10月31日――日本でも、すっかり定着した感のハロウィン。その実、西洋版お盆だが、「トリック・オア・トリート!(お菓子くれなきゃイタズラするぞ!)」とお化けの仮装のお陰で、子供達にとっても楽しいイベントとなっている。
奈良県の小さな町の小さな児童館も、ハロウィンパーティーで多いに賑わった。ご近所さんのイタズラ防止のお菓子が和菓子だったり、仮装が日本の妖怪だったり、と些かユニークなのは、神社仏閣が多い土地柄で、この児童館自体が古寺の改装というのもあるだろう。
後片付けはまた明日、という事で、早々に閉館した児童館は、ハロウィンパーティーの名残がそこここに。
小さな床の間にダンボール製のジャック・オ・ランタンと張子の狛犬が並ぶ和室に――まさか、『本物』の魔女が忽然と現れようとは。
「私が失っていた『服従』の心は満たされた。あぁ、誰かに服従し、その為に働く事の、なんと甘美なる事か」
うっとりと呟く彼女は、一言で形容するならば深緑の魔女。長い髪も、重厚なローブも深み帯びた緑ならば、その全身を取巻く蔓も艶やかなる深緑。
「今宵はハロウィン……魔女の力が最も高まる今夜、第十一の魔女・ヘスペリデスが、その役目を果たすとしよう」
独り言に謳うような抑揚をつけ、深緑の魔女――第十一の魔女・ヘスペリデスは携える籠からモザイクに覆われた果実を取り上げる。
「ユグドラシルにおられる、『カンギ様』の為に。私の黄金の林檎から、ハロウィンという日に相応しきものを生み出そう」
無造作に投げられて畳を転がるや、モザイクを撒いて光り輝く黄金の林檎。眩い光の中で、林檎の形が忽ち巨大な何かに変じていく。
「さぁ、ハロウィンの魔力を集めて私に捧げよ。全ては、『カンギ様』の為に」
現れたのは、巨大なプリン・アラ・モード。天井突かんばかりの全長3m程のそれは、深緑のソースたっぷりの緑色のプリンがまず目を引いた。てっぺんを飾るのはダークチェリー……と思いきや、無機質な一つ目がギョロギョロと。プリンの周りには、これまた緑色のストライプがお洒落なくるくるクッキーやら、苺大福やら。つぶ餡やら白玉やら黄粉わらび餅やら。美味しそうに、見えない事も無い。
「さぁ、人間共の夢の残滓と黄金の林檎より生まれし、攻性植物『まっちゃ?ぷりん・あら・もーど』よ。人間どもを喰い散らかすがいい」
……攻性植物だった。そう言えば、目玉ドレンチェリーからうねうねとした軸が幾つも伸びていたり、涼しげな器(?)を蔓っぽい触手が取巻いていたり。植物的要素が無い事も無い?
――――!!
甲高い咆哮を上る攻性植物『まっちゃ?ぷりん・あら・もーど』。フルフルと緑のプリン体を震わせながら、獲物を求めて児童館の窓を突き破った。
「ケルベロスハロウィンは如何でしたか? 皆さんも楽しまれたのでしたら、何よりです」
堅苦しい表情のまま、集まったケルベロス達を見回す都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「パーティーが終わったばかりの所で申し訳ありませんが……新たな敵の動きが察知されました」
辰・麟太郎(臥煙斎・e02039)の調査によれば、ハロウィンの夜を狙い、パッチワークの魔女の一人が動き出すという。魔女の名は、第十一の魔女・ヘスペリデス。
「彼女は日本各地のハロウィンパーティー後の会場に現れ、ハロウィンパーティーの残滓と黄金の林檎の力で、強力な攻性植物を生み出す模様です」
このままでは、パーティーを楽しんで家路についた人々が襲われ、殺されてしまうかもしれない。
「楽しいハロウィンを、惨劇で終わらせない為にも、パーティー会場に現れる攻性植物を撃破して下さい」
創がタブレット画面に映した地図は、奈良県の小さな町。日が暮れて程なく、ハロウィンパーティーが催された古寺を改装した児童館に、攻性植物は出現する。
「攻性植物は全長3m程。児童館は小さいですが、児童館の前は広場になっていますので、攻性植物が児童館から飛び出してきた所を迎撃すれば、戦い易いかと思われます」
周辺に一般人はおらず、敵は攻性植物のみの単体。街灯も幾つかあるので、灯りに困る事も無さそうだ。
「攻性植物といいましたが……敵の見た目は、巨大な『プリン・アラ・モード』でしょうか」
生真面目な面持ちのまま、タブレットに映したとあるお茶屋さんのメニュー画像を見せる創。抹茶プリンの周りに、抹茶風味のくるくるクッキーや苺大福、つぶ餡に白玉、黄粉わらび餅と盛り沢山のプリン・アラ・モードだ。
「こんな感じの、緑のプリン・アラ・モードです……飾りのダークチェリーは、一つ目がギョロギョロしていますが」
何ともコミカルファンシーな敵だが、油断は禁物。単独ながら、相当に強そうだ。
「攻撃は3種類。和風な甘い匂いを振り撒き、美味しそうなデコレーションをアピールして自身への攻撃を躊躇わせる『美味しそうでしょ?』。逆に、蔦状の触手で敵を捕え、緑のプリン部分が大口開けて喰らいつく『私に食べられて?』」
