パッチワークハロウィン～夜はこれから

■リプレイ

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「いやぁ、恵くん。これはない……ないんだよ……、プリンに対する冒涜だよ冒涜！」
　戦場となるレクリエーションルームに突入するなりそう叫んだのは天矢・和（幸福蒐集家・e01780）だった。
「しかしハロウィンとはいえ、悪夢にも程があるぜ……」
　呼びかけに、和の息子の天矢・恵（武装花屋・e01330）が対照的なクールさで応じる。
　ケルベロスたちの目の前では、巨大なプリン・ア・ラ・モードそっくりな攻性植物が、その巨体を揺さぶって、今にもレクリエーションルームを破壊し外へ出ようとしていたところだった。
「今年のハロウィンも最後まで平和に、とはいかないみたいですね……」
　灰色の瞳で敵を見据え、アーニャ・シュネールイーツ（時の理を壊す者・e16895）がそれとなく距離を計りつつ呟いた。
「楽しいハロウィンを台無しにさせようだなんて、そうはいきませんっ」
　フリュイ・スリジエ（らでぃかるらびっと・e05665）も、敵を囲い込む包囲網を作るべく、ぴょんぴょん跳ねて動く。フリュイが跳ねる度に、大きな垂れ耳が可愛らしくほわほわ動いた。
「せっかくのハロウィンなのに……楽しい気持ちにお邪魔はメッなんだよ？」
　悪い子を叱る、という風に、スノーエル・トリフォリウム（白翼の花嫁・e02161）も一歩また一歩と敵の動きを抑える位置を取った。
　まだパーティーの余韻の残る部屋。先まで賑やかに過ごしていた人々を攻性植物の恐怖に晒すわけにはいかない。この凶暴な、巨大なプリンにフルーツとクリームをあしらった、プルプルと黄色い上に輝くカラメルソースを纏った敵『ぷりん・あら・もーど』を……！
　敵をじっと見据えていたスノーエルが、ふとピンクの瞳をきょろりと動かして言った。
「それにしても美味しそうかも……食べられるのかな？」
　スノーエルの言葉に、武器を構えていたアーニャも少しだけ表情を緩めて応じた。
「一度これだけ大きいプリンとかチャレンジしてみたいものです」
「ちょっと舐めてみたい気もしますっ……気になりますっ……うずうずっ」
　ぴょんと跳ねて片手を上げるフリュイ。そしてぐっと敵に近い位置で祝部・桜（残花一輪・e26894）も、巨大な敵を見上げて瞳をキラキラさせていた。
「お、お、大きなプリン、です……」
「い、いやプリンじゃないぞ桜！　攻性植物だからな？！」
　慌てて嗜めるのは鏑木・郁（傷だらけのヒーロー・e15512）。桜は郁の友人であるだけでなく、郁の相棒の大切な人である。極力守りたいのだが……敵の見た目的に、甘い物好き女子たちの好奇心を煽らずにいられないのはまあ仕方ない。
「おいおいおめーら、こんな不味そうなモン食うなよ。菓子はこいつを片付けてからだ」
　フロックコート風の、全身黒の車掌の衣装を身につけたヴァーツラフ・ブルブリス（冥界列車の黒車掌・e03019）がそう言うと、はたと皆が我に帰る。
「そ、そうだよね……あはは、こんなの食べたら旦那さんに心配されちゃうよね」
　とスノーエルが照れくさげに笑えば、アーニャもあ、と何かを思い出した様子で戦闘に集中し始める。フリュイも、
「ですねっ、わたし達で、楽しい夜を守り抜きましょうっ！」
　と叫ぶやくるりととんぼを打ち、戦闘モードの兎獣人へと変身した。
「そうそう、先にお仕事済ませてから皆でイイコトしよう？　うちの恵くんのプリンは美味しいよー」
『チャチャチャ……！』
　和がふんわり笑いながらそう言った矢先、ぷりん・あら・もーどが不快な鳴き声をあげた。ついついプリン好きのある人に思いを馳せていた桜も、その声に身構える。
「プリンではなく、攻性植物でしたね、倒さねば……！」

