花弁が、仲間達を守るように舞う。
 雉華はスマートフォンを天にかざした。彼女が手繰り寄せたのは、この場にいない者達――力なき者、命亡き者、それ以外――の、様々な想い。
「届け」
 動画サイトにアクセス。流れ出すのは、ヘリオライトのメロディ。動画への、想いの篭ったコメントが具現化して宙を舞う。デジタルな『希望の挽歌』は、催眠に陥った仲間を正気に戻してゆく。
「ここまでは順調か。けど、気を抜くなよ、皆」
 瑞樹が、ちらつく分身を身に纏いつつ言う。
「あはっ、そうだねー」
 アンノは笑顔のままゲシュタルトグレイブを構え、狙い澄ました超高速の突きをぱんな・こったに放つ。ばちり、と放電。
「植物は焼くのみ!」
 シーレンがエアシューズでローラーダッシュして、炎を纏う蹴りを繰り出し、着地。それから、ふと、こう口にする。
「焼きパンナコッタってどうなの?」
「……ブリュレみたいでイケるかも?」
 アッサム・ミルク(食道楽のレプリカント・en0161)が反応した。こんがり焼き目のついた、ぱんな・こったの体を見ながら。
「お喋りはほどほどになぁ」
 ガルソは、戦うことのできる喜びに口の端を持ち上げつつ、地を蹴る。
「紅き地獄よ……我の前に立ち塞がる下賤な者を美しく飾れ……紅蓮地獄乱舞」
 ガルソの右腕の、地獄の炎が敵を焼く。
「さすがは草だな、よく燃えるぜぇ……」
 呟くガルソ。彼の一撃を受けた攻性植物の体から、真っ赤な体液が溢れ出し、蓮の花のように固まった。
「うちは、はろいんジャマするヤツ絶対ホームラン明王!」
 花蓮が、ぴょんぴょんと飛び跳ね、壁や天井を蹴って、フルスピードで敵に接近。
「うっっだぁぁぁあああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
 花蓮は特に何も考えずに、力いっぱいドラゴニックハンマーで殴りつけた! 『超すごい攻撃!!!(スーパースゴイアタック)』である。ぱんな・こったの体が大きく抉れた。
「すごいね、今の!」
 花蓮のアタックを見たアッサムが感嘆の声を上げつつ、ドローンを飛ばし前衛の守備を固める。
 その直後、ぱんな・こったは、にゅっ、とベリーソースを触手のように伸ばした。狙われたのは花蓮。
「うわあぁーー! やだー!!」
「おっと、させねぇよ」
 ガルソが自らを盾とし、身代わりとなる。
「引き続き、しっかり狙って当てろよな」
 花蓮へと、ガルソは言った。負傷したにもかかわらず、事も無げに、笑ったまま。