最後の1つは、自らに似たミニチュアの緑のプリンを作り出して敵に浴びせ掛けるプリン砲、『私を食べて?』だ。
「ちなみに、この緑のプリン、抹茶味ではありません」
タブレット画面をスクロールさせ、粛々と敵のデータを告げる創。
「青汁味です」
それも、プリン砲を食らった者はあまりの苦さと青臭さに硬直してしまう程、激烈な不味さだとか。
「酷いわ!」
大いに憤慨したのは、結城・美緒(ドワーフの降魔拳士・en0015)。
「緑のプリンなら抹茶に決まってるのに! よりによって、青汁味のプリンって何よ!」
……別の意味で、憤っていた。
ちなみに、各メーカーさんの弛まぬ努力によって、飲み易くて美味しい青汁もある昨今。デウスエクスによる青汁風評被害も、防がねばなるまい。
「昨年の件もありますし、ドリームイーターであるパッチワークの魔女がハロウィンに事件を起こすのは、不自然ではないでしょう。しかし、出現する敵が攻性植物というのは……腑に落ちませんね」
「ヘスペリデスの武器が、攻性植物なのかしら……それとも、攻性植物がヘスペリデスを手駒に?」
考え込む表情の創。やはり小首を傾げる美緒だが、すぐ思い切ったようにパンッと両手を叩く。
「ここで考えていても仕方ないわね。まずは動きましょ。楽しかったハロウィンを台無しにしない為にも、パーフェクトな勝利を目指して頑張らなくちゃね!」
参加者 | |
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レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079) |
福富・ユタカ(殉花・e00109) |
ナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210) |
藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612) |
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725) |
鏡月・空(不幸な運命は認めない・e04902) |
一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556) |
弧ヶ崎・慧(空落の海・e25584) |
●パーティ終って日が暮れて
霜月も目前となり、日が暮れるのも早くなった。
無人の児童館はシンと静まり返っている。門扉こそ開かれ、敷地内には街灯が幾つも射し込んでいるが、古寺という外観からして侘しい。
ハロウィンの夜を狙うパッチワークの魔女に攻性植物。その企みを破るべく待ち構えるケルベロスは、主戦力の他にサポートも何人か。
「時間は、まだ大丈夫そうだな」
並んで仁王立ちの大きな鯛焼きと小さな鯛焼き……もとい、霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)とボクスドラゴンのたいやき。
折角のハロウィンの夜だ。ケルベロス達も仮装している。ボクスドラゴンの蓮龍と周囲を油断なく窺う鏡月・空(不幸な運命は認めない・e04902)は、クールなヴァンパイア。
「本当に、祭の余韻をぶち壊す、無粋な輩はお呼びじゃないんです」
鬼面を斜に被り、紅色の着物も艶やかな一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556)は、曰く『酒呑童子』らしい。
「ユタカ君の仮装は?」
「河童でござー」
楽しそうに、緑の袖をヒラヒラする福富・ユタカ(殉花・e00109)。斜に被った帽子のモチーフは、河童の皿だろうか。大きな水引リボンや簪が、和風ゴスロリドレスに映える。
「素晴らしい。遅咲きの松葉牡丹のような『可愛さ』だね」
感心した様子のナコトフ・フルール(千花繚乱・e00210)自身は、ランプの精だ。アラビアンナイトを髣髴とさせる装いに、ランプも忘れずに。ターバンを飾る青い羽が、自身の赤い花と相まってよく目立つ。
「皆がするならやらないと浮くしね!」
その実、結構ノリノリな藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)は一見、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)とお揃いの仮装。2人並んで風神雷神だとか。
盆地の奈良県は、昼夜の気温差が激しい。秋が深まれば尚の事、国宝の屏風絵に倣った格好は流石に寒い。という訳で、2人は山伏のような和装だった。風神の雨祈は風袋、雷神のレーグルは雷太鼓を担いでいる。
ケルベロスハロウィンを思わせる賑やかな光景に、弧ヶ崎・慧(空落の海・e25584)は相好を崩す。慧自身は『閻魔大王』。厳かな装束の一方で、黒髪を飾るジャック・オ・ランタンに遊び心が覗く。
楽しげな雰囲気の内に戦前の緊迫を孕み、粛々と時間は過ぎていく。
――――!!
