パッチワークハロウィン~甘味夢

作者:刑部

 照明の消えた公民館ホール。
 生物などは片付けられているが、飾り付けの片付けは後日するのだろう。
 パンプキンヘッドや折り紙で作られたリーフなどが、祭の後の寂寥を漂わせている。
 ゆらり……と、誰も居ないその公民館に、黄金の林檎が入った籠を携えた女が現れる。
「魔女の力が最も高まる今夜、第十一の魔女・ヘスペリデスが、その役目を果たすとしよう。ハロウィンの狂乱よ、漂い残る想いの残滓よ、集い私に捧げよ……全ては『カンギ様』の為に……」
 第十一の魔女・ヘスペリデスと名乗った女が、籠からモザイク化した黄金の林檎を手に取って投げると、転がる林檎に『何か』が吸い寄せられる様に集まり、3m程はあろうかというプリン・ア・ラ・モード型の怪物に変じるのだった。

「みんな、ハロウィンパーティー楽しかっなぁ。さて、パーティーが終わったばっかりのとこ悪いんやけど、麟太郎さんから報告が入ったで」
 ハロウィンの余韻残るケルベロス達を前に、杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)は辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)から連絡が入った事を伝える。
「麟太郎さんの調べで、ハロウィンパーティーが終わった直後やっちゅーのにに、パッチワークの魔女の一人が動き出したみたいなんや。
 動き出しよったパッチワークの魔女は、『第十一の魔女・ヘスペリデス』。
 奴さんは、各地のハロウィンパーティーがあった会場に現れ、会場に残ったハロウィンパーティーの残滓と、持っとるモザイクの掛った黄金の林檎の力で、攻性植物を生み出しよる」
 ケルベロス達の顔を見ながら、千尋が説明を続ける。
「このままやと、せっかくパーティーを楽しんで家路につこうとしとる人らが襲われて、殺されてまうかもしれへん。
 楽しいハロウィンを、惨劇で終わらせへん為にも、パーティー会場に向かって、現れた攻性植物を撃破して欲しいんや」
 と言って咳払いをする千尋。

「攻性植物が現れる公民館はここで、現れるのはハロウィンパーティが行われとった1階のホールや。
 ヘスペリデスが現れて攻性植物が現れるんはパーティの後やから、とりあえず人は居れへん。せやけど……」
 そこまで言って時計を確認する千尋。
「攻性植物が暴れ出す前には着けそうやけど、残念ながら、ヘスペリデスを補足するのにはちょっと間に合いそうにない感じやわ。まー捕捉出来ても2体相手……もしかしたら更に攻性植物を出して来て、劣勢に追い込まれるかもしれへんし、そこはしゃーないやろ」
 魔女と遭遇した場合の危険性に言及した千尋は、
「攻性植物……植物……やな。は、3mを越えるプリン・ア・ラ・モードの形をしとる」
 少し小首を傾げる千尋に、お前は何を言っているんだ? という視線を向けるケルベロス達。
「うん、ハロウィンの影響ちゃうかな? 知らんけど。まーとにかくそいつが、一番上に乗った丸型のチョコボールに開いた瞳で睨み、鞭状になったチョコを振るって暴れよる。
 人は居れへんし、パーティは終わっとるさかい、壊れた所は後でヒールしたらえぇから、思う存分やっつけちゃって」
 とウインクする千尋。

「パッチワークの魔女がハロウィンに事件を起こすんはまー分かるけど、出て来るんがなんで攻性植物なんやろ? どっちが主でどっちが従なんやろか?」
 まーとにかく、出て来る敵を倒さんとな。と千尋は話を纏め、ヘリオンをかっ飛ばすのだった。


参加者
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)
月見里・一太(咬殺・e02692)
アリエット・カノン(鎧装空挺猟兵・e04501)
竜ヶ峰・焔(焔翼の竜拳士・e08056)
リン・グレーム(銃鬼・e09131)
灰島・鋭士(灼眼龍・e13237)
真神・小鞠(ウェアライダーの鹵獲術士・e26887)
グラナティア・ランヴォイア(狂焔の石榴石・e33474)

