パッチワークハロウィン~莫酔

作者:ヒサ

 まだ夜は終わらぬという事なのだろう、家人達は夜半から出掛けたようだ。
 使った食器は纏められただけ、飾りの類は残されたままの、消灯した広い部屋。無人のそこに、林檎を持った女が現れた。
「魔女にとって特別なこの夜に。この私、ヘスペリデスは満たされた『服従』の心に従い務めを果たす──全てはユグドラシルの、『カンギ様』の為」
 彼女は金の林檎を捧げ持つ。
「攻性植物『ぷりん・あら・もーど』。ヒトの夢の残滓と林檎より生まれしお前の務めは、人間共を喰らう事」
 林檎が闇に放たれた。それは天井に届かんばかりの大きさの、菓子を象る姿に変わる。甘い香りが室内に充満すると共に、頂点の飾りと思しき部位にぱちり、一つ目が開いた。
「ハロウィンの魔力を集め、私に捧げよ」
 匂いと同じに甘い色をした、過ぎる程に円い瞳は、首肯するに似てそっと瞬いた。

「畑にある……鳥避け? のような、まん丸い目が一番上にあるの」
 それが受け容れ難い見目だったのか、肩に力が入った落ち着かない状態のまま篠前・仁那(オラトリオのヘリオライダー・en0053)は、ケルベロス達に討伐を依頼したい敵の特徴を説明していた。
 辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)が掴んだ情報に依ると、ハロウィンパーティーの終わりを狙い『パッチワーク』の魔女の一体、第十一の魔女・ヘスペリデスが動くのだという。各地のパーティー会場で彼女の手により生み出される攻性植物は人々を襲うべく会場を飛び出してしまう。そうなる前に、会場に向かい敵を倒す事が、被害を最小限に抑える方法だろう。
 仁那が案内する先は、とある一軒家。友人達を招くに十分な広さのリビングダイニング、ケルベロス達にとっては広々としているであろうその空間の中央に、高さ四メートル程の、一般にプリンやらプディングやらの名で呼ばれる菓子に似た見目と質感を有する攻性植物が天井につっかえ気味に詰まっているのだという。放っておけば、壁やら天井やらを壊して外に出てしまうと考えられた。幸い家人は外出中で、近隣の他家に被害が出る事はまず無い立地ゆえ、戦闘で壊れた箇所さえ事後に修復して貰えれば始末はつくだろう。
「なので、手早く済ませて貰えればより安心ね。敵と家具で少し手狭かもしれないけれど、あなた達ならば大丈夫だと思う……殴ればまず当てられるでしょうし」
 敵の大きさを考えれば、武器を当てる事自体はケルベロス達には容易かろう。ぷるぷるの体によって無効化されぬように、となるとそれなりの技量や準備が要るだろうが。加えて敵はその柔らかい体組織を変形させて触手らしきものを操る為もあり、彼? にとって現場の狭さはさして問題では無い様子なのが厄介だ。
「特に気をつけるべきなのは、特徴的な一つ目……だと思う。擬態とかの可能性もあるけれど。主な攻撃手段のようなのだけど、あまりじっと見るのは危険でしょうね」
 『見ない』事にどれだけの効果があるかは判らないが、警戒するに越したことはない。瞳孔開き気味な件の目の印象が強烈だったようで、思い返して仁那は小さく一つ震えた。
「──わたしの場合、近頃別件で攻性植物を調べているから気になるだけかもしれない、けれど」
 ケルベロス達へ必要事項の伝達を終えて後、ヘリオライダーは独言めいて呟いた。
「『パッチワーク』が使う配下が、お菓子風とはいえ攻性植物である事は……そのまま流さない方が良い事、なのかしら」


参加者
ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)
ディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
ジエロ・アクアリオ(贖罪のクロ・e03190)
森光・緋織(薄明の星・e05336)
天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)
神座・篝(クライマーズハイ・e28823)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)

