パッチワークハロウィン～お菓子の家攻防戦

■リプレイ

●ようこそ、お菓子の世界へ
　屋上の扉を開ければ、冷たい夜風がケルベロス達の体に吹き付ける。
　ディアンドルの橙色スカートがふわり風にさらわれるのも気に留めず、イブ・アンナマリア（原罪のギフトリーベ・e02943）は一歩踏み出しくるり振り返った。
「わー、皆かわいいな。万里は見た目だけはかわいいよ。見た目だけね」
「うるさいよ、イブ」
　いつもの調子で軽口叩く相棒へ、同じくいつも通りに軽く返すのは暁・万里（パーフィットパズル・e15680）。和服につけたふわふわの狐尻尾翻して、彼はドアの近くにあったスイッチをパチンと入れる。
　瞬間、屋上は祭りの雰囲気を取り戻した。左右に並ぶジャック・オー・ランタンはオレンジ色の明かりに笑い顔浮かべ、レトロな街灯がコウモリ型の旗を不気味に浮かび上がらせる。
　そんな、楽しいお化けの空間の中。一際目立つ建物を見て、姫百合・ロビネッタ（自給自足型トラブルメーカー・e01974）は歓声を上げた。
「いいな～。パーティーが終わっちゃう前に来たかったなー」
　屋根も壁も窓も食べれるお菓子の家。こんな家に住んでみたいと、はしゃぐ彼女は黒とオレンジの衣装に身を包んでいる。南瓜やお化けやコウモリの柄入ったオレンジ色ミニスカート翻せば、黒いスパッツがちらり。ハロウィンらしい衣装に心弾ませるロビネッタは、軽やかな足取りで奥へ向かって駆け出した。
　続けて走るケルベロス達に、ぴくり動くは大きな影。ガラスの器に盛られたプリンやフルーツはまるで本物のようで、その上の瞳がぎょろりとケルベロス達へ向けられる。
　そんな攻性植物の足元へ、風切るように駆けたのは銀色狼の少女。その尻尾と同じ色のポニーテールまで躍らせて、鳳来寺・緋音（鉄拳必倒・e06356）は高く跳び上がり、電光石火の蹴りを叩き込んだ。
「ったく、楽しいハロウィンに水差しやがって、プリンだか何だか知らねぇが、ブッ潰すまでだぜ！」
　気合十分の声発して、彼女はそのまま奥へと駆け出す。すると、彼女を逃がすまいとぷりん・あら・もーども動き出す。
「あら、どーも」
　楽しそうに冗談を口にして、ロビネッタが横を過ぎる。じゃらり、下げたロリポップのネックレスが音を立てれば、誘われるようにプリンが跳ねて。次の瞬間、撃ち出されたのはカラメルのような茶色い液体。
　前方行く三人と二体を狙ったその一撃は、守り手達が受け止めて。相棒のライドキャリバー、アインクラートに庇われたユーディット・アルニム（装甲砲士・e29597）は、奇妙な姿の敵に眉をひそめた。
（「パーティーの残滓？　また妙なものが利用されたな。パーティーはいつでもどこでもあるだろうから、早く元凶を絶たねばならない」）
　そのためにも、今は目の前の事件に集中しようと。駆けるユーディットの身は闇色の包帯に覆われていた。首から下はつま先まで全身に包帯を巻いたミイラ姿だけれど、この包帯はフィルムスーツ状になっているためしなやかに動ける。
　美しい曲線描き繰り出された回し蹴りは器を震わせて、敵は練乳状の蔓をくねらせながらもケルベロス達を追ってくる。そんな植物を誘い込んで、彼らはイベントステージに辿り着くとそこで待ち構えた。
「さあ、プリンの狼さん。『トリック・オア・トリート』だよっ！　追いかけっこしよう、食べられるのはどっちかな！」
　歌うように言葉紡ぎ、巨大な斧を振り上げるのはノル・キサラギ（銀架・e01639）。銀の髪が映える赤い頭巾の上には、緋音とお揃いのゴーグルをつけて。狼誘う赤ずきんに、ぷりん・あら・もーどは興奮気味に体を震わせる。
　被害を最小限に抑えられる戦闘場所、囮務めるは彼一人。危険な役目を買って出た彼が作り出した死角を活かそうと、イブが敵の足元へと飛び込んで強力な一撃を繰り出す。