■リプレイ


「おっ、ここか。美味いチョコプリン食って、その食レポして報酬が貰えるなんて最高だな」
 何故か依頼内容を少し勘違いしているグラナティア・ランヴォイア(狂焔の石榴石・e33474)が勢い良く扉を開けると、チョコを鞭の様に振るってハロウィン飾りを破壊しようとしていた『それ』が、おや? っという感じて動きを止め、てっぺんにあるチョコボールの瞳を向ける。
「私、とんでもない甘党だけど自認しているけど、さすがにこれは頂けないねー」
「入口はここの他は左右に一つずつあるんだよう。でも、あのサイズだとここの入り口以外からは出れそうにないかな?」
 見上げて『それ』と目が合ったモモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)が自嘲気味に呟き、素早く室内を見回した真神・小鞠(ウェアライダーの鹵獲術士・e26887)が、万が一に備え敵の逃走帰路を確認して声を上げる。
「よぅ、甘味もどき。せっかく食いでがあるのに喰われもしねぇで哀れよな? Trick or Trick!!」
「パーティーってのは楽しいままで終わらせるのが1番だ。無粋な攻性植物にはきっちりお帰り願おうか」
 素早く2本の刃を抜いて構えた獣人形態の月見里・一太(咬殺・e02692)が『それ』に問い掛け、幼子が書いたのだろう。つたない文字で『はろういん』と書かれた飾りを見た灰島・鋭士(灼眼龍・e13237)が、左眼から漏れる青白い地獄の炎を揺らしてオーラを纏う。
「プリン・ア・ラ・モードが植物ってのはどうしても違和感があるっすねぇ。しいて言えば果物部に植物要素がある……かな?」
「Pudding a la mode! 日本で考えられたデザートなのに、名前はフランス語なのですね」
 ライドキャリバー『ディノニクス』の隣で2丁の銃の調子を確かめつつ、敵の構成要素を確認したリン・グレーム(銃鬼・e09131)がそう漏らすと、アリエット・カノン(鎧装空挺猟兵・e04501)も感嘆の声を漏らす。
「さて、クリスマスが後に控えてるんでな。大人しく俺たちに退治されてろ目玉チョコオバケが」
 竜ヶ峰・焔(焔翼の竜拳士・e08056)が睨み上げると、一連の行動からこちらが敵と判断したのだろう。ブラック☆ぷりん・あら・もーどは、ぐぐっと一瞬縮まったかと思うと、爆ぜる様に膨張しチョコ玉を飛ばして来た。


「こんなもの? 私に付き合うなら、それ相応の『スリル』を頂戴よ!」
 飛ばされたチョコ玉が公民館の壁に穴を空けるのを傍目に、多数のヒールドローンを前衛陣に展開し敵の攻撃目標を拡散させるモモ。
「あまり頭は良く無さそうだもん。確かに有効だね」
 それを見た小鞠も後衛陣の周りに紙兵を散布して、仲間達を守らせる。
 その間にも敵のチョコ状の鞭が振るわれ、紙兵を薙いで鋭士が絡め取られるか、その鞭を裂いた一太がそのまま跳躍し、敵の瞳目掛けて重い飛び蹴りを見舞って跳び退く。
「本体がプリンだけに妙な感触だぜ」
 着地した一太は口元に牙を覗かせると、足裏から感じた弾力ある敵の体にそう感想を漏らし、アリエットの砲撃とリンの銃撃を受け、柔らかなチョコ片を撒き散らす敵に青眼を向ける中、敵は再び天井目掛けてチョコ玉を飛ばした。
「それで跳弾真似たつもり? 本当の跳弾ってね、こうやってやるのよ!」
 モモが『竜の牙』と呼ばれる愛銃を無造作に横に向けて引き金を引くと、壁に当たって跳ねた銃弾が、天井に当たった跳ね返ったチョコ玉に当たって爆裂する。射出されたチョコ玉にほぼ真横から跳弾を当てた彼女の技量が知れるだろう。
 その砕け降るチョコ粉雨をくぐってグラナティアが一撃を見舞うが、その直後敵の一番上にある瞳が大きく見開かれ、モモと一太、リンに催眠の効果が及ぶが一太の前にディノニクスが割って入って庇うと、
「いけない。みんなお菓子も甘い物も、全然好きじゃないんだからね!」
 小鞠が更に紙兵を撒き、焔が地獄の火の粉を舞い散らせてその催眠効果を払いに掛る。
「っと、危ない所だぜ。お返ししないとな」
 前衛で唯一催眠効果を免れた一太は、シャウトしているモモを傍目に拳を繰り出した。