■リプレイ

●見上げる
 先導したナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)が部屋の照明を点けた。僅かに橙がかった光に照らされ、敵の異様が明らかになる。ケルベロス達の訪れに気付いた敵は、体ごと振り返った、のだろう。身を震わせた彼? はプリン似の箇所から透明な液体を少量散らした。件の瞳に気付き、しかしあからさまに目を逸らしては何をされるか判らないとケルベロス達は各々そっと視線をずらした。そびえるプリン似の壁を改めて確認する事となり、感嘆とも呆れともつかぬ声が数名の口から零れる。
「超シュール……あと匂い凄ぇね」
「量が量だもんね。でも何かすごい本物っぽくない?」
 既に胸焼けを起こしていそうなキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)の言に、森光・緋織(薄明の星・e05336)が遠慮がちに笑う。匂いだけなら、とても美味しそうなのだ。蒸し上げた後の粗熱が取れた頃だろうか、卵とミルクと砂糖の優しい匂いである。量ゆえの濃さを除外すれば。
「まあ、食えば腹の保障は無いがな」
 ケルベロス達を観察するように見つめて来る敵を警戒しつつ天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)が言えば、同意と納得の空気が漂った。見目があれでも相手はデウスエクスゆえ。
「悪趣味が過ぎる……早々に生ゴミに出してしまいましょう」
 ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)は小さく嘆息し、一転仲間達へは礼儀正しく進言した。
「この辺って回収朝? 夜?」
 神座・篝(クライマーズハイ・e28823)の疑問文は、答えられる者がこの場に居ない事は承知の上。どちらでも間に合うように片付ければ問題無いと、先んじて刀に手を掛けたのはディバイド・エッジ(金剛破斬・e01263)。
「お主の天命はここで尽きたと心せよ!」
 朗々と名告りを上げた彼はそう言い放ち雄々しく笑う。
「……時にアレは言葉を理解する脳を持っているんで御座ろうか?」
「音も聞こえているようだから、あってもおかしくは無いよ。可能性としては、プリン部分の中かな」
 佇む敵を観察するジエロ・アクアリオ(贖罪のクロ・e03190)はどこか楽しげだった。興味も交じっているかもしれない。体積から考えて頂のベリー的な部位の中身は殆どが眼球だろうとか何とか。
「お前達、そう見上げない方が良いぞ」
 忠告するナディアの視線もついといった風上がり気味ではあるが、彼女と彼らでは視点の高さが違う。彼女には敵はまさに『壁』だろうが、ディバイドなど軽く見上げるだけで危険域だ。
「おお、そうで御座ったな。此奴を野放しにしては折角のハロウィンが台無しで御座る」
 仮装を超えた怪物に対抗するべく、ディバイドは南瓜を象ったお面を被る。立体的に作られたそれは幾らか視界を狭める役割を果たすようだ。うっかりで相手の目を見てしまう事は多少防げるだろう。
「では、失礼します」
 敵を警戒する際に再度目が合ってしまい、相手を刺激せぬようそろりと視線を外した後、ウルトレスは皆へことわりを入れ、肩から提げたベースに手を添えた。ヴン、と低く鳴る音は、場所と時間に配慮し抑えてはあるが、彼の武装は逃さず応えて駆動する。
「おー、すげえ! かっこいー!」
「恐れ入ります」
 アイドル状態を維持する如き控えめな音の連なりは前奏だろうか、期待に目を輝かせた篝が無邪気に賞賛を贈る。銃器に熱を灯すよう徐々に上げたBPMが三百を数えるに至り、圧倒された緋織が瞠った目を瞬いた。