●一進一退
 その後、戦いは概ね好調に進んでいったように思われた。――ある瞬間までは。
 戦いが中盤に差し掛かったその時、前衛のケルベロス達の多くが催眠に陥っていた。メディックによる癒しは必須と言えただろう。
「作戦通りにやるのだ。次は……」
 しかし、メディックのミリムの行動は……中衛にいる、無傷である雉華へのヒールドローンであった。
 ミリムは、仲間へのエンチャントを主目的に動いていた。順番に防御を固めていくことで、被害を減らす目的だったのだろう。
 その判断が、明暗を分けた。
 催眠の効果を受けたロイは、味方のいる後方を向く。気咬弾が、アッサム目掛けて放たれた。
「危ないのですよ!」
 サポートとして来ていた真理が、アッサムを守るように割り込み、その一撃を受ける。
「……えっ? あ……」
 自分のしたことが信じられない、という表情をロイは浮かべる。
「いけまセん!」
 再度、雉華はスマートフォンを天にかざし、『希望の挽歌』を流す。これにより、前衛の受けていた催眠は、ほぼ全て打ち消された。
「これは、落ち着いて取り返していくしかないな」
 瑞樹は深呼吸して気持ちを抑えつつ、ぱんな・こったの体の上部の、苺に似たものを掻き切る。視認困難な、密やかで影のような斬撃。
 アンノとシーレンがエクスカリバールによる一撃を叩き込み、ガルソが再度紅蓮の花を敵の体に咲かせる。
 花蓮が『超すごい攻撃!!!』で続くが……ぱんな・こったは、ぷるるんと避けた。
「うわあぁぁーーー!! 避けられたーーー!!! うちの攻撃が避けられるのも、おなかがすくのも、全部ぱっちわーくペリペリデスのせいだー! 会ったら絶対ハンマーでアップリケみたくしてやるーー!!」
 空腹によるイライラと、攻撃が外れた深い悲しみが合わさって、大いに花蓮は泣いて騒ぐ。ぱんな・こったはぷるぷる震えているが、罪悪感に苛まれているわけではないはずだ……多分。
 アッサムが攻撃した後、ぱんな・こったが動く。だが、ここで再び戦況は変わった。
 ぱんな・こったは甘い匂いを放出した。自分の回復に回ったのだ。
 炎を中心にした攻撃で攻め、ジグザグで敵の被害を広げる――そんなケルベロス達の努力が実を結び、仕切り直しが必要な域まで敵を追い詰めたのである。
「状態異常攻撃が来なかったね。これはチャンスかもしれないよ」
 シーレンが呟く。
「よし、一気に攻めるのだ! オーライ、オーライ……」
 ミリムが、気合いとグラビティで操って呼び寄せたのは、戦略兵器搭載軍事衛星。
「……ファイア!」
 頭上から大地へ……敵の座標へと、巨大な光と魔力の奔流が放たれる。衛星射撃、『サテライトブラスター』。
 これに続けて、すかさず、ロイが、雉華が、瑞樹が、各々の最大火力の攻撃を叩き込んだ。
「悪いけどボクたちはキミと違って甘くないんだ。これで終わりにするよ」
 アンノが目を開く……本気を出したのだ。
「終焉(おわり)の刻、彼の地に満つるは破滅の歌声、綴るは真理、望むは廻天、万象の涯(はて)にて開闢を射す」
 アンノによって展開されたのは、反発する二つの領域。――『反転世界・【極壊】(エノテラ・スペキオサ・コラプシス)』。
 ぷちゅん、という音を最後に、周囲の空間ごと、ぱんな・こったは消滅した。
 辺りに飛び散った残骸の一部を、アンノは指ですくって舐めてみる。
「あはっ、やっぱり甘かったねー。おいしいよ、キミ」
 狂気をはらんだ笑顔を浮かべ、アンノは言った。

●祭りは続く
「食器まで粉々とはな……できれば洗いたかったんだが」
「あはっ、ドンマイ」
 瑞樹が呟き、アンノが応じる……それぞれ、壊れた別荘にヒールをかけながら。他のメンバーも、有志でヒールをしていた。
「これが終わったらパーティーですね、ガルソ様!」
「あぁ。美味い食いもんをもらうとしようぜ」
 ガルソとロイの主従ペアが笑い合う。
「トリックアンドトリートするよー!」
 ミリムも、二次会を楽しみにしている様子。
 一方、雉華は目立たない位置でじっとしていた。
「どうしたの?」
 アッサムが雉華に声をかける。
「この格好が恥ずかしくなってきまシた……」
 どうやら、スイッチがオフになったらしい。
「んなこと、気にすんなって」
「ハロウィンなんだしね!」
 ガルソとロイは雉華に言葉を投げかける。フードを両手で持って位置を下げ、顔を隠す雉華。
「お菓子を用意してきたよ。シュークリームとかね」
 シーレンが箱を取り出す。
「やったーーー!! れっつはろいんぱーちー!!」
 花蓮がぴょんと高く跳ね、全身で喜びを表現した。
 ケルベロス達の賑やかなハロウィンは、まだ続いてゆく。

作者:地斬理々亜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。