 振るわれるチョコの鞭と弾かれたリンやモモの弾が、壁に穴を開けハロウィン飾りが破れ飛ぶ。
「後でちゃんと直しますので、暫く我慢して下さいです。アン、ドゥ」
 壊れ飛ぶコンクリート片に謝りながらもアリエットのアームズフォートが火を噴き、爆ぜたチョコの欠片が飛び散ると、敵は瞳を大きく開いてケルベロス達に催眠効果を及ぼす。
「懲りない奴だぜ。自分が優勢だ。なんて思うな」
 どん! と、地を踏み鳴らした焔の足元から地獄の火の粉が迸り、小鞠の後押しもあって仲間達を正気に戻す。
「回復は無い筈ですから、動けなくして差し上げるのです。トロワ」
 巻き髪を揺らしたアリエットのアームドフォートが次々と弾丸を吐き出し、敵のダメージを蓄積させる中、一太と鋭士もそれに続いて一撃を見舞ったところで、再び瞳を見開くブラック☆ぷりん・あら・もーど。
「ぐっ……お……甘い……もの……」
 焔の口元からつぃーっと涎が垂れ、小鞠がぷるぷると震えている事から解る様に、今度はメディックの居る後衛陣にその効果が発揮される。
「いけない。ほーらお菓子ですよ」
 アリエットがポケットに入っていたお菓子をばら撒くと、グラナティアら後衛陣がそれに飛び付き、
「はっ……」
 それを口に放り込んだ刹那、比較的睡眠効果が軽かった事もあり、幾分正気に戻った焔が回復を飛ばすと、幾人かがそれを完全に払うべくシャウトし、その雄叫びの中、激しい攻防は続く。

 ディノニクスが小気味良い音を立ててガトリングガンを掃射すると、次々と弾丸がその巨大にめり込みぷるぷると震え、伸びたチョコの帯が反撃する様に振るわれる。
「全部吸い込まれていくんだけど、効いてるんだよね?」
 ディノニクスの弾と同じ様に、自身でカスタムメイドした双銃から放たれる弾丸が、敵の体にめり込んで行く様に、少し不安になったリンが誰とは無しに問い掛ける。
「表情に出る訳じゃないからな。効いてると信じてぶち込むだけだぜ」
 後ろからそう応じた鋭士が飛ばした地獄の炎弾が敵の体表で爆ぜると、チョコとプリン片が飛び散り、それが燻されて甘い香りが広がる。
(「匂いだけで胃もたれしそうだ……」)
 その臭いに辟易しながらも銃を撃ち続けるリン。
「こんのー! よくもスイーツを愛する純情乙女の情熱を踏み躙りやがって! 許せねぇ! 手前ぇが植物ならサラダにして喰ってやる」
 その前を依頼内容を勘違いしていたグラナティアが、その怒りをハンマーに託して叩き付けると、波紋が広がる様に敵全体が震え、モモとアリエットの追い撃ちが掛り、跳んだ一太の蹴りが思いっきり叩きつけられる。
 怒った様に次々とチョコ玉を飛ばす敵に対し、駆動音を響かせてそれを避けるディノニクスが、回り込む形で敵の後方から炎を纏って突っ込んだ。じゅうじゅうと音を立て、更に広がる甘い香り。
「んー、匂いだけなら家に置いてやってもいいぜ。 そうだ!」
 大きく息を吸い込んだグラナティアは何かを思いつき、光の翼を暴走させると光の粒子となって敵に突っ込んだ。突っ込んで突き抜けるまで柔らかなプリンの感触と、濃密なチョコの香りがグラナティアを包むのだが、光の粒子と化している彼女にはそれが感じとれなかった様で、
「むしろ損した気分になったぜ」
 突き抜けた先で残念そうな顔をして、また怒りを武器に乗せて叩き付ける。
 その一撃に体を震わせながらも再び瞳を見開き催眠の効果をケルベロス達に及ぼすが、慣れて来たのか紙兵達が頑張っているのか、小鞠と焔が直ぐ様対応し当初程の効果は表れない。
「それさえ無けりゃ怖いものなしだ。一気に押し切るぜ!」
「させないんだよ」
 歯を見せて笑い跳躍する鋭士目掛け、振るわれるチョコの鞭をリンが素早い射撃で的確に撃ち落とし、鋭士の蹴りが敵の瞳を蹴り抜いた。