●解呪系の視線
 叩きつけた大剣は胴の弾力に弾かれ、熱を奪う魔弾は震える触手に絡め取られた。冗談のような見目はそれでも伊達では無いようで、ケルベロス達は開戦早々唸る。
「せめて触手が伸びて来るのだけでもなー。でもアレも出しっぱじゃねーし……どの辺狙おう」
「元を辿れば、体幹部をぶち抜けば何とかなるんじゃねえの」
「あ、なるほど。さんきゅー!」
 礼を言う篝は笑って、竜砲を打ち放す。派手な音を伴い敵の腹を大きくへこませる傍ら、陽斗は鎚が有していた長い柄を支えと砲身を御して狙いを定め、敵が立て直すより早くに弾を撃つ。定めた狙いは危うくも過たず敵の目を捉え、反射的に瞑った瞼が直後爆風に覆われて、晴れてもなお瞬きを繰り返す一つ目を確かめた。
 反応はある。それが真実堪えての事かは未だ不明。眉を顰めた陽斗は気疲れしたよう息を吐く。
「連射は辛いな。外さん自信もあまり無い」
 何より照準の為に問題の瞳近辺を目視せねばならぬのが不安の種。いつ目が合ってもおかしく無い。
「じゃあオレ手伝うよ。数撃ちゃ当たるってね」
 一方篝は不敵に笑んで言い置くと、敵との間合いをはかり床を蹴る。相手の死角を探し、数の優位を活かし、ケルベロス達は徐々に敵を包囲しつつあった。鎖陣の守護を得た前衛達が敵を牽制して行く。
「──、────」
 ジエロの唇が術を紡ぐも、その声は仲間達には届かない。水瓶の意匠を戴く杖が、纏う魔力に揺らめく様だけが標。誘いの音を聞いた唯一である敵は身を震わせ、落ち着き無くきょときょとと目を動かしていた。
 その瞳は、先に受けた砲撃が痛むのか、涙らしきものに潤んでいる。瞬けば、睫に含んだ雫が散った。ほどなく、大きくて円いその目はじっと、じーーーっと、すぐ近くのディバイドを見つめる事に決めたようだ。死角からの攻撃があったが、弾けるものはぽよんと弾きつつ、意に介した様子を見せない。
「い……居たたまれぬで御座る!」
 時間としてはごく僅か。されど一点に集められた眼力──雰囲気を寄せるならばメヂカラ──に射抜かれたディバイドは、目を逸らし続けるのも限界に達したらしく、不可視の圧に頭を抱えた。被った面もこうなると可愛いだけである。
「これが罪悪感というもので御座ろうか! 胸が痛う御座る!」
「敵の罠です、まずは深呼吸を。相手は捨て置けば人を殺めるデウスエクスですから」
「おおお、かたじけない……!」
 うるうる目の圧力に負けて胸を押さえ苦しむ彼をウルトレスが宥めた。
「ってかディバイドの『護り』剥がれてんね」
「厄介だな」
 彼らを案じ窺ったキソラが気付く。敵は癒す気ゼロの癒し手のようだ。ならばとナディアは後衛へ鎖陣を敷いた。とはいえそれはあくまでも保険、敵の注意を惹ききるべく彼女は剣を握る手に一層の力を籠めた。
「負担を掛けるが支えを頼む──皆の身は私達が護ってみせよう」
 彼女の声は凛と、盾役としての矜恃を示す。
「負荷は私達へ投げておくれ。決して無理はしないように」
「う、うん。解った、ありがと」
 矛は彼女に任せる形でジエロは、なるべく手を空けておくように、と緋織へ念を押す。任せろと重ねるかのよう、クリュスタルスが操る水を跳ね上げた。