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　前に出るのは郁、桜。そして綿のようなピンク色のボクスドラゴン・マシュと、ビハインドの愛し君である。その後ろにアーニャがつき、残る者は全員ぐっと引いた位置から敵を絡め取る作戦だ。
「お祭りは最後まできっちり楽しんでこそだろ、行くぞ！　あの妙なウネウネと、ハートの光線には要注意だ！」
　郁が紙兵をばら撒きながら、全員に向けてそう叫び注意を促した。各々頷きつつ、ケルベロスたちは配置につく。
「恵さん、よろしくなんだよっ」
「ああ、絶対誰にも膝はつかせねぇ。回復し尽くしてやるぜ」
　スノーエルと恵は同じ回復役を担当する者同士声を交し合い、効率よく仲間をサポート出来るように努める。
「マシュちゃん、みんなを頼むんだよ！」
　言いながらスノーエルがオウガ粒子を拡散、併せて恵は戦いの開始に相応しく後衛にカラフルな爆煙を発生させた。呼びかけに応じたマシュはふんわりピンクの綿毛のような体で桜に近づき、自らの属性を注入していく。
「うふふ、ふわふわですね……」
　一方色付きの煙のたなびく中で、戦意を漲らせた和がくっと口端を持ち上げる。目線は敵に投げたまま、恵の言葉が背を押す。
「全力で殴って来い」
「ほんと、僕は頼りになる息子がいて幸せだよ」
　生来のフワフワ感は今はなりを潜め、和の眼光は鋭く敵を狙い定める。グリップを馴染む位置で握り直し、放った弾丸はぶりんのデコレーションに似た部分へ吸い込まれていった。それを追うように、愛し君が起こしたポルターガイスト現象により、室内に残されていた皿が敵めがけて飛ぶ。
『チャアッ！』
「いきますよ！」
　すかさず攻撃手として隙を伺っていた桜が、おかっぱの黒髪を揺らし跳び上がった。流星の如く敵の懐に舞い込む迷いのない蹴りが、抉るように決まり大ダメージを叩き込んだ。
　そこへ更なる追撃を狙うアーニャ。
（「さて、プリンの部分も植物なんでしょうか……それとも、果物の部分だけ…？？」）
　戦いに集中しないわけではないが、元々料理好きの職人気質なのでつい好奇心をそそられてしまう。とは言え、そのせいで狙いを乱すアーニャではない。アームドフォートの一斉射撃が敵に次々命中していく。
「このまま大人しくしてりゃいいがな……」
　戦況を見つめつつ、ヴァーツラフがニヤリと言った。そう楽はさせて貰えないのは百も承知なのだが。
『チャチャ……！』
　ヴァーツラフの懸念を裏付けるように、ぷりん・あら・もーどの巨体が伸びあがる。その様子は目の前で巨木が急激に育ったかのようで、やはり敵は攻性植物なのだと実感させられる。
「さあ、どこからでも来い！」
　両手を広げ、味方の盾になるべく前に出る郁。傍らで桜が心配そうに見つめる。
　が、敵の触手はケルベロスたちに向かって来なかった。代わりに、敵の頭から吹き出したのは、大量のカラメルシロップだった。
「わああ？！　シロップなんだよっ」
　思わず声をあげるスノーエルの目の前で、カラメルが敵の全身を覆っていく。
『チャー……』
「んんっ、甘い匂いがしますっ！　はっ……お菓子は後、お菓子は後でっ！　駆けよ光、全てを癒す力となって……」
　うっかり鼻をスンスンしてしまったフリュイが首をぷるぷるっと振り、手にした小箱を開く。
「全てを癒すわたしの力、皆さんに預けますっ！　コロラトゥーラ・ダンツァ！」
　フリュイの持つ小箱から溢れた七色の光が、敵の前に立つ仲間たちにきらきらと降り注いだ。その輝きの下をすり抜け、敵に接近したヴァーツラフが敵の頭上辺りまで跳び上がり、ギロリと睨み付けた。
「おいテメェ、この服汚したら承知しねーぞ。イイ女と揃いで仕立てた一張羅なんだからな。テメーはこのまま冥界行きの列車にぶちこんでやるよ、行先は地獄一択だ！」
　黒車掌はそう凄むとポケットに手をつっこんだまま右足で敵を蹴り上げた。
