パッチワークハロウィン~火花じりじり導火線!

作者:荒雲ニンザ

 とある村の公民館。
 主にお年寄りが利用することが多かったが、10月末日は違う。
 ハロウィン!
 子供! かわゆい! 世界中の宝!
 今年もかわゆい子供たちを喜ばせるため、この公民館では恒例であるハロウィンの催しが開催された。
 そして大盛況のうち終了。ホクホク顔の村人達が帰宅した後で悲劇が起こる。
 パッチワークの魔女の一体、第十一の魔女・ヘスペリデスが公民館の中に現れ、モザイク化した『黄金のりんご』と、パーティー会場に残ったハロウィンの残滓から、強力な攻性植物……全長3m程度もあるハロウィンボムを生み出したのだ!
「さぁ、ハロウィンの魔力を集めて私に捧げよ。全ては、『カンギ様』の為に」
 そして伸びた蔓に火を放つと、蔓はまるで導火線のようになり、火は火花をあげてじりじりと巨大カボチャ爆弾へ距離を縮めていくのであった。

 オレンジ色の着物を着た、若干いつもより派手目の言之葉・万寿(高齢ヘリオライダー・en0207)が足取り軽く現れた。
「私、ハロウィンは初めての経験でしたが、いや~、楽しかったですなあ」
 おっと、と言った後、ゴホンと咳払いをする。
「パーティーは終わったばかりですが、辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)様が、新たな敵の動きを見つけて下さいました」
 麟太郎の調べでは、ハロウィンパーティーが終わった直後だというのに、パッチワークの魔女の一人が動き出したというものだ。
 動き出したのは、第十一の魔女・ヘスペリデス。
「彼女は、日本各地のハロウィンパーティーが行われた会場に現れ、強力な攻性植物を生み出しておるようです。このままだと、パーティーを楽しんで家路につこうという人達が襲われ、殺されてしまうかもしれませぬ。どうか楽しいハロウィンを惨劇で終わらせない為に、パーティー会場に急ぎ駆けつけ、現れた攻性植物を撃破して頂きたいのです」

 現在、ハロウィンボム型攻性植物は、公民館のエントランスにどっしりと居座っている。
 外に伸びた蔓は導火線のようになっており、時間と共にじりじりと火花が進み、巨大カボチャ爆弾へ向かっているようだ。
「敵の攻撃は、主に蔓草で締め上げてくるだけのようですが、どうにもこの導火線らしきものが厄介で、火花が本体にたどり着いた時、凄まじいの爆破をおこすようなのです」
 公民館周辺は人通りもないので戦闘に専念できるが、ボムが一度爆破を始めれば、敵は移動を始め、広域被害は免れなくなる。
「敵はヒールを所持しています。導火線を断ち切るにしても、火花を消すにしろ、かなり根気が必要でしょう。色々工夫して闘ってみて下さいませ」
 爆発する前に倒してしまえるなら、その方法をとってもよし。方法は一つではないので、良い案で対策を練ってもらいたい。
「楽しいことになると、いつもこれです! 向こうがその気なら、こちらとて黙っておりませぬぞ! カボチャの化け物めを、とっちめてやってくださいませ!」
 楽しいお祭りを台無しにすると、ケルベロスが怖いのだということを、見せてやろう。


参加者
ティクリコティク・キロ(リトルガンメイジ・e00128)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねまじょ・e09079)
ハインツ・エクハルト(めんつゆ・e12606)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)
犬嶋・理狐(狐火・e22839)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)