●変質注意
 相手が生菓子であろうが植物であろうが、取り敢えず水分は保有している筈である、とケルベロス達は考えた。即ち、急激な温度変化を与えれば何らかの影響が出るだろうと。
 重低音が高速で唸りウルトレスの銃が火を噴いた。着弾して炸裂する熱が立て続けに敵を襲い、へこんでは戻る事を繰り返す敵の肌は、心なしかとろりと緩んだようにも見えた。『ぷるぷる』から『ふるふる』程度の変化ではあるが。
「やっぱりちょっと美味しそう……」
「なー、腹減るよな。今あれ凄い口溶け良さそうだし」
 温められて強くなった甘い香りに緋織が呟けば、篝が頷く。夕食はとうに消化済であり、眼前の物体が本物で無いことが惜しまれた。加えて少年は、直接敵を叩きに行く接近戦を得手とする面々を羨ましがっているようでもある。
「終わるまでの辛抱だよ。ほら、クリュも」
 ジエロが小さく笑う。彼の術はディバイドの痛む胸を癒し、機能が復旧した胸部からは鋭い光線が放たれた。少し表面を抉ったけれど、生憎敵は中まで軟体である。
「穴……は簡単に開けられるサイズじゃねえワケで」
 陽斗が凍らせた箇所をキソラが殴る。そちらは割合固めの質感で、奥でヒビが入ったような音こそ聞こえたものの、敵に堪えた様子は薄い。返った手応えに少し考えて彼は、叩くよりも斬る方が、と推測を口にした。
「斬れるヒト、頼んで良い?」
 弾力は衝撃には強そうで、冷やし固めるのは悪くなさそうで、馴らさぬ為にも加熱を補助に入れるのも無駄にはならぬだろう。依頼の声に数名が応じ、彼自身は補佐を兼ねて動く。此度は刃を受けて痛む目を瞑ったままの敵が触手を振り回すのを彼は猫科に似て軽やかにかわすが、巻き添えでソファが傾いだのを支えた拍子に叩かれた。標的が止まったのを察知したか追撃を試みる軟腕は、隙を見て割って入ったナディアが払う。
「サンキュ」
「こちらこそ」
 剣はそのまま敵を打つ。ぐにゃりと巨大な胴部がたわんで、カッと目が見開かれた。ついでとばかり彼女が、肩に緩く掛けていたマフラーを投げつけてみると、決して薄手では無いそれが急に不自然な動きで部屋の隅へ飛んだ。別角度からの目撃者に依ると、厭うて敵が目を瞬いた際の睫の動きで跳ね飛ばされたらしい。
「大した剛毛で御座ったな」
「もうこれ睫じゃ無いんじゃね? 実は楊枝とか」
 その不可解さゆえに、場はその時狐につままれたような空気になり、
「いや、待て。少なくとも目が塞がれると奴は困るという事じゃないか?」
「あ」
 ほどなく引き締まる。射手達の試行は続ける意味がありそうだ。

●割れ物が踊る
 敵の注意はほぼ完璧に前衛達へ惹けた。攻撃役達もまた囮を務める事は諸刃ではあったが、周囲の気遣いを助けに癒し手は皆を支え続けた。敵の視線を受け前衛達が時折手を止めざるを得ないところは、妨害役たるウルトレスが補う、ばかりには留まらず、盾役達の護りを信じ防御を捨てた彼が雨と放ち続けた炎弾と氷撃は、着実に敵を侵食していた。
 射手達が敵の目を絶えず狙った事は相手の心持ちに少なくない影響を与えたらしい。敵は涙の溜まる目を見開く代わり、触手を多用するようになって来ていた。瞬きの合間にも出せるらしい光線を織り交ぜながらも、その攻撃は単調になりつつある──それでも容易く避けさせて貰えるわけでは無いけれど。
 戦いはダイニングテーブルの手前、居間側の空間を中心に展開されていた。極力室内への被害を抑えたいとケルベロス達は奮闘していたが、彼らの技量を以てしてなお完璧にとは行かず、其処此処に少しずつ破損や汚損が生じている。
「避……け、ないで!」
「っ、──!」
 迫る触手を捌き続けるのも限界と、床を蹴るべく身をたわめたジエロは、躊躇いつつも切羽詰まった声を聞き反射的に動きを止めた。
「アクアリオ、大丈……、ごめ、っ」
「落ち着け、ヒールを頼む」
 攻撃を体で受け止めた為に詰まる彼の息に、緋織が顔を青くする。咄嗟の事ではあったものの、ダメージ自体は深刻では無い筈とナディアが宥めた。祈りを織る黒衣は彼の身を護る。仲間達が敵をあしらう間に治癒を受けて落ち着いたジエロは小さく咳を一つ、穏やかに緋織へ意図を問うた。
「写真が、あって」
 壁際のテレビ台の上。幼児の手に依るような拙い飾りに彩られた古びた写真立ての中に、親族の集まりだろうか、どことなく雰囲気の似た人々が笑顔で並ぶ一枚が納まっていた。戦闘前に気付くにはささやか過ぎた、この家に住むひとの、想いの具現。
「……護ってやらねばならないね」
「キッチンに叩き込もか。あっち、皿くらいは割るかもだけど」
「解った。目眩ましは引き受ける」
「では、拙者達で押し込めば良いで御座るな!」
 枠には割れて補修した跡、服飾の流行と併せると写真の日付も古そうだ。指紋一つなく磨かれたそれらが、大切にされていない筈が無い。食器にも思い出の品はあるかもしれないが、選ぶならばこちらだろうと、彼らは動く。
 敵の身がダイニングテーブルにぶつかる。その体表面を覆う粘性の低い液体が床と天板を汚す。ウルトレスは敵が姿勢を崩している間に今一度弾丸を叩き込んだ。限界が近いのか、淡い色の表皮が焦げたよう褐色を帯びる様が目立つ。衝撃のあまり伏した敵の瞼が上がるも、憂う如く半ば下りた。
 充満する甘い匂いにはそろそろ鼻が馴れても良い頃ではあるけれど。住人達が使った後の皿が近くにある現状、嗅覚が揺らされて素直には行かない。
「冷やしたらマシになんないかね」
「アイスにしちゃう? 焦げてるとことかパリパリになったりするかな」
 固めるついでに匂いも、とキソラが銃口を向ける。手伝いに鎌を翳す篝は楽しげだ。室温ごと凍え、彼らの目論見通りに固まった敵の肉を、杖から変じた蛇が噛み千切る。抉れた其処を貫けとばかり続いたのは、小柄な女性の、鋼鉄の靴。さざめいた銀流体の爪先がめり込み、刃に似て尖る踵が抉る。
 震えて抗う敵の身を再度制したのは、ディバイドの技。納めた刀の柄に手を添える無駄のない所作と彼が発する気は、仇為す者の存在を許さぬとばかり場の色を研ぎ澄ませ。殺気と呼ぶには澄んだ色をしたその圧ゆえに軟体は、抜刀を待たずに形を保てなくなり、ぐずぐずと溶け崩れた。

