パッチワークハロウィン～カボチャ頭は意地悪く嗤う

■リプレイ

●ハロウィンステージ開幕
　日が落ちて間もない夜空から、ケルベロス達は件の中学校を見下ろしていた。
「……いますね。まだ動き出す気配はなさそうです」
　暗い視界にじっと目をこらしていた西水・祥空（クロームロータス・e01423）が、激しいプロペラ音に負けぬよう声を張り上げた。
　はっきりとは見えないが、確かに異質な物体が、うねりくねる奇妙な動きをしながら、中学校の屋上を占拠しているようだった。
「よっしゃ、早めに連絡頼むぞい」
　出足の遅い奴で助かったと、ガナッシュ・ランカース（マスター番長・e02563）が意気揚々と奥にいる親父達に投げかけた。
　望月・巌（今宵の月のように・e00281）はすでに抜かりなく通話口に連絡事項を告げながら、親指を立てて返す。
　通話の相手は、校舎内の屋上入り口から息を潜めて外の様子を伺っている生明・穣（月草之青・e00256）である。
「降下組は準備オーケーだそうです。こちらは……」
「借りて来たで……！」
　滑り込みで階段を駆け上がってきたのは、ガド・モデスティア（隻角の金牛・e01142）。職員を捕まえるのに苦労したようだ。戦利品の鍵を掲げながら、一時的にも校舎内が本気で無人なんてさすが田舎、暢気すぎや、と青息吐息でぼやかずにはいられない。
　結局、帰宅しかけていた用務員をなんとか捕まえて、率直に事情を話したところ、驚きながらも屋上備え付けの照明の使用を許可してくれ、設備の鍵も貸してくれたのだった。念の為にケルベロス各々が手持ちの光源を用意していたが、これでより盤石になるはずだ。
　鍵を受け取った唯織・雅（告死天使・e25132）が、入り口脇の保護ボックスを開いて、中にあるスイッチを確認し、皆に頷いた。
「いつでも。……行けます」
　これで、校舎組も準備完了だ。
　突入の音頭を取るのは、降下組の巌。
「ＲＥＡＤＹ　ＳＴＥＡＤＹ？　ＧＯ！」
　合図に合わせて、スイッチが押し込められた。
　暗い屋上が、白い光で煌々と照らし出された。中央でうねりくねる三メートル超の物体を、スポットライトで照射するような塩梅で。
　ようやくはっきりと目視できた敵は、意地悪そうなカボチャ頭の、うねうね攻性植物。
　巌は傍らの嘉神・陽治（武闘派ドクター・e06574）と頷き合い、共に夜の空中に身を躍らせた。ガナッシュ、祥空も次々とこれに続く。
「さぁ、行きましょうか」
　校舎組の先陣を切って穣が屋上の扉を開け放つ。
　出入り口から乗り込む校舎組と、上空から直接着地した降下組が敵を囲い込んだのは、ほぼ同時。
「「「Ｅｘｅｃｕｔｉｏｎ　ｏｒ　Ｇｕｉｌｔｙ」」」
　穣、巌、陽治、三人の決め台詞が綺麗に重なった。
　敵は、しかし驚きも慌てもしない。茎型の胴体をノリノリでうねりくねらせながら、遠ざかるプロペラ音に合わせて愉快なリズムをとっている。
（「……「あのうにうには私が作ったんだ」って言ってたけど――、ま、まあそんな事あるわけないし！」）
　敵の奇妙な姿に、思わず友人の謎の発言を思い出してしまった貴石・連（砂礫降る・e01343）は、なんとか思考を切り替えながら、隙なく構えをとる。
　目的を妨害するケルベロスの乱入。そんなアクシデントも楽しんでいるかのように、ハロウィンボムモドキは片手に携えた魔女の三角帽子をカボチャ頭にかぶると、ニシャシャシャシャシャ！　と嗤った。