果たして、甲高い咆哮にガラス砕ける大音量。ヴァンパイアが警戒の声を上げる間もなく、巨大なるプリン・アラモードが勢いよく飛び出した。抹茶色のプリン体がふるりと震え、器を取巻く蔓触手がデコレーションを誇示してウネウネと――。
わっふう☆
「……き、キウイの花もビックリの『ユニーク』なご挨拶だね」
ござーならぬどさーとずっこけそうになる河童&ランプの精。
(「華やかな光の下にはより強い影が出来るといいますが、ハロウィンの影が殺人プリンなんて……B級ホラー映画のようで、ちょっと楽しいです」)
サキュバス的閻魔大王も思わず脱力するが、締まらないまま、戦闘に雪崩れ込むのは戴けない。
「人を笑顔に出来ないプリンはプリンにあらず。そんな貴方は地獄行きです」
何とか表情を引き締め、ビシィッと笏を突き付けて断罪する。
鯛焼きコンビの大きい方、カイトはたいやきのきぐるみパーカーの下でバイザーを着け直す。ハロウィンの仮装のまま真剣モードとか、割とシュールかもしれないが、士気の問題だ。
「いやぁ、匂いがいくら美味そうでもな……見た目が酷いし」
夜気に漂う甘い香りが、一応、和風スイーツを主張している。苦笑する風神が風袋から撒くのは、形代の紙兵。
「我が武威は、甘き菓子であろうと、万の雷が如く」
太鼓のバチ代わりに、竜派系雷神は巨大な縛霊手と鉄塊剣『颱』を構える。
「結城殿は、スナイパーとして攻撃をお願いする。存分に、思いの丈をぶつけられると良かろう」
「了解」
レーグルの言葉に、剣呑に頷く座敷童子――結城・美緒(ドワーフの降魔拳士・en0015)は、手毬に代わってドラゴニックハンマーを担ぐ。
「楽しかった宴の最後に、ケチをつけさせない為に――いきます、全身全霊で!」
紅の裾が翻る。天然風味から一転、凛と繰り出される飛び蹴り。
「青汁プリン! 許すまじーっ!」
流星も斯くやの酒呑童子の初撃に続き、ハンマー的砲撃が夜気を裂いて轟いた。
●その名はまっちゃ?ぷりん・あら・もーど
わっふう?
相次ぐ先制攻撃に、プリン体がフルフル揺れる。首尾よく攻性植物の動きが鈍れば、ケルベロスの追撃が次々と。
「通りすがりの仮装ケルベロスでーす。まっちゃ?ぷりん・あら・もーどさんを燃やしに来ましたー」
ヴァンパイアのマントを翻し、すっごい棒読みでグラインドファイアを繰り出す空。炎纏う蹴打を、蓮龍のボクスブレスが追う。
「折角の楽しいハロウィン、抹茶……じゃなかった、青汁殿にはご退場戴きまする!」
ユタカの腰からオウガメタルが動く。忽ち全身を覆うや『鋼の鬼』は強かに拳を振るう。
「うむ、楽しき南瓜の夜に随分と無粋であるぞ」
居丈高に言い放ち、殴り付けたレーグルの縛霊手より網状の霊力を放射する。
「だが、黄金の林檎な菓子……ではないのだな」
考え込む素振りも束の間、今度は竜爪を構えた。今は、戦いに専念する。
流石に初撃で怯む様子もなく、ゆうらりと巨体を揺らす攻性植物。
わっふう☆
くるくるクッキーやら苺大福やら、つぶ餡やら白玉やら黄粉わらび餅やら、和風デコレーションをアピール♪
「だってあなた……青汁なんでしょ?」
抹茶味になってこい、話はそれからだ――クールに応じるユタカだが、その鼻腔を擽る和菓子の香り!