「へえ、それで今回は車掌の恰好なのか」
　着地したヴァーツラフの後ろでハンマーを変形させ構えた郁が軽い調子でからかえば、すれ違いざまにヴァーツラフが片眉を持ち上げて応じた。
「女のおねだり聞いてやるのも、男の甲斐性ってヤツだろ？」
「それはそうかもな……っ！」
　軽い笑い声に続いて轟音が響き渡り、郁の一撃が敵の幹に当たるのだろう足元付近で炸裂した。スノーエルは呪文の詠唱を終え、桜を励ました。
「桜さん、やっつけちゃえ、なんだよ！」
「ありがとうございます、スノーエルお姉さま！」
　手数の関係もあり、ケルベロスたちは優位に戦闘を進めていると言えた。今のうちに攻撃を、と恵は一計を案じスマホをかざして洗脳電波を放った。
『チャッ……』
「甘いものも程々が大事だ。かけすぎは味のバランスを崩しちまうぜ……ってまあ、お前には跡形もなく崩れてもらうけどな」
　カラメルでベトベトになった敵の姿は、料理好きにとっては見ていられるものではないが、本当にこのシロップは漂う匂いの通りに甘いのか？　という点には興味がある。敵がこちらに飛ばしてくれば、それはそれである。
　いよいよデコレーションをうねらせ、攻撃に転じる気配を見せ始めた敵の、ハート型の目の前にいつの間にか飛び込んでいた和が、口元だけで笑った。
「ねえ君。僕にとってのプリンは恵くんのプリンだけだから。間に合ってます、だよー。冒涜プリンはこうしちゃおうかな」
　そのまま体勢をくるりと転じ、足を振りぬく和。凄まじい速度の炎の蹴りが命中する！
「炎の焼きプリン、出来上がりだよー」
「あ、香ばしいですね焼きプリン」
　カラメルの焦げる香りに、思わず率直にそう言ってしまうアーニャ。
　更に敵の身を焼く炎を広げるべくナイフを構えて飛び込んだ桜に、デコレーションクリーム型触手が反応していた。
「！　気を付けて」
「はい！　和お兄さま！」
　注意を促す声にそう応じ、素早い身のこなしでナイフを操り巧みに敵を斬り裂く桜。
「聞いた恵くん？　お兄さまって」
「親父、顔緩みすぎじゃね」
　父を窘めつつ、恵は敵の動きと味方の様子に気を配る。
　アーニャはガトリングを両手で構え、笑顔で言い放つ。
「そうですね、やはりあなたは焼きプリンにしてあげるのが良さそうです……！」
　言葉の終わらないうちに魔力を籠めた弾丸が嵐のように敵に突き刺さる！　カラメルは焼け焦げて、ベタベタからパリパリへと質感を変えた。
「いい具合にブリュレされてんな」
　と感心した風に恵が言えば、フリュイも思わず敵を指さして跳びはねた。
「あー、あれですっ、スプーンで叩いて割りたいですっ」
　その時、デコレーション触手が派手にしなった。反射的に身を引くフリュイ。ビュッと白い触手は桜に届く前に、郁の腕に阻まれる。ならばと敵はそのまま郁の腕を締めあげ始めた。桜が小さく悲鳴をあげるが、郁はそのまま敵と引き合いをする。
「心配ない、この程度！」
　痛みに耐えつつ腕を引き、時々緩めてと体を張って触手を封じていた郁が、フリュイに目配せした。心得たりと頷いて、フリュイが走り込んだ。
「兎の脚力、ナメないで下さいねっ？　いーちにーの、えーいっ！」
　くるりと身軽に宙返りを決め、そのまま重力に乗せて伸びきった触手へと蹴り込んだ。ビッと裂ける音がしたところへ、ヴァーツラフの踵がめり込んだ。ビビビッとそのままデコレーション触手が千切れて落ちた。
『ヂァヂァ！』
「いいぞ、回復される前に攻めきろう！」
　腕を解放された郁は体勢を立て直し、床に落ちていた皿の破片を武器で弾き飛ばした。
「鏑木さん、お疲れ様なんだよ。今治すからね」
　スノーエルが素早く治療に当たるのを確かめて、恵はそのまま攻撃へ加わった。ケルベロスたちの猛攻撃に、敵は巨体を揺さぶるが室内なのが災いするのか、避けきれない。逆に放ったラブビームは、ひょいとスノーエルに避けられてしまう。