「なんだ!?」
 刃を振るっていた一太が、変化に気づいて跳び退く。
 鋭士の蹴りを瞳に受けた敵がチョコ鞭を闇雲に振るい、チョコ玉を飛ばしながら縮小していた。
「倒したのでしょうか?」
「それならいいんだが……な」
 小首を傾げるアリエットに戦闘態勢を崩さないまま応じる焔。
「うーん、なんだか悪い予感がするわね。渦巻け、グラビティ・チェイン。私の中を駆け巡れ!」
 そう言いながらもどこか嬉しそうに、モモはポケットから出した飴を口に放り込み、体内のグラビティ・チェインに回転運動を加え破壊力を高める。
 迂闊に手を出せないケルベロス達の前でぐぐっと縮んだブラック☆ぷりん・あら・もーどが、爆ぜる様に元の大きさに戻ると、頂上の他に中段の左右にチョコ玉が現れ、そのチョコ玉の瞳が開く。
「これは、まずいんだよう」
「くたばれ、チョコ目玉!」
 小鞠に言われるまでも無く、焔も攻撃に転じて地獄の炎弾を飛ばすのに続きリンとモモ、アリエットから弾丸が飛び、グラナティアと鋭士、一太が地面を蹴る。……が、その攻撃が届くより速くクワッ! と見開かれる3つのチョコ瞳。
「はれ……? エクレアが4本、5本、6本、7本! プリンだけじゃねーのかよ! 最高じゃねーか!」
 一番顕著に影響を受けたのはグラナティア。どうやら仲間達がエクレアに見えている様で、涎を垂らしながらじりじりと小鞠に迫り、
「く……うぉ……いい年して甘いもの好きなんて……バレたら……」
 死んだ様な目で立ち尽くす鋭士も、心の声がダダ漏れだ。
 3つの瞳は全て後衛を狙った様で、敵の特性もあり重ねられた効果が凄まじい。
「食わせろ……」
 焔はチョコ鞭に絡められながらも敵に喰らい付いており、紙兵の影響とディノニクスが庇った事で比較的影響が少なかった小鞠ですら、能動的に仲間を回復する事が出来ず、いま、グラナティアに齧られた。
「毒を以て毒を制す。Pouvez-vous fleurir Pouvez-vous fleurir Soupir de rose」
 その後衛陣に向かってアリエットが掌を吹くと、桃色の霧が広がり催眠効果を払いに掛る。
「はっ! いたたた。グラナティアちゃん、痛いです」
 幾分回復した小鞠が自分を齧るグラナティアをぽかぽか叩きながら、紙兵を撒く。
 その間に最初の攻撃が炸裂して頂上の瞳が潰れた敵に、瞳の効果を受けなかった前衛陣が猛攻を掛けている。
「最後の悪足掻きにしてはやるじゃないの。ちょっと面白かったわよ」
 モモがあらぬ方向に次々と放った弾丸が、壁や天井に当たって同時に中段左に現れたチョコ瞳に命中して砕くと、
「見せつけてくれるっすね。負けてられないんだよ」
 その妙技に対抗意識を燃やしたリンも双銃で跳弾を操り逆側の瞳を潰し、モモとリンはアイコンタクトをして微笑を浮かべる。
「ハ、どんだけ美味そうに見えても草なんだろ? ま、歓べ、ただ獣として咬み殺してやっからよ」
 瞳を全て失った敵に牙を突き立てたのは一太。喰らい突き、爪でそこを掻き分け更に喰らい突くと、敵の体がビクンと跳ねて力を失い溶け始める。
「アレだ、Trick and eatってか。……ま、お菓子をくれたら悪戯しないっつった覚えはねぇんでな、この人狼は」
 食い千切った部位を吐き捨てた一太は、その口元を拭いながら溶けゆく敵を見下ろしたのだった。

「凄い有り様だな」
 見回した一太が言う様に、床は溶けたプリンとチョコの海となり、壁と天井は穴だらけになっていた。
「折角ならクリスマス仕様にでもなればいいのにな」
 最後の一仕事とヒールを掛けたハロウィン飾りが、どう見ても七夕飾りの様になったのを見た焔がぼやく。
「クリスマスが好きなのかな?」
「まぁ、楽しみともいえるな」
 同じくヒールを掛ける小鞠が問うと、不敵に笑ってそう返す焔。
「これだけ甘い臭いがするのに食べれないなんて、おなかが空きましたね」
 その後ろで同じ様にヒールを掛けながらアリエットが言うと、
「よし、スイーツ食べ放題を食べに行こうぜ、このまま帰ってしまうのはたぶん精神衛生上良くない」
 意を決したグラナティアが顔を上げる。
「……みんながどうしても行くと言うなら、仕方ないから付き合うけど」
 本音が漏れた事に気付いてない鋭士が、そっけない感じで応じるのに何人かがニヤニヤした視線を向けている。
「スイーツ以外……出来れば塩っ辛いものがあるのなら参加」
「異論はないわよ」
 リンもそう応じ、帰りにプリンでも買って帰ろうと思っていたモモも同意を示したので、公民館のヒールを終えたケルベロス達は、一部暴走しそうになる数名を押さえながらスイーツ食べ放題会場へと向ったのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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