「ハッピーハロウィン。甘いお菓子は貰うけど、悪戯もさせて貰おうかな」
　悪戯に彼女のその手は、敵のガラス器にひびを入れる。一歩下がれば守るように、ミイラ姿のユーディットが進み出る。
　せっかくの夜、我々もパーティーの残滓を利用して戦おう。この敵には、トリックもトリートも不要。
　武器構えるケルベロス達。その表情は戦いに向ける緊張と、ちょっぴりの悪戯心が混ざり合って。ハロウィン延長戦の幕は、ここに切って落とされたのだった。

●祭りの続きを
　お化け南瓜の装飾施したステージに、練乳のような蔓がひゅっと風切る音が響く。ノルはそれをかわそうと軽快なステップで後方へ飛ぶが、蔓はその先にも待ち構えていて――。
　しかし、その攻撃は赤ずきんを捕えない。間に割り込む狼の手が、蔓を掴み上げるから。
「てンめぇ……アタシの旦那に、手ェだしてんじゃねーぞコラァ！！」
　怒声と共に、蔓を引き寄せて。敵の体が傾いた隙に緋音は『右手』を加速させ、速度乗せた拳を繰り出した。
　よろめく敵、その足元へひらり飛び込んだのはノル。彼の頭の中には今、行動予測プログラムが走っている。彼が照準を合わせるのは、数秒後の敵の姿。
「ターゲットロック。演算完了、行動解析完了――時剋連撃（スクルド・バレット）！」
　引き金引けば、零距離からの連続射撃が敵を襲う。正確無比なその攻撃に敵のプリン部分が吹き飛ばしてから、ノルは悪戯っぽく微笑み緋音へ寄り添った。
「俺のこと捕まえていいのは、こっちの狼さんだけだもんね！」
　戦いの最中でも、仲睦まじく。そんな夫婦の姿に憧れ抱きながら、万里は纏うオウガメタルを輝かせ、放つ先の恋人を見つめた。
　ノルと同じ中衛に位置する彼女のナース服はカラメル色の毒に染まっているけれど、そんなものに物怖じはしない。水無月・一華（華冽・e11665）は彼を真似たピンクの髪を風に流しながら、敵を見据えて口開く。
「初めてハロウィンに参加したのですが、とても楽しいお祭でしたの！　こんな楽しかったお祭に傷付けるなんて以ての外ですわ！」
　気丈に語る姿が頼もしく、微笑んだ万里は放出したオウガ粒子を彼女とノルに送る。愛しい人と戦えるのは、嬉しくもあり心配でもある。けれど、この祭りの日を楽しんでいた彼女の思い出を、嫌なもので終わらせたくない。
「手術を始めようか。一華、斬っていいよ」
　言葉は、ナース姿の一華に寄せて。すると彼女は笑顔を浮かべて光の剣を生み出す。
「はい、万里先生。さぁザックリとまいりましょう」
　笑顔で答え、揮う剣戟は容赦なく。その威圧的な攻撃に、攻性植物は大きくのけ反った。
　その隙見て、エルム・ユークリッド（夜に融ける炎・e14095）は守護のグラビティを操る。光の盾に照らし出されてもなお黒い彼の姿は、和服に黒い狐面と尻尾。万里と合わせたかのようなその仮装は、今は癒し手の制服のように。
　展開された光の盾は、ノルを身を守り、傷を塞いでいく。十分に癒しが行き渡ったことに安堵しながらも、エルムはちらり仲間達へ視線向けた。表情には出ないけれど、皆が思い思いに選んだ仮装は眺めるだけでも楽しい。
　そんな主人の様子に白手袋模様の足上げて、ウイングキャットのロウジーも翼はためかせて前方の守り手達を癒していった。
　敵へ『トリック・オア・トリート』の声掛け行うのをノル一人に任せ、攻撃を集中させる。ケルベロス達の採った作戦の通り、ぷりん・あら・もーどはノルを狙いグラビティを繰り出している。
　その攻撃をある時はひらりとかわし、ある時は守り手達に庇ってもらうことで持ちこたえるノル。けれど、命中した時のダメージは油断ならないものだった。