「くっ! 頭では判っているのに!」
咄嗟にクナイを投げ付けた、筈が、不本意にも胡瓜に。本来は敵を翻弄するフェイクが、刃を鈍らせる手段となった口惜しさに唇を噛む。
一方、レーグルを庇ったカイトは後衛の歌彼方にブレイクルーンを飛ばす。敵は攻撃一辺倒だが念の為。たいやき自身はそんな相棒に粒餡、もとい属性をインストールする。
「うわ、緑のうにうに、とうとう襲ってきた……」
緑の抹茶プリンは、とても美味しい。ついでに、青汁だって飲み易い商品はあるし、とてもヘルシーなのだ。
「という訳で、全国の美味しい抹茶プリンとヘルシーな青汁、両方の名誉の為にがんばれ、超がんばれ!」
大いに応援して、せっせとヒールドローンを飛ばすヴィ・セルリアンブルー。
「……僕も、微力ながら、お手伝い……させて戴きます」
御忌・禊は伏目がちに数珠を手繰る。二連の数珠が、守護の魔法陣を描く。万が一には、敵の退路も塞ぐ心算だ。
元より範囲型の攻撃は分散する分、威力は低め。だが、ディフェンダーの身で空は実感する。サポートの範囲型ヒールが相次いでも癒しきれぬとなれば、ポジションは恐らく。
「クラッシャー、ですか」
「油断出来ませんね」
頷いた慧は、ライトニングウォールを構築する。敵の武威は侮れぬとも、厄はBS耐性である程度凌げそうだ。
「さて、次はボクの番だね。花言葉は『不滅』……けしてキミを離しはしないよ」
応酬に敵の武威を殺ぐ。パチリ、と指を鳴らすナコトフ。その逆手のランプから生え出たアイビーが、忽ちプリン・アラモードに絡みつく。
わっふう☆
ケルベロス達の攻撃を浴びながら、攻性植物は脱力系鬨の声を上げて応戦する。のたくる触手が掴み掛かるや、ガバッと抹茶色のプリン体が裂けて喰らい付く。
「拙者はその、青汁は飲むな食べるなと医者に止められていて……いやーっ!!」
ユタカの悲痛な叫びが響き渡る。
――ぺっ。
暫し咀嚼の後、吐き出されたユタカは全身青汁、もとい抹茶色で卒倒せんばかり。
「拙者は! あの濃い抹茶味の方が好みでございます故っ!」
かと思えば、青汁プリン砲の集中攻撃。反応の素直さが気に入られたのか、追い掛け回されるユタカを、ディフェンダーのカイトと空+蓮龍が庇ったり、メディックの慧+たいやきがヒールしたり。
(「罰ゲーム飲料に青汁を用意したら、飲み易く改良され過ぎていて、罰ゲームにならなかったという話なら知ってるんだけどな」)
「抹茶を名乗っときながら、青汁プリンはないわー……」
庇った巻添えで真っ向から青汁プリンを呑んだカイトは、自らを氷浸けしてまで、あまりの不味さに硬直した身体を再起動させる。バイザーを下ろしたままの真剣モードだが、コミカルが否めないのは仕方ないだろうか。
「……たいやき、プリンに夢見ておきたいならやめとけよ」
ついでに、飛んでくる緑のプリンに興味深々の相棒に、釘を刺すのも忘れない。
ユタカの尊い犠牲(「まだ倒れてないでござー!」)の間にも、ケルベロス達の猛攻は続く。
レーグルのブレイズクラッシュと、美緒の熾炎業炎砲がプリン体をこんがりと。雷気帯びた攻性植物を奔らせ、神速の突きを繰り出すナコトフ。
「さぁ、とくとご賞味あれ。凍てつく冷気のありったけ!」
歌彼方のルーン魔術が、極寒の領域を生成するや、プリン・アラモードを凍結、破砕。飛び散ったのは血色の花、ならぬ青汁の飛沫だ。
わっふう☆
まだまだ元気な攻性植物的はダークチェリーの一つ目ギョロギョロ、触手のたくる様は、遠目にも可愛くない。
「別に私はグルメじゃないですけども、流石にコレは食欲湧かないですねぇ」
「食いたくもなければ、食われたくもないな!」
げんなりした歌彼方の言葉に、雨祈も大いに同意。空の絶空斬に続いて、達人も斯くやの一撃を放つ。
「『愛無き料理に美味無し』、反芻動物も捨て置くレベルです」
常に絶やさぬ笑顔が引きつっているのはキノセイか。何処で流れ弾を食らったか、慧の唇の端から青汁が血糊のように滴っていた。
●攻性植物の美味しい倒し方
「あ、危なかったでござー……」
夜空に緑の袖がヒラヒラと舞う。裾捌く素早い挙措は、正に螺旋忍者ならではか。間一髪で蔓触手をかわし、ユタカは胸を撫で下ろす。すぐさま、反撃のジグザグスラッシュが走った。
相当に打たれ強いのか、攻性植物はまだ戦意を喪っていない。それでも、ケルベロスの絶え間ない攻撃で、明らかに動きは鈍っている。
わっふう?