●賑やかに戦おう
　ハロウィンボムモドキが右腕の枝を掲げると、先端に実った緑のカボチャが、ホウセンカのようにはじけ飛んだ。
　パラパパパパパッ！　中から飛び出したカボチャ型の小さなボムが、色とりどりに弾けてケルベロス達を彩るように強襲する。ハロウィンに相応しい、賑やかな開幕の合図だ。
「ったく、パッチワークも変な所でシャレ効かせてきやがる。だが殺戮を起こすなんつー笑えねえシャレは頂けねえな」
　動きと軌道を鋭く見極め、自ら敵の前に躍り出た陽治は、衝撃をやりすごしながら呟いた。
「昨年に続き、今年もハロウィンに乗じるとは。できれば素直にハロウィンを楽しんでいただきたいものです」
　クロームシルバーの炎で連を包み強化してやりながら、祥空がぼやいた。グラビティの反動か、一瞬だけ悪酔いしたような正体不明の感覚に襲われるが、静かにやり過ごす。
「パッチワークの魔女の仕業……という事のようですが、思い通りにはならないという事を知って頂きませんとね」
　前衛に盾を展開し、隙なく治癒と強化を付与する穣。
「用心するに越した事はないからのう、一応これを掛けておくかの。まぁ即時回復とはいかんが、運が良ければ後で回復するじゃろう」
　ガナッシュは黄金の果実を実らせ、
「あんま騒ぐと、子供たちに聞こえそやけど……ここはいっそ派手に戦って、盛大な花火だとでも思ってもらおか！」
　ガドはカラフルな爆発で味方を鼓舞。
　ウィングキャットの藍華とセクメトも、羽ばたきで邪気を祓って、陣営はこれでもかと強化されていく。
「……っと、ポジションには気ぃつけねぇとな。目には目を、爆発には爆発を！　派手にドンパチ行くぞ！」
「無粋な、闖入者には……即。ご退場……頂きます」
　巌と雅が爆破スイッチを押し込むと、見えない爆弾が敵の体表で次々に爆発した。ニシニシほくそ笑んでいたボムモドキも、たまらず「ニシャ！？」と仰天してのけぞっている。
「殲の一文字、心に抱いて、いざ参る！　魔女謹製のカボチャ、しっかり処分してあげようじゃないの」
　連の電光石火の蹴りが追い討ちをかけた。急所の一つである足元、カボチャの入れ物を強襲され、敵の動きがわずかに鈍る。
　ケルベロス達の攻撃に押し込まれたハロウィンボムモドキは、いつの間にかそびえたつ如き貯水タンクを背に、追い詰められていた。
　ぐるりをケルベロスに包囲され、完全に退路を断たれた四面楚歌。
「そのどでかい頭、貰えるんなら頂きたいところやね。かぶったら下の子供たちにウケが良さそうなんで」
　さらりと挑発めいた事を言ってのけるガド。
　ハロウィンボムモドキは、顎を引くように後退しながら、ニシ、ニシシ、と少し卑屈そうに笑って見せた。
　――が、次の瞬間、吊り上がった目が光った。
　意地悪な形に嗤う口が、ぱかっと開き――カボチャ頭が本体から分離して飛んできた！

●かみつき、踊り、最後は爆発！
　ガジガジガジガジガジ！　激しく顎を動かして、ジャック・オ・ランタンがかみついてくる。
「なっ――そう易々と倒せるなんて思わないでよね！」
　ぎょっとしながらも、連はとっさに空中に浮かんだ特殊なガントレットに攻撃を受け止めさせ、衝撃を多少なりと受け流した。
　お留守になった胴体を、バスターライフルの輝きが射抜く。
「構造弱体化、確認。後は……お願い、します」
　演算の名残を纏わせながら、雅はたどたどしくも決然と皆に託す。
「任された！　次は牙を抜いてやろうかの！」
　ガナッシュの精神集中が、胴体に戻ったばかりのカボチャ頭を正確に爆発させた。大きな牙型にくりぬかれた部分が、片側半欠けになって、大混乱のボムモドキ。
「動きが見え見えなんだよ」
　スマートな身のこなしで肉薄、医者の観察眼を活用しながら的確に拳を叩き込む陽治。
「二刀の斬れ味、試させて頂きます」
　祥空は両手に構えた日本刀を鋭く払い、強烈な衝撃波で追撃する。
　連続するグラビティの猛攻に、ハロウィンボムモドキは踊るように体をうねりくねらせる。その動きが、被弾の反動ばかりではなく、見ている者の気力をそぎつつもなんとなく目の離せない、独特のリズムへと徐々に移行していく。
　うねりにうねった最後の仕上げに、ボムモドキは腰に手を置き、頭上を指さすような決めポーズ。カボチャ頭がペカーっと輝き、賑やかな放射光で辺りを照らし出した。催眠の魔の手が、容赦なく後衛を襲う。
　……が。
「甘いですよ」
　即座に治癒を振り撒きながら、穣がバッサリと言い放った。陽治の気力溜め、雅の陽光の舟歌と、フォローも盤石。
　渾身の踊りをあっという間になかったことにされたハロウィンボムモドキは、ぽかんと目をまん丸にしたのち、カボチャ頭を真っ赤にして湯気吹きながら悔しがった。
　敵の攻撃はいっそう激しさを増したが、ケルベロス達は危なげなく対応し、順調にカボチャ頭を追い詰めていく。
「ティーンエイジャーたちの大事な思い出を悲しい思い出にしようたぁ許せねぇ。ここで絶対阻止してやるぜ」
　ハロウィン飾りを壊さぬよう、巧みに避けながら、屋上を駆け抜ける巌。スマホからＳＮＳをフル活用して、なんやかんやでビームを放出、慌てて逃げ出そうとするカボチャ頭を執拗に追いかけ、強烈に打ち据える。
「ひとつ喰らいなさないな――我が前に塞がりしもの、地の呪いをその身に受けよ！」
　手を結晶化させ、連がさらなる追撃を浴びせた。激しい格闘術で打ち込んだ傷口は石化し、ぼろぼろと砕かれていく。
　ハロウィンボムモドキは逃げ惑うが、祥空のアームドフォートはこれを逃さない。
「往生際が悪いですよ」
　一斉発射された主砲をモロに浴びて、カボチャ頭は爆風の中に沈んだ。
「消えぬ炎は怨嗟の色」
　煙る視界に穣の青い衝撃波が追い討ちをかけた。
　一拍のち、青い炎の向こうから、カボチャ爆弾が一斉にばら撒かれた。
　しかしガナッシュはまっすぐに突進。爆発を浴びながらお構いなしに接敵する。
「くらぇえぇぇッ！！」
　グラビティを存分に乗せた渾身の一撃が、炎の中から現れたカボチャ頭を思いっきりぶん殴った。
「度が過ぎるセンスのねえ悪戯は、俺達が叩き潰してやるよ」
　対照的に、カボチャ爆弾を掻い潜り最小の被弾で肉薄する陽治。カボチャ頭を正面から掴み取り、鋼鉄をも溶かす灼熱を焼きつける。
「子供は大好きでね。それをジャマする輩は、ちょっと見過ごせん性分なんよ」
　高々と跳び上がったガドは、獣化した手足に重力を乗せ、カボチャ頭を粉砕せんばかりの一撃を打ち下ろす。
　ボコボコのタコ殴りにされ、ふらふらよろめくボムモドキに向けて、雅の光の翼が神々しく輝いた。
「幻は、幻に。これで、仕舞いに……致しましょう」
　全身を光の粒子に変えたヴァルキュリアの突撃が、ハロウィンボムモドキの胴部を引き裂いた。
　ポン！　ポポン、ポポポポポポン！　ハロウィンボムモドキの体のあちこちが小さな爆発を起こして、段階的に消えていく。
　最後に残った足元のカボチャの入れ物も、開きっぱなしだった頭部をひらひら落ちて来た三角帽子で覆い隠すと、「てへぺろっ」という顔を作ると同時に、軽い爆発音とともに弾け、完全に消滅した。
　これにて、ハロウィンボムモドキ討伐完了。最後の最後まで、ジョーク玩具のような敵であった。
　連は充実感に満ちた眼差しを上げ、ケルベロスコートを羽織りながら眼下に燃え盛る炎の塊を見やった。
「お仕事終わり。それじゃ、混ざりにいきましょうか。仮装と現実。その狭間へ」
　戦闘に消耗した屋上を、ブレイブマインの爆発が派手に彩る。
　それに合わせて、休耕田のキャンプファイヤーからは、大きな喝采が上がった。