　敵は、火力の高いクラッシャー。その近距離攻撃が一度当たっただけで、彼の体力は半分近く削り取られてしまう。そこに運悪く、会心の一撃が命中してしまったら――。
　連続して攻撃すると命中精度が落ちる性質上、攻性植物は黄金の実での回復も頻繁に行ってきた。癒しのグラビティは状態異常への耐性ももたらすものだから、ケルベロス達がかける状態異常はなかなか積み重なっていかない。
　結果、時間が経過していく中で、ケルベロス達の戦いは決して楽にはならなかった。常に敵の会心の一撃を警戒し、ノルの体力と状態異常に気を配る緊迫した状況が続いていく。
　キャスターを囮とする作戦は、決して悪手ではない。しかし、火力の高い敵に対して囮が一人というのは、負担も大きいものだ。囮役をもう一人が担うか、あるいは妨害手をもう一人が担い、敵の状態異常耐性を上回る勢いで命中精度落としていければ、もっと安定して戦えたのかもしれないが――。
　ケルベロスも攻性植物も、回復の手番が多い戦い。それは展開としてはゆるやかなものだったが、薄氷の上を行くような精神状態での戦いとなった。

●いたずらの終わり
　幾度目かの敵の蔓攻撃を、ユーディットの身が受け止める。ノル庇って受けたその一撃は強力なもので、彼女の包帯が力任せに引き千切られていく。これがノルに当たっていれば、一撃で瀕死に追い込まれていたことだろう。
「植物かお菓子か、はっきりしろ」
　不快げに言葉紡ぎ、アームドフォートの主砲を敵へと向ける。光が迸る砲撃はぷりん・あら・もーどの器を叩き、衝撃にパンと音立てガラスが割れた。
　敵の損傷も激しいが、ケルベロス側の囮も疲労が蓄積している。ここまでかな、とノルがつぶやけば、その声聞いた緋音が敵前へ駆け出し、息を吸い込んだ。
「トリック・オア・トリート！」
　戦場へ響く言葉は、囮交代の合図。ぴくり反応した攻性植物が蔓を伸ばすその背後で、ユーディットもまた囮として声を上げる。
「Streich oder Leckerbissen？」
　それはおなじみの言葉の、ドイツ語版。敵にその言語が通じたのかはわからないけれど、プリンの上の瞳は確かに彼女へ向けられている。
　後退するノルへは、万里が禁断の断章の詠唱を紡ぎ脳細胞を活性化する。
「甘い甘いお薬は如何？」
　微笑みながら傷を癒せば、一華は大きくうなずいて。
「先生のお薬なら、カラメルなんて簡単に弾き飛ばしちゃうのです！」
　だからわたくしは他の方を。剣を構えたナースは、美しくもたおやかな剣舞で魔を払う。
「皆々全て、祓い清めて癒しましょう」
　篭めた願いが呼び寄せるは、清浄な空気と温かな光。体が軽くなるのを感じた前衛のケルベロス達は、勢いつけて敵へと駆けていく。
「喰えないプリンなら、さっさと砕け散れ！」
　聖なる左手で掴んで、闇の右手を叩き込む。両手にはめたバトルガントレットで緋音が渾身の一撃を繰り出せば、敵のプリン部分が一際大きく弾け飛び散った。
　続けてユーディットがエアシューズで駆けて、揮う回し蹴りが敵の目を襲う。これにはたまらず動きを止める攻性植物へ、ロビネッタが『シェリンフォード改』を構える。一発、二発、撃ち出す弾丸は見当違いの方向へ飛ぶように見えたが、それは地面や壁に跳ね返り敵を死角より撃ち抜いた。
「ふっふーん♪　ちょっとしたトリックみたいでしょ」
　得意げにリボルバー銃をくるり回すロビネッタの胸元で、スカートの上で、お菓子が躍る。美味しそうなお菓子の家とプリンの誘惑に打ち勝つ、彼女なりの方法。それは――。
（「それは、あたし自身が全身お菓子人間になる事だ！」）
　そして、対抗したからには決して負けない。士気高めるロビネッタと同じく、癒し受けたノルも地獄の炎纏わせたルーンアックスを振り上げて。