●けぶる月のあまいろ
 室内の修復は概ね順調に進んだ。敵が分泌した液体が糖分でも含んでいたか、妙にべたつくのには難儀したが、肉体労働を買って出た面々が腕力と根気で机や床を拭き上げた。
 最たる被害者はウルトレスだろうか。彼の指は弦を弾く為の精密なもの、彼のベースもまた主の演奏に耐え得る特別製。只の水ならばともかく詳細成分不明の蜜もどきなど浴びては堪ったものではない。
「うむう、難敵で御座ったな」
 布巾類を洗い終えたディバイドが首を捻る。彼は、他の面々と同様に肌を拭いて済ませたようだ。
「治したとはいっても色々壊しちゃったし、謝れないかな……」
 若干雰囲気の変わった室内を見、緋織が呟く。が、容易くは無かろうと陽斗が小さく首を振った。
「表に車があった。テーブルに酒を飲んだ跡もある。帰宅は明朝か、それ以降って事もあり得るぞ」
「……二度手間になってもイイなら、出来なくは無さそーだケド」
 やや間を置いて、携帯電話片手のキソラが話に交ざった。画面に映る時計は朝が遠い事を告げている。ひとまずは手紙等を置いて、が妥当だろう。
「折角なので、帰りに食べられるプリンを買いたいな」
「お伴しようかな。見てると欲しくなるよねえ」
「でも今ってコンビニくらいしか開いてなくねーかな?」
 篝が首を傾げる。ナディアが曲げた指が示すものが必要個数とすると、かなりの確率で在庫が足りない。彼女に限った話では無いが、家人や友人への土産分は日と店を改めた方が良さそうだ。
 そうして。穏やかさを取り戻した室内を今一度確認して後、彼らは家を辞す。
「好き夜を」
 柔らかな囁きと微笑みを受け取ったのは、ヒール跡の無い写真立ての中で笑む人々。ジエロはそっと照明を落とし、玄関先で待つ仲間達の元へ向かった。

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。