ゆうらりと巨体蠢く攻性植物。一つ目ダークチェリーが首を傾げるように動く。
「奴さん、そろそろ飽きてきたか?」
「逃がす訳にはいかぬな」
気咬弾を撃ちながら、眉を顰める雨祈。剣呑に目を眇めるレーグルは電光石火の蹴りを放つ。周囲は青汁プリンで惨憺たる様相。ケルベロスをしてこの惨状なら、一般人を攻性植物の前に出せない。
「謳え、喰らえ。冥境の魔犬!」
慧が描く魔犬の幻影が、夜空を裂く咆哮で生命を鼓舞し呪詛を喰い破る。メディックを始め、ヒールを厚く用意していたお陰で、実際のダメージはそこまで蓄積していない。若干名、トラウマレベルの狙われ方もされたようだが、誰も倒れていないのは備えの賜物だろう。
「頑張ろうぜ!」
黙々と攻撃を続ける空と蓮龍とは対照的に、カイトは声を張り身体を張る。回復の合間に破鎧衝を繰り出せば、たいやきも息を合わせてボクスタックル。多分、もちもちしている。
――――!!
歌彼方の光の一枚羽が閃く。稲妻帯びた超高速の突きに、デコレーションを撒き散らす勢いで貫かれた緑のプリン体がブルブルと震えた。
「攻性青汁なんて、滅殺なんだから!」
逃亡を防ぐ意図か、門扉の前で仁王立ち。美緒は禁縄禁縛呪を以て攻性植物を捕える。1つ1つの攻撃をよくよく狙い、力一杯叩き付けてきた少女の頬が紅潮している。
「それにしても、青汁味、ねぇ?」
苦かろうと不味かろうと、スイーツであるならばやるべき事は1つ!
「さあ、来たまえ! コデマリの花びらと共に『優雅』に飲み干してみせよう!」
高らかなナコトフのシャウトに、ギョロリとダークチェリーな一つ目が見下ろす。
わっふう♪
ご期待に応えた青汁プリン砲はこれまでになく大きく、青汁ソースもたっぷりどろおり。
「……ふ」
真っ向から特大青汁プリンを呑み込み、気障に笑むナコトフ。
「でもまあ……スイーツは、やはり美味しくて然るべき……!」
もの凄い勢いで流れ落ちる脂汗。両脚が生まれたての子鹿のように震えるナコトフだが、辛うじて優雅に片膝を突いた。見上げた根性である。
「こんのぉっ!」
とうとう、シンシア・メルトロンの堪忍袋の緒が切れる!
「お前『スイーツ』なんだろ? 『甘味』なんだろ!? じゃあなんで苦いんだよ、あ゛ぁ!?」
怒声帯びたジグザグスラッシュとテレビウムのクロスの凶器攻撃が、抹茶色に突き刺さる。
「砂糖てんこ盛りで出直してこいボケ!」
「……抹茶も、大人の味的に苦いわよ?」
美緒の突っ込みは敢えて黙殺。世の中、ノリと勢いが大事な時も多々ある。
「之は、私が作った青汁と同じ味……」
青汁プリンの飛沫を舐め、皇・絶華は不敵に銀の双眸を細める。
「だが、パワーが足りない!」
絶華が勢いよく投擲、もとい進呈したのは『心を込めたバレンタインチョコレート』(と書いて、ゼツボウトキョウフイロドルシッコクノカタマリ、と読む)。
わっふう!?