●楽しい時間はまだまだ続く
　赤々と暖かな炎が、暗闇の中をそびえたっている。
　辺りは街明かりも少ないど田舎とあって、キャンプファイヤーの存在感はひときわだった。
「娯楽文化は……良い物、ですね。心の、余裕は……度量の余裕、です」
　炎を囲み踊る学生に混ざった雅は、普段着の矢絣袴に狐の面をかぶり、小さく翼を開いて、セクメトと共に思いつくままのステップを踏んでいる。
「子供は楽しそうなのがいちばん！　そおら、いっちょ派手にやったるでー！」
　賑やかしのブレイブマインをド派手にぶち上げるガドは、つくづく楽しそうだ。
　中学生達は飛び入り参加者達に興味津々。快く仲間の輪に入れてくれた。教員達もにこにこしていて、うるさい事は言ってこない。
　ちなみに、ケルベロスである事は一発で見破られた。
「ああ、気づかれていましたか」
　三角帽に丈長のマントを羽織った祥空は、学生達と言葉を交わしながら小さく苦笑した。
「そりゃそうだよー。珍しくヘリ飛んでたし、あんだけ屋上が光ってれば」
「戦ってる影が浮かび上がってて、めちゃんこカッコ良かったぜ！」
「みんなして、でっかい声で応援してたんだけどな。気づかなかった？」
「すまんのう、戦いに夢中じゃったからの」
　矢継ぎ早に話しかけてくる中学生達に、普段通りの奇抜な学ラン姿のまま参加したガナッシュも、くつくつと笑いながら肩をすくめた。
　どうやら屋上照明を灯した時点で、戦闘はバレていたようだ。しかしそれを祭りの余興代わりに見物するとは、なんとも暢気きわまる話である。
　和やかな輪の中、とりわけ目立っているのは、強烈個性の親父達。
「危険物は俺達がちゃんと処刑したからな。お前らは安心して、食え食え菓子食え！」
　魔導装甲でダークナイトの如く装った巌は、子供達の中二ごころをくすぐりながら、盛大に菓子を振る舞って大人気。
　傍らでは、スケスケ衣装で気合の入ったインキュバス姿の穣が、菓子と共に怪しい色気を振り撒いて皆を楽しませている。
「皆と来られて良かったなぁ。所で……巌、陽治、お菓子といたずらどっちが良いかな？　――なんてね。二人とも好きだよ～」
　色気の向く先が男性に偏りがちなのは、ご愛敬というものだ。
「懐かしいもんだな……」
　楽しげに騒ぐ中学生達の姿を眺め、しみじみと学生時代に想いを馳せる陽治は、聖職服にキバをつけての神父風吸血鬼姿。
　笑顔に満ちたひとときが、静かな夜を暖かに照らしていった。

作者：そらばる	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年11月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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