■リプレイ

●悪霊がくる!
 ケルベロス達が現場に到着すると、先に現地入りしていた日之出・吟醸(レプリカントの螺旋忍者・en0221)と、綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)が走り寄ってきた。
「こっちこっちぃ~!」
「ヘキシリエンさん、助太刀に参りましたよ!」
 呼びかけられ、ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が『おおっ』と声あげる。
「鼓太郎おにい、助かるのう」
「少しでも御力になれれば!」
 オルトロスのチビ助を横に従えたハインツ・エクハルト(めんつゆ・e12606)が公民館を伺う。
「敵は?」
「動いてないようでござる。暗くてよく見えないから、今中がどうなっているか分からないでござるよ。ただ、ホレ、あそこ」
 吟醸の人差し指が示す先、公民館の外に長く伸びた導火線から、火花がバチバチ音を立てている。
「あいかわらずドリームイーターのやることは珍奇じゃのお」
 服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が呆れてため息をついた。
「ともあれ、被害者がおる以上は笑って済ますという訳にもいくまい」
 ウィゼもそれに頷く。
「ふむ、ついにこの時が来たのじゃな。ハロウィンボムがハロウィンを襲撃するとはのう。前回はバレンタインで力も存分に発揮されていなかったようじゃが、今回はハロウィンとこやつが最も得意とする日、油断せずにゆくのじゃ」
 マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)がその光景をじっと見つめ、静かに口を開いた。
「ドリームイーターが攻性植物を生み出す事。『カンギ様』なる存在。今回狙って来たのは、誰かの願望でも感情でもなく、ハロウィンの魔力という事。……魔女は、恐らく他のデウスエクスと結託していると推測する」
 と、そこでいきなりハインツの悲鳴。
「……ぎぇぇぇ!?」
 何事かと一同が彼に視線を投げると、ドラゴニアンの尻尾に巻き付いている太い蔓草が目に入る。
 ディフェンダーのポジションにいる手前、あげたくなかった悲鳴。意外に予想外の出来事、及びドッキリに弱い彼が、牙を剥きながらそれを振り払う。
 スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねまじょ・e09079)が用意していたランプを点灯すると、公民館の中にみっしり詰まった巨大なカボチャの爆弾が見えた。
「出よったな! 爆発なんぞさせるものか!」
 無明丸に続き、ハインツも吠える。
「ハロウィンにそういうガチめのスリルは誰も求めてないからな!? みんなでちゃちゃっと片付けてしまおうぜ!」
 ティクリコティク・キロ(リトルガンメイジ・e00128)が武器を構える。
「攻性植物を産み出す力、か。エインヘリアルと攻性植物がやりあってる理由を考えたことなかったけど、案外あの関係にはドリームイーターが関わってたりするのかもね。……そういえばあれ、ウィゼの知ってるタイプなんだっけ?」
 マティアスも彼女を見る。
「ウィゼ、知っているタイプの敵ならば、助言に従おう」
 そこで、ウィゼが『むむ』と眉をひそめた。
「……こやつ、あたしの知るハロウィンボムによく似ておるが、ちと違うようじゃ。じゃが、モドキとはいえ、強力なパワーを感じるのう。気をつけて対処するのじゃ」
 無明丸が挑発その他を兼ねて朗々と宣言し、オウガメタルを装着する。
「カンギだかなんだか知らぬが……仔細は問わぬ! 問答も無用! 言う事なんぞ聞いてやらぬ! いざ尋常に勝負いたせ!」
「楽しいハロウィンの日を、まもらなきゃ! ここできっちりと倒さないと、ですね!」
 スズナの気合いに、ミミックのサイがオーラで応えた。