グラビティで濃縮圧縮したカカオ10000%のチョコレートを食らい、悲鳴を上げる攻性植物。自らと違う苦さに戸惑っている。
敵に生じた隙を見逃さず、ケルベロス達の攻撃が殺到する。
「この一撃を喰らっとけぇ!」
いっそ男前な掛け声と共に、歌彼方の降魔真拳。美緒の拳とクロスして、器を叩き割らん勢いで抉り込む。
「プルプルプリン体など、ピリピリになるが良いです」
高々と掲げた慧のライトニングロッドより、迸る雷撃。
「雨祈!」
「了解!」
雷神は右から、風神は左から。両腕の炎諸共に燃え盛るレーグルの鉄塊剣と交錯するように、雨祈の影が波打つ。左の指先から滴る血潮を糧に地を這い伸びる影法師は、攻性植物に絡みつくや、ぎしりぎしりと締め上げる。
「食いモンで遊ぶなっての」
「正に! ヘレニウムの『寛容な心』も散り果てるというものだよ」
流石にナコトフも、不味いだけの嫌がらせスイーツに怒り心頭。絶空斬が閃き、敵の傷跡を正確に斬り広げていく。
わっふう!!
怒涛の攻撃にさしもの攻性植物も及び腰か。闇雲に投げられた青汁プリンを、カイトが庇う暇も無かった。
「た、たいやき!」
思わず大口開けて呑み込んだたいやきは、忽ち硬直する。
「ビリビリっといきます」
すかさず、空が霊力で作り出した電気で少々荒療治。蓮龍も属性をインストールする。
「よくもたいやきを!」
怒れるカイトのスターゲイザーが、夜空を翔ける。
「逃がさねぇよ」
もんどりうった攻性植物に、これまでになく低い声音。前髪を掻き揚げたユタカの双眸は、鮮血すら橙に染まって見えるよう。
わ、わっふう……。
文字通り鋭い眼光に切り裂かれ、まっちゃ?ぷりん・あら・もーどのダークチェリーの一つ目がパタリと閉じる。
ピシリ、と器が罅割れるや、全身に亀裂が走る。忽ち形を崩し、霧散した攻性植物の後には何も残らなかった。
●抹茶パーティーで打ち上げを♪
「皆さんお疲れ様でしたっ」
青汁的に荒れた呈の広場を、「ブラッドスター」を歌ってヒールして回った。きちんと後始末して、快活に仲間に声を掛ける歌彼方。
「綺麗さっぱり、お片付けの後は……ちゃんとした、美味しいスイーツが食べたいですね」
「ああ、無事に終われたから言える事だけれど」
拭った脂汗の後が夜気に凍みる。ランプからスミレの造花を取り出し、ナコトフはしみじみと呟く。
「白きスミレに倣って『率直』に言えば、あのプリンはめっちゃ不味かった……口直しに抹茶スイーツ食べに行かないか?」
「打ち上げ行くなら付き合うよ」
風袋を担ぎ直して、気さくに応じる雨祈。酒じゃないのはちょいと物足りないが、偶には甘味も悪くない。
「確かにこれは、正しき抹茶を味わいたくなるものだな」
念の為、攻性植物が何か痕跡を残していないかと首を巡らせていたレーグルも、振り返ってうむと頷く。
「取り敢えず……本物の抹茶プリンをかっ喰らいにいこーか?」
カイトの言葉に、たいやきも首を縦にブンブンとして大いに同意する。
「パーティするなら、抹茶菓子作るけど?」
「……いえ、もう時間も遅いですので。近くに甘味フェアをやっているカラオケボックスがあるみたいです。そちらに移動しましょう」
蓮龍と並んで地元情報をネット検索していた空は、スマホ画面を仲間に見せた。パーティルームなら、サーヴァントやサポート含めての大所帯も収まるだろうし、多少ならコンビニ和菓子を持ち込んでも悪くないだろうか?
「では、抹茶スイーツを堪能する打ち上げパーティですね」
「ちょっと遅めの南瓜パーティ、でござるな!」
青藍の瞳を細める慧の笑みが零れれば、うきうきとしたユタカの声音も弾むよう。
「でも拙者、実は抹茶味よりも、スタンダードなプリンが好き」
だが、そんな抹茶一色の空気を切り裂く、土壇場にして唐突なる裏切り!
「王道が正義でござー」
「……まあ、それは否定しないけど」
飄々としたユタカの言葉に、クスリと笑んだ美緒はのんびりと踵を返す。
「抹茶コーヒーとかミルクほうじ茶とか、変り種も悪くないわよ?」
和気藹々と、広場を後にするケルベロス達。和風スイーツの残り香を、秋の夜風が散らしていった。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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