「プリンはもうおなかいっぱいかな。そろそろ、いたずらの時間にしよっか！」
　叩きつける一撃が、敵の身を焼く。――もう、終わりは見えている。
　それでも仲間の無事が第一と、エルムは仕舞っていた地獄の翼を広げる。ふわり、軽く一度羽ばたかせれば、清涼な風が前衛を癒し、その攻撃に力を与える。
「……トリック・オア・トリート」
　せっかくの日、自分も言ってみたいと。形成逆転のしようのないこの状況で、エルムはこっそり言葉を唇に乗せる。疲弊しながらもその声に敵は蔓を持ち上げたが、まだ、敵に手番は譲らない。
　回復は十分と判断した万里が、ウイルスカプセルを放り投げる。敵の身に降りかかるそれが癒しを阻害したのを認めて、これが最後とイブが駆ける。
（「僕は僕のやるべき事をやらなきゃね」）
　翻るスカートは、そこに描かれたコウモリ達が羽ばたくように。頭の白薔薇の花弁を散らせて、片翼のディアンドルは跳躍し、敵の器の縁へと飛び乗った。
「……ねえ、もう食べちゃってもいい？」
　僕の気持ちを飲み下して作った、うんと強い毒をあげよう。きっときみより甘いから――。
　葡萄酒の瞳で敵を捉え、毒の唇を瞳ついた球体へと落とす。それだけで、ぷりん・あら・もーどは動きを止め――ゆるやかに、朽ち果て始めた。
　巡る毒に襲われて、ぱきり澄んだ音立て器の脚が折れる。そうして体勢崩した攻性植物は、その中身が零れる前に静かに消滅していった。

●さあ、帰りつくまで
　お祭り騒ぎの戦い終われば、周囲は再び静寂に包まれた。
　健闘を称え合い、ケルベロス達は折れかけた街灯や抉れた地面にヒール施していく。
「ねぇ先生、ここにはどんなヒールを処方したら良いかしら？」
　小首を傾げてナースの一華が尋ねれば、万里が笑顔で守護星座を描いていく。
　折角だから、より誰かの笑顔が見られるように。願う万里が施した癒しのグラビティは、大穴の空いたフェンスを蔓で修復して花開かせる。
「夢の終わりは綺麗な方がいいものね」
　笑んで語ればナースもうなずき、二人は嬉しそうに寄り添い合った。
　そうして修復を終えると、緋音が狼尻尾を揺らしながら仲間達へ声をかける。
「なあ、みんな仮装してる状態でプリンアラモードを食べに行こうぜ」
　もちろん、動かなくて食べられるやつを。弾む声で誘えば、ノルが大喜びで手を上げる。
「うん、皆で、プリン食べに行こう行こう！」
　パーティーはもうちょっとだけ続くといいな。笑う赤ずきんに反対する者はなく、彼らは仮装そのままで屋上の入口へと戻っていく。もう夜も遅いけれど、ハロウィンの夜なのだ。きっとプリンを始め甘いお菓子用意して待ち構えているお店は、簡単に見つかるはず。
　仲間に続いて移動しようとエルムが相棒の姿探せば、夜色の翼猫はお菓子の家の中から尻尾をのぞかせていた。ケルベロス達には入れない小さな家は、ロウジーにとっては居心地がよかった様子で。衣装のお菓子を一つ手に取りロビネッタが誘えば、翼猫はするり家を出てエルムの腕へ。ロウジーだけでなく仲間達にもお菓子配れば、ロビネッタの衣装にはもうほとんどお菓子が残っていない。家に帰り着く頃には、きっとひとつ残らず食べ尽くされている事だろう。
　それは、この祭りの日をめいっぱいに楽しんだ証。
　笑顔に満ちながら去っていくケルベロス達が灯り落とす中で、お菓子の家とハロウィン飾りはまた来年と微笑んでいるようだった。

作者：真魚	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年11月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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