●進む火花
 ウイングキャットのソウと共に、メディックの位置につく心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)が、ニッコリ微笑みながらライトニングロッドを構える。
「みんなで楽しんだお祭りの余韻をぶち壊そうなんて、許しませんよー」
 犬嶋・理狐(狐火・e22839)も静かに日本刀を抜いた。
「蔓への対処は前衛の仲間に任せて、私は導火線を狙うわね。後衛からじっくり狙わせてもらうわ」
 マティアスが『了解』と、前へ出る。そのまま破鎧衝で蔓草を払うと、ハインツも続いて竜ノ拳《想》をたたき込む。
「ほらほら、こっちだぜ?」
 怒り付与で蔓草を惹きつけようというのだろう。
 彼のオルトロス、チビ助がパイロキネシスの構えを見せた時、主人が首を横に振る。炎系のグラビティは使うなということだろう。賢明な判断である。
 かわりに、チビ助がソードスラッシュをたたき込む。
「なんとしてでも、火を止めてみせます!」
 スズナが言うや、蔓草の近くから2か所、高圧の間欠泉が発生する。天気雨の双砲をしかけると、ミミックのサイも続いて攻撃。
「サイ、斬ってっ!」
 武装具現化と共に導火線に攻撃が入り、ジュッと短い音が聞こえた。
 お? もう消えた? 意外に呆気ない? と一同脳裏によぎったが、次の瞬間、じゅくじゅくと火花がぶり返し、再び導火線に火がついた。
「むー、しつこいですね……!」
 続いてウィゼが走り出す。
「導火線の対応は任せたぞぃ! ハロウィンボムの注意を引き付けるのじゃ!」
 レゾナンスグリードでしかけ、ボムを包み込みにかかる。するとシュルシュルと蔓草が縮み始め、周囲を波打ち始めた。
 ティクリコティクがその中央に飛び込み、ジグザグスラッシュで斬り刻んでいく。長銃片手に短剣で切り込む様は、アンバランスかつ、アクロバチックな立ち回りだが、本人は気にしていない様子。
「おい、ハロウィンはもう終わったんだ。飾りがいつまでも居座ってんじゃねぇよ。とっとと片付けさせろ」
 背後のボムに向かってそう言うティクリコティクに、鋭く伸びてきた蔓草を無明丸が払い、魔人降臨でブーストアップ。
「導火線の方は任せるのじゃ! わしは少しでも奴を削ってかかる!」
 弾かれた蔓草はのたうち回りながら、エントランスを破壊していく。
 ウイングキャットのソウが清浄の翼を前衛に。
「右から蔓草のいたずらがくるわよー!」
 括が前衛に注意を促して叫んだが、エントランスの逃げ場は限られている。
 咄嗟に想色括璃【届】を後衛に施し、命中率を底上げすると、続いた理狐が螺旋氷縛波を導火線の火花に向けて放った。
「炎は使えないけれど、それだけが私の技じゃないってとこ、見せてあげるわ」
 消火目的とした行動だったが、それが括の底上げとあわさり、見事にクリティカルヒット。
 火花のついた尖端をちぎり落とすと、跳ね上がったそれを鼓太郎がグラビティブレイクで地面に叩きつけた。
「どうだ!」
 粉々になった火花はアスファルトの上に黒い跡を残し、そこで消えたように見えた。
 一同の視線がその一点に集中。
 すると、蔓草がうねりながら床を叩きつけた。
「危ない!」
 括の声にハインツが構える。
 エントランスのカウンターや椅子を巻き込みながら、蔓草がいたずらにハインツを締め上げ、それから勢いよく壁に叩きつけた。
 慌てて吟醸がエレキブーストを施し、ライトニングロッドを握りしめながら導火線を振り返る。
「あああ……!!!」
 思わず声をあげたが、その声で全員の視線が導火線に走った。
 また着火している。というか、消えなかったと言うべきか。
 キリがないのか、はたまたからかっているのか、一同ぐぐぐと唸りを上げて歯を食いしばる。
「ハロウィンの悪戯って、人にこうダメージを与えるものじゃないとオレは思うんだけどな?」
 崩れた壁を押しのけて立ち上がるハインツが言うと、スズナが頬を膨らませた。
「こういういたずらは、しちゃだめです!」
 導火線も短くなってきた。
 こうなったら、総攻撃で向かうしかない。