「ハートは旦那さんので間に合ってるから、あなたからのは遠慮しとくねっ」
「逆にこれを食らえですっ！　ぽいぽいっ」
　と、地団太を踏むように暴れる敵の目の前にフリュイが大量に放り投げたのは、室内に残されていたパーティ用のクラッカー。
「よし、派手にいけよ」
　愛用の銃を構えたヴァーツラフが、宙に浮いたクラッカーを続けざまに撃ち抜けば、パパパンッ！　と賑やかな音がこだまする。飛び出した紙テープの隙間から繰り出したフリュイの蹴りがスプーンの代わりとなり、パリパリ香ばしいカラメルを叩き割った。敵の体がグラグラと不安定になってくる。桜がその敵の陰に食い込む視線を送り、詠唱を開始した。
「ゆめ忘るるな、八百万の憾みぞある……」
　現れたのは巨大な手。怨霊の巨大な手の爪が敵に食い込み、引き裂く。
『ヂャアアッ……！』
「これが私の切り札……！」
　僅かながらに命を繋いでいるぷりん・あら・もーどに向け、アーニャが大量のグラビティを解放した。ケルベロスたちが勝利を確信する。瞬間移動さながらに敵の懐中へ飛び込んだアーニャが叫んだ。
「テロス・クロノス！　そして、フルバーストッ！」
　手持ちの火器からの一斉放射に、こんがり焼きぷりんとなった敵は、焦げ目だけを残してこの世から永遠に消し飛んだのだった。

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「少しやり過ぎたでしょうかね……。これは片づけが大変そうです」
　アーニャが短く息を吐きつつ室内を見回した。
「まあ、ヒールして掃除までしとけばいいだろ。ヒール苦手なんだけどな……俺も頑張る」
　かなり派手に戦ったが、どうやら防音施設のおかげで住人たちを起こすことなく済んだようだった。あとは片付けだけ、なのだが。
「トリックオアトリート。口直しにどうだ」
「あ、私もプリン作ってきましたので、みなさん、如何ですか♪」
　粗方片付いたテーブルの上に、恵とアーニャが持参したプリンを出した。
「ひゃああああ恵くんのプリン！」
「わあっ！　プリンですっ！　やったあー！」
　和とフリュイが歓声を上げると、更にスノーエルが悪戯っぽく笑って箱を取り出す。中身は色とりどりのクッキーだ。
「え？　トリックオアトリート？　じゃあ、クッキーどうぞだよ！　マンションの人達に置いておく分の他に、まだまだたくさんあるからね！　みんなも食べて食べてだよ！」
「お、クッキーもうまそうだな！」
　テーブルに広がる甘いひと時に郁が目を輝かせると、桜も興奮した様子で包みを開いた。
「桜も、桜もお菓子を準備してきました！　かぼちゃ型アイシングクッキーです」
「あっ、可愛い！」
「皆さんよろしければ。あっ。トリックオアトリート、です！　あ、マシュさんも食べて下さい」
「マシュちゃん良かったね、クッキー大好きだもんね」
「恵さんのプリン、本当に美味しいですね」
　と、目を丸くしてアーニャが言えば、
「いや、そっちも相当美味いぜ」
　と恵も応じる。そうでしょうそうでしょうと一頻り息子自慢をしてからプリンを頬張ろうとした和が思い立つ。
「っと、珈琲入れようか。ポットあるかな？　あるね」
「ああ、俺にもくれ」
　しっかりプリンに手をつけながらヴァーツラフが片手を上げた。
　人々の楽しい一日を守り切った充足感とともに、ケルベロスたちは束の間の穏やかな時を過ごす。楽しい夜は、これから。

作者：林雪	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年11月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 4
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