●ボム!
 敵全体を見渡し、後衛位置からジャマしてくる蔓草の動きを前衛に伝えるべく、括が気合いを入れる。
「メディック全員で連携を取って、相手の攻撃や捕縛を対応しまくるわよー」
 ハーイ、と吟醸。ソウがバッと羽根を広げて応える。
 再び攻撃開始。
「攻撃軌道……計算完了」
 マティアスが蔓草を伝いながら、その中心に飛び込む。スターゲイザーで飛び蹴りを炸裂させ、敵の機動力を奪うと、壁を蹴って着地した。
 ハインツが後衛の指示に耳を傾けていると、何やらどこからかポタポタと妙な水音が。
 背後のチビ助の口元が緩みに緩みきっているのを目に入れ、主人は慌ててその口を両手で押さえる。
「……いや、これは食べ物じゃないぜチビ助!?」
 南瓜な敵に食欲が湧いている様子。
 気恥ずかしさにハウリングフィストで誤魔化すハインツと、地獄の瘴気を放ちながらカボチャを狙う番犬。
 スズナが続き、レゾナンスグリードで導火線ごと火を喰らう。
「スライムさん、食べちゃえっ!」
 だが、かみ切った場所から再び火花が見え、サイが愚者の黄金を食らわせる。
 一通りここまで見ていると、導火線は消えては点火し、千切れては中から火が噴き出しているようだ。
 これはもしや……。
 一同察し、賭に出ることに。
 ウィゼの不穏な行動に蔓草が反応したが、その前に彼女は自分の足下から攻性植物をはやし、実ったハロウィンボムを敵に投げつけた。
 愛くるしい悪夢に満ちた南瓜爆弾のばらまかれたエネルギーを受け、敵の本体が振動を始めると、ウィゼから不敵な笑いが漏れる。
「ふぉふぉふぉ、ハロウィンでパワーアップするのはお主たちだけではないのじゃ!」
 敵が幹をうねらせている隙に、ティクリコティクが走り込む。暴れる蔓草を避けながらフロストレーザーを放ち、そのまま距離をとる。
 氷が導火線にまとわりついた瞬間、間髪入れずに無明丸がカボチャ目がけて思い切りダッシュ。思いっきり近づいて、思いっきりふりかぶって、思いっきりぶん殴ると、おびただしく発光する拳を全力全開で相手の顔面ド真ん中に打ち込んだ。
「叩き割ってくれるぞ、このお化け南瓜ーーーーっ!!」
 無明神話が炸裂すると、騒音と共に脳天が砕け散る。
 カボチャの中から蓄積したエネルギーが渦を巻き、まさに破裂に向かって膨らみ始めた。
 賭けが外れた時に備え、マティアスとハインツが仲間を背後に構えている所に、括とソウの回復。
 それと同時に、理狐が素早く飛び込み、月光斬で導火線を断つ。導火線が落下する前に再行動。空中で放った螺旋氷縛波は、彼女の袖の隙間から滑り落ちるようにして手に渡り、そのままカボチャに放たれると、パンプキンボム自体を氷で閉じ込めた。
 空気を氷で遮断され、導火線は火花を取り戻すことができずに鎮火。
「ヤッター!!!」
 中から割れたカボチャが氷と共に砕け散ると、キラキラと細かいオレンジ色の光がエントランスに広がった。

●ハッピーでしたハロウィン
 拳を高く突き上げる無明丸が、朗々と勝利を告げる。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
「えいえい」
「おー」
 吟醸と括、ソウのメディックチームが笑いながらそれにノッていると、周囲では建物のヒールが始まった。
「どうせなら爆弾じゃなくて、花火だったらお祭りらしかったのにねー」
 括がもらすと、うーむと思考を巡らす数名が。
「んー、それにしてもパッチワークの魔女と攻性植物、何の関係があるんだろうな?」
 ハインツの疑問に理狐も同意する。
「魔女ヘスペリデス。うーん、ドリームイーターなのに、攻性植物を生み出せるのね。この魔女も今回の事件だけでは終わらなさそうだわ」
 ティクリコティクも続く。
「カンギ様……ってなんだろう? ドリームイーターが別のドリームイーターのために……と言うのはちょっと考えにくいな。あいつらなんだかんだで自分本位だし。……別のデウスエクスか?」
「魔力を要するのなら、死神か、ザイフリートとイグニスを失った後のエインヘリアルやシャイターン達か……もっと他の敵達か?」
 マティアスも考え始めると、スズナとサイがてててと走り寄ってきた。
「おつかれさまです!」
 サイの宝箱からお菓子を取り出すと、その中の一つを差し出す。
「トリック・オア・トリート、ですっ!」
 やはりハロウィンのイタズラは、子供のオバケが一番。
 もうボムもドリームイーターも攻性植物も、イタズラとしてはお腹一杯である。
 そうは言うが、きっとまた、来年のハロウィンも騒がしいのだろう。
 ではまた、次のお祭りで。

作者:荒雲